チャチャヤン気分

《ヘリコニア談話室》後継ブログ

セカンドムーン

2009年09月17日 00時00分00秒 | 上杉那郎
上杉那郎『セカンドムーン』(角川春樹事務所08)

 小松左京賞シリーズ第2弾は第8回受賞作品。
 いろいろ否定的なウェブ書評を読んでいたのでいささか腰が引けつつ読み始めたのですが……面白いではないですか!
 たしかに頓珍漢な会話があって鼻白むところもあります。特に女性の描き方が男性から見たある種類型的なものです。その意味で「人間」は描けてない。でもそのことを貶すんだったら広瀬正も石川英輔も貶さなければいけません。通俗SFで人間が描けてないというのはむしろ標準でしょう(>ハインラインを見よ)。でもそういうのでもオールタイムで残っている作品は多い。それは「人間」以外の部分で素晴らしいからに他なりません。本篇もそういう作品。「ヒト」ではなく「モノ」の部分が素晴らしかった。後半はもうノンストップでありました。

 ハードSFです。ただしハードSFといってもクライン・ユーベルシュタイン系。それも「ストーリーが面白い(谷甲州が入った)ユーベルシュタイン」の趣き。どうせなら巻末に用語集つけたらよかったのに(^^ゞ
 メインアイデアの「セカンドムーン」がよく考えられています。アマゾンの読者書評で「肝心のセカンドムーンの正体が不明のまま終わる残念さ」などと書いているバカがいますが、どこを読んでいるのか。一番面白いところを読み落としている(ーー;。セカンドムーン建造者の星系まで明かされていますがな。しかも周到にも、突っ込みを避ける伏線もちゃんと張られています(^^;。その恣意性が謎だった攻撃契機もラストで合理的な解が与えられるし、メインアイデアに関しては謎は全て回収されていると思います。あ、これはもしかしたらミステリ系の面白さなのかも。

 ハードSF(ただし科学ライター系の)ではありますが、本格SFではなく、むしろパニックノベル的な通俗娯楽作品で、この作品なんか映画化したら面白いんじゃないでしょうか。福田和代が好きな人向きの話というか……。
 そういう意味でハヤカワ用語とは別の意味で「リアルフィクション」といってよいかもしれません(^^;。
コメント
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