ベティ王妃はケーキを味わいながら考えた。
バート斎藤侯爵は元々が美濃の寄親伯爵。
歴史ある一族の生まれ。
それも、嫡男の不祥事で美濃での影響力は一掃された。
ところが伝手が残っていると言う。
おそらく一掃されたのは、斎藤伯爵家由来の貴族だけで、
平民クラスが残っているのだろう。
現在の美濃代官とも接触があるとも言う。
これまでの経緯から、親密度までは期待していないが、
それでも無いよりは良い。
「その代官はカールかしら。
ポール細川子爵の弟の」
珈琲を飲んでいたバートが上目づかいで頷いた。
「はい、そうです。
弟のカール細川子爵殿です。
兄弟揃って爵位が同じで面倒臭いですな。
そろそろポール殿の爵位を上げてはどうですかな」
バートの言葉に棘はない。
「そうね、・・・。
今回の騒ぎで深手を負わせてしまったわ。
お詫びも上乗せね。
ところで、貴方はカールとは親しいの」
バートはカップはテーブルに下ろした。
「ええ、伝手の者達が代官所やギルトに転職しておりまして、・・・、
お陰で助かってます」
伝手とは、かつて彼に仕えていた平民の文武官に違いない。
助かってますとは言うものの、忸怩たるものがあるのか、言葉に力がない。
「カールとは親しいの」
「まあまあですな」
ベティは突っ込んだ。
「寄親伯爵とは」
ダンタルニャン佐藤伯爵だ。
バートは頭を傾けながら応じた。
「そうですな、親しいのかと問われると、・・・。
顔を合わせる機会があれば、挨拶する程度です。
何しろ相手は子供ですからな」
確かにそうだ。
相手は子供。
共通の話題などないだろう。
この言葉にも棘はない。
「その佐藤伯爵だけど、レオン織田伯爵とは親しいそうね」
彼の娘婿、レオン織田伯爵。
バートは胡乱な目色。
「ああ、あれですか。
三河の一件ですな。
忙しそうなので詳しくは聞けておりませんが、支援を受けたそうで、
それに大いに感謝している、そう申しておりました」
これ幸いだ。
彼に頼んでおこう。
「貴方に内緒でお願いがあるの」
「何でしょう」
「なるべくで良いから、佐藤伯爵との接触を増やして欲しいの。
相手が子供だから大変なのは分かるわ。
それでも、彼の為人を、第三者の目で調べて欲しいのよ」
バートは苦笑い。
「ええ、努力しましょう。
・・・。
本気で王配にとお考えなのですか」
王宮に出仕している者達は、佐藤伯爵を将来の王配、そう噂していた。
それはベティも彼女の周辺も聞いていた。
ので、ベティは笑顔で応じた。
「まだそこまではね。
・・・。
今は好ましい子供だけど、先は分からないわ。
人はちょっとした事で変わるだしょう」
バートの嫡男もそうだった。
子供時代は利発だった。
それで油断していた。
黙ってしまったバートを無視してベティは続けた。
「取り敢えず、近い将来、織田伯爵と佐藤伯爵を私の両輪とするつもりよ。
走らせて走らせて、イヴの時代の礎を築いてもらうわ」
酷使するとまでは言わない。
「承知しました。
佐藤伯爵との接触を増やします」
「ええ、お願い。
その代わりと言っては何だけど、貴方の孫世代には配慮するわ」
言外に侯爵家の、現在の後継者候補は頼りなし、
つまり、一世代飛ばして孫世代を考えなさい、そう匂わせた。
これにバートも困った表情。
他人に言われると腹が立つのだろう。
されど言葉の主は王妃。
溜息を漏らすので精一杯、渋々頷いた。
「何卒良しなに」
遠慮はしない。
ベティは珈琲とケーキをお替りした。
モンブランではなく苺が運ばれて来た。
苺ショートを一口、これも美味い。
珈琲で口を潤した。
「苺も良いわね。
これも瓶詰かしら」
「ええ、卸す程の量はありませんが」
「モンブランにしても苺にしても、
卸せるようになったら真っ先に後宮に入れて欲しいわね」
「承りました。
・・・。
それで本日の御用向きは」
ベティは笑いで誤魔化した。
「ふっふっふ、そうだったわね」
ベティは本題を切り出した。
「今月の評定衆の月番は侯爵殿ですわよね」
「はい、不肖某が」
「貴方に頼みがあるの」
彼に否はない。
「なんなりと」
「そろそろ反乱を終息させる時期が来たと思わない」
王弟を旗頭にした島津家の乱、王兄を旗頭にした尼子家の乱、
そして関東代官の乱。
「思います、そろそろかと。
そういえばですな、噂ではあの子供伯爵殿が三好侯爵と毛利伯爵に、
似たような意見を具申されたとか聞き及んでおりますが」
「そうなのよ、あの子が申すように時期が来たのでしょうね。
それで貴方には評定衆をその方向で動かして欲しいの」
パートは苺を口にした。
味見するようにゆっくり味わう。
「三好侯爵と毛利侯爵には」
「明日、二人と合う予定を組んでるわ。
あの二人に同意させる、心配しないで」
「そうですか」
「最新の島津方面の情報よ。
実はね、島津が外国の傭兵団が雇っているそうなの」
「まさか」
「事実よ。実際に戦場で傭兵団が目撃されてるの。
これは砂漠の向こうからの進軍ルートが確立された証よ。
このままでは拙いわ」
「確かに」
「急いで乱を終息させる必要があると理解してくれた」
「ええ、理解しましとも。
早速中間派を集めて意志の統一を図ります」
バート斎藤侯爵は元々が美濃の寄親伯爵。
