チャチャヤン気分

《ヘリコニア談話室》後継ブログ

ウィアード 1

2009年03月23日 09時43分00秒 | 読書
H・P・ラヴクラフト他怪奇幻想小説シリーズ ウィアード 1』大瀧啓裕編(青心社文庫90)

 怪奇小説専門誌<ウィアード・テールズ>は、1923年から1954年までの31年間にわたって全279冊、長編94編、短編2617編、詩575編もの作品を世に送り出したパルプ雑誌の名門です(編者あとがき)。青心社文庫版のこのシリーズ(全4巻)はその厖大な作品群の中から選りすぐられた傑作選ということになります。
 第1巻12編を読み終わっての感想は、テレビドラマの「ミステリーゾーン」を字で読んだという印象でした(^^)。実際には60年代前半に放送された「ミステリーゾーン」(「トワイライトゾーン」)や「ウルトラゾーン」(「アウターリミッツ」)の方が<ウィアード・テールズ>の影響を受けているというべきなんでしょうけれどもね。予想以上に楽しめました。

 H・P・ラヴクラフト「サルナスをみまった災厄」大瀧啓裕訳
 蒼古的世界を舞台にした神話的ファンタジー。ヒロイック・ファンタジーにならないのはC・A・スミスと同じなのですが、スミスの華麗さはなく、もっとずっとおぞましい。

 ピーター・スカイラー・ミラー「壜のなかの船」大瀧啓裕訳
 著者はのちにSF評論家となり、そちらのほうが私には馴染みがあります。というか<ウィアードテールズ>の常連作家だったとははじめて知った。内容はメリットと同じモチーフながら、メリットのように雄渾な方向へは向かわず、むしろ異形コレクション的。ありがちな展開ではありますがダークな雰囲気を醸成し得ている。

 エイブラム・メリット「林の乙女」大瀧啓裕訳
 そのメリットが<ウィアードテールズ>に発表した唯一の作品。木々の精の実体化というある意味強引な設定にもかかわらず、ストーリーテリングで読ませてしまうのはさすが。

 マンリイ・ウェイド・ウェルマン「学校奇談」森川弘子訳
 ホラー系。ラストの処理が秀逸。

 クラーク・アシュトン・スミス「魔力のある物語」大島令子訳
 編者によれば原文は「目もあやな美文調」とのこと。原文で読んでみたいなあ(>無理)。ひょんな偶然でイギリスの荘園を相続することになり、豪州からやってきた主人公。歴代の肖像画の並びから自分と同じ名前の先祖だけがなぜか外されていることに気づき、調べ始める……。本篇もラストの処理が巧妙で読ませる(つまりご先祖と一体化したまま帰還したわけですね。その結果ご先祖が魔女に魂を奪われることを防いだ)。

 ロバート・アーヴィン・ハワード「夢の蛇」東谷真知子訳
 コナンシリーズの作者の珍しいショートショート。夜の夢こそまこと。

 G・ガーネット「コボルド・キープの首なし水車番」児玉喜子訳
 ウィアード版「ブレイクニーズの建てた家」。作者はこれ一本しか作品はないらしいのですがなかなか読ませる。アメリカの人跡まれな僻地の谷に、なぜかアメリカが発見される100年も前から使われなくなって久しい古英語(テュートン語)を話す一族が住んでいる、という設定がそそられます。

 この辺までは、作家も一流どころで堂々たる作品が並んでいます。以降は併し、悪くないにしても小粒な作品が並ぶ。

 ロバート・ブロック「エチケットの問題」植木和美訳
 ありがちなダークファンタジー。

 ヘンリイ・カットナー「墓地の鼠」植木和美訳
 巨大な鼠が生息する墓地。棺桶を食い破って死体を地下の穴に引きずり込んでしまう。墓地管理人は実は墓場泥棒を副業にしている。高価な装身具をつけた死者が埋葬され、目をつけていた管理人が墓を暴いてみると、今まさに鼠が死体を奪い去るところだった。逆上した管理人が鼠を追って穴にもぐりこむが……。ラヴクラフトにこれと似たシチュエーションがなかったっけ。

 メアリー・エリザベス・カウンセルマン「猫のような女」森川弘子訳
 猫アンソロジーにはぜひ収録したいショートショート。何も解釈しない(SSだからできない)のがよい。

 アーサー・J・バークス「大洋に鳴る鈴の音」大島令子訳
 海洋ホラー。

 ニクツィン・ダイアリス「サファイアの女神」東谷真知子訳
 本集では唯一退屈した。ヒロイック・ファンタジーのダイジェストを読まされているというか、昔アドベンチャーゲームブックというのが流行ったけど、ああいう文章。
コメント
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