金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(光の中へ)161

2012-08-30 21:51:37 | Weblog
 項羽は呂馬童だけでなく、供の二人も無事に帰させた。
三騎の足取りは当然ながら、来たときよりも軽い。
人馬ともに解放された状況を喜んでいるらしい。
それを丘の上から見送っていると、隣に並ぶ宋文が問うてきた。
「そろそろ準備に取りかかりましょうか」
「そうだな。日暮れ前には終わらそう」
「馬達を丘に上げますか。それとも我らが下に降りますか」
「いや、これ以上巻き込むのはよそう」
 宋文は驚くも、間を置いて頷いた。
「そうですね。それが宜しいでしょう」
 項羽は部下達を集めて、新たな編成を行った。
騎馬隊編成から歩兵編成への変更だが、誰一人、異は唱えない。
項羽が騅を思いやるように、部下達もそれぞれの馬を思いやっていた。
言葉には出さないが、
「事ここに至っては、愛馬までも道連れにはしたくない」と。
 項羽達は準備を終えたのだが、肝心の反項羽連合軍の動きが鈍い。
見ていると、彭越の本陣を中心にして、使者が各陣間を走り回っていた。
 項羽達は無勢だが、神樹の丘に陣取っているために、
「聖地で血を流したくない」と、
誰もが先鋒を引き受けかね、譲り合っているのかも知れない。
あるいは、
先鋒として丘に攻め上がったは良いが、後続の軍により、
「そのまま項羽達もろとも丘から長江に追い落とされるのでは」と、
懸念しているのかも知れない。
 これまでの彭越であれば、味方を押しのけてでも自分の手柄に拘った。
ところが思いの外、動きが鈍い。
反項羽連合軍の重鎮の一人なのに奇妙な事だ。
最前の戦闘とは明らかに態度が違う。
もしかして、項羽の最期を確信し、劉邦の皇帝即位後の政治を見据えて、
手柄を他の諸侯に譲って歓心を買おうとでもしているのか。
そこまで殊勝な性格ではなかった筈なのだが。
「劉邦に取って代わろう」とでもする野望が芽生えたのか。
 宋文が断言した。
「奴なら劉邦の追い落としも考えかねません」
 部下の一人が鼻で笑う。
「身のほど知らず、厚顔無恥が奴の信条ですからね」
 項羽は決めた。
「向こうが攻めてこないのなら、こちらから攻める」
 部下達に異存はない。
自然発生的に鬨の声が上がった。
 誰かが叫ぶ。
「我ら楚の兵の強さを、奴らの骨の髄にまで教えてやるぞ」
 再び呼応する鬨の声。
 項羽は騅達を解き放った草地とは正反対側を指し示した。
長江の下流に沿った街道を選んだ。
こちら側なら騅達を巻き込むおそれがない。
そして、小舟を操っている章護には見物がし易いだろう。
 項羽の合図で二百余が動いた。
槍を担いで丘を駆け下った。
荷を少なくした騎馬隊なので盾は当初から持っていない。
身に着けているのは刀槍のみ。
実に身軽な軍装であった。
隊列は項羽を先頭に押し立てた魚鱗の陣形。
 無勢が先手を取るとは思わなかったのだろう。
反項羽連合軍の対応が遅れた。
迎撃の矢を放つのさえ忘れていた。
突破力のある項羽が敵の第一列に襲いかかった。




