金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(アリス)109

2019-05-26 06:45:39 | Weblog
 悲鳴が聞こえた方向を見ると絶望でしかなかった。
薬草採取をしている此処とは環境が大きく異なっていた。
河川の養分を吸い上げた雑草が万遍なく生い茂り、
さらには雑木林も点在、視界を完全に妨げていたからだ。
竹の育ち具合とか、蔦葛の絡まり具合からすると、
ここ何十年も人の手が入ってない、と分かった。
 俺は探知君の精度を度外視して範囲を広げた。
それで見つけた。二種の色の点滅。
数は不明だが、人と魔物が重複していた。
つまり戦っているのだろう。
 俺達は見守り警護の大人達を加えたので心強い。
でも問題が・・・、誰が・・・、指揮を執る。
さりとて話し合う時間はない。
危機は目と鼻の先にあるのだ。
時間を浪費するつもりはない。
俺はさも当然のように魔法使いの一人に指示した。
 シビルにだ。
「土魔法の出番だよ。
周辺の雑草を掘り返して、見通しを良くして。
ただし、この周辺の魔物を刺激したら危ないから、そこは慎重にね」
 シンシアが振り返った。
「私は・・・」
「水魔法の出番は魔物が現れてからだよ」
 火魔法のルースは出番がない、と分かっているのか、
何も言わずにマジックアイテムから弓を取り出した。
もう一人の大人、シェリル付きの守り役兼任女武者、
ボニーも無言でマジックアイテムから槍を取り出した。
信頼の証しか、大人達から文句は出ない。
 シビルが魔法使いの杖を導体として詠唱を開始した。
手慣れているのか瞬く間に発動した。
周囲の土を無造作に掘り返して雑草を埋め込み、視界を広げて行く。
 シェリルが疑問を口にした。
「助けに行かないの」
「そうだよ、行かないよ。
まず正確な状況が分かっていない」
「あれは悲鳴よ、助けが必要だわ」
「それだけで助けに向かうのは無謀だよ。
良く見てごらん。
大人よりも丈の高い雑草が全面に生い茂っているだろう。
あれを掻き分けて進むのは無茶だよ。
獣道もあるけど、あれに入るのもお勧めしない。
下手すると魔物の群のど真ん中に突っ込むかも知れない。
はっきり言って、ここで様子見するしかない」
「助けたい」
 シェリル付きのボニーが口を挟んだ。
「姫様、ご無理を申されますな。
ここに居るのは女子供だけです。
見捨てずに、ここで待ち受けしているだけでも、たいしたものです」
「待ち受け・・・」首を傾げるシェリル。
 俺は説明した。
「獣道から逃げて来た者は助ける。
俺達に出来るのはそれくらいだ」

 最善なのはサッサと撤退すること。
女子供の安全を最優先しても誰も非難しないだろう。
でも、ここに居る者達がそれを良しとするだろうか。
否。
正義感の強いものばかり。
曖昧な言動をすれば、助けに向かいかねない。
短い付き合いでも、そのくらいは分かる。
そう踏んで先手を取った。
みんなを足止めする為に盾を並べて陣地を構築した。
意味が分かるのか、大人達は何も言わずに従ってくれた。
感謝、感謝。
 にしても、戦っている連中は何者なのだろう・・・。
あのような場所に何があるのだろう・・・。
俺の頭の中に虫が湧いた。
いやいや、疑問が湧いた。
俺は大人達に尋ねた。
「あの辺りには命を懸けるに値するような物があるの・・・」
 ルースが答えた。
「巨椋湖に棲む魔物達の繁殖地が湖周りの湿原にあるそうよ。
そこで産んだ卵を狙ったものじゃないのかな」
「そうそう、そんな話は国軍でも聞いたわ。
卵を乾燥させて細かく粉のように砕き、調剤スキル持ちに持ち込めば、
高額で買い取ってくれるそうよ」とシンシア。
 俺はさらに尋ねた。
「Bランクのフロッグレイドなんてのも居るけど、危なくないの」
「産卵する魔物の大半は産みっぱなしよ。
浅い水辺に産んでお終い。
そういう習性みたい。
もしかするとだけど、百個産んで百個全部が孵って困るのは、
たぶん親世代よね。
餌を巡って親子で争うことになるからね。
その辺りを考慮した神様が、そういう習性にしたんじゃなくって。
そういう分けで基本、卵は産み捨てよ」とルース。
「魔物の世界も世知辛いんだね」
 俺の言い草に大人達が笑った。
 
