金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(戸倉村)11

2017-10-29 07:45:00 | Weblog
 魔物の大移動、という疑義が抱かれる問題についての話し合いが、
真剣に続けられた。
集まっている者達が何代も続く貴族や武家であることから、
それぞれが事前に蔵に保管されている古文書の類を読んでいた。
個人的に疑義を抱いていても、
文字として残っているので敢えて無視する者はいなかった。
各家の情報が長テーブルに乗せられ、吟味された。
 記録されている大移動は四回。
間隔は、おおよそだが三百年から五百年。直近のは三百六十六年前。
方向は古くから三河、美濃、飛騨、直近は信濃。
越前の地名がなかった。
すると誰かが、「次は越前の番か」と言うと、
別の者が、「相手は魔物。順番は期待するな」と釘を刺した。
 こちらは喜んで良かった。
数だ。木曽から大移動で出た数は千単位で万がなかった。
「万を越えてなくて安心した」
「大樹海と呼ばれるだけにヘルハウンドより強い魔物が沢山いる。
一つの種が万を越えれば、それらにとっても脅威になる。
野性の勘で事前に喰い殺しているのだろう」
「もしかすると大移動は、他の種から喰い殺されるのを防ぐ為かもな」
「所詮、単体ではDランク。群で連携してもCランク。
上位クラスには敵わないか」
「真相がしわ寄せの大移動とはな。
われら人の種にとっては大迷惑だ」
 大移動の途中の大攻防・大惨事は詳細に描写されていたが、
木曽種が向かった先、最終的な目的地までは記されいなかった。
 奉行が皆を見回した。
「さて、材料は揃った。で、どうする、手はないか」
 冒険者ギルドのマスターが椅子から立ち上がった
「幸い、まだ大移動は開始されていません。
最後の悪足掻きをしてみませんか」皆を見回した。
「手立てがある、と」
「こちらから人を送ってヘルハウンドを間引くのです」
 みんな顔色を変えた。
「兵を送れば他の魔物達も刺激し、大騒動になるだろう」一人が言う。
「下手すれば怒った魔物達が大樹海から出て来るかもしれん」
「そうなれば逆効果だな」
「そうそう」口々に反対された。
 ギルドマスターはめげない。
「出兵ではありません。
ただの時間稼ぎです。
こちらの被害を最小限に抑えるための時間稼ぎです。
少しでも間引いて、大移動の開始を遅らせ、
その間に防御を固めるのです。
何もせずに来るのを待つよりも、ましかと」
 一人が立ち上がった。
「すると兵ではなく、冒険者のパーティを送り込むのか」
「はい、美濃側からだけでなく、各方面のギルドに声をかけて、
優秀なパーティだけを送り込むのです」
 奉行が言う。
「時間稼ぎの討伐依頼か。
良い考えだ。
うちが直に木曽に接している分けではないから、
至急、関係各所と話を詰める必要があるな」
「美濃、三河、飛騨、信濃、越前には使者を」別の者。
「分かっている。最初に被害を受けるのは、うちではないからな」
「うちではないから、金も人も出す必要はないな。
討伐依頼の資金も、討伐パーティの選択も、
あちら様方に任せようではないか」
「金も人も、か・・・。うーむ・・・」
 奉行が口籠もると、伯爵家の執事が立ち上がった。
「口出しするからには、金も人も出さねばなりません。
どうせなら、ついでに主導権を握ってはどうですか。
伯爵家にとっては良い経験になると思うのですが。
・・・。
私は国都の御主人様から非常時の全権を受けています。
今、それを行使します。
至急、行動を開始して下さい」

 木曽大樹海の木曽種ヘルハウンドが大移動する、
という情報が関係各所だけでなく、
世間一般に流布して一年ほどが過ぎた。
幸いにして大移動は、未だ開始されていない。
大樹海に派遣された十数組の腕利きの冒険者パーティが、
美濃から、三河から、信濃から、飛騨から、越前から、そして尾張から、
それぞれの支援を受けて徹底した間引きを行っていたからだ。
毎月、ヘルハウンドの屍の山が築かれた、
だからといって世間一般誰一人として、安穏としてはいない。
冒険者パーティ側もそれ相応の被害を受けていた。
ヘルハウンドの屍の臭いに誘われた他の魔物による襲撃も続出した。
誰もが大移動の開始は間近い、と感じていた。

