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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(呂布)298

2013-12-26 22:02:09 | Weblog
 遠ざかる蔦美帆の後ろ姿を見遣りながら呂甫が呂布に問う。
「あいつと話しが弾んでいたな。誰だか覚えていたのか」
「ついさっき気付いたばかりだ。
昔は色黒で男が女か分からず、みんなに男と間違えられていた。
それが、一人前の娘になっていたとはな、驚いた」
 呂甫が微妙に表情を歪めた。
「惚れたか」
「佳い娘だが、今の俺はそれどころじゃない」
 それを聞いて呂甫が表情を緩めた。
「そうか、そうだな。
・・・。
ここで待っていてくれ。
仲間達を呼んでくる」
「何か手伝うことはないか」
「お客さんはじっとしているんだ」
 呂布は驚いて目を剥いた。
「俺を客扱いするのか」
「いいじゃないか。
苦労したんだ。少しは甘えろよ」
「わかった。
・・・。
娘達も連れて行くのか」
「下手な断り方をすると、後が煩いんだよ」とお手上げの身振り。
 呂甫までいなくなり、呂布は一人になった。
のんびり左右を見回した。
放牧された馬や牛がいて、それを牧童が見守っているだけ。
他には誰もいない。
 呂布の金髪を風が揺らす。
頭上に黒い影。
空を見上げた。
大きな翼を広げた鳥が一羽、飛んでいた。
鷲。大鷲。
遠目に羽根の色艶が見て取れた。
見惚れるほどに美しい。
上空の風に乗って悠々と旋回していた。
大鷲を敬遠してか、近くに他に鳥の姿はない。
 呂布は大鷲に自分を投影した。
誰に向けて空高く姿を露わにしているのか。
家族兄弟に自分の居場所を知らしめているのか。
それとも仲間達にか。
あるいは他の猛禽類に対し、自分の縄張りを主張しているのか。
一羽で寂しくないのか。
孤高を楽しんでいるのか。
 呂布は、「自分は一人だ」と実感した。
この村の縁戚達は暖かく迎えてくれたが、本当の血の繋がりはない。
所詮は他人。
望まれて生まれた身ではない。
だから好意に長く甘えてはいられない。
 最初に現れたのは美帆だった。
いかにも勝ち気そうな娘三人を同道して現れた。
涼州生まれらしく、何れもが巧みな騎乗振り。
軽武装をしているので、追い返す気も起きない。
 ほどなくして呂甫が仲間五人を引き連れて現れた。
こちらも騎乗に慣れた者ばかり。
彼等も軽武装をしていた。
 だけではなかった。
荷馬車が二両、遅れて現れた。
野営用の天幕から食料、酒、のみならず盾や弓までも積んでいた。
馭者は呂真家の牧童であった。
馭者が二人。
これに強持てそうな牧童四人が軽武装で付き従う。
 村の青年六人、娘四人、牧童六人。
ずいぶんな人数になった。
みんなを見回して、呂布は呂甫に問う。
「人数が多いのは結構だが、戦するような身支度だな」
「道中、何が降りかかるか分からないからな」
「俺の村までだろう。朝早く立てば一日の距離」
「そうなんだが、最近は昔に比べて治安が悪化していてな。
この辺りでも賊や暴れ者が平気で伸し歩く有様だよ。
だから、近くの村に行くのでさえ、この身支度」と腰に履いた太刀をポンポンと叩いた。
 美帆達が先頭に立った。
キャッキャッと騒ぎながら馬を進めた。
村の中心を避け、脇道から迂回して表街道に出た。
 表街道は相変わらず賑わっていた。
土地の人間だけでなく、行き交う旅人、商人の姿も目立つ。
西域へ向かう者達がいれば、当然ながら西域から戻って来る者達もいた。
希望に胸膨らませて向かう隊商。
満面の笑みで戻って来る隊商。
一部ではあるが、沈んだ空気の隊商も見受けられた。
 呂甫の意見で早めに野営地を探した。
これからだと多喜村に到着するのは深夜になるので、誰も異は唱えない。
牧童の一人が、泉が湧き出る場所を知っていたので、そこを野営地とした。
 呂布は気付いた。
誰も、これから向かう多喜村の名を口にしない。
みんな楽しげな顔で道中しているが、誰一人、話題にもしない。
避けている感じがしないでもない。
口の軽そうな娘達からでさえ、そんな雰囲気が漂ってきた。

白銀の翼(呂布)297

2013-12-22 08:42:58 | Weblog
 呂布は蔦美帆に一瞥をくれただけ。
何も言わず、厩舎に隣接する放牧場に馬首を向けた。
そこも呂真の農場のうち。
すでに先客がいた。
呂真の家で育成している牛や馬が数頭、手前勝手に遊んでいた。
草をはむもの。
仲間と戯れるもの。
それを優しい眼差しの牧童一人が見守っていた。
呂布は彼に合図して、放牧場に乗り入れた。
 鞭を入れなくても馬は勝手に走った。
余力を残した軽い走り。
全力の走りではないが、一足、一足に躍動感があった。
どうやら長旅の疲れは抜けているみたいだ。
 その隣を美帆騎乗の馬が併走した。
黒髪を棚引かせた騎乗姿は、なかなか様になっていた。
他家の馬なのに、こうまで乗りこなせるとは。
馬慣れしているのが、よく分かる。
 呂布は、放牧場が競争する広さではないので、美帆の好きにさせた。
それを読んだのか、美帆がさらに馬を寄せて来た。
分けもなく、ニコニコ顔を向けて来た。
邪気のない顔。
 思い出した。
昔、この村に遊びに来ると、村の仲間と連んで、よく悪さをした。
ただの子供の悪さだったが、大人達には、よく怒られた。
「せっかく育てた収穫物なんだぞ」と頭を殴られたこともあった。
頭を並べて殴られる列に、女児が混じっていたことが二、三回あった。
色黒の女児で、呂布よりも三、四歳下だったはず。
その女児がいると呂布は、「代わりに俺の頭をぶってよ」と庇った。
名前までは覚えてないが、印象深い色黒の女児だった。
 呂布の表情の変化を読んだかのように美帆が問う。
「思い出してくれた」
「もしかすると、あの頃は色黒で、じゃじゃ馬だったよな」
 美帆が顔を綻ばせた。
「肩車をして貰ったこともあるわよ」
 呂布は記憶を辿った。
「あれか。
高い枝に生った桃を、千切りたいと駄々を捏ねた時だな。
しかし、ずいぶんと顔色が白くなった。見違えた」
 美帆は顔を赤らめた。
「佳い女になったでしょう」と恥ずかしさ半分。
 呂布は、「自分で言うか」と笑うしかない。
 釣られて美帆も明るく笑う。
 もう一つ、思い出した。
この村に入って来たときのこと。
農家の三人と商家の五人が、今にも掴み掛からんばかりの口論をしていた。
農家側の一人は呂甫だった。
その口論のなかで女の名前が上がった。
しっかり、「美帆」と聞こえた。
もしかして、この娘なのかも知れない。
争いの渦中にあっても不思議ではない女振り。
颯爽としてなお、ほんのり色香もある。
 呂布は、それとなく聞いてみた。
「嫁にゆく年頃だろう」
 美帆が困った顔。
「仲の良い娘達は、みんな嫁いだわ。
でもね、私思うの。
女に生まれたからといって、どうして嫁に出されるの。
子を産む為。
それだけの為に、この世に生を受けたの。
それだけじゃ、何だか詰まらなくない」
「小難しいことを・・・。
誰の影響を受けた」
 美帆は上目遣いをした。
「そうね。
家には旅の儒者や道家なんかが泊まりに立ち寄るの。
それらの方々の話しを聞いていたからかな」
 旅の儒者や道家が立ち寄る家とは。
と言っても儒者、道家に本物は少ない。
たいていの奴等は小難しい屁理屈を、さも真理のように巧みに語るだけ。
口舌の徒が多い。
人のいない竹林生活では役に立つだろうが、実生活では、ほとんど役に立たない。
「お前の家は宿だったのか」
「違うわ。
縁戚が都にいるので、その繋がりみたい」
 そういえば美帆の家の事情は知らなかった。
 そこへ呂甫が息せき切って駆けて来た。
呂布と美帆を交互に見ながら言う。
「呂布、そこにいたのか。探したぞ。
・・・。
奴等の態度に怒ったのか」
「すまんな、子供じみて」
 呂甫の家でなかったら連中を殴り倒していただろう。
「気持ちは分かる。
俺も奴等は嫌いだ。
お上の仕事を笠に着て、横柄に振る舞うだけで何の役にも立たない。
全く嫌な連中だ。
・・・。
後始末は親父がやってくれる。
俺達はここを離れよう」
「どうする」
「気晴らしに遠出でもしようか」
「もしかすると、連中が村に滞在するのか」
「その通り。しばらく滞在するらしい。
呂布は顔を合わせない方がいいだろう。
だから四、五日遠出だ。
そうだ、お前が生まれた村に行こうか。
いつかは戻って見なければならないだろう」
 美帆が口を差し挟んだ。
「私も一緒していいのよね」
「お前は・・・」と呂甫の口が重くなった。
「駄目なの」
「駄目だろう」と躊躇い勝ちに、
「仲間達を遠出に誘うが、そこに女一人は・・・」最後の言葉は濁した。
 美帆は呂甫を睨み、許されないと知るや、矛先を呂布に変えた。
「ねえ、いいでしょう」
「んー」と呂布は呂甫と視線を交わした。
 呂甫は肩を竦めた。
美帆を説き伏せるのは諦めたらしい。
 呂布は苦笑い。
「男達の中に女一人では、村でなんやかやと噂する者が出る。
それを呂甫兄さんは心配してるんだ」
「分かった」と表情を改めた美帆、
「何人か仲の良い女の子を連れて来る」と返事も聞かずに馬を走らせた。




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白銀の翼(呂布)296

2013-12-19 21:33:05 | Weblog
 呂布は赤嶺団を知らなかった。
村が襲撃された時も、奴隷として売られた時も知らなかった。
その名前すら知らなかった。
 中年男が説明してくれた。
十数年前までは涼州の西部にある山岳地帯に彼等の砦があった。
官軍が踏み込むのを躊躇うような勇猛果敢な少数民族が割拠する地域で、
そういう官軍の足元を見て、多くの盗賊団が同地に本拠を構えていた。
赤嶺団もその一つ。
赤嶺団の名は、砦のある高地の岩肌が赤っぽいことに由来した。
構成する人員は、最大時で、おおよそ二千。
一つの大きな村であった。
統率する首領の名は、「蒙儀」。
噂では元官軍の将官だったとか。
 呂布は、「手掛かりを得た」と思った。
蒙儀本人を捕らえるのは難しいだろうが、
多喜村襲撃を覚えている者なら誰でも構わない。
出来れば古株を捕らえて口を割らせる。
どこの奴隷商人に売ったのか。
それが分かれば次は奴隷商人を探し出す。
買った奴隷商人全員を捕らえてでも、売った先を命と交換に喋らせる。
十数年前の商売であっても必ず思い出させる。
誰それを、どこどこに売ったのかを。
手間はかかるが、他に手はない。
 その希望の光を中年男が打ち砕いた。
「ところがな」と。
「我らも多喜村との縁に連なる者達を集めて協議した。
州の官吏に任せようにも、当てにならないから、自分達で智慧を絞った。
そこで赤嶺団が怪しいで一致した」
 縁戚に連なる者達から資金を集め、信用の置ける武人達を雇い、
赤嶺団を調べさせるために少数民族が割拠する山岳地帯に送り込んだ。
その結果、意外な事が判明した。
赤嶺団は多喜村襲撃と同時期に姿を消していた。
本拠の砦は完全な無人。
金目の物は全て持ち去られていた。
 戻った武人達は状況から、
「赤嶺団は多喜村襲撃でかなりの収穫を得た。
それで他の盗賊団の襲撃を恐れて退去したのではないか。
あるいは何らかの理由で退去しなければならなくなった。
そこで最後の仕事として多喜村を襲撃した。
その何れかだろう」と推測した。
 落胆した呂布であったが、周囲がそれを許さない。
「呂布が戻った」という噂が近隣の村々に、あっという間に広がったせいで、
翌日より大勢が呂布目当てに押し寄せて来た。
いずれも多喜村に縁戚を持っていた者達ばかり。
みんなの質問が呂布一人に集中した。
赤嶺団は、どのようにして襲って来たのか。
村は、どのように応戦したのか。
どうして村は負けたのか。
誰それは、どのような最期だったのか。
多喜村に嫁に出した娘は、孫は、どこに売られたのか。
 当時、子供だった呂布が、全てに答えられる分けがない。
直に目にした事、耳にした事しか話せない。
押し寄せて来た者達も、それは重々承知していた。
芳しくない答えでも、文句は言わない。怒りもしない。
去り際に、みんなが、みんな、呂布の肩を抱いて言う。
「せっかく生きて戻ったんだから、長生きしろ」
「苦労したのでしょう。しばらく、ゆっくりすると良いわね」
 呂布は連日、同じ話を繰り返した。
飽きはしない。
疲れもしない。
みんなの気持ちが分かるので、自分でも驚くほどに丁寧に応対した。
 そんな所に、州の官吏が訪れて来た。
この辺りを巡廻していた州の騎馬隊であった。
口髭が印象的な武人が隊長で、副官一人、騎兵十騎を引き連れていた。
巡廻の途中で呂布の噂を耳にし、急遽、予定を変更して立ち寄ったのだそうだ。
訪問客を押しのけ、「当時の話しを聞きたい」と横柄な口振り。
 その態度に呂布の表情が引き攣る。
「順番を待て」
 実際、呂布と話しをする為に五人が順番待ちをしていた。
 口髭の隊長は自分の耳を疑う素振り。
「・・・待てと言ったのか」
「言ったが、どうした」と隊長を睨み付けた。
 隊長は不愉快そうな表情。
呂布を睨み返した。
「我らは、お上の仕事で来ている。それを何だ、その口のきき方は」
 呂布は立ち上がって隊長を見下ろした。
「お上がどうした。何か役に立つのか」
 従っていた副官が腰の太刀に手をかけた。
「その態度は何だ。お上に楯突くのか」と何時でも抜ける体勢。
 周りにいた者達が怖々と後退りを始めた。
 その様子に、呂布の傍にいた呂真、呂甫の親子が驚き、
慌てて両者の間に割って入った。
「まあ、まあ」と。
 呂布は怒りを抑えられない。
「今さら昔の話しを聞いて、どうするというのか。
当時でさえ役に立たなかったのに」と苦々しく思った。
太刀を履き、何も言わず、そのまま家を飛び出した。
 呂真の声が追って来た。
「呂布、どこに行く」
 聞こえぬ振りして足を速めた。
 気付いたら小さな足音が背後に迫っていた。
「ねえ、呂布。怒ったの」
 娘のような声。
 返事しないでいると、その者が足早に隣に並んだ。
剣舞で宴席を盛り上げた娘だ。
呂布が無視していると、「私、 蔦美帆」と名乗った。
 年頃は十八、九。
颯爽としていた。
 呂布は無視して厩舎に向かった。
自分の馬を引き出して、騎乗した。
すると蔦美帆も手頃な馬を選んで、厩舎から引き出し、騎乗した。
「どうするの」と呂布に問う。




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白銀の翼(呂布)295

2013-12-15 08:35:12 | Weblog
 奴隷生活の話しはしたくない呂布だったが、嫌な事は必ず誰かが聞いてくる。
実際、遠くから、「奴隷で辛くなかった」と年若い娘が声を上げた。
無邪気な瞳を呂布に向けてきた。
美事な剣舞で宴席を盛り上げた娘ではないか。
少し酒が入っているのか、顔が赤い。
真っ直ぐな興味だけで、他意はなさそう。
これでは邪険に出来ない。
みんなの目も興味津々。
 呂布は諦めた。
軽く喋る事にした。
「涼州の出身ということで牧場に回された。
最初の仕事は牧童の下働きだ。
すぐ牧童になれたから、苦労らしい苦労はしていない」
 奴隷生活を簡潔に纏めた。
苦労自慢もしない。
 赤ら顔の一人が突いてきた。
「奴隷の身分を買い戻したのか。それとも逃げて来たのか。
買い戻したのなら、大した才覚だ。
逃げて来たのなら、大した度胸だ」
 酔っぱらいの一撃は容赦がない。
「才覚の持ち合わせがないので、逃げて来た」と呂布は苦笑い。
 途端に、みんなから歓声が上がった。
拍手する者もいた。
 白髭の爺さんが顔をくしゃくしゃにして言う。
「よく逃げて来られた。立派、立派。
追っ手が来ても、儂達がこの村には一歩も入れん。
だから何の心配もするな」
 別の一人が激昂した口振り。
「そうじゃ、そうじゃ。
盗まれた物は持ち主に返すもの。
呂布もこの涼州から盗まれた物。涼州に戻して当然。
追っ手が来たら、俺が槍の錆にしてくれる」
「俺も、俺も」と騒々しくなった。
 呂真が、みんなに言う。
「落ち着け、みんな。
漢の大地は広い。隣り合わせの国も多い。
いったん逃げた者を探し出すのは、干し草の中から針を探し出すようなもの。
一介の商人の手には余る。
追っ手もそれを知ってるから、ここまでは追ってこないだろう」
 みんなが頷く。
逃げるだけなら、どこへでも逃げられる。
漢の大地はどこまでも地続きなのだ。
牧童の腕を活かして北方騎馬民族に紛れてもいい。
西域に向かってもいい。
南の蛮地もある。
いざとなれば、見た事はないが、東方には塩辛い水が広がる「大海」というものがあり、
果てしなく遠くまで、際限なく広がっているのだそうだ。
「そこへ船で漕ぎ出せば、さらに遠くまで行ける」とか。
 だけど呂布は逃げ隠れするつもりはない。
家族を探すのに、姿を晒すのを厭うわけには行かない。
向かって来る敵あらば、断ち斬るだけ。
堂々と白日の下に身を晒すつもりでいた。
みんなに、その点をはっきりと言う。
「どこに逃げるつもりもない。
やることが残ってる。
母や弟達、妹達を捜し出さねばならない」
 騒いでいた者達が押し黙る。
困惑したように互いに目を交わす。
 呂甫が飲んでいた手を止め、呂布を見た。
「探すなとは言わない。気持ちは分かる。
だけど何か手掛かりがあるのか」
 呂布は彼の方に顔を向け、「それがないから、ここに戻って来た」と言い、
みんなに正対して続けた。
「誰か、他に戻って来た奴はいないのか。
姿を見かけたという噂はどうだ。
追っ手を恐れて、隠れてはいないのか。
奴隷に買われた先からの便りは。
誰か何かないか。
あったらお願いだ。教えてくれ」
 みんな、めいめい勝手に喋りだした。
隣り合う者達と真剣に検討してくれた。
だが何も得られなかった。
さして期待していなかったので落胆はしない。
家族を探す方法は他にもある。
細い線だが、それを辿るのも手だろう。
 呂布は問う。
「俺達の村を襲った盗賊団の名は」
 傍の呂真がぎょっとした顔。
「それを聞いてどうする。
奴等を追うのか」
 呂布は平然と答えた。
「昔のことでも、あれだけの大仕事。誰か何か覚えているだろう。
どこの奴隷商人に売ったのか分かれば、探すには、それで十分。
そのついでに首領の首を落としてもいい」
 中年男の一人が答えた。
「じかに見た者は一人もいない。
だから、はっきりとは答えられない。
ただ、同じ時期に、あの辺りで見かけられた盗賊団は一つだけ。
赤嶺団と呼ばれる連中だ」




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白銀の翼(呂布)294

2013-12-12 21:48:12 | Weblog
 呂布は西域との交易路沿いの多喜村に生まれた。
呂真達の住む赤譜村からだと馬で北西へ一日ほど。
商人と牧畜で賑わう村で、宿や市場があり、敦煌ほどではないが大いに栄えていた。
 そういう村を盗賊団が襲った。
数にすると、およそ五百騎。
生憎、迎え撃つ多喜村に官軍は一兵も駐屯していなかった。
近隣の村も同様で、それを見越しての襲撃なのだろう。
だが、涼州の村々は自治意識が強く、外敵には共同して当たってきた。
盗賊団だけでなく、北方騎馬民族の侵入もあるからだ。
村の外に放牧に出掛ける牧童達が、その任に当たっていた。
放牧の傍ら、騎乗から四方に注意を払っていたのだ。
そして非常時には、それぞれの家々の成人男子が騎兵として、歩兵として出撃した。
この村は最大、騎兵三百余、歩兵四百余を抱えていた。
 騎兵の数では負けていたが、防御に徹すれば、まず負けることはないだろう。
村中から荷車が掻き集められ、盗賊団の来る方向に二重に並べられた。
荷車は馬止めの柵の代用として申し分なかった。
その後方で歩兵、騎兵が弓、槍で待ち受ける。
今回は、村に宿泊している隊商の者達が加勢を買って出てくれた。
数にして、およそ百余。うち騎兵五十余。
お陰で村側は余裕を持って事に当たれた。
 ところが盗賊団の先陣が襲来するや、事態が一変した。
加勢の筈の隊商の者達が裏切った。
問答無用で味方に弓を射てきた。
「盗賊団の一味が隊商を装っていたのか」と気付いた時には遅かった。
腹背両面から襲われ、防御陣が一瞬で壊れた。
 その時の呂布は前線の出来事は知らなかった。
知ったのは捕らわれた後。
間近に見ていた少年から委細を聞かされた。
 自宅の玄関前にいた呂布にも、味方の敗北の事実だけは分かった。
戦仕度の村の男達が必死な形相で逃げ惑うのを目の当たりにしたからだ。
それを狂気に染まった顔の盗賊団が追う。
やがて村の男達は追い立てられ、容赦なく切り刻まれた。
こうなると村は抵抗のしようがない。
たちまち占拠されてしまった。
盗賊団は村の者達を全員狩り集めた。
逆らう者を見せしめに殴り殺し、威嚇した。
成人以上の男子、老婆、病弱な者、彼等は一箇所に集められ、
一人残らず槍で突き殺された。
残されたのは健康な女子供のみ。
 盗賊団が手際の良さをみせた。
商家や市場の蔵を打ち破って金目の物を運び出し、
村に点在する牧場から集めた何両もの荷馬車に積んで行く。
実に手慣れていた。
その後で女子供も、何両かの荷馬車に分けて乗せられた。
呂布もその一人。
捕らえられた際に抵抗したので殴り倒され、手足を縛られて荷台に転がされた。
 養父の遺体は見ていないが、殺されたのは間違いないだろう。
だが、受け入れ難い。
現実が直視出来ない。
「悪い夢なら早く覚めよ」と願った。
 やがて荷馬車が動き出した。
でこぼこな悪路を走っているせいか、荷台で何度も全身を打った。
その度に近くで呻く声が幾つも上がった。
同じ荷台に十人の少年が囚われていた。
何れも呂布同様に手足を縛られていた。
 痛みで、ようやく呂布は現実を直視した。
最も大切な事を思い出した。
母、弟三人、妹二人の顔、顔。
隣の少年に、自分の家族の安否を尋ねた。
その少年は役に立たなかったが、別の少年が教えてくれた。
「小母さんは双子と一緒に、別の荷馬車に乗せられた」と。
 母が二歳になったばかりの双子の妹と一緒だと知って少し安堵した。
弟三人も八歳、六歳、四歳と年少なので、無抵抗で捕らえられたはず。
「その公算が大きい」と自分で自分を納得させた。
 しかし、家族とは二度と会えなかった。
次の日、呂布達を乗せた荷馬車一両のみが別方向に向かった。
そして四日後、荷馬車ごと奴隷商人に引き渡されてしまった。
益州の奴隷商人に一両丸ごと、買い取られたのだ。
 気付くと酒宴が静まっていた。
呂真一人に話していたつもりが、何時の間にか、みんなが耳を傾けていた。
顔をくしゃくしゃにする者がいれば、涙する者もいた。
たとえ十数年経っていても、昔話では片付けられない。
他人事でも片付けられない。
みんなにとっては大切な、大切な隣村の真実。
呂真のように縁戚も、友人、知人も当然ながら大勢いて、堅い絆で結ばれていた。
それは思い出となった今でも変わらない。
 一人が呂布に問う。
「それで呂布は奴隷として売られたのか」
 自嘲気味に答えた。
「金髪碧眼が珍しかったのだろう。一番に売れてしまった」
 奴隷時代のことまで詳細に説明するつもりはない。
ことに、ここ最近の出来事は血生臭くて、人様に自慢が出来ない。




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白銀の翼(呂布)293

2013-12-08 08:34:46 | Weblog
 直ちに呂布を歓迎する宴席が設けられた。
呂真家に繋がる者だけでなく、近隣の農家の者も大勢が招かれた。
当然ながら、子供の頃の呂布を見知っている者達もいた。
その者達は呂布が無事に戻ったこと、偉丈夫に育ったことを心から喜んでくれた。
「育ちすぎ」と笑う者もいたが、呂布はなんであれ嬉しかった。
故郷に戻ったと実感し、ときおり涙した。
 芸達者な者が幾人もいて、それぞれが得意とする芸を披露し、宴席を盛り上げた。
歌あり、踊りあり、剣劇あり。
大人達は男も女も酒に酔って馬鹿騒ぎ。
子供達も勝手に遊び回り、あちこちに出没しながら摘み食い。
気付くと、近くを通りかかった者達までもが招き入れられていた。
ついには、「酒や肴が足りない」と下働きの女達が騒ぐので、
男の使用人が幾人か、村の市場に買い出しに出掛ける始末。
即席の酒宴が祭りのような騒ぎになった。
 その様子を呂真は鷹揚な顔で見守っていた。
酒が入っても性格は変わらない。
ゆっくり呂布の方に顔を向けた。
酒を勧めた。
「どうだ、落ち着いたか」
「はい、久しぶりに」
 呂真が言いにくそうな顔。
それでも、何とか言葉にした。
「話したくなければ、話さなくても構わない。
・・・。
あの日、何があったのか覚えているか」
 あの日・・・。
十数年前のあの日しかない。
盗賊団が村を襲った日のことだ。
「忘れるなど」有り得ない。
鮮明に、昨日のように、よく覚えていた。
「呂真伯父さん、逃げ延びた者とか、生き残った者はいなかったのかい」
「あの日、農作業とか、商用で村を留守にしていた者は幾人かいた。
でも、あの日の生き証人は一人もいなかった。
完璧な皆殺しだった」
 呂布は椀の酒を飲み干した。
空になった椀を下に置き、ゆっくりと語る。
 呂布十歳の、あの日。
早朝だった。
外の騒がしさに目を覚ました。
「厩舎の馬が騒いでいるのか」と思ったが、違った。
「盗賊団が来る、男達は戦仕度で集まれ」と数人が馬上から声を上げて駆け回っていた。
 養父、呂威は牧場に出ようとしていた。
盗賊団襲来を知ると表情を引き締めた。
尻込みはしない。
普段は人の良い優しい男だが、本性は涼州人気質そのもの。
売られた喧嘩は何であれ買う。
買ってから何だったのかを考える。
 呂威は踵を返して当然のように戦仕度を始めた。
それを母が慌てて手伝う。
呂威は戦仕度を終えると近くにいた呂布に気付いた。
にわか作りの優しい顔で手招きした。
「母さんや、みんなを頼む」と後事を託して抱きしめた。
いつもより力強い抱擁だった。
呂布は思わず、「はい、任せて」と約束した。
呂威は嬉しそうに頷き、厳しい顔に戻ると急いで家を飛び出した。
 呂布は心配になり、見送りに出た。
呂威は厩舎から馬を引き出すと、それに跨って村の広場へ急いだ。
呂威家の牧場で働いている牧童達も戦仕度で馬に跨り、続いた。
隣近所の男達も、それぞれが騎乗の人となり、戦仕度の牧童達を従え、
あるいは農夫達を従えて村の広場へと急ぐ。




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白銀の翼(呂布)292

2013-12-05 21:21:33 | Weblog
 呂布は馬を止めた。
言い争っている一人に見覚えがあった。
最後に遊んだのは十数年前だが、あの頃の面影が残っていた。
呂布より二つ年上。
優しかった呂甫。
養父、呂威が懇意にしていた呂真の息子だ。
血の繋がりはないものの、親子揃って呂布を縁戚同様に可愛がってくれた。
その呂甫が今、激昂していた。
仲間二人を従えて、五人に相対峙していた。
 呂布は馬を路地に乗り入れた。
言い争っている者達が気付かぬわけがない。
旅の者らしい偉丈夫に、みんなの腰が引けた。
呂布が馬上より一同を睥睨した。
馬も呂布に倣ったのか、鼻息荒く嘶いて威嚇した。
もう一頭の替え馬も真似た。
みんなの顔が強張る。
 呂布は頭と口元を覆っている布を外した。
金髪を露わにし、呂甫に声かけた。
「俺を覚えているか」
 強張っていた呂甫の表情が微妙に変化して行く。
やがて目が点になった。
心当たりがあるような顔。
口を半開き。
 呂布は笑いかけた。
「子供の頃、よく遊んでもらった。呂甫兄さん」
 呂甫が顔を崩し、「呂布か」と飛び上がるようにして駆けて来た。
 呂布は急いで下馬し、飛び込んで来る呂甫を受け止めた。
「久しぶり」
「呂布、お前、生きていたのか」
「なんとか生き延びた」
 呂甫が呂布の腹部をバシバシと叩き、
「俺よりも大きくなったな」と見上げた。
 見上げる呂甫の目から涙が零れ落ちた。
「すまんな」
「なにが」
「あの日、助けに行けなかった」
 呂布の村が盗賊団に襲われた日のことに違いない。
「あの頃は俺も呂甫兄さんも子供だった。どうしようもなかった」と目を濡らした。
「それはそうなんだが・・・」
「家に戻ろう。話はそれからで」と呂布。
 喧嘩相手の五人を無視して、家路についた。
呂真家の農場は昔通り、村外れにあった。
農家といっても大所帯。
大勢の使用人を抱えていた。
住み込みの農夫、牧童、木樵、下働きの女達。
それでも人手不足から、今では他州から流れて来た者達も雇っているのだそうだ。
 広い農場の中央に呂真一家の住む母屋。
その北側に使用人達の住む家や長屋。
南側には牛小屋、馬小屋があり、農場全体が柵で囲われていた。
 呂甫が農場入り口の番人小屋に声かけた。
「親父は」
「西の畑です」
 呂甫は通りがかりの農夫を呼び止めた。
「西の畑にいる親父を呼んで来てくれ。大事な客人だと」
 呂布は農夫の走る後ろ姿を見ながら、感心した。
「親父さんは、まだ畑に出てるのか」
「根が貧乏性なもので、率先して働かないと気が済まないらしい」
「昔のまんまか。親父さんらしいな」
 母屋の玄関脇の柵に馬二頭を繋ぎ、待っていると、
昔と変わらぬ顔をした呂真が急ぎ足で戻って来た。
変わったところと言えば、腹回り。
農作業で汗している筈なのに、かなり肥えていた。
 呂真の目が呂布に釘付けになった。
手前で足を止め、「穴が空くか」と思えるほど凝視した。
やがて驚きの表情。
そして破顔。
疑問が晴れたらしい。
一面に笑みを浮かべ、「呂布」と声を上げ、駆け寄って来た。
 呂布は両膝ついて、拱手をした。
「親父さん、ご無沙汰しておりました」
 呂真は呂布の手を掴み、強引に引き立てた。
「大きくなったな」と全身をバシバシと叩く。
 彼も息子同様に涙を零した。
「俺達は何の力にもなれなかった」
 呂布は目頭に熱いものを感じた。
堪えきれない。
涙が堰を切ったように溢れ出た。
懐かしい人達に会って気が緩んだらしい。
 頭一つ低い呂真が呂布を抱きしめた。
「とにかく元気で良かった、良かった」




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白銀の翼(呂布)291

2013-12-01 08:12:15 | Weblog
 呂布の目の端で味方の者達が次々と倒されて行く。
ある者は太刀で斬られ、ある者は槍で刺され、ある者は馬に蹴られ、事切れて行く。
盗賊団は容赦がない。
勢いのまま隊商側を押していた。
絶望の悲鳴が上がる。
しかし、呂布の心は微動だにしない。
焦りも怯えも生じない。
冷静に遠間から弓を引き絞り、敵味方乱戦で混在しているところに矢を放つ。
こちらに顔を向けている者を初見にも関わらず、
勘を働かせて敵味方何れかに識別した。
間違いを恐れない。
自分以外の者は弱い味方。
生きる障害物でしかない。
賊と呂布を遮る障害物として認識した。
間違えて射ることもあるだろう。
しかし、勝利を手にする為には必要なこと。
矢を放つ。
 風が呂布の金髪を揺らしていた。
呂布はその風を読みながら、ただひたすら矢を射ることに専念した。
味方の後頭部と後頭部の隙間から、敵の顔のど真ん中を狙う。
躊躇わない。
指が震えることもない。
遠間にも関わらず、狙った相手が動くにも関わらず、一本も外さない。
軽装備の盗賊団は、顔面までは防具で覆っていない。
そこが狙い目。
鼻を、目を、頬を、矢で射貫く。
それはもう神業。
 盗賊団も先頭にいた七、八人が矢の餌食となったところで、事態に気付いた。
誰かが、「弓を見つけて殺せ」と怒鳴る。
何騎かが呂布を認め、突入しようと図るが、途中の荷馬車の車列が邪魔をした。
警護の騎兵達の奮戦もあり、容易には接近出来ない。
 呂布の援護に力を得た隊商側が押し返し始めた。
ジリジリと失地を回復して行く。
 呂布も味方の前進に合わせて馬を進めた。
獲物を探す視線に怠りはない。
的確に近い者から順に射貫く。
右から接近しようが、左から来ようが、敵は一人も傍に寄りつかせない。
 矢筒の矢が残り少なくなったところで、前方で怒鳴り声が上がった。
悲鳴に近い声で、「退却」と。
盗賊団が一斉に背を見せた。
襲来も速いが、逃走も速い。
逃げ遅れて捕まれば、凄惨な私刑が待っている。
それを恐れて我先に逃げて行く。
 勢いに乗った警護の騎兵達が、怒りに任せて追撃を開始した。
これまた、我先に追って行く。
誰かが大声で呼び止めるのだが、頭に血の上った者達には届かない。
 呂布の碧眼に勝利の喜びは浮かばない。
怒りに任せて、持っていた弓、矢筒を投げ捨てた。
悲鳴を上げながら地面を転がる者達を見ても、大量に流れる血を見ても、
呂布の感情は覚めていた。
自分を隊商に誘ってくれた段揚の安否にも興味はない。
呂布は、そんな自分の感情が理解出来ない。
理解しようともしない。
ただ、周囲に視線を走らせ、自分の替え馬だけを探した。
 替え馬を連れ戻し、何も言わずに、荷馬車の車列を縫って街道を下る。
隊商の者達は仲間の傷の手当てと、生き残った賊の私刑に忙しかった。
呂布に気付いても、ほとんどは目を逸らすだけ。
誰一人声をかけようとする者はいない。
 無人になった関所を抜け、涼州を北へ向かう。
途中で出会う者達に道を確かめながら街道を下った。
旅汚れと、見るからに恐そうな偉丈夫なので、難癖をつける者はいない。
ここまでの旅程で浴びた血が臭うのかどうかは知らないが、
巡回中の騎馬隊十数騎がきつい一瞥をくれた。
が、視線を泳がせ、「触らぬ神に祟りなし」とばかりに通り過ぎて行く。
賊にも出会わない。
 宿があれば宿泊し、なければ農家の軒先を借り、何もなけば野宿して旅を続けた。
食い物は宿か飲み屋で済ませたが、人家がない所では獣か鳥を弓で射て、焼いた。
汗を流すために川を見つければ、寄り道し、水浴もした。
 数えていないのでハッキリとはしないが、十二、三日か。
村の入り口で白黒の大熊四頭が呂布を出迎えてくれた。
厄除けの置物である。
ようやく赤譜村に辿り着いた。
入り口からみただけだが、熊の数が増えただけで村の様相に変わりはなさそうだ。
 入り口には番所があり、番人が詰めて人の出入りを監視していた。
呂布が過ぎるとき、彼等の目が光るのが分かった。
危ぶんでいるのだろう。
だが、ここは西域との交易路の傍にあり、色々雑多な人間が大勢入って来る。
泊まる者、商う者、旅人、異邦人、わけあり者。
そんな連中をいちいち足留めし、問い質していては番人自身が疲れ切ってしまう。
警戒の視線を送るだけで、声はかけてこなかった。
 呂布は朧気な記憶を元に馬を進めた。
この村には呂布の養父、呂威の縁戚の家があった。
呂威と縁戚の家長が親しかったとこから、呂布も何度か訪れたことがあった。
 雑踏のなか、飲み屋を過ぎたところで、言い争う声を聞いた。
横の路地で若い男達が何人か、塊になって言い争いをしていた。
身に纏っている衣服から、農家の者三人、商家の者五人と分かった。
言葉の端々に女の名が出て来たところをみると、色恋沙汰であるらしい。




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