牛コラム

肥育牛と美味しい牛肉のはなし

繁殖雌牛の育成(26)

2009-05-08 20:13:12 | 雌牛



繁殖雌牛の育成(26)
⑭子牛の頃からコミュニケーションを取る(1)
繁殖用の雌牛や種雄牛候補牛の場合は、長年人と密接に付き合うことになる。
種雄牛は、ある程度調教が必要であるために、調教しながらのコミュニケーションがとれる。
一方、雌牛の場合は、多頭化が進むにつれて調教することもままならないのが実情である。
ところが、雌牛の場合は、毎年の予防ワクチンの接種、発情確認、種付け、妊娠鑑定、そして分娩とその介助、子牛の離乳と授乳など、雌牛が嫌がる行為に畜主など管理する者が立ち会うことになる。
この際、牛とのコミュニケーションがとれている場合とそうでない場合では、牛の畜主に対する対応が異なる。
問題は、分娩時に生まれてくる子牛に危害や隔離を警戒し、人間不信を抱く母牛が、異常な目つきになって、敵対心から、畜主を襲うなどの行為に出ることがある。
このような行為を取るようになれば、子牛に何らかの支障があっても、気安く対処できない。
また、この様な異常行動を取ることは、初乳を満足に飲ませなかったり、産後の後産停滞等を起こす原因にも成る。
この様な人間不信の気運を抱かせないために、子牛の頃から、人と牛の関係を常に良好に保つためのコミュニケーションが不可欠である。
時として話題になるのが、コミュニケーションを取るか、それに変わる設備を完備するかである。
多頭化の場合、連動スタンチョンなどを整備することにより、日常の飼養管理は餌で誘導することで省力出来るが、分娩時の対応となれば、まさに牛と人との関わりの問題が最優先するために、結果的にはコミュニケーション第一に考慮すべきである。

繁殖雌牛の育成(25)

2009-05-07 20:09:58 | 雌牛



⑬登録検査を受ける。
種付けを開始する頃になる生後14ヵ月令から30ヵ月令までの間に、全国和牛登録協会が実施している登録事業に添った基本登録や本原登録を受ける必要がある。
個体識別番号制度が実施されるようになり、登録を受けることが、直接経済効果に繋がるようになった。
登録検査を受けることにより、生時に登記された子牛登記に記録されている諸々のデータと登録検査対象牛の体型やその特徴及び審査標準に照らし合わせた全体的または体格部位の良否が点数で評価され記録保存され、これらの登録記載事項が、その産子や後代にまで連結される。
そのため、登録を受けることにより、代々の産子が血統的に保証されるもので、重要な役割を担っている。
登録検査は、誰が審査しても同様の得点となるような方式に改正されることが、審査の普遍性や効率的な改良を推進することに重要な意味を持つと筆者は考えている。

繁殖雌牛の育成(24)

2009-05-06 19:06:08 | 雌牛


⑫種付けを行う(2)
さて、大方が周知のことであるが、日本における人工受精は、47年頃から始まり、50年頃には種付け頭数の約40%に至り、その後は急速に普及して4年後には約75%までに普及し66年頃には90%を越した。同時に、66年年頃から凍結精液の利用が始まり、72年の凍結精液の普及率は70%に急増し、その後格段の保存性のある凍結精液の時代になった。
66年以前の人工受精は、保定された発情牛の膣内に膣鏡を挿入して、子宮頚管の入口当たりに精液を吸い込んだ長めのスポイドのゴム袋を摘んで受精していた。
その後、凍結技術の開発による精液の保管法や注入法が開発されて、ストローを使用するようになり、専用の鉗子で、頚管部の周囲を挟み込んで、膣の入口付近まで引っ張り出してきて、ストロー注入器を頚管中央部に挿入して受精するようになった。
所謂、鉗子法と呼ばれる受精法である。
その後、75年頃より直腸膣法という受精法が普及するようになり、受胎率が極端に改善され、現在に至っている。
この方法は、受精師が発情牛の直腸に片手を入れて除糞した後、直腸壁から子宮や頚管部および卵巣を手探りに把握して、左右の卵巣の内、排卵または排卵直前にある卵巣を確定して、予め挿入していたストロー注入管の先端を、排卵している卵巣の子宮角方向に直腸壁から誘導して注入受精する方法である。
この方法は、直腸内から生殖器官の配置や大きさ形を把握するには、かなりの熟練を要する。
当初のこの様子をして、大海の如きでつかみ所のない状態であると表現しながら習ったものである。

写真は、前述した連動スタンチョンにロックされ飼料摂取中の繁殖雌牛群であるが、同様にロックすることで、人工授精が簡便に実施できる。

繁殖雌牛の育成(23)

2009-05-01 21:01:53 | 雌牛



⑫種付けを行う(1)
前述したように、繁殖経営では、確実な受胎とその分娩がなければ、経営は成り立たない。
その確率を高めるために、繁殖牛を飼う関係者は、自らが、人工受精師の免許証を取得することに最大のメリットがある。
同免許を取得するためには、家畜改良増殖法の中で各県が独自の講習会を行い、牛豚に関する飼養技術、繁殖生理、人工受精、体外および体内受精卵移植、関連法規などについて、学科と実技が取り入れられている。
この講習を受けることで、牛に関する幅広い知識が得られる。
また、人工受精など畜産に関連する技術は、日進月歩で新しく展開しているため、この様な機会を生かすことも繁殖経営上有益となる。
人工受精など繁殖技術に関する情報発信としては、(社)日本人工受精師協会が出版している「家畜人工受精」(奇数月発行)や講習会などが実施されている。
育成雌牛の体重が約330kgに到達する頃を見計らって、最初の種付け(人工受精)を行う。
これが、育成牛への究極的な作業工程である。
この最初の種付けで無事に受胎することは、飼養コストの低減に繋がるために、是非とも成功させたい。
発情周期を2回3回と受胎が遅れれば、それだけタダ飯を与えることになり、回を繰り返すことで受胎しにくくなる。
受胎しないと言うことは、雌牛の生殖器官に何らかの生育不良があるか、ホルモンバランスの異常を来していることになる。
受精適期に至っていなかったなどは、論外である。
最近は、ホルモン周期のコントロールを制御して確実に受胎させる技術が宮崎・鹿児島などで開発され普及している。
最初の種付けに用いる精液の選定は、増体型で、生時体重が極端に大きいとされているものは避けて、難産に至らないような精液の選定を行うべきである。
願わくば、繁殖経営といえども、肥育のノウハウの上で、交配計画を立てることにより、購買者が必要とする血統や体型にそえるため、生産された子牛の商品価値をより高めることに繋がる。

写真は、連動スタンチョンにロック保定した状態で、人工受精している様子である。
群飼いの場合、繁殖牛は制限給餌のため全頭がロックを必要とすることや、発情確認、人工受精、妊娠鑑定、予防接種や各種治療などに、この連動スタンチョンが必要不可欠であり重宝される。