金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(動乱)411

2015-01-29 20:45:00 | Weblog
 鮮卑の騎馬隊は緩やかな陣形を組んでいた。
五千騎を五隊に分け、董卓軍の真正面に千騎。
その直ぐ後ろに千騎。
さらに後ろに本隊千騎。
そして本隊の左右にそれぞれ千騎。
隊列が間延びしているので、一見すると魚鱗の陣に見えた。
もっとも鮮卑は、それほど陣形には拘っていない
彼等は、戦場においては自在に隊列を変化させるのを好む。
勇猛さと、その融通無碍な隊列で、北方の主役の座を匈奴から奪い取った。
 マリリン達が向かっていたのは敵本隊の左に布陣していた千騎の隊列。
その隊列に、誘い出された董卓軍の百余騎が、
吸い寄せられるようにして取り込まれて消えた。
マリリン達は彼等を何としても救い出そうと急いだ。
それに対して敵は、隊列を厚くして百余騎の退路を断ち、
追って来たマリリン達には新たな五十騎の迎撃陣で対応した。
最初の十数騎が簡単に蹴散らされたので、修正して慎重策に転じた。
五十騎が出撃するのではなく、騎乗のまま、その場に横隊で布陣し、
それぞれが得意の槍や弓を手にマリリン達の接近を今や遅しと待ち構えた。
間合いに入れば矢が射られ、槍を構えた騎馬隊が出撃して来るのは必定。
騎馬と騎馬が入り乱れる戦いなら無勢のマリリン達にも分はある。
遭遇戦ならば個々の力量が物を言う
が、このように、でんと構えられては勝手が違う。
圧倒的に多勢が有利。
マリリン達に勝ち目はない。
 先頭の呂布が槍を横に動かし、水平にして馬足を緩めた。
「止まれ」の意思表示なのだろう。
三騎が馬足を緩めると、呂布は馬を止めた。
どうやら呂布は弓の射程から、この辺りが間境と判断したようだ。
呂布の周りに三騎が馬を寄せた。
 状況が分かっている筈なのに華雄が不満を口にした。
「怖じ気づいたのか」
 呂布は華雄には目もくれない。
敵の動きを、つぶさに見ながら応じた。
「先頭で矢を引き受けてくれるのか」
 マリリンが誰にともなく問う。
「何か手立てはないの」
 誰も答えない。
 敵隊列の中から悲鳴、気合いが入り乱れて聞こえて来た。
董卓軍の百余騎が最後まで激しく戦っている様子。
それも長くは続かない。
直に止んだ。
 マリリンは天を仰いだ。
自分達の無力さを嘆いた。
 敵陣中より異な音が聞こえて来た。
角笛に違いない。
それは敵陣中の真ん中辺りから聞こえて来た。
一つが鳴らされるや、それに応えるかのように、
それぞれの隊列でも角笛が吹き鳴らされた。
どうやら角笛で何らかの合図を送っている模様。
一斉に鬨の声が上がった。
荒々しい軍気が辺りを支配した。
時を置かず、全軍が移動を開始した。
混乱も見せず、波が引くように、すっと撤退して行く。
付け入る隙がない。
 敵指揮官の判断は間違っていない。
暗くなってから乱戦に持ち込まれると、多勢の方は同士討ちする懸念がある。
あるいは同士討ちさせられるかも知れない。
それを恐れて、撤退の決断をしたのだろう。
 董卓軍は敵の姿が視界から完全に消えたのを確認してから動き始めた。
日暮れが間近いので遺体の回収と負傷者の手当を急ぐ。
 マリリン達は赤劉家騎馬隊の元へ戻ろうとした。
そこへ董卓軍本隊から数騎が駆けて来た。
一騎は直ぐに分かった。
韓秀。
他は見覚えがない。
 どうやら先頭の騎兵が主で、他は供回りの騎兵と見て取れた。
その者はマリリン達の傍に馬を寄せると、素早く下馬をした。
顔を綻ばせ、「呂布」と叫ぶように声を上げた。
 呂布も早かった。
ほとんど同時に下馬して片膝をつき、拱手して出迎えた。
「将軍、お久しぶりです」
 将軍は韓秀を目顔で指し示し、
「委細は韓秀殿に聞いた。
ワシの為に駆け付けてくれたそうだな」
と言い、強引に呂布を立たせた。
そして豪快に笑い、「嬉しいぞ」と激しく抱擁した。
 マリリンは驚きで目を見開いた。
この場で将軍と呼ばれるのは董卓しかいない。
しかし、・・・。
これまで思い描いていた董卓像とは余りにもかけ離れていた。
残虐無慈悲な黒豚。
それが董卓だとばかり。
今、目の前にいるのは人懐っこそうな長身痩躯の男。
人柄の良さが全身から滲み出ていた。
 すると脳内でヒイラギが言う。
「百聞は一見にしかず」




