俺は答えを得た。
前世の上陸用舟艇とホバークラフトだ。
馬を乗せられ、動力には風魔法を転用できる。
さっそく砂浜に出て、錬金魔法を起動した。
材質はミスリルを混ぜたセラミック。
船底に重心を置いた全長8メートル、高さ3メートル、
船幅4メートルの上陸用舟艇をイメージ。
バランスを考慮しつつ軽量化を図った。
思ったよりもEP消費量は少なかった。
これに風魔法の術式を施した。
周囲の魔素を取り込み、魔力に変換して風魔法で動かす。
単純にした。
不格好な上陸用舟艇が砂浜に出来上がった。
平らな船首をこちらに向けて鎮座していた。
俺は近付いて手を触れた。
術式に魔力を通し、所有者として認識させ、コーティング。
術式が必要とするMPは50。
さっそく始動させた。
ぐいぐい魔素を取り込んで行く。
船首の渡し板を下ろした。
馬を休ませるには充分な広さだが、床が固すぎる。
そこでチューンナップ。
錬金魔法で乾燥した藁を造りだして敷き詰めた。
指笛で馬を呼び、手綱を引いて舟艇に乗せた。
首筋を撫でて、「少しの辛抱だからな」と言うと納得したように足を崩した。
術式を単純にしたのが功を奏した。
短時間でMPが満タンになった。
さっそく乗り込んで舟艇を動かすことにした。
低速発進。
砂浜から1メートルほど浮き上がった。
風魔法の利点は砂塵が舞い上がらないこと。
痕跡なし。
バランスも良し、そのまま海に乗り出した。
静かに、海面の上を滑るように沖へ向かった。
波の影響を受けないので揺れがない。
加えて風魔法のお陰で無音。
念の為、探知スキルと鑑定スキルにも目を配り、
空や海の魔物からの襲撃を警戒した。
脳内モニターをも分割し、それでアリスを再追跡した。
まだなんの反応もないが、必ず見つけ出す。
アリスは焦りから周辺を広く旋回した。
何度も、何度も。
でも陸地が見つからない。
見えるのは西に傾こうとする太陽だけ。
もうじき日が暮れる。
飛んでいるのは問題ないが、このままでは・・・帰れない。
太陽で思い出した。
来る時、太陽は右側にあった。
だとすると逆に太陽を左側にすれば・・・たぶん戻れる。
アリスは太陽を左に見ながら飛んだ。
心が急いた。
全速力で飛翔した。
しばらく飛んでも、なかなか陸地が見えてこない。
それでも諦めない。
一か八か、賭けた。
かなり飛んでから水平線の向こうに黒い物を見つけた。
分からないが、何かがあるのは確か。
方向を維持した。
徐々に黒が緑に変じ、形を成してきた。
陸地だ。
アリスはホッとしてスピードを緩めた。
間違いはなかった。
安堵した。
陸地を見て、さて、どこに向かう・・・。
新たな疑問。
どこから飛び立ったのだろう。
近くに宿場町があったのは確かだが、名前は覚えていない。
暗くなれば宿場町に灯りが点る。
それを待つか。
不意に魔力の塊に気付いた。
かなり大きい。
それが向かって来ていた。
海中からではなく、陸地方向からこちらに向かって来た。
海面すれすれの低空飛行。
俺は前方にアリスの魔波を感じ取った。
『アリス、アリス、届いているか』
アリスが怒りで応じた。
『おっそい、どうしてこんなに遅いの』
怒られるのは想定していなかった。
『ごめん』思わず謝った。
『何か変な物で飛んでいない』
『船を飛ばしてる』
『船は飛ぶ物なの』
『最近の船は飛ぶみたいだね』
『分かった、直ぐに行くわ』
接近して来るアリスをズームアップした。
妖精よりランク下の者では姿を見ることは適わないが、俺は特別。
なにしろアリスの名付け親、眷属にする者。
その気になれば何時でも見られる。
初めて見る表情をしていた。
整った顔をグッチャグチャにし、大粒の涙をボタボタ零していた。
これでは言葉をどうかけて良いのか分からない。
正視するのを止めた。
勢いを殺さず、胸元に飛び込んで来た。
痛い。
シャツを掴み、ワーワーギャーギャー、誰憚ることなく泣いた。
俺には出来ない感情表現に感心してしまった。
これだけ泣けるなんて羨ましい。
