金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

なりすまし。(122)

2017-01-29 05:39:55 | Weblog
 何かあるとは思っていた。
しかし、まさか実力行使に出るとは。
普通であれば城中での乱暴狼藉は言語道断。
発見されしだい当事者は拘束され、裁かれる。
ところが女官長やスグルの言動をみた限り、
人目を憚っている様子が全く感じ取れないのだ。
逆に、法に則っているとしか思えない。
背後に、それ相応の力を有している者が控えているのだろうか。
白を黒と認定できる者が。
 対応に迷っていると、背後で風が巻いた。
慌てて振り返った。
キャロルが後方から来る敵に敢然と立ち向かった。
猛ダッシュで、一人目が踏み出した足に組み付いた。
地下室でスグルに組み付いた時の再現だ。
あの時はスグルが困惑顔で動きを止めたように見えた。
今回も相手は困惑顔。
足を止めてキャロルを捕まえようと両手を伸ばした。
 相手の挙動がおかしい。
下半身が微動だにしない。
まるで固まったかのよう。
女児だからと手加減している分けではなく、本当に止められているように見えた。
まさか・・・。
 信じられぬ光景が展開された。
キャロルが。
相手の両手を難なく払い除け、股間を思い切り蹴り上げたのだ。
くぐもる音。
短い悲鳴。
 人の心配どころではなかった。
俺は背後から右肩を掴まれた。
鷲掴み。
俺は素速く身体を反転させ、その勢いで相手の体勢を崩した。
相手の動きが、よく見えた。
隙だらけの首筋に裏拳を飛ばした。
極めは、こちらも股間に蹴り一発。
続けて二人目、三人目。
軽くあしらい、いずれにも極めは股間への蹴り。
 四人目を求めて見回した。
二本足で立っていたのはキャロル一人。
そのキャロルが俺を見て、得意気に指四本を立てた。
彼女に息の乱れはない。
色を見るに、意気軒昂。
新たな敵が現れれば躊躇なく襲いかかるだろう。
 俺は物足りなく思った。
敵があまりに弱すぎた。
力を遣い尽くす前に倒してしまった。
俺は力を持て余していた。
持て余しているというのに、困った事に新たな力が涌いてくる。
沸々と、湧き上がる温泉のよう。
どうしてくれよう。
 見回すと七人が股間を押さえ、呻き声を上げ、のたうち回っていた。
スグルはと見れば、彼は表情を一変させていた。
家来達の惨憺たる有様に怒りを覚えたのだろう。
拳を握り締め、視線を俺に向けて来た。
殺意の籠もった目。
どうしてくれよう、とばかり。
女官長は彼の陰に隠れているので表情が分からない。
 そこへ新たな集団が現れた。
建物の陰から衛兵、およそ二十数人。
上番か下番かは知らぬが、交替の時刻なのだろう。
甲冑姿で整然と行進して来た。
 彼等がこちらの状況に気付いた。
先頭の衛兵が隊長らしい。
きびきびと指示を下した。
「全体とまれ。
一番隊、ただちに横隊つくれ。
二番隊は待機」
 こちらに向けて十人が横隊となるや、次の指示で槍を構えた。
 それを見たスグルが凍り付いた。
彼は実に分かり易い。
表情から混乱しているのが手に取るように分かった。
これは偶然の遭遇らしい。
衛兵の行動を止めようとするが、慌てているので声にならない。
 命令が下された。
「槍で押し包み、捕らえよ」
 事情を説明する暇は与えられなかった。
槍の穂先が俺とキャロルに向けられた。
抵抗すれば問答無用で槍が繰り出される。
さっきまでの喧嘩沙汰とは明らかに違う。
俺は覚悟した。
捕まるつもりは更々ない。
売られた喧嘩なので喜んで買う。
一度でも逃げると、逃げ癖が身に付く。
とにかく、まず買う。
勝ってから考える。
負け前提なんぞは論外。
 のたうち回っている奴のサーベルに手を伸ばし、白刃を抜いた。
軽く振ってみた。
手頃な重さでバランスが良い。
 俺を真似てキャロルもサーベルを手にした。
長いので持て余すかと思ったが、違った。
駆けて来る衛兵をチラ見しながら、サーベルを巫山戯るように大きく振り回した。
 俺は思わず聞いた。
「人の斬り方が分かるのか」
「知らやね。
・・・。
カルメン、真似る」標準語も真似る気になったらしい。
 俺達がサーベルを手にしたのを見て、
横一線になって駆けて来る衛兵達が残虐な色を浮かべた。
槍の穂先も上向いた。
相手が女児を含む姉妹と分かっても、手加減せぬつもりらしい。




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なりすまし。(121)

