チャチャヤン気分

《ヘリコニア談話室》後継ブログ

2006年08月26日 23時11分52秒 | 小説
 「……、……!」
 区切るように甲高い叫びが二音、濛々と籠った湯煙を通して確かに耳許に届いた。
 「トー、サン!」
 シャワーから迸る湯の音に遮られてごく幽かだった。それにゆったりと寛いで、意識を弛ませてもいたから必ずしも分明ではなかった。けれども耳はそのように聴き取った。
 娘の声だと思った。
 この春から小学校へ上がる娘の声と、しごく当然のように聴き取った。それとも子供の声であるという予断が、そのように聴き取らせたのだろうか。
 ともあれ、声には切迫した調子があった――
 と、直後にはそのように感じた。が、すぐあやふやになった。聴きようによっては、戯れていて思わず大声が出たとも聴き取れた。
 そう考え直すと、大体あれが子供の声だと疑いもなく思い込んだことさえも、不確かに思えてきた。
 今思い返してみれば、キイキイと機械かなにかがきしむ音ではなかったか。
 男はシャワーの栓を締めた。
 忽ち浴室は森と静まった。
 湯気と迸る音に溢れかえっていたのが、音がふっつりと杜絶え、やがて湯気もおさまった。
 男は耳を澄ました。
 何も聴こえてはこない。そのまま凝っとしている。テレビのマンガの、騒々しい音声が幽かに聴こえてくるだけだ。
 「おおい、呼んだか?」
 返事はなかった。声が届かなかったのか。
 それでも暫くは背筋を伸ばして聴き耳を立てていたが――
 「空耳か」
 そう呟くと、まず姿勢が弛んだ。シャワーの水栓が弛められ、ふたたび浴室は濛々たる湯気と迸る湯音に満たされた。……

 風呂から出ると、いつものところに下着がない。
 (女房のやつ……)
 舌打ちしてバスタオルを腹に巻く。「おい、パンツが出てねえぞ!」
 けれどもキッチンにいるはずの妻から、返事はない。
 「伊奈子!」
 男は苛立たしげに喚ばわる。足音も荒くダイニングへ入るや、「パンツが出てねえと言ってるじゃ……」
 語尾が嚥下される。
 「………」
 敷居を跨いだ儘、男は茫然と立ち盡す。
 キッチンには誰もいなかった。
 「おい、伊奈子」
 低い声で男は呼ぶ。「恵利歌?」
 夕食がつくりかけのまま放置されていた。シチューが沸騰している。男は歩いていきガスを消した。そのとき足が何かを蹴った。
 ――馬鈴薯であった。
 その丸い小ぶりなものを男は拾い、ゆっくりと流し台の上に置く。
 男は居間を覗いた。
 テレビが、兎を主人公にしたハリウッド製の騒々しいマンガを流している。衝動が男を捉えた。男は走った。走っていき、叩きつけるようにテレビを消した。

 だしぬけに無音の空虚が、居間に充満した。

 「――伊奈子、恵利歌」
 暫くして男は呟く。「どこへ行ったんだ?」
 二DKの団地の間取りに隠れるところなどありはしない。またどうして隠れる必要があろうか。娘ならまだしも、女房まで……。
 胸騒ぎを男は感じた。下着とパジャマを自分で出して、手早く身に付けると、男は玄関へ向かう。
 妻ともうすぐ七つになる娘の履物は、併し上がり口に並んでいる。男は首をかしげる。
 今一度居間に戻り、ぐるりと見回す。莫迦々々しいとは思ったが、念の為押入れの中を覗く。
 ――いない。
 草履を突っ掛けドアに手をかける。鍵がかかっていた。そればかりかチェーンまで……。
 男の胸に、ふと〈神隠し〉と言う言葉がよぎる。
 その言葉に男はたじろぐ。
 もどかしげに鍵とチェーンをはずすと、男は飛び出した。二段飛ばしに階段をかけ下りる。七、八台の自転車が我がもの顔に占拠した一階の踊り場を蟹歩きに摺り抜け、アパートの前へと出た。

 凩が男の横をすり抜けていく。
 男はパジャマの襟を立て、四囲に視線を巡らせた。
 人通りはなかった。
 男は眉を寄せた。頭を掻く。おかしい。そう感じた。何となく普通ではない。そう思った。尋常でない雰囲気があたりに漲っている。そんな気がした。が、すぐその理由に男は思い至った。
 ――静かすぎるのだ。
 男の周囲から、音という音が消え失せてしまっていた。
 そういえばアパートの前の道路に、車の姿が見当たらぬ。
 団地の敷地内の道なのだが、ゆったりと車線幅を取った二車線の道路であったから、事実上国道のバイパスとなっていた。車の往来は決して少なくない。
 ところが今は、その道路に一台の車さえ通っていないのだ。
 それが何かを暗示しているような気がして、胸騒ぎがいっそう強くなるのを男は覚えた。
 それより何より、あたりがずいぶんと暗い。
 いつの間にこんなに暗くなってしまったのだろう。まっくらで何も見えやしない。
 暗いといえば……
 男は顔を上げた。向かいの棟がまっくらじゃないか。
 いつもなら窓という窓から煌々と明かりが漏れ出ているのだ。その、道路を挟んだ向かいのアパートに、どうしたことか明かりが一つも見当たらない。
 しかもアパートの建物のあるべきあたりは、殊にびっしりと、闇が分厚く蟠っている様子だ。闇に埋もれて棟のかたちすら定かではなくなってしまっている。のみならず……

