Decca Decolaがお嫁入り

やっとこさ入手したDecca Decolaの整備記録

Western Electric WE25B について

2016-08-25 21:20:14 | Western Electric

 WE25Bは米国Western Electric社が1924年に開発し(2年前の1922年にはWE7Aが、2年後の1926年にはWE555が開発された)、同年のWE540AW,WE548AWなどの通称「陣笠」とともに主にモニター用として使われた電源内蔵の単段増幅アンプ。




 電源は105V〜120V 50〜60Hz 出力は0.38Wの超低出力。米国では1920年にラジオ放送がはじまり初期はレシーバー(ヘッドホン)、やがてラッパ型のスピーカーだった。しかしこのラッパ型スピーカーはナローレンジで音楽再生には役不足だったが1924年登場のWE540AWは広帯域でその後普及した電気録音時のモニタースピーカーとなっていく。WE25Bはその専用アンプ。
 実体図付きの回路図を見ると電源は白熱球電灯のソケットから採るようになっていて説明にもそう書かれている。壁面コンセントがまだ普及していなかった時代。(ところで電球外したら真っ暗な部屋だろうに、、どうやってたのだろう? 松下幸之助翁開発の二股ソケットの出番か??)

 WE25はWE25A,WE25B,WE25Cの3種類あり構成は同一だが入出力の規格が異なる。入力トランスに直接信号が入るが入力インピーダンスがWE-227A(20KΩ)、WE-227B(900Ω)、WE-227C(35Ω)2次側はいずれも133kΩで昇圧比はWE-227Aで 1:2.6 。出力トランスはWE25AとWE25BはWE-120Bで4kΩ:4KΩでバランスト・アーマチュア・レシーバー用。WE25CはWE-120Hで4KΩ:8.75〜35Ωでダイナミック・レシーバー用で補聴器として(!)使われた。

 搭載された真空管は2本で整流用と増幅用、いずれもWE205D。このころはWEはまだ整流管が無く、万能管のWE205Dのグリッドとプレートを接続した2極管接続にして流用していた。当然直熱半波整流だが回路図を眺めてみても凡人にはなかなか理解が難しい。プラス側にはチョークコイルWE133A(DCRは739Ω)が入るがマイナス側にも1KΩの板抵抗が入り増幅管フィラメントの中点とともにアースに落ちている。1KΩで発生した26Vによって固定バイアスとしているらしい。これに通称「ウエスタン繋ぎ」も加わってますますこんがらがる。平滑用コンデンサはチョークコイルの前後に1μFが2本づつ合計4μFという極小。半波整流でもありかなりのハムだったと思います。でもスピーカーが60Hzまでは再生できないナローレンジだったので実用になった。

 収められた筐体は何と日本の灯篭(!)型という衝撃的なモノ。「陣笠」のベース部分も同様だし、その後のトーキー用アンプも真っ黒に塗られていて「ジャパンブラック」と言われていたことなどから太平洋戦争以前の米国は日本に対する一種の憧れがあったのかも知れない。これらが当時の家庭に設置されている写真は見たことがありません。「陣笠」はデパートや駅のPAとして使われた事もあり写真は見た記憶があります。一説によると東京駅にもあったとか。

 使用球のWE205DはWE300BとともにWestern Electricを代表する真空管として知られています。1924年開発。


 

 

 

 



 Western Electricは第一次世界大戦(!)ころの1916年から1917年に米国軍用真空管番号「VT」のはじめての球としてVT1(受信用)、VT2(送信用)を開発した。VT2は結合型酸化フィラメントを採用していて電子放出能力が高かったが電圧を調節してなるべく低温で動作させた方が長寿命だったので劣化に伴って電圧を上げていくという使い方がされた。直系のWE205Dも初期はそのような使い方がされた(岡田 章氏)


 その後フィラメントの材質と形状、ゲッターなどの改良が絶え間なく行われた。初期球の場合はフィラメント電圧を4V程度に抑えてスタートし、劣化に伴い徐々に電圧を上げていくがフィラメント電流が1.6Aを超えないようようにまた実効プレート電圧は250Vを超えないようにすべき、とある。VT2のフィラメント電圧についてはいろいろな説がありましたがこの文章に集約されているように思います。

 VT2




 メタルベース、ノーゲッター  丁寧に作られています。


 WE250Dと兄弟球でWE205Eというのがあります。



 殆どWE205Dと一緒のようですがソケットとの接点が特別なのでしょうか、ローノイズ仕様で低周波用途専用。

 またWE205FはST型で幅広いフィラメントを採用しまた途中で酸化膜の改良があった。
 

  おむすびマイカを長方形マイカで押さえています。



 WE205Dは各国でライセンス生産されていて英国のSTC、日本でもNECが生産していました。足の形状が異なるなど全く同一ではなかったようです。

 STC-4205D


 こちらはSTC-4205Dかと思っていましたがオーストラリアのパテントNoが書かれてありますのでオーストラリアSTC製と思われます。
 
 同じSTCなので2つはよく似ています。Western Electricとはグリッドとそれを支えるステーの形状が異なります。またSTCはゲッターないのでこのWE製と比べて古いものらしい。

 向かって左はVT2、右はSTC-4205Dで両者の電極構造もよく似ています。








 WE205Dシングルを搭載したアンプは結構多いです。「8A/B/C」「11A」「タイプA」「タイプD」「17B」「18B」「25B/C」「32A」「33A」「34A」「40A」「45A」「51A」「52A」「79A」

 WE25Bの使用トランスですが
 入力トランス 227A(20KΩ:133KΩ) 0.35mmEIコア70枚重ね、1次4.800T(20kΩ)、2次12.000T(133KΩ) 1次インダクタンスは20H、サンドイッチ巻き

 出力トランス 130B(4KΩ:4KΩ) 1次2.500T 純鉄コア エアーギャップなしでDC30mA重畳可能

 電源トランス 90B REP(リピーティングコイル) TLコア5枚重ねで交互に組み合わせたもの 内部は4セクションに分離した巻線 AC(600Tでノイズカット巻き)、出力管ヒーター(5.0V/1.6A)、整流管ヒーター(5.0V/1.6A)、B巻線(390V/30mA)の横並びタイプ (いずれも林 明彦氏)

 
 WE25B  真空管はWE205Fが刺さっています。

 

 

 

 

 


 この個体は電解コンデンサーと入力トランスに謎の抵抗が入っている。