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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

金色の涙(白拍子)202

2010-01-31 09:56:41 | Weblog
 砦の一画に、守備兵の寝泊まりするための長屋が建てられていた。
その一部屋に寝かされていた豪姫が目を覚ました。
いきなり上半身を起こし、傍に秀家が居るのを見て、
「ああ、・・・これは」と安堵と不安の入り混じった声で尋ねた。
 秀家の他に宇喜多家の忍者二人もいた。
二人は手傷を負っているが、己のことより豪姫を身体を心配していた。
目覚めたので安心したのか、二人の全身から力が抜けるのが傍目にも分かった。
 秀家はいつもの優しい声で豪姫を労る。
「よかった、よかった。どこか痛いところはないか」
 豪姫は己の全身を見回した。
「どこも。それより、ここは」
「覚えてないのか。お豪が倒れたから、この砦に運び込んだのだ」
 豪姫は少し考えた。
「すると、・・・一揆勢はどうなりました」
「この砦を囲んでいる」
 薄い敷き布団から起き上がろうとする豪姫を、秀家が両手で制す。
「お豪、今は休む事だ」
「しかし」
「みんなの力を信じろ」
「でも・・・」
 秀家はきつい言葉を投げた。
「猿飛の三人の死を無駄にするのか」

 砦の門が内側より開けられた。
押し寄せていた一揆勢は予期せぬ事態に足が止まった。
罠があると躊躇したのだろう。
 実際、急ぎ呼び集められた鉄砲隊が待ち構えていた。
八十人程だが、三段構えで鉄砲を放つ。
人数は少ないが門が狭いので効果は絶大。
正面に棒立ちの者達を次々と撃ち倒した。
 鉄砲が止むや白拍子が飛び出した。
間隔を空けずに騎馬五十騎が従う。
徒の者達が鬨の声を上げて続いた。併せて総勢千人余。
敵は五千人余だが勢いは徳川勢にあった。
そして、地の利も徳川勢に。
砦が丘の上に築かれていたので、高所から一揆勢を攻め下ろす形になった。
 一気に敵勢を二つに断ち割った。
敵は五千人余で砦を包囲しているので、実際に当る敵勢は千人にも満たない。
余裕で折り返し、右の敵勢に挑む。
 白拍子は先頭を騎馬には譲らない。
槍を振り回して敵隊列に突入した。
上から叩き、横から払い、下からかち上げ。その荒っぽいこと。
 彼女は自分が鞍馬で吸収した光体の事を思い出した。
光体の元になった魔物は三つ。
武芸に長じた鬼の王、銀鬼。
銀鬼が斃れるや、入れ替わるように銀鬼の内より現れた雷鬼。
そして翼を持ち、鬼達の血を吸うことによって己の生命を維持するバロン。
 今の彼女は銀鬼そのもの。槍捌きに何の容赦も無い。
槍を風車のごとく振り回して立ち塞がる敵兵を次々に弾き飛ばした。

 先頭を駆ける慶次郎に真田昌幸が並ぶ。
知将は、「あそこだ」と刀で左斜め後方を指し示した。
敵勢を指揮する者を見つけたらしい。
 慶次郎は昌幸の判断を一瞬たりとも疑わない。
承知とばかりに頷いた。
いきなり馬首を転じては、味方が混乱する。
小さく迂回するようにして、敵勢を切り開きながら馬首をその方向に向けた。
みんなも疑問を抱かずについて来た。
 そこは分厚い槍隊の隊列に守られていた。
慶次郎達の斬り込みに槍衾で頑強に抵抗した。
付け入る隙を与えない。
このまま続けると敵勢に包囲されてしまう。
 すると、これまで敵勢の明かりを消し回っていた狐狸達が加勢に来た。
側面から「狐火」を放って急襲するではないか。
思わぬ事態に敵隊列は混乱した。
 乱れに乗じて慶次郎は亀裂に突入した。
続く真田親子が亀裂をさらに押し広げた。
その三騎を味方の徒の者達が狂ったよう追い越す。
そして、勢いでもって敵勢を蹴散らした。 

 佐助と若菜が一心同体となった。
横から繰り出された槍を若菜が受け止めれば、
すかさず佐助が相手の手首を斬り離し、
次の瞬間には若菜が相手の首を斬り落とす。
こうして攻守を入れ代わりながら魔物達を打ち倒して行く。
 ぴょん吉と哲也、ポン太は三位一体。
身長差を活かして低い位置を駆け、ここぞと思う場面で宙に跳び、
敵の目に拳を突き入れ頭蓋の内を一掻きする。
狐狸とはいえ本物の魔物。にわか魔物が太刀打ちできるわけがない。
三匹は競うように敵勢を翻弄した。
 ヤマトは、ただ一匹、戦場から離脱した。
高い木に駆け上り、全体の戦況を見回した。
他でも徳川方が押していた。
数に勝る一揆勢だが、指揮系統が機能していないらしい。
あちらこちらで右往左往している部隊の、なんと多いこと。
 ヤマトは敵に止めを刺すことにした。
枝の上から、星空に向かって雄叫びを上げた。
狐狸達の「ポンポコリン」を引き裂くように、
甲高く、長く尾を引く雄叫びが戦場に響き渡った。
猫の雄叫びではない。まさに龍の雄叫び。
聞く者達の肝を震え上がらせた。
 間を置いて、周辺に散っていた獣達が同調。てんでに吼え始めた。
狐狸達は無論、猿に猪、熊が競うように雄叫びを上げた。

 徳川方は獣達が味方と知っているので、呼応するように鬨の声を上げた。
 一揆勢に動揺が走った。
何処でも隊列を切崩され、防戦に必死であった。
そこに徳川方の、人と獣の雄叫びが山々に木霊し、
不気味な無形の圧力となって押し寄せて来た。
 一人が及び腰となり、一人が後退した。
と、弱気の虫の伝染するのは早い。
一人が逃げるや、釣られたように二人、三人と後に続く。
こうなると流れは押し止められない。隊列の一角が崩れた。