脳筋だなんて馬鹿にして、ごめん。
そっとアリスを両の掌で優しく包んだ。
どのくらい泣いていたのかは分からない。
不意に名前を呼ばれた。
『ダン、ねえダン』
アリスが俺を見上げていた。
さっきまでの泣き顔ではない。
涙の痕跡もない。
いつものアリスだ。
『なんだいアリス』
『この船は錬金魔法で造ったの』
『そうだよ』
『もっと高く飛べないの』
『これは馬専用だから、どうなんだろう。
もっと軽くすれば飛べるかな』
アリスがパッと明るい顔になった。
『こんど造ってよ』
『アリス用かい』
『そうよ』
『俺が造った物よりアリスの方が速く、高く飛べるんじゃないのか』
アリスがさも当然のように言う。
『それはそれ、これはこれ』
『分かった、工夫がついたら造るよ』
俺は舟艇を浜に向けた。
それを見てアリスが疑問を呈した。
『どうしたの、これで尾張に向かわないの』
『急ぐ旅じゃないから、街道を見物しながら進むよ』
『まあ、いいか、好きにしなさい』
浜や周辺に人気がないのを確認して、砂浜に乗り上げた。
船首の渡し板を下ろし、馬の手綱を取った。
馬も状況を読んだのか、素直に立ち上がった。
肌も鼻息も、挙動も異常なし。
馬を砂浜に下ろし、錬金魔法で舟艇を魔素に変換した。
四日市宿場には暗くなる前に着いた。
着いたのは良いが、
泊まる予定ではなかったので厩舎有りの宿屋の当てがない。
そこで門衛にお勧めの宿屋を聞いて、そこに向かった。
厩舎有りで5000ドロンだった。
記帳していると宿屋の者に尋ねられた。
「もしかして桑名宿場から船で熱田宿場へ渡られるのですか」
「はい」
「よければここの港から熱田へ渡りませんか」
思いもかけぬ提案だ。
「えっ、渡れるんですか」
「この夏から熱田向けの回船が始まりました。
始まったばかりなので知名度は有りませんが、歴とした問屋の船ですよ。
船旅が長い分、景色も楽しめますよ」
「料金は」
「馬込みで4000ドロンです」
桑名までの旅程が短縮できるから安い料金だろう。
前世の上陸用舟艇とホバークラフトだ。
馬を乗せられ、動力には風魔法を転用できる。
さっそく砂浜に出て、錬金魔法を起動した。
材質はミスリルを混ぜたセラミック。
船底に重心を置いた全長8メートル、高さ3メートル、
船幅4メートルの上陸用舟艇をイメージ。
バランスを考慮しつつ軽量化を図った。
思ったよりもEP消費量は少なかった。
これに風魔法の術式を施した。
周囲の魔素を取り込み、魔力に変換して風魔法で動かす。
単純にした。
不格好な上陸用舟艇が砂浜に出来上がった。
平らな船首をこちらに向けて鎮座していた。
俺は近付いて手を触れた。
術式に魔力を通し、所有者として認識させ、コーティング。
術式が必要とするMPは50。
さっそく始動させた。
ぐいぐい魔素を取り込んで行く。
船首の渡し板を下ろした。
馬を休ませるには充分な広さだが、床が固すぎる。
そこでチューンナップ。
錬金魔法で乾燥した藁を造りだして敷き詰めた。
指笛で馬を呼び、手綱を引いて舟艇に乗せた。
首筋を撫でて、「少しの辛抱だからな」と言うと納得したように足を崩した。
術式を単純にしたのが功を奏した。
短時間でMPが満タンになった。
さっそく乗り込んで舟艇を動かすことにした。
低速発進。
砂浜から1メートルほど浮き上がった。
風魔法の利点は砂塵が舞い上がらないこと。
痕跡なし。
バランスも良し、そのまま海に乗り出した。
静かに、海面の上を滑るように沖へ向かった。
波の影響を受けないので揺れがない。
加えて風魔法のお陰で無音。
念の為、探知スキルと鑑定スキルにも目を配り、
空や海の魔物からの襲撃を警戒した。
脳内モニターをも分割し、それでアリスを再追跡した。
まだなんの反応もないが、必ず見つけ出す。
アリスは焦りから周辺を広く旋回した。
何度も、何度も。
でも陸地が見つからない。
見えるのは西に傾こうとする太陽だけ。
もうじき日が暮れる。
飛んでいるのは問題ないが、このままでは・・・帰れない。
