Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

魅惑の真空管アンプ(浅野 勇著) について

2022-10-27 20:23:36 | オーディオ

 小学5年生頃から親に頼んで「子供の科学」を定期購読していたのだが中学生になるとまたねだって「初歩のラジオ」に格上げしてもらった。毎月掲載される実体配線図付きの記事に見入ったり最後のページには科学教材社のキットが沢山掲載されていてそれらを眺めながら夢が広がっていた。受信機でもアンプでも何でもいいから作ってみたかったが叶わず毎月の小遣いを使わずに貯めてお年玉を足せば何とかなるかもしれない、、などという皮算用を繰り返していた。

 1972年に誠文堂新光社から出版された書籍「魅惑の真空管アンプ その歴史・設計・製作(無線と実験別冊/浅野 勇 監修)」は初歩のラジオの誌面でも度々宣伝されていた。中学生だった自分が少ない小遣いをはたいてなぜこの本を買おうと思ったかはよく覚えていないがちょっと背伸びしてマニアのふりを、、ということだと思う。しかし購入して中身を眺めても基礎知識がないため全く理解できない。実体配線図もない。高い買い物だったのにこれは失敗したか、、と思ったがカラーページに掲載されていたアンプの姿に目が釘付けとなった。そして内部の配線の写真にうっとりして思ったのは「今まで見てきたアンプの写真と全然違う」。これはどういうことか?これがいわゆる本物なのか?

 あれから半世紀が経過しその間著者の浅野勇さんは1981年に逝去された。「魅惑の真空管アンプ」はボロボロになったがいまだに手元にあって時に開くこともある。今まで自慢できるほどの台数を製作したわけではないが頭のどこかにはこの本に掲載されているようなアンプに近づけたいという思いは常にあったと思う。今回縁があって書籍に掲載されていたアンプが2台拙宅にお嫁入りした。まさかこんな日が来るとは!(当たり前に)当時は考えもしなかった。

 1976年に「続 魅惑の真空管アンプ」、2004年に完結編と称して1975年〜1979年まで無線と実験に掲載された氏の製作記事が発刊された。また前2冊は絶版となったがのちに復刻版が発売された。

 

1  PX4 シングル・ステレオ・コンパクト・アンプ

 

  氏の記事はモノラルアンプが圧倒的に多いのだがこれはめずらしくステレオアンプで気に入って常用されていたらしい。とてもコンパクトで部品配置も絶妙で間伸びしたところが全くない。背の高い部品は放熱を兼ねてサブシャーシを用いて低く沈めて配置して周囲と調和させているのはQAUD Ⅱ と同じ。協会2号色に美しく塗装されたフード付きシャーシは今は無き鈴蘭堂の特注品。当時の鈴蘭堂や平田トランスは特注品を受付けていてさすがにプロの仕事はアマチュアではなかなか真似できない素晴らしいもの。氏のアンプの特徴の一つにシャーシの高さが低い事が挙げられるが同様の製品は市販の既製シャーシには見当たらずなんとか再現できないかとアルミサッシを加工して工夫したこともある。配線は太いビニール被覆のワイヤーをねじっている。また細かく堅牢にレーシングされていてその枝ぶりはあたかも盆栽を彷彿させて味わい深い。このあたりがとても独特で米国製アンプや欧州製アンプと全く違う和の雰囲気や氏のお人柄まで感じさせる気がする。半田クズは捨てないで集めて溶かして再使用し大きなハンダゴテでペーストをたっぷり使ってハンダ付けがうまくいくと「ザマみやがれ!」などと独り言をいいながら正座して作業していたという逸話を思い出します。

   

 フラゴンを繋いで早速試聴してみると一応音は出るがブロック電解コンデンサーから電解液が滴り落ちている。この大きなコンデンサーはニッケミの20μF450v x 4 で接続されている配線も混雑している。適当な代替え品も見当たらずこれは困ったことになった。部品増設はもっての外だし部品交換で外観、内部の様子が変わるのは極力避けたい。そこでビンテージアンプ再生の常套手段、ブロック電解コンデンサーの中身を取り出して現代のコンデンサーを収めることにした。

     

 慎重に取り出したコンデンサーの根本をダイヤモンドカッターで切り離してオーブンで加熱して内部を取り出す。切り口を整えて再度の組立てに備える。今回は同じニッケミの22μF 450Vを4本入れた。端子を床のベーク板にとめているアルミリベットにはハンダ付けできないのでベーク板に1mmの穴を5個あけてリード線を通し表で目立たないようにハンダ付けする。根本部分は少し広がっているので切り離した筒はしっかり固定される。それほど高温にならない位置にはあるが接着剤は熱可塑性のものは避けた方が無難。 

 太いより線は端子の穴に通すのが結構大変だったがB電圧を確認して完了。記事によると出力は4.1W。カップリングコンデンサーはshizukiの黄色いのに替わっているのがやっぱり気になる。数値も異なるようなのでここもいずれ交換することにしてふさわしいコンデンサーを探してみましょう。