 ――空虚。
 男はそれをありありと感じとることができた。
 鉄筋コンクリートのアパートの、建造物としての〈存在感〉が、全く伝わって来ない。
 あの棟は、もはやそこに存在していないのではないか……。
 誇張ではなくそんな感じさえする。いや、その空虚感の源泉は、道向かいの棟のみにあるのではないことに男は気づいた。
 そうなのだ。男の周囲から、すべての〈存在感〉が消え失せていた……

 空虚であった。
 悉く空虚であった。

 その空虚を覆い隠すかのように、闇が森々と降り積もっている。
 闇の向こうには、何の〈存在〉も感じ取れない。ただ男のみが存在している。
 男以外には何もない。まったき闇ばかりが、世界に厚く降りそそいでいる……
 そんな茫漠とした妄想ともつかぬ想念に、しばし男は捉えられていた。そしてふいに鋭い不安が男を突き刺す。
 男の背筋がきゅっと固まった。
 ――背後のおれの棟も、既に消え果ててしまっているのではないか。
 「莫迦々々しい!」
 男は声に出してそう言った。「そんな頓狂な話が、あってたまるものか!」
 威勢よく言ったつもりだった。
 併し男の耳に聴こえて来たのは、震えを帯びた、信じられぬほどか細い声だった。
 ともすれば萎えそうになる心を奮い立たせると、男は、強張って固まってしまったおのれの首を、そろそろと、併し無理矢理回していき、後ろを振り返る。そうして男は……見たのだ。

 ――ぬばたまの闇がのしかかるように堕ちてきたとき、男は妻の声を聴いたように思った。

         *

 「父さん!」
 妻はキッチンから呼びかけた。それは何度目かの呼びかけだった。けれどもやはり、応えは返ってこない。浴室から聴こえてくるのは、相変わらずシャワーの湯音だけ。

 今日は普段どおりの帰宅だった。さほど疲れている様子でもなかったが、珍しく「飯より先に風呂へ入る」と言って服を脱ぎはじめた。
 「まだ沸いてないわよ」
 驚きながらそう言うと、
 「シャワーでいい」
 そう言って浴室へ入って行ったのだ。
 妻は時計に目を走らせる。入ってから四十分は有に経っている。さすがに心配になってきた。
 「また居眠りしているのかしら」
 以前にも夫は湯舟で眠っていたことがあった。そのときは連日の残業で、タクシーでの帰宅が五日つづいたその五日目のことだった。
 妻は居間に向かって声をかけた。「恵利ちゃん?」
 返事はない。娘はテレビのマンガに没入している。聴こえているのか聴こえていないのか、もちろん聴こえているに決まっている。最近は都合が悪いと聴こえない振りをする。
 「恵利ちゃん!」
 妻はくるりと体を回してやや強く呼びかけた。
 「――なあに」
 漸く娘は、妻のほうへ顔を向ける。
 「ちょっとお風呂場へ行って、父さんの様子を見てきて頂戴」
 うん、と頷き、娘は渋々こたつから立ち上がった。風呂場のほうへ歩いて行く。
 妻はふたたび流しのほうに向き直る。父さん、と呼ぶ娘の声が聴こえてくる。
 「あら?」
 と、妻は小さく呟く。「こんなところに……」
 ――流し台の上に、馬鈴薯が一箇ぽつんと乗っている。

                        了。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドッペルゲンガー交点(下)

2006年08月16日 20時40分06秒 | 小説
 <承前>

 「それがどうして大変なことなんだ?」
 私は訊いた。
 「おまえ本当に知らないのか」
 「ああ」
 私は胸を張った。「だってドッペルゲンゲルって言葉さえ、今日の今まで知らなかったんだからね」
 「威張ってどうする」
 と、K・・はニッとわらった。それは私を哂っているようで、実は自嘲のようにも私には感じられた。
 「おのれのドッペルゲンゲルと直接顔をあわせたとき」
 K・・は呟くように低く言った。「そのとき、そいつは死ぬんだ」

