ボイスメモや留守電用として使われることが多かったマイクロカセットだが1980年台にはステレオ化された製品が登場してポータブルオーディオやオーディオコンポの音源として使われるようになった。物理的に不利な条件のメディアだがメタルテープが登場し周波数特性が改善されたことも製品開発に拍車をかけたと思うが発売は全てのメーカーからではなく数社にとどまっていた。当時は家電メーカーも各社独自のオーディオブランドを持っていた時代で現在と随分状況が異なる。「ラジカセ」が大流行していてSANYOからは1971年に第一号のステレオラジカセが発売され1979年には大ヒットした「U4」シリーズが販売開始されている。「U4」は「おしゃれなテレコ」というネイミングでSANYOカラーともいえる鮮やかな原色の細長いステレオラジカセが至る所で見られた。
SANYO(三洋電機)は今はPanasonicに吸収されたが当時は印象的な製品が多かったと記憶する。マイクロカセットを採用したステレオラジカセも発売していた。今回入手したのは型番はMR-88T MR-88Mで発売は1981年で価格は59,800円、歴代のSANYOのラジカセでは最高値。なぜ2つの名前があるのかというとステレオマイクロカセットハンディ機(MR-88M)がAM/FMチューナーを内蔵したステレオラジオ(MR-88T )にドッキングするというものでとても洒落ている。(世の中超合金ロボットの合体ブームだったか?)そして型番のほかの呼び名は「飛び出せテレコ88」というもので「飛び出せ青春」の村野先生が持っていて「青い三角定規」でも流れていればピッタリだ。(ちょっと調べたら「飛び出せ青春」は1972年放送だったので時代は合わない)
入手したのは欠品はない様子だがとにかく汚い。多分マイクロカセット機のメンテは大変だろうから先にドック部(MR88T)の掃除と整備を行います。ACアダプターは付属しておらず乾電池が各々に2種類必要でドックは単2が4本。
MR-88T
外部から電池ボックスに6Vを給電するとラジオ部は動作する。幸い電池の液漏れはないがほこりが溜まっているので掃除しよう。
選局は糸ダイヤルだが基板上のバリコンとは結合部があり簡単に切り離してメンテができる。隣の写真は原始的な子機との接点でここも曲者か。それ以外の入出力はLINE入力とSP出力がある。切り替えスイッチはないのでSPは同時出力、LINE入力は録音時の子機にダイレクトにということか?モニターはされるのか?子機の内蔵マイクとの関係はどうなっているのだろう。
掃除が完了した。さっさと終わらせた勢いで本丸に攻め込む。
MR-88M
電池は単3x2本 電池ボックスを開けると、、
一番恐れていた液漏れが発生していた。もちろん電池を入れても動かない、、というかREWボタンがへこんだまま元に戻らない状態。心が折れそうになりながら裏蓋を開けると
、、思ったよりも被害が少ないかも、、という期待も虚しく結構侵食されている。基板の固定ネジが全てない、、と思ったら裏蓋と共じめだった。基板上の大きなスライドスイッチを操作する関係でメカニズムと基板はリジットに結合する必要がある。両者のケースへの固定はメカニズム側でされている。
液漏れで困るのはプリント基板の箔の腐食もそうだがハンダ付けしてあるリード線がポロポロ外れること。基板図や回路図はないのでそうなると非常に苦労する。でも眺めていても埒が開かないので掃除と堆積した異物を取り除きつつ分解を進める。
2個あるマイクからのリード線は外しておいた。
メカニズムと基板を一体にネジ2本(ケース側面は除く)でケースからとりはずしてから裏からのネジ1本で両者を分離して夥しいホコリと堆積物を取り除く。写真を多く撮っておいてリード線が外れた時に備える。基本的にワンボード基板だが2個のICは基板の裏に(!)取り付けられている。一見なんとひどい設計か、、と思わせるがICの足はランドマークとなるのでアクセスしやすいところにあることはメンテナンスを行う上で有利なのだと思う。SONY製ICは検索したがわからなかった。電源基板は電池ボックスの下だったが無事だった。
まずREWボタンが戻らないことを解決しなくては、、原因は電解液による浸食だったのだが幸いにもさほど深刻な状況ではなく辛抱強く除去、清掃、注油することで動作するようになった。ゴムベルトはドライブベルトとカウンターベルトの2本だが幸いにも手持ちがあって交換した。いつも問題になるカウンターベルトも大きく分解しなくても交換できる。このベルトは今まで見たことがないほど細いもので多分0.4mm、一方ドライブベルトは1.0mmのとても太いもの。
腐食した端子はカッターなどを駆使して腐食部分を取り除いたがこのまま再使用はムリでどうするか、、。今回も極小紙カップが活躍した。ほとんど同じに見えるが径がわずかに異なるネジが使われていたので各工程ごとの仕分けは大切、ネジ余りも防げる。
外部電源入力には6Vと書いてあるのでなんらかの方法で降圧している。親機のMR-88Tから6Vの電源供給されるかと思ったが3Vで子機の単独使用時に親機と共通のACアダプターを接続するためらしい。外部電源からの3Vを電流をモニターしながら電池ボックスに給電すると