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白銀の翼(動乱)410

2015-01-25 08:31:40 | Weblog
 西日の空に銅鑼が鳴り響いていた。
敵を牽制する為、銅鑼を山積みさせた荷馬車二両に、
それぞれ十騎をつけて敵の後方に迂回させ、帝国の軍楽を打ち鳴らさせ、
大軍襲来を演じさせた偽計。
当初は目論見通り敵を疑心暗鬼に陥らせ、戦意を削いだ。
警戒に人員も割かせた。
大いに役に立った。
 敵五千騎に新たな動き。
鳴り響く銅鑼を偽計と判断したらしい。
警戒に割かれていた小部隊が次々と役を解かれ、元の部隊に戻って行く。
同時に幾つかの小部隊も移動を開始した。
どういう意味合いがあるのかは分からないが、小さな再編成。
それらを手早く終えると敵は軍頭を董卓軍本隊に向けた。
マリリン達は完全に無視の隊列。
隙を見せていると、見えなくもない。
 その五千騎が一斉に鬨の声を上げた。
乗り手の気持ちを軍馬が汲み、興奮の嘶きを各所で上げた。
戦意の高揚が手に取るように、見えて来た。
 マリリンの方向からは董卓軍の全容は見えない。
それでも遠く見える一角から、敵の動きに対応するのが見て取れた。
敵が前進すれば、受けて立つのではなく、
同じ様に軍頭を前進させるつもりでいるらしい。
 敵味方を隔てる空間が、双方が発する軍気で火傷しそうな熱を帯びて来た。
敵の軍頭の一部隊が動きを見せた。
軽い速さで、スッと前に出た。
それに釣られたのか、マリリン達の隣にいた董卓軍五百騎のうちの数騎が飛び出した。
遅れじと他の騎兵が続々と後を追う。
後方から制止の声が上がったが、動き出した者達には届かない。
百余騎が敵隊列の側面に、まっしぐらに突き進む。
 マリリンの戦勘が囁いた。
「誘い」
 前に出た筈の敵の一部隊が動きを止めた。
同時に敵隊列の側面の一部が崩れた。
董卓軍百余騎を迎え入れるかのように穴を開けた。
 突き進む百余騎は前しか見ていない。
敵の崩れた隊列は涎もの。
自然とそちらに吸い寄せられた。
 赤劉家騎馬隊も血気に逸っていた。
戦に麻痺し、戦勘が働かぬらしい。
馬までもが嘶き、出撃を催促した。
間が悪いことに指揮官の韓秀が戻って来ていない。
迷ってはいられない。
無駄死にはさせたくない。
マリリンは後方を振り返り一喝した。
「動くな」
 後方にいた胡璋が慌て、
「鎮まれ、鎮まれ。勝手に動くな」と声を上げ、隊列の乱れを正して回る。
 呂布と華雄、許褚がマリリンを振り向いた。
「誘い出された連中はどうする。見捨てるか」
 三人とも血の騒ぎを押さえられないらしい。
マリリンの目色を読み取るや、互いに頷き、軽やかに出撃した。
 マリリンは胡璋に、「動かしては駄目よ」と言い捨てた。
合図するより早く愛馬の剛が地を蹴り、大きく躍動した。
先を行く三人の間に強引に割って入った。
敵は五千騎だが、この三人が一緒だと不思議と心強い。
冷徹な呂布、騒々しい華雄、重々しい許褚。
一癖も二癖もあるが大いに頼りになる。
 誘い出された董卓軍百余騎が敵隊列の側面に吸い込まれて行く。
完全に取り込まれたら、後は嬲り殺しの憂き目に遭うだけ。
 華雄が声を枯らした。
「待て待て待てーい、待つんだー」と百余騎の背中に呼び掛けた。
 届かない。
誰一人振り返らない。
 閉じかけの敵隊列から、マリリン達に向けて十数騎が飛び出して来た。
迎撃。
「たかだかの四騎」と侮ったらしい。
 呂布が馬の首筋を軽く叩いた。
応じて馬足が大きく伸び、突出した。
負けずと華雄も馬を急がせた。
鼻先を並べた。
華雄は呂布への対抗心を隠さない。
時折、チラチラと呂布を盗み見た。
ところが呂布は素っ気ない。
視界に入っているのは敵のみ。
その敵に向けて馬を急がせた。
 呂布と華雄が競うように突き進む。
鎧袖一触。
二騎は槍の一振りで、敵を蠅か蚊のように払い除け、進路を無人とした。
マリリンと許褚が続いた。
あっという間に迎撃陣を突き抜けた。
 残った敵が慌てて馬首を返した。
強引すぎたのか、四騎が馬もろとも横倒し。