 満月が戸倉村の頭上にあり、夜空の星々が瞬いていた。
地上では夜行性の獣達が走り回り、虫達が姦しく鳴いていた。
と、突然、中空の一角に光が出現した。
途端、危険を感じ取ったのか、全ての生き物が鳴りを潜めた。
 最初は青白い光であったものの外縁に、赤、黄、緑と色が増えてゆく。
それは僅かな時間で色彩豊かな光となり、真っ直ぐに、スッと落ちた。
そして山の中に静かに消えた。

「ドックン」
俺は荒々しい鼓動に目覚めた。
心臓が、ではなかった。
全身に鼓動が走った。
指先だけでなく毛先まで。
粟立った、と言う表現が正しいのだろうか。
それが分からない。初めてだ。こんな感覚は。
盗賊団の夜襲の時とは全くの別物、異質の感覚であった。
 俺はベッドで五感を解放した。
脳内モニターをオンした。
俯瞰図。
熱源として捉えるべく索敵した。
だが村に異常はない。
夜番の小屋以外は、みんな寝静まっていた。
範囲を広げた。
地形を把握しているので、海辺の分村まで広げた。
 見つけた。
方向は本村の北。
川向こうの北の集落のさらに北、石切場の奥にある山だ。
去年、木曽種の魔物・ヘルハウンドと遭遇した山だ。
 俺は起き上がって窓を開けた。
部屋が三階にあるので展望が良い。
北向きなので、俺にとっては正面になる。
脳内モニターでズームアップ。
 山の中腹に点滅。
青白い点滅が一つ。
 緑の点滅なら動いている人間。
茶の点滅なら活動中の中型以上の獣か魔物。
青の点滅は発動中の魔法。
経験が浅い俺にとって青白いのは初めてだ。