なんとかメカニズムは動作するようになった。ヘッドホンでモニターすると再生、REW/FF時にアンプ部は動いている。幸いリード線の脱離は数カ所だったが再度ハンダ付けする時は清掃を念入りに行いリード線もしっかり被覆を剥いて行うがそれでも結構困難でやはり電池の液漏れ被害は深刻なトラブル。また一時的に外したパーツを再度セットする時はリード線の取り回しをしっかり再現しないと組み立て時の最終的な収まりが困難になる場合がある。これも最初の写真が頼りになる。
ほぼ1日かかってここまで辿り着いた。あとは組み立てと動作チェックになるがすんなりとはいかないだろうと思っている。
昨日は録音以外の動作確認を行なっているので今日はなんとか完成させたい。まず腐食している電池ボックスの電極はがんばって磨いたがこの状態でおまけにスプリングも外れていて使えそうもない。そこで他の電池ボックスの端子を移植することにした。今までの金具に穴を開けてハトメのような電極を叩いて取り付けてからスプリングの根本を板金フラックスを用いたハンダ付けで固定した。
マイクの配線の前に仮組みしようとするがうまくいかない。分解したときの手順をすっかり忘れていてすったもんだしているうちに脆くなったワイヤーが次々と外れる。すぐに写真と照合して元に戻す、、の繰り返し。
問題点は沢山噴出した(備忘録)
・録音ボタンが戻らない → メカニズムと基板を接合(ネジ1本)してからケースに収める。取り外す時はメカニズムと基板の一体で行いその後で分離する。2個のマイクはゴム台ごと外せる。
・マイクを認識しない → スライドスイッチ、マイクジャックに接触不良あり。清掃は十分にできず仕方ないので接点復活剤にたよる。
・回転が持続しない → センサー基板からのワイヤーはずれ
予想通り時間はかかったがなんとか完了した。分解組み立ても随分慣れて気軽にできるように(?)なった。
メタルテープ対応 2スピード ボリュームは左右別々(!) 外部電源はACアダプターの6V ドックに入れると親機からの電源(3V)に切り替わる。したがって子機に入っている単3電池が放置される危険があり液漏れに注意が必要。外部電源との切り替えは装着した時に押し込まれるボタンスイッチで行われると思われる。信号回路はIC、ボリューム共に2個使っている事から多分モノラルを2個並べてステレオにしたようなものだと思う。機能は必要十分でヘッドホンで試聴すると意外に走行系統は安定していてモーター音も小さくワウフラッター、S/Nも良好。
早速ドックに入れてみる。ACアダプターは付属しておらず入口は6Vのミニプラグ。ジャンク箱を漁ってみると6VのミニプラグのACアダプターはあったのだが中心がマイナスでプラスとマイナスが逆。余談だがSONY製品でも同じ電圧で逆になっているのがある。分解して内部の接続を逆にしてアダプターの表示も忘れないように変更しておく。
このレトロなACアダプターはトランスが使われていて大きくて重いのに700mWしかとれない。でもぴったりだ。
特にFM/AMラジオの音が良い。スピーカーの口径は多分8cmくらいだがとても明瞭な発声をする。でもパワーICはヒートシンクがないが大丈夫だろうか?マイクロカセットの出音も確認したがもう少し接点のメンテナンスが必要で位置によって途切れることがある。ラジカセレベルならマイクロカセット音源も十分に実用になりそうな音質だった。
ようやく終わってやれやれと思いながらその後しばらくラジオを聴きながら別の作業していた。今夜は雷、大雨警報が出ていてそのせいか時々バリバリ言ってる、、と思っていたがそのうちバリバリノイズだけに(ラジオ局が落雷で停電したと思った)なってしまった。おまけに子機も不調で2台とも同時に故障してしまったらしい。不思議なこともあるものだが落雷で破損したわけではない。(ちなみに我が家は数十年前に玄関のインターホンに落雷したことがある。幸いインターホンが壊れただけでぞれ以外の被害はなかった。そのインターホンは現在玄関チャイムのスイッチとして現役で使用している)
また親機から分解するが
回路図もなく何が原因かさっぱりわからない。一応ノイズは出てるのでAFAMPは無事ではないかと思うがそれも自信がない。電解コンデンサーには6Vかかっている。外部電源を変更したりスピーカーからヘッドホンにしたり、AF信号を入れたりあちこち突いたり叩いたり、、これは親機を舐めてかかったバチが当たったな。。そのうちショートしてワイヤーから発煙したりといよいよヤバい状態になってきた。
今夜はもう諦めて終わろうと一旦片付けてからふともう一度未練がましく通電すると微かだがAM放送を受信している。この状態でモニターしながら再度基板をよく眺めてみる。ICは数個使われていて順番に足を触って反応を見る。すると