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最近、一般家庭の押し入れから拳銃が発見される事が多いとか。
そのほとんどが旧軍人の家です。
敗戦後、拳銃を記念品として自宅に持ち帰り、
油紙で包み大切に保管して置いたらしいのですが、
使う機会もなく、いつしか忘れ、本人も老衰で死亡・・・。
残された家族が遺品の整理をして、油紙に包まれた拳銃に気づき、
慌てて警察に連絡するのだそうです。

これは、そんな押し入れの小話。

 その家は地方の旧家。
当代となり衰退の一途であった。
田畑、山の全てを売り払い、使用人、妻子も離れ、
男に残されたのは広大な敷地に建つ屋敷のみ。
 それは雨の降る夜だった。
寝所で男は深い眠りについていた。
丑三つ時。押し入れから物音。ガサガサ・・・。
押し入れの襖が少し開けられ、生温い風が這い出してきた。
 その風が床の間の人形の髪を揺らした。
家の「守り神」として代々に伝えられた人形だ。
男はこれだけは売らずに、家宝として残していた。
 人形の目がうっすらと開けられた。
首を動かして、押し入れを見る。
口元から牙が覗き、声にならぬ声。
 押し入れから覗く目。
男が寝入っているのを確かめると、
押し入れが内側から、ゆっくりと開けられた。
中から何者かが出て来た。
 床の間の人形が、ガタガタと身震いを始めた。
そして、動いた。
信じられぬ速さで、押し入れから出て来た者に噛み付いた。
出て来たのは居着いている貧乏神。
その片足に人形が噛み付いたのだ。
 貧乏神は人形を引き離し、慌てて押し入れに引っ込んだ。
別の家に引っ越そうとしていた貧乏神だったが、これでは怖くて引っ越せない。
かくして、その家の貧乏は守られた。

(2chに悪戯書きしたものを手直ししました。忘れてください)

金色の涙(白拍子)201

2010-01-27 21:11:19 | Weblog
 前田慶次郎を先頭に鉄砲隊の隊列に突入した。
鈴風が前足で敵を次々と蹴散らし、慶次郎に出番を与えない。
真田昌幸、幸村の親子が騎馬で後に続いた。
武田の騎馬隊譲りの手綱捌き。巧みに敵を追い散らす。
無傷で残っていた馬は、この三頭だけ。
他の者達は徒で後を追う。
魔物達と戦った彼等に普通の兵が太刀打ち出来るわけがない。
 平行して、哲也とポン太を除いた狐狸達が独自に動いた。
目的は敵から明かりを奪う事。
陰から陰へ移動しながら、篝火、松明を狙い、強引に弾き飛ばしてゆく。
 慶次郎達が鉄砲隊の隊列を断ち割り、後方に控えていた槍隊に突っ込む。
こうなると同士討ちになるので鉄砲隊は無用の存在。
もっとも隊列、命令系統を崩され、鉄砲隊としての機能はすでに失っていた。
 孔雀は尼僧という立場にも関わらず、躊躇いもなく太刀を振るう。
立ち塞がる敵を斬り捨て、足早に前進する。
善鬼はまるで保護者のように、そんな孔雀の背後を守っていた。
 新免無二斎と吉岡藤次は互いに入れ替わりながら突き進む。
二人とも多人数を相手にして学んだのか、無駄な動きを省いていた。
その後ろを神子上典膳がついて行く。
二人の剣技を盗み見しながら、余裕で敵を斃す。

 ヤマトは森の出口に残っていた若菜に声をかけた。
「どうした、行かないのか」
「私はヤマトと一緒に行くわ」
「・・・尼僧とは上手くいってないのか」
 若菜の目がきつくなった。
「私を見る目が変なのよ。・・・。まるで敵でも見るような目ね」
 ヤマトには、そのあたりの微妙な事が分からない。
 代わってポン太が答えた。
「あの女には天狗も魔物の仲間なのさ」
 若菜の顔が歪む。
ポン太の言葉は天狗族の一人として聞き逃せないようだ。
「たしかに天狗は魔物だけど、それで差別されるのは承知できない。
人間には何の悪さもしてないもの」
「そう言うなよ。あいつは小さい頃から魔物憎しで鍛えられてきたんだ。
今さら考えは変えられないよ」
「でも、あんた達だって魔物の筈。
あの女、あんた達と私とでは見る目が違うの」
 哲也が口を差し挟む。
「あの女にとって魔物とは人の姿をしたものだけさ。
人の姿をして、人を騙し、危害を加える。それが許せないのだろう。
俺達は無害で、可愛い狐に狸だから、退治する気にならない。違うかい」
 最後の言葉はポン太に同意を求めたもの。
ポン太はニコリと笑って頷いた。
 納得できない若菜だが、それ以上は口にしない。
ポン太や哲也に怒ってもしょうがないと気付いたのだろう。
 ヤマトは魔物の部隊の様子を見ていた。
本来ならヤマト等が彼等を攻撃する筈だった。
それが何者かに先を越されてしまった。
魔物の部隊は背後から襲撃され、混乱していた。
襲った者達の正体も人数も分からないが、
魔物の部隊を手こずらせるとは大したものだ。
 襲撃者側に火術を使う者がいるらしい。
時折、それらしい火の玉が放たれ、爆発していた。
なにやら「狐火」に似ていなくもない。
 若菜が、「行かないの」と尋ねてきた。
「襲ってる連中と同士討ちになっては拙いから、ここで見守るんだよ」
「見守るだけなの」
「今のところは」
 そうするうちに、混乱の輪が小さくなってゆく。
魔物達が襲撃側を囲み始めたらしい。
戦場が狭まると火術は使いにくくなる。
爆発に味方を巻き込む恐れがあるからだ。
 ヤマトは決断した。
「行こう」
 ヤマトを先頭に哲也、ポン太、若菜が一団となって駆けて行く。
魔物達は目の前の襲撃側で手一杯らしい。気付かれないで接近した。
 哲也が「狐火」を連続して放った。
魔物達に当たると爆発。幾人もを巻き添えにし、宙に吹き飛ばした。
ヤマトとポン太が敵に向かって跳ぶ。
若菜も遅れじと太刀を振りかざして続く。
 ヤマトは敵の顔面に猫拳を入れる。
右目を突き破り、頭蓋の奥深くへ。脳漿で濡れるが構ってはいられない。
素早く掻き混ぜて抜いた。
 敵の激しい悲鳴。
槍を手放し、右目を両手で押さえた。
指の隙間から血が噴き出す。
 ヤマトは敵が崩れるより先に、次の敵に跳んでいた。
二人目、三人目と倒して行く。
 ヤマトの右に若菜、左にポン太。
一人と一匹も魔物慣れしたらしい。敵を手早く始末してみせた。
 哲也の「狐火」連発が敵を混乱に陥れた。
右往左往している敵をヤマトにポン太、若菜が難無く倒して行くので、
混乱にさらに拍車がかかる。
 ヤマトは前方で戦う佐助を見つけた。
その傍に、ぴょん吉もいた。