2017-01-22 07:41:45 | Weblog
 俺にとってスグルの登場も女官長の豹変も、どうでもよかった。
二人とも最初から期待していた人物ではなかったので、ほんと、どうでもよかった。
ちょっとだけ驚きはしたが、跡の残らぬ掠り傷のようなもの。
鼓動に変化なし。
冷静に周囲を見回した。
 特異点を見つけた。
彼等と衛兵の差異に気付いた。
太刀の仕様が違っていた。
腰から下げるサーベルであることは同じなのだが、
よく観察すると小さな部分が違っていた。
衛兵に限らず、これまで見掛けた者達は柄が短く、片手剣であった。
ところがスグル達のサーベルは柄の部分が長かった。
両手での使用も考量しているのだろう。
 キャロルが俺の袖口を引いた。
耳を貸せという仕草。
俺が腰を屈めると、「おもへ」耳元に囁く。
目が爛々と輝いていた。
引き籠もりの座敷童子は完全に昔話。
今のキャロルは肝が据わっていた。
 キャロルの意気込みは伝わったが、身体は女児。
大人相手ではキツイ。
ヘビー級とベビー級。
無謀。
地下室でスグルの足に組み付いた一件が脳裏を掠めた。
そこでキャロルに小声で注意した。
「勝手に飛び出すな。何かあったら俺の背中に隠れていろ、俺が守る」
 キャロルは御不満らしい。
口を噤んで俺をジッと見た。
言い聞かせている場合ではない。
俺は視線をスグルに転じた。
「お城のお偉い方が、俺達二人に渡したい物があるそうだが」
 スグルは苦笑いで済ましたが、他の者達が黙っていなかった。
「その口の利き方はなんだ」
「我が主人に無礼だ」
「子爵様に対して失礼であろう」口々に非難した。
 始めてスグルが子爵だと知った。
様子から、彼等が子爵の家来だとも分かった。
 スグルが彼等を黙らせ、一人に指示した。
「あれを」
 其奴が進み出、俺とキャロルに小物を差し出した。
長円形の銀板で、両端に穴が空けられてチェーンがついていた。
これは所謂、認識票ではないか。
 スグルが言う。
「身分票だ。
金板は王族で、銀板は貴族ないしは騎士、銅板は庶民と決められている。
二人は姫様の客人だから、例外で銀板を用意した。
板に刻まれた紋様が国章で、どの国の人間で、如何なる身分かが分かる。
これがあれば奴隷でもない限り、どこへでも行ける。
提示を求められた時に、直ぐに出せるように首に提げておいてくれ。
通常はシャツの下に隠して置いても良い。
銀板だからといって身分をひけらかす必要は、全くない」
 やけに優しい。
言葉に甘え、俺とキャロルは身分票を首に提げた。
キャロルの機嫌が直った。
提げた身分票を胸元から取り出し、笑顔で見入っていた。
 二人目が進み出、小袋を差し出した。
どう見ても巾着袋。
受け取ると意外に重かった。
 またもスグルが言う。
「金貨、銀貨、銅貨、銅銭を入れて置いた。
他にも鐚銭があるが、小銭なので省いた。
これだけあれば一年は暮らせる。
銅銭が足りなくなれば必要に応じて両替すれば良い」
 開けて確かめると、金貨と銅銭が多かった。
もしかすると超高額貨幣と日常使用する貨幣を重点的に入れて置いた、
ということなのだろうか。
だとすると気が利いていた。
見直さざるを得なかった。
ただ、気懸かりな点が一つ。
俺はそれを口にした。
「有り難いが、俺達に返済する能力は今のところない。無職だからな」
 巾着袋を返そうとすると、スグルが受け取りを拒否した。
「心配は無用。ワシ個人の持ち出しではない。
公金からの支出だ。特例で返済の義務はない」
 身分票だけでなく金銭までも特例になると、下心を疑ってしまう。
それが表情に表れたのだろう。
スグルが表情を緩めた。
両腕を左右に大きく開け、得意げに言う。
「そういう分けで、さっそく城から退出してもらう。
城下に宿の予約を入れて置いた。
気が済むまで滞在してくれ」
 追い出そうという企みが下地にあったと知り、俺は呆れた。
巾着袋を懐にしまい、告げた。
「これは有り難く頂く。
でも城からの退出はお断りだ。
姫様に黙って出て行くのは失礼だろう」
 スグルが、待ってましたとばかりに指を鳴らした。
途端に家来七人が行動を開始した。
俺とキャロルに詰め寄ってきた。
サーベルは抜かない。
血を流すことなく、腕尽くで連れ出そうという魂胆なんだろう。




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なりすまし。(120)

2017-01-19 21:12:39 | Weblog
 書棚は陽射しを避けて、片隅の暗がりに置かれていた。
どのような書物があるのか分からないが、期待した。
なにしろ書物は情報の宝庫。
読んでおいて損はない。
ただ問題は文字。
言葉同様に文字も日本語であることを願った。
 歩み寄ると背表紙の文字が目に飛び込んで来た。
漢字混じり。
アリスの趣味の現れなのか、多岐にわたる本が並べられていた。
 願ってもない本があった。
「歴史」を手に取った。
上質の紙に綺麗に印刷されていた。
手にして気付いた。
厚いのだ。
五百ページを越えていた。
オープンから三十年にも満たないゲームのはず。
なのにこの厚さ。
 不審に思いながら本を開いた。
目次を捲ると内容が十五章に及んでいた。
「開拓時代」に始まり、「八カ国時代」まで。
年表を求めて指を巻末に走らせた。
年表の最終年度は千六百五十三年。
奥付の出版年月日は千六百五十五年。
今が何年かは分からないが、出版事情を想像するに千六百六十年前後であろう。
 具現化して千六百六十年は経ている、と理解するしかない。
その間に国や身分制度等が確立していた。
比べて文明文化の進歩は微々たるもの。
衛兵の装備する刀槍、鎧兜がそれを立証していた。
もしかしてゲームの世界観が影響しているのかも知れない。
 声が聞こえた。
「あいったーん、こごはどさ。どんだだして」
 キャロルがベッドで半身を起こし、寝惚け眼で左右を見回した。
はしゃいでいた時とは打って変わり、大いに戸惑っていた。
自分の身の上に何が降りかかったのか、目覚めて、ようやく気付いたらしい。
 詳しく説明すれば余計に混乱すると思い、俺は適当に言った。
「俺達は神隠しにあったようだ」
 彼女は疑わない。
「神隠しのの、神隠しのの。そうのの」目を白黒。
 俺はベッドから彼女を抱き上げた。
髪を撫で回し、頬擦りし、生身である事を確認して下ろした。
「前のように暗闇に溶け込めると思うか」
 彼女は自分の胸や尻を撫で回した。
「おろー、おら生身の身体さ手こさ入れたみたいだ、いがべ。
・・・。
暗闇さ入るのは出来なねがも知れね。
夜さのたきや試してみる」
 様子から、生身の身体になって喜んでいる、と窺えた。
俺は不思議に思って尋ねた。
「座敷童子でなくなったのかも知れないのに、嬉しいのか」
 彼女が顔を上げた。
「当然だし。
生身だば、いづか死ねる。
長生きする必要がね。
みんのど同じしうさ笑って、泣いて、困って、きもやぐ。
年取ってめおどす。こしたきや嬉しいことはね」心底から喜んでいた。
 分からなくもなかった。
長生きのし過ぎで、座敷童子に倦いていたのだろう。
理由は違うが死ぬ事を切望する二人が俺の周りにいた。
キャロルとアリス。
これは何かの悪戯だろうか。
それとも配剤なのだろうか。
 ノックされ、先ほどの女官長が入って来た。
「カルメン殿、お客様です。
おー、キャロル殿も目覚められましたか。
丁度良かった。
お二人揃ってお会いくださいませ」
「お客様です、と言われても、こちらに知り合いはいないが」
「城のお偉い方です。
お二人に渡したい物があるそうです」
 訝しいが断るのも大人げない。
女官長の案内で後宮を出た。
後宮は王と王子以外の男は原則、立ち入りを禁止されているので、
隣の西塔での面会になる、と説明された。
そちらへ向かう途中、物陰から数人が飛び出して来た。
俺達を取り囲む。
八人。
衛兵とは違う衣服を着ていた。
胸には揃いの紋様。
日本の歴史で見た家紋に似ていなくもない。
彼等が所持する武器は腰の太刀のみ。
 一人が進み出た。
スグル。
俺に微笑む。
「待っていたぞ」
 女官長は慌てず騒がず。
何ごともないかのように、俺達から離れて包囲の外に出た。
そして第三者であるかのように振り返った。
冷たい視線。
スグルの側であるらしい。