LA3361の1,2番に触れた時に突然大音量となりいきなり改善したようだ。このICはSANYO PLL FM Multiplex Demodulator で1番はVcc 2番はMPX IN。ここが原因らしいが見つかったのは当然偶然、なぜAMラジオも不調だったのか?外部の電源モニターでは過電流は流れていなかった。その後も突いたりひっぱたりしても特に問題は発生していない。このICは交換が必要になっても入手は容易なようだ。偶然に助けられて情けない話だがとにかく良かったと思いたい。
燃えたワイヤーを交換してまた組み立てたが残念ながら完調ではない。まずAMの音が小さい。そしてFMのステレオは不安定でスイッチを入れ直して表示が点灯してもすぐにモノラルになってしまいやはりIC素子が問題か。動作してしばらくしてからの発症なので電解コンデンサーのパンクなども考えられる(特に子機)が一応出音しているので解決を先送りにします。
その後やはり気になってもう一度基板を取り出してできるだけチェックしてみました。電解コンデンサーは数個使われているが特にパワーIC LA4190周辺に集中している。
小出力のステレオアンプで出力にも大きな電解コンデンサーが入っている。ヒートシンクはないがプリント基板に放熱する程度の発熱らしい。ガリガリの原因が終段ではないことを確認するため5,8に信号を入れてみるとスピーカーから正常出力した。ICおよび周辺の電解コンデンサーは無事らしい。
次にPLL IC LA3361
電圧は4V台かかっている。LRの出力は4,5からでここにAF信号を入れると正常出力する。やはりこの段以前に問題がありそう。
再組み立てするとしばらくは調子良く受信するが次第にノイズ混じりになるなど若干不安定。またstereo受信が安定しない(強制的に切り替えてもすぐにモノラルになる)。一応受信しているが念のためにLA3361は交換することにして発注し早速交換してみる。
結果は全く変わりません。stereoの表示、切り替えは不調のままで予想は外れました。
AM/FMの切り替えスイッチが接触が悪そうでうまく働かない。6Pのスライドスイッチを基板から外してメンテしてみる。
接点を掃除して再度組み立てて装着するもやはり芳しくなくこちらも失敗したようだ。おまけにAM放送の感度が悪くなってしまった。なかなかうまくいかない、、というか無手勝流にも限界がある。
AM受信がますますおかしい。感度低下もそうだが周波数表示と全く異なる放送局を受信している。同調回路特にアンテナ付近をチェックしてみると
バーアンテナの巻線の導通が1ヶ所無い。4端子あり取り外してみると確かに巻線の導通がなくどこかで断線したらしい。被覆を破らないと断線部位を調べることはできない。大阪のRM社のS氏がスピーカーのボイスコイルの断線部位を調べる時にカッターの刃を当てていたのを思い出して慎重に当てて部位を特定し芯線をほぐしたワイヤーを介して新製した端子にハンダ付けした。接着剤でワイヤーが動かないように養生した。
ようやくこれでAM/FM共に良好に受信できるようになった。ステレオから外れやすいのは半固定抵抗など何か調節代があるのかもしれないし単に電波が弱いのかもしれない。わかったら対応することにします。
一旦稼働したのにまた不調になった子機だが
現在の状況は(以下備忘録)
・REW/FFは動作する。両スピード切り替えるとREW/FFのスピードも大きく変化する。その際再生アンプは動作していて音声は出力される。
・何もしない状態(電池を入れたり電源を接続しただけで)7mA程度電流が流れてアンプとモーターが起動している。パイロットランプがつかないほどの低い電圧と思われる。
・録音ボタンを押すとアンプは動いてマイクモニター、録音もする。最初は1.2cm/sのみだったが次第に2.4cm/sでも動作するようになった。pauseも効く。
・再生することもある。ただし1.2cm/sのみ 2.4cm/sは走行しない。
・再生時にpauseが効かない
・次第に再生時に2.4cm/sも動作するようになってきた。いつもではない。
状況が刻々変化する。一応録音はできるようなので親機にセットしてFM放送を2.4cm/sで録音してみる。再生はできないので他のテレコで確認すると録音されている。
何とか動くようになった2.4cm/sで録音再生してみると録音はされているが電源と思われるノイズがいっぱい。他のレコーダーでも確認した。
1.2cm/sで録音再生しようとしたが両スピードともモーター不動、パイロットランプの不点灯になり状態は悪化した。しばらく時間を置くとわずかに復旧する。
メンテナンス後にしばらくは普通に稼働していたわけでなぜトラブルが発生したか?数十年ぶりの通電で何が起こっただろう?
親機にセットした時は電源は親機からに切り替わる。再生ボタンを押さないのにわずかに動くということは物理スイッチの接点はどこにあるのだろうか。子機を乾電池駆動にしても同様の状態。
現在1.2cm/s、2.4cm/sともに録音はできているが2.4cm/sは何らかの問題があって走行が安定していない。1.2cm/sは録音、再生はできている。1.2cm/sの音質はやはり厳しくてこのモードで音楽に浸るのは困難。本体共に動作しているうちに安定傾向に向かっているようなので放送を受信しつつ時々録音してみよう。しばらく聴き込んでみます。