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白銀の翼(動乱)409

2015-01-22 19:23:27 | Weblog
 マリリンは視線を敗走する敵から次の敵に転じた。
およそ五千騎。
其奴等は目の前で味方が潰えても微動だにしない。
薄気味悪いくらいに静まり返ってはいた。
しかし、はらわたが煮えくり返っているようで、強烈な殺意がビシビシ伝わって来た。
もしここで解き放たれたなら、全ての騎兵が赤劉家騎馬隊に殺到するに違いない。
 対する赤劉家騎馬隊は手傷を負った者を含めて七十余騎が残っていた。
多勢を相手にして、死傷者が二十騎ほどで済んだのは運が良い。
遺体や重傷者を後方へ運ばせ、改めて隊列を組んだ。
それを行っていたのは韓秀ではなく家臣の古株、胡璋。
何時の間にか韓秀は姿を消していた。
代わりに胡璋が声を枯らして隊列の引き締めを行っていた。
「何があっても恐れるな。下がれば死あるのみ、
生は前にある。それを自分達で掴み取る。いいな」と檄を飛ばした。
 呼応の声が一斉に上がった。
兵力は少ないが勢いだけは失っていない。
数の少なさから隊列というよりは、一塊といった方が正しいのかも知れない。
 出撃して来た董卓軍も近くで隊列を組み直した。
こちらも当初は千騎いたが、かなりの損害を出していた。
今現在、隊列を組んでいるのは、およそ五百余騎。
防御する気は、さらさらないようで、突撃隊形を取った。
二十五騎が馬首を並べ、それが縦に二十列。
一本の槍となって、敵を断ち割る気構えと見て取れた。
 敵勢を見据えるマリリンの隣に呂布が馬を寄せて来た。
「どう観る」
「油断ならぬ指揮官のようね。
完全に部隊を掌握しているわ」
「前に出て来たらどうする」
「アンタは」
 呂布は気負いがない。
自然に言葉が口をついた。
「逃げる気はない。言い出したのは俺だからな。
マリリン達はそこまで付き合う必要はない。みんなを連れて逃げてくれ」
 マリリンは苦笑い。
「私は逃げても構わないけど、あの二人は逃げないでしょうね」と、
こちらに戻って来る華雄と許褚の方に視線を向けた。
 呂布は肩を竦めただけ。
 華雄と許褚が戻って来た。
不思議な事に、敵指揮官を討ち取ったというのに高揚感が感じられない。
どちらかというと、無念そうな表情。
二人とも顔まで血塗れの様子から、
討ち取った敵指揮官の首を切り落とした筈なのだが。
だが、肝心の首が見当たらない。
 マリリンは反射的に問うた。
「首は」
 不満そうに華雄が答えた。
「呂布に董卓将軍への手土産として持って行って欲しかったんだが、
後から来た韓秀殿に横取りされてしまった。
自分が董卓将軍に持って行くとよ」
 許褚も憤懣遣る方ない表情。
しかし何も口にしない。
 マリリンは二人を宥めることにした。
「良いじゃないの。私達は赤劉家の居候。
これまで世話になった分を首一つで返したと思えば」
 華雄は収まらない。
「それはそうだが、胸くそ悪い」
「男でしょう。いつまでもグチグチ言わない」
「何もしてない奴に、当然のような顔で取り上げられてもな」
「みんなが見ていて知ってるわ。
討ち取ったのは誰なのか。
でも、それを渡した時点で首は韓秀殿の物。
討ち取ったのは二人、手柄は韓秀殿。いいわね、分かったわね」
 許褚が華雄の肩に手を置いた。
華雄は許褚と顔を見合わせ、口を閉じた。
 マリリンは隊列に韓秀の姿がない理由が分かった。
それとなく左右を見回した。
だが、どこにも見当たらない。
もしかすると離れた所に布陣している董卓軍本隊に出向いたのだろうか。
急場なのに、それを差し置いて急ぐ理由があるのか。
この、いつ状況が動き出すか分からぬ時に。
 いつもは口の重い呂布が、「赤劉家にも事情がある」と華雄の方を向いた。
 三人が呂布に視線を転じた。
「息子二人の養子口探しが難航しているらしい」と呂布。
 赤劉家は女系家族。
当主は女と定められていた。
現在の当主は徐州の赤劉邑を治めている劉桂英。
次代は娘の劉芽衣。
その後は孫にあたる劉麗華。
そこで問題になるのは当然ながら息子達の処遇。
姉妹の場合は、本人が望めば邑に残れるし、家族も持てる。
しかし男の兄弟ではどうにもならない。
子供時分に仲が良いといっても、先は分からない。
人は変わるもの。
特に男は欲望の赴くままに行動する傾向が強い。
家督相続争い無きにしも非ず。
それを未然に防ぐ為、息子達は外へ養子として出すのが慣例であった。
劉桂英、劉芽衣の兄弟はすでに他家に養子入りしているので問題はない。
現在の課題は劉麗華の兄と弟の処遇。
 マリリンは問う。
「家名と持参金で養子口探しは問題なし、と聞いていたけど」
「それは昔の話し。
徐州の田舎でなら通用するかも知れないが、ここは都、洛陽。
昔の手柄話しなんぞ、とうに忘れられている。
赤劉家の家名も今では一部でしか知られていない。
血縁関係から劉一族では知られているのだろうが、それ以外では全くだ。
特に無位無官が禍してる。
親しく行き来しても、何の益にもならない、と陰口を叩かれてる。
養子口探しが難航しているのは、そのあたりが原因じゃないのか」
 疑う分けではないが、いやに呂布が、呂布のくせに事情に詳しい。
「もしかして女達から聞いたの」
 心当たりは、それしかない。
呂布は赤劉家の女中二人に種付けする事を約束させられており、
余程の事がない限り、夜はその二人と三人で過ごしていた。
女中達は仕事柄どこにでも出入りするので屋敷の内情には詳しい。
同僚達と噂話の交換もするだろう。
その二人から寝物語にでも聞かされたとしか思えない。
だとすると、呂布のくせに、事情通なのも頷けた。
 呂布は聞こえぬ振り。
顔を背け、馬の首筋を撫で回した。
 韓秀が首を横取りした理由が分かった。
何としても武勲を立てて家名を上げ、息子二人の養子口探しに役立てたいのだろう。
今頃は殊勝な顔で董卓将軍に首を差し出しているに違いない。




