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誰もが一度は女子高生ぐらいのときに
「戦車ってなんでミサイルにしーひんの?大砲より便利やん」
って考えたことがあると思います。
そんな思春期の女学生にありがちな疑問に答えるこのコーナー、
今日のテーマは
戦車の主砲がミサイル化しない理由について。
第二次世界大戦が終結しミサイルという誘導兵器が実用化されると、
航空機や艦船の主兵装は従来の銃砲からミサイルへと置き換えられた。
では同様に戦車の主兵装もミサイルとなるのか?
MBT-70、M551シェリダン、メルカバ、T-64、T-80・・・各国でそんな動きはあった。
まずそのメリットから考えると、ミサイル化のメリットとは、
射程の延伸
命中精度の向上
発射土台が貧弱でも射てる
という点が挙げられる。
しかし実はデメリットも多い。
砲に比べた場合のデメリットは、
速射性が低下する
信頼性が低下する
攻撃力が低下する
コストが高くなる
かさばる
対歩兵制圧能力が低下する
といったところになる。
そしてここからが重要だが、戦車という陸戦兵器の性質上、
実は上に挙げたメリットが
メリットとして機能する場面が限定的だったりする。
そういったところを以下に書いてみる。
まず第一のメリットであった
射程の延伸だが、戦車砲の一般的な射程はおよそ2kmから3km程度。
これがミサイルになると5km以上も有効射程となるだろうが、
航空機などと違って戦車は地を這う兵器である。
つまり視線が低い、
3km以上先を見渡すことがほぼないというところ。
特に主砲とミサイルを両方撃てる戦車砲システムのことを
ガンランチャーというが、
ガンランチャーを開発していた冷戦時は、西側戦車が東側戦車と戦うとしたら、
ベトナム戦争かヨーロッパ戦線が主だと考えられていたのだ。
ベトナムのジャングルやヨーロッパの都市で戦車が数km先を見渡すことはほぼないので、
つまり戦車を長射程化してもそのメリットを活かせる機会が極稀だったということだ。
さらに第二のメリットとして挙げた
命中精度の向上だが、これも目標が停止しているか遮蔽物が何もない場合の話である。
対戦車ミサイルは戦車砲よりも初速が遅い、一般的な
現代式徹甲弾(APFSDS) が初速1500mなのに比べ、対戦車ミサイルはその5分の1である。
つまり例えば2km先の目標物に対戦車ミサイルを当てようと思えば7秒かかる計算となり、
目標戦車が走行している場合、ゆうに森や壁などの遮蔽物に入り込まれる可能性が高い。
つまり戦車砲と違って
弾速が遅いために、遠距離になればなるほど障害物に阻まれるということだ。
本来遠距離戦が得意なミサイルの利点と矛盾してることになる。
ちなみに対空ミサイルなどと違って対戦車ミサイルの飛翔速度が遅い理由は、
戦車という重装甲目標を破壊するための大きな炸薬量を要求されながら、
砲口から射てる小型かつ軽量サイズにしなければならない制限があるため。
デメリットで挙げた
速射性の低下もここに関係している。
戦車の搭載する対戦車ミサイルはセミアクティブ誘導かレーザー誘導、
つまりミサイルを発射したら
命中するまで母体が目標を誘導し続けなければならない。
飛翔速度の遅いミサイルが目標に届くまで自分は動けないし次弾を連射することもできないのだ。
これは総合的な火力、ゲーム的な言い方をするとDPSを低下させるし、また自らをも危険に晒す。
最後のメリットで挙げた
発射母体が貧弱でも射てることは戦車自体のメリットではない。
強力な戦車砲を発射するにはその反動と衝撃に耐えられる重く頑丈で安定した土台がいる。
ミサイルは発射時にそのような反動は発生しないので軽い土台からでも射てる。
なので例えば人間が担いで発射するとか、軽装甲車に搭載するという用途では対戦車ミサイルは有意義だが、
戦車砲を発射できる土台を備える戦車は、戦車砲のままでいいということになる。
戦車砲の方が速い、連射できる、安い、汎用性がある、後に述べるが実は攻撃力も高いというところなので。
戦車砲ほどの強力な火砲を装備できない貧弱な土台にとって便利なのがミサイルということなのだ。
そしてデメリットの話で
攻撃力の低下についてだが、まず戦車砲の徹甲弾は単純に運動エネルギー弾であり、
超硬くて重い質量の尖った砲弾を高速で敵戦車にぶつけるというすごく単純な作用で攻撃するものである。
対してそこまでの速度や質量をぶつけられないミサイルは
化学エネルギー弾である。
モンロー/ノイマン効果という化学反応を用いて、炸薬によって生じる衝撃波や高温ジェットを特定の方向に集中させて装甲を貫通させる。
これを
成形炸薬(HEAT) と言い、ほとんどの対戦車ミサイルはこのHEAT弾である。
HEATは戦車砲と違って速度や距離にかかわらず常に一定の攻撃力が作用するというメリットがあるが、
対策されやすいというデメリットもはらんでいる。
たとえば
空間装甲、これは言うなればまずハリボテの装甲に当てさせそこで高温ジェットを消費させ本体には届かせないという仕組みのもの。
また軽装甲車であっても上の画像のように金網を車体に張り巡らせ、
歩兵からのHEAT弾をまず金網で受けて擬似空間装甲とする
トリカゴ装甲もある。
次に
爆発反応装甲、これは装甲の表面に軽爆薬を仕込むことにより、
HEATが着弾したときに起爆することで高温ジェットを吹き飛ばす方法。
そして
アクティブ防護システム、ミサイルの接近を感知すると散弾を発射してミサイルを爆破する。
このように純粋な運動エネルギー威力でぶちぬく戦車砲よりも対策が色々あるのがミサイルとHEATなので、
戦車砲をミサイルに置き換えると攻撃力が低下する結果となる。
(HEAT弾もタンデム弾頭にするなど対策をとってはいるが)
そしてミサイル化のその他デメリットが
信頼性の低下だが、やはりミサイル弾体や誘導装置は精密機器なので色々気を使う。
兵器というのは可能な限り単純な構造物の方がいざというときでも作動する信頼性は高い。
コストが高くなることも同様、ミサイルより砲弾の方が安く、特に戦車は継続的に火力支援する場面も多いのでなおさらだ。
誘導装置やミサイルの装填装置、ミサイル弾体は戦車砲システムよりも
かさばることもデメリットだ。
また戦車の役割は対戦車戦闘だけではない、
対歩兵制圧能力も重要だ。
建物や陣地や歩兵の集団を吹き飛ばしたりだね。
これに関してはミサイルのHEAT弾よりも戦車砲の榴弾の方が圧倒的に分がある。
以上のように、航空機や艦船と違って、ミサイルの持つメリットが、
陸戦兵器である戦車にはさほどメリットではなく、
それ以上にデメリットも目立つので戦車砲のままというところだね。
しかし例外はある。
上記の話は一般的にアメリカやヨーロッパ、または日本などの西側陣営諸国の戦車で述べたが、
まず広大な砂漠を主戦場にするイスラエル戦車だったり、同様に広大な国土の防衛を主眼とするロシア戦車だったり、
そもそも一線級の戦車と違って戦車砲の命中精度がそこまで良くないインド戦車だったりは、
例外的にガンランチャーを搭載し続けてたりもする。
なので一般的ではないが
ミサイル化のメリットが活かせる環境で戦うことを想定している戦車もある、
ということだね。