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昨日今日明日あさって。(戸倉村)10

2017-10-22 07:43:04 | Weblog
 みんなの関心は荷馬車で運んだヘルハウンドの首にあった。
腐敗を避ける為に塩漬けして置いたが、嫌なのか、当然なのか、
顔を顰めるだけで誰も直に触れようとはしない。
細い棒先で突っつきながら特徴を確認し、隣の者と小声で話し合う。
 中心になって念入りに調べていたのは冒険者風の男。
奉行と目を交わしつ、一つの結論に達した。
主立った者達に目配せをした。
それに皆も気付いた。
動きを止めて言葉を待った。
冒険者風の男は皆を見回し、やおら口を開いた。
「まず最初にヘルハウンドである、と申し上げます。
首だけですが、特徴を詳細に調べました。
結論は、木曾谷の大樹林を縄張りとするヘルハウンドに酷似。
木曽種のヘルハウンドと見て、まず差し支えないでしょう」
 皆が隣の者と二言三言、言葉を交わした。
「木曾種か」
「だとすると、容易ならぬな」
「兵の動員が必要だな」
 奉行が口を開いた。
「ここでは何だ、部屋に戻って話し合おう」
 皆に否はない。
足早に建物に向かった。
アンソニーは武士であるものの役職にはなかった。
役職とか高位にある者達と並ぶ立場ではない、と自覚して、
荷馬車の傍から離れようとしなかった。
それに気付いた奉行がアンソニーに声をかけた。
「せっかく来たんだ、付いて参れ」
 奉行はアンソニーを待つと、並んで足を進めた。
「こういう場合は厚顔でも構わんぞ」
「はい」
「あれはな」と奉行が、先を行く冒険者風の男の背中を手で示し、
「領都の冒険者ギルドのマスターだ。
若い頃はこの尾張から美濃、飛騨、信濃は当然、
安芸から武蔵あたりまで足を伸ばし、幾つもの大樹海に潜ったそうだ。
だから大樹海の魔物には詳しい。
ランクはBランクだ」説明した。
 冒険者はランク付けされる職業だ。
ランクはABCDEFの六等級。
それとは別に、別格の者には別枠が用意されていた。
最高位はAであるが、特例としてSが贈られた。
そのSランクの者は希少。
Aランクも少ない。
Bランクにして、ようやく多いと言った程度。
 部屋に入ると、そのBランクのマスターが会議を主導した。
同行していたギルドの職員から渡された地図を、
皆に見えるように長テーブルの上に広げた。
「美濃のギルドは、大樹海に異常はなし、と申しております」
 彼は奉行所の依頼を受けて美濃のギルドに使いを走らせた。
木曽の大樹海のヘルハウンドの動向を調べさせた。
同時並行して尾張から美濃にかけての、
ヘルハウンド出没の情報も拾い集めさせていた。
 木曽地域は国境にあるが、内に大樹海を持つため、
隣国が国境の線引きを巡って兵を進めることは、最近はない。
それには分けがあった。
国境での争いで大兵力を展開して、
大樹海の魔物達を刺激した過去が原因になっていた。
戦場独特の戦気と大量に流される血の臭いに誘い出された魔物達が、
第三勢力として勝手に暴れ回って双方に甚大な被害を与えたのだ。
それが教訓となり、今のところ木曽は美濃地方の一部として、
平穏に扱われていた。
「地図をご覧下さい。
尾張から美濃にかけての地図です。
ヘルハウンドを狩った地点に数字を書き込みました。
狩った数です。
赤い数字が木曽種のヘルハウンドと確認されています。
青は似ている。
黒は詳しい者がおらず不明、となっております」
 黒い数字が多い。
次いで青。
それでも赤い数字も、けっして少なくはない。
それをマスターが指摘した。
「ここ百年以上ですが、
木曽種は大樹海以外では見られていません。
ところが最近、一ヶ月ほどの間に、赤い数字で分かるように、
木曽種と確認された数が狩られています。
これが何を意味するか、皆さんでしたら、お分かりでしょう」
「美濃のギルトが木曽に支部を置いているはずだ。
その支部は何と言ってる」
「そちらも異常なし、と。
それに実際に大樹海に入るのはギルド職員ではなく、冒険者です。
情報は彼等の報告に頼っています。
そんな彼等でも、たぶんですが、
普段から見慣れているので、感覚が麻痺しているのではないかと・・・」
「見慣れているか、それもあるか。
しかし、赤い数字は無視できない。
どうしたものか」
 奉行が口を開いた。
「魔物の大移動が開始されるのも間近、と仮定しよう。
問題は魔物がどちらに向かうかだ。
それが分かる手掛かりは・・・、おのおの方、如何かな」
 木曽が美濃であるからと言って、木曽から西に向かうとは限らない。
美濃に接する飛騨、信濃、三河、あるいは越前に向かうかも知れない。




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昨日今日明日あさって。(戸倉村)9

2017-10-15 08:37:54 | Weblog
 名古屋の屋敷でアンソニー佐藤は目を覚ました。
部屋に近付く足音。
自室の前で止まり、声がかけられた。
「御主人様、朝で御座います」
 昨夜、部屋に案内してくれたメイドに違いない。
「わかった」
 メイドが立ち去るとアンソニーはベッドで大きく伸びをした。
新築の匂いが鼻をついた。
屋敷自体が建てられて半年ほど。
この母屋は当主不在のままなので、
全くと言っていいほど使われてはいない。
長屋に住み込みの執事やメイドが毎日、空気の入れ替えをするくらい。
 何時までも当主不在と言う分けではない。
いつ呼集がかけられるか分からないだ。
今、村では武家に相応しい人員の訓練と編成を行っていた。
伯爵家より命ぜられたのは騎乗の者十騎、槍足軽二十人、
弓足軽二十人。
これに事務を熟す者を加えると最低でも七十人を必要とした。
人員は満たしたのだが、訓練と編成が終わっていない。
それに最大の問題は、村の代官を誰にするか、であった。
戸倉本村と漁村を管理する分けだから、能吏を必要とした。
伯爵家に事情を話し、暫くの猶予を貰っていた。
期限としては、遅くとも来春まで。
全て完了すれば引っ越す予定でいた。
 
