俺と女の視線が絡み合った。
俺は驚きと戸惑いを覚えた。
夢に見たお嬢様、その人であった。
溺れた筈ではなかったのか。
当の女は訝しげな目色。
俺を見たが、見覚えがないとばかりに、視線を磯野に転じた。
双眼を細めて磯野を睨む。
威嚇するも、直ぐに興味を失う。
そっぽを向いて盃を口に運ぶ。
後ろから磯野が説明した。
「お主の夢では、二人して橋から身を投げた、で終わっているが、
実際はそうではない。続きがある。
お嬢様を助けるべく、家臣二人も後を追って飛び込んだ。
そして、お主を引き剥がし、お嬢様だけを助けて川から引き上げた。
そういう事だ」
俺は見捨てられた。
それはそうだろう。
溺れた一人を助けるには、二人では足りないくらいだ。
それが溺れていたのが二人ともなると、優先順位からしてお嬢様は当然の選択。
俺を見捨てても非難する者はいない。
俺は磯野を振り返った。
「お嬢様は俺を覚えていないようですが、・・・。
もしかして、お嬢様も」
「そうではない。
変なのだ。
溺れて瀕死であったのが、一夜明けたら別人と言ってもいいくらいに、変わられた。
ほとんど喋られぬ。
かわりに怒りっぽくなられ、手足が出るようになった。
何が気に食わないのか、殴る蹴る、時には投げ飛ばされることもあって、
幾人かが怪我を負わされた。
それで酒を与えて、酔わせるようにしている。
・・・。
そんな困っている時に、溺れていたところを助けられた者の噂を聞いた。
お主以外には考えられなかった。
調べさせると、やはり、お主であった。
それで藁にも縋る思いで、お主を招いた。
お主の顔を見て、お嬢様が元に戻るかも知れぬと考えたのだ」
「駄目みたいですね」
「そうだな。考えが甘かった。どうしたものか」磯野が天を仰いだ。
「酒を与えるだけでは病がますます悪くなると思います。
酒を取り上げて別の手立てを考えてみませんか」
と、盃が飛んで来た。
俺の肩に当たった。
お嬢様だ。
何やら怒っていた。
「酒を取り上げる」という発言が聞こえ、心証を害した様子のかも知れない。
立ち上がって、こちらに歩み寄って来た。
酔いが回ったかのような、ふらつく足取り。
ところが意外な動き。
俺の油断を見澄まし、スッと間合いを詰めて来た。
そして蹴り一閃。
鮮やかに俺の両足を払った。
俺は受け身一つ取れず、赤子のように転がされた。
慌てて立ち上がろうとするところを、お嬢様が容赦なく襲って来た。
片足を高々と上げ、踵で俺の顔面を踏み潰そうとした。
俺は反射的に防御した。
仰向けのまま両腕を上げ、十字に交差させて踏みつぶしに来る踵を受けた。
ガシッ。女子にしては強烈な圧。
腕がへし折られるかと思った。
俺は下から、お嬢様を見上げた。
眩しい白い下腿。
お嬢様は裾の乱れより、俺を踏み潰すことを優先していた。
ぐいぐいと圧してきた。
その乱れた裾から大腿が露わになった。
足の付け根、股間がしっかり見えた。
・・・。
俺は我が目を疑った。
思考能力を失い、頭が真っ白になった。
両腕から力が抜けた。
大きな声が発せられた。
「方々、お出合いなされ」磯野の叫び。
一斉にガタガタ、ビシャピシャ。あちこちの部屋の障子、襖が次々に開けられる音。
どうやらこの事あるを予想し、待機していたらしい。
ドタドタと大勢の駆ける足音。
この部屋に駆け込んで来たのは士分だけではなかった。
女中達もいた。
お嬢様を遠巻きに包囲した。
お嬢様の切り替えは早かった。
俺から離れると後退して間合いを取った。
自分を取り押さえようとする者達を見回した。
妖気を漂わせる目色。
双眼を細めて冷笑を浮かべた。
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俺は驚きと戸惑いを覚えた。
夢に見たお嬢様、その人であった。
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双眼を細めて磯野を睨む。
威嚇するも、直ぐに興味を失う。
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後ろから磯野が説明した。
「お主の夢では、二人して橋から身を投げた、で終わっているが、
実際はそうではない。続きがある。
お嬢様を助けるべく、家臣二人も後を追って飛び込んだ。
そして、お主を引き剥がし、お嬢様だけを助けて川から引き上げた。
そういう事だ」
俺は見捨てられた。
それはそうだろう。
溺れた一人を助けるには、二人では足りないくらいだ。
それが溺れていたのが二人ともなると、優先順位からしてお嬢様は当然の選択。
俺を見捨てても非難する者はいない。
俺は磯野を振り返った。
「お嬢様は俺を覚えていないようですが、・・・。
もしかして、お嬢様も」
「そうではない。
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かわりに怒りっぽくなられ、手足が出るようになった。
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と、盃が飛んで来た。
俺の肩に当たった。
お嬢様だ。
何やら怒っていた。
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立ち上がって、こちらに歩み寄って来た。
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片足を高々と上げ、踵で俺の顔面を踏み潰そうとした。
俺は反射的に防御した。
仰向けのまま両腕を上げ、十字に交差させて踏みつぶしに来る踵を受けた。
ガシッ。女子にしては強烈な圧。
腕がへし折られるかと思った。
俺は下から、お嬢様を見上げた。
眩しい白い下腿。
お嬢様は裾の乱れより、俺を踏み潰すことを優先していた。
ぐいぐいと圧してきた。
その乱れた裾から大腿が露わになった。
足の付け根、股間がしっかり見えた。
・・・。
俺は我が目を疑った。
思考能力を失い、頭が真っ白になった。
両腕から力が抜けた。
大きな声が発せられた。
「方々、お出合いなされ」磯野の叫び。
一斉にガタガタ、ビシャピシャ。あちこちの部屋の障子、襖が次々に開けられる音。
どうやらこの事あるを予想し、待機していたらしい。
ドタドタと大勢の駆ける足音。
この部屋に駆け込んで来たのは士分だけではなかった。
女中達もいた。
お嬢様を遠巻きに包囲した。
お嬢様の切り替えは早かった。
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