王妃軍が王宮を実効支配する様になって十日が過ぎた。
外郭の反乱軍残党も掃討し、事態を鎮静化させた。
けれど国都の空気は重い。
ワイバーン襲来に次いでの反乱。
ワイバーンの後始末に反乱の後始末が上乗せされた。
終える目処がつかない。
貴賤に拘わらず人心に等しく疲弊をもたらした。
経緯が公開されれば人々も少しは安心できると思うのだが、
何等の説明もなされない。
小出しにもされない。
噂だけが流布するのみ。
人々には疑問、不安だけが積み重なっていた。
俺の手元にも正確な情報が入らない。
情報収集をしていた眷属が機能していないのが痛い。
脳筋妖精・アリスとダンジョンスライム・ハッピー。
二人して、王妃軍が勝利するや、人間の争いには飽きたと公言し、
ここのところ姿をみせていない。
おそらく、ダンジョンの魔改造に専念しているのだろう。
うちの眷属、自由すぎる。
俺が王宮へ出仕できれば情報収集ができるだが、
生憎とお子様子爵、王宮への出仕そのものができない。
もっとも、現在は成人していても自由に王宮の門は潜れない。
事前に予約し、承諾を得る必要がある。
規制の理由は、反乱軍への対処。
反乱軍の首謀者である公爵二人が生存している状況では頷ける話。
おかしくはない。
おかしくはないのだが、正確な情報が欲しい。
俺は応接室に入った。
上座の椅子を従者・スチュワートが引いてくれた。
それに俺は腰を下ろした。
背後に執事・ダンカンが控えた。
下座で立って迎えてくれるのは大人七人。
子爵軍小隊長・ウィリアム。
傭兵団『赤鬼』団長・アーノルド倉木。
その副団長・ドリフ。
同じく会計係・ジュード。
冒険者クラン『ウォリアー』団長・ピーター渡辺。
その副官・テッド。
同じく会計係・ウォルター。
俺はウィリアムを見た。
彼が深く頷いた。
事前の話し合いは了解に達していた。
俺は全員を見回し、椅子に腰を下ろす様に勧めた。
「さあ、座って。
問題がない様だからお茶にしよう」
ワゴンを押してメイド達が入って来た。
俺は差し出された紅茶を飲んだ。
温い、甘い、子供の舌には丁度いい。
皆の手元のお茶が入れ替えられた。
コーヒー党もいれば緑茶党もいる。
メイド達はそれぞの好みを承知していた。
一つの間違いなく入れ替えた。
俺が飲み終えたのを見て、ピーターがコーヒーを手元に置いた。
「子爵様、契約の継続、ありがとうございます」
アーノルドも同様に言う。
彼等とは十五日間の契約であったが、延長をお願いした。
「こちらこそ助かります。
ウィリアムが説明した様に、イヴ様を預かっているのです。
新たに雇い入れるのは、ちょっと躊躇います。
こちらの事情を知って変な奴に入り込まれては困りますからね。
特に反乱軍に繋がりがある者。
・・・。
それに、何故かお二人はイヴ様に好かれていますからね」
団長の二人、ピーターとアーノルドはイヴ様に懐かれていた。
仕事の合間に何時も何時もイヴ様を肩車していた。
幼女に好かれるのもリーダーの素質なのだろうか。
アーノルドが言い訳した。
「子爵様がお忙しいので、代わりに肩車をせがまれているだけです」
二人を支える副団長と会計係は苦笑い。
「ですよね」
「顔は怖いのに、イヴ様は怯みませんね」
「私の子供は団長を見ると泣きます」
「私も最初、団長の顔を見たら泣きました。
大の大人でも怖いですもんね」
表門の門衛が慌てた顔で入室して来た。
「王妃様が参られるそうです」
屋敷を訪問されるのは二回目だ。
目的は勿論、イヴ様。
暗殺対策として、先触れは当日、直前。
ポール細川子爵家の馬車に同乗して王妃様が入られる。
勿論、護衛にも怠りはない。
ポール細川子爵家の騎士に扮した近衛騎士団が帯同しているのだ。
俺達はお茶を中断して本館を飛び出した。
その目の前を馬車が通り過ぎた。
到着が早過ぎるだろう。
そんな俺の気持ちは置いてけぼりで、馬車は内庭を通過、
噴水の前のコンコースでようやく止まった。
供周りの騎士たちが次々に下馬し、警護の為に散開した。
女性騎士四騎が馬車のドアの前に整列した。
指示一つもないのに、目に鮮やかなテキパキした動き。
