金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(呂布)320

2014-03-13 21:37:33 | Weblog
 呂布は無遠慮な視線に晒されることには慣れていた。
金髪碧眼の偉丈夫が珍しいだけのこと。
奴等に他意はない。
向きになるほど幼くはない。
無表情で六人に相対した。
 比べて六人は緊張していた。
心積もりは分からないが、明らかに表情が硬い。
相手が臆するでもなく、威嚇で返すでもないので、
戸惑いが生じたのか、居心地悪そうに互いに顔を見合わせた。
 重い空気に気付いた田澪が相手方の名を呼び、用件を問う。
すると意外な答え。
「借りていた金の返済に来た」のだという。
 先方は啄昭がいるにも関わらず、田澪を相手に返済交渉を開始した。
奴隷上がりの家宰であるため、軽く見ているのか、露骨に無視をした。
それに呂布がカチンときた。
どうにも気に食わない。
肝心の啄昭はと見ると、当人は、「しかたない」と諦めている節があった。
ムカッとしている呂布に田澪が目配せをした。
彼女が何を言いたいのかは分かる。
 呂布は声を荒げた。
「返す相手を間違えていないか。当家の家宰は啄昭殿だ」
 仁王立ちで威嚇した。
これに返済客の背筋が震えた。
何も言い返さず、渋々と従う。
 その日のうちの返済客が三組あった。
田獲家の騒ぎが知れ渡るにしては早過ぎる。
怪訝に思った呂布は田澪に疑いをぶつけた。
「何か仕掛けたのか」
 田澪が表情を緩めた。
「借りてる者達の耳に直に届くように人を使ったのよ。
鬼のような呂布に殴り込まれるってね。
効果があったみたいね」
 田獲の母屋の案内をしてくれた男といい、
事前に、きめ細かい手配りをしてくれていたに違いない。
 翌日も返済客が次々と訪れた。
啄昭が家宰として応対し、呂布と田澪は立ち会い人。
いずれの客も呂布に目を丸くし、頷きながら、渋々と返済して帰って行く。
 この屋敷には五人の女中がいた。
何れも奴隷上がりで、自由の身になったというのに、
行く当てが無いために屋敷の勤めを続けていた。
その中の二人が買い物のついでに噂を仕入れてきた。
呂布の噂だ。
「鬼のような金髪碧眼の男が、田獲の屋敷に乗り込み、
屋敷の者達を千切っては投げ、千切っては投げ。
屋敷の奥に隠れていた当主を引き摺って、表に放り出したそうだ」
 無責任な噂ほど人は面白がるもの。
瞬く間に長安中に広がったに違いない。
 結局、返済の受領は五日がかりの仕事になった。
その間、主人の田睦は一度も顔出ししていない。
彼はずっと畑仕事に精出していた。
何かに取り憑かれたかのような働きぶり。
だからといって誰も止めない。
「飽きるまで好きにさせよう」と、みんなの意見は一致していた。
 困ったのは蔵に貯まった金。
今は呂布がいるので、押し入る賊はいないだろう。
が、問題は呂布がいなくなってから。
呂布は、ここにずっと滞在する分けではないのだ。
それで、みんな頭を抱えた。
この屋敷には田睦、啄昭以外の男は二人しかいない。
何れも奴隷上がりで、女達同様に行く当てがないので、この屋敷の勤めを続けていた。
そんな彼等は賊に対処出来るような武芸とは無縁の者。
屋敷の防備はないも同然。
貧乏な頃なら問題にならなかったが、このように蔵に金が積み上がると、
賊に備える必要がある。
「武人を雇おうか」と話しになった。
 そういう嬉しい悩みに呂布は付き合い気はない。
いずれここを離れる身。
当事者の家宰に任せるのが一番だろう。
それよりも問題は、自分の家族捜し。
取り立てで日延べしていたが、これで明日から気兼ねなく聞き込みに回れる。
「まずは市場から」と予定した。
 それが脆くも崩れた。
寝ようとしたところに、「田澪様が襲われました」との知らせ。
知らせに来たのは、田獲家での取り立ての際に母屋を案内してくれた男。
野次馬に紛れていた田澪の配下だ。
田睦家の者達に気付かれぬように屋敷に忍び入り、呂布の部屋を密かに訪った。
そして、「田睦家からの帰路を襲撃された」と言う。


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