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白銀の翼(動乱)408

2015-01-18 07:57:19 | Weblog
 呂布は敵騎兵二騎に進路を遮られた。
共に戦慣れした強者で、巧みな連携で呂布をその場に釘付けにした。
それでも呂布は進路を変えようとはしない。
念頭にあるのは前進のみ。
そこへ新たな敵騎兵二騎が加わった。
呂布の左右に回り込もうとした。
 華雄と許褚が間に合った。
華雄が呂布の背中に、
「小者相手に手間取るな」と怒号を浴びせながら左の敵騎兵を弾き飛ばした。
許褚は無言のまま右の敵騎兵。
回り込もうとした敵騎兵二騎を排除した。
ところが呂布を足留めにした正面の敵騎兵二騎は無視。
小気味よく左右に迂回して呂布と合わせて三騎を置き去りにした。
目指すは密集した敵騎兵の中にいるであろう指揮官。
華雄と許褚は馬首を揃えた。
連携して突き進む。
 マリリンは華雄と許褚の行動に呆れた。
呂布を中途半端に助けて置き去り。
何の意味が。
実に子供じみていた。
華雄なら、さもありなん。
それが許褚までとは。
二人を叱責しようにも、ここからでは届かない。
 マリリンの愛馬の剛は足を緩めない。
乗り手の考えていることが分かるかのように、勢いのまま呂布の左を駆け抜けた。
マリリンはその際、ついでに呂布に助勢し、棍で左の敵騎兵を突き落とした。
ほんの一瞬の突き技。
 戦慣れした強者もただの一騎では呂布の敵ではない。
慌てたところを見抜かれ、呂布に槍で貫かれた。
 先行していた華雄と許褚が密集していた敵騎兵の群に挑みかかった。
手早く四騎、五騎と屠る。
敵も必死。
前列を厚くし、防御に努めた。
それを華雄と許褚は強引に一枚、一枚剥ぎ取って行く。
そこへマリリンが加わった。
遅れて呂布。
後続の赤劉家騎馬隊までが来た。
 戦況悪化が理解出来たようで、董卓軍への備えをしていた敵前列が、
「自分達の指揮官を討たれてはならぬ」とばかりに矛先を転じた。
数で勝っているので、赤劉家騎馬隊全体を包囲殲滅しようと図った。
 赤劉家騎馬隊も直ちに対応した。
マリリン、呂布、許褚、華雄の進撃を優先させ、それに専念させる為の隊列を組んだ。
数では負けるが、しばらくは持ち堪えた。
が、敵は隊列を入れ替え、強引に押し潰しに来た。
味方が次々と討たれて行く。
「これまでか」と誰もが諦めかけた時、包囲の敵隊列がドッと揺れた。
悲鳴のような嘶き、怒号が飛び交う。
董卓軍が反撃に転じたとしか思えない。
こうなると勇気百倍。
諦め、疲れが吹っ飛ぶ。
隊列を持ち直した。
 マリリン達四騎が交互に先頭を競いながら、敵騎兵の群を断ち割って行く。
敵騎兵も四騎の強さを認めたのか、道を譲る者が続出した。
本気で阻止する者は少ない。
そしてついに見つけた。
一人だけ色鮮やかに防具を身に着けた騎兵。
指揮官に違いない。
そやつはマリリンと目が合うとギョッと目を剥いた。
隣に呂布、華雄、許褚が並ぶと、怯えたかのように目を逸らして背中を見せた。
判断が早い。
一目散に逃げだした。
それを追おうとしたのだが、
鮮卑の吠えるような声と同時に、近くにいた屈強な六騎に間に入られた。
立ち塞がり、逃がす時間稼ぎをするつもりらしい。
 ところがここでも華雄と許褚。
マリリン、呂布のみならず、敵騎兵六騎をも置き去りにするかのように、
小気味よく左右に迂回して指揮官を追う。
他の敵騎兵には目もくれない。
勢いの違いか、瞬く間に馬を並べた。
右に華雄。
左に許褚。
 時間稼ぎをするつもりだった六騎が慌てふためいた。
血相を変えて馬首を返した。
指揮官を守ろうと馬を急がせた。
 マリリン、呂布も負けてはいない。
六騎に混ざった。
敵味方は関係ない。
戦場は前方。
合わせて八騎で先を急いだ。
 示し合わせた分けではないが華雄と許褚が同時に槍を繰り出した。
左右から同時に繰り出した槍で指揮官を串刺しにした。
 悲報が伝わるのは早い。
鮮卑の金切り声が西日の空に響いた。
戦場に木霊した。
指揮官の戦死を告げた。
悲しみ、無念もあるが、それよりも部隊の引き際にあった。
指揮官を失えば、ここで持ち直すのは難しい。
直ぐ傍に味方部隊がいるが、そこに逃げ込めば陣形の混乱を招くだけ。
場合によっては共倒れしてしまう。
何よりも大事な事は、味方部隊に迷惑をかけずに敗走すること。
それを認識していたので、一斉に、それぞれが味方部隊とは反対方向に、
手前勝手に逃げ始めた。
徒歩の兵なら無理だろうが、騎兵なので自力での逃走は可能。
途中で仲間と合流すればいい。
必要な物は奪えばいい。
ここは敵地。収穫地。
遠慮はいらない。




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白銀の翼(動乱)407

2015-01-15 19:33:01 | Weblog
 董卓は正体の分からぬ味方部隊の快進撃に驚いた。
ことに先頭を駆ける四騎は凄まじい。
突破力に優れた鮮卑の騎馬隊を、いとも簡単に次々と葬り去って行く。
遠目にも圧倒的な力と技、そして連携が見て取れた。
四騎は先頭で戦いながらも余裕があるのか、時として引き返し、
後続の味方の穴を埋める戦いをするのだ。
 董卓は戦場では己の嗅覚を大事にした。
戦術や理屈は二の次。
勘が冴え渡った日は戦に負けたことがない。
直ちに国軍の将を呼んだ。
「このままでは味方が敵中で孤立する。
急ぎ千騎を率いて右の敵を討て。断ち割るのだ」
 将は喜び勇んで配下に檄を飛ばした。
「加勢に来た味方を敵中で孤立させてはならん。
これより出撃し合流する。
敵を真一文字に断ち割る。行くぞう」
 堰を切ったかのような鬨の声が上がった。
全体の士気も高揚した。
千騎が足場の悪い岩場から出て、隊列を組んだ。
陣形は鋒矢。
隊列が整うやいなや、一斉に出撃して行く。
 それを見送ると董卓は、残った二千騎をも岩場から出した。
広々とした所で隊列を組ませた。
こちらは魚鱗の陣形。
魚鱗を正面の五千騎に相対させた。
通常、魚鱗の場合、本隊は後列の中央に置く。
ところが董卓は先頭に本隊を置いた。
李儒を連れ、その最先頭に馬を進め、正面の五千騎を見据えた。
 家臣の郭夷が馬を寄せて来た。
「それがしに先陣を」と
 意気込みは買えた。
が、その機会が訪れるとは思えない。
「敵の動き次第だ」と言葉を濁した。
 郭夷は了承と受け取ったらしい。
満面に笑みを浮かべ、持ち場に戻って行く。
 李儒が呆れたような顔で董卓を見遣る。
「本当の事を言わないのですか」
「士気が下がるような事は言わん」
 相対する正面の敵五千騎は無傷のまま。
疲れ一つないだろう。
状況に関わらず如何様な戦い方でも出来るはず。
そうならぬように牽制するのが董卓率いる二千騎の仕事。
「いつでも出撃するぞ」と戦意を露わにし、
「そちらが動けば、こちらも動く」と強気の姿勢で押し通す。
我慢比べ。
先に動いた方が不利であるのは否めない。
董卓にとって一番肝心なのは、部下達の上がった士気を保持し続けること。
 マリリンにとっては初めての本格的な大きな戦い。
なのに戦い慣れしているのは、マリリンの中のヒイラギの記憶とシンクロしているせい。
ヒイラギの豊富過ぎる戦場体験がマリリンを図太くしていた。
人は殺めないが、攻撃するのに躊躇いはない。
容赦なく棍で敵騎兵を突き落とす、払い落とす。
人馬一体となり、敵中を駆けた。
 大雑把だが、真っ直ぐに敵中を突っ切るのが当初の予定であった。
ところが先頭の呂布が大きく右に転じた。
これでは想定していた進路から外れてしまう。
 思わずマリリンは呂布の背中に怒鳴りつけた。
「呂布、真っ直ぐ走れ」
 呂布は振り返らずに、身振りで応えた。
槍を持ち上げ、穂先で向かう先を示した。
 敵の塊があった。
五十騎ほど。
隊列とは無関係に群れなし、密集していた。
 マリリンの戦場勘が囁いた。
「敵の指揮官」
 指揮官を守ろうと周りを固めているのだろう。
確かめようはないが、そうとしか思えない。
見過ごしには出来ない。
マリリンは近くで戦っていた華雄と許褚に怒鳴る。
「華雄、許褚、付いて来て」
 二人に否はない。
それぞれが相手している敵騎兵を強引に突き殺し、マリリンに馬首を並べた。
マリリンが棍で指し示す方向を見て、目の色が変わった。
先を行く呂布と、向かう先の敵騎兵の密集している様子から、状況を察した。
喜び勇んで馬を急がせた。
 先を行く呂布が無謀にもただ一人、敵騎兵の密集に突っ掛かった。
敵は二騎で呂布を返り討ちにしようとした。
左右から槍を繰り出した。
それを呂布は無造作に一蹴。
受けるでも払うでもなく、槍と共に伸びて来た手を穂先で強引に斬撃。
二人の手の甲を切り裂いた。
続けて正面の敵騎兵の喉元を刺す。
ところが四人目、五人目は強者。
二人の連携で呂布を押し留めた。
さらに二人が加わった。
左右から呂布を仕留めようとした。