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なりすまし。(119)

2017-01-15 08:05:12 | Weblog
「前線から、もたらされる多くは悲報ばかり。
どこそこで誰が戦死を遂げた。
次も、誰それが戦死を遂げた。
舞踏会で踊ったことがある貴族の名前もあれば、
見回り途中で私を笑わせてくれた近衛の名前もあった。
でも私には何も出来ない。
ここで温々お茶しているだけ。
スグル殿が七カ国を回って援軍を要請されたが、
難航しているという話しは聞いたでしょう。
その影響で前年から進められていた私の縁談も立ち消えよ。
決まりそうだったけど、今は口を濁されるばかりだそうよ。
どの国も容易には首を縦に振りそうもないわ。
尻込みよ。
八カ国の王家は長年に渡る政略結婚を重ね、血に濃淡はあっても縁戚にあるの。
なのに、どの国も当てに出来ない
一部からは不穏な噂も流れて来る始末。
我が国と国境を接している二カ国が、状況次第では侵攻して来ると。
・・・。
それで召喚祈祷を思い付いたという分け。
縁談の消えた今の私に出来るのは魔物の召喚だけ。
生け贄で国に貢献出来るなら本望よ」
 アリスの言葉は明瞭だが、とても本音とは思えない。
自暴自棄の色が垣間見えなくもない。
俺はストレートに尋ねた。
「縁談がなくなったから魔物を召喚するのか」
 アリスが片頬を歪めた。
「まさか。
縁談がなくなったのは嬉しいわ。
心底から喜んでいるわ。本当よ。
見知らぬ土地で見知らぬ男に抱かれる。
好きでもない、尊敬も出来ない、そんな男に抱かれる。
貴女も女でしょう。
そうなった自分を想像してごらんなさい。
喜んで受け入れられる。
・・・。
詰まらない人生が長く続くと思うと、それは地獄、塗炭の苦しみよ。
でも魔物の生け贄は違う。
私に新しい人生を切り開いてくれる。
私に死に時を与えてくれる。
何も自由がなかった私に死ぬ自由を与えてくれる。
だから心底から魔物召喚を望んでいるの」最後は無表情で言い切った。
 アリスの本音はどうあれ、今は死を願望していた。
国への貢献もあるだろうが、死に時を自分で選べる魅力にも囚われていた。
全ては諸般の事情が彼女を追い込んだ結果に違いない。
「一緒にいた子供達も道連れかい」
 アリスの手が強張った。
「違うわ。
私の我が儘。
私をいつまでも覚えていて欲しくて呼び寄せたの。
死んで直ぐに忘れられるのは悲しいでしょう。そう思わない」
「分かった、信じる。
それにしても、城の大人達がよく許したものだな」
「大人で知っているのはスグル殿とタツヤ殿の二人だけ。
スグル殿は武官が本職だから召喚には無縁よ。
タツヤ殿も神殿での祈祷が本職だから、魔物召喚は畑違い。
それが証拠に今回は失敗したでしょう。
二人とも召喚の言葉は知っていても、生け贄は直ぐには連想しない筈よ。
だから内緒で協力してくれたと思う」
 二人に力があるから内密に事が運んだ。
しかし、だからといって二人が生け贄のことを知らなかったとは思えない。
深窓の姫と違い,二人は人生経験が長い。
本職以外の事も少しは囓っていて当然。
詳しく知らなくても、耳にした事はあるはず。
疑問に思えば周りに尋ねもしただろう。
それとも・・・。
国の要職にある者の多くは清濁併せのむのが得意技。
その得意技で敢えて聞き質さなかったのだろうか。
 部屋がノックされた。
女官長が入って来た。
「宰相殿がお呼びです」言葉に抑揚がなかった。
 アリスは俺の手は優しく解き、立ち上がった。
「怒ってる様子」
「さあ、来たのは使いの者ですから」
「その使いの者に様子を聞いたのでしょう」
 女官長の表情は変わらない。
「大変なお怒りのようです」
「貴女には悪かったわね。
貴女を巻き込まぬように、貴女が休みの日にしたの」
「急な休みが貰えたので変だとは思いました。
でもまさか、その夜に魔物召喚をなさるとは思いもしませんでした」
「噂になってるのかしら」
「子供達が得意になって話しているそうですよ」
 アリスは苦笑い。
「そうよね、子供は子供よね」
 女官長が真顔で言う。
「次からは何ごとも私に相談して下さい。
私にも、それなりの力があるのですから」
 アリスはシラッとした顔で言う。
「今回は失敗したので、また改めてやります。
その手配をお願いするわ。
次はタツヤ殿ではなく、魔物召喚が出来る者を呼んで欲しいの。
その手配、お願い出来るかしら」
 途端に女官長の表情が一変した。
「なりません」強い口調で拒否し、
「姫様が魔物召喚したと分かれば、王様に私が怒られます」と続けた。
 アリスは予想していたらしい。
女官長を無視して、俺を振り返った。
「宰相殿に怒られてくるわ。
ここで温和しく待っていてね」
「後始末が色々大変だね。
俺の事は気にしないで。
書棚の本でも読んでるから、長く長々と怒られてくるといいよ」
 アリスはクスリと笑い、女官長を従えて部屋から出て行った。




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なりすまし。(118)