 食堂に行くと既に二人の息子が着席していた。
アンソニーが入って行くと二人が立ち上がり、朝の挨拶。
「おはよう御座います、父上」
 打ち合わせでもしていたかのように声を重ね、軽く頭を下げた。
慣れていないのでアンソニーは苦笑い。
「おはよう」
 彼の着席を待って息子二人が着席すると、
メイド三人が食事を運んで来た。
執事が現れてアンソニーの耳元に囁いた。
「村に戻られるのを少々、繰り下げる必要が出てきました」
「どうした」
「面会の申し込みがあるのです。それも三件」
「私は昨日、着いたばかりだぞ。どうして私が来た、と分かったのだ」
「相手は商売人ですから」
「塩か」
 漁村での塩田開拓が順調で、
少量ではあるが村外に売却できるところまで進んでいた。
それに目をつけたのであろう。
 執事によると今朝、それも早朝、
三つの商会の使いの者が息を切らせて現れた、と言う。
商会は何れも領都では有名どころばかり。
これまでの戸倉村は馬車の製造で知られていた。
これに塩が加わるのだ。
村の経営は順風と言っても過言ではない。
 
 名古屋は外堀に囲まれた城郭都市であった。
上げ下ろし出来る跳ね橋を四方に持ち、治安だけでなく、
籠城戦をも見据えた都市設計が成されていた。
城郭内は名古屋城を中心に四区画に分かれていた。
伯爵家を含む貴族の東街。
武士等の西街。
一般市民の南街。
商人等の北街。
それぞれに通用門が幾つもあり、平時は自由に行き来できた。
 領都であるので、人口も敷地も満杯かと思いきや、そうではなかった。
籠城戦や火災、疫病等に備えて、空き地も残されていた。
城郭内に空き家が見つけられない者が希望すれば、
跳ね橋に通じる街道沿いに家を建てることが許されたので、
領都は城郭外にも延びていた。
 城郭の門限は厳しい。
平時は東西南北にある跳ね橋が朝五時に下げられ、
夜八時には上げられれた。
各街区を繋ぐ通用門もそれに準じて開け閉めされるので、
規則正しい生活が求められた。
 アンソニー佐藤家は城郭の東門外の街道に屋敷を構えていた。
佐藤家だけが珍しいことではない。
武家でも貴族でも郭外に屋敷を構える者は多くいた。
ことに新規採用の武士や貴族の多くは堅苦しい郭内生活を嫌い、
治安には目を瞑って自由な生活を求めて外に出た。

 アンソニーは一行を率いて名古屋城郭へ向かった。
アンソニーの乗る一頭立ての幌馬車と、
魔物の首を運ぶ一頭立ての荷馬車。
馭者と徒歩の雑兵で計九人。
東門の門番に身元を現す胸元のタグを確認させ、
公用の手形を取り出し、「奉行所へ向かう」として跳ね橋を通った。
東門を抜けると正面に白い五層の天守閣が聳え立っていた。
 雑兵の一人が初めて見たのだろう、「うわっ」と思わず足を止めると、
同僚の一人に、「他の通行人の邪魔になるから進め」と笑われた。
 指定されたのは城正門前の奉行所だったので、
そのまま真っ直ぐに進んだ。
当然のように奉行所は伯爵家のある東街区にあった。
奉行所は名古屋城郭を管轄する役所で、一切を統轄していた。
  アンソニー一行は内庭に案内された。
待たされることはなかった。
十数人が早足で庭先に現れた。
驚いたことに奉行だけでなく、伯爵家の執事や重臣も含まれていた。
如何にも冒険者といった身形の者もいた。
皆の目が血走っていた。
その様子からアンソニーは挨拶もそこそこに、荷馬車の覆いを外した。




