ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート

「神話探偵団~スサノオ・大国主を捜そう!」を、「ヒナフキンのスサノオ・大国主ノート」に変更します。雛元昌弘

神話探偵団107 「高砂の松」は「霊洩ろ木(ひもろぎ:神籬)」

2011-02-12 12:02:52 | 歴史小説
謡曲「高砂」の相生の松

「その仮説はちょっと強引だね。印南を拠点とした大国主の何代かあとの王の伝承の可能性はないかな?」
慎重な長老が疑問を述べた。
「高砂神社も住吉大社も、神社創建は伝承によればずっと後の神功皇后の時代ですよね?」
高木としては、考古学の世界の常識を一応、述べておくことにした。
「前に広峯神社のところで検討しましたが、祖先霊信仰は、第1段階は、祖先霊が降り立つ『神那霊山』の『磐座(いわくら)』信仰、第2段階は祖先霊を磐座から里の『霊洩ろ木(ひもろぎ:神籬)』に移して信仰する段階、第3段階が霊洩ろ木(ひもろぎ)の地に建てた『神社』信仰の時代、になると思います。
高砂の松の物語は、この第2段階の信仰を表しており、その祭神である翁は、やはり高砂信者に祀られた大国主の霊になるのではないでしょうか?」
またしてもヒナちゃんに完敗の高木であった。
「元々、大国主と少彦名は高御位山と石の方殿に祀られていて、大国の里のこの地に「霊洩ろ木」を建てて祀るようになった、いつしか、その地の相生の松に大国主と住吉の妻の霊が宿っている、と言い伝えられるようになった、というのは納得できるね」
マルちゃんのまとめはいつも的確だ。

「謡曲『高砂』が結婚式で謡われるようになったのは、大国主が『縁結びの神』と言われていることとも関係があるかも知れないね。ヒメやヒナちゃんが結婚する時には、僕が『高砂』を謡うからね」
カントクが盛り上がってきた。
「いっときますけど、私もまだ独身ですからね。それと、長老やホビットさん、ボクちゃんも独身だよね」
マルちゃんが突っ込む。
「これは失礼しました。訂正。6人全員の結婚式で謡わせてもらいます」
カントクが若い女性にばかり目が向いていることが暴露されてしまった。
「じゃあ、カントクと誰かが結婚する時には、どうなります?」
いつも突っ込まれる高木であったが、相手が手負いの時にはチャンスであった。
「そりゃ決まっている。代役は長老にお願いするよ」
ひょっとしたら、とは思っていたけど、長老とマルちゃんが怪しいと皆は思うに違いない。これは、高木にとってはチャンスであった。
「じゃあ、高砂の松をみんなで回りましょうか。女性は右から2回回り、男は左から2回回りましょう」
高木はカントクの提案に乗った形で、ヒナちゃんと高砂の松を回る名案を思いついた。
「ちょっと待てよ。古事記によれば、イヤナミが天御柱を先に回ってセックスすると、水蛭子(ひるこ)が生まれたので海に流た。やり直してイヤナギが先に回ると淡路島を始めとする国土が生まれた、ということだったよね。どちらが先に回るのがいいのかな」
いつものフェミニストを自称するカントクらしからぬ、それもその先のセックスまで含めた発言でびっくりした。
「最初に地上で生まれた水蛭子(ひるこ)を海に流すという神話は、障害者殺しからこの国の歴史が始まっていると言われているけど、『全ての漢字は宛字である』という原則からみると、『ひるこ』は『霊留子』であって『霊留女(ひるめ)』の対の言葉とみるべき、という説がありますよね」
チャーミングなヒナちゃんも、時にはかなり恐い顔にみえてくる。
「そうよ、女が先に回ったらダメ、なんていう神話解釈はとんでもないわよ」
マルちゃんも手厳しい。
「沖縄や鹿児島では、女性の性器を『ひー』、熊本では『ひーな』と呼び、茨城ではクリトリスのことを『ひなさき』と言っている。平安時代中期の辞書『和名抄』にも『吉舌(ひなさき)』はでている。
出雲では今も女性が妊娠すると『霊(ひ)が留まらしゃった』というし、茨城では昔は死産のことを『霊(ひ)帰り』と言っていた。従って、『霊留子』を『蛭(ひる)』のような障害者と見るのは、間違っているよ」
さすがに長老はいろんな分野に詳しい。カントクがいうとイヤらしくなるところが、長老がいうと自然で説得力がある。
「それじゃあ、女性から先に回ってもらいましょう」
カントクは女性の意見にはいつも素直である。「ブライダル都市・高砂」のご利益がありますように、と祈りながら高木は「高砂の松」を回った。

※文章や図、筆者撮影の写真の転載はご自由に(出典記載希望)。
※日向勤著『スサノオ・大国主の日国―霊の国の古代史』(梓書院)参照
※参考ブログ:邪馬台国探偵団(http://yamataikokutanteidan.seesaa.net/)
       霊の国:スサノオ・大国主命の研究
                (http://blogs.yahoo.co.jp/hinafkinn/)
       霊(ひ)の国の古事記論(http://hinakoku.blog100.fc2.com/)
       帆人の古代史メモ(http://blog.livedoor.jp/hohito/)
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