 シェリルが別の疑問を口にした。
「あそこの獣道は人が通った形跡がないわ。
だとしたら、あの人達はどこから回ったの。
そんなに道があるの」
 ボニーが首を傾けながら答えた。
「もしかしてですけど、近くの川を下る小舟を何艘か見ましたわ。
乗ってるのは、みんな冒険者のような風体だったの。それかしら」
 シンシアが手を打った。
「そうよ、それよ、私も見かけたわ。
獣道を通らずに済むし、採取した卵を運ぶのにも楽だわ」

 精度大雑把な探知君に変化が生じた。
重なっていた二つの点滅の一方が二つに割れた。
緑色の点滅だから人間側だろう。
人数は不明なままだが、逃走に転じた。
こちらに向かって来た。
途中に船着き場でもあるのだろうか。
 彼等は蛇行しながら逃げていた。
おそらく手近に見つけた獣道を辿っているのだろう。
 魔物の点滅も二つに分かれた。
一つが逃走する連中を追跡して来た。
 俺は探知君を元に戻した。
範囲は限られるが精度は高い。
それで状況を確認すると最悪だった。
逃げる連中が辿る獣道が此方に通じていたのだ。
 俺はみんなに知らせた。
「一部の者達が此方に逃げて来る。
獣道だ。人数は五人前後。
それを魔物が追って来る。
数は十匹ほど」
 みんなの顔に緊張が走った。
事前に予想していたとは言え、最悪の展開なのだ。
緊張しない方が、おかしい。
 俺は正直に告げた。
「こちらの周りにも魔物がいるが、数は僕達の方が多いので、
これまで奴等は手出しして来なかった。
でも状況が変わった。
馬鹿頭が居れば、何の考えもなしに突っ込んで来る。
そこを理解して備えて欲しい」
 キャロルが俺に言う。
「でも何とかなるんでしょう、ダン」
「当然。こちらは元軍人が中心だ」
 引き取ったのはシンシア。
「任せなさい。
私が正面で水魔法をぶっ放すわ。
シビルは左警戒。あっ、MP回復ポーションを飲むのを忘れないでね。
ルースは右警戒。最悪の場合は火魔法も使って良いわ。
ボニーは後方警戒。槍働きを見させて貰うわ。
子供達は当初は正面だけど、状況によっては変わるわ。
遊軍として走り回って貰うことになるわ。覚悟してね」

昨日今日明日あさって。(アリス)108

2019-05-19 07:25:32 | Weblog
 隣のテーブルのシンシアが口を開いた。
「安心なさい。
北域諸国からの侵攻はないわ。
兵站が長くなるから難しいのよ。
・・・。
北方山地の異変の多くは魔物が原因ね。
一つの種が減少したか、あるいは増えたか、
もしくは餌が関係しているか、それで縄張りが大きく変化するの。
今回の騒ぎもその辺りじゃないかしら」
「何かあるにしても、ここ山城は大丈夫よ。
丹後、若狭、越前が前面の盾、丹波と近江が左右の盾。
魔物の群に不意打ちを喰らうことはないわ」とシビル。
「ベテランの冒険者が心配してるのは稼ぎね。
北方山地の雲行きが怪しくなれば、
北域諸国へ向かうキャラバンの護衛仕事が減るでしょう。
それに北方山地特有の素材も採れなくなるしね」とはルース。
 シンシア、シビル、ルースの三人は元国軍の士官なので、
その辺りの事情には詳しい。

