俺は二人を呼んでから気付いた。
伯爵に装着した【奴隷の首輪】を忘れていた。
あれは滅多に出回らないダンジョン産。
なので残して置くのは拙い。
直ちに術式を解除し、風魔法で回収した。
アリスとハッピーが来た。
『伯爵はどうするの』
『ペー、ペ~だ』
『ここなら【魔物忌避】の術式で守られてるから大丈夫。
たぶん、通り掛かった誰かが助けてくれる』
伯爵のHPの減り具合は忘れよう。
俺達は領都・ブルンムーンに取って返した。
スタンピードを誘導する連中を探さねばならない。
集まった魔物達を氷雨と冷風で解散させたので、暴走は起こり様がない。
けれど、企んだ者達はそれを知らない。
今もどこかで虎視眈々と機会を窺っているはず。
広い範囲を探知スキルで探し回った。
思いの外、早く見つけた。
彼等は伯爵軍の後方で夜営していた。
誘い出された魔物達が伯爵軍を襲うと想定し、
そこに付け込むつもりでいたのだろう。
数は十二名。
思っていたよりも多い。
二人三人では済まないみたいだ。
鑑定で連中を調べた。
職業ではペイン商会が二名、ハニー商会も二名、
残り八名は『ジイラール教団』。
何れも、まごうこと無き伯爵の債権者。
所属は違うが、一蓮托生の関係のようだ。
十二名をスキルで分けた。
火魔法使いが四名、テイマーが四名、護衛が四名。
この陣容で誘導するのだろう。
出来る、出来ないは、経験者ではない俺には判断が付き兼ねた。
直ぐ傍に箱馬車三輛があった。
馬車の荷物をも鑑定して判明した。
多数の【魔物誘引剤】を積載していた。
国やギルドが禁止している高性能品だ。
呆れを通り越して、言葉がない。
どこで手に入れたのやら。
要するに飴が【魔物誘引剤】で、鞭が火魔法なのだろう。
テイマーと誘引剤で文字通り誘い出し、火魔法で退路を遮断する。
方法としては利に適っていた。
ただし、本当に都合良く運ぶかどうかは分からない。
何しろ【魔物誘引剤】の効果の程が分からないのだ。
下手すれば彼等も巻き込まれ、戻らぬ人になる可能性なきにしも非ず。
俺は伯爵から聞き出した事を、アリスとハッピーに手短に話した。
そして協力を求めた。
『僕はそろそろ戻るよ。
通学している子供だからね。
そこで二人に頼みがあるんだ。
この連中を尾行して、本拠がどこにあるのか調べてくれないかな』
アリスが俺の目の前で、クルリと蜻蛉を切った。
『私が本拠を潰しても良いかな』
ハッピーもアリスへの対抗心を露わにした。
丸い身体で蜻蛉を切る仕草。
『ポー、潰す』
スライムのハッピーはどこが頭で、どこが足なのか、さっぱり分からない。
だから、それで蜻蛉を切ったと言えるのか・・・。
疑問は疑問のままにした。
『潰すのは連中の全貌が分ってからだよ。
誰が首謀者なのか、そこを知らないとね』
人には許容範囲という物がある。
その範囲は人によって違う。
入れ物に例えれば、おちょこサイズの者もいれば、釜サイズの者、
風呂サイズの者、琵琶湖サイズと人によって様々。
俺は広い方だと思っていたが、今回の件は範囲を大きく外れていた。
俺が狙われるなら未だしも、領民を駒扱いにするとは。
アリスが俺の心を読んだらしい。
『ウワー、怒ってる、怒ってる。
そうか、本気で潰すのね』
『パー、手伝う、手伝う』
転移しようとした俺をアリスが呼び止めた。
『お願いがあるの』
『僕に出来ることなら』
『尾行に調査、二つともなると、人手が足りないわ。
そこで提案なのよ。
山城ダンジョンで私の里の妖精達を鍛えているでしょう。
彼女達の手を借りても良いかしら』
確かに妖精の里の子達をダンジョンで鍛えていた。
希望する子達のみに限っているが、それでも数は多いと聞いていた。
ただ、相手は魔物やトラップ。
各階に配備された魔物やトラップをクリアし、
現在は最下層の地下二十階を目指していた。
そこでは対人戦は全く想定していない。