2017-01-14 08:11:09 | Weblog
 アリスに地図を見上げながら尋ねられた。
「貴女の国は」
 俺は正直には答えなかった。
現代の文明文化は彼女には難しすぎる。
かえって混乱を招くだけ。
 人は鉄の箱に乗り、地上地下を走り、空を飛び、海に潜れるようになった。
果ては月にも足跡を印した。
年月かけて進歩した彼等が好きな言葉は自由、平等、平和。
なのに地球を何度も何度も破壊出来る爆弾を無数に所持していた。
理解の外だろう。
なかでも、オンラインゲームに触れるのは、以ての外。
何もかもが俺の説明能力を遙かに超えていた。
 嘘が親切な場合がある。
それが今だ。
俺はこの国の文化に近い江戸時代を語った。
士農工商の身分があった時代。
彼女は嬉しそうに目を輝かせ、時折、質問を織り交ぜてくれた。
 俺は話の切れ目をみつけて尋ねた。
「モンスターの島に人を遣ったことは」
「ないわね。
我が国はモンスター撃退で手一杯なの。
他国もないみたい。
冒険者や商人が入った、という話しも聞かないわ」
 モンスターの島もオンラインゲームから生まれた物ではないか、と思った。
一夜にして出現した、ということが不自然すぎた。
フルーツランドのように出現したのであれば、納得のしようがあった。
閉鎖されたゲームが解き放たれて、ここに具現化したのであろう。
具現化の切っ掛けは分からないが、そう考えれば辻褄が合う。
 問題はモンスターの能力だ。
モンスターゲームは無数にあった。
事情により閉鎖されたゲーム、放置されたゲームも無数にあった。
モンスターの種類ともなると、それ以上。
その全てを俺が知っている分けではない。
どんな能力のモンスターが越境して来たのか、想像すらつかない。
俺は彼女の力になれないと思った。
 俺の顔色を読んだのだろう。
アリスが俺の手をグッと握り締めた。
「越境して来るモンスターと戦って、もう六年目よ。
ここまで耐えられた。
これから先もズッと耐えられるわ」
 説得力のない言葉は俺に向けてではない。
アリスが自分自身に言い聞かせていた。
 突然、笑い声が起こった。
そちらを振り返ると、
大広間の片隅で子供達が折り重なっていた。
子犬達のように仲良く寝入っていた。
大人達が、「あらあら」と笑いながら子供達の寝顔を覗き込む。
キャロルもその中にいた。
俺は歩み寄り、無邪気な寝顔のキャロルを抱き上げた。
年相応に軽い。
これを切っ掛けに食事会が終わった。
 アリスが皆に、
「カルメンとキャロルの二人は暫く私が預かります。
こちらの都合で召喚に巻き込まれて気の毒です。
二人の身の振り方が決まるまで私の傍に置きます」宣言した。
 スグルとタツヤが猛反対するが、彼女は聞き入れない。
「これは決定事項です、翻ることはありません。
それに二人はおなご、何の問題もないでしょう」
 彼女は先頭に立って俺達姉妹を案内した。
一階に下りて回廊を渡り、隣の塔に入った。
塔自体が後宮になっていた。
 中に入ると女官達の出迎えを受けた。
大広間で見たメイド達と違い、彼女達は官位が与えられていた。
 塔内部は王、王妃、側室、子供それぞれの身分で区画割りされていた。
アリスの部屋は広く、客人二人を泊めるのに何の問題もなかった。
ベッドも広かった。
「寝相が良ければ三人並んで眠れるわね」とアリス。
 大の大人三人でも余裕がありそうだった。
そのベッドの中央にキャロルを下ろしたが、女児は一向に目を覚まさない。
無意識にシーツを引き上げ、枕を抱いた。
 室内の調度品から歴史が感じられた。
箪笥、書棚だけでなく椅子までも重厚感があった。
代々受け継がれてきた物を大切に扱っているのだろう。
 女官が中央の丸テーブルにお茶を置くと、軽く一礼して引き下がった。
お茶は二人分。
アリスが椅子に腰掛け、お茶に手を伸ばした。
俺も勧められた。
一口飲んだが、苦い。
日本茶でも紅茶でもなかった。
カップの中を見るに、柿の葉のような気がした。
でも嫌な苦さではない。
飲み干した。
 アリスが俺を見た。
「話の続きをしましよう」飲みかけのお茶を下ろした。
 大広間で中断した生け贄の話し。
「言いにくいのなら、無理しなくても構わないが」
「聞いて欲しいの。
他人だから喋りやすいの」
「わかった。聞こう」両手を卓上に置いた。
 アリスは視線を俺に据え、「私は私を差し出すわ」はっきり言い、
「喜んで生け贄になるの」続けた。
 俺は言葉がない。
視線を受け止めるので手一杯。
 アリスが左手を俺の右手の甲に掌を重ねて来た。
微かな震えが伝わって来た。
「なんて馬鹿な事をと思うでしょうね。
でも本気よ。
・・・。
私は小さな頃からお姫様お姫様として育てられた。
でもね、それは初潮を迎えるまでの話しで、
初潮を迎えてからは世間一般の想像とは全く違うのよ。
真綿にくるむように大切に大切にではなくて、いずれ嫁ぐから、
その嫁ぎ先で如何にして振る舞うか、微に入り細にわたる教育を受けたの。
国の外交の一つの駒として他所の王家へ嫁ぎ、如何にして故国に貢献するのか。
女官達が教えてくれるのは、どうすれば男を籠絡できるか、
どうすれば後宮を支配出来るか。
密かに故国と連絡を取る事態が生じた際の暗号の組み方もね。
・・・。
私は私個人ではいられないの。
平時はただの駒。
戦時は人質。
国の操り人形でしかないの。
私は、姫とはそんなものだと思っていた。
そういう生き方しか出来ないと思っていた。
例えば、民は身を粉にして働いて税を払う。
騎士は刀槍を持って戦場を駆ける。
彼等と同じ様に、私は国の操り人形になる。
それが当たり前だと信じていた。
・・・。
馬鹿げてるでしょう。
そんな時にモンスターの島が出現したの。
それからよ、色々あって疑問を持つようになった」
 アリスの右手が伸びて来た。
甲を上にして俺の前に置かれた。
俺の左手が自然に動いた。
何の考えもなしに掌を彼女の手に重ねた。
 アリスの口元がほころぶ。
彼女は無駄口はきかない。
一拍置くと話しを再開した。




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なりすまし。(117)