 大久保長安は砦の櫓から戦況を見ていた。
高所の利と、星明かりで遠くまで見渡せた。
敵は三部隊に分かれていた。
 最後方の魔物の部隊は襲撃を受けて混乱していた。
随所で火術が放たれている。
あの黒猫達の仕業ではなかろうか。
 中間にいる部隊は、加勢の部隊に真っ二つに断ち割られていた。
先頭は前田慶次郎で、戦術を授けるのは真田昌幸。
希代の猛将と知将の組み合わせだ。
僅か十五人で五千人余の部隊を翻弄していた。
 残りの部隊は、この砦を攻め落とすべく足下を騒がせていた。
こちらの敵も数にしておよそ五千人余。力攻めで押して来た。
このまま座していては落とされるのも時間の問題。
 実戦に疎い長安だが、今が決断の時と感じた。
魔物の部隊も、中間にいる部隊も押され気味だ。
ここで足下を騒がせている部隊を崩せば、こちらに勝ちが転がり込んでくる。
 長安は、「駆けられる者は全員出撃せよ」と命令を下した。
砦が落とされる前に打って出、敵を蹴散らすしかない。
一か八かの博打だ。
 門の内に騎馬五十騎を含む千人余が集まって来た。
手傷を隠して加わっている者も多い。
 長安は馬上から、「一団となって敵を切崩す。遅れるな」と叱咤激励。
みんなにというよりは自分に言い聞かせた。
膝が、がくがくと小刻みに震えているが、これよりは引返せない。
 そこに頭上から声。
「間に合ったようね」と白拍子の於雪が、星空から舞い降りて来た。
思わぬ出現に、みんには息を飲んだ。
そして、一気に喜びが爆発。歓声が沸き上がった。
 長安は、「来てくれたのか」と破顔。
白拍子の姿に安堵して、さっきまでの青白い顔が赤味を帯びてきた。




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金色の涙(白拍子)200

2010-01-24 09:20:18 | Weblog
 一揆勢はヤマト達が動きをみせない為、半数を砦攻撃に向かわせた。
鬨の声を上げた槍隊、徒士隊が盾を全面に押し立てて前進。
弓隊が火矢を砦内に向けて次々と放つ。
火矢で砦内を混乱させ、それに乗じて槍隊、徒士隊が門に攻めかかった。
梯子を架けて上ろうとする。
 一揆勢の動きに、ヤマト達の焦りを誘う魂胆が透けて見えた。
砦の救援に駆け付けるのを待ち受け、鉄砲隊の餌食にするつもりらしい。
森の出口に向けて鉄砲が筒先を揃えていた。
少人数にも関わらずヤマト達は驚異なのだろう。
 焦れたように慶次郎が、「ヤマト、行くぞ」と怒鳴る。
他の者達も気持は同様らしい。険しい目でヤマトを見ていた。
どうやら己の生き死により、武名を上げることが大事らしい。
 ヤマトはポン太に、「千畳扇は使えるか」と確認した。
ここまでの戦いで「気」を使い切っているかもしれないからだ。
 ポン太は、「大花火は無理だが、風なら起こせる」と。
 次ぎに哲也に視線を転じた。
 哲也は聞かれる前に、「狐火なら使える」と答えた。

