歴史映画『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』感想!

2018-04-25 20:35:10 | 戦争映画

現在上映中の映画、『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』(原題:Darkest Hour) を観てきたので感想。
ネタバレありで書くが、まあほぼ史実なので背景をもともと知ってる人はネタバレでもなんでもない。


第二次世界大戦が始まりドイツ軍の電撃戦によりフランスも落ちようとしてる状況下、
連合国の盟主たるイギリスでは事態に対応する為の政変が起こり、
首相にある変わり者が就任した。

アルコール中毒と激しい性格、海軍大臣で好戦的、周囲から疎んじられた人物・・・
ウィンストン・チャーチルである。
議会や党内、また国王ジョージ6世までも、
チャーチルの首相としての適性に疑問符をつける人々は多かった。


しかしときは戦時下である。
しかもヒトラー率いるナチスドイツという未曾有の軍事力を保持した独裁国家が、
第一次世界大戦の復讐を果たそうと、実際に西欧を丸呑みし始めている。
まさにヨーロッパ世界の重大な危機で、対応を間違えればイギリスも侵攻されることは明白だった。

敵は圧倒的な軍隊を保持する上に、イギリス陸軍はダンケルク包囲でまるごと消滅の危機にある。
30万人もの兵士たちが全滅しようとしており、その生命を守るためにも、
また陸軍消滅後はドイツの侵略に抗う手段はなくなり、イギリス全土の命を守るためにも、
チャーチルに対して和平交渉を強硬に主張する外相ハリファックス。

イタリアが仲介すると申し出ている今ならドイツとも交渉できる。
負け戦を続けて無駄に命を浪費し全土を危機に晒すのは愚の骨頂
といわんばかりだ。
これに対してチャーチルが「いつまでヒトラーにやりたい放題にさせる気だ!?」と激を飛ばすシーンがある。


そう、劇中ではこのセリフのみで解説されていないが、そもそもナチスドイツの膨張は宥和政策の失敗である。
前政権のチェンバレン首相はハリファックス外相やフランス政府とともに、戦争を最後まで回避する努力を続けた。
しかし避けすぎてしまった。
ヒトラーが台頭したドイツは、敗戦により解体された軍隊の再軍備宣言、中立地帯ラインラントへの軍隊配備、
オーストリアを併合、ミュンヘン会談でのチェコからの領土収奪、
と立て続けに軍事・領土的拡張を続けており、
これに対してイギリス・フランスは「それを認めて刺激しなければ戦争を避けられるなら」「今回が最後の譲歩だぞ」と、
開戦させたくないばかりに何度もドイツに譲歩し、ドイツは全ての賭けにハッタリで勝って膨張してきたのだ。
そして手がつけられないところまで軍事力を蓄える期間を与えてしまった。

数千万人もの若者の命をすり減らした第一次世界大戦の悪夢を再現したくなかったばかりに、
戦争を避けすぎた宥和政策ゆえに第二次世界大戦が起きてしまったというのは、
現代でも参考にすべき歴史の流れである。


チェンバレンの人命尊重の政策は間違えてるとは言いたくはないが、
それゆえに膨大な人命を危機に晒してしまうというのは倫理的に難しい問題である。
戦うことで、特定の人命を消費することで守られる人命もある、結果的にどちらが多くの人命を救えるのか?
ヒトラーの和平交渉というエサに釣られてまたもや彼らの膨張を許すのか?
それとも出血を覚悟して本土決戦を覚悟してまで徹底抗戦して国を守るのか?


