ラリイ・ニーヴン『インテグラル・ツリー』小隅黎訳(ハヤカワ文庫86、原著83)
ハードSFを読むのは久しぶり。いやまさに「どこを切ってもハードSF」とでもいうべき作品で、満足しました。
ほぼ太陽(ソル)と同サイズのG型恒星の回りを、1.67天文単位の距離で、太陽の半分の質量の、超新星爆発を起こして直系20キロメートルに縮んでしまった中性子星が回っている。その中性子星の回りを、地球の2.5倍ほどの、(もともとは木星型だった)惑星が回っています。
ところがこの惑星、中性子星にあまりにも近いため(ロシュ限界手前)その豊富な大気(酸素と水がたっぷり含まれている。これは木星型大気に由来するスモーク・リングが形成されたのちに、植物によって光合成されたんでしょうね)が中性子星の潮汐力で引きずり出され、しかし中性子星に対して十分な速度を保っているため中性子星に落ち込まず、惑星軌道上にとどまっている。つまり惑星軌道上に大気のトーラスを形成している。
そしてそのトーラスの中心部の細いリング状部分は密度も高く、1気圧に足らないにしても、ゆうに人の生存に適する環境となっているのです(スモーク・リング)。
これすなわち「大気のある宇宙空間」! 大気はあるが重力はない(地面もない)。
いわば空中しかない世界なのです!(はっきりいってこの着想だけで既に「勝ち」です(^^;)
そこには、そのような環境に適応した動植物(当然生物は皆羽根や翼をもっている。外来の人類以外は)に満ち溢れており、また、500年前に遭難した人類が、科学文明は失いながらも、空中に浮かぶ巨大な積分記号(∫)状の樹の両端に住みついています(潮汐力により両端では逆向きの擬似重力がある)。
そんな世界で、潮汐力によってまっぷたつに引き裂かれたインテグラルツリーから辛くも脱出した少数の一族が否応なく冒険に踏み出し、そのことによってはじめて他の樹木や浮かぶジャングルに住む別の人類の存在を知り、交流し、やがては遭難した人類が、そもそもそれに乗ってこの世界にやってきた宇宙船を司り、500年間まどろんでいた(というと語弊がある)存在の目にとまる……
おお、なんたる魅力的な世界設定! ただ、前半は快調なんですが、後半になるとストーリーがいささか心許なくあやうくなってきます。そういえば『リングワールド』でも後半は青息吐息でなんとかゴールインしたという印象があり、どうもニーヴンという人、本来物語作家ではないのかも。
とはいえ圧倒的な世界設定がそのような不足を補って余りあり、戦闘場面は退屈しましたが、「脱出は簡単、ただ飛び出して拾ってもらえばいい」という冒頭のとってつけたような記述が伏線として後半で機能していてなるほどと感心したり、最後まで楽しく読み通すことができました。いや面白かった。
『リングワールド』のように派手ではないけれども、その分「ディズニーランド」的な雰囲気(訳者あとがきに従えば「作り物の軽さ」)は免れていて、わたし的には好みでした。訳者あとがきにある「把握のゆとり」がよい方に効いた佳品であると思いました。それにしてもこの世界、実にもって魅力的で、続編があるのなら是非読みたい(^^)
ハードSFを読むのは久しぶり。いやまさに「どこを切ってもハードSF」とでもいうべき作品で、満足しました。
ほぼ太陽(ソル)と同サイズのG型恒星の回りを、1.67天文単位の距離で、太陽の半分の質量の、超新星爆発を起こして直系20キロメートルに縮んでしまった中性子星が回っている。その中性子星の回りを、地球の2.5倍ほどの、(もともとは木星型だった)惑星が回っています。
ところがこの惑星、中性子星にあまりにも近いため(ロシュ限界手前)その豊富な大気(酸素と水がたっぷり含まれている。これは木星型大気に由来するスモーク・リングが形成されたのちに、植物によって光合成されたんでしょうね)が中性子星の潮汐力で引きずり出され、しかし中性子星に対して十分な速度を保っているため中性子星に落ち込まず、惑星軌道上にとどまっている。つまり惑星軌道上に大気のトーラスを形成している。
そしてそのトーラスの中心部の細いリング状部分は密度も高く、1気圧に足らないにしても、ゆうに人の生存に適する環境となっているのです(スモーク・リング)。
これすなわち「大気のある宇宙空間」! 大気はあるが重力はない(地面もない)。
いわば空中しかない世界なのです!(はっきりいってこの着想だけで既に「勝ち」です(^^;)
そこには、そのような環境に適応した動植物(当然生物は皆羽根や翼をもっている。外来の人類以外は)に満ち溢れており、また、500年前に遭難した人類が、科学文明は失いながらも、空中に浮かぶ巨大な積分記号(∫)状の樹の両端に住みついています(潮汐力により両端では逆向きの擬似重力がある)。
そんな世界で、潮汐力によってまっぷたつに引き裂かれたインテグラルツリーから辛くも脱出した少数の一族が否応なく冒険に踏み出し、そのことによってはじめて他の樹木や浮かぶジャングルに住む別の人類の存在を知り、交流し、やがては遭難した人類が、そもそもそれに乗ってこの世界にやってきた宇宙船を司り、500年間まどろんでいた(というと語弊がある)存在の目にとまる……
おお、なんたる魅力的な世界設定! ただ、前半は快調なんですが、後半になるとストーリーがいささか心許なくあやうくなってきます。そういえば『リングワールド』でも後半は青息吐息でなんとかゴールインしたという印象があり、どうもニーヴンという人、本来物語作家ではないのかも。
とはいえ圧倒的な世界設定がそのような不足を補って余りあり、戦闘場面は退屈しましたが、「脱出は簡単、ただ飛び出して拾ってもらえばいい」という冒頭のとってつけたような記述が伏線として後半で機能していてなるほどと感心したり、最後まで楽しく読み通すことができました。いや面白かった。
『リングワールド』のように派手ではないけれども、その分「ディズニーランド」的な雰囲気(訳者あとがきに従えば「作り物の軽さ」)は免れていて、わたし的には好みでした。訳者あとがきにある「把握のゆとり」がよい方に効いた佳品であると思いました。それにしてもこの世界、実にもって魅力的で、続編があるのなら是非読みたい(^^)