 麓に駆け下りた黒太郎は魔物が群れている場所を目敏く見つけた。
月明かりが味方していた。
途中に何の障害もない。普通の田舎道だ。
迷いも恐れも無い。そこを目指してまっしぐらに突き進む。
 背中の赤ん坊は犬に跨っているというよりは、張り付いている感が強い。
その表情が変わった。無邪気な顔から、不気味なまでの笑顔に。
魔物の群れへの接近を喜んでいた。
 少し遅れて老婆や、騎馬の者達が続いた。
数にして三十には足りないが、勢いは隠しようがない。
 魔物達が背後から接近する者達に気付いた。
迎え撃つために、百人近くが隊列を組み直した。
五列の横隊で槍の穂先を揃えた。
 黒太郎は敵の備えを見ても足を弛めない。
無謀にも槍衾に突撃するらしい。
 背中の赤ん坊は真言を唱えて、体内に気を集める。
老婆から習い覚えた方術だ。
手順を省いたにも関わらず、僅かの間に良質の気を大量に溜めた。
 敵第一列に突っ込もうとする黒太郎の大きな身体を数本の槍が出迎えた。
魔物の馬鹿力で繰り出された槍の柄に黒太郎は跳び乗った。
槍の柄を足場に、巧みに二本、三本と勢いをつけて渡り、一人に体当たり。
敵を押し倒し、首を強引に噛み切った。
 周りの敵が態勢を整え、黒太郎に再び槍を。
同時に赤ん坊が動いた。
ここでも方術の手順を省き、両手で「気の矢」を連発した。
溜めた気が無尽蔵ではないかと思えるほど大量に放つ。
狙いは正確で、敵の首に次々と命中した。
当った衝撃で「気の矢」が爆発。敵の首を弾き飛ばした。
あるいは折れた状態になった。
赤ん坊の「気の矢」は常人の方術に比べて破壊力が強い。
 遠間から老婆が敵の一角に向け、口から火球を放つ。
具足に当るや、数人の敵を巻き込む激しい爆発。
これまた破壊力が強い。第二列まで崩した。
 老婆の凄さを間近に見ながら、才蔵達はその一角に突っ込んで行く。
崩れた第一、第二列を抜けて、第三列に挑む。
騎馬の勢いで敵隊列を突き崩そうとした。
が、勢いを敵兵が馬鹿力で押し止めるではないか。
続く徒の者達が敵隊列に当るが、容易には突破できない。
逆に二人、三人と敵の槍の餌食となった。
 遅れていた佐助と小太郎、ぴょん吉が後方から突っ込む。
二人と一匹は示し合わせたかのように、馬を捨て、敵隊列の後方に跳んだ。
 佐助が小太刀『李淵の剣』を抜き、繰り出された槍を鮮やかに斬り払う。
そして、返す刀で敵の腕をも斬り落とした。
流れるような一連の太刀捌きで、小太刀の不利を補う。
 小太郎も負けてはいない。
一カ所に留まることなく移動を繰り返しながら、敵の手首、腕を斬り捨て、
素早く身を寄せて足払い。
余裕があれば、倒した相手の喉仏に剣先を突き入れた
 ぴょん吉は得意の狐拳を使い、敵の無防備な目に突きを喰らわした。
素早い左右の連打で、敵の視力を奪う。
手強い敵が相手だと「狐火」を放ち、顔に当てて両目を潰す。
 もたつく才蔵達。
敵が槍の柄で馬の尻を激しく打つので、馬が暴走を始めた。
次々と落馬させられ、そこを槍で狙われた。
あっと言う間に半数近くが命を失う。
 才蔵は落馬するものの、辛うじて槍を太刀で払い除けた。
反撃しようにも周りの味方は傷付いた者ばかり。当てにはできない。
円陣を組ませて防御するので手一杯。
必死で味方を守る。
 才蔵達を囲む一角が崩れた。
老婆が徒手空拳で躍り込んで来たのだ。手刀で槍の柄を折り、足払い。
傍にいた敵を肩で弾き飛ばし、別の者をも掴むや投げ飛ばした。
倒れた相手にも容赦がない。踵で喉仏を踏み潰した。
手練の早業で敵数人を退けた。
 老婆が、「どうした才蔵」と。
「於福殿、助かりました。こ奴等は何者ですか」
「知らぬのか。大雑把に言えば魔物だ。
退治するには手足の何れかを斬り捨てるのが早い。
そうすれば動きが悪くなる。
そうした上で、止めに首を斬り落とす」
 於福は斃れた味方の太刀を拾い上げ、敵隊列に斬り込む。
鮮やかな体捌きで敵に身を寄せ、首を一刀のもとに斬り落とした。
 才蔵も負けじと駆けた。
突き出された槍を受け流し、恐れることなく前に跳ぶ。
強引に喉仏に剣先を突き入れ、掻き切った。
 魔物の兵達も戦況の不利を悟り、残りの三百人余が動いた。
包囲しようと左右に展開。押し包むつもりらしい。

 森の出口に忍び寄ったヤマト達の目の前で、敵の鉄砲隊が動揺していた。
背後の魔物の軍勢が何者かに襲われていたからだ。
 低い姿勢で慶次郎が、「これは天佑だな」と柄にもないことを言う。
 フフンとばかりにポン太が慶次郎の頭を飛び越えた。
仲間の二匹の狸も同様だ。
森の外の闇に身を置き、間隔を置いて立つと残った気を放った。
技は「千畳扇」。ポン太の股間から風が巻き起こった。
 ポン太は仲間の気の助けを借り、強力な風に仕立て上げた。
地にある物を全て巻き上げ、鉄砲隊に向けて飛ばした。
枯れ草から枯葉は無論、枯れ枝、小石までもが勢いよく飛んで行く。
 鉄砲隊は物を巻き込んだ強風に視界を失った。
小石や枯れ枝が矢弾のように襲ってくるのだ。
たまらずに背中を向け、身を屈めた。
具足で身を固めていなかったなら大勢が傷付いていただろう。
 すかさず哲也が仲間三匹を従えて飛び出した。
狐得意の「鏃の陣形」で、「狐火」を次々と放った。
ことに哲也の「狐火」は威力が段違い。
当ると爆発し、巻き込まれた者の持つ火薬にも飛び火した。
あちこちで鉄砲が暴発。隊列が崩れた。
 慶次郎が愛馬・鈴風に跨った。
「行くぞ」
 答えも待たずに飛び出した。




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久し振りに夢を見ました。

何故か、夜。家路を辿る俺。
前方に家の灯り。暗闇にただ一軒だけ。
俺の帰宅を待っていたのか、女房が一瞬、顔を向けてきた。
そして、直ぐにそっぽを向いた。
怒っているのかどうかは分からない。
女房が、「あの人が来るから、子供達を連れて遊びに行って」と。
 すぐに夢の中の状況を理解した。
俺は、以前は腕の良い職人だったが、今はただの飲んだくれ。
俺が作った駄作を買いに来る商人がいて、それを高く売るために、
女房が枕営業をするというのだ。
 女房がそっぽを向いているので、表情は読めない。
本当に枕営業なのか、それとも淫乱なのか。
 俺は何も言わず、子供達を外に連れ出した。
何も知らぬ子供達は夜にも関わらず、嬉しそうに遊び回る。
俺は一人、闇の中に腰を下ろして、ジッとしていた。
 そして、どのくらい経ったの知らないが、「もういいだろう」と思い、
トボトボと家に戻った。
女房はそっぽを向いたまま何も言わない。
 そこに、報せが届いた。
俺の子供が死んでいると。
遊んでいる途中で不意にかき消え、死体で見つかったそうだ。
他の子供達が泣きながら戻って来た。
 言葉を失う俺。