チャーチルはひとつの回答を出した。
ダンケルクで包囲された30万人の将兵を守るために、
カレーに滞在する部隊4000人をドイツ軍にけしかけて注意をひく。
その間に海軍艦艇を総動員して30万人をダンケルクから撤退させるのだ。

それではカレーの4000人は全滅してしまうと批判されるも、
その4000人の命を消費しなければ30万人は救えない。
30万人を引き上げなければ陸軍は消滅し、
次はイギリス本土5000万人が危機に晒される。
つまり5030万人を救うために4000人には玉砕させる決断を下す。

それと同様に、明らかにドイツの時間稼ぎとわかっている和平交渉は破棄、
宥和政策は継続せず、徹底抗戦へと舵を切る。
チャーチルは特定の人命を消費してより多くの人命を救う道を選んだのだ。


チャーチルは優れた弁舌家で、その演説により議会や国民を徹底抗戦へと誘った。
その点ではヒトラーと共通している点もあるように見られるが、
戦いの時代においてはそういう強い人物が必要だったということだろう。


昨年はクリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』が公開されたが、
これは大御所監督の戦争映画ということで観に行った人も多いのではないかと思うが、
あの作品の舞台裏として観ると一層楽しめるだろう。

戦争の舞台裏の政治劇というと2012年公開の『リンカーン』があるが、
嫌われ者のチャーチルが戦いを訴えてそれが周囲に認められていく流れは、
リンカーンよりはわかりやすく気持ちが盛り上がる映画といえる。
ただリンカーンと同じく絵的にはおっさん同士が言い合いしてるだけの映画なので、
わかりやすい戦闘やアクションシーンもないのでデート映画には向かないことは確かだ。
唯一、秘書は可愛かった。


そしてダンケルク救出作戦を成功させた終盤では、有名なあの演説が登場する。
ここはかなり熱いシーンでクライマックスの盛り上がりを見せるが、
「ネバー!ネバー!」の連呼でこれだけ観客を熱狂させる映画は、
このチャーチル以外には先月まで上映されて大ヒットしたミュージカル『グレイテスト・ショーマン』ぐらいであろう。

戦争映画『フューリー』感想!

2014-12-06 03:50:21 | 戦争映画

久々に戦争映画を語ろうかな。
俺は映画は一人で観たい人なので、普段は映画館に行かないんだけど、
今回の作品は早く観たかったので、メディアの発売を待ちきれなくて行ってしまいました。

この時期に上映しているもので俺が関心を抱きそうなタイトル。
このブログ読者ならわかるよね。
2014年11月28日公開、主演ブラッド・ピットの『フューリー』(原題:Fury)について。

最新作につき具体的なネタバレは無いのでご安心ください。




1945年4月、第二次世界大戦も末期の西部戦線に於いて、アメリカ軍のある戦車兵たちの戦いを描いた映画。
ブラッド・ピット主演の第二次世界大戦映画といえば、過去にはタランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』がある。
イングロリアス・バスターズもとても面白くて、クラン員のpesくんとずっと語り合うほどなので、
今回のフューリーも楽しみすぎて実はほとんどあらすじ調べずに観に行った。
少しの内容も知りたくなくて、予告編すら見ないという、セルフ情報統制をしていったのだ。


そしていざ鑑賞してみると・・・お、重い!!
なにが重いって、映像が、空気が、作品が、テーマが!
イングロリアス・バスターズは緊張感がありながらもギャグテイストも多く、
笑えるシーンも多かったりして、多少軽快なブラピも見れたもんだけど、
全く事前情報なしで観に行ったので少しはそういうノリがあるかなと思ったら、
笑い要素一切なしのかなりガチの重厚かつ陰鬱とした戦争映画でした。

痛快さも爽快さもなくただただ陰惨な殺し合いの場面が続く、(褒め言葉)
こういった方面の戦争映画って久々な気がする。
プライベート・ライアンと戦場のピアニストを混ぜた感じ。

第二次世界大戦末期のドイツ総火の玉の時期なので、
ドイツ国内の混乱、少年兵たち、武装SSの乱暴狼藉、
そして米兵の武装SSに対する憎悪などはよく描かれてた。


ティーガー戦車の実物が稼働していることと、
パンツァーファウストがたくさん出てくるので、
ドイツ兵器や戦車が好きな人は絶対に見るべき映画。

全体的にはデティールにこだわっててとてもリアルなんだけど、ほんの一部に変な描写もある。
ティーガー戦車1輌に対してシャーマン戦車4輌で挑む場面があるけど、
当時の戦車戦で行進間射撃は稀なことと、ティーガー側の戦術が明らかにおかしいこと。
あとパンツァーファウストを被弾した戦車の被害状況にも違和感を抱く場面がある。
が、どれもまあ映画展開上の都合というところかな。
ティーガー1輌に対してシャーマン4輌、という当時から言われてることを再現してたのは良かったと思う。
あとティーガー側の戦術がおかしかった反面、シャーマン側の戦術は的確だった。

