SEALsがソマリア海賊を強襲。皆殺しは正当か?

2012-01-27 16:48:53 | 軍事ネタ

米特殊部隊、ソマリア海賊から人質救出
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120125-00000634-san-int




米軍特殊部隊がソマリア海賊を強襲し、拉致され身代金を要求されていた人質2名を救出。
陸上の拠点にて空挺降下し、銃撃戦の末に海賊9人を殲滅したとのこと。
投入された特殊部隊は海軍SEALsという。

SEALsは水際や水中での作戦を得意としているが、
実情は空挺降下や陸上での戦闘作戦など、
陸海空を問わず活動している精鋭部隊である。
世界各地の紛争地域であらゆる工作、強襲作戦に従事しており、
昨年のオサマ・ビンラディン暗殺作戦もSEALsと派生チームが実行した。
陸軍のデルタフォースと並び、米軍最精鋭との呼び声が高い特殊部隊である。


結果的に海賊を皆殺しにしたのは一部で物議を醸すかも知れないが、
この何が何でも自国民の生命を優先する姿勢は頼り甲斐がある。
これが日本政府なら、対話による解決を目指してずるずる要求を飲むか、
もしくは優柔不断な対応をし結局人質を殺されてしまう可能性がある。

海賊行為を行うソマリア人にはソマリア人の言い分がある。
それは先進諸国らが産廃物をソマリア沿岸部に不法投棄した結果、
漁業の成果が挙がらなくなり、代わりに海賊行為が生活の糧だとか。
貧困地域は全てが決して自然的に貧困なのではなく、
他国の不正や利用された結果という側面がある。

これはソマリア海賊以外にも同様で、世界中で活動する各武装組織も、
なんらかの信念や主張、目指すものなど、理由があって戦っている。
先進諸国にテロリストとして名指しされる武装組織、
ゲリラ部隊なども、彼らには彼らの言い分と理由がある。
ただの殺人に見えても、それは自分たちの殺された肉親や、
破壊された祖国の仇討ちであったりとかするし、
そんな単純な問題ですらなかったりもする。


物事にはあらゆる側面があり、正義というのは見る方向によってそれぞれ形が違う。
このソマリア海賊たちも先進国による環境破壊などの貧困に窮する理由があって、
海賊をするのに仕方ない面があったのかもしれない。
しかしそれは片方の立場に立った見方である。
アメリカ側から見れば、自国民の生命が危機に晒されていて対話による解決が難しい以上、
罪なき自国民の生命か犯罪者である海賊の生命かという選択に迫られ、
あらゆる背景事情があったとしても海賊よりも自国民の生命を優先するのは自然である。

こういった問題は世界各地のあらゆるケースに当てはまると思うが、
国政府に必要なのは、たとえ様々な背景事情があったとしても、
まずは自分たちの立場から物を見て、自国民の生命と利益を最優先する。
日本政府にもそれを求めたいものである。

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「元戦闘機パイロットだが質問ある?」に突っ込んでみた

2012-01-20 20:12:09 | 軍事ネタ

最近、各所で以下の2chスレが話題になってた。
元空自の戦闘機パイロットが質問に応えるというもので、
搭乗機はF-4ファントムIIとのこと。

元戦闘機パイロットだが質問ある?
http://minisoku.blog97.fc2.com/blog-entry-1709.html


航空自衛隊のF-4EJ

しかし・・・
興味深いスレなんでざっと読み通すと、妙なとこがちらほらと。
それを以下に挙げるので、その前に皆さんも上のスレを読むことをおすすめする。




ASM-2は空自に配備されている空対艦ミサイルで、戦闘機から敵艦に向けて発射される。
このASM-2の射程は170km前後あるとされ、世界の空対艦ミサイルを見渡しても射程は長い方である。
決して短いと言える性能ではない。
艦の搭載する対空ミサイルの射程を考えても、大部分の艦が搭載する
シースパロー、ESSM、SM-1等の対空ミサイルは射程が30~50km前後なので凌駕するし、
イージス艦の搭載する強力なSM-2対空ミサイルと比べても射程は同等程度。