 やがて大人冒険者達が動き出した。
掲示板前からゾロゾロと受付カウンターへ移動して行く。
それぞれ思うことは違うようで、顔色は一様ではない。
 俺達は空いた掲示板に向かった。
北方山地絡みの張り紙を確認し、次いでギルドからの魔物出没情報。
最後に薬草採取関連。
常時採取依頼と期限付き依頼を読んだ。
 何時もだと俺が掲示板の上の方を読み、下をキャロルが読むのだが、
今朝はちょっと変化。
シェリルがキャロルを抱きかかえて、上の部分を読ませた。
しようがないので俺は下の方。
「季節物の薬草採取依頼があるわ」とキャロル。
 夏になると幾つかの疫病が流行る。
それらに前以て対処しようと言うのだろう。
「でも多いわね」とシェリル。
 発生してからでは遅いので夏前に薬草を採取し、
治癒ポーションを大量に作り置きするのだ。
「国都には調剤スキル持ちが一杯いるから」とキャロル。
「こっちで余分に作って地方に送るのね。
よし、人の役に立つから、これにしよう」とシェリル。
 マーリンとモニカが同意した。
女児四人で決めた。
まあ、俺に異存はない。
薬草採取には違いない。
俺が代表して受付カウンターに一声かけ、ギルドを出立した。

 それにしてもシェリル・・・。
「プリン・プリン」が有名になったのかどうかは知らないが、
同じ一年生達からの加入申請が増えた。
それを俺がリーダーとして悉く断った。
表向きは、当分は少数精鋭で行く、とした。
 本音は違った。
好奇心旺盛な女児三人の面倒をみるのは大変なのだ。
珍しい花や虫等を見つけると何も告げず、
チョロチョロと歩み寄る、あるいは捕まえる。
ある意味、微笑ましい行動なのだが、場所が場所。
魔物が出没する地域。
これまで何度、冷や汗をかかされたことか。
三人でも負担なのに、これ以上増えるのは面倒臭い。
 ところがシェリルは俺の予想を越えた。
何時の間にか女児三人を懐柔していた。
その上で、三人を伴って加入申請をした。
女児四人のウルウルした瞳、断れる分けがない。
 先頭を行く俺の後ろで女児四人がキャーキャーと五月蠅い。
まあ、多少だが、魔物除けにはなりそう。

 東門は相変わらず人の出入りが多い。
当然、ご同業の冒険者もちらほら。
そんな人混みを抜けて、ようやく外に出た。
途中、街道から南の間道へ逸れた。
そちらの方に今回の薬草の自生地が多いのだ。
琵琶湖と巨椋湖を繋ぐ河川に沿って、少し下った。
 俺達はお揃いのカーキ色のローブ姿。
フードを被っているので、遠目には性別は分からない筈だ。
それでも擦れ違う大人の冒険者達の目は誤魔化せない。
「お嬢ちゃん達、この先は藪が多いから手袋をするんだよ」注意された。
 少し進み、探知君で人気がないのを確認。
獣道の手前の藪の陰に入った。
それぞれがローブを脱ぎ、
マジックアイテムの草臥れたズタ袋から装備品一式を取り出した。
帽子、手袋、胴当て、肘当て、膝当て、長靴。
動き易さから全て革製品。
剣帯には短剣と採取用のナイフ。
 初日のシェリルも草臥れたズタ袋。
そこから取り出すは貴族の子弟用の豪華装備ではなく、
俺達平民に倣った物。
ただ短槍だけは違った。
この一点だけは譲れないらしい。
使い慣れた高級品。

 M字型の複合弓を持つ俺が斥候。
二番手は薬草探索が役目のキャロル。
続いて盾役のマーリン。
槍のモニカ。
最後尾で後方を警戒するのが槍のシェリル。
 俺は探知君だけでなく鑑定君をもフル稼働。安全に気を配った。
見守り警護の大人四人が付かず離れずの距離を保っているのを確認。
と、探知君でシェリルが列を離れたのが分かった。
振り返ると、彼女は槍で雑草を除けながら、一点を目指していた。
 その先には・・・、藪の中で鮮血を思わせる花が咲いていた。
陽射しを浴びて華麗なんだが、
咲き誇る花の陰に喉仏のような物・・・。
食虫植物。
近くを流れる河川で産まれる虫を補食して育っている奴だ。
俺は注意した。
「それの近くには蛇も隠れている事が多い。気を付けて」
 シェリルの足が止まった。
槍を持つ手に力が込められた。
花の周辺を警戒しながら、「私を怖がらせるつもり」と返してきた。
 モニカが俺に代わって言う。
「本当のことよ」
 シェリルは何も言わず、首を竦めながら戻って来た。
 蛇もだが、魔物も。
近辺に魔物が居るのだが、幸いにも此方には接近して来ない。
数的に此方が優位なので迂回して遠回り、避けてくれるで助かった。
 そんな中、キャロルが大人顔負けの仕事振りを発揮した。
目的の薬草を目敏く次々に発見するではないか。
斥候の俺が周囲を警戒をするなかで、女児達が薬草を採取して行く。
勿論、次に繋げるために採り尽くさない。
 午前中でそれぞれが持つ竹籠が一杯になった。
「ランチにしようか」と俺はみんなに提案した。