太陽で思い出した。
来る時、太陽は右側にあった。
だとすると逆に太陽を左側にすれば・・・たぶん戻れる。
アリスは太陽を左に見ながら飛んだ。
心が急いた。
全速力で飛翔した。
しばらく飛んでも、なかなか陸地が見えてこない。
それでも諦めない。
一か八か、賭けた。
かなり飛んでから水平線の向こうに黒い物を見つけた。
分からないが、何かがあるのは確か。
方向を維持した。
徐々に黒が緑に変じ、形を成してきた。
陸地だ。
アリスはホッとしてスピードを緩めた。
間違いはなかった。
安堵した。
陸地を見て、さて、どこに向かう・・・。
新たな疑問。
どこから飛び立ったのだろう。
近くに宿場町があったのは確かだが、名前は覚えていない。
暗くなれば宿場町に灯りが点る。
それを待つか。
不意に魔力の塊に気付いた。
かなり大きい。
それが向かって来ていた。
海中からではなく、陸地方向からこちらに向かって来た。
海面すれすれの低空飛行。
俺は前方にアリスの魔波を感じ取った。
『アリス、アリス、届いているか』
アリスが怒りで応じた。
『おっそい、どうしてこんなに遅いの』
怒られるのは想定していなかった。
『ごめん』思わず謝った。
『何か変な物で飛んでいない』
『船を飛ばしてる』
『船は飛ぶ物なの』
『最近の船は飛ぶみたいだね』
『分かった、直ぐに行くわ』
接近して来るアリスをズームアップした。
妖精よりランク下の者では姿を見ることは適わないが、俺は特別。
なにしろアリスの名付け親、眷属にする者。
その気になれば何時でも見られる。
初めて見る表情をしていた。
整った顔をグッチャグチャにし、大粒の涙をボタボタ零していた。
これでは言葉をどうかけて良いのか分からない。
正視するのを止めた。
勢いを殺さず、胸元に飛び込んで来た。
痛い。
シャツを掴み、ワーワーギャーギャー、誰憚ることなく泣いた。
俺には出来ない感情表現に感心してしまった。
これだけ泣けるなんて羨ましい。
脳筋だなんて馬鹿にして、ごめん。
そっとアリスを両の掌で優しく包んだ。
どのくらい泣いていたのかは分からない。
不意に名前を呼ばれた。
『ダン、ねえダン』
アリスが俺を見上げていた。
さっきまでの泣き顔ではない。
涙の痕跡もない。
いつものアリスだ。
『なんだいアリス』
『この船は錬金魔法で造ったの』
『そうだよ』
『もっと高く飛べないの』
『これは馬専用だから、どうなんだろう。
もっと軽くすれば飛べるかな』
アリスがパッと明るい顔になった。
『こんど造ってよ』
『アリス用かい』
『そうよ』
『俺が造った物よりアリスの方が速く、高く飛べるんじゃないのか』
アリスがさも当然のように言う。
『それはそれ、これはこれ』
『分かった、工夫がついたら造るよ』
俺は舟艇を浜に向けた。
それを見てアリスが疑問を呈した。
『どうしたの、これで尾張に向かわないの』
『急ぐ旅じゃないから、街道を見物しながら進むよ』
『まあ、いいか、好きにしなさい』
浜や周辺に人気がないのを確認して、砂浜に乗り上げた。
船首の渡し板を下ろし、馬の手綱を取った。
馬も状況を読んだのか、素直に立ち上がった。
肌も鼻息も、挙動も異常なし。
馬を砂浜に下ろし、錬金魔法で舟艇を魔素に変換した。
四日市宿場には暗くなる前に着いた。
着いたのは良いが、
泊まる予定ではなかったので厩舎有りの宿屋の当てがない。
そこで門衛にお勧めの宿屋を聞いて、そこに向かった。
厩舎有りで5000ドロンだった。
記帳していると宿屋の者に尋ねられた。
「もしかして桑名宿場から船で熱田宿場へ渡られるのですか」
「はい」
「よければここの港から熱田へ渡りませんか」
思いもかけぬ提案だ。
「えっ、渡れるんですか」
「この夏から熱田向けの回船が始まりました。
始まったばかりなので知名度は有りませんが、歴とした問屋の船ですよ。
船旅が長い分、景色も楽しめますよ」
「料金は」
「馬込みで4000ドロンです」
桑名までの旅程が短縮できるから安い料金だろう。