2017-01-09 09:54:13 | Weblog
 アリスは、「それは・・・」言葉を濁し、
身体を寄せて来て、「ここでは無理。後で話しましょう」耳打ち。
 彼女は余人の耳を憚っていた。
おそらく女子供には聞かせたくないのだろう。
 俺は心当たりがあるので、目を泳がせた。
生け贄に相応しいのは、血が繋がっている子弟が最も相応しい。
ここには、その子弟と覚しき者達がいた。
俺は皆から目を背けた。
 壁に飾ってある絵に目が吸い寄せられた。
目覚えのある絵。
思わず立ち上がり、歩み寄った。
 背後からアリスの声が届いた。
「それはフルーツランドの地図よ」
 ほとんど丸に近い島。
東西南北の沿岸に江戸湾のような奥行きのある湾があり、
最深部に港町を抱えていた。
中央には広大な山岳地帯、そこに年中降り注ぐ雨が渓谷や尾根を伝って、
島を無数に走る大小様々な河川に流れ込み、多大な恵みをもたらす。
 ネットの世界に実在していた島だ。
基本無料のオンラインゲーム、「フルーツランド」。
謳い文句は、「南の島の果樹園で憩い」だった。
東西南北にある四つの港が始まりの町で、
地図外の巨大大陸からの入植者を受け入れた。
簡単に説明すれば入植者はまず最初、東西南北いずれかの港を選んで上陸した。
上陸すると町役場で入植に必要な最低限の装備が与えられた。
馬車とテント、一月分の食料、刀槍弓、鎌鉈鍬そして数種類のフルーツの種苗。
それでも足りないと思った者は課金で必要とする物を購入した。
郊外の村へ行き、空いている土地に馬車を止めてテントを張ると、
周辺一ヘクタール分の権利が発生した。
 基本的には土地を耕し、季節に応じた種を蒔いて育て、収穫した。
附随して、村の周辺に棲み着く獣を狩り、焼いて肥料とする必要もあった。
臨時収入が必要なら村のギルドへ赴き、モンスター退治。
果樹園を広げて家を建て、家族を作る。
銀行口座にお金が貯まれば、農学校で異種との受粉による交配が学べた。
スキルが上がれば遺伝子操作にも着手出来た。
 フルーツの出荷先は四つの港の市場に限定。
市場を通して地図外の巨大大陸に送られる、そういう設定になっていた。
 単にフルーツ農園を営むだけではなかった。
マイナスイベントとして台風砂嵐、旱魃降雪があった。
モンスター襲来や盗賊団の暗躍もあった。
プラスイベントとしては異性の農園主との合コン。
山岳地帯には妖精や獣人、魔法使いも住んでいて、出合いにも事欠かなかった。
 俺は頭が混乱した。
ゲームの世界・・・。
それも俺が十代の頃に流行ったゲームではないか。
同級生に誘われてログインし、
農園主ではなく、冒険者として山岳地帯で鬼一族と戦い、囚われの妖精を救出した。
最大イベントでは敗れもしたが、
魔法使いや獣人と共闘して、海から出現した大怪獣とも戦った。
 このゲームは好評で、入植者が詰めかけた。
会社の利益も年々、倍々に膨れ上がった。
それが八年目、一つの躓きで閉鎖に追い込まれた。
会社の急成長にコンプライアンスが追い付かなかったのだ。
創業者だけでなく下の部課長クラスまでが当然のように、
会社の利益の一部を私的に流用していた。
これが中小企業であった頃なら誰も関心を持たなかったのだが、
当時は鰻登りの業績で脚光を浴びていた。
一つのスキャンダルが蟻の一穴となり、次々と炙り出された。
ゲーム開発現場社員の過労死から経営者側の女遊びまで話題に事欠かなかった。
それに嫌気が差した社員、請負のフリーランスが次々に辞表を提出した。
痛手だったのはゲーム開発現場からリーダー格社員が同業他社に流出したこと。
スタッフの補充もままならず、ゲームのメンテナンスにも支障を来す事態となった。
最後には、「フルーツランド」を売却しようとしたが、買い手もみつからなかった。
運営会社の悪評に、会員数が急減していたからだ。
ついには銀行の主導で「フルーツランド」を閉鎖し、
ゲーム事業から手を引いて業務を縮小することになった。
 二十年近くも前に閉鎖され、忘れ去られたゲーム。
そこに俺がいた。
俺の目には全景がバーチャルではなく、リアルな姿で映っていた。
部屋の壁、床と中央に置かれた丸テーブル、並べられたフルーツと飲み物、
天井、窓から差し込む陽射し、談笑する大人達、遊び寛ぐ子供達。
全てに血が通っていた。
 おまけもあった。
町や村しかなかった世界に国の形が導入されていたのだ。
八つもの国が存在するという。
城、姫が実在し、他に王や王子もいると聞いた。
閉鎖された世界で勝手に進化していた、と捉えれはばいいのか。
そもそも閉鎖されたゲームが、運営会社の手を離れて、
どうやって進化したというのか・・・。
 人に例えれば、
南極に姥捨てされた老人が人知れず勝手にハワイで生き延びていた、
に等しい。
それも生き延びていただけでは飽きたらず、何故にガラパゴス化したのか。
疑問が尽きない。
 立ち尽くす俺の隣にアリスが並んだ。
「やけに熱心ね。どうしたの」
 俺はアリスの背中に手を伸ばした。
彼女は幻なんぞではなかった。
掌でしっかり感じることが出来た。
「いつか旅してみたいもんだ」
 アリスを優しく抱き寄せた。
掌に生の温もり。
 こちらの疑問を知らぬアリスが嬉しそうに答えた。
「貴女が男だったら良かったのにね。
ほんと、残念よね」甘い息が頬にかかった。




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なりすまし。(116)