そこでアラームが鳴った。

これはどういう夢なんだ。
死因は。
殺しなら犯人は。
そして、どういう理由で殺されたのか。
俺と女房に、家族に、明るい未来はあるのか。

金色の涙(白拍子)199

2010-01-20 19:57:31 | Weblog
 才蔵は見知らぬ老婆の問いかけに、「えっ、何か」と聞き返した。
老婆は最前、才蔵の存在に明らかに驚いていた。
何が老婆を驚かせたのだろう。
何が何やら。それほど驚くことなのだろうか。
 老婆は表情を消した。
「知り人に、あまりに似ていたもので驚いた」
「ほう・・・。婆さんはどこの村の者だい」
 才蔵の問いを無視して、逆に尋ねてきた。
「貴方の名は」
 才蔵は、「中山才蔵」と答えながら、
前にもこういう遣り取りがあったのを思い出した。
あの時は場所は鞍馬で、相手は白拍子だった。
「どこの生れなの」
「この先の高麗」
「高麗の中山家ね」
「いかにも」
 老婆は満足そうに頷くと、これ以上は無用とばかりにソッポを向いた。
 才蔵は梯子を外された思いにとらわれた。
今の会話に何の意味があるのだろう。
あの白拍子といい、この老婆といい、何を考えているのだろう。
 新たな騎馬が接近していた。
一騎だ。
勢いよく駆け上がってきた。
こちらが視界に入ったらしい。
警戒して手前で馬を止め、様子を窺う。
 佐助が相手を見て、「小太郎殿」と声を上げた。
知り合いらしい。
先方も佐助を見て安心したのか、警戒を解いて馬を寄せてきた。
 佐助が才蔵と小太郎を引き合わせるより先に、老婆が割り込んできた。
「小太郎ではないか」
 声の主を見て小太郎が目を丸くした。
「これは於福殿、ようくご無事で」
「あれくらいで殺されはせん」
 小太郎が老婆と他の者達を見回した。
「お仲間で」
「まさか。偶然ここで一息入れてるだけだ。お主は」
「一揆勢と聞いて駆け付けて来ました」
 於福と呼ばれた老婆の目が光った。
「すると、あやつ等も居るのか」
「御代官の世話になっているので、見知らぬ振りは出来ぬでしょう」
 その時だった。
いきなり黒犬の黒太郎が天高く雄叫びを上げた。

 黒太郎は四肢を踏ん張り、喉も張り裂けんばかりに雄叫びを上げた。
獰猛な雄叫びが、一瞬だが狐狸達のポンポコリンを切り裂いた。
それは夜空に長く糸を引くように響き渡り、山々に木霊した。
以前であれば率いていた群れの犬達が呼応した。
しかし今、黒太郎はただの一匹でしかない。
 率いていた群れは、縄張りに侵入してきた魔物達と戦い、壊滅した。
生き残ったのは深傷を負った黒太郎のみ。
 狐狸達の雄叫びに誘われ、後先を考えずに駆けて来た。
来てみれば、眼下から微かにだが異な気配が漂ってきた。
あの夜の魔物達に似た気配だ。
生きているのか、死んでいるのか、判然とせぬ気配。あれに違いない。
予想せぬ遭遇に全身が総毛立ち、怒りがいきなり頂点に達した。
 背中の赤ん坊が耳元に口寄せ、囁いた。
「行こうよ」
 依存はない。
一緒にいる老婆は好かぬが、この赤ん坊は気にいっていた。
今や一心同体。まるで兄弟のような感じがした。
 黒太郎は跳ねるように駆け出した。
手足の力が弱く、跨がるのも無理な筈の赤ん坊だが、
振り落とされるような事はない。
余裕を持って背中でなりゆきを楽しんでいた。

 小太郎は、黒い犬の後を追おうとする於福を呼び止めた。
「どうするつもりですか」
「それは犬に聞いとくれ」
 それだけ答えると於福は黒犬を追って駆け出した。
敵だが何故か憎めない老婆だ。
孔雀の頼みで鎌倉から老婆を追跡して来たのが悔やまれる。
出会いが違っていたら仲間になれただろう。
 於福を追うように、「我等も行くぞ」と才蔵。
家中の者達、騎馬十騎と徒十五人を引き連れ、峠道を駆け下った。
 小太郎も佐助と後を追う。
佐助に馬を並べ、ぴょん吉に尋ねた。
「今の老婆と赤ん坊をどう思う」
「普通、死んだ瞬間に魂は身体から切り離される。
だけど不思議な事に、あれ達は己の死んだ身体に居座っている。
承知の上なのか、単なる偶然なのか、それとも、・・・天の配剤なのか。
まあ、敵には回したくはないな」
「犬は」
「あれは魔物じゃない。しかし、強さは魔物と互角だろう」

 ヤマト達は砦の向かいの、道を挟んだ森に身を隠した。
一揆勢の鉄砲隊、弓隊の矢弾から慶次郎達を守るためだ。
慶次郎の他には十五人。
真田親子、新免無二斎、吉岡藤次、孔雀、神子上典膳、善鬼等がいた。
これに若菜と狐狸七匹。
赤狐と緑狸を先頭に、獣道を奥へ奥へと移動した。
 不意に、狐狸達のポンポコリンを切り裂き、夜空に雄叫びが響き渡った。
怒りと悲壮感が入り混じった犬の遠吠えだ。
 ヤマトは哲也に、「この遠吠えに聞き覚えは」と尋ねた。
「この辺りには群れを率いる山犬がいるそうだ。もしかすると、それかもな」
 哲也の言葉にポン太が頷いた。
「聞いた事がある。かなりの暴れ者らしい」
「そいつが動くのかな」
 ヤマトの疑問に哲也が、「そうなったら、どうする」と逆に聞き返した。
 若菜が割って入った。
「敵に回れば叩き潰すだけよ」
 傍に孔雀がいるせいかどうかは知らないが、やけに攻撃的だ。
日頃の若菜からは考えられない。
天狗の娘と、尼僧の方術師では相性が悪いのだろうか。
 慶次郎達は森の奥に埋伏した。
一揆勢を誘い込んで戦うつもりでいた。
しかし、一揆勢は森の中にまで追ってはこない。
慎重に森の手前に陣を敷き、奇襲を警戒して篝火を焚いた。
そして鉄砲隊と弓隊が、いつでも矢弾を放てるように隊列を組んだ。
 魔物の部隊は離れた所で静観。
状況次第で駆け付けられる場所を選んで陣を敷いていた。
 慶次郎が、「追っては来ないな」と落胆の声。
深い森に誘い込み、同士討ちさせようと目論んだか不発に終わってしまった。
だからといって、こちらからは攻められない。
森から飛び出せば、矢弾の的だ。