クライマックスのエピソードは史実の戦車の逸話、"街道上の怪物"をモチーフにしてたね。
東部戦線に於いてソ連軍のKV-2重戦車が足回りをやられて街道上で停止するも、
その場で踏みとどまって押し寄せるドイツ軍を撃破しまくり、
単騎で丸1日もドイツ軍師団の進撃をその場に食い止めたという。
その最期まで再現されてたから、あの結末なんだろう。
そういった史実のエピソードがあるということを知らない人から見れば、
これもまた叩きのやり玉に上げられそうなシーンではあったけども。


そして各レビューを見るとこの映画の特に終盤の展開を見て米軍のヒロイックやドラマ性を感じ、
安易にアメリカ万歳映画に捉える人もいるようだけど・・・。
映画全体を通して俺は真逆の印象を受けた。
米兵の暴力性・残虐性、戦場は人を狂わせるということが強調されてたように思う。


さて・・・。
実は彼女と観に行ったのだけど、戦争映画とはいえブラピだし大丈夫かと思ったら、
予想以上に陰惨でグロいシーンばっかりだった上に、救いもなければ、
エンディングには第二次世界大戦中に実際に記録された戦闘動画が流れる重々しい演出でトドメときた。

ということで終わった後に彼女の顔を見ると・・・なんか泣いてた
寝てるかドン引きしてるかどっちかかと思ったのに予想外の反応。
戦時中の悲惨な状況に自分たちを重ねてたらしい。
「SSって何の略?」
「銃弾ってあんなに光るの?」
「ドイツの戦車はアメリカの戦車より強いの?」

とかの話題で少し盛り上がった(はず)し、もし軍事に詳しくなくても、
事前知識さえ仕入れていけばデートにも使える映画ということが実証されたね!

映画『ブレイブハート』感想

2014-09-29 20:24:30 | 戦争映画

先日、スコットランドの独立が否決された ことについての記事を書いた。
この事件は世界中を騒がせたが、同時に多くの人が思い出した映画がある。
今日は映画『ブレイブハート』について。
実は昔から一番好きな映画でした。


ブレイブハートはメル・ギブソン監督の中世欧州の歴史映画で、
1995年に公開されアカデミー賞を6部門受賞した大作である。
この映画以降、中世物の戦争映画がいくつか出たが、
どれもブレイブハートには及ばない。

またリーサル・ウェポンシリーズなどで役者として売れっ子だったメル・ギブソンの
監督としての実力を世界に証明した作品でもある。




舞台は13世紀、イングランドの圧政に苦しむスコットランドが、
自由を求めイングランドに対し独立戦争を仕掛けた。
その指導者であり英雄であったウィリアム・ウォレスの半生を描いた映画である。

史実的にウォレスが実在しスコットランドの民兵たちを率いたのは確からしいが、
ウォレス自身の史料は多くは残っていない。
なのでこの映画も必ずしも史実に則っているものではなく、
映画的な創作エピソードも挿入されているが、
それがこの作品の評価を下げることにはならなかった。


この映画を観た人は序盤で、ウォレスがそこそこ若者っぽい役柄なのに、
メル・ギブソンは老けすぎじゃないか?という感想をまず抱く。
これはメル自体は別の俳優を起用したかったようだが、
会社が既に名前が売れてるメルが主演しないと金を出さないといったらしく、
仕方なく年齢的にだいぶ無理がある役を演じることになったようだ。

しかし物語が進むと、ウォレス役はメルじゃないとだめだったに違いないと、
誰もが思い直すに違いない。
それぐらい力演してるし映画の中のキャラクターが作りこまれてる。