鍛えられている。
先にポール様が馬車から降りてベティ様をエスコート。
何やら二人して顔色が悪い。
明らかに疲れが溜まっている。
今にも倒れそう。
理由は分かる。
国王陛下の死は秘されている。
けれど国政は待ってはくれない。
秘したまま、王妃と国王陛下の最側近がその重責を担っているのだろう。
たとえ評定衆の助言があるとはいえ決断するのはプレッシャー。
俺ならそんな立場はごめんだ。
まあ、そんな立場とは無縁だけど。
二人に同情した。
散開した騎士の一人が声を上げた。
「こちらにイヴ様がおられます」
途端、ベティ様の表情が変わった。
目が光を得た。
早い足取りで声の方へ向かわれた。
花壇の方でイヴ様が遊ばれているのだろう。
ポール様が俺の方へ歩いて来た。
「お邪魔するよ」
「いいえいいえ、イヴ様もお喜びでしょう」
「ベティ様は疲れていらっしゃる。
先に君に挨拶するのが筋だが、目を瞑ってくれ」
「構いません。
事情が事情ですから」
ポール様は疲れを隠そうともしない。
「疲れた。
立っているのも歩くのもキツイ。
馬車の中で座って話をしようか」
「はい」断る理由はない、が、ダンカンへの、
「皆様にお茶を振舞って。
馬車には二人分」指示も忘れない。
はあ、俺ってお貴族様・・・。
ポール様の疲労は重そうだ。
深々と座席に腰を下ろされた。
「ふー、疲れたよ」
「大変そうですね」
「ほんとう、大変だよ。
それはそうと・・・」言葉を切られて、俺に視線を向け、
「もう少し、イヴ様を頼む。
後宮の修復は優先度が低い。
どうしても王政を司る建物が優先される」と頼まれた。
「理解してます」
「たすかるよ」またもや言葉を切られ、俺を観察する様に繁々と見て、
「一つ尋ねたい」と言われた。
「どうぞ」
「前回の訪問時もそうだったけど、
君は国王陛下に関しては一切、質問しないね、どうしてだい」
死亡は眷属の二人が確認している。
だから敢えて尋ねなかった。
それが、こうなるとは・・・。
最側近は疲れていても手強い。
外郭の反乱軍残党も掃討し、事態を鎮静化させた。
けれど国都の空気は重い。
ワイバーン襲来に次いでの反乱。
ワイバーンの後始末に反乱の後始末が上乗せされた。
終える目処がつかない。
貴賤に拘わらず人心に等しく疲弊をもたらした。
経緯が公開されれば人々も少しは安心できると思うのだが、
何等の説明もなされない。
小出しにもされない。
噂だけが流布するのみ。
人々には疑問、不安だけが積み重なっていた。
俺の手元にも正確な情報が入らない。
情報収集をしていた眷属が機能していないのが痛い。
脳筋妖精・アリスとダンジョンスライム・ハッピー。
二人して、王妃軍が勝利するや、人間の争いには飽きたと公言し、
ここのところ姿をみせていない。
おそらく、ダンジョンの魔改造に専念しているのだろう。
うちの眷属、自由すぎる。
俺が王宮へ出仕できれば情報収集ができるだが、
生憎とお子様子爵、王宮への出仕そのものができない。
もっとも、現在は成人していても自由に王宮の門は潜れない。
事前に予約し、承諾を得る必要がある。
規制の理由は、反乱軍への対処。
反乱軍の首謀者である公爵二人が生存している状況では頷ける話。
おかしくはない。
おかしくはないのだが、正確な情報が欲しい。
俺は応接室に入った。
上座の椅子を従者・スチュワートが引いてくれた。
それに俺は腰を下ろした。
背後に執事・ダンカンが控えた。
下座で立って迎えてくれるのは大人七人。
子爵軍小隊長・ウィリアム。
傭兵団『赤鬼』団長・アーノルド倉木。
その副団長・ドリフ。
同じく会計係・ジュード。
冒険者クラン『ウォリアー』団長・ピーター渡辺。
その副官・テッド。
同じく会計係・ウォルター。
俺はウィリアムを見た。
彼が深く頷いた。
事前の話し合いは了解に達していた。
俺は全員を見回し、椅子に腰を下ろす様に勧めた。
「さあ、座って。
問題がない様だからお茶にしよう」
ワゴンを押してメイド達が入って来た。
俺は差し出された紅茶を飲んだ。
温い、甘い、子供の舌には丁度いい。
皆の手元のお茶が入れ替えられた。