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これで199回。200も目前。
ここまで長くなるとは、我ながら呆れています。
文章作法も知らずに、ここまで来ました。
(まあ、知らない者の強みかな)
とにかく、物語進行より文章の組み立てが気になります。
でも、あまり拘ると先へ進めません。
水曜と日曜を締め切りと決めて、毎回見切り発車です。
(読みづらい箇所があったら御免なさい)
それではラストまで、よろしくお付き合いください。

金色の涙(白拍子)198

2010-01-17 09:23:12 | Weblog
 藤次は血相を変えた慶次郎の手を拒めなかった。
あっさりと鬼斬りを手放した。
 慶次郎は毟り取るように奪った鬼斬りを睨み付けた。
両手で持って膝に打ち当て、へし折ろうとした。
しかし、その程度で折れるわけがない。
どうしようかと考えている時に戦況が動いた。
 隊列を組み直した魔物の軍勢ではなく、その後方からだった。
麓の一揆勢から法螺貝が吹き鳴らされた。
新たな布陣でゆっくり前進して来た。
彼等も大花火を警戒してか、間隔を広く取っていた。
先頭は鉄砲隊と弓隊。ヤマト等を矢弾で撃退するつもりらしい。
 力勝負であればヤマト等にも戦いようがある。
しかし、遠間から矢弾を放たれては打つ手がない。
ことに身体の大きい慶次郎等、人間は的になり易い。
 狐狸達には防御の「気の盾」があるが、盾を張れる時間には限りがある。
気の質量にもよるが、そんなに長時間は使えない。
どうやら大軍との戦いには向かないようだ。
 ヤマトは秀家に、「豪姫を砦に運び介抱しろ」と指示した。
 秀家は言葉の意味を理解したのか、ムッとした顔。
ここで砦に退いては武家の面目が失われると思っているらしい。
 慶次郎が言い添えた。
「豪姫が目を覚ませば再びここに戻ろうとするだろう。
それを止められるのはお主だけだ」
 秀家は渋々と応じた。
豪姫を抱きかかえて立ち上がった。
無念そうに、みんなに一礼してから砦へと足を向けた。
 鬼斬りを藤次から毟り取った慶次郎だが、戦況の推移に、
再び鬼斬りを藤次に「預けて置く」と戻した。
そして足下の槍を拾い上げ、敵勢を見据えた。
長巻き「鬼斬り」よりも槍の方が性に合うのだろう。
 藤次はというと、嬉しそうに鬼斬りを振り回し始めた。
遣い心地を試しているらしい。
流石は京の兵法家「吉岡流」の息子。
鬼斬りは柄が長いが僅かの間に掌中のものとした。
 ヤマトは他の者達を見回した。
「怪我してる者は砦に戻り、守りを固めろ。
命の惜しくない者は俺に続け」

 坂東に乗って峠道を駆け上る佐助の耳に、聞き慣れた音が届いた。
銃声の音が途絶え、代わって「ポンポコリン」の腹鼓。
聞き間違えようがない。赤狐・哲也と緑狸・ポン太の仲間達だ。
狸達の腹鼓に合せて、狐達が木切れを打ち鳴らしていた。
 後ろに相乗りしている伏見の狐・ひょん吉が得意そうに言う。
「当たりだったな」
 峠道を上りきった。

 峠道を上りきると道幅の広い場所に出た。
崖の上になっていて視界を遮る樹木がない。
八王子方向がよく見渡せた。
 遠くに見える町灯りが八王子に違いない。
八王子の右手の山奥、甲斐との国境の灯りは、おそらく篝火。
あの辺りの湯治場に主人・真田幸村と一行が居る筈だ。
ただ、篝火が焚かれる理由が分からない。
何があったのだろう。
 そして下を見れば砦のある辺りに篝火が焚かれていた。
その手前には無数の松明。それが波のように砦方向に動いていた。
どうやら一揆勢は砦の攻略に手間取っているらしい。
戦火は湯治場まで広がっていないと知り、とりあえず一安心した。
 中山才蔵は率いて来た者達を休ませた。
霧隠れの里の実家を発つときに父が、「念のため八王子まで同行させる」と、
強引に十騎と十五人を貸してくれた。
いずれも中山家の手練れ者ばかり。
 一休みさせて発とうとした時だった。
後方から怪しげな気配が近付いて来た。
 坂道を駆け上がって来たのは大きな黒犬。
それも背中に赤ん坊を乗せていた。
奇妙な組み合わせに、みんなは目を見張るばかり。
才蔵も同様だった。
 驚かされたのはそれだけではない。
後を追いかけるように老婆が現れた。
普通の老婆に坂道を駆け上がれるわけがない。
「あやかし」なのだろうか。
漂わせている気配からして怪しい。
 黒犬と老婆は人目が気にならぬらしい。
崖の縁に立って才蔵達と肩を並べた。
黒犬と老婆は荒い呼吸を整えながら、下の様子に目を凝らした。
無邪気なのは赤ん坊。欠伸を連発しながら才蔵達をチラチラと見た。
 さらに騎馬が駆け上がって来た。
星明かりに照らし出されたのは猿飛佐助。
後ろに狐を相乗りさせていた。
意外なところで一人と一匹に出くわしたものだ。
 ヤマトの話しでは、佐助と伏見の狐は江戸見物に向かったとか。
一揆と聞いて引き返して来たのだろうが、戻って来る道筋が違う。
江戸ではなく、川越方向から戻って来たとしか思えない。
何やら隠し事が有るようだ。
 佐助とは幾度か話した事があった。
元服してるとはいえ才蔵より三つか四つ年下で、まだまだ子供。
人の言葉の裏を勘繰る事をしない。
ただし忍びとしては大人顔負けの働きをするので侮れない。
ことに体術は見事の一言に尽きる。
 才蔵は佐助に声をかけた。
「佐助、こっちだ」
 驚いた顔で佐助が馬を寄せて来た。
「才蔵殿、どうしたのですか」
「実家に戻っていたのだが、一揆と聞いてな」
「連れの方々は」
「うちの者達だ」
「それは心強い」
 才蔵は佐助に鎌をかけた。
「川越はどうだった」
 佐助は不審に思わないようで、「見つけられませんでした」と答えた。
 やはり隠し事をしていた。
それも何かを探しているらしい。
しかし、それ以上は問わない。
今は眼下の一揆勢。
 佐助と狐が崖の縁から下の様子を窺う。
砦へ波のように押し寄せる松明の列を見ても動じない。
一人と一匹は想定していたのだろう。
佐助が狐を振り返り、「間に合った」と安堵の声を漏らした。
 才蔵は狐に、「聞える腹鼓はお前の仲間達だな」と確かめた。
それ以外に考えられないが、確証が欲しかった。
 当然だとばかりに狐が頷いた。
「そうだ。仲間達は下で戦っている」
 老婆が、その遣り取りに興味を抱いたらしい。
首だけを動かし、こちらを窺う。
狐を値踏みするかのような視線。続けて佐助。そして、才蔵。
 才蔵を見て老婆の表情が強張った。
目が大きく見開かれ、口は半開き。
幽霊でも見たかのようだ。
 それでも驚愕から立ち直るのは早い。
身体の向きを変えて才蔵に正対した。
柔らかい視線で、顔のみならず全身を舐め回した。
何やら一人頷くと、納得したように才蔵の顔に視線を戻し口を開く。
優しい声色で、「貴方は」と問うてきた。