 キュッと心臓を摑まれたような気がした。それはK・・の声色があまりにも真に迫ったものだったからであろうか?
 「だが、それは正しい表現ではないかもしれない」
 K・・は口調を改めた。「たしかに本にはそのように著されてはいた。しかしそれだけでは、このドッペルゲンゲル現象について半分も説明できていないんだ……おまえさん、平行世界ってのを知っているか?」
 「何――世界だって?」
 私はうろたえて問い返す。
 「平行世界。つまりわれわれのこの世界に平行して無数の、われわれのこの世界と同じような世界があるって説だ……その説によれば、その無数の平行世界にはこれまた無数のおれやおまえさんが、それぞれの世界にいるらしい。しかもそれぞれの平行世界のおれやおまえは、互いに他の平行世界のおれやおまえの存在に気がついていない。それはそうだろう。平行とは永遠に交わらぬことの謂なんだからね。それゆえかれらは(おれやおまえは)、自分たちの世界だけが唯一の世界であると信じて疑わない。つまり、〈自分〉という存在は〈この自分〉だけしかありえないと、何の根拠もなく信じこんでいる……」
 K・・は続ける。

 ……ところがたまたま何かの拍子に、二つの異なる平行世界が交差することがあるらしいのだ。球面上の平行線を想起してみてほしい。地球上に平行に走る(とみなされる)経度線は、しかし南北両極で交差しているだろう?
 いま、二つの平行世界が交差すると言ったが、その交点こそが所謂ドッペルゲンゲル現象なんだ。今度の場合はそれが「おれに於いて」起っているらしいのさ。つまりおれと、おれのドッペルゲンゲル(やつから見れば、おれこそがドッペルゲンゲルなんだけどね)――この、交点を構成する当事者二人が出会うとき、そのときこそ正に二つの平行世界が交差する瞬間に他ならない……。

 K・・は憑かれたように語り続ける。語り続けるほどに、しかしK・・の話は途方のなさの度合を深めてゆく。その途轍もない、想像を絶して奇怪な内容に耳を傾ければ傾けるほど、私には到底K・・が正気であるとは思えなくなっていくのだった。たまらなくなって私は、叫ぶようにこう問い返していた。だけどおまえさん、そんな知識をどこでどうやって仕入れてきたというんだ?
 私の問いに、K・・はかすかに表情を和らげた。
 「いってみれば、天啓、だな」
 「天啓、だって?」
 「そうさな……いわば交点として運命づけられた者だけに真相は啓示されるんだろうな。誰から教えられるのでもなく、ただおのれの裡におのずと芽ぶいてくる真相なのだ。とにかくある日突然(といっても、わずか数日前のことなんだが)、おれの心に、突如真相が啓かれたのだ。そう言う以外、おれには説明の仕様がない」
 「そんな無茶苦茶な話があるか!」
 私は声を昂ぶらせた。
 「天啓とは、そういうものさ」
 K・・は、遠くを見るような目をした。「もの心がついた頃にはすでに、おれを知っている人々の視界に、おれのドッペルゲンゲルは出没していた……そのことはもう話したよな」
 私は頷いた。
「ところがこの数日の間に、おれはそのことに関連して、唐突に自分が小さいときからよく〈空耳〉を聞く癖……というか、そういう傾向があったことに今更ながら気づいたんだ」
「どういうことだ?」
 「うむ」
 K・・は目をとじた。

 ……ものの判断がつく頃にはそいつはもはや耳に馴染んでいたので、いつの頃からかおれはそれを受け入れてしまって、意識することもなくなっていたのだが……。
 そう〈空耳〉というやつ。
 人はふとした拍子に、覚醒しているのに意識をなくしたような精神状態に陥っている自分をときに見出すことがあるだろう? つまり、ぼおっとしていた、というやつさ。
 そんな状態は誰にでも覚えがあるはずだ。おれにしてもそれは同じ。
 ただおれの場合、他人といささか違うのはそのような状態になったとき、背後から、あるいは横手のほうから誰かに声をかけられたような気がして我にかえることがある点なんだ。
 ところがはっと我にかえって、あわてて背後に振り向いても、周囲を見回しても、声をかけてきたような者は誰もいない……。
 おれはしばしばそんな経験をした。そのことをおれは思い出したんだ。
 それに気づいたあとは早かった。一気呵成に真相に到達したぜ。どういうことかって?
 ――この空耳を聞くときのおれの状態というのは、いわばドッペルゲンゲルの側の世界へ、つまり今ひとつの平行世界のほうへ「半分入り込んでいる」状態なんじゃないだろうか、と考えたのだ。
 一瞬、ぼおっとしたとき、そのときおれはこのおれ自身の平行世界にありながら、同時にむこうの平行世界にも存在している。そういうことではないだろうか?
 想像してみてくれ。「むこうの世界」にあらわれたおれを……。
 その世界の住人にとっておれの姿は、彼らの世界の「おれ」以外の何者でもないはずだろう。おれを見かけた「彼ら」は、当然おれのことを自分たちの世界のおれだと「勘違い」する。で、声をかける。今日おまえさんが駅で声をかけたように……。
 そのありさまは、まさにドッペルゲンゲル現象そのものだと思わないか? 
 でだ。そのときその呼びかけにはっとしておれは、ぼおっとした状態から我にかえるわけだ。その瞬間、おれの存在は二つの世界への並在状態から解消され、この本来の世界のおれのみに収斂するに違いない。
 それがどういう状況かといえば、はっと我にかえったあとでいくら背後を振り返っても周囲を見渡しても、呼びかけた声の主はどこにも見当たらない、存在しないということだ。なぜならその呼び声は、むこうの平行世界で発せられたものなんだから。
 その呼びかけは、呼びかけることそれ自体によって、おれを本来の世界へ引き戻してしまう。そうするとむこうで聞いた声は、結局空耳として認識されてしまう以外にはないというわけだ。
 そう想像してみると、これまでのおれの体験がすべてピタリと当て嵌まるじゃないか……
 見方を変えれば、そのときのおれというのは……空耳を聞いたと思っているおれというのは、むこうの世界の側から見ればドッペルゲンゲルそのものではないか。すなわち空耳とドッペルゲンゲルとは、同一現象の二つの側面、表と裏に他ならなかったのだ……
 そこまで思い至れば、あとは簡単だった。即ち二つの平行する世界があって、それがこのおれという存在において今まさに交差しようとしている、という事実が……