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白銀の翼(動乱)406

2015-01-11 07:37:23 | Weblog
 鮮卑の騎馬隊五百騎は闘気に溢れていた。
まるで解き放たれた猟犬。
獲物を目前にして自制が利かぬらしい。
眼光を怒らせ、牙剥き出しで駆けて来た。
隊列は百の横隊、五段構え。
整然としているようで、していない。
兵も馬も、一番槍を競い、我先に駆けて来た。
 対するは赤劉家の騎馬隊は百余騎。
無勢であるにも関わらず、気後れは微塵もない。
その先頭を駆けているのはマリリン、他に呂布、許褚、華雄の四騎。
敵勢一人、一人の表情が分かるまでに接近した。
呂布が無意識に抜け出した。
華雄が、若造に負けまいと後を追う。
マリリンは許褚と視線を交わし、「しようがない」とばかりに馬を急がせた。
 敵味方見守る中で、互いの先頭の間合いが縮まって行く。
獣のような怒号が上がった。
悲鳴に近い馬の嘶き。
互いの先頭が、ぶつかった。
槍が西日を受けて燦めいた。
鮮血が飛び散った。
 あっという間に呂布が敵三騎を屠った。
華雄は二騎。
許褚も二騎。
三人が槍を繰り出すのに対し、マリリンは相変わらずの棍。
槍に比べると殺傷力で劣るが、取り回しでは棍が勝る。
槍で刺した場合、防具等が邪魔をして抜き難くなる。
その点、棍は刺さらないので扱い易い。
敵の槍を払い、その流れから敵騎兵を馬から突き落とす。
例え相手がどんなに丈夫な防具を身に纏っていようと、棍には関係がない。
相手を選ばない。
敵の騎乗姿勢を見て取り、突きで崩して一気に落馬まで持って行く。
棍を右に左に回転させ、すでに五人を落馬させた。
 鮮卑の騎馬隊は勇猛果敢でも、マリリン達四騎には歯が立たない。
五段構えのうちの一段目、二段目、三段目が次々と突き破られた。
慌てて四段目、五段目が隊列を厚くした。
それでも勢いに乗るマリリン達を止められない。
 ことに呂布の勢いは凄まじい。
進むにつれて肩が暖まったのか、槍の動きが目にも留まらぬ早さになった。
敵が繰り出す槍を払いもしない。
後から繰り出したのに、先に突き刺さるのは呂布の槍。
敵の槍を弾きながら敵の胸に深々と突き刺さった。
実戦の中で剛力と技が、無意気のうちに融合した。
当人は平然たる表情で、噴き出す鮮血よりも先に、敵の脇を駆け抜けた。
 華雄も力戦した。
マリリン達との調練で技を覚えた筈なのに、実戦では自慢の剛力頼み。
強引に敵の槍を弾き飛ばし、容赦なく突き殺す。
年下の呂布への対抗心が力の源のようで、片目で呂布を追い、片目で敵を屠る。
そして時折、思い出したように咆えた。
命を遣り取りする戦場でも普段通りに煩い、煩い。
 もう一人の許褚は冷静に行動していた。
敵の直中にあるというのに、悠然と周囲を見回す余裕振り。
呂布と華雄の早さに後続の味方が遅れていると見て取るや、引き返し、
味方の障害となっていた敵を屠る。
徐州では乱暴者と評判だったのだが、今ではそれが嘘のよう。
これが生まれ持った許褚の気質なのかも知れない。
 マリオンも時折、後続を振り返り、味方が遅れていると見て取るや馬首を返した。
許褚を真似、味方の障害を取り除いた。
 呂布が真っ先に五百騎の壁を突き破った。
奮戦して頭の被り物が取れたらしい。
金髪が西日に映えた。
 僅かに遅れて華雄が、マリリンが、許褚が続いた。
赤劉家騎馬隊も一塊となって後に続いた。
馬足は止まらない。
勢いのまま敵二千五百騎に攻め寄せた。
 マリリン達が洛陽を進発してから今日で四日目。
韓秀の先導で、董卓軍の伏兵しそうな場所を目指した。
だが、何れも空振り。
董卓軍が宿営した形跡が有るには有った。
場所によっては、その近くに敵味方の死骸が何十体も転がっていた。
それを見てもマリリン達は諦めもしないし、怯みもしない。
死骸を尻目に先を急いだ。
一人で向かおうとした呂布の男気を無には出来ない。
何としても董卓軍に合流せねばならない。
たったの百余騎だが、「状況次第では戦局を変えられる」と韓秀も力説した。
途中、何度か敵と遭遇しそうになったが、上手く迂回した。
それで、ようやく董卓軍を見つけた。
董卓軍は岩場に防御陣を敷いていた。
敵は二部隊。
状況からして追い込まれたらしい。
どう見ても圧倒的に不利。
風前の灯火。
韓秀の表情が険しくなった。
だからといって董卓軍を見捨てはしない。
「荷馬車が役に立つ」と、策を錬った。
洛陽を進発する際、兵力不足を補う為、二両の荷馬車に銅鑼を山積みさせた。
それに、それぞれ騎兵十騎つけ、敵の後方に迂回させた。
その銅鑼が策通りに、敵の左方、後方で打ち鳴らされた。
軍楽を賑やかに打ち鳴らし、大軍襲来を演じさせた。
敵の多くを疑心暗鬼に陥らせた。
戦意も多少なりとも削いだ。
その結果が目の前にあった。
敵二千五百騎は全兵力でマリリン達に備える余裕がなかった。
目の前には董卓軍。
打ち鳴らされる銅鑼が連想させる大軍襲来。
二方面への備えもする必要があった。
それに迎撃に送り出した五百騎が、こうも簡単に断ち割られるとは想像だにせぬこと。
 呂布を先頭にして赤劉家騎馬隊百余騎が敵二千五百騎に、ドッと当たった。
傍目には大樹を突っつく啄木鳥に見え、滑稽に映るかも知れない。
しかし当初から敵の殲滅が目的ではない。
「敵隊列に挑み、董卓軍の連携を誘って戦局を変える」と韓秀。
赤劉家騎馬隊は敵隊列に挑むのみ。
五百騎は呂布達の鋭鋒で突き破ったが、二千五百騎まで上手く行くとは思っていない。
後は董卓軍の動き次第。
一切は董卓の判断に委ねられた。




