悪い知らせを緑狸のポン太が運んで来た。
「一揆勢が雪崩れ込んで来た」
神殿裏手の守りが破られたのだそうだ。
建物内部を駆け回る物音。争う声。そして、幾つもの悲鳴が上がった。
神殿の奥に避難させている神社の者達に違いない。
助けに向かおうとする孔雀を小太郎が止めた。
「無駄だ。場所を移動しよう」
年下の小太郎の老成したかのような口調に、孔雀は思わずムッときた。
「私達が巻き込んだのよ。それを見殺しにしろというの」
「気持は分かるが、手遅れだ」
戦い慣れしていない神社の者達が魔物に敵うわけがない。
それは最初から分かっている。
だからといって何もしないというのも・・・。
孔雀の心が千々に乱れる。
小太郎が、「仕様がないな」と不敵な笑顔。
孔雀の思いを理解したのだろう。
「行くぞ」と彼女を促し、自ら先頭に立って神殿奥へ駆け込む。
ポン太も、「それじゃ、オイラも」と同行する。
廊下に、巫女装束に具足を重ねた少女三人の姿を見つけた。
悲鳴を上げながら、こちらに逃げて来る。
その奥では、神社の宮司達が三人を逃がす為に戦っていた。
すでに半数近くが、その足下に血を流して倒れているではないか。
孔雀はポン太に、「三人を頼むわよ」と任せた。
小太郎が宮司達に、「ここは俺達が引き受けた。逃げろ」と彼等の前に出た。
孔雀も刀を構えて小太郎の隣に並ぶ。
魔物達は狭い室内空間なので刀を無駄に振り回さない。
突きのみで攻めて来る。
それは孔雀も読んでいた。
相手の剣先を軽く受け流して、伸びてきた手首を斬り落とした。
返す刀で右目に突きを見舞う。
小太郎も孔雀に負けじと魔物の首を斬り捨てた。
二人の手並みに魔物達がたじろぐ。
警戒して隊列を組む。
その様子に、「拙い」と小太郎。
個人対個人であれば勝ち目もあるが、隊列を組んで押して来られたら、
二人ではとても太刀打ち出来ない。
孔雀は何かが燃える臭いに気付いた。
左手の廊下から煙が漂ってきた。
失火か、あるいは魔物達の放火か、それは分からない。
ただ、何かが燃えているに違い無い。
すぐに炎が顔を覗かせた。
このところ空気が乾燥続きであったので、あっと言う間に燃え広がった。
猛烈な炎と煙がこちらに押し寄せて来る。
魔物達の判断は早い。
矢弾や刀槍には強いが、火災とは戦いようがない。
身を翻して逃走を開始した。
建物の外へ出ようと急ぐ。
それは二人も同じ。
逃げ遅れた者がいては困るので、「逃げなさい」と声を掛けながら、
神殿正面へと引き返して行く。
途中で幾人かの仲間が加わる。
白拍子が北条道庵の背中に斬り掛かった。
しかし、頭上の太い枝が邪魔をした。
振りかぶった刀の刃先が引っ掛かったのだ。
道庵は背後の物音と、白拍子の悪態をつく声で事態を飲み込んだ。
足を止めて振り返った。
白拍子を鎮守の森に誘い込んだ効果が目の前にあった。
彼女は、枝に食い込んだ刃先を引き抜こうと懸命になっていた。
道庵は、すかさず彼女の懐に刀を構えて身体ごと飛び込む。
白拍子の表情が変わった。
必死で、柄から手を離し、後方へ高く跳び退った。
が、別の太い枝に背中を激しく打ち付けた。
小さな悲鳴を上げ、前のめりになって、下草の上にドーンと落下する。
道庵は急いで相手に駆け寄った。
片足で背中を押さえ、首筋に刃先を突き入れるつもりでいた。
そこに邪魔に入った。
黒猫が右の木陰から跳んで来たのだ。
道庵の顔を目掛けて両の前足を伸ばす。
爪で掻き切るつもりらしい。
道庵は足を止めて向きを変えた。
刀を構えて迎え撃つ。
大きく跳んで来る黒猫を一刀両断すべく、大上段から振り下ろした。
黒猫は身体を捻って、白刃をスレスレのところで躱した。
ところが急激な体捌きで失速。そのまま頭から落下する。
落下する途中を道庵が蹴り上げた。
確かな手応え。
鈍い音を残して黒猫の身体が前方の藪に消えて行く。