航空機による対艦攻撃が危険な任務なのは確かだが、
射程ギリギリでASM-2を撃ってすぐに引き返せる戦闘機の機動性を考えれば、
スレで書かれてるほど特攻に近い性能差ではないはずである。




ロールペダルではない、ラダーペダルである。
ロールは機を回転させる動作で、ラダーは機首を左右に振る動作のこと。
この操作の意味は大きく違うので、元パイロットなら間違えようがない。




まずTACネームコールサインを混同している。
コールサインが作戦機に定められた部隊での正式な呼称である。
レス内容にある「イーグル~」は数字がついてるのでコールサインであり、
例えば「イーグル1」なら「イーグル隊の1番機」ということになる。

間違って回答しているTACネームとはパイロット個人に付けられるあだ名のようなもので、
映画トップガンの主人公が「マーベリック」と呼ばれているもの。
しかしこれは彼個人のあだ名なので、部隊機を指して「マーベリック1」「マーベリック2」とは言わないのである。

また同時に質問されてる「Fox2」とは武装使用の府庁である。
米空軍やその同盟国、空自も武装の発射の際にコールする決まりになっている。
米空軍と空自でFox1,Fox2,Fox3の意味合いは微妙に違えど、
しかしスレ主が本当に元空自戦闘機パイロットなら、
レス内容のように曖昧な回答のはずがない。




戦闘機による対艦攻撃のセオリーは、敵艦からのレーダー波にキャッチされないように、
海面スレスレの低空侵入、攻撃位置についたら一瞬だけ高度を上げ、対艦ミサイルを発射したら一目散に逃げる、である。
少なくともイージス艦に対する攻撃が真上からが鉄則、というのは有り得ない。

イージス艦は防空に特化した艦で、真上につくのが最も難しい相手である。
イージス艦の搭載するSM-2対空ミサイルの射高は30kmにも及び、
高度30kmというと成層圏で、F-4戦闘機はおろか、
さらに強力なF-15戦闘機ですら実用上昇限度20km足らずなので、
SM-2の射程範囲から逃れることはできない。
わざわざ真上まで接近する戦術的合理性がない。


色々突っ込んだけど、戦闘機パイロットとして論外のことも含まれてるので、
以上のことから空気を読まずに、この話題になってるスレ主は偽物と断定できるかな。
残念!

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対空砲の100年。

2012-01-10 21:03:37 | 軍事ネタ

こんばんは、ゆっきぃです。
2012年に入り、我がブログも7年目。
今日は対空砲について。

対空砲とは、航空機などの空中目標に向けて撃つ砲のこと。
実はこの対空戦闘が史上初めて行われたのは1911年のイタリア・トルコ戦争と言われており、
この戦争中には飛行船による爆弾投下、つまり史上初の航空機による地上攻撃と、
翌年1912年にはこの飛行船に向けて砲を撃ち上げて迎撃する対空戦闘が行われた。
つまり今年の2012年は、飛来する航空機に向けての対空戦闘史を数えて100周年というニッチな記念年であるわけで。
(尚それ以前から弾着観測用の気球などを撃墜する戦術はあった。)

当初は通常の地上用の野砲を空中に向けて撃ち上げていただけであるが、
1914年に勃発した第一次世界大戦では布と木でできた複葉機が大々的に使用され、
とうとう戦争に於いて空軍というものの存在感が発揮されるにつれて、
やがては専用の照準器などを装備した対空砲が開発・配備されることとなった。

第一次世界大戦から航空機技術の急速な発展は目覚しく、1939年に勃発した第二次世界大戦では、
戦争に於ける空軍の役割を側面支援的なものから主力たるものへと変貌させた。
この時代の航空機は全金属製の単翼機が主流となり、高々度を飛行する爆撃機も本格的に開発され、
航空機の持つ破壊力を原始的に爆弾を投下するものから、絨毯爆撃によって一都市を焦土に変えるまでに進化させた。
空軍の重要性が飛躍的に向上するにつれて、それを迎撃する対空砲の役割も重要なものとなっていった。