 ランチが終わった頃だった。遠くから何かが聞こえて来た。
胸騒ぎがして思わず耳を傾けた。
もしかして悲鳴、それも複数の悲鳴・・・。
俺はみんなに警告した。
「警戒して」
 距離がある為、探知君では何も分からない。
でも俺は準備した。
ズタ袋経由で虚空スキルの収納庫から馬止めの盾を取り出した。
裏側の支柱二本を地面に突き刺して馬を阻止するタイプだ。
それを八つ、前面に並べ置いた。
 悲鳴が近付いて来た。
シェリルの耳にも届いたらしい。
「逃げて来るみたいね」
 見守り警護の面々が血相を変えて走り寄って来た。
「私達に任せて」とシンシア。
 その判断はあながち間違いではないだろう。
魔物だけならまだしも、逃げて来る人間が何人かは知らないが、
こちらに混ざるのは、はっきり言って迷惑。
児童には助けながら戦うのは無理筋。
ここは元軍人三人に頼るしかない。

昨日今日明日あさって。(アリス)107

2019-05-12 07:10:40 | Weblog
 脳内モニターのアラーム。
ベットで目を覚ました。
匿う場所を考えながら、寝落ちしてしまったらしい。
 昨夜は良い考えが思い浮かばなかった。
尾張の田舎ならまだしも、国都内で匿うのは無理だろう。
国軍や近衛軍の高位の魔法使いに露見する確率が高い。
となると国都の外になるが、辺りは一帯が魔物の生息域。
小さいながらも飛び回る魔物が居る現状、住み難い。
 頭を抱えながら起き上がった。
今日は学校は休みだから冒険者パーティの日。
遅刻は拙い。
身支度を整えた。
 瞬間、閃いた。
と言うか、すっかり忘れていた。
俺って洞窟に引き籠もるダンジョンマスターじゃん。
ダンジョンが創れるじゃん。
 急いでユニークスキルを開示し、プロパティを読んだ。
何とも読み難い表現の連続ではないか。
二度三度と読み返した。
ふむふむ、ふむふむ、それから、それから、なるほど、なるほど。
読むには読めたけど理解し難い、と分かった。
でも他に手はない。
暗中模索よりは良い。
プロパティを手懸かりに遣ってみるか。

 俺はアリスのベット兼家である繭を探した。
天井から吊り下げているのだが、何時も同じ場所とは限らない。
四隅の何れかの日もあれば、窓際の日や真上の日もあり、
狭い部屋でも場所には事欠かない。
今朝は窓際だった。
 俺はアリスに話し掛けた。
『おはようアリス、起きてるかい』
『・・・眠い、・・・こんな朝早くから、・・・嫌がらせ』寝惚けていた。
『妖精に睡眠は不要じゃなかった』
 妖精には食事や睡眠の習慣はない。
眷属になったことにより、俺に合わせるようになっただけのこと。
食事は今以て嗜好に走り、興味本位で些少を口にするのみ。
ただ、飲酒は別。
よく飲む。
『・・・これはね、・・・休憩と言うものよ』
『匿う場所が見つかったよ』
『・・・えっ、・・・それ本当』
 繭からアリスが飛び出して来た。
寝惚け眼で俺の頭にダイビングした。
『今まで忘れていたけど、
俺のユニークスキルにダンジョンマスターがあった。
それでダンジョンを創ろうと思うんだけど・・・』
 アリスが片手で俺の額をペシッと叩いた。
『何言ってるの、アンタ馬鹿なの』
『馬鹿は否定しないけど、ユニークスキルの話しは本当だよ』
 アリスが両手で俺の額をペシペシ叩いた。
『寝言は寝てから言うものよ。
人間のアンタがダンジョンマスターの分けがないでしょう』
『本当なんだよ。
アリスは鑑定スキルは持ってないの・・・』
『持ってないわよ、悪かったわね』
『持ってたら見てもらえたのにな、残念』
『何が残念よ』拳で俺の頭頂部を叩いた。
 俺は自分のスキルを説明した。
ユニークスキルもだ。
アリスは目をパチクリ見開き、口を大きく開けてモグモグ。
『・・・なに、・・・それ、・・・そんなに。
・・・アンタ、・・・人間じゃなかったの』
『人間だよ。
見たとおりの幼気な子供だよ』
 アリスが真正面に回り込み、俺の鼻を掴んだ。
『幼気かどうかは知らないけど、痛い子供であることは確かね。
考えて見ると、私を眷属に出来るんだもの。
ダンジョンマスターのスキルを持っていても不思議じゃないわね』
『でも問題が一つ・・・』
『なに・・・』俺の鼻を大きく押し広げた。
『フガッ・・・、スキルは持っていても、使った事がないんだ』