2017-01-08 07:33:27 | Weblog
 案内された大広間は二階にあった。
回廊を渡り、階段を上がって廊下を右に、左に曲がって行くと、
ゴリラを連想させるスグルが出迎えてくれた。
アリスを丁寧に出迎えるが、俺とキャロルには冷たい視線。
実に分かり易い。
それでも入室は拒まない。
 大広間の中央の丸テーブルに食事が用意されていた。
ふんだんにフルーツが盛られ、肉魚がところ狭しと並べられていた。
それで終わりではなかった。
メイド服の女達が色とりどりの果実酒、ジュースを運んで来た。
 アリスが俺とキャロルを左右に招いた。
なのにキャロルは、「あっちゃ」断った。
子供席の方へ向かってしまった。
 キャロルは本来は座敷童子。
視える目を持つ者にしか見えない妖精。
それが何の因果か、本物の肉体を得た。
影響を受けて性格も変わった。
引き籠もりが解消し、外向的になった。
図太さも。
変わらないのは子供好きという一点だけかも知れない。
 アリスは苦笑い。
「ふられてしまったわね」
 代わりに呼び寄せられたのはスグル。
仏頂面で歩み寄って来たスグルはキャロルを一睨みして席についた。
 地下室にいた者達は王の血縁だそうだ。
今日の祈祷召喚の為に呼び集められた、という。
血が繋がっていないのは祈祷師のタツヤ一人。
「彼は島でも随一の祈祷師よ」とアリスが自慢した。
 いくら待ってもライスやパンが出ない。
ない文化なのだろうと諦め、フルーツに手を伸ばした。
一口目はモモ。
これまで口にした物とは違った。
ジューシーとは無縁で、肉厚で歯応えがあった。
次に口にしたのはブドウ。
これまた皮からして厚かった。
ミカンにしても同じ。
いずれも甘さが押さえられていた。
 アリスがマンゴーを頬張りながら俺に視線をくれた。
庭で中断した会話の答えを求めていた。
 俺はパイナップルの果実酒で喉を潤した。
「途中で擦れ違った者、見掛けた者、彼等彼女等から受けた印象は、
疲れている、だ。
傍目にも分かるほど疲れている。
それが第一で、第二は兵士が少ない。
立哨は無論、巡廻、城の四隅にある見張り塔、
それらに満足に兵士が配置されていない。
第三は、アリスの肉親が全く姿を見せないこと。
これだけ騒がしいと、誰か一人は覗きに来るはずなんだが、誰も来ない」
「ごめんなさいね。
母は三年前に亡くなったの」
「悪いことを言った」
「気にしないで。
父や兄がいるから平気よ。
・・・。
二人は今、城を留守にしているの。
戦争よ。
軍を率いて前線に赴いているの」
「王や王子が前線に」
「普通なら将軍が前線に赴くのでしょうね。
ところがこの戦争は普通ではないの。
なかなか決め手がなく、押して退いて、六年にも長きにわたる消耗戦。
ついには王や王子までもが駆り出されることになってしまった。
国境近くの港町に駐屯し、将軍達とローテーションで前線に赴いているわ。
兵士も大半が向こうよ」
「六年とはね。
勝敗がつかないのなら休戦するという手もあるだろう」
 それまでキャロルを無視していたスグルが割り込んで来た。
肩を怒らせて言う。
「休戦は無理だ。
・・・。
ここは島だ。
船で漕ぎ出しても四方には島影一つ見えなかった。
それが六年前のこと、突然、一夜にして別の島が出現し、北端の岬にくっついた。
突然も突然、何の兆しもなかった。
・・・。
北端の岬は我が国の国境だ。
その島からモンスターの類が続々越境して来た。
言葉が通じない凶暴な連中がな」
「スグル殿も戦場に」
「何度も赴いた。
赴いて何十、何百というモンスターを倒した。
倒したが、倒しても倒しても、モンスターは隙を突いて越境して来る。
手がつけられない。
そこで私に他国との交渉が命じられた。
島には我が国を含めて八カ国がある。
王は、八カ国で連合するしかモンスターに勝つ術がない、と言われ、
私にそれを命じられた」
「それで交渉の進展具合は」
「難航している。
多くの国は渋っている。
自分達の国境に接していないから、危機感を持っていないのだ」拳で卓上を叩いた。
 アリスが言う。
「それで召喚を思い付いたの。
この島に昔棲んでいたというモノを呼び寄せようとしたの」
「それはどんなモノなんだ。
モンスターを相手にして勝てるモノなのか」
「分からない。
でも、強い力を持つモノと伝えられているの。
たぶん魔物とかの類なんでしょうね」
 アリスは、色んなものに追い詰められている、とも言っていた。
北端に出現したモンスターだけでなく、後方で様子見している七カ国、
長引く戦いによる国内の消耗、決定打を持たない王への不信感、
それらを指していたのだろう。
 俺はアリスに小声で聞いた。
「俺が住んでいた所では、
魔物と契約するには自分の大切な人間を生け贄として捧げるのが仕来りだった。
ここでは」
 使徒妖精の類は善なる理由のみを必要としていたが、
魔物の類は当人にとって大切な人間を生け贄として捧げる必要があった。
「同じよ。ここでも大切な人間を生け贄として捧げるの」
「アリスは誰を差し出すんだ」




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なりすまし。(115)

2017-01-05 19:45:09 | Weblog
 俺がフルーツを眺めながら考えていると、アリスが近付いて来た。
「良い香りがするでしょう」
 疑問で一杯で鼻が留守になっていた。
辺りはフルーツショップの店内のような香りで溢れていた。
 キャロルが鼻をピクピクさせて大笑い。
「い、いーいーいー、めったらだ」
 キャロルに纏わり付いている子供達も、訛りを真似て大笑い。
馬鹿にしているのではない。
心底からキャロルに懐いている様子。
 それを横目にアリスが説明した。
「この城はフルーツの、ゆりかご、そう呼ばれているの。
・・・。
この島の神話によるとね、この城を築いた一族の魔術師が、
一族が食べ物に困らないように城に魔法をかけた、というの」
「それが本当だとすると、魔法は今も利いているみたいだな」
「そうなの。
長く続いた寒冷期も、たわわに実っていたわ」
「雪の中でもフルーツが実ったのか」
「そうよ。
雪が降り続いた頃の話しよ。
雪は城にも降った。
でも積もることはなかった。
町に積もることはあっても、城に降った雪は一夜で解け、
フルーツには何の害も及ばさなかった。
そう伝えられているわ。
実際、去年の冬もそうだった。
雪は降っても城だけには積もらなかったの」
「へえー、魔術師様々だな」
「でもね、その一族は滅んだわ。
本家が途絶えたのを契機に分家同士が玉座を巡って相争い、
主立った者達は悉く戦死したそうよ。
それで最後の女后の実家である我が一族に国丸ごとが譲られたの。
なんだか悲しい結末よね」
「そうだな。
フルーツの種は途絶えないのに、一族の種は途絶えた。
・・・。
魔術師は一族の種にも魔法をかけるべきだったな」
 アリスが俺の肩をパーンと叩いた。
「笑えない冗談ね」
 笑えない。
そのような言い伝えがあるのなら、世間一般にも少なからず知られているはず。
ことに欧州のことなら我が国のマスコミ、旅行会社が飛びつく。
マスコミは取材チームを送り出して色物として扱う。
旅行会社もツアーを募集する。
なのに始めて聞く話だ。
「アリス、質問がある。
この城の名前は」
「ノースパレス」
 聞いたことがない。
「国の名前は」
「我が一族の名を冠して、ハリマ」
 これも聞いたことがない。
でも、なにやら播磨を連想した。
「最初にこの島の神話と言ったよな。
この島の名前は」
「フルーツランド」
 これも初耳。
笑ってしまいたくなるような島の名前だ。
 表情に表れたのだろう。
アリスに尋ねられた。
「どうしたの、変よ。
貴女達はこの島のどこかから召喚されたのじゃなかったの」
「違う。この島とは違うようだ。
君たちが全く知らない別の島で俺達姉妹は生まれた。
文化も風習も違っている。
信じてくれるかい」
 アリスは顎に手を当て、遠くを見る目色。
「そうそう、貴女、この時代の着物は着慣れていない、着るのを手伝ってくれ、
そう言ってたわね」
「そうだ、そう言った」
 話しが聞こえたのだろう。
みんなの足が止まった。
俺とキャロルに物珍しげな視線を送ってきた。
 アリスが祈祷した老人に言う。
「タツヤ殿、召喚には失敗したけれど、祈祷自体には力があったみたい。
自信を持ちなさい。力を蓄えなおしたら再度挑むわよ」
 タツヤと呼ばれた老人が胸を撫で下ろした。
「十日ほど頂ければ力が蓄えられます」
 俺はアリスに尋ねた。
「簡単に召喚と言うが、一体なにを召喚するつもりだ」
「魔物でも怪物でも何でもいいの。
私達を助けてくれるモノなら、なんでも」
 魔物や怪物に助けを求めるとは、呆れてものが言えない
追い詰められているのか。
でもそこまでは突っ込めない。
「特定のモノを名指しして召喚した分けじゃないんだ」
「名指しは無理よ。
タツヤ殿は祈祷師で、魔物等の召喚は専門じゃないわ。
とにかく何か召喚してくれれば充分なの。
後は出たとこ勝負」
「出てから相手を見て交渉するということか」
「そうよ、
まず召喚することが大事なの
それだけ我が国は追い詰められているの」
 自分から追い詰められている、と認めた。
乗じて聞き出すしかない。
「誰に追い詰められているんだ」
「色んなものに。
・・・。
ここまでの城の様子から何か気付かない」
 俺は辺りを見回しながら、地下室から、ここまでの足取りを振り返った。
何か手掛かりが・・・。
 アリスがお腹に手を当てた。
「お腹がすいたわ。
続きは食べながらにしましょう」