 K・・は正面から私を見た。
 「……おのれのドッペルゲンゲルと出会うとき、そのときそいつは死ぬ。というのは真相の半分しか言いあらわしていない。事実は二人のおれが顔をあわせたとき、つまりは二つの平行世界が交差する瞬間……。そのとき二人のおれのうち、どちらか一方が生き残り、もうひとりのおれは消滅するんだ……。どちらが消滅しどちらが生き残るのか、それは判らない。しかしそのとき、事態はおれという存在の存亡だけにとどまらない。さらに恐ろしい事態がひきおこされる。二つの平行世界がおれという極点で交差するということは、おれという〈部分〉の存亡のみにとどまらず、それぞれが属する世界の存亡に直結するのだ。つまりおれが消滅するということは、おれが属した世界もまた、同時に消滅するという、そういうことなんだ。そのとき一切合財が、無に帰する……」
 「一切合財が……」
 私は呟く。「消え去ってしまう?」
 「いや」
 K・・は一瞬、目に笑みを含ませた。「必ずしもそうではない」
 「消滅していくほうの世界の住人の幾許かは、生存できる可能性があるのか?」
 「それはありえない」
 K・・は手を振った。「物理的なものに関していえば、その一切は無に還る。だがな……」

 ……だが〈おもい〉は残るんだ。消え去っていく世界の、そこに生を享けていたものたちの〈おもい〉は……。いや、滅び去っていく〈世界〉そのものの「記憶」が、生き残るほうの世界に、すべてではないにしろ、刷り込まれ、残存するんだ。
 おまえさんにも覚えがあるんじゃないかな、デジャ・ヴュとか既視感ともいわれる思い違いや錯覚――というにはあまりにも生々しい「偽」記憶が……。
 それらはみな、過去に何度かこのおれたちの世界が別の平行世界と交差した時、滅びていったほうの世界のおまえさんが、生き残った世界の、つまりこの世界の、おれの目の前にいるおまえさんに刷り込んでいった記憶なのさ。

 「ということは」
 と、私は呟いた。「おれたちの世界はすでに何度も他の平行世界と交差しているというのか?」
 「もちろん」
 Kは言った。「今までは勝ち残ってきたんだ」
 「勝ち残って……」
 「そうさ。古来、世界は連綿と続いてきたのではないんだ。それは無数に、そうドッペルゲンゲルの出現のたびに、あるいは断絶し、あるいはとって替わられてきたんだ」
 K・・はため息をついた。「そうしてまた、今まさにひとつの世界が消え去っていこうとしているんだよ」
 「バカバカしい!」
 私は笑い飛ばそうとした。妄想だ。K・・は神経を蝕まれているのだ。
 ――しかし私の笑い声は、なぜか空ぞらしく私の耳をうった。……

     3

 私はK・・の部屋から退散した。
 「おまえさん、疲れているんだよ。気分転換に温泉旅行でもしてきたらどうだ?」
 月並みな言葉を残して。ちらと振り返ると、K・・は煙草をくわえてぼんやりと柱に凭れていた。
 冬の日は短い。下宿屋の玄関はもう薄墨色が凝りはじめていた。上がり口で朴歯の鼻緒をすげかえていると、ガラガラと入り口の引き戸が開けられ、視界の端を見覚えのあるマントがよぎった。
 ギョッとして顔を上げた。黄昏の薄明かりの向うに見間違いようのない痩身が、逆光にシルエットとなって浮かび上がっていた。
 「あっ!」

