チャチャヤン気分

《ヘリコニア談話室》後継ブログ

ラヴィン・ザ・キューブ

2009年09月13日 00時00分00秒 | 森深紅
森深紅『ラヴィン・ザ・キューブ』(角川春樹事務所09)

 小松左京賞休止とのことで、しばらく受賞作品をフォローする予定。まずは最後の(第9回)受賞作から――

 これは面白かった。内容は――女・小川一水です(笑)
 人間と見分けのつかない(相同率80%以上)アンドロイド特注しかも僅か5ヶ月で納品という企業プロジェクトに、そのサイトメモリー(これってかんべむさしさんの記憶術ですよね)能力を見込まれてプロジェクトリーダー(日程管理者)に抜擢されたハケン上がりの若い女性が、プロジェクトを期間内に完遂させるべく、けなげに、前向きに頑張る姿が活写されます。まさに小川一水であり、メーカーSF!

 しかもこのメーカーSFの「部分」がしっかりしていて、かなり体験の裏打ちがあるのではないでしょうか、信頼できる描写になっている。瀬名秀明のケンイチは、筐体としては既に完成型で登場するわけですが、いわばケンイチが製造される過程が本篇のテーマともいえ、「モノづくり」が作中何度も肯定されます。メーカーの現場で働いている読者も(企業としての否定面も含めて)共感できるのではないでしょうか。そういう意味で企業小説であり、SF的にはギャラクシー系といってあながち間違いではないと思います。

 小説の雰囲気は、これはもろ「テレビドラマ」ですね(^^;
 頑張る女性主人公が、才能はあるが社会的人間としては欠陥がある天才的技術者の(かなりカリカチュアライズされた)子供じみた職人気質に悩まされながらも尻を叩いたりしてプロジェクトを期間内に終了させ納品する(技術者も次第に本気を出していく)というゆくたては、テレビの5週完結くらいの連続ドラマにぴったりではないでしょうか。

 いやこれは否定的にいってるんじゃありませんよ。内容と形式がマッチしていればテレビドラマだって楽しめるのはいうまでもありません。
とはいえ別に現実にドラマ化を希望しているのありません(してもいいけど)。そういう意味ではなく、本書を読めば、誰だってきっとそんな風にドラマ的な脳内映像が浮かんでくるでしょう、ということです。そういう意味で本格SFではなく、軽SFというべきかも。なんといっても無駄にびっしり書き込みされていないところがよいです(^^; ともあれ生産現場に密着したリアリティが読みどころで、そういう近代精神が根底にあり、むろん著者にはそんな意識は毫もないでしょうが、アンチ・ポストモダンを感じられて爽快でした。

 ラストでラカンが出てきてびっくり(^^)
コメント
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