傍目にだが、賞金稼ぎ五人組の表情が妙に明るく見えた。
それを遠目に左文元が指摘した。
趙雪、趙愛珍の母子も同意した。
吉報かも知れない。
下女達が五人を一つの大きな卓に案内し、軽い食事と飲み物で持て成した。
持て成される間も五人の様子は変わらない。
下女達に軽口を飛ばし、仲間内で笑い合う。
落ち着いたところで趙雪は報告を受けることにした。
中高年の使用人三人を呼び、趙愛珍と左文元をも同道して、大きな卓に向かう。
趙雪や趙愛珍の母子二人では地方の地名にも疎いので、
世情に通じた使用人三人に報告の中身を吟味させるのだろう。
賞金稼ぎという稼業から荒っぽい者共と思っていたが、どうやら違った。
趙雪に気付くや卓から立ち上がって出迎えた。
挨拶もそこそこに紀霊が報告を始めた。
前年よりの懸案であったという事項、一つ一つを潰して行く。
かつての目撃例とか、立ち寄り先であった。
報告を聞いていると、趙志丹と趙雲の正体が完全に秘匿されていると分かった。
趙雪が左文元に事前に言っていたように、
「この農場を立ち上げる時に力になってくれた恩人で遠縁の趙志丹」
として話しが進められていた。
娘にさえも明かしていないそうだ。
あらかたの報告を終えた紀霊が、みんなを見回した。
「最後になりましたが、趙雲という同姓同名の男子を一人見つけました。
男子といっても二十歳前後です。
年頃は合います。
けれど傍に趙志丹はいません」
「どこで」趙雪が身を乗り出した。
「偶然ですが、途中休憩に立ち寄った冀州の宿場町で見つけました。
室という水運の町です」
黄河水系にあり、水運で栄えていた。
かつては水運だけだったが、十年ほど前よりは色街でも知られるようになった。
そこの色街で趙雲は養われているという。
左文元は趙雪と顔を見合わせた。
彼女の表情は複雑な色をしていた。
どうやら読みは同じらしい。
おそらく五人は色街が目当てで立ち寄ったのだろう。
とかく男はそういう生き物。
ここは色街での休憩を蔑むより、趙雲という男子に遭遇したことを喜ぶべきだろう。
間を置かずに、「養われているとは」趙愛珍が尋ねた。
「それが妙な具合なのです。
色街の生まれという分けでも、孤児という分けでもないのです。
色街の差配をしている夫婦を兄、姉と呼び、脳天気に暮らしているのです」
紀霊は勘が働いた。
それとなく色街の女に尋ねた。
それで色街の差配をしている夫婦が、
元は旅芸人の一座を率いていた座長夫婦と分かった。
その夫婦率いる一座が旅の途中で趙雲親子に遭遇したのだそうだ。
今から十年ほど前の出来事だという。
親子は旅の行商人で荷馬車暮らしであった。
遭遇した際、趙雲は親が病に倒れて難儀していた。
見かねた夫婦は一座を止め、親子の面倒をみた。
しかし手厚い看病の甲斐もなく、親は息を引き取った。
それからが早かった。
遺体を埋葬すると孤児になった趙雲を一座に加えることに決した。
どういう話し合いが一座の上の方で持たれたのか分からないが、
一座は手近の町に腰を据える事にもなった。
水運の町、室である。
手元不如意のしがない旅芸人一座の筈が、これまた、どう算段したのか知らないが、
町外れの土地を買い上げて色街の最初の一軒を立ち上げた。
すると、あれよあれよと言う間に、色街が拡張して行った。
旅芸人として培われた愛嬌の良さと、客あしらいが男達を引き付けたのだ。
人手不足は家族親戚を呼び寄せるだけでは足りず、州内外からも広く募った。
話してくれた女も家族として呼び寄せられた一人だと。
かくして今がある、と女が自慢げに言う。
浮き草稼業の旅芸人暮らしより、今の生活が気に入っている、とも言う。
紀霊は立ち入った事を聞いて怪しまれるより、そこまでで済ませる事にした。
亡くなった親の名前は分からないが、探している親子の可能性が高いと判断。
最終判断を雇用主に委ねるべく戻って来た。
左文元は紀霊を正視して問う。
「どう感じた」
「まず間違いない」頷いた。
左文元は趙雪を振り向いた。
「それじゃ、ワシが迎えに行こう」
「一人で」
紀霊が口を差し挟む。
「俺が案内しよう。
その方が早いだろう」
「本物だったら、どうやって引き取るつもり」趙雪が顔を曇らせた。
「向こうの家族になってるかも知れないわね」趙愛珍が危惧した。
「誠意を持って話すしかなかろう。
なんとしても、この農場に連れ帰る」左文元は言い切った。
趙雪が左文元と紀霊を交互に見比べた。
溜め息混じりに言う。
「困ったわね。
貴方達二人だと、とても迎えの人間には見えないわ。
どちらと言えば、人攫いかしら」本気で心配した。
その言葉に、みんなが一斉に爆笑した。
紀霊の仲間などは卓を叩き、腹を抱えて大笑い。
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それを遠目に左文元が指摘した。