 東門の冒険者ギルドは今日も混雑していた。
大人達が押し合い圧し合いで掲示板前を占拠。
受付カウンターにも長い行列。
顔馴染みのギルド職員の女性が俺に片手を上げて、
併設のカフェを指し示した。
 俺は併設のカフェに入った。
すでにパーテイメンバーは顔を揃えていた。
キャロル、マーリン、モニカ。
そこに新顔が一人。
シェリル京極だ。
 まん丸な顔にまん丸な胴回り、それを支える大根足。
そんな見た目と違って根っからの武闘派。
敏捷で腕っ節がとてつもなく強い。
京極侯爵家の長女でニックネームは「鬼シェリル」、
幼年学校三年生で有名人の一人だ。

「お父様が過保護で、組んでる冒険者パーティは屋敷の者ばかり。
魔物が現れると彼等が前に出て戦うの。
魔法使いと弓役が遠距離から攻撃。
それを躱して近付いた魔物は盾役が押し留め、槍役が刺し、
剣士が斬り込む。
私は最後、身動きしなくなった魔物を仕留めるだけ。
大人に守られて詰まらないわ」
 シェリルの話しを聞いて羨ましくなった。
大人と一緒なのでダンジョンに入れるのだ。
そして最後の一撃でランクレベルやスキルレベルが上げられる。
こんな美味しい環境のどこが詰まらないのか。
「パーティメンバーは対等であるべきよ」とシェリル。

 彼女は父親を説き伏せて俺達のパーテイに加わる事になった。
今日がその初日。
出立前から満足感がハンパない事を、
テーブルの上の空になった容器が物語っていた。
焼き肉にスープ、トースト、ゆで卵。
 シェリルが俺に笑顔を向けた。
「ダン、急いで食べるのよ」
 キャロル達も終えていたので急かされる俺。
それでも俺はリーダー。
「慌てない、慌てない。
大人達が出て行かないと掲示板の前が空かないよ」

 隣のテーブルには大人達が顔を揃えていた。
キャロル達の家庭教師三人とシェリルの守り役の女武者だ。
家庭教師達の見守り警護は三ヶ月の契約だったが、
魔物狩りで実入りが良いことから、なし崩しに続行されることになった。
女武者の場合は侯爵家の意向だ。
シェリルの説得に折れた侯爵が付けた条件が、彼女の同行だった。
パーティは組まないが見守り警護、と言うことで妥協点に達したそうだ。

 俺のモーニングが運ばれて来た。
シェリルと同じで焼き肉にスープ、トースト、ゆで卵。
みんなの視線がキツイので早く食べたけど、掲示板の前は空かない。
腕を組み、首を傾げてる者が多い。
受付カウンターの行列は減ってはいたが、そこに急ぐ者もいない。
「何時もに比べると何だか雰囲気が・・・おかしいね」
 キャロルが同意した。
「そうよね。
何時もなら見たら直ぐ受付カウンターと走り出すのに、
何だか今朝のみんなは腰が重そうよ」
 マーリンとモニカも頷いた。
「私が見てくるわ」シェリルが掲示板の方へ向かった。
当然、守り役の女武者も同行した。

