鮮卑の騎馬隊は緩やかな陣形を組んでいた。
五千騎を五隊に分け、董卓軍の真正面に千騎。
その直ぐ後ろに千騎。
さらに後ろに本隊千騎。
そして本隊の左右にそれぞれ千騎。
隊列が間延びしているので、一見すると魚鱗の陣に見えた。
もっとも鮮卑は、それほど陣形には拘っていない
彼等は、戦場においては自在に隊列を変化させるのを好む。
勇猛さと、その融通無碍な隊列で、北方の主役の座を匈奴から奪い取った。
マリリン達が向かっていたのは敵本隊の左に布陣していた千騎の隊列。
その隊列に、誘い出された董卓軍の百余騎が、
吸い寄せられるようにして取り込まれて消えた。
マリリン達は彼等を何としても救い出そうと急いだ。
それに対して敵は、隊列を厚くして百余騎の退路を断ち、
追って来たマリリン達には新たな五十騎の迎撃陣で対応した。
最初の十数騎が簡単に蹴散らされたので、修正して慎重策に転じた。
五十騎が出撃するのではなく、騎乗のまま、その場に横隊で布陣し、
それぞれが得意の槍や弓を手にマリリン達の接近を今や遅しと待ち構えた。
間合いに入れば矢が射られ、槍を構えた騎馬隊が出撃して来るのは必定。
騎馬と騎馬が入り乱れる戦いなら無勢のマリリン達にも分はある。
遭遇戦ならば個々の力量が物を言う
が、このように、でんと構えられては勝手が違う。
圧倒的に多勢が有利。
マリリン達に勝ち目はない。
先頭の呂布が槍を横に動かし、水平にして馬足を緩めた。
「止まれ」の意思表示なのだろう。
三騎が馬足を緩めると、呂布は馬を止めた。
どうやら呂布は弓の射程から、この辺りが間境と判断したようだ。
呂布の周りに三騎が馬を寄せた。
状況が分かっている筈なのに華雄が不満を口にした。
「怖じ気づいたのか」
呂布は華雄には目もくれない。
敵の動きを、つぶさに見ながら応じた。
「先頭で矢を引き受けてくれるのか」
マリリンが誰にともなく問う。
「何か手立てはないの」
誰も答えない。
敵隊列の中から悲鳴、気合いが入り乱れて聞こえて来た。
董卓軍の百余騎が最後まで激しく戦っている様子。
それも長くは続かない。
直に止んだ。
マリリンは天を仰いだ。
自分達の無力さを嘆いた。
敵陣中より異な音が聞こえて来た。
角笛に違いない。
それは敵陣中の真ん中辺りから聞こえて来た。
一つが鳴らされるや、それに応えるかのように、
それぞれの隊列でも角笛が吹き鳴らされた。
どうやら角笛で何らかの合図を送っている模様。
一斉に鬨の声が上がった。
荒々しい軍気が辺りを支配した。
時を置かず、全軍が移動を開始した。
混乱も見せず、波が引くように、すっと撤退して行く。
付け入る隙がない。
敵指揮官の判断は間違っていない。
暗くなってから乱戦に持ち込まれると、多勢の方は同士討ちする懸念がある。
あるいは同士討ちさせられるかも知れない。
それを恐れて、撤退の決断をしたのだろう。
董卓軍は敵の姿が視界から完全に消えたのを確認してから動き始めた。
日暮れが間近いので遺体の回収と負傷者の手当を急ぐ。
マリリン達は赤劉家騎馬隊の元へ戻ろうとした。
そこへ董卓軍本隊から数騎が駆けて来た。
一騎は直ぐに分かった。
韓秀。
他は見覚えがない。
どうやら先頭の騎兵が主で、他は供回りの騎兵と見て取れた。
その者はマリリン達の傍に馬を寄せると、素早く下馬をした。
顔を綻ばせ、「呂布」と叫ぶように声を上げた。
呂布も早かった。
ほとんど同時に下馬して片膝をつき、拱手して出迎えた。
「将軍、お久しぶりです」
将軍は韓秀を目顔で指し示し、
「委細は韓秀殿に聞いた。
ワシの為に駆け付けてくれたそうだな」
と言い、強引に呂布を立たせた。
そして豪快に笑い、「嬉しいぞ」と激しく抱擁した。
マリリンは驚きで目を見開いた。
この場で将軍と呼ばれるのは董卓しかいない。
しかし、・・・。
これまで思い描いていた董卓像とは余りにもかけ離れていた。
残虐無慈悲な黒豚。
それが董卓だとばかり。
今、目の前にいるのは人懐っこそうな長身痩躯の男。
人柄の良さが全身から滲み出ていた。
すると脳内でヒイラギが言う。
「百聞は一見にしかず」