     4

 「あっ!」
 下宿屋の玄関の引き戸をガラガラと開けたK・・は、小さく叫んで棒立ちになった。私はK・・の背中にぶつかった。
 「おい、何だよ」
 私は舌打ちした。「急に立ち止まるなよ」
 K・・がうろたえた様子で振り返る。その顔が恐怖に歪んでいた。せわしなく私を見、玄関のなかを見る。
 「誰かいるのか?」
 私はK・・の肩越しにのぞこうとする。
 「いかん。見ちゃだめだ!」
 悲鳴のような切迫した声。
 「おいおい」
 私はあきれて言う。「一体どうしちゃったんだよ。早くおまえさんの部屋へ行こうぜ」
 そういって私はK・・の背中を押す。「早いとこ行って、火鉢に当たらせてくれよ」
 切れた鼻緒を振り回しながら、「足の裏が凍え死んじまいそうだ」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ドッペルゲンガー交点(上)

2006年08月16日 20時37分57秒 | 小説
 あれはいつだったか。あの日K・・と出会ったのは。
 そうだ。あれは木枯しが吹いた寒い午下がりだった。
 いや。
 いや違う。そうではない。
 あれはたしか、黄昏が風景を覆いはじめた夕刻だったのではなかったか……
     1

 身を切るような、山から吹きおろしの寒風に向かって歩いていた。カラカラと朴歯の下駄を引きずりながら、下の駅からうねうね折り返すだらだら坂をようよう上りきると、目の前にあらわれたご大層な校門の向うに、草臥れたマントに身をつつんだK・・の姿が見えたのだ。
 「おい、K・・!」
 大声で呼ばわり、私は走った。ちょうど校門のところで、私はK・・をつかまえた。
 「おい、一体どうしたっていうんだ?」
 息を切らしながら私は言った。「さっきの態度は何だよ。いくらなんでも失敬じゃないか」
 K・・は不思議そうな顔をした。
 「何だよって、何だよ」
 K・・は私と同じ教室の学生であった。胸を病んでいたことがあり、痩せていた。
 「何だと?」
 K・・の口調に、更に昂ぶった私は言いつのった。「おまえ、さっき駅ですれ違っただろう」
 大学が所在する小高い丘の麓に駅はあった。その小駅で汽車を降り、駅員のいない改札を出てふと見ると、ちょうど私の横を他ならぬK・・がうつむき加減にすり抜けていくところであった。
 おいと声をかけると、K・・はびっくりしたように顔を上げた。そして私のほうに視線を向け……しかし全く私を無視して……私の背後にその視線を伸ばした。急に不機嫌な表情になり、すたすたと無人の改札を通り抜け駅のホームへ曲がって消えていったのだ。
 「何を急いでたのかは知らんが、一言返事くらいしたって口は減らんだろうじゃないか」
 そう言うと、にわかにK・・の顔色が変化した。
 「そいつはいつの話だ?」
 ものすごい形相で詰め寄り、私の学生服の胸倉を摑むのだった。
 「つい、さっき、駅で……」
 と、K・・の剣幕にたじろぎながらも、斯く斯くと説明し終えた私は、上ってきた坂道を振り返った。「するとあれは、おまえさんじゃなかったのか?」
 「あたりまえだろう」
 と、K・・は小脇に抱えていたノートの束を私に突きつけた。「どうして駅に入っていった者がここにいられるわけだ?」
 「そういわれてみれば、そうだな」
 私はあっさりと納得した。「それにしても他人の空似とはよく言ったもんだな。てっきりおまえさんだとばかり、思い込んじまったぜ」
 そう笑いながらも、私はK・・の反応がいささか過剰にすぎるようにも感じたのだ。「しかし、そんなにムキになることでもなかろうに……広い世間には、瓜二つな他人様もいらっしゃるってことじゃないのか」
 K・・は暫く無言であったが、低い声でポツリと呟いた。
 「そいつは他人様ではないのかも……」
 「え?」
 と、私は聞き返す。「なんだって?」
 「そいつは他人様ではないのかも、って言ったんだよ」
 K・・は繰り返した。
 「どういう意味だよ。よく判らんなあ……つまりくだんの男、おまえさんの兄弟とかそういう関係の人だってのかい? たしかおまえさん一人っ子じゃなかったっけ」
 「そういうことじゃないんだ」
 怒ったような表情で手を振る。
 「実はな」
 と、K・・は何かをふっ切るように喋りはじめたのだ。「実はおれには、どうもドッペルゲンゲルが憑いているらしい。いや、憑いているってのはおかしいか」
 「ドッペル……なんだって?」
 鳩が豆鉄砲食らったようなような顔を私はしたらしい。K・・が、笑いをこらえるようにかすかに唇をゆがめた。
 「ドッペルゲンゲル。ドッペルゲンガーともいうな。聞いたことないか?」
 私は首を振る。
 「なんだ、それ。落第生かい」
 「それはドッペる!」
 K・・は、お話にならないとでも言うように顔をしかめた。
 「いわばもうひとりのおれさ」
 「つまりそっくりな他人か」
 「他人じゃないんだ。おれ自身だ」
 「おまえが二人いるってのか?」
 「まあ、そういうことだな」
 「なんだ詰まらん。冗談か」
 「冗談なんかじゃない」
 K・・は憤然とした面持ちで私を見た。その表情の中に、私はK・・の所謂ドッペルなんとやらが、この男にとってのっぴきならぬ何かであることを認めないではいられなかった。
 「ふむ」
 と、私は鼻からためていた息を吐き出した。「いったい、それはどういうことなんだよ?」
 「うむ……」
 と肯いたきり、K・・は歩き出した。つられて私も後を追う。校門を出たところで、
 「おれの下宿に来ないか?」
 とK・・が言った。
 否やはない。どのみち講義に出る気は、はなからなかったのである……