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昨日今日明日あさって。(戸倉村)8

2017-10-08 08:47:04 | Weblog
 獣人が二手に分かれて解体を開始した。
まず首を斬り落とし、血を抜いた。
血が完全に抜けるのを待ってから四肢を切り放ち、
腹を割いて内臓を取り出した。
ぞろぞろと出てくる長い内臓が地面にぶちまけられた。
その端っこに魔卵がくっついていた。
黒い卵、が、それだ。
 獣人は魔卵を大事に扱った。
内臓から切り放つと、まるで果実であるかのように取り上げ、
血を拭った。
掌から、はみ出る大きさ。
それを見た者達は満足そうな表情。
高く売れるサイズ、と顔に描いてあった。
 魔物だからといって、
全ての魔物が体内に魔卵を持つ分けではない。
理由は分からないが持つ魔物がいれば、持たない魔物もいた。
籤と同じで当たり外れがあった。
今回の当たりは一頭のみ。
 魔卵の大きさにしても様々。
両手で持てないサイズの物から、指先で摘める物まで。
魔物の大きさには比例しない。
小さな魔物が大きな魔卵を持っていても珍しくはなかった。
 人も魔素を持っているが、どういう分けか魔卵は持たない。
残酷だが、昔から、戦いで勝った方が、
討ち取った魔法使いの身体を解体して、魔卵の回収に努めた。
が、一度も見つけられなかった。
今では、人は魔卵は持たない、と認識されるようになり、
解体されることもなくなった。

 俺は魔卵の売却に思いを馳せた。
俺は三男なので、いつまでもこの村に居られる分けではない。
成人すれば、いずれ出て行かざるを得なくなる。
ただの村人の次男以下は、新たに田畑を開墾して分与すれば、
分家として認められて村人の一員になれた。
ところが村長の次男以下は事情が違った。
嫡男に財産・権力を集中する必要があるので、諍いを回避する為に、
次男以下を外に出した。
勿論、無一文で放り出す分けではない。
独立し易いように高等教育を受けさせ、
仕官先・奉公先・養子先を探しやり、可能な限りの援助をした。
 俺は冒険者を夢見ていた。
魔物狩りに可能性も感じていた。
魔物を倒せば肉が食える。魔卵は売ればいい。無駄がない。
村には一軒の食堂兼飲み屋兼商店の旅籠がある。
そこで魔卵の売買価格を聞こう、と頭の片隅にメモした。
 と、頭に衝撃。
油断していた。
俺は後ろから捕らえられた。
ヘッドロック。
匂いでケイトと分かった。
「こんなとこに居たのね」耳元に低音で囁かれた。
 彼女は怒っていた。
ググッと締め上げられた。
最近、父が守り役の彼女に体罰を許可したので、今日も容赦がない。
俺は小声で、「ごめん、ごめん」と謝るので精一杯。
「まったく」パシッと頭を叩かれて解放された。
 彼女は粘性ではない。
向こうに見える父に聞こえぬように小声で小言。
「叩かれないと分からないの。
何時も言ってるでしょう。
ほんとうに、何時もいつも。
何かするときは、私に声をかけなさいって」
「へっへっへ」
「へっへっへじゃない」彼女は手荒く俺の肩を掴み、傍に引き寄せ、
呆れたような顔で俺を見て、
「ねえ、ダン様、魔物の解体を見ていて面白いの」と尋ねた。
「面白いよ。初めてだよ。ケイトは」
「何度か見ているわ」
「それじゃ、ケイトも解体が出来るの」
「出来るわ」
「魔物狩りは」
「恐かったけど、一度だけ。小さな物を射たことがあるわ」
「へえ、凄い。その時に魔卵は取れたの」
「なかった」
「残念だったね」