アメリカ空母艦上の4連装40mm機関砲ドイツ軍のFlak18/36 8.8cm高射砲

この時代の対空砲は役割ごとに2種類ある。
12.7mmや20mm、30mmや40mmの小口径弾を連射して撃ち上げて弾幕を張る対空機関砲と、
75mmや88mm、大きいものでは120mmやそれ以上の大口径砲を撃ち上げる高射砲である。

機関砲は弾が軽いので高々度には届かないが、弾幕によって壁を作ることができる。
これは低高度から侵入する戦闘機や急降下爆撃機相手には有効な兵器だった。
高射砲は連射と小回りが効かないが口径が大きい分、砲弾の重量があり直進性もあるので高々度まで弾を届かせることができ、
また予めセットされた時限信管によって砲弾を空中炸裂させることによりその破片で広範囲の航空機に被害を与えることができた。
これは高々度を飛来する爆撃機などに有効な兵器だった。
(機関砲でも40mmなど比較的大口径のものは時限信管を備えたものもあった。)

第二次世界大戦ではこの機関砲と高射砲が併せて配備され、相互の弱点を補完し合った。
一部では実験的に対空ロケット弾なども開発・配備されたが、まだまだ実用的なものではなかった。

対空戦闘の参考動画。

0:50~より。米艦隊に体当りする神風特攻隊。米艦隊より撃ち上げられる多数の弾幕の軌跡と、空中炸裂する黒煙が確認できる。


対空砲は運搬・設置に時間がかかるのが弱点であったが、
各国軍はトラックの荷台や戦車の車体に対空砲を載せて自走させることにより、
戦車部隊に随伴させて空からの脅威に対抗しようとした。
またアメリカ軍は近接信管を開発し、砲弾の空中炸裂を手動での時限信管頼りではなく、
敵機の接近を砲弾が感知して自動で炸裂するようにした為に命中率が大幅に向上した。


歩兵携行対空ミサイル、FIM-92「スティンガー」艦載される20mm対空システム、CIWS「ファランクス」

第二次世界大戦から70年経った今日では、対空兵器はさらに飛躍的な進化を遂げている。
対空機関砲はレーダーに連動しての自動追尾が当たり前で、接近するミサイルや航空機に対して自動で弾幕を張り迎撃する。
高々度に対する高射砲は廃れた代わりに対空ミサイルが登場し、敵機に対して誘導することで撃墜率は飛躍的に向上した。

現代の対空機関砲と対空ミサイルも、昔の機関砲と高射砲のように相互補完関係にある。
それについては以前に別の記事で詳しく書いたのでそちらを参照。
→ 現代の対空砲について

対空ミサイルは小型のものは歩兵携行型もあるがこれは自衛用程度で、大型のものはさらに高々度・遠距離までをも正確に狙える。
艦載型の対空ミサイルなら短距離用のもので射程30km程度、長距離用のものでは150kmにも達する。
さらにアメリカ海軍や海上自衛隊が配備するイージス艦は対空戦闘に特化した艦であり、
最大で12-24個の目標へ同時にミサイルを誘導することができ、
一度に多数のミサイルや航空機が襲来しても迎撃可能となっている。

現代の対空兵器は航空機を狙うだけではない。
艦載される対空機関砲は、艦に接近する巡航ミサイルや対艦ミサイルを感知して自動で迎撃する。(こういったシステムをCIWSという。)
さらには大型の対空ミサイルで、何百kmも先から降り注ぐ弾道弾を迎撃するMDシステムまでもが完全ではないにせよ開発されている。

CIWS参考動画。



現在も開発中の新兵器、レーザーだのレールガンだのといったものが実用段階に入ろうとしており、
これからも対空兵器は進化していくだろう。

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