     2

 K・・の下宿屋は大学の敷地のすぐ横手にあった。学生専門の傾いた木賃アパートで、私は歩き出してから五分と立たぬ間に、散らかし放題に散らかったK・・の部屋で、火鉢を抱えて凍えた足の裏を暖めていた……というのは他でもない。校門を出てすぐのところで、朴歯の鼻緒が切れてしまい、僅かな距離ではあったけれども、固く冷え切った地道を、私は裸足で歩かなければならなかったのだ。
 「……餓鬼の頃からたびたびおれは、自分とそっくりな人間を見かけたと知人から聞かされることがあった。そうだな、一年のうちに何度もそういうことがあった。また何年も聞かない年が続くこともあった。けれどもそいつは、もの心ついたときからずっとおれについて回っていたのさ。おれと瓜二つなやつがおれの近くにいる。その感覚はおれには、おれがこの世に生を受ける前から決まっていた、決定済みの、いわばa priori な何かだったんだ。とはいえそいつは、決しておれ自身に直接姿を見せることはなかった。実際おれはまだ、そいつを一度も現実に見たことがないんだ……」
 K・・はそういう風に、その奇怪な話を語り始めたのであった。

 ……いずれにしても自分と瓜二つな人間が、この世界のどこかにいる。そしてそいつが、おれの知り合いたちの視界を横切っていく……。そのような図を想像するのは子供心にも、いや子供だったからこそかな、不気味だったし不思議な感じだった。
 それは常におれの頭の片隅にこびりついていて、解くことあたわざる謎としてあり続けていたものさ。
 やがておれは高校へと進んだ。そしてそこで……おれはそれまで永遠の謎であったものの、解明の糸口を摑んだのだ。
 それはまさに偶然といってよかった。ドッペルゲンゲルという言葉を知ったのは。
 運よく地元の高等学校に進学はしたものの、戦後の混乱期で授業なんて殆どなかった。その日も寮に住む学友たちは買い出しに出かけており、おれひとり図書館で小説本を読んでいた。それにも飽きて戯れに書架から一冊の、黒い頑丈なクロス張りの書物を引っ張り出してみたのだが、その本は奇怪な超自然現象を世界各地から取材し、紹介するものだったんだ。
 そのような類の本をこれまで読んだことがなかったので、おれは少しく興味を感じた。ぱらぱらと目を通していると、ドッペルゲンゲルなる現象について記述した箇所にぶつかった。いつかおれは、その章をむさぼるように読んでいた。何度も読み返したんだ。
やがてその本を静かに閉じたとき、おれはおこりにかかったように震えていた。そのときの心の状態は、今でもありありと思い出すよ。おかしな話だが、こいつだったのかという、奇妙に納得した気分だったよ。

 ……高校を卒業し、おれはこの大学に進学した。田舎の小都市からこの大学町へとおれはやってきた。故郷を離れることで、あるいはひょっとしてやつは、もうおれの周辺に現れたりすることもなくなるんじゃないだろうか? そう考えてみたりもした。
 でも、そんなに甘くはなかったよ。予期してはいたけどね。
 そうさ、やつはやはり姿をあらわしたんだ、大学で知り合った友人たちの視界に。今日おまえさんが見かけたのが、そいつなんだよ……