困ったことに、一番怖いのは人間なのだ。
欲の皮の突っ張った人間は狙ったものを得る為なら何でもする。
恥も外聞もない。
目の前のアリスも甘言と酒で捕獲された口。
『対人戦の機会にするのかな』
『そうよ、今回の件は都合が良いものね』
『分かった。
アリスにはハッピーがいる様に、必ず誰かと組ませること。
一人が前衛、もう一人が後衛。
心配なら中衛を入れて欲しい。
その際、反撃してもいいけど、逃げるのが最優先。
妖精に戦死者は出したくない』
聞いたアリスがニコニコ。
『ありがとう。
それでね、全員をダンの眷属にしたらどうかしらね』
それは考えていなかった。
『否、しない。
アリスとハッピーだけで十分だよ』
アリスとハッピーからの好感度が上がったようだ。
二人の周りの空気が生暖かい気がした。
『それじゃあ、私の仲間のままで良いのね』
『それでお願い』
俺はハッピーに確認した。
『仲間のダンジョンスライム達はどうする』
『ピー、ダンジョンでお腹一杯~』
ダンジョンスライムはダンジョンマスターの配下として、
ダンジョンの管理一切を行う存在。
ダンジョンの設計着工、施工竣工、そして改装まで行う。
魔物を召喚し、各階に配備し、死亡した魔物や人間を廃棄する。
ダンジョンの宝箱の中身を錬金で造り出す。
他にもあり、多忙を極めている。
俺は転移転移で国都の屋敷に戻った。
幸い、夜遊びは誰にも気付かれてもいない。
部屋で自分自身に光魔法を起動した。
入浴と洗濯のライトクリーン。
心身の疲労を取り除くライトリフレッシュ。
お肌にダメージは残したくない。
おやすみ。
翌朝は何もなかった。
普通にモーニングして、学校へ行った。
街中も教室もいつも通り。
木曽の、否、美濃の騒ぎは到達していない。
国軍駐屯地の壊滅が大きいのだろう。
でも、早々に知れ渡るだろう。
美濃の寄親や寄子貴族からの知らせはないだろうが、
領都・岐阜に置かれた各ギルドから伝わる筈だ。
伯爵に装着した【奴隷の首輪】を忘れていた。
あれは滅多に出回らないダンジョン産。
なので残して置くのは拙い。
直ちに術式を解除し、風魔法で回収した。
アリスとハッピーが来た。
『伯爵はどうするの』
『ペー、ペ~だ』
『ここなら【魔物忌避】の術式で守られてるから大丈夫。
たぶん、通り掛かった誰かが助けてくれる』
伯爵のHPの減り具合は忘れよう。
俺達は領都・ブルンムーンに取って返した。
スタンピードを誘導する連中を探さねばならない。
集まった魔物達を氷雨と冷風で解散させたので、暴走は起こり様がない。
けれど、企んだ者達はそれを知らない。
今もどこかで虎視眈々と機会を窺っているはず。
広い範囲を探知スキルで探し回った。
思いの外、早く見つけた。
彼等は伯爵軍の後方で夜営していた。
誘い出された魔物達が伯爵軍を襲うと想定し、
そこに付け込むつもりでいたのだろう。
数は十二名。
思っていたよりも多い。
二人三人では済まないみたいだ。
鑑定で連中を調べた。
職業ではペイン商会が二名、ハニー商会も二名、
残り八名は『ジイラール教団』。
何れも、まごうこと無き伯爵の債権者。
所属は違うが、一蓮托生の関係のようだ。
十二名をスキルで分けた。
火魔法使いが四名、テイマーが四名、護衛が四名。
この陣容で誘導するのだろう。
出来る、出来ないは、経験者ではない俺には判断が付き兼ねた。
直ぐ傍に箱馬車三輛があった。
馬車の荷物をも鑑定して判明した。
多数の【魔物誘引剤】を積載していた。
国やギルドが禁止している高性能品だ。
呆れを通り越して、言葉がない。
どこで手に入れたのやら。
要するに飴が【魔物誘引剤】で、鞭が火魔法なのだろう。
テイマーと誘引剤で文字通り誘い出し、火魔法で退路を遮断する。
方法としては利に適っていた。
ただし、本当に都合良く運ぶかどうかは分からない。
何しろ【魔物誘引剤】の効果の程が分からないのだ。