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なりすまし。(114)

2017-01-04 18:00:53 | Weblog
 怒り顔で向かって来る男はどう見ても三十代。
粗末なズホンとジャケット。
腰のベルトには短剣を下げ、大股で歩を進めてきた。
醸し出す威圧感はただごとではない。
人を殺すのには慣れているソレだ。
時代背景から察するに、戦場慣れ。
 俺の鼓動が速まった。
怯えではない。
双子の怪物の時は心底から恐怖を味わったが、それとは明らかに違う。
今を敢えて表現するなら、ワクワク。
強い相手を迎え撃つことへの、ワクワク。
 着替えを手伝ってくれるという金髪娘が素速く動いた。
長い金髪を振り乱し、俺と男の間に入った。
両腕を広げて、「おやめなさい」と男に言う。
 それを上回る速さで動く者がいた。
隣の小さな身体がダッシュした。
座敷童子。
男が前に踏み出した足に組み付いた。
 男の足が止まった。
表情が怒りから困惑に変わった。
眉間に皺寄せて金髪娘と座敷童子を交互に見遣った。
 興が削がれた。
男に助け船を出した。
「喧嘩ならいつでも買う。
その前に着替えさせてくれないか。
これでは俺も妹も風邪をひく。
・・・。
ついでに腹も減ってるから、何か食わせてくれると助かるのだが」
 金髪娘が男に言う。
「スグル殿、失礼ですよ。
お二方は客人です。
召喚祈祷には失敗したようですが、間違えて呼び寄せたのは我等。
お二方には何の咎もありません。
・・・。
着替え終えたら食事にします。
皆の者もお腹がすいたでしょう。
大広間に用意させなさい。頼みましたよ」
 スグルと呼ばれた男は、渋々といった態度で一礼すると引き下がり、
地下室から重い足取りで出て行った。
 金髪娘が振り返って俺に言う。
「うちの者が失礼しました。
悪気はないのです。許してやって下さい」
「気にするな。
それよりお前はこの国の姫様なのか」
「はい、アリスと申します」
 アリス姫。
ここは不思議の国なのか、いや、どう考えても違うだろう。
 アリス姫は俺から視線を外さない。
期待する目色。
俺の名乗りを待っている気配がした。
ここで小一郎は拙い。
この場には相応しくない。
アリスがア行なので、次はカ行、と思った。
「俺はカルメン。妹はキャロル」口を衝いて出た。
 実に有り触れた名前。
カルメンにキャロル。
アリスに負けず劣らずだ。
 座敷童子が、「妹、キャロル、妹、キャロル」呟き、俺に頷いた。
 アリスも満足そうな顔。
「カルメン様にキャロル様ね」
 愛らしい表情で俺とキャロルを見遣った。
このアリス姫、身長は周りの女達よりは高く、俺よりは低い。
年の頃は十代の後半。
高貴な身分にしては、くだけていた。
自分は礼儀正しいのだが、他人にはそれを求めなかった。
「私のことは姫ではなく、アリスと呼んでね。
分かりましたか、カルメン、キャロル」と言う分けだ。
 アリスの指示で女子供が俺とキャロルの着替えを手伝ってくれた。
キャロルには年相応の衣服があった。
アリスが子供時代に身に着けていた物だ。
「もう妹が生まれることもないでしょうから、キャロルに着て貰いましょう」
 問題が一つあった。
キャロルの訛りが誰にも理解されないのだ。
するとアリスが身振り手振りで意を伝えた。
それで問題が解決した。
キャロルが首を縦か横に振って答えたのだ。
そうなると楽しいのか、キャロルは首を振りながら訛り言葉を連発した。
これに子供達も加わった。
騒ぎながら大袈裟な身振り手振りでキャロルと会話した。
 一つ問題が解消したと思ったら新たな問題が発生した。
俺。
アマゾネス体型なので似合う物がなかった。
それにスカートやブラジャーの問題も。
とても身に着ける気になれなかった。
悩んだ末、アリスに頼み込み、男物を持って来てもらった。
彼女が持って来たのは兄の衣服だった。
「礼服ではなく、普段着だから気にしないで」
 真新しいズボンにシャツ、ジャケット。
 着替え終えるとアリスに階上に案内された。
地上三階、地下一階。
 城は切り出された石材と焼き上げられた煉瓦で建てられていた。
どうやって運び込んだのかは知らないが、
目を剥きたくなるような大きな岩も見受けられた。
 一階の回廊を行く際、直射日光があたる箇所があった。
俺は思わずキャロルを振り返った。
座敷童子は陽射しに弱い。
ところがキャロルは平然としたもの。
俺の不安を察したのか、ニコリと笑みをくれ、普通に陽射しの下に入った。
何も起こらなかった。
キャロルの足取りは平然としたもの。
これも新しく得た身体の影響なのだろうか。
 杞憂に終わり、ホッとしていたら意外な物を目にした。
フルーツ。
庭一面に色とりどりの実が生っていた。
イチゴ、リンゴ、ミカン、ブドウ、カキ、モモ、ナシ、マンゴー、スイカ、パイナップル。
品種名を知らぬフルースも散見された。
 よく考えてみたら季節がバラバラ。
おかしい、ここは欧州のはず。
城はまさに中世欧州そのもの。
地下室にいた者達も白人種。
けれどだ、地域からすると、有り得ないフルーツが多い。
熱帯亜熱帯でしか生育しないものも混じっていた。
それに、今さらだが、日本語が通じた。
召喚祈祷も存在した。
ここは本当に中世欧州か。