 K・・はそう言うと徳用マッチで煙草に火をつけた。
 奇怪な話であった。私はいささか困惑していた。この途方もない話をどこまで信じてよいものやら判断しかねていた。むろんK・・はユーモア感覚を人並みに持ち合わせてはいたけれども、だからといって見境なく与太をとばして嬉しがるような、そんな男ではなかった。とすれば……
 ――妄想か?
 私は上目遣いにK・・を窺う。いまK・・は、放心したように煙草を下唇に貼りつけて、柱に凭れている。
 ふと肌寒さを私は覚えた。日が傾いて気温が下がり始めたのだろうか。私は身じろぎをした。
 「ところがだ……」
 と、だしぬけにK・・は言い、煙草をもみ消すとふたたび喋り始めたのだ。

 ……ところが最近になって、やつは突然、どういうわけだか異常に頻繁に、出没するようになり始めたんだ。もともと異常なところに異常も何もないんだけどね、しかしこんなことは今までなかったんだ。
 それは確かな事態の変化だった。
 一日のうちに幾人もの知人たちが、やつを見かけるようになり始めた。ひどい日には、それが十名をこえた。それは確かに或る「兆」だったんだろう。だがさっきも言ったように、それでもまだやつの現れる場所は、おれの行動圏外に限られていた。おれが出向くような場所にはやつは絶対に姿をみせることはなかったんだ。その「暗黙の了解事項」(と、おれは勝手にそう了解していた)は、それだけは万古不変のことのようにおれは思っていたんだが……

 ……ゾクゾクとさむけが背筋を伝い降りてくる。私はいっそう火鉢に抱きついた。しかしさむけは、強まりこそすれ決して弱まることはなかった。どうやらそいつは、外気温とは別なところにその発生源があるようなのだった。
 「ところが、その了解事項が破られた……」
 K・・の口調が変わった。
 「ここ三日ばかりの間に、やつはどんどんとおれの方へ近づいてきやがった。そしてついに、やつはおれの生活圏の内側へ向かって侵入を開始したのだ……そう三日前、やつはA書店に姿をみせたらしい」
 A書店は、私たちこの大学の学生がよく利用する古書店であった。鉄道で三十分ほど行った県庁所在地にA書店はあった。
 「昨日はN通りの遊技場にいたそうだ……」
 N通りは下の小駅の隣駅にあるちょっとした娯楽地区で、私たちは夜ごと其処に繰り出すことも多かった。
 「そして今日だ……」
 K・・はブルと身を震わせた。据わった眸で私を睨む。「ついにやつは、此処へ……この下の駅へあらわれた。そういうわけだ。大変なことになった」

 <つづく>
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

アフリカ農場物語(上)

2006年08月14日 23時23分27秒 | 読書
オリーヴ・シュライナー『アフリカ農場物語(上)』大井万里子・都築忠七訳(岩波文庫、06)

 南アフリカの作家オリーヴ・シュライナーの代表作の日本語訳で、原著は1883年イギリス。
 舞台は19世紀後半の南アフリカケープ植民地。内容はほぼ著者の体験が元になっているらしい。
 南アフリカのカルーと呼ばれる荒涼たる大地、南十字星輝く満天の星空など、我々には異質な世界描写がまず素晴らしい。その世界の一角、巨人の墓のようなコビ(積み石状の小丘)のふもとに佇む農場ではボーア人の女主人がホッテントット(コイ族)のメイドやカフィール(バンツー系の黒人)の下働きを使っている。そのような舞台に、主に幼馴染みの少年と少女の成長そして死までの、その何十年にもわたる物語が淡々と綴られていくらしい。

 らしいというのは、下巻がまだ出版されていないからだが、ヴィクトリア朝時代らしく、信仰にがんじがらめで客観的に悪人を見定める視線を持たず騙され死んでいく男から、そのような因習の辺境にあって「近代」を書物から吸収しようとする男女まで、多彩な登場人物が繰り広げる人間模様が読みどころだろう。

 物語としては、当然ながら新しいタイプのものではなく、著者自身もフェビアン協会の前身の団体と関係があったり、フェニミズム作家という評価もあったりで、日本でいえば佐多稲子や宮本百合子のようなリアリズム文学に、山本有三的成長小説を加えたような感じか。そういう意味で通俗的に面白く、舞台の物珍しさも相俟って、一気に読んでしまった。下巻が待ち遠しい。というかなんで同時に出されなかったんだろう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

月光とアムネジア

2006年08月13日 21時52分57秒 | 読書
牧野修『月光とアムネジア』(ハヤカワ文庫、06)

 牧野修版冒険小説・サバイバル小説といえる。変に(巻末解説にあるような)「言語」と「妄想」に拘泥しなかった分、娯楽作品としてよく出来ていて一気に読了。面白かった。

 著者の長篇は、『傀儡后』以来だったんだけど、デヴュー以前から暖めていたアイデアだったらしい『傀儡后』は、そのせいで著者の思い入れが強すぎたのだろう添削が効いておらず、ごたごたと整理が悪かったのだが、それに比して本書は、冷静に娯楽作品に徹していて(といっても牧野は牧野なんだけど)一般のSF読者にもふつうに愉しめる作品に仕上がっている。長さも適当で、牧野修入門に丁度よい本ではないだろうか。