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白銀の翼(光の中へ)160

2012-08-26 08:01:38 | Weblog
 項羽は長江に目を遣った。
遠方より眺めた時と変わらぬ濁流がゴウゴウと流れていた。
いまだかつて、この流れが澄んでいるのを見たことがない。
常に上流より土砂を運んでくるせいだろう。
 見渡す限り、辺り一面には小舟の一艘とて姿がない。
この河から往来する渡船が消えるとは、実に不思議な光景だ。
水運を生業としている者達が息を潜めているのが分かる。
どこからか、じっと成り行きに目を凝らしているのだろう。
一方、「劉邦の威令が行き届いている」とも見える。
 と、一人が乗った小舟。
支流より現れ、長江の中ほどへ河面をスルスルと滑って行く。
何とも手慣れた操船ではないか。
操っているのは、紛うことなく章護。
「この渡し場を仕切っている」と申した男だ。
 先方も項羽に気づいたらしい。
こちらに向けて両手を大きく振る。
何度も何度も。
まるで振り千切れても構わぬような力強さ。
あらん限りの力を使って、
その意志を明確に項羽に伝えようとしているのが分かった。
 後ろからの声。
「覇王様、何やら使者らしき者が向かって来ます」
 振り返ると側近の宋文がいた。
その顔にこびりついた血は乾燥していた。
 宋文が指し示した方に視線を転じた。
すると敵の三騎がこちらに向かって来ていた。
遠目にだが、いずれもが屈強そうな体躯をしていた。
 敵陣の様子はと見遣ると、いつの間にやら触れ太鼓や銅鑼の音も消え、
大軍が槍の穂先を、馬首を揃え、いつでも総攻撃に転じられる態勢を整えていた。
その数、おおよそ三十万。
 三騎は丘の下で下馬すると、躊躇することなく、堂々たる態度で上がって来た。
使者にしては重武装ではないか。
まるで斬り合いに来たような様であった。
 神樹の虜になっていた騎兵達が豹変したかのように、てきぱきと動き始めた。
十数人が三騎の出迎えをし、残りが項羽を護るように円陣を組んだ。
 出迎えた一人が取り次ぎに戻って来た。
何やら血相を変えていた。
「使者が口上を述べたいそうです」
 項羽は部下の心情に興味を覚えた。
「相手は誰だ」
 部下は項羽の視線を受け止め、平然と言い切った。
「呂馬童です。このまま斬り捨てましょうか」
 懐かしい名を聞いたものだ。
叔父の項梁が呉にて挙兵した際に呼応した一人だ。
対秦戦争の古株で、楚人にして勇猛果敢。
しかし癖が強くて協調性に欠ける困り者。
かつては項梁の配下であったのだが、・・・。
 部下の怒る分けが理解出来た。
呂馬童のことを裏切り者視しているのだろう。
 項羽は申し渡した。
「神樹の丘を血で汚すな」
 結局、呂馬童一人が項羽の前に通された。
部下の者達が、「刺客ではないか」と供の二人を怪しみ、
三人揃っての目通りを許さなかったのだ。
 不貞不貞しい顔の呂馬童が両膝ついて、項羽に拱手をした。
「お目通りを許して頂き、まことに有り難う御座います」
 項羽は単刀直入に聞いた。
「供の二人は刺客か」
 周りを固める部下達が身を乗り出した。
 呂馬童は困り顔。
「あの二人については、よくは知らないのです」
「同じ将軍の下にいるのではないのか」
「いえいえ、あの二人は彭越殿が供に寄越した者達。
私は今は劉邦様の下におりますので、彼らの人となりは知りません」
 部下達の推察通り、彭越の寄越した刺客の臭いがするが、証拠がない。
「それにしては劉邦の軍旗が見えぬな」
「本隊は遅れております」
「すると劉邦の漢軍は一部しかおらぬのか」
「はい。
なにしろ諸侯の大軍がこちらに押し寄せておりますから、
どこぞで手間取っているのではないでしょうか」
「街道は限られているから、押し合いへし合いか」
「はい、おそらく」
「聞かせて貰おう。使者のおもむきとやらを」
 呂馬童が姿勢を正した。
「覇王様には、これより先に逃げ道はございません。
おとなしく降られるようにと、彭越殿のお言葉に御座います」
 途端に部下達が殺気だった。
うちの手早い一人が槍の穂先を呂馬童の鼻先に突きつけた。
 項羽は部下達を宥め、槍を引っ込めさせた。
そして、「呂馬童も随分と人らしい喋り方を覚えたものだ」と感心した。
色々な将軍の下につき、それなりに苦労したのだろう。
ただ、彭越を様付けせぬのは、彼なりの意地の通し方か。
 呂馬童は顔色も変えず、畳みかけた。
「ここで無駄に雑兵に切り刻まれては、覇王様のお名に傷がつきます」
「口上も全て、彭越の考えか」
「はい」
 彭越の狙いは第一に項羽の現在の兵力と、士気の見極めに違いない。
そして、「あわよくば項羽の首も」と考えていたかも知れない。
それで、「旧知の者であれば、項羽が使者との面会に応じる」と深読みし、
偶然にも居合わせた呂馬童を説いて使者に仕立てたのだろう。
 項羽は怒る気がしない。
百戦錬磨の彭越らしい策だ。
「我が首は如何ほどかな」
「獲った者に万戸の領地が与えられるそうです」
「だとすると、すでに万戸の領地が与えられている彭越に、
この首を差し出す分けにはゆかぬ。
どこの生まれとも知れぬ雑兵共に土産として与えるか。
・・・。
彭越に伝えよ。
この首欲しくば、その手で刈り取りに参れ、と」
 初めて呂馬童の表情が緩む。
「しかと申し伝えます」