 アンソニー佐藤は魔物・ヘルハウンドの首を手土産に、
領都・名古屋に上った。
昔なら、ただの村長なので名古屋では旅籠泊まりだった。
ところが今は身分が違った。
正式に尾張伯爵家の武士に任じられたので、
名古屋に屋敷を構えていた。
 その屋敷で二人の息子が待っていた。
長男のトーマスと次男のカイルだ。
二人とも十一才になると領都の幼年学校に入学させていた。
寮住まいが決まりであったが、特別に許可を得て屋敷で待っていた。
 田舎者であった二人は、すっかり都に馴染んでいた。
着る物は当然、髪型から履き物まで。
「父上、お待ちしていました」
「拙者もです」
 言葉遣いだけでなく、礼儀作法も身に付いているように思えた。
 アンソニーが問うた。
「どうした。父が恋しくて待っていたのか」
「まさか父上。
ヘルハウンドを見たいだけですよ」
「そうです。
この辺りでは珍しいそうですからね。
伯爵家に持って行かれる前に見せてもらいます」
 先触れを出していたので、伯爵家よりの返事も届いていた。
魔物の首改め日時は到着翌日とのこと。
到着を知らせると、「明日午前に城正門前の奉行所」と指示された。




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昨日今日明日あさって。(戸倉村)7

2017-10-01 07:58:28 | Weblog
 ただの子供であれば今頃は失禁して気を失っているか、
発狂しているかの何れかであっただろう。
生憎、俺は形こそ子供だが、心は大人。
薄汚れた心には自信があり、まだ折れてはいない。
 大きく深呼吸した。
疲労困憊で身体は動かしようがないが、
鼓動を鎮める為に意識して呼吸をコントロールした。
 このような状況下では勝利は覚束ない。
それでも生き残ることには拘りたい。
可能性は残されていた。
何しろ相手は所詮は四つ足、獣の化け物でしかない。
 五感を解放した。
脳内モニターで魔物の動きを探った。
茶色の点滅が二つ。
二頭は、あの辺りをウロウロしていた。
唸り声も漏れ聞こえた。
焼けた死体がないことに戸惑っている様子。
 丹田に溜めている力の残量を探った。
意外と残っていた。
テレポートで使い切ったと思いきや、まだまだ余裕。
過激な念力使用に身体が追い付かず疲労困憊しているだけだ。
 生き残る為の小細工を思い付いた。
寝たままの姿勢で頭を軽く擡げ、視線を左右に巡らせた。
最適な的を見つけた。
距離は離れているが、真正面の木立。
こんもりした藪と、その先の細い木。
 掌の拳大の石を握り締めた。
的をガン見。
藪を突き破り、幹に当てる。イメージは剛速球。
肘を立て、手首のスナップを利かせた。
最後まで引っかけていた人差し指・中指の二本に念力を集中し、
離す寸前にそれを付加。
 不格好な投げ方だが、指の引っかかり具合が良かった。
手応え充分。
期待に応えて拳大の石が飛んだ。
低空飛行で的に向かった。
少年野球と言うよりは、中学野球のエース並みの速さではなかろうか。
自分で言うのも何だが・・・。
 狙い通りに藪の中を、「ガサゴソ」と通り抜け、
その先の幹に当たって小気味良く、「カーン」と音を立てた。
 弾かれたように二頭の魔物が反応した。
咆えて、そちらに飛ぶようにして駆けて行く。
 初動は人力で補う必要がある、と実感した。
今日まで念力と並行して身体を鍛えてはいたが、
あくまで別物と考えていた。
どうやらその認識を改めなければならぬらしい。
 脳内モニターで魔物の行方を追った。
二頭は逃した獲物に拘っているようで、
次第に茶色い点滅が遠退いて行く形になった。
 と、新たな点滅。
緑色。
緑色の点滅は人の種である事を現していた。
左から三つ、右からも三つ。麓から此方に向かっていた。
移動速度と人数から村の周辺を見回っている獣人であろう。
彼等は常に槍一人、弓二人で組んでいた。
今回も、魔物が咆え呻り騒いだのを耳にし、急行して来たのだろう。