 掲示板には依頼だけではなく、出没する魔物の最新情報や、
ギルドからのお知らせ等が張られている。
それを読んだシェリルが戻って来た。
顔色が心なしか悪い。
俺は思わず聞いた。
「悪いお知らせ」
「そうよ。
北方山地は分かるでしょう」
 我が国と北域諸国を隔てる大山岳地帯だ。
九州北部から北海道北部にかけて山々が連なり、
その奥深い懐は自然の要害になっていた。
「分かる、それが」
「開拓村が幾つか全滅したそうよ。
その辺りを管轄する我が国の定期巡回部隊も行方不明」
 受付カウンターに並んでいるのは若い者が多く、
掲示板前に残っているのは冒険者としての経験を積んだ者達。
後者は張り紙一枚から、先行きを考察しているのだろう。

昨日今日明日あさって。(アリス)106

2019-05-05 07:03:44 | Weblog
 俺は相手が喋るのを待った。
苦々しそうな表情のザッカリー。
「正直に答えた後は・・・、俺はどうなる」
「今日は聞くだけだ。
答えてくれれば首輪を外す。
・・・。
嘘だったら、どうするか・・・な」
 頭部を負傷した護衛はと見れば、血を流し過ぎたのか、
身動き一つしない。
このままだと死ぬのかな・・・。
ポーションを掛ければ・・・。
助かるのかな・・・。
手持ちのポーションはあるにはあるが・・・。
助ければ助けたで弊害が出る。
此奴は悪党の一人。
普通に暮らしている者が迷惑する。
 鍛冶スキルを起動した。
死に行く者に首輪は要らないだろう。
魔素に変換した。
 もう一人の護衛。
此方は気絶したまま、
擬態とも思えない。
此方の首輪も魔素に変換した。
でもそれで終わりじゃない。
モデルケースにすることにした。
鍛冶スキルで造り上げる物は上半身を覆う鎧。
亀の甲羅をイメージ。
頭と手足のみを出して、そう、亀人。

 ザッカリーは相手の視線が逸れたので反撃の機を窺った。
武器さえ手にすれば魔法使いの一人や二人、怖れるものではない。
冒険者であった頃は手玉に取っていた。
 従魔は、と見れば視線がぶつかった。
小さな両眼で憎々しげに睨んでいた。
異常な殺気。
こんなのに殺す理由を与えるのは下策でしかない。
 人間の方に目を遣った。
フード付きのローブは見るからに安物。
腰に提げている短剣もそのようだ。
何れも一見すると、露店でも売っているような、ありふれた物。
足が付かぬように意識しているのだとしたら、
裏家業の者、と言う言葉しか思い浮かばない。
 肝心の顔が分からない。
認識阻害のスキルでも掛けているのだろうか。
背格好からすると、見た感じは青年。
ただ全体的に女のようにか細い。
 と・・・、見る間に護衛二人の首輪が消えた。
そして一人の上半身が亀の甲羅のような形状で覆われた。
全く継ぎ目のない脱着不可能な鎧。
五つの穴から頭と手足が出ているだけ。
正しく亀の甲羅の鎧。
 驚きを通り越し、驚愕動転、背筋が凍った。
尋常ではない。
まず首輪の消し方が理解できない。
そして亀の甲羅に似た鎧。
材料が何一つないのに、こんなに簡単に造り出せるとは。
見覚えのある鍛冶スキルでもなければ、
噂に聞いた錬金スキルとも違う。
これは一体何なのだ。
加えて魔法使いの杖も、魔方陣も、呪文も、詠唱も・・・、ない。
完全な無詠唱。
様子を窺うに、まだまだ余力があるらしい。