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寒い。とっても・・・。
ことに現実はもっと寒い。
例えば、ハイチの地震。
政府に統治能力がないところに、この大地震が起きた。
混乱していた国を、さらに混乱させる大地震。
誰が陣頭指揮に立つのだろう。
米国か、国連か・・・。
手を束ねるている間に死者が増えてゆく。
そして、救援物資や援助金が闇に消えてゆく。
 ひるがえって日本。
小沢VS検察の戦いの余波で、ハイチへの本格的な救援が遅れている。
救援物資や援助金よりも大救助隊の派遣が先なのではなかろうか。
阪神大震災の教訓で、最初の一歩が大切なのは身に染みている筈。
ガレキに埋もれている人々の生存が限界が来る前に派遣しなきゃ。
それとも、・・・もう手遅れなのか。

金色の涙(白拍子)197

2010-01-13 20:44:20 | Weblog
 豪姫は窮地の味方を救うために再び隊列から飛び出した。
鬼斬りで敵の槍を払い除け、撫で斬り。味方に逃げ場を作った。
そこへ新たな敵が数名。槍を連ねて突っ込んで来た。
豪姫一人の手には余る。
 近くで戦っていた慶次郎に豪姫を助ける余裕はない。
左右から突き出される槍を捌くので手一杯。
 豪姫の後ろから猿飛の忍者三人が無言で飛び出した。
老齢を理由に隠居させられ、牧場で馬の世話をしていた者達だ。
彼等は死に場所として豪姫の盾となる事を選んだ。
 言葉通り、躊躇することなく敵の槍の前に立ちはだかった。
そして、嬉々として敵の槍を身体で受け止めた。
槍で身体を貫かれても退かない。
太刀で槍の柄を切り離ち、敵に向かって行く。
敵中で孤立することを恐れない。
 その隙に、遅れて駆け付けた秀家が豪姫を隊列に引き戻そうとした。
豪姫は三人の忍者を救おうと抵抗する。
 かつて豪姫は、秀吉の養女となったばかりの頃、実家恋しさのあまり、
庭の片隅で人目を憚るようにして泣いていた。
そんな彼女を気にかけ、慰め、遊び相手となったのが猿飛一族の者達であった。
目の前の三人の事はよく覚えていた。名も性格も。
 秀家が血相を変えて豪姫の頬を平手打ちした。
「三人を無駄死にさせる気か」
 いつもは温和しい秀家の行動に豪姫は驚いた。
逆らえようか。悄然と秀家に従い隊列に戻った。
それでも諦めきれない。涙が溢れるのも構わず三人の名を叫ぶ。
悲痛な声で幾度も叫ぶ。
 しかし三人は誰一人、一度として振り返らない。
三人で組となり、最後の力を振り絞って敵に挑む。
負傷しているので長くは続かない。
一人、また一人と討たれた。
そして、ついに最後の一人が切り刻まれた。
 豪姫が声にならぬ声を上げた。
顔をくしゃくしゃにして嗚咽を漏らした。
止めどなく零れる涙を袖口で拭う。

 頬を伝う涙が鬼斬りの柄を濡らした。
とたんに柄の中の小さな空洞に潜む物が目覚めた。
どういう経緯かは知らぬが、空洞に魔物が封じられていた。物に憑く魔物だ。
それは一度、豪姫が岩から鬼斬りを抜こうとした時にも目覚めた事があった。
それが再び目覚めた。
 豪姫は涙を流しながら顔を上げた。
秀家が彼女を背中で庇い、太刀で敵を押し止めていた。
その秀家の脇を宇喜多の忍者達が固め、彼等も敵を押し止めていた。
しかし敵の力攻めの前に、今にも崩れそう。
周りを見渡せば、何時の間にか味方は囲まれていた。
ことに正面の敵は壁のように厚い。
 スクッと鞍の上に豪姫が両足で立ち上がった。
無言で跳び、高々と宙に舞う。
涙が風に舞い散った。
もう涙は流れない。
 豪姫は押し寄せる敵の真っ直中に、鬼斬り片手に飛び降りた。
無表情で鬼斬りを振り回す。
口元を引き締め、薄目で敵を見据えていた。
その様は、まるで能面で舞い踊っているかのようだ。
 敵の繰り出す槍を上下左右に受け流し、隙を見つけては即座に斬り捨てた。
一人、二人、三人と斃した。
いくら敵を斃しても顔色は変わらない。
四人、五人、六人と続き、豪姫の周りに血の雨が降る。