下手すれば彼等も巻き込まれ、戻らぬ人になる可能性なきにしも非ず。
俺は伯爵から聞き出した事を、アリスとハッピーに手短に話した。
そして協力を求めた。
『僕はそろそろ戻るよ。
通学している子供だからね。
そこで二人に頼みがあるんだ。
この連中を尾行して、本拠がどこにあるのか調べてくれないかな』
アリスが俺の目の前で、クルリと蜻蛉を切った。
『私が本拠を潰しても良いかな』
ハッピーもアリスへの対抗心を露わにした。
丸い身体で蜻蛉を切る仕草。
『ポー、潰す』
スライムのハッピーはどこが頭で、どこが足なのか、さっぱり分からない。
だから、それで蜻蛉を切ったと言えるのか・・・。
疑問は疑問のままにした。
『潰すのは連中の全貌が分ってからだよ。
誰が首謀者なのか、そこを知らないとね』
人には許容範囲という物がある。
その範囲は人によって違う。
入れ物に例えれば、おちょこサイズの者もいれば、釜サイズの者、
風呂サイズの者、琵琶湖サイズと人によって様々。
俺は広い方だと思っていたが、今回の件は範囲を大きく外れていた。
俺が狙われるなら未だしも、領民を駒扱いにするとは。
アリスが俺の心を読んだらしい。
『ウワー、怒ってる、怒ってる。
そうか、本気で潰すのね』
『パー、手伝う、手伝う』
転移しようとした俺をアリスが呼び止めた。
『お願いがあるの』
『僕に出来ることなら』
『尾行に調査、二つともなると、人手が足りないわ。
そこで提案なのよ。
山城ダンジョンで私の里の妖精達を鍛えているでしょう。
彼女達の手を借りても良いかしら』
確かに妖精の里の子達をダンジョンで鍛えていた。
希望する子達のみに限っているが、それでも数は多いと聞いていた。
ただ、相手は魔物やトラップ。
各階に配備された魔物やトラップをクリアし、
現在は最下層の地下二十階を目指していた。
そこでは対人戦は全く想定していない。
困ったことに、一番怖いのは人間なのだ。
欲の皮の突っ張った人間は狙ったものを得る為なら何でもする。
恥も外聞もない。
目の前のアリスも甘言と酒で捕獲された口。
『対人戦の機会にするのかな』
『そうよ、今回の件は都合が良いものね』
『分かった。
アリスにはハッピーがいる様に、必ず誰かと組ませること。
一人が前衛、もう一人が後衛。
心配なら中衛を入れて欲しい。
その際、反撃してもいいけど、逃げるのが最優先。
妖精に戦死者は出したくない』
聞いたアリスがニコニコ。
『ありがとう。
それでね、全員をダンの眷属にしたらどうかしらね』
それは考えていなかった。
『否、しない。
アリスとハッピーだけで十分だよ』
アリスとハッピーからの好感度が上がったようだ。
二人の周りの空気が生暖かい気がした。
『それじゃあ、私の仲間のままで良いのね』
『それでお願い』
俺はハッピーに確認した。
『仲間のダンジョンスライム達はどうする』
『ピー、ダンジョンでお腹一杯~』
ダンジョンスライムはダンジョンマスターの配下として、
ダンジョンの管理一切を行う存在。
ダンジョンの設計着工、施工竣工、そして改装まで行う。
魔物を召喚し、各階に配備し、死亡した魔物や人間を廃棄する。
ダンジョンの宝箱の中身を錬金で造り出す。
他にもあり、多忙を極めている。
俺は転移転移で国都の屋敷に戻った。
幸い、夜遊びは誰にも気付かれてもいない。
部屋で自分自身に光魔法を起動した。
入浴と洗濯のライトクリーン。
心身の疲労を取り除くライトリフレッシュ。
お肌にダメージは残したくない。
おやすみ。
翌朝は何もなかった。
普通にモーニングして、学校へ行った。
街中も教室もいつも通り。
木曽の、否、美濃の騒ぎは到達していない。
国軍駐屯地の壊滅が大きいのだろう。
でも、早々に知れ渡るだろう。
美濃の寄親や寄子貴族からの知らせはないだろうが、
領都・岐阜に置かれた各ギルドから伝わる筈だ。