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神殿裏手の守りが破られたのだそうだ。
建物内部を駆け回る物音。争う声。そして、幾つもの悲鳴が上がった。
神殿の奥に避難させている神社の者達に違いない。
助けに向かおうとする孔雀を小太郎が止めた。
「無駄だ。場所を移動しよう」
年下の小太郎の老成したかのような口調に、孔雀は思わずムッときた。
「私達が巻き込んだのよ。それを見殺しにしろというの」
「気持は分かるが、手遅れだ」
戦い慣れしていない神社の者達が魔物に敵うわけがない。
それは最初から分かっている。
だからといって何もしないというのも・・・。
孔雀の心が千々に乱れる。
小太郎が、「仕様がないな」と不敵な笑顔。
孔雀の思いを理解したのだろう。
「行くぞ」と彼女を促し、自ら先頭に立って神殿奥へ駆け込む。
ポン太も、「それじゃ、オイラも」と同行する。
廊下に、巫女装束に具足を重ねた少女三人の姿を見つけた。
悲鳴を上げながら、こちらに逃げて来る。
その奥では、神社の宮司達が三人を逃がす為に戦っていた。
すでに半数近くが、その足下に血を流して倒れているではないか。
孔雀はポン太に、「三人を頼むわよ」と任せた。
小太郎が宮司達に、「ここは俺達が引き受けた。逃げろ」と彼等の前に出た。
孔雀も刀を構えて小太郎の隣に並ぶ。
魔物達は狭い室内空間なので刀を無駄に振り回さない。
突きのみで攻めて来る。
それは孔雀も読んでいた。
相手の剣先を軽く受け流して、伸びてきた手首を斬り落とした。
返す刀で右目に突きを見舞う。
小太郎も孔雀に負けじと魔物の首を斬り捨てた。
二人の手並みに魔物達がたじろぐ。
警戒して隊列を組む。
その様子に、「拙い」と小太郎。
個人対個人であれば勝ち目もあるが、隊列を組んで押して来られたら、
二人ではとても太刀打ち出来ない。
孔雀は何かが燃える臭いに気付いた。
左手の廊下から煙が漂ってきた。
失火か、あるいは魔物達の放火か、それは分からない。
ただ、何かが燃えているに違い無い。
すぐに炎が顔を覗かせた。
このところ空気が乾燥続きであったので、あっと言う間に燃え広がった。
猛烈な炎と煙がこちらに押し寄せて来る。
魔物達の判断は早い。
矢弾や刀槍には強いが、火災とは戦いようがない。
身を翻して逃走を開始した。
建物の外へ出ようと急ぐ。
それは二人も同じ。
逃げ遅れた者がいては困るので、「逃げなさい」と声を掛けながら、
神殿正面へと引き返して行く。
途中で幾人かの仲間が加わる。
白拍子が北条道庵の背中に斬り掛かった。
しかし、頭上の太い枝が邪魔をした。
振りかぶった刀の刃先が引っ掛かったのだ。
道庵は背後の物音と、白拍子の悪態をつく声で事態を飲み込んだ。
足を止めて振り返った。
白拍子を鎮守の森に誘い込んだ効果が目の前にあった。
彼女は、枝に食い込んだ刃先を引き抜こうと懸命になっていた。
道庵は、すかさず彼女の懐に刀を構えて身体ごと飛び込む。
白拍子の表情が変わった。
必死で、柄から手を離し、後方へ高く跳び退った。
が、別の太い枝に背中を激しく打ち付けた。
小さな悲鳴を上げ、前のめりになって、下草の上にドーンと落下する。
道庵は急いで相手に駆け寄った。
片足で背中を押さえ、首筋に刃先を突き入れるつもりでいた。
そこに邪魔に入った。
黒猫が右の木陰から跳んで来たのだ。
道庵の顔を目掛けて両の前足を伸ばす。
爪で掻き切るつもりらしい。
道庵は足を止めて向きを変えた。
刀を構えて迎え撃つ。
大きく跳んで来る黒猫を一刀両断すべく、大上段から振り下ろした。
黒猫は身体を捻って、白刃をスレスレのところで躱した。
ところが急激な体捌きで失速。そのまま頭から落下する。
落下する途中を道庵が蹴り上げた。
確かな手応え。
鈍い音を残して黒猫の身体が前方の藪に消えて行く。
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