 彼等獣人は魔物が相手でも一歩も退かない。
害獣退治と同様に槍持ちが囮になり、
側面に回った弓二人が援護する態勢をとる。
矢で手傷を負わせて弱らせ、槍で仕留める。
魔物の数が多ければ角笛で急を知らせ、
仲間が集まるまで魔物を足止めする。
彼等は優れた狩人の集団なのだ。
 やがて彼等の声が聞こえてきた。
飛び交う声から、興奮している様子が伝わって来た。
「おっ、やっぱり魔物だ」
「それも二頭。やっほー。番いか」
「番いだろう。それにしても、この辺では見られない珍しい奴だな」
「ヘルハウンドだ」
「木曽谷に生息する奴に似ているぜ」
「木曽谷の大樹海か」
 別方向からの呼びかけ。
「おーい、そっち、聞こえるか」
「聞こえる」
「こっちの一頭は貰った。そっちは任せた」
「おう、任された。ブレスに気をつけろ」
「そっちもな」
 魔物も俺のことはそっちのけで、新手の出現に興奮していた。
再び咆哮し、威嚇した。
 立て続けに矢音。
藪が揺れる音。
枝が折れる音。
何かが駆ける物音。
獣人の掛け声。
魔物のものと思しき悲鳴。
 それも間もなく終わった。
脳内モニターで確認すると、茶色の点滅が消えて、
緑色の点滅のみが残っていた。
「こっちは怪我人なし。そっちはどうだ」
「怪我人なし。
ただ、困ったな。
この大きさだと、村に持ち帰れない。どうする」
「心配すんな。
この騒ぎだ。他の組も嫌でも気付いた筈だ。
今に皆が慌てて駆け付けて来るって。それを待とうぜ」
 脳内モニターで監視していると、新たな緑色の点滅が現れた。
時間差はあったが巡回している獣人だけでなく、
ただの村人達も大勢が駆け付けた。
麓で立ち働いていた者達が山の騒ぎに気付き、
斧や手槍を手に、決死の覚悟で上がって来たらしい。
 暫くすると聞きなれた声が。
父だ。

 アンソニー佐藤は案内されて仕留められた魔物と対面した。
雄の二頭。
この辺りでは見慣れぬ種類だ。
獣人の頭、クリフに目色で問う。
「ヘルハウンド種です。
こいつは木曽谷に縄張りを持つヘルハウンドに似ています。
おそらく・・・」
 だとすれば容易ならぬ事態だ。
通常、木曽谷のヘルハウンドは大樹海を縄張りとし、
めったに外に出ることはない。
が、ある一定数に達すると突然、群れが二つに割れ、
一方が新たな地を求めて移動を開始する。
民族の大移動ならぬ魔物の大移動だ。
魔素の多い新天地を目指して旅をし、
途中の町や村どころか国までも遠慮なく食い荒らす。
辿り着いた新天地の魔物が邪魔すれば、それも食い荒らす。
同種のヘルハウンドでもだ。
身内以外は一切容赦しない。
「どう見る」
「何百年かに一度の大移動、とは聞いています。
それが今年なのかどうかは・・・」
「早計に判断するのはどうかな、というところか。
二頭がはぐれただけなら良いのだが、気になる。
・・・。
木曽谷から出るとしたら、まず美濃か三河だ。
それが尾張まで来ているとなると・・・。
途中、どこかで人の目に触れる筈なんだが・・・」
「獣道から獣道を辿る知能を身に付けたのでしょうか」
「・・・、かも知れん。
とりあえず領都には知らせておこう」
「首を切り落として手土産にしますか」
「それが良いだろう、そうしてくれ」

 体力に回復の兆し。
俺は片手で岩につかまり、よろよろと、なんとか立ち上がった。
みんなに見つからぬように、魔物の解体を見物した。
特に目を引いたのは、魔物の体内から、
「魔卵」と呼ばれる物を取り出す作業だ。
 魔物の肉は食用だが、魔卵は売却用。
正確には卵ではない。
形が卵型なので、昔からそう呼ばれているだけ。
厚い殻を割ると中には魔素なるものが詰まっているそうだ。
下手に割ると魔素が零れ落ちて売り物にならなくなるので、
素人には絶対に触れさせない。
なにしろ高価なのだ。




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