合戦シーンは有名で一見の価値があり、歩兵の戦列同士が衝突するところも勢いがあるが、
特に騎馬兵の突進を槍衾で止めるシーンは色々な中世ゲームに影響を与えたと思う。
やられる馬はロボットらしいが、リアルすぎて動物愛護団体からクレームがきたらしい。
兵種ごとにユニットが整列しててそれを順番に繰り出す戦争シーンを見ると、
PCゲームのTotal Warシリーズがプレイしたくなってしまう。
また破城槌や煮え油を使った攻城戦もあるので、中世戦闘マニアも必見である。

個人的な一番の名シーンは序盤の夜の秘密の葬式と合戦前の演説シーンである。
秘密の葬式では「禁じられた楽器で禁じられた音楽を」のセリフがあり、
禁じられた楽器というのはおそらくスコットランド伝統のバグパイプを指すと思うが、
とにかくこのバグパイプを使ったテーマ曲が素晴らしい。
そして作曲家はタイタニックなどを担当したジェームズ・ホーナーなので素晴らしくて当然である。
初めてサントラを買った映画。


この映画のすごいところは。
メル・ギブソン自身はアイルランド系であるので、
スコットランドの英雄をアイルランド系が演じるのはどうなんだ?
と当初は本場から非難が上がったそうだが・・・
映画が公開されるとスコットランドでは大絶賛され、
作中のメル・ギブソンそのままのウォレス像が作られてしまったという。

またこの映画のヒットがスコットランドの独立気運の高まりに寄与し、
大英帝国に併合されて以来廃止されていたスコットランド議会の復活の一因ともなった。
その流れで今回の独立を問う住民投票へつながったので、
色々な要因があったといえどこの作品も一因を担ったといえ、
あの地域へもたらした影響力は甚大といえる。

今年の独立投票時にもスコットランドではメル・ギブソンの顔に
FREEDOMと書かれたポスターが至る場所に貼られていたらしい。
独立投票が否決されたときには海外フォーラムでも、
「どうしちまったんだ?俺らはブレイブハートの国だろ!?」
というスコットランド人の書き込みも見えた。


Chivalryは製作陣がブレイブハートから影響を受けたと書いており、
Total WarMount and Bladeなどのプレイヤーも必見の映画である。
中世物なので本来関係ないが、何故かArma2がキャラ作成のスキンでブレイブハートが入っており、
顔にスコットランドカラーの青い戦闘化粧が塗られていたりする。


メル・ギブソン、リドリー・スコット、スティーブン・スピルバーグが作る歴史映画はだいたい素晴らしい。

映画『ローン・サバイバー』感想

2014-09-01 20:42:05 | 戦争映画

今年初旬に公開された『ローン・サバイバー』(原題: Lone Survivor)を観た。
知人に薦められてレンタルで観たのだけど、これは素晴らしい戦争映画だぜ!!
実際に行われた作戦を映画化したのだけど、ネタバレを避けて書くので、
映画を観てない人も読んで欲しい。
そして観て欲しい。
またもやNavy SEALs映画である。

2005年アフガニスタンで実施されたレッド・ウィング作戦が舞台。
タリバンの幹部を暗殺する為にSEALs隊員4名が山間の集落に派遣されるが、
偵察任務中にトラブルと遭遇し作戦を中断せざるを得なくなる。
しかし地形のいたずらで無線通信が途絶し、作戦本部に救援要請が届かないまま、
たった4人で200人の追手との戦いが始まる。




ブラックホーク・ダウンのように圧倒的多数の民兵相手に少数精鋭の特殊部隊が立ち向かい、
そしてエスケープを目指す映画だが、戦闘の舞台は遮蔽物がほとんどない荒涼とした山岳地帯である。
一旦戦闘が始まるとずっと銃撃戦の場面が終わり際まで続くのもBHDと似ている。
退屈な場面などほとんどないだろう。

実際の当事者とSEALsが協力しているので、銃器や戦闘シーンの挙動などはリアルそのもの。
映画序盤に本物の訓練シーンの映像を使っているから、ドキュメンタリーと錯覚する瞬間もある。
追われ撃たれボロボロになっても、最も大切なのは仲間との信頼関係で、
絶望的な状況となっても諦めずに戦いから逃げようとしない姿勢に精鋭のプライドが見える。