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白銀の翼(動乱)405

2015-01-08 20:39:51 | Weblog
 董卓は土壇場に追い込まれた。
敵が二部隊に増えた今、機を見て脱出を図るのは下策。
だからと言って上策が有る分けではない。
とにかく敵の攻撃に耐え、耐えて耐え、耐え抜くしかない。
「耐え抜けば、新たな状況が生まれる」と信じ、それに賭けるしかない。
 董卓は悲観していない。
こういう修羅場には慣れていた。
北伐では何度も北方騎馬隊に包囲された。
その度に頑強に抵抗を続け、最後には潜り抜けて来た。
今回も生き残るつもりでいた。
 敵の部隊間の打ち合わせが終わったらしい。
隊列の組み直しが急いで行われた。
両隊とも千騎の横隊から、五百騎の横隊となった。
おそらく交互に、五百騎で休みなく押し寄せ、こちらを削って行くつもりなのだろう。
 その時、別の方向から金属音が聞こえて来た。
銅鑼。
左方から。
複数の銅鑼が打たれた。
直ぐに漢帝国の軍楽と分かった。
 敵が動きを止めた。
すると今度は正面の敵騎馬隊の後方からも銅鑼が聞こえ始めた。
こちらも複数の銅鑼で、同じく帝国の軍楽であった。
 敵に緊張が走った。
慌てて左方と後方に兵力を割き、警戒に充てさせた。
 郭夷が嬉しそうに言う。
「洛陽から軍が来ましたな」
 李儒は違った。
「密かに背後に迫り急襲すれば良いものを、
わざわざ銅鑼を鳴らして自分達の存在を知らせるとは、何を考えているんだか」
 近くにいた一騎が、「あれは」と片手を上げて、西の方を指し示した。
新たな軍影。
騎馬隊、およそ百騎。
西日を背負っているので、どこの軍勢なのか確とはしない。
 ところが敵が動揺した。
組み直された隊列が揺れた。
国軍であると分かったのだろう。
 新たな騎馬隊は整然と進み、距離を空け、
右方の敵騎馬隊と対峙するような位置取りをした。
そして一斉に鬨の声を上げた。
上げるには上げたが、それ以上、前進する気配はない。
それはそうだろう。
多勢に百騎では勝負にならない。
おそらく多人数による物見に違いない。
かなり高位にある将が物見に出る際は五十騎から百騎を率い、
時として、敵の戦意を探るために挑発等を行うのが通例であった。
将によっては物見ついでに敵を悪戯に挑発する輩もいた。
遊び感覚で引き付けるだけ引き付け、当人は真っ先に逃走する。
付き合わされる騎兵は堪ったものではない。
将を守る責務があるので命懸け。
 右方の敵騎馬隊が鬨の声に応じた。
負けずと一斉に鬨の声を上げて、答えとした。
溜まっていた鬱憤を晴らすかのような鬨の声。
人数が多いだけに迫力があった。
だけではない。
時を置かず、隊列から五百騎が離脱した。
躊躇なく百騎目掛けて駆け始めた。
片手に槍、片手に馬の手綱、次第に速度を上げて行く。
 迎え撃つ百騎の先頭に呂布がいた。
マリリン、許褚、華雄の三人もいた。
西日を浴びて敵騎馬隊が迫って来るのだが、誰も騒がない。
背後の赤劉家騎馬隊も微動だにしない。
 やがて頃合いと見たのか、感じたのか、呂布の馬が勝手に走り始めた。
呂布を乗せて平然と敵の殺気の直中に向かう。
それを呂布は窘めすらしない。
馬に身を任せていた。
馬の名は葉青。
呂布に似て、我が儘な馬だ。
 慌ててマリリン達が後を追う。
それぞれの馬を急がせ、呂布の左右に馬首を揃えた。
マリリンが呂布に、「アンタの馬は躾がなってないわよ」と怒鳴れば、
「馬が呂布に似ているのか、呂布が馬に似ているのか」と華雄が笑う。
呂布はムッとするも、何も言い返さない。
許褚はただ黙っているだけ。
赤劉家騎馬隊もその背後に従う。
次第に馬足が速まって行く。