趙雪、趙愛珍の母子も同意した。
吉報かも知れない。
下女達が五人を一つの大きな卓に案内し、軽い食事と飲み物で持て成した。
持て成される間も五人の様子は変わらない。
下女達に軽口を飛ばし、仲間内で笑い合う。
落ち着いたところで趙雪は報告を受けることにした。
中高年の使用人三人を呼び、趙愛珍と左文元をも同道して、大きな卓に向かう。
趙雪や趙愛珍の母子二人では地方の地名にも疎いので、
世情に通じた使用人三人に報告の中身を吟味させるのだろう。
賞金稼ぎという稼業から荒っぽい者共と思っていたが、どうやら違った。
趙雪に気付くや卓から立ち上がって出迎えた。
挨拶もそこそこに紀霊が報告を始めた。
前年よりの懸案であったという事項、一つ一つを潰して行く。
かつての目撃例とか、立ち寄り先であった。
報告を聞いていると、趙志丹と趙雲の正体が完全に秘匿されていると分かった。
趙雪が左文元に事前に言っていたように、
「この農場を立ち上げる時に力になってくれた恩人で遠縁の趙志丹」
として話しが進められていた。
娘にさえも明かしていないそうだ。
あらかたの報告を終えた紀霊が、みんなを見回した。
「最後になりましたが、趙雲という同姓同名の男子を一人見つけました。
男子といっても二十歳前後です。
年頃は合います。
けれど傍に趙志丹はいません」
「どこで」趙雪が身を乗り出した。
「偶然ですが、途中休憩に立ち寄った冀州の宿場町で見つけました。
室という水運の町です」
黄河水系にあり、水運で栄えていた。
かつては水運だけだったが、十年ほど前よりは色街でも知られるようになった。
そこの色街で趙雲は養われているという。
左文元は趙雪と顔を見合わせた。
彼女の表情は複雑な色をしていた。
どうやら読みは同じらしい。
おそらく五人は色街が目当てで立ち寄ったのだろう。
とかく男はそういう生き物。
ここは色街での休憩を蔑むより、趙雲という男子に遭遇したことを喜ぶべきだろう。
間を置かずに、「養われているとは」趙愛珍が尋ねた。
「それが妙な具合なのです。
色街の生まれという分けでも、孤児という分けでもないのです。
色街の差配をしている夫婦を兄、姉と呼び、脳天気に暮らしているのです」
紀霊は勘が働いた。
それとなく色街の女に尋ねた。
それで色街の差配をしている夫婦が、
元は旅芸人の一座を率いていた座長夫婦と分かった。
その夫婦率いる一座が旅の途中で趙雲親子に遭遇したのだそうだ。
今から十年ほど前の出来事だという。
親子は旅の行商人で荷馬車暮らしであった。
遭遇した際、趙雲は親が病に倒れて難儀していた。
見かねた夫婦は一座を止め、親子の面倒をみた。
しかし手厚い看病の甲斐もなく、親は息を引き取った。
それからが早かった。
遺体を埋葬すると孤児になった趙雲を一座に加えることに決した。
どういう話し合いが一座の上の方で持たれたのか分からないが、
一座は手近の町に腰を据える事にもなった。
水運の町、室である。
手元不如意のしがない旅芸人一座の筈が、これまた、どう算段したのか知らないが、
町外れの土地を買い上げて色街の最初の一軒を立ち上げた。
すると、あれよあれよと言う間に、色街が拡張して行った。
旅芸人として培われた愛嬌の良さと、客あしらいが男達を引き付けたのだ。
人手不足は家族親戚を呼び寄せるだけでは足りず、州内外からも広く募った。
話してくれた女も家族として呼び寄せられた一人だと。
かくして今がある、と女が自慢げに言う。
浮き草稼業の旅芸人暮らしより、今の生活が気に入っている、とも言う。
紀霊は立ち入った事を聞いて怪しまれるより、そこまでで済ませる事にした。
亡くなった親の名前は分からないが、探している親子の可能性が高いと判断。
最終判断を雇用主に委ねるべく戻って来た。
左文元は紀霊を正視して問う。
「どう感じた」
「まず間違いない」頷いた。
左文元は趙雪を振り向いた。
「それじゃ、ワシが迎えに行こう」
「一人で」
紀霊が口を差し挟む。
「俺が案内しよう。
その方が早いだろう」
「本物だったら、どうやって引き取るつもり」趙雪が顔を曇らせた。
「向こうの家族になってるかも知れないわね」趙愛珍が危惧した。
「誠意を持って話すしかなかろう。
なんとしても、この農場に連れ帰る」左文元は言い切った。
趙雪が左文元と紀霊を交互に見比べた。
溜め息混じりに言う。
「困ったわね。
貴方達二人だと、とても迎えの人間には見えないわ。
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紀霊の仲間などは卓を叩き、腹を抱えて大笑い。
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