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ただの飾りです。
五千騎を五隊に分け、董卓軍の真正面に千騎。
その直ぐ後ろに千騎。
さらに後ろに本隊千騎。
そして本隊の左右にそれぞれ千騎。
隊列が間延びしているので、一見すると魚鱗の陣に見えた。
もっとも鮮卑は、それほど陣形には拘っていない
彼等は、戦場においては自在に隊列を変化させるのを好む。
勇猛さと、その融通無碍な隊列で、北方の主役の座を匈奴から奪い取った。
マリリン達が向かっていたのは敵本隊の左に布陣していた千騎の隊列。
その隊列に、誘い出された董卓軍の百余騎が、
吸い寄せられるようにして取り込まれて消えた。
マリリン達は彼等を何としても救い出そうと急いだ。
それに対して敵は、隊列を厚くして百余騎の退路を断ち、
追って来たマリリン達には新たな五十騎の迎撃陣で対応した。
最初の十数騎が簡単に蹴散らされたので、修正して慎重策に転じた。
五十騎が出撃するのではなく、騎乗のまま、その場に横隊で布陣し、
それぞれが得意の槍や弓を手にマリリン達の接近を今や遅しと待ち構えた。
間合いに入れば矢が射られ、槍を構えた騎馬隊が出撃して来るのは必定。
騎馬と騎馬が入り乱れる戦いなら無勢のマリリン達にも分はある。
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「怖じ気づいたのか」
呂布は華雄には目もくれない。
敵の動きを、つぶさに見ながら応じた。
「先頭で矢を引き受けてくれるのか」
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「何か手立てはないの」
誰も答えない。
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董卓軍の百余騎が最後まで激しく戦っている様子。
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直に止んだ。
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自分達の無力さを嘆いた。
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それぞれの隊列でも角笛が吹き鳴らされた。
どうやら角笛で何らかの合図を送っている模様。
一斉に鬨の声が上がった。
荒々しい軍気が辺りを支配した。
時を置かず、全軍が移動を開始した。
混乱も見せず、波が引くように、すっと撤退して行く。
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日暮れが間近いので遺体の回収と負傷者の手当を急ぐ。
マリリン達は赤劉家騎馬隊の元へ戻ろうとした。
そこへ董卓軍本隊から数騎が駆けて来た。
一騎は直ぐに分かった。
韓秀。
他は見覚えがない。
どうやら先頭の騎兵が主で、他は供回りの騎兵と見て取れた。
その者はマリリン達の傍に馬を寄せると、素早く下馬をした。
顔を綻ばせ、「呂布」と叫ぶように声を上げた。
呂布も早かった。
ほとんど同時に下馬して片膝をつき、拱手して出迎えた。
「将軍、お久しぶりです」
将軍は韓秀を目顔で指し示し、
「委細は韓秀殿に聞いた。
ワシの為に駆け付けてくれたそうだな」
と言い、強引に呂布を立たせた。
そして豪快に笑い、「嬉しいぞ」と激しく抱擁した。
マリリンは驚きで目を見開いた。
この場で将軍と呼ばれるのは董卓しかいない。
しかし、・・・。
これまで思い描いていた董卓像とは余りにもかけ離れていた。
残虐無慈悲な黒豚。
それが董卓だとばかり。
今、目の前にいるのは人懐っこそうな長身痩躯の男。
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すると脳内でヒイラギが言う。
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