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なりすまし。(113)

2017-01-03 20:23:26 | Weblog
 俺は石畳の上に両足で立っていた。
光の保護を失った代わりに肉体を得ていた。
はて・・・。
この肉体は誰のモノ・・・。
光の中には俺以外に人はいなかったはず。
正確には俺の霊体に座敷童子が居候しているが、女児は妖精なので無関係。
ここまでを、どう振り返っても、この肉体の持ち主は存在しなかった。
俺の目を眩まして、途中で紛れ込むのも不可能。
なのに俺は肉体を得た。
もしかして神の仕業か。
神が存在するとすればだが。
 安易な方法だが、死亡寸前の肉体に憑依する。
そして記憶を喰らって乗っ取る。
今回は段階を省略し、人間が存在しない空間で肉体を得た。
好むと好まざるに関わらず、これが事実だ。
真相は不明でも事態は現在進行中。
そこで疑問を一旦、凍結した。
暇を見つけて後で謎解きすれば良い。
 肉体を得た幸運に感謝し、大きく深呼吸した。
すると摩訶不思議な力が体内に満ち溢れて行く。
それも自信を形作るほどに。
根拠は知らぬが、何も恐くなかった。
気概を持って室内を見回した。
 床に座っていた中には女子供もいた。
彼女等が悲鳴を上げた。
「いやー」
「きゃー」
「なにー」と。
 俺は自分を見下ろした。
驚きを通り越して言葉を失った。
布切れの一つも身に着けていない。
裸体なのだ。
驚愕は続いた。
首の下に豊満な胸と尻を見たのだ。
さらに下の陰でも金色の毛がフサフサ。
どこから見ても、これは女の身体ではないか。
何がどうなっているのか。
見間違えたかと我が目を疑った。
まさか・・・。
見直しても結果は変わらなかった。
 もう一つ別の驚き。
俺の右隣に女児が並んで立っていた。
女児も裸体。
見下ろす俺に気付いて、「でっけ、どんず」と俺の尻を引っぱたくではないか。
元気な女児だ。
 金髪で、おかっぱ頭。
頭髪の色は違うが心当たりがあった。
もしかすると、するかも知れない。
思わず尋ねた。
「座敷童子か」
 女児が顔を上げて頷いた。
知らぬ顔、幼いけれど美しい。
十年もすれば大輪の花を咲かせるに違いない。
その対極にあるのは凛とした百合の花以外には思い付かない。
「んだ、んだ。おもへ、おもへ」訛りは座敷童子そのもの。
 ところが言葉や口調は別人であった。
双子の怪物から逃げていた頃とは打って変わって堂々たるもの。
弱々しさは欠片もない。
どこをどう捏ねくり回せば、こうも人格が一変するのやら。
もしかして新しい身体の影響か。
 とかく人生は移ろいやすいもの、ままなぬもの。
成るようにしか成らない。
座敷童子の耳元に囁いた。
「俺に任せろ。
恐いと思ったら、遠慮なく俺の後ろに隠れれば良い」
 座敷童子はニコリと笑い返した。
裸体を恥じる様子は一切みせない。
身体は女児でも、実際は年齢不詳の長寿な妖精、ということか。
 俺も裸体だからといって恥ずかしがる年齢ではない。
この肉体の年齢は知らないが、実際の俺は四十手前。
大股開きで室内を見回し、祈祷の中心にいた老人で目を止めた。
老人は口を半分開けたまま。
祈祷の結果が予想に反していたのだろう。
 こういう場合は最初が肝心なのだ。
俺は老人を叱りつけた。
「この馬鹿者が。
・・・。
これでは二人とも風邪をひく。
何か着る物を持ってこさせろ。直ちにだ、急がせろ」厳しい口調で註文した。
 老人は居眠りしているところを叩き起こされたかのように、身体をビクッと震わせた。
困って口籠もっていると、後ろにいた女子供が立ち上がった。
「はい、持って来ます」
「私は貴女の服」
「私は子供さんの服」口々に言いながら五人が地下室から駆け出して行った。
 残った男達は無言。
灯りを持って来た者達もだ。
視線を泳がせ、時折、俺と女児の裸体に目を遣るだけ。
 部屋の片隅に大きな鏡を見つけた。
俺は座敷童子の手を引き、そちらに歩いた。
鏡は等身大で、多少曇っていたが使用には問題なかった。
灯りを呼び、座敷童子と二人して鏡の前に立った。
 似通った顔が並んでいた。
年の離れた金髪の姉妹と言っても差し支えないだろう。
咲き誇る薔薇の花と、時期を待っている蕾。
 俺には太い棘があった。
豊満な胸と尻は良いとして、手足に太い筋肉がついていたのだ。
首も太い。
加えて長身。
これではアマゾネスではないか。
並みの男なら尻込みするに違いない。
 気になって座敷童子の身体特徴を仔細に観察した。
すると女児にもアマゾネスの傾向が見られた。
俺に似て手足が長い。
胸も尻も筋肉も、年頃には大輪の花を咲かせることだろう。
 女子供五人が息せき切って、大量の衣服を抱えて駆け戻って来た。
先頭の若い金髪娘が、みんなを代表して言う。
「お持ちしました」丁寧な物言い。
「すまないが、この時代の衣服は着慣れていない。
着替えを手伝ってくれないか」
 すると黙っていた男達が次々に立ち上がった。
「貴様、何様だ」
「我が国の姫様に着替えさせてくれだと」
「姫様は侍女ではないぞ」
「死罪に値する」口々に喚く。
 立ち上がった中に一人だけ無言の男がいた。
見るからに偉丈夫、皆より首一つ高い大男で屈強そのもの。
首から肩胸にかけての筋肉の盛り上がりはゴリラを連想させた。
彼が一歩踏み出した。
拳を固め、俺をグッと睨みつけながら、大きな歩幅で歩み寄って来た。




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