この映画の感想を色々調べたら、"痛い"と感じる人が多いようだ。
そんなにグロい描写がないのに痛みが伝わってくる描写が多いのは、
それだけ真に迫っているということだと思う。


そしてこの映画を観終わったら、ある人物や団体のその後が気になるはず。
こちらも調べると色々面白いことがわかるが・・・人によっては蛇足になるかもしれない。
米軍が世界に及ぼす影響の良い面も悪い面も考えさせられた。


個人的に近年の戦争映画としてはブラックホーク・ダウンに並ぶ傑作だと思う。
戦争映画好きは観なければならない。
どうでもいいけどSEALsが協力してる映画が最近たくさん出てて、
もはやシールズ系ってジャンルができそうなぐらいだよね。
シールズ系の中でもキャプテン・フィリップスと並ぶぐらい好きである。

映画『聯合艦隊司令長官 山本五十六』感想

2012-09-05 17:27:12 | 戦争映画

こんばんは、ゆっきぃです。
昨年末に公開された映画、「聯合艦隊司令長官 山本五十六 -太平洋戦争70年目の真実-」を観た。

山本五十六とは、日本海軍のトップとして、
太平洋戦争に於いてその開戦から緒戦を指揮した男であり、
本作はそんな彼の生き様を描いた映画である。




欧州戦役に於いてドイツ軍がポーランドやノルウェー、オランダ・ベルギー、フランスなど周辺国を電撃的に下すと、
これに熱狂した日本国民や世論は「バスに乗り遅れるな」とばかりに日独伊三国同盟を支持し、
日本は時代の流れに逆らえずアメリカとの戦争に突入していく。

山本自身はドイツとの同盟もアメリカとの戦争も反対の立場だったが、
アメリカとの戦争が不可避となると、真珠湾奇襲攻撃を立案。
ハワイの真珠湾は米太平洋艦隊の根拠地であり、ここを航空機の爆撃と魚雷のみで攻撃し、
米太平洋艦隊を一挙に壊滅に追いやる投機的作戦である。

「艦の建造能力は4,5倍、飛行機は6倍、車は100倍、石油に至っては700倍。日本の一年分の消費量を僅か半日で生産する…」
山本は日米の国力差を正確に認識しており、長期戦になれば兵力差は開く一方であると考え、
始めの一撃で決定的勝利を得て早期講和の交渉に持ち込むしか日本が生き残る術はないと見出した。

そして1941年12月8日、「ニイタカヤマノボレ」の暗号電文で真珠湾奇襲攻撃は決行され、
日米太平洋戦争の戦端が開かれることとなる。


昨今の日本の戦争映画にしてはかなり大真面目に作られた作品で、
場違いなジャニーズやアイドルはいなく、
わざとらしい人間ドラマも誇張されたアクションもない。
特に主演の役所広司がとても素晴らしい、渋い。

ネガティブで反戦的なメッセージ性も強くないが、太平洋戦争に対して
「扇情的なマスコミが世論を作って戦争に誘導した」というスタンスが見える。
偶然だとは思うが、韓流や竹島問題に関してのマスコミの偏向報道が騒動となっている昨今だからこそ、
ある意味重要で冒険的な問題提起にも思える。


真珠湾やミッドウェイ海戦、ドーリットル空襲やガダルカナル島砲撃など主要な戦闘シーンは挿入されるも、
さほど多くなく、あくまでも主題は山本五十六の人物そのもの。
日米の国力差から勝ち目なしと理解し、対米戦争に反対しながら、
全力で対米戦争に臨んだ男の胸中をよく表現できた映画だと思う。


ところで山本五十六は名言が多いが、作中にはそれがあまり登場しない。
できれば開戦の是非を問われた際の有名な文句を聞いてみたかった。

「是非やれと言われれば半年や一年の間は随分暴れてご覧に入れますが、しかしその後のことは全く確信を持てません。
三国同盟が出来たのは致し方ないが、かくなる上は日米戦争を回避する様極力ご努力願いたい」