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白銀の翼(光の中へ)159

2012-08-23 06:42:01 | Weblog
 項羽は騅の速度を緩めさせ、騎兵達が並ぶのを待った。
追いついて来たのは二百余。
何れもが呼吸荒く、防具が破れ、鮮血に濡れていた。
その血が本人のものなのか、敵兵の血なのかまでは判然としない。
ただ彼らの表情には余裕がみられた。
死兵と化した証なのかも知れない。
 通常であれば項羽が殿を受け持ち、追撃して来る敵部隊を足止めするのだが、
この辺りの地形に最も詳しい一人が項羽その人。
否応なく道案内として先頭を駆けねばならない。
傷つき、あるいは馬を失い、
その場に踏み留まって敵部隊の足止めすることを余儀なくされた騎兵達に、
片手を挙げて惜別の挨拶とし、前方に目を凝らした。
騎馬隊が駆け易い道は何本かあった。
一番良いのは左前方の草地を走る道だろう。
 しかし項羽が選んだのは湿地帯の中を走る細い一本道。
西楚騎馬隊であれば難なく駆けられる筈だが、念のために言い聞かせた。
「道は細いが真ん中を走れば大丈夫だ。ただし端は避けよ、脆く崩れる」
 案の定、西楚の騎兵達は余裕の手綱捌きをみせた。
左右にブレルことなく、項羽を見習って真ん中を駆けて来た。
 ところが追撃して来た敵の騎馬隊は無様であった。
左右の湿地帯に馬から投げ出される。
あるいは馬もろとも湿地帯に突っ込んでゆく。
ついには道そのものを踏み潰してしまった。
 項羽は以前、戦の合間に息抜きと称して、この道を駆けたことがあった。
渋る側近達を振り切り、虞姫と二人でだ。
あの日の虞姫も見事な手綱捌きをみせた。
長い黒髪を棚引かせて、項羽から離されることなく、笑いながら追走して来た。
 長い湿地帯を抜けると街道に走り出た。
当然ながら新たな敵部隊に遭遇したのだが、項羽達の勢いに恐れをなしたか、
彼らの方が自ら街道を外れて道を譲ってくれた。
 前方にそれが見えた。
虞姫言うところの、「長江の守り神」。
長江沿いの丘の上に鎮座する巨木のことだ。
この辺りに来るとそれが、はっきりと見えるようになる。
それは高さもだが、異様に太く長い枝を四方に伸ばし、枝葉で丘全体を覆っていた。
その為に、その丘では他の樹木が全く育たない。
まるで丘の上の巨大な茸と見えなくもない。
 虞姫によると、「私たち仙術師仲間では、あれを『長江の神樹』とも呼ぶの。
丘は、だから神樹の丘。
遠くにいても、あれから不思議な力を感じるわ。
まるで神のような、神々しいものをね。
喋れるものなら喋ってみたいものだわ」なのだそうだ。
 あの頃の項羽には理解できなかった。
「俺にはただの木にしか見えない」
 だからと言って虞姫は項羽を馬鹿にしなかった。
逆に爽やかな笑顔を見せ、口を開いた。
「貴方には・・・、そうね、それで良いのかも知れないわね」
「あれが老木なのだけは分かる。人だとすると何歳くらいなんだ」
「見た感じ千年に近いわね」
 その神樹の丘に近づくに従い、長江を流れる水音が聞こえ始めた。
幾つかの集落を駆け抜けた頃には、ゴウゴウと激しく。
 丘の下にも敵部隊がいたのだが、項羽達の接近を知るや、
彼らもまた逃げるように移動した。
