金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(大乱)210

2021-04-04 06:43:37 | Weblog
 王妃軍が王宮を実効支配する様になって十日が過ぎた。
外郭の反乱軍残党も掃討し、事態を鎮静化させた。
けれど国都の空気は重い。
ワイバーン襲来に次いでの反乱。
ワイバーンの後始末に反乱の後始末が上乗せされた。
終える目処がつかない。
貴賤に拘わらず人心に等しく疲弊をもたらした。
 経緯が公開されれば人々も少しは安心できると思うのだが、
何等の説明もなされない。
小出しにもされない。
噂だけが流布するのみ。
人々には疑問、不安だけが積み重なっていた。

 俺の手元にも正確な情報が入らない。
情報収集をしていた眷属が機能していないのが痛い。
脳筋妖精・アリスとダンジョンスライム・ハッピー。
二人して、王妃軍が勝利するや、人間の争いには飽きたと公言し、
ここのところ姿をみせていない。
おそらく、ダンジョンの魔改造に専念しているのだろう。
うちの眷属、自由すぎる。
 俺が王宮へ出仕できれば情報収集ができるだが、
生憎とお子様子爵、王宮への出仕そのものができない。
もっとも、現在は成人していても自由に王宮の門は潜れない。
事前に予約し、承諾を得る必要がある。
規制の理由は、反乱軍への対処。
反乱軍の首謀者である公爵二人が生存している状況では頷ける話。
おかしくはない。
おかしくはないのだが、正確な情報が欲しい。

 俺は応接室に入った。
上座の椅子を従者・スチュワートが引いてくれた。
それに俺は腰を下ろした。
背後に執事・ダンカンが控えた。
 下座で立って迎えてくれるのは大人七人。
子爵軍小隊長・ウィリアム。
傭兵団『赤鬼』団長・アーノルド倉木。
その副団長・ドリフ。
同じく会計係・ジュード。
冒険者クラン『ウォリアー』団長・ピーター渡辺。
その副官・テッド。
同じく会計係・ウォルター。
 俺はウィリアムを見た。
彼が深く頷いた。
事前の話し合いは了解に達していた。
俺は全員を見回し、椅子に腰を下ろす様に勧めた。
「さあ、座って。
問題がない様だからお茶にしよう」

 ワゴンを押してメイド達が入って来た。
俺は差し出された紅茶を飲んだ。
温い、甘い、子供の舌には丁度いい。
皆の手元のお茶が入れ替えられた。
コーヒー党もいれば緑茶党もいる。
メイド達はそれぞの好みを承知していた。
一つの間違いなく入れ替えた。
俺が飲み終えたのを見て、ピーターがコーヒーを手元に置いた。
「子爵様、契約の継続、ありがとうございます」
 アーノルドも同様に言う。
彼等とは十五日間の契約であったが、延長をお願いした。
「こちらこそ助かります。
ウィリアムが説明した様に、イヴ様を預かっているのです。
新たに雇い入れるのは、ちょっと躊躇います。
こちらの事情を知って変な奴に入り込まれては困りますからね。
特に反乱軍に繋がりがある者。
・・・。
それに、何故かお二人はイヴ様に好かれていますからね」
 団長の二人、ピーターとアーノルドはイヴ様に懐かれていた。
仕事の合間に何時も何時もイヴ様を肩車していた。
幼女に好かれるのもリーダーの素質なのだろうか。
アーノルドが言い訳した。
「子爵様がお忙しいので、代わりに肩車をせがまれているだけです」
 二人を支える副団長と会計係は苦笑い。
「ですよね」
「顔は怖いのに、イヴ様は怯みませんね」
「私の子供は団長を見ると泣きます」
「私も最初、団長の顔を見たら泣きました。
大の大人でも怖いですもんね」

 表門の門衛が慌てた顔で入室して来た。
「王妃様が参られるそうです」
 屋敷を訪問されるのは二回目だ。
目的は勿論、イヴ様。
暗殺対策として、先触れは当日、直前。
ポール細川子爵家の馬車に同乗して王妃様が入られる。
勿論、護衛にも怠りはない。
ポール細川子爵家の騎士に扮した近衛騎士団が帯同しているのだ。

 俺達はお茶を中断して本館を飛び出した。
その目の前を馬車が通り過ぎた。
到着が早過ぎるだろう。
そんな俺の気持ちは置いてけぼりで、馬車は内庭を通過、
噴水の前のコンコースでようやく止まった。
 供周りの騎士たちが次々に下馬し、警護の為に散開した。
女性騎士四騎が馬車のドアの前に整列した。
指示一つもないのに、目に鮮やかなテキパキした動き。
鍛えられている。

 先にポール様が馬車から降りてベティ様をエスコート。
何やら二人して顔色が悪い。
明らかに疲れが溜まっている。
今にも倒れそう。
 理由は分かる。
国王陛下の死は秘されている。
けれど国政は待ってはくれない。
秘したまま、王妃と国王陛下の最側近がその重責を担っているのだろう。
たとえ評定衆の助言があるとはいえ決断するのはプレッシャー。
俺ならそんな立場はごめんだ。
まあ、そんな立場とは無縁だけど。
二人に同情した。

 散開した騎士の一人が声を上げた。
「こちらにイヴ様がおられます」
 途端、ベティ様の表情が変わった。
目が光を得た。
早い足取りで声の方へ向かわれた。
花壇の方でイヴ様が遊ばれているのだろう。

 ポール様が俺の方へ歩いて来た。
「お邪魔するよ」
「いいえいいえ、イヴ様もお喜びでしょう」
「ベティ様は疲れていらっしゃる。
先に君に挨拶するのが筋だが、目を瞑ってくれ」
「構いません。
事情が事情ですから」
 ポール様は疲れを隠そうともしない。
「疲れた。
立っているのも歩くのもキツイ。
馬車の中で座って話をしようか」
「はい」断る理由はない、が、ダンカンへの、
「皆様にお茶を振舞って。
馬車には二人分」指示も忘れない。
 はあ、俺ってお貴族様・・・。

 ポール様の疲労は重そうだ。
深々と座席に腰を下ろされた。
「ふー、疲れたよ」
「大変そうですね」
「ほんとう、大変だよ。
それはそうと・・・」言葉を切られて、俺に視線を向け、
「もう少し、イヴ様を頼む。
後宮の修復は優先度が低い。
どうしても王政を司る建物が優先される」と頼まれた。
「理解してます」
「たすかるよ」またもや言葉を切られ、俺を観察する様に繁々と見て、
「一つ尋ねたい」と言われた。
「どうぞ」
「前回の訪問時もそうだったけど、
君は国王陛下に関しては一切、質問しないね、どうしてだい」
 死亡は眷属の二人が確認している。
だから敢えて尋ねなかった。
それが、こうなるとは・・・。
最側近は疲れていても手強い。


コメントを投稿