 メインのアイデアはイーガンの或る短篇と同工なのだが、最後に至ってそのアイデア自体もひっくり返され、更にとんでもない現象であることが明らかにされる。このアイデアがいかにも牧野的で感動した。
 以前にも書いたかと思うが、著者は川又千秋が手をつけて途中で抛りだし、その後誰も手をつけなかった分野を、いま開拓しているのだと思う。

 さて解説は風野春樹で、しかし本篇や著者に関しては別に目新しいことを述べるわけでもなく、ごくあっさりと定評を確認するのみ。
 それもそのはずで、本解説の眼目は、(牧野が開拓しつつある領野である)「言語」と「妄想」の領域――その領野を現実に考究してきた「精神病理学」という学問が、「滅びた」あるいは「滅びに瀕している」ことを高らかに宣言することにあるようなのだ。

 その理由として挙げられているのが、精神病理学が、患者の「治療の役に立たない」、「それよりは脳や薬の研究をしているほうがずっと役に立つ」という文で、風野の立場は、治るか治らないかという二者択一のきわめてプラグマチックな立場に他ならず、けっきょく治さなければ使えねえ、ということをいいたいようだ。

 たしかに現実に患者と相対して、その「復帰」が至上命令であるのかもしれない医師の立場からすれば、それはそのとおりなのかもしれない。しかしそれでいいのだろうか。そんなに簡単に「精神病理学」を葬り去ってよいのか。70年代に木村敏を読んで目を瞠かされた私としては、その言説は全く然受け入れられるものではないのだ。

 また、精神病理学は本場ドイツと日本「以外の国では、まったくといっていいほど発展しなかった」というのだけれど、風野が引用するセシュエーはイギリス人ではないか。イギリスといえば精神科医であったJ・G・バラードも、<NW-SF10号>の「テクノロジイの精神病理学」というインタビューで、今手元にはないのだが、精神病理学を高く評価していたはず(実は精神病理学ということばを初めて知ったのがこのインタビューでした)。
 アメリカにおいても(ドイツからの亡命組ではあるが)カレン・ホーナイやフロムたちのパーソナリティを重視する精神分析派も、ドイツ現象学の影響を受けていたのではないか(この辺ちょっとアヤシイ記憶)。

 こう見てくると、どうも風野の上記解説は「矯めにする」匂いがプンプンするなあ。

 しかしたとえばレイン(レインはイギリス人)に至っては、治すことが正しいのだろうか、という根源的反問(煩悶)をするわけで、その煩悶を、有効無効で一刀両断に切り捨てられるものだろうか。
 レヴィ・ストロースは未開人の思考もわれわれ西欧近代人の思考と同じ程度に論理的だということを論証したんだけど(つまり未開人だからといって原始人ではないということ)、現象学的精神病理学も実は狂気に関して同じことをやっている。つまり狂気は理解可能だというわけだ。構造人類学も精神病理学も、対象の未開人や狂人とわれわれの間は「連続的」なのであり断絶的な「一線」はないという立場に立つ。

 脳や薬の研究の方がずっと大事だという風野の考え方は、未開人を「理解する」のではなく、近代・西欧に順応させればそれでよしといっているのと同じなのではないか。
 たとえば本稿を読むと「言語新作」を「われわれとは違う」狂人の「狂人らしさ」の証明のように書かれており、あまつさえそのわれわれとの「断絶」を面白がっているとしか思えないふしがある。
 
 ところが私の理解が正しければ「言語新作」といえども、そこには「論理」があるのであって、それに気づきさえすれば何らわれわれと異なるものではない、というのが木村敏のような精神病理学者の立場だったように思う。
(私にいわせれば、一見奇矯な、理解の埒外にあった「言語新作」が、ある見方をすれば一挙に理解の内側にあることに気づく、その瞬間のほうがずっと「面白い」と思う)
 そのような思考をする精神病理学を、治療に有効ではないのひと言で切り捨ててよいはずがないのではないか。それは有効有用とは別の次元で必要な学問体系なのではないだろうか。

 私は、風野の言説には、そこには「意味」への敬意がないと思う。未知のものへの「理解」への志向がないと思う。それは「SF」とは正反対の立場ではないだろうか。
 従来精神病理学的アプローチは文学に多大な影響を与えてきた。哲学者のメルロ・ポンティは、自己の現象学的哲学に精神病理学を取り込むという逆流さえ行なった。このようにむしろ現実の治療より文学的な影響力の方に、この学問の意義はあるのかもしれない。風野がこのような現象学的精神病理学の価値や成果を知らないはずがなく、今回の解説文は不可解としかいいようがない、というかある種意図的な何かを感じないではいられない。
コメント (7)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする