遠ざかる蔦美帆の後ろ姿を見遣りながら呂甫が呂布に問う。
「あいつと話しが弾んでいたな。誰だか覚えていたのか」
「ついさっき気付いたばかりだ。
昔は色黒で男が女か分からず、みんなに男と間違えられていた。
それが、一人前の娘になっていたとはな、驚いた」
呂甫が微妙に表情を歪めた。
「惚れたか」
「佳い娘だが、今の俺はそれどころじゃない」
それを聞いて呂甫が表情を緩めた。
「そうか、そうだな。
・・・。
ここで待っていてくれ。
仲間達を呼んでくる」
「何か手伝うことはないか」
「お客さんはじっとしているんだ」
呂布は驚いて目を剥いた。
「俺を客扱いするのか」
「いいじゃないか。
苦労したんだ。少しは甘えろよ」
「わかった。
・・・。
娘達も連れて行くのか」
「下手な断り方をすると、後が煩いんだよ」とお手上げの身振り。
呂甫までいなくなり、呂布は一人になった。
のんびり左右を見回した。
放牧された馬や牛がいて、それを牧童が見守っているだけ。
他には誰もいない。
呂布の金髪を風が揺らす。
頭上に黒い影。
空を見上げた。
大きな翼を広げた鳥が一羽、飛んでいた。
鷲。大鷲。
遠目に羽根の色艶が見て取れた。
見惚れるほどに美しい。
上空の風に乗って悠々と旋回していた。
大鷲を敬遠してか、近くに他に鳥の姿はない。
呂布は大鷲に自分を投影した。
誰に向けて空高く姿を露わにしているのか。
家族兄弟に自分の居場所を知らしめているのか。
それとも仲間達にか。
あるいは他の猛禽類に対し、自分の縄張りを主張しているのか。
一羽で寂しくないのか。
孤高を楽しんでいるのか。
呂布は、「自分は一人だ」と実感した。
この村の縁戚達は暖かく迎えてくれたが、本当の血の繋がりはない。
所詮は他人。
望まれて生まれた身ではない。
だから好意に長く甘えてはいられない。
最初に現れたのは美帆だった。
いかにも勝ち気そうな娘三人を同道して現れた。
涼州生まれらしく、何れもが巧みな騎乗振り。
軽武装をしているので、追い返す気も起きない。
ほどなくして呂甫が仲間五人を引き連れて現れた。
こちらも騎乗に慣れた者ばかり。
彼等も軽武装をしていた。
だけではなかった。
荷馬車が二両、遅れて現れた。
野営用の天幕から食料、酒、のみならず盾や弓までも積んでいた。
馭者は呂真家の牧童であった。
馭者が二人。
これに強持てそうな牧童四人が軽武装で付き従う。
村の青年六人、娘四人、牧童六人。
ずいぶんな人数になった。
みんなを見回して、呂布は呂甫に問う。
「人数が多いのは結構だが、戦するような身支度だな」
「道中、何が降りかかるか分からないからな」
「俺の村までだろう。朝早く立てば一日の距離」
「そうなんだが、最近は昔に比べて治安が悪化していてな。
この辺りでも賊や暴れ者が平気で伸し歩く有様だよ。
だから、近くの村に行くのでさえ、この身支度」と腰に履いた太刀をポンポンと叩いた。
美帆達が先頭に立った。
キャッキャッと騒ぎながら馬を進めた。
村の中心を避け、脇道から迂回して表街道に出た。
表街道は相変わらず賑わっていた。
土地の人間だけでなく、行き交う旅人、商人の姿も目立つ。
西域へ向かう者達がいれば、当然ながら西域から戻って来る者達もいた。
希望に胸膨らませて向かう隊商。
満面の笑みで戻って来る隊商。
一部ではあるが、沈んだ空気の隊商も見受けられた。
呂甫の意見で早めに野営地を探した。
これからだと多喜村に到着するのは深夜になるので、誰も異は唱えない。
牧童の一人が、泉が湧き出る場所を知っていたので、そこを野営地とした。
呂布は気付いた。
誰も、これから向かう多喜村の名を口にしない。
みんな楽しげな顔で道中しているが、誰一人、話題にもしない。
避けている感じがしないでもない。
口の軽そうな娘達からでさえ、そんな雰囲気が漂ってきた。
「あいつと話しが弾んでいたな。誰だか覚えていたのか」
「ついさっき気付いたばかりだ。
昔は色黒で男が女か分からず、みんなに男と間違えられていた。
それが、一人前の娘になっていたとはな、驚いた」
呂甫が微妙に表情を歪めた。
「惚れたか」
「佳い娘だが、今の俺はそれどころじゃない」
それを聞いて呂甫が表情を緩めた。
「そうか、そうだな。
・・・。
ここで待っていてくれ。
仲間達を呼んでくる」
「何か手伝うことはないか」
「お客さんはじっとしているんだ」
呂布は驚いて目を剥いた。
「俺を客扱いするのか」
「いいじゃないか。
苦労したんだ。少しは甘えろよ」
「わかった。
・・・。
娘達も連れて行くのか」
「下手な断り方をすると、後が煩いんだよ」とお手上げの身振り。
呂甫までいなくなり、呂布は一人になった。
のんびり左右を見回した。
放牧された馬や牛がいて、それを牧童が見守っているだけ。
他には誰もいない。
呂布の金髪を風が揺らす。
頭上に黒い影。
空を見上げた。
大きな翼を広げた鳥が一羽、飛んでいた。
鷲。大鷲。
遠目に羽根の色艶が見て取れた。
見惚れるほどに美しい。
上空の風に乗って悠々と旋回していた。
大鷲を敬遠してか、近くに他に鳥の姿はない。
呂布は大鷲に自分を投影した。
誰に向けて空高く姿を露わにしているのか。
家族兄弟に自分の居場所を知らしめているのか。
それとも仲間達にか。
あるいは他の猛禽類に対し、自分の縄張りを主張しているのか。
一羽で寂しくないのか。
孤高を楽しんでいるのか。
呂布は、「自分は一人だ」と実感した。
この村の縁戚達は暖かく迎えてくれたが、本当の血の繋がりはない。
所詮は他人。
望まれて生まれた身ではない。
だから好意に長く甘えてはいられない。
最初に現れたのは美帆だった。
いかにも勝ち気そうな娘三人を同道して現れた。
涼州生まれらしく、何れもが巧みな騎乗振り。
軽武装をしているので、追い返す気も起きない。
ほどなくして呂甫が仲間五人を引き連れて現れた。
こちらも騎乗に慣れた者ばかり。
彼等も軽武装をしていた。
だけではなかった。
荷馬車が二両、遅れて現れた。
野営用の天幕から食料、酒、のみならず盾や弓までも積んでいた。
馭者は呂真家の牧童であった。
馭者が二人。
これに強持てそうな牧童四人が軽武装で付き従う。
村の青年六人、娘四人、牧童六人。
ずいぶんな人数になった。
みんなを見回して、呂布は呂甫に問う。
「人数が多いのは結構だが、戦するような身支度だな」
「道中、何が降りかかるか分からないからな」
「俺の村までだろう。朝早く立てば一日の距離」
「そうなんだが、最近は昔に比べて治安が悪化していてな。
この辺りでも賊や暴れ者が平気で伸し歩く有様だよ。
だから、近くの村に行くのでさえ、この身支度」と腰に履いた太刀をポンポンと叩いた。
美帆達が先頭に立った。
キャッキャッと騒ぎながら馬を進めた。
村の中心を避け、脇道から迂回して表街道に出た。
表街道は相変わらず賑わっていた。
土地の人間だけでなく、行き交う旅人、商人の姿も目立つ。
西域へ向かう者達がいれば、当然ながら西域から戻って来る者達もいた。
希望に胸膨らませて向かう隊商。
満面の笑みで戻って来る隊商。
一部ではあるが、沈んだ空気の隊商も見受けられた。
呂甫の意見で早めに野営地を探した。
これからだと多喜村に到着するのは深夜になるので、誰も異は唱えない。
牧童の一人が、泉が湧き出る場所を知っていたので、そこを野営地とした。
呂布は気付いた。
誰も、これから向かう多喜村の名を口にしない。
みんな楽しげな顔で道中しているが、誰一人、話題にもしない。
避けている感じがしないでもない。
口の軽そうな娘達からでさえ、そんな雰囲気が漂ってきた。