 俺は顔色が悪化の一途を辿るザッカリーに言葉を掛けた。
「嘘を付いても殺しはしないが、
このような亀の甲羅の鎧をプレゼントさせてもらおう」
「お前達は何者だ」
「質問はこちらがする。いいか」
 自分の立場が分かったのか、渋々頷くザッカリー。
それを見て俺は質問した。
「お前は妖精を売っているだろう。
その数は・・・」
 聞いた瞬間、ザッカリーの視線がアリスに向けられた。
思い出したようだ。
「もしかしてお前、馬車で出荷した妖精か」
 言葉が終わると同時にアリスがバク宙、鮮やかなハレーション。
現れたのは金髪で金色の瞳を持つ三対六枚羽根の妖精。
それで終わりじゃなかった。
飛翔し、ザッカリーの胸元に飛び蹴りを喰らわせた。
一発で床に倒すと、取り敢えず溜飲が下がったのか、
天井付近で待機の姿勢。
 上半身を起こし、胸元を押さえながらザッカリーが口を開いた。
「馬車はどうした」
「安心しろ。
迷惑料として俺が貰った」
「くっ・・・、返せ。俺のもんだ」
「頭に血が上って自分の立場を忘れたのか」
 俺は水魔法、ウォーターボールの小っちゃいのを撃ち込んだ。
額に一発。
頭を冷やす目的で威力を殺したつもりが、
相手を大きく仰け反らせてしまった。
ずぶ濡れのザッカリーを見ながら、俺は念を押した。
「自分の立場を思い出したか」
 ザッカリーが頷いた。
「分かった。
売り先なら俺よりも詳しい奴がいる」それでも足掻く。
「サンチョとクラークか・・・」
 俺の言葉に詰まるザッカリー。
そこで鎌をかける事にした。
「夕べ、この先の倉庫で騒ぎがあったのは知ってるだろう。
奉行所の連中が駆け付けて来た騒ぎだ」
「・・・、知ってる。それが」
「俺達は倉庫にサンチョとクラークを誘い込み、痛めつけて尋問した。
当然、話しは妖精の売り先だ。
魔法を使い過ぎて騒ぎになってしまったが、口は割らせた。
で、確認の為にここに来た。
二人の答えとお前の答えが一致すれば問題はない」
 ザッカリーの目が泳ぐ。
「二人は無事なのか」
「自分より二人の心配か、余裕だな。
無事かどうかは捕まえた奉行所の手当て次第だな。
それより問題はお前が無事にここを切り抜けられるかどうかだ。
さあ、どうする。
お前が協力を拒否するのなら、ここに居る連中、
一人一人を締め上げて吐かせるだけだ」
 ザッカリーの全身から力が抜けた。
完落ちか、半落ちか、どっちだろう。
「分かった」

 ザッカリーに売り先の地図を書かせた。
子爵家一枚。
伯爵家一枚。
 出来上がりが気に食わないのか、
アリスが怒ってザッカリーの頭を引っぱたいた。
「痛ってって、なに済んだよ」
 俺はザッカリーに注意した。
「俺達は他所もんだ。
迷わずに済むように描き直してくれるか。
近所の目立つ建物を入れてくれると助かる」
 アリスを警戒しながら、文句も言わず描き直してくれた。
二件がザッカリーが関わった分だそうだ。
「これで良いか」
「クラークはファミリーの一員じゃないんだろう。
内緒で売っているような事はないのか」
「・・・無いと思う」
「妖精を買っている、と言う噂を聞いた事はないか」
「妖精とか精霊の売買は昔は禁止されていた。
今はそうでもないが、それでも神社や教会にばれると厄介なんだよな。
だから噂は流れてこない。
けどな・・・」
 言いながらザッカリーが急いで一枚書き上げた。
「五年前に亡くなった先代にそんな噂があった」
 侯爵家一枚。
ザッカリーが他人事のように言う。
「馬鹿貴族三家。
当人は馬鹿でも屋敷の警戒は厳しいぞ。
それに屋敷で妖精を飼っているとは限らない。
何れも領地持ちだからな。
それでも取り返すのか」

 俺は鍛冶スキルでザッカリーの首輪と、
亀の甲羅形状の鎧を魔素に変換して、アジトから撤退した。
当然、人目を憚って屋根からだ。
屋根から屋根へ移動している最中、アリスに尋ねられた。
『殺さなくて良かったの』
『俺達は殺し屋じゃないだろう』
『そうだけど・・・。
仲間を直ぐに助けに向かう』
『その前にすることがある。
助けた妖精を匿う場所を見つけてからだ。
何をするにしても段取りを考えないとね』

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