コーヒー党もいれば緑茶党もいる。
メイド達はそれぞの好みを承知していた。
一つの間違いなく入れ替えた。
俺が飲み終えたのを見て、ピーターがコーヒーを手元に置いた。
「子爵様、契約の継続、ありがとうございます」
アーノルドも同様に言う。
彼等とは十五日間の契約であったが、延長をお願いした。
「こちらこそ助かります。
ウィリアムが説明した様に、イヴ様を預かっているのです。
新たに雇い入れるのは、ちょっと躊躇います。
こちらの事情を知って変な奴に入り込まれては困りますからね。
特に反乱軍に繋がりがある者。
・・・。
それに、何故かお二人はイヴ様に好かれていますからね」
団長の二人、ピーターとアーノルドはイヴ様に懐かれていた。
仕事の合間に何時も何時もイヴ様を肩車していた。
幼女に好かれるのもリーダーの素質なのだろうか。
アーノルドが言い訳した。
「子爵様がお忙しいので、代わりに肩車をせがまれているだけです」
二人を支える副団長と会計係は苦笑い。
「ですよね」
「顔は怖いのに、イヴ様は怯みませんね」
「私の子供は団長を見ると泣きます」
「私も最初、団長の顔を見たら泣きました。
大の大人でも怖いですもんね」
表門の門衛が慌てた顔で入室して来た。
「王妃様が参られるそうです」
屋敷を訪問されるのは二回目だ。
目的は勿論、イヴ様。
暗殺対策として、先触れは当日、直前。
ポール細川子爵家の馬車に同乗して王妃様が入られる。
勿論、護衛にも怠りはない。
ポール細川子爵家の騎士に扮した近衛騎士団が帯同しているのだ。
俺達はお茶を中断して本館を飛び出した。
その目の前を馬車が通り過ぎた。
到着が早過ぎるだろう。
そんな俺の気持ちは置いてけぼりで、馬車は内庭を通過、
噴水の前のコンコースでようやく止まった。
供周りの騎士たちが次々に下馬し、警護の為に散開した。
女性騎士四騎が馬車のドアの前に整列した。
指示一つもないのに、目に鮮やかなテキパキした動き。
鍛えられている。
先にポール様が馬車から降りてベティ様をエスコート。
何やら二人して顔色が悪い。
明らかに疲れが溜まっている。
今にも倒れそう。
理由は分かる。
国王陛下の死は秘されている。
けれど国政は待ってはくれない。
秘したまま、王妃と国王陛下の最側近がその重責を担っているのだろう。
たとえ評定衆の助言があるとはいえ決断するのはプレッシャー。
俺ならそんな立場はごめんだ。
まあ、そんな立場とは無縁だけど。
二人に同情した。
散開した騎士の一人が声を上げた。
「こちらにイヴ様がおられます」
途端、ベティ様の表情が変わった。
目が光を得た。
早い足取りで声の方へ向かわれた。
花壇の方でイヴ様が遊ばれているのだろう。
ポール様が俺の方へ歩いて来た。
「お邪魔するよ」
「いいえいいえ、イヴ様もお喜びでしょう」
「ベティ様は疲れていらっしゃる。
先に君に挨拶するのが筋だが、目を瞑ってくれ」
「構いません。
事情が事情ですから」
ポール様は疲れを隠そうともしない。
「疲れた。
立っているのも歩くのもキツイ。
馬車の中で座って話をしようか」
「はい」断る理由はない、が、ダンカンへの、
「皆様にお茶を振舞って。
馬車には二人分」指示も忘れない。
はあ、俺ってお貴族様・・・。
ポール様の疲労は重そうだ。
深々と座席に腰を下ろされた。
「ふー、疲れたよ」
「大変そうですね」
「ほんとう、大変だよ。
それはそうと・・・」言葉を切られて、俺に視線を向け、
「もう少し、イヴ様を頼む。
後宮の修復は優先度が低い。
どうしても王政を司る建物が優先される」と頼まれた。
「理解してます」
「たすかるよ」またもや言葉を切られ、俺を観察する様に繁々と見て、
「一つ尋ねたい」と言われた。
「どうぞ」
「前回の訪問時もそうだったけど、
君は国王陛下に関しては一切、質問しないね、どうしてだい」
死亡は眷属の二人が確認している。
だから敢えて尋ねなかった。
それが、こうなるとは・・・。
最側近は疲れていても手強い。
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