歴史ある一族の生まれ。
それも、嫡男の不祥事で美濃での影響力は一掃された。
ところが伝手が残っていると言う。
おそらく一掃されたのは、斎藤伯爵家由来の貴族だけで、
平民クラスが残っているのだろう。
現在の美濃代官とも接触があるとも言う。
これまでの経緯から、親密度までは期待していないが、
それでも無いよりは良い。
「その代官はカールかしら。
ポール細川子爵の弟の」
珈琲を飲んでいたバートが上目づかいで頷いた。
「はい、そうです。
弟のカール細川子爵殿です。
兄弟揃って爵位が同じで面倒臭いですな。
そろそろポール殿の爵位を上げてはどうですかな」
バートの言葉に棘はない。
「そうね、・・・。
今回の騒ぎで深手を負わせてしまったわ。
お詫びも上乗せね。
ところで、貴方はカールとは親しいの」
バートはカップはテーブルに下ろした。
「ええ、伝手の者達が代官所やギルトに転職しておりまして、・・・、
お陰で助かってます」
伝手とは、かつて彼に仕えていた平民の文武官に違いない。
助かってますとは言うものの、忸怩たるものがあるのか、言葉に力がない。
「カールとは親しいの」
「まあまあですな」
ベティは突っ込んだ。
「寄親伯爵とは」
ダンタルニャン佐藤伯爵だ。
バートは頭を傾けながら応じた。
「そうですな、親しいのかと問われると、・・・。
顔を合わせる機会があれば、挨拶する程度です。
何しろ相手は子供ですからな」
確かにそうだ。
相手は子供。
共通の話題などないだろう。
この言葉にも棘はない。
「その佐藤伯爵だけど、レオン織田伯爵とは親しいそうね」
彼の娘婿、レオン織田伯爵。
バートは胡乱な目色。
「ああ、あれですか。
三河の一件ですな。
忙しそうなので詳しくは聞けておりませんが、支援を受けたそうで、
それに大いに感謝している、そう申しておりました」
これ幸いだ。
彼に頼んでおこう。
「貴方に内緒でお願いがあるの」
「何でしょう」
「なるべくで良いから、佐藤伯爵との接触を増やして欲しいの。
相手が子供だから大変なのは分かるわ。
それでも、彼の為人を、第三者の目で調べて欲しいのよ」
バートは苦笑い。
「ええ、努力しましょう。
・・・。
本気で王配にとお考えなのですか」
王宮に出仕している者達は、佐藤伯爵を将来の王配、そう噂していた。
それはベティも彼女の周辺も聞いていた。
ので、ベティは笑顔で応じた。
「まだそこまではね。
・・・。
今は好ましい子供だけど、先は分からないわ。
人はちょっとした事で変わるだしょう」
バートの嫡男もそうだった。
子供時代は利発だった。
それで油断していた。
黙ってしまったバートを無視してベティは続けた。
「取り敢えず、近い将来、織田伯爵と佐藤伯爵を私の両輪とするつもりよ。
走らせて走らせて、イヴの時代の礎を築いてもらうわ」
酷使するとまでは言わない。
「承知しました。
佐藤伯爵との接触を増やします」
「ええ、お願い。
その代わりと言っては何だけど、貴方の孫世代には配慮するわ」
言外に侯爵家の、現在の後継者候補は頼りなし、
つまり、一世代飛ばして孫世代を考えなさい、そう匂わせた。
これにバートも困った表情。
他人に言われると腹が立つのだろう。
されど言葉の主は王妃。
溜息を漏らすので精一杯、渋々頷いた。
「何卒良しなに」
遠慮はしない。
ベティは珈琲とケーキをお替りした。
モンブランではなく苺が運ばれて来た。
苺ショートを一口、これも美味い。
珈琲で口を潤した。
「苺も良いわね。
これも瓶詰かしら」
「ええ、卸す程の量はありませんが」
「モンブランにしても苺にしても、
卸せるようになったら真っ先に後宮に入れて欲しいわね」
「承りました。
・・・。
それで本日の御用向きは」
ベティは笑いで誤魔化した。
「ふっふっふ、そうだったわね」
ベティは本題を切り出した。
「今月の評定衆の月番は侯爵殿ですわよね」
「はい、不肖某が」
「貴方に頼みがあるの」
彼に否はない。
「なんなりと」
「そろそろ反乱を終息させる時期が来たと思わない」
王弟を旗頭にした島津家の乱、王兄を旗頭にした尼子家の乱、
そして関東代官の乱。
「思います、そろそろかと。
そういえばですな、噂ではあの子供伯爵殿が三好侯爵と毛利伯爵に、
似たような意見を具申されたとか聞き及んでおりますが」
「そうなのよ、あの子が申すように時期が来たのでしょうね。
それで貴方には評定衆をその方向で動かして欲しいの」
パートは苺を口にした。
味見するようにゆっくり味わう。
「三好侯爵と毛利侯爵には」
「明日、二人と合う予定を組んでるわ。
あの二人に同意させる、心配しないで」
「そうですか」
「最新の島津方面の情報よ。
実はね、島津が外国の傭兵団が雇っているそうなの」
「まさか」
「事実よ。実際に戦場で傭兵団が目撃されてるの。
これは砂漠の向こうからの進軍ルートが確立された証よ。
このままでは拙いわ」
「確かに」
「急いで乱を終息させる必要があると理解してくれた」
「ええ、理解しましとも。
早速中間派を集めて意志の統一を図ります」
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