金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(動乱)468

2015-08-16 07:58:14 | Weblog
 傍目にだが、賞金稼ぎ五人組の表情が妙に明るく見えた。
それを遠目に左文元が指摘した。
趙雪、趙愛珍の母子も同意した。
吉報かも知れない。
 下女達が五人を一つの大きな卓に案内し、軽い食事と飲み物で持て成した。
持て成される間も五人の様子は変わらない。
下女達に軽口を飛ばし、仲間内で笑い合う。
 落ち着いたところで趙雪は報告を受けることにした。
中高年の使用人三人を呼び、趙愛珍と左文元をも同道して、大きな卓に向かう。
趙雪や趙愛珍の母子二人では地方の地名にも疎いので、
世情に通じた使用人三人に報告の中身を吟味させるのだろう。
 賞金稼ぎという稼業から荒っぽい者共と思っていたが、どうやら違った。
趙雪に気付くや卓から立ち上がって出迎えた。
挨拶もそこそこに紀霊が報告を始めた。
前年よりの懸案であったという事項、一つ一つを潰して行く。
かつての目撃例とか、立ち寄り先であった。
 報告を聞いていると、趙志丹と趙雲の正体が完全に秘匿されていると分かった。
趙雪が左文元に事前に言っていたように、
「この農場を立ち上げる時に力になってくれた恩人で遠縁の趙志丹」
として話しが進められていた。
娘にさえも明かしていないそうだ。
 あらかたの報告を終えた紀霊が、みんなを見回した。
「最後になりましたが、趙雲という同姓同名の男子を一人見つけました。
男子といっても二十歳前後です。
年頃は合います。
けれど傍に趙志丹はいません」
「どこで」趙雪が身を乗り出した。
「偶然ですが、途中休憩に立ち寄った冀州の宿場町で見つけました。
室という水運の町です」
 黄河水系にあり、水運で栄えていた。
かつては水運だけだったが、十年ほど前よりは色街でも知られるようになった。
そこの色街で趙雲は養われているという。
 左文元は趙雪と顔を見合わせた。
彼女の表情は複雑な色をしていた。
どうやら読みは同じらしい。
おそらく五人は色街が目当てで立ち寄ったのだろう。
とかく男はそういう生き物。
ここは色街での休憩を蔑むより、趙雲という男子に遭遇したことを喜ぶべきだろう。
間を置かずに、「養われているとは」趙愛珍が尋ねた。
「それが妙な具合なのです。
色街の生まれという分けでも、孤児という分けでもないのです。
色街の差配をしている夫婦を兄、姉と呼び、脳天気に暮らしているのです」
 紀霊は勘が働いた。
それとなく色街の女に尋ねた。
それで色街の差配をしている夫婦が、
元は旅芸人の一座を率いていた座長夫婦と分かった。
その夫婦率いる一座が旅の途中で趙雲親子に遭遇したのだそうだ。
今から十年ほど前の出来事だという。
親子は旅の行商人で荷馬車暮らしであった。
遭遇した際、趙雲は親が病に倒れて難儀していた。
見かねた夫婦は一座を止め、親子の面倒をみた。
しかし手厚い看病の甲斐もなく、親は息を引き取った。
それからが早かった。
遺体を埋葬すると孤児になった趙雲を一座に加えることに決した。
どういう話し合いが一座の上の方で持たれたのか分からないが、
一座は手近の町に腰を据える事にもなった。
水運の町、室である。
手元不如意のしがない旅芸人一座の筈が、これまた、どう算段したのか知らないが、
町外れの土地を買い上げて色街の最初の一軒を立ち上げた。
すると、あれよあれよと言う間に、色街が拡張して行った。
旅芸人として培われた愛嬌の良さと、客あしらいが男達を引き付けたのだ。
人手不足は家族親戚を呼び寄せるだけでは足りず、州内外からも広く募った。
話してくれた女も家族として呼び寄せられた一人だと。
かくして今がある、と女が自慢げに言う。
浮き草稼業の旅芸人暮らしより、今の生活が気に入っている、とも言う。
 紀霊は立ち入った事を聞いて怪しまれるより、そこまでで済ませる事にした。
亡くなった親の名前は分からないが、探している親子の可能性が高いと判断。
最終判断を雇用主に委ねるべく戻って来た。
 左文元は紀霊を正視して問う。
「どう感じた」
「まず間違いない」頷いた。
 左文元は趙雪を振り向いた。
「それじゃ、ワシが迎えに行こう」
「一人で」
 紀霊が口を差し挟む。
「俺が案内しよう。
その方が早いだろう」
「本物だったら、どうやって引き取るつもり」趙雪が顔を曇らせた。
「向こうの家族になってるかも知れないわね」趙愛珍が危惧した。
「誠意を持って話すしかなかろう。
なんとしても、この農場に連れ帰る」左文元は言い切った。
 趙雪が左文元と紀霊を交互に見比べた。
溜め息混じりに言う。
「困ったわね。
貴方達二人だと、とても迎えの人間には見えないわ。
どちらと言えば、人攫いかしら」本気で心配した。
 その言葉に、みんなが一斉に爆笑した。
紀霊の仲間などは卓を叩き、腹を抱えて大笑い。




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