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白銀の翼(動乱)404

2015-01-04 07:52:19 | Weblog
 董卓は李儒の進言を受け入れて軍を反転させた。
さっき通り過ぎた岩場にまで引き返した。
建物にすれば三階建てほどの高さの岩山があり、
その周辺に大小様々な岩が散乱していた。
おそらく岩山の一部が崩れ、このような有様になったのだろう。
 その岩場に軍を騎乗のまま、常歩で布陣させた。
ここであれば敵騎馬隊の突撃は防げると判断した。
散乱する岩が障害となり、騎馬隊による駈歩はむろん、速歩での攻撃も不可能とみた。
細かい布陣は李儒に任せ、最前列で敵の動きを観察した。
 敵騎馬隊五千が横隊のまま、正面に布陣した。
馬の嘶きと共に荒々しさが伝わって来た。
ところが、いつでも突撃出来る態勢なのに動く気配が全くない。
地形を見て、騎馬民族得意の攻撃は無理と判断したらしい。
血気盛んな連中なのに一糸の乱れもない。
敵の指揮官は五千の騎兵を見事に制御していた。
 鮮卑の騎馬隊三万は黄河を渡河するや、
董卓軍の布陣していた地に即刻押し寄せた。
洛陽へ進撃する際の障害になると見たのだろう。
一方の董卓は、それを承知で、その地に布陣して大勢の物見を放っていた。
当初から正面切って戦うつもりは毛頭なかった。
誰が見ても多勢に無勢。
「不毛な戦いを挑むのは馬鹿のやること」と思っていた。
そして実際、敵騎馬隊来襲を知るや、寸前まで引き付けて素早く撤退した。
それからは事前に密かに用意して置いた何カ所かの宿営地を足場に、
敵の周辺に出没し攪乱した。
本格的な襲撃も今回で三度目。
ついには、こうして敵騎馬隊に正面から捕捉されることに。
何時かは、こうなると分かっていたので落胆も、恐怖もない。
想定していた日数よりも多く敵を引き回し足留めした。
今頃は洛陽の反撃態勢も整っている頃合い。
「役目は充分に果たせた。
自分に目を掛けてくれた董太后も納得されるだろう」と、一人ほくそ笑み、
「これよりは自分の、そして自分の軍の戦い。
無様に戦い、何としても生き抜いてやる」と決意を固めた。
 李儒が隣に馬を寄せて来た。
窮地に陥っているというのに、そんな様子は微塵も感じさせない。
「何をお考えで」
 董卓は背後を振り返り、味方騎馬隊の配置を見た。
岩を盾とし、上手い具合に弓兵と槍兵を置いていた。
木の盾だと馬に蹴散らされるが、岩だとそうも行かない。
地の利はこちら。
後は敵を待つだけ。
強引に敵が突撃してくれれば、こちらの思う壺。
岩と騎馬隊の隊列で押し留め、草を刈るように狩るだけ。
 董卓は、董太后が董卓に目を掛けているように、李儒に目を掛けていた。
風に吹き飛ばされそうな、か細い将であるが、目端が利く。
用兵にも通じているが、何よりも腹が据わっているのが良い。
「洛陽に戻れたら正式な軍師に登用する。
何としても生き抜けよ」
 李儒の大きな目が、より大きくなった。
「本当で」
「瀬戸際で嘘をついてどうする。
それより敵の動きをどう見る」
 李儒は視線を敵に向け、表情を引き締めた。
「お得意の突撃は不利と判断したのでしょうね。
こうなれば我慢比べです」
「敵が我らを包囲せぬのは」
「包囲するには兵力が足りません。
包囲してくれれば隊列が薄くなり、こちらとしても食い破り易くなるのですがね」
 そこへ郭夷が馬を寄せて来た。
身分は李儒と同じく董家の家臣で、国軍の騎兵ではない。
彼には董家の家臣団の騎馬隊主力を任せていた。
主力といっても、現在生き残っているのは二百騎足らず。
家臣団の騎兵もだが、
家臣団の将も多くが戦死したので荒っぽい彼に委ねるしか選択肢はなかった。
その彼が、
「膠着しているのなら、それがしが突っ掛け、誘いますか」と四角い顔で言う。
 突っ掛けて誘うのは良い策だが、突っ走る性分の男なので、下手に許可出来ない。
 李儒が郭夷を諭した。
「まあ、待て。今は我慢比べだ。先に動いた方が負ける」
「いつまで待つ。直に日が暮れるぞ」
 確かに日は西に傾こうとしていた。
「夜に紛れて逃げる機会を窺う。
だが、逃げられなくても、こちらは一向に困らない。
困るのは向こうだ。
我らに時間を掛けすぎると、洛陽から加勢が到着する」
 郭夷が渋い表情。
「洛陽の連中を当てにしているのか」
「当然だろう。加勢を出さなくて困るのは洛陽だ。
地震で被災した洛陽で防御出来るか。
住民達が大騒ぎして収拾がつかない。
それに我らを見捨てれば、地に落ちた洛陽の評判がさらに地獄の底にまで落ちる」
と李儒が言い切った。
 董卓は李儒の洛陽評に苦笑い。
さすがの郭夷もお手上げ。何も返さない。
 事態が動いた。
多数の馬の蹄の音が聞こえて来た。
明らかに、こちらに向かって来ていた。
西日の空に大量の砂塵が巻き上げられた。
敵か味方か。
 ところが正面の敵騎馬隊は微動だにしない。
だとすれば事前に知っていたのか。
それとも遠目に見て取れたのか。
 現れた。
およそ三千の敵騎馬隊。
伏兵から逃れて迂回した部隊に違いない。
それが正面の部隊には合流せずに右方に布陣した。
こちらは三段の横隊。
 郭夷の表情が一変した。
弱音は吐かないが、蒼白になった。
一方、李儒の顔色は変わらない。
多少、表情を引き締めただけ。
 正面の敵騎馬隊から数騎が右方へ駆けて行く。
攻撃の打ち合わせに向かったに違いない。