 コンデンサーを交換してしばらくするとそれまで気がつかなかったハム音が出ている。スピーカーからではなくアンプ本体からであわててスイッチを切った。しばらくして再度通電するとやはり聞こえてどうも電源トランスからのようだ。気持ちを落ち着けて各電圧を測定するが特に問題はない。整流管を抜いても変わりない(とその時は思った)。スライダックで電圧を下げると少し小さくなるのでトランスがレアショート気味であれば電圧を下げて対応するかそのうちいよいよになったら絶版のトランスを根気良く探すしかないかもしれないと思って暗い気持ちになった。しかし出力管、整流管を抜くと音は治まることを発見しさらに整流管が装着されたときに再発することがわかった。(先ほどはいったい何だったのだろう?)手持ちの5Z3に交換するとハム音は治まりやれやれとなった。コンデンサー交換で整流管を壊してしまったことは間違いない。やはり古いアンプは微妙なバランスで稼働している場合があり何か変更した時はしばらく注意深く観察する必要がある。

 

 

2 2A3 シングル・ロフチン・ホワイト・アンプ

  

 ロフチン・ホワイトアンプについても詳しい歴史、解説と50,2A3の製作記事が載っている。

  

 初段管は2A6だがヒーター回路を変更して75に、整流管は83Vが5Z3になっていたのでまずオリジナルに戻すことにした。

 

 5Z3より83Vの方が背が低くバランスが取れる。ここは傍熱管でないと不具合が生じる。

  

Ipの定格は60mAなのだが50mAしか流れないので2A3を交換してみた。RCAの一般的なものから同じくRCAのスプリング支持に。WESTONのメーターはカッコよろしいです。

 

しかしあまり変わらない。B電圧は10V程度低めなので調整のために入れてある抵抗を調整した方がいいかもしれない。(多分しないけど)

 2003年に製作した2A3シングル・ロフチン・ホワイト・ステレオアンプ。新 忠篤氏の製作記事を参考にしたのだが記事の原点がこのモノラルアンプとのことなので2台はばあばと孫の関係。

 初段管を75から記事通りの2A6にするために手配したら

 

 事前に同意していて送り手には全く問題ないのだが郵便封筒(プチプチ付き)で送ってきてさすがにびっくりした。封筒には「割れ物注意」と書いてあったので郵便配達の方が気を遣ってピンポン手渡ししてくれて感謝。ベース黒が75で茶が2A6。電極の形は異なるがほぼ同形状。

75のためにヒーター配線はドロップ抵抗はキャンセルされていたが回路図通りに戻した。2A6のヒーターは2.5V点灯。

  

 2A3のIpも5mAほど多くなって定格の60mAに近づいた。

 

 氏のアンプは懐かしい「ダイモ」のラベルが貼ってある。これにも憧れて入手したが実際はインレタ(インスタントレタリング)しか使わなかった。当時は色々な種類のインレタが入手できたが長期保存ができない(転写がしずらくなる)製品で廃業間近のパーツ屋さんから売れ残りをまとめて引き取ったことがある。今ではフォントも自在なのでコンピュータで透明シールにプリントすることが多いと思うがこの「ダイモラベル」も昭和の風情を感じる。半世紀以上経っているのに全く劣化や剥がれていないのにも感心する。

 使われているネジが美しい。低頭のマイナスネジなのだが非常に丁寧に製作されていてこんなネジはなかなかお目にかかれない。ひょっとすると特注だったのかもしれないがカッコ良いネジを見つけると嬉しくなってしまう。ナット回しを用いてしっかりと締め込んだであろう鉄ネジが機器の信頼性を高めているような気がした。またどのアンプの電源スイッチもカッコよろしい。レバーの先がボール状のトグルスイッチはかつての寝台車の枕元にあるスポット照明のスイッチとして使われていた。気に入ったスイッチが無い時は市販のスイッチのレバーを短く切って改造した。ネジも電源スイッチも使う予定もないのに今でも出物を見つけた時はつい入手してしまうことがある。アンプの顔を構成する最重要なパーツだと思っています。

 

 

 

 

 

お読みいただきありがとうございました。

 

 追記1

 ジョーダンワッツのフラゴンは結構難しいスピーカーだと思っていて今回久しぶりに聴いたがやはり同じ印象を持った。小口径のメタルコーンだが元気の良さは皆無で反対に暗く沈む音。小出力のアンプでは全くうまくいかず「霧に咽ぶロンドン」みたいになってしまう。直熱3極管アンプとの相性は悪いと感じます。以前もMarantz #5でようやくまともに鳴り出した記憶があります。

 フラゴンからWE755Aに替えて2A3ロフチン・ホワイトを繋いでみた。普通に鳴りますがちょっと薄味か? 片chだけど。実はWE755Aも少し難しいスピーカーだと思っている。

 しばらく聴いていたら耳が慣れたせいかとても感じ良くなった。音が軽々と広がっていく、低域は不足しているがそれ以外の情報量が多く音が混濁しない、聴き疲れせずにいつまでも浸っていたい音。

 2A3からPX4に交代してWE755Aをステレオで聴いてみる。

         Red Rose Speedway/Wings(1973年)

 Wingsとしては2枚目のアルバムでもともとLP2枚組として計画されていたが諸々の事情で1枚となった経過がある。このCDアルバムはシングル曲をもう一枚に集めて2枚組としたもの。My Loveなど有名曲もありBeatles解散後としてはかなりヒットした。しかし当時のRoling Stone誌などのレコード評では「軟弱だ!」みたいな言い方でかなりこき下ろされていた(書庫で翻訳本を探したが見つけられなかった)と思う。Paulのアルバムで一番有名なのはBand on the Runだが私はこのアルバムも好きで今でもたまに聴きます。

 PX4s+WE755Aの音はとても好ましくツィーターの必要は感じない。清潔で可愛らしい若いお嬢さんみたいな音。