自衛隊の敵地攻撃能力の保有について

2010-03-25 16:37:07 | 軍事ネタ

鳩山首相、敵地攻撃「違憲でない」=参院予算委で集中審議
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_date1&k=2010032300821


ほう・・・。
なかなか興味深い。
確かに、日本の敵地攻撃能力の保有は常に検討・議論されているし、
専守防衛を旨とする自衛隊が敵地攻撃を行うことが憲法違反かどうかは解釈に依るところ。

そもそも専守防衛とはどこまでが専守防衛か?
敵の攻撃を受け続けることだけを専守防衛とする人もいれば、
敵の攻撃意思が明らかならばこれが日本に到達する前に打撃を加え、
自己防衛を成立させることも含むという人もいる。

日本政府的にも一応このスタンスではあるが、差し迫った戦争の危険がないこと、
周辺国に対する配慮の観点などから、実際的な攻撃能力の保有は未だ実現には至っていない。


保有が自粛されている、いわゆる「攻撃的兵器」とは?
具体的に言えば爆撃機・弾道ミサイル・巡航ミサイル・空母・強襲揚陸艦など、
一般的に本土防衛ではなく敵地攻撃の性格が強い類の兵器だ。

一方で、他国との交戦が現実となった場合、どうしても戦争遂行には敵地攻撃能力は不可欠とされる。
敵の攻撃を受け続ければ、それら全てを完全に防御できるとは限らない、いつかは被害を受けるかもしれない。
しかし敵の攻撃の根源地を叩くことができれば、それで敵の攻撃能力を奪うことができ防衛が成立し、
そもそも自国本土を危険に晒す可能性を減じることができる。

もちろん有事を考えるならば、在日米軍のことも考慮しなければならない。
自衛隊の編成は米軍との連携を前提に考慮されている。
一般的に自衛隊は盾で、米軍が矛だとされている。

もしも自衛隊が単独で攻撃能力を保有するとしたら何が最適か?




単純に空母という人もいるが、確かに空母は遠隔地に対して絶大的な火力を投射できる強力な手段だ。
現在米海軍は11隻の原子力空母を運用しているが、1個の空母打撃群だけで中小国の軍事力を凌ぐといわれている。
だけど大規模な空母艦隊の整備には費用がかかる。

自衛隊がどの程度の規模の空母を導入するかによるが、まず空母自体の建造費に何千億円かかかる。
米軍の原子力空母であるニミッツ級は1隻5000億円の調達費といわれ、
海上自衛隊の年間予算はだいたい1兆1000億円であるから、もしも空母一隻を調達しようと思ったら、
大幅な防衛費の増額でもなければ他の部分に深刻な皺寄せがきてしまうのは明らかだ。

ニミッツ級ほどの空母じゃないにしても、例えばイギリス海軍の次期空母であるクイーン・エリザベス級がだいたい2500億円ぐらいといわれている。
海上自衛隊の規模的にもこれぐらいで十分であろうが、空母を調達するとそれを動かす人員と艦載機も必要となる。
クイーン・エリザベス級を例にとれば、2200名の人員を必要とし、艦載機も約50機が搭載できる。

人員の話をとるなら、海自はイージス艦やヘリ搭載護衛艦を中心とした護衛隊群を4個運用しているが、
1個護衛隊群の人員は2000名にも満たない。
つまり、空母1隻で1個護衛隊群を上回る人員を確保しなければならず、
そもそも人員不足の上に、人件費もかなりの予算食いとなってしまう。

また艦載機50機という数字も、どの機体を選定するかにも大きく依るが、
自衛隊の機種選定及び調達は常に最新・高額で行われてきたことを鑑みると、
1機100億円から150億円ぐらいの調達費用になってしまうことは予想に難くない。
つまり単純に考えて空母に載せる艦載機だけで5000億円から7500億円にもなってしまうということ。

そして空母を運用するなら当然それを護衛する数隻のイージス艦なども必要である。
イージス艦1隻につき1500億円と考えると、これもまた空母建造費以上の価格になってしまうし、
また現実的ではないが既存の護衛隊群に空母を組み込むとしても、
一般的に空母を常時稼働状態においておくにはローテーション等も考えて最低3隻は必要とされている。
つまり3隻分の空母の建造費・人件費・艦載機となると、現在の海上自衛隊の予算を何倍にもしないと追いつかない試算になってしまう。

もちろん上記のは他国を例にとった単純化した数値であるし、海自が現実に空母を導入するならもっと国情に合った選択をするだろうが、
とはいえ上記に準じるぐらいの費用は必要ということを見ておくと、自衛隊の空母保有は情勢に見合った最適な選択肢とは言い難い。
しかし、空母の保有自体は常にその可能性が検討されている事案であるし、
日本の地勢的条件を鑑みても、これから先も有り得ないとも言い切れないのは確かだ。




現在の日本を取り巻く情勢から、もっとも実現性があるのは巡航ミサイルの保有だろう。
米軍のトマホーク巡航ミサイルを例にとるなら、射程は3000km以上、弾頭は約500kg。
この射程ならば敵の航空基地・ミサイル発射基地・軍港などの根源地を遠隔攻撃できるし、
また巡航ミサイルは低速な反面、飛行ルートは可変的で低空を飛ぶので発見されにくいという利点がある。
米軍は湾岸戦争やイラク戦争時にこのトマホークを何百発と雨のように降らせ、イラク軍の反撃能力を遠距離から奪った実績がある。

トマホークは地上やイージス艦からも発射でき、一発の値段は約1億5000万円程度とされ、
その他手段に比べれば幾分経済的で戦術的効果も高い、費用対効果の観点から最適な選択肢となりうる。
故に、日本の攻撃能力保有を積極的に議論するならば、第一に検討されるべきで可能性も高いのは、巡航ミサイルの保有だろう。