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白銀の翼(動乱)403

2015-01-01 20:51:51 | Weblog
 董卓は先頭を切って走った。
長身痩躯のその身体を馬上に伏せ、前方に目を凝らした。
指揮下の国軍の騎兵達が大勢、その直ぐ後ろに従っていた。
およそ千騎。
隊列はすでに乱れ、崩れていた。
それでも隊から離れ、横に逸れる兵は一騎もいない。
隊から外れれば、それは戦死を意味した。
落伍すれば、それもまた戦死を意味した。
崩れた隊列で砂塵を巻き上げ、一心不乱に逃走していた。
 敵の騎馬隊が背後に迫ろうとしていた。
いわゆる北方騎馬民族と呼ばれる連中。
間近にして、それが今や北方で最大の勢力を誇る鮮卑と分かった。
数は五千余。
こちらは砂塵だけでなく、気勢も上げて勢いづいていた。
 董卓は地形を利用して鮮卑の一隊を襲った。
伏兵して、敵の後尾を削るつもりでいた。
ところが敵は五千の大所帯にも係わらず、一糸乱れず、あっという間に反転して来た。
前の二回の襲撃は大成功に終わったが、今回の隊は様子が違った。
敵はその反省から、対応策を練っていたのだろう。
襲われた後尾の隊がその場で持ち堪えている間に、
先頭が急旋回して反撃して来たのだ。
隊列を翼のように大きく広げ、国軍の騎馬隊を丸ごと飲み込もうとした。
削るつもりが、包囲殲滅させられようとした。
董卓の判断は速かった。
敗北と知るや、即座に馬首の向きを変えた。
己が先頭となり、見苦しいばかりの敗走を開始した。
たとえ意地で五千相手に持ち堪えたとしても、それだけでは何にもならない。
遊撃の別隊がいれば、打開もされようが、近くに味方は影も形もない。
逃げるしかなかった。
 董卓が前方の目印を捉えた。
草地に幾つかの小岩が並んでいた。
その一つの上部が赤く色付けされていた。
 その目印を過ぎた。
雑木林の前も過ぎた。
草木のない荒れ地に出た。
これまでの、なだらかな草地と違い凹凸の激しい地形で、馬では走り難い。
それでも董卓は巧みに馬を操った。
付き従う兵達も一騎も脱落しない。
唇を噛み締め、必死の形相で董卓の後を追う。
後方から迫る鮮卑の騎馬隊も追撃を諦めない。
血走った目で逃げる騎兵の背中を睨んでいた。
両者の距離が縮まっていた。
このままでは何れ追い付かれる。
 董卓が探していた道を捉えた。
先の目印の示した横道だ。
董卓はそこに馬首を向けた。
躊躇なく駆け込む。
両側を小高い丘の連なりに挟まれていた。
岩肌が剥き出しの、なだらかな丘陵であった。
地形としては、まるで谷のよう。
その細い道を駆けた。
五騎も並んで走れない。
自然、三列縦隊になった。
それは敵も同じ。
馬蹄の音が、敵の罵声が谷間に反響した。
 しばらく駆けて、敵が味方の後尾に追い付いたであろうと思える頃合いであった。
激しく銅鑼が打ち鳴らされた。
丘陵の上からで、手筈通りに策が実行に移された。
両側の丘陵の上に次々と人影が現れ、
事前に用意していた小岩を次々と敵の隊列目掛けて転がした。
手空きの者は足下の石を拾い上げて礫とし、敵騎兵目掛けて投げた。
岩肌剥き出しの丘陵なので、転がす岩、礫には事欠かない。
 上から転がされた岩、投げられた礫には威力があった。
敵は何れも騎乗なので避けようも、防ぎようもない。
馬もろとも岩の下敷きになる者。
礫を顔面に受けて落馬する者。
逃げようとして味方と、ぶつかる者。
人馬の悲鳴と怒号が交差した。
敵隊列が混乱した。
 先頭の無残な様相に後続の者達は慌てて馬首を返した。
横道から元の荒れ地に脱出した。
転がされた小岩が道に散乱し、追撃は不可能と判断したのだろう。
味方の救助は行わず、改めて追撃する為、迂回を開始した。
 董卓も馬鹿ではない。
いつまでも伏兵の成功に浸ってはいない。
ある程度、敵に損害を与えたところで撤収を命じた。
 両側の丘陵から騎兵達が隠しておいた馬を引き出して、
董卓の元に参集して来た。
当初は四千の騎馬隊であったものが、今、手元に残っているのは三千余。
敵に損害も与えたが、味方の被害も大きい。
しかし、この三回の襲撃で敵の進撃を遅らせる事が出来た。
多勢に無勢で挑み、この程度の被害で済んでる事も奇跡に等しい。
満足すべきなのかも知れない。
 断末魔の叫びを上げている敵を残し、董卓軍は帰路を急いだ。
暗くなる前には次の宿営地に着かねばならない。
予定の道のりを駆けた。
 と、軍影。
さっきまでの敵軍の残りではない。
新たな敵軍に遭遇してしまった。
勢いからして違う。
こちらに気付くや、余裕を示すかのように、ゆっくりと横隊となった。
 董卓は敵は五段構えの横隊と見て取った。
これまた五千余の騎馬隊。
こちらに逃げる余裕はない。
先の襲撃で疲れている兵も多いので、逃げても受けても苦戦は免れない。
付き従う李儒に問う。
「何か打つ手はないか」
 問われた将は冷静に応じた。
「将軍のみであれば生き残れる策もあります」
「一人で逃げる気はない。
北伐で生死を共にした部下を見殺しには出来ない」
 か細い体軀の将が目で笑った。
「いいでしょう。
後方の岩場に陣を敷きましょう。
岩を利用して防御に専念すれば、いずれ夜になります。
それで敵に隙が出来るのを待つのが最善かと」




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