藤野恵美『七時間目の占い入門』(青い鳥文庫、06)
タイトルは<7時間目シリーズ>なるも、内容は前作を継いでおらず、実質的には単独作品。
最近アイヌの口承文芸を読んでいるのだが、カムイ・ユカラ(神謡)やウエペケレ(昔話)の機能は、いや、アイヌに限らずいかなる民族の民話や神話の機能も、それを聞かせることで、子供たちの内面に民族の世界観・タブーを刷り込むという実際的な効果を担っている。
かかる口承物語の機能は、近代社会において殆ど働かなくなって来ているのだが、実はそれを代行しているのが児童文学の役割なのではないだろうか。
本書は、そういう意味でまさに児童文学の目的を律儀に果たしているように思われる。
――転校生の主人公は、前の小学校ではいじめではないにしてもクラスで無視される子供だった。転校で心機一転したいと考え、占いをその手段とする。それは奏効し、主人公は一躍新しいクラスで注目され、友人もできる。が、そういうクラス内の(大袈裟にいえば)勢力構造の変化によって、今度は別のクラスメートが(以前の主人公のように)弾き出されてしまう。主人公は自己を顧みてその子をほっておけなく感じるのだが、それを行動で示すことで逆に自分自身が再びスピンアウトされる惧れに行動できない。
そのような、(ある意味どこにでもありうる)シチュエーションにおいて、私たちはどのようにあるべきなのか? 本書のテーマはそれで、カムイ・ユカラやウエペケレと同じく、人間という語がいみじくも表現しているように、私たちは個人(孤人)では生きていけず必ず社会という公共空間に生きていかざるを得ない(世界内存在)、そういう世界のとば口に立った子供たちが、学級生活という人生最初の社会生活・共同生活を営むにあたって学ばなければならないこと、培っていかなければならないことを、本書は提示している。
その中には具体的な占いというものの無根拠性と、であるとしても用い方を心得れば潤滑材として有用である、といった世間知も含まれているわけなのだが、そのような「科学的態度」を失わない健全さが著者の持ち味であろう。
しかもそれが決して説教めいておらず、今どきのポップ感覚に溢れたスタイルで軽快に描写されるのだから、年少の読者を飽きさせることがない。
著者はデビューわずか2年弱にして、4つの出版社から本書を含めて7冊の著書を上梓したわけだが、この事実こそ、児童文学そのもといった正統的なテーマ性とライトノベル並みのポップ感の融合というこの著者の新しさが、各社編集者にひとしなみに注目されている証左だろう。
――などと書いているうちに、また新作が上梓された模様→『妖怪サーカス団がやってくる!』
いや、藤野恵美の快進撃はどこまで続くのだろうか!?
タイトルは<7時間目シリーズ>なるも、内容は前作を継いでおらず、実質的には単独作品。
最近アイヌの口承文芸を読んでいるのだが、カムイ・ユカラ(神謡)やウエペケレ(昔話)の機能は、いや、アイヌに限らずいかなる民族の民話や神話の機能も、それを聞かせることで、子供たちの内面に民族の世界観・タブーを刷り込むという実際的な効果を担っている。
かかる口承物語の機能は、近代社会において殆ど働かなくなって来ているのだが、実はそれを代行しているのが児童文学の役割なのではないだろうか。
本書は、そういう意味でまさに児童文学の目的を律儀に果たしているように思われる。
――転校生の主人公は、前の小学校ではいじめではないにしてもクラスで無視される子供だった。転校で心機一転したいと考え、占いをその手段とする。それは奏効し、主人公は一躍新しいクラスで注目され、友人もできる。が、そういうクラス内の(大袈裟にいえば)勢力構造の変化によって、今度は別のクラスメートが(以前の主人公のように)弾き出されてしまう。主人公は自己を顧みてその子をほっておけなく感じるのだが、それを行動で示すことで逆に自分自身が再びスピンアウトされる惧れに行動できない。
そのような、(ある意味どこにでもありうる)シチュエーションにおいて、私たちはどのようにあるべきなのか? 本書のテーマはそれで、カムイ・ユカラやウエペケレと同じく、人間という語がいみじくも表現しているように、私たちは個人(孤人)では生きていけず必ず社会という公共空間に生きていかざるを得ない(世界内存在)、そういう世界のとば口に立った子供たちが、学級生活という人生最初の社会生活・共同生活を営むにあたって学ばなければならないこと、培っていかなければならないことを、本書は提示している。
その中には具体的な占いというものの無根拠性と、であるとしても用い方を心得れば潤滑材として有用である、といった世間知も含まれているわけなのだが、そのような「科学的態度」を失わない健全さが著者の持ち味であろう。
しかもそれが決して説教めいておらず、今どきのポップ感覚に溢れたスタイルで軽快に描写されるのだから、年少の読者を飽きさせることがない。
著者はデビューわずか2年弱にして、4つの出版社から本書を含めて7冊の著書を上梓したわけだが、この事実こそ、児童文学そのもといった正統的なテーマ性とライトノベル並みのポップ感の融合というこの著者の新しさが、各社編集者にひとしなみに注目されている証左だろう。
――などと書いているうちに、また新作が上梓された模様→『妖怪サーカス団がやってくる!』
いや、藤野恵美の快進撃はどこまで続くのだろうか!?