そして距離を置き、触れ太鼓、銅鑼を叩いて味方に項羽達との遭遇を告げた。
 項羽は神樹の丘の下で馬から降りた。
神樹に敬意を表したわけではないが、自然にそうなったのだ。
騅を草地に解き放ち、槍を担いで丘に上ってゆく。
人の為の細い道が設けられているので、難渋することはない。
 虞姫と一緒だった日は項羽は丘には上ってはいない。
あの日は彼女一人が下馬してから、このようにして上っていった。
 横に張り出した枝葉が日差しを遮っていた。
これなら雨雪ですら避けられるだろう。
張り出した枝葉のせいでか、丘全体が薄暗い。
他の樹木が育たない分けが理解出来た。
丘一面に生い茂る雑草でさえ丈が低い。
地の養分のほとんどを神樹が吸い上げているのだろう。
 項羽は不思議な感触を覚えた。
自分が清新な気の塊の中に踏み込んだのを感じた。
丘全体をこの冷気が包み込んでいるのかも知れない。
まるで深山に踏み入ったような、・・・。
傍を流れる長江から水分を含んだ空気が流れ込んで来るせいでは、けっしてない。
それとは全く別物が辺りを支配していた。
邪悪とはかけ離れたもの。
これが虞姫言うところの、「神々しさ」の類なのだろうか。
 巨木の樹幹は荒々しく節くれ立っていた。
長い年月の間に加えられた雨雪、嵐、長江の洪水、
そして幾度もの戦火を潜り抜けた証なのだろう。
 項羽は思わず樹幹に片手を押し当てた。
すると神樹の息づかいとでも言うべき、微妙な震動が掌に伝わってきた。
頭上からは、枝葉に棲み着く鳥達の囀り。
神樹そのものは人の言葉を喋らないが、何やら語られたような気がした。
そしてそれを受け取ったような気もした。
理解出来ないまま、胸の奥に仕舞われたような気もした。
 気づくと項羽一人ではなかった。
騎兵達も項羽の真似をして、それぞれが片手を樹幹に押し当てていた。
それも順番待ちが出るほどの大盛況ぶり。
みんながみんな、まるで戦を忘れたかのような表情。
そんな様子に項羽は思わず苦笑い。
自分の場所を後ろの騎兵に譲り渡した。




 これまで後記で毒も吐いてきましたが、アメブロが定着してきたので、
その方面はアメブロに引っ越しします。
ハンドル名の、「渡良瀬ワタル」でやってますので、よかったらググってください。
なるべく毎日更新したいと思っています。
毒含みの独り言になりますが、・・・。
 こちらはファンタジー小説のみの、「金色銀色茜色」で続けてゆきます。
どちらも宜しく。




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白銀の翼★吐血、救急搬送、入院

2012-08-20 12:15:59 | Weblog
 八月一日早朝。
気持ち悪くなってトイレに向かったところ、いきなり吐血しました。
口から、あれほど大量の血を吐き出すとは思いもしませんで、・・・。
おかげでユニットバスが鮮血に染まりました。
下着までがグッショリ。
脳天気なのか、とりあえず着替えたところで気を失いました。
目覚めたのは翌日です。
急いで救急車を呼び、搬送してもらい、そのまま入院。
・・・。
ようやく本日、退院しました。
体調が戻り次第、ブログを再開します。




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