 敵左翼を突き破ったヤマトは、敵右翼で孤立している慶次郎達に気付いた。
見過ごしにはできない。
後続の味方に、「仲間達に合流する」と告げ、敵右翼に方向を転換した。
 目ざすは手薄な一角。
背後を警戒していないので、楽々と蹴散らせた。
左右から哲也、ポン太が突っ込んで行く。
若菜と孔雀が競うように敵を斬り捨てた。
釣られて善鬼と典膳も巧妙な太刀捌きで、敵隊列の穴を押し広げた。
残った味方が雄叫びを上げながら、開いた穴に奔流のように押し寄せた。
 ヤマトは敵中で鬼斬り片手に舞い踊る豪姫に気付いた。
全身血塗れではないか。
滑らかな身体捌きから、おそらく返り血と推測。
しかし、速さもさることながら、腕力がただ事ではない。
力以外に取り柄のない敵兵を力業でねじ伏せていた。
 彼女から異な気が発散されていた。人から発っされる種のものではない。
ましてや獣の気でもない。奇妙としか言いようのない気配だ。
どうやら鬼斬りの柄に潜む魔物。それが目覚めたらしい。
鬼斬りに憑き、持つ者に強い影響を与えているのだろう。
 足を止めたヤマトの傍に哲也とポン太が駆け寄って来た。
哲也が、「おい、あれは」と目を剥いた。
ポン太も、「憑かれたようだ」と呆れ顔。
三匹は戦いそっちのけで豪姫の動きを見守った。
 不利を悟るや敵は退却した。
殿も置かず、いきなり戦線から離脱。
負傷して身動きのままならぬ者達をアッサリと見捨てた。
崩された左右の翼が合流した。
そして離れた所で陣を組み直し始めた。
残りは、およそ四百人余。
大花火を警戒してか横隊となり、間隔を広く取った。
 周りから敵が消え、豪姫の動きが止まった。
左右を見回した後、立ち眩みのように気を失った。
さっきまで放っていた奇妙な気配も綺麗サッパリ消えていた。
 駆け寄った秀家が両手で抱き起こした。
「大丈夫か」
 返事はない。気を失ったまま。
 ポン太が豪姫を観察しながら秀家を慰めた。
「疲れが出ただけだよ。一眠りすれば元に戻る。心配はいらないよ」
 傍で哲也が、「うん、大丈夫だ」と深く頷いた。
 慶次郎がヤマトに歩み寄って来た。
「豪姫はどうしたというのだ。まるで阿修羅ではないか」
「それが女の本性というものさ」
 柄に潜む魔物については説明しない。
話すとややこしくなりそうだからだ。
もしかすると、怒りのあまり鬼斬りを折ってしまうかもしれない。
そうなれば居所を失った魔物がどういう行動に出ることやら。
想像したくないし、これ以上の面倒を抱えたくもない。
 慶次郎は鋭い。
「何か隠してないか」
「まさか、慶次郎に隠すわけないだろう」
 豪姫の手から離れた鬼斬りを、吉岡藤次が大事そうに拾い上げながら呟いた。
「物に憑依する魔物というのが居るそうですな」
 魔物が出没する京育ちだけに、その手の話しには詳しい。
豪姫の変貌振りと、ヤマトやポン太の様子から、それと察したらしい。
 藤次の呟きは続いた。
「どうして豪姫様なんや、私でも良いと思うんやけどなあ」
 藤次は魔物が自分を選ばなかった事が悔しいようで、
同意を求めるようにヤマトに目を転じた。
ヤマトは慶次郎の耳があるので答えない。
 しかし、慶次郎は聞き逃さない。理解したようで顔色が変わった。
藤次の持つ鬼斬りに手を伸ばした。




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金色の涙(白拍子)196

2010-01-10 08:21:02 | Weblog
 坂東と名付けた馬に乗っていた佐助は、二股の分かれ道で迷っていた。
昼日中であれば通行人に聞けばいいのだが、すでに日も暮れ、夜道であった。
人影一つなく、人家も見えない。
 後ろに相乗りの、ぴょん吉が心配げに尋ねた。
「迷ったか」
「ここまでは大丈夫だ。でも、この先が分からない。右か左か」
 川越から八王子に向かっていたが、地元でないだけに夜道は厳しい。
迷っていると、背後から密やかな足音が聞えてきた。
獣らしい気配。足音とは対照的に荒々しい殺気を放っていた。
 それが凄い速さで姿を現わした。
星明かりの下、黒い大きな犬が駆けて来た。
凶暴な面構えもだが、それ以上に背中に乗せている赤ん坊には驚かされた。
犬とは不釣り合いの笑顔ではないか。
佐助達に気付くと、ニコニコと笑いながら片手を上げた。挨拶らしい。
よく鞍のない背中から振り落とされないものだ。
 言葉の無い佐助だが、ぴょん吉は意外と冷静。
こういう遭遇には慣れているのだろう。
片手を上げて挨拶を返した。
 黒犬から放たれる殺気は佐助達には向けられていなかった。
黒犬は一瞥をくれただけで無視して通り過ぎた。
 その後を、少し遅れて老婆が追いかけて来た。
人とは思えぬ足運び。
彼女も、佐助と、ぴょん吉に一瞥をくれただけ。
不敵な薄笑いを見せて通り過ぎた。
 唖然としている佐助に、「よし、あれを追いかけよう」とぴょん吉。
「えっ、どうして」
「勘だが、あの者達は八王子に向かっているのかも知れん」
 佐助は、ぴょん吉の勘を信じる事にした。
黒犬が狐狸達の雄叫びに影響されている、と考えれば納得がいく。
 老婆を見失わぬように後を追う。
坂東が必死で駆けた。頼りは星明かりだけ。
 険しい山道に入るが、老婆は足を弛めない。
さらに前方の黒犬も同じだ。
坂東の鼻息が荒くなった。
 遠くから鉄砲の音が聞えてきた。
続け様に放たれていた。止みそうにない。
微かにだが、大勢の者達が争う声も混じっていた。
どの方向から届くのかは、山々に木霊していて判然としない。

 大花火が鶴翼の陣に到達すると同時に爆発した。
耳を劈く轟音と同時に、大花火の中の小石が四方八方に飛び散った。
天魔に操られる者達を襲い、身体に風穴を開け、手足を吹き飛ばした。
鬼並みの強い体躯であっても大花火の敵ではない。
凶暴な炎が燃え広がり、逃げ遅れた者達を容赦なく焼き尽くした。
立ち所に鶴翼の陣の胴体部分が壊滅した。

 激しい大爆発であったが、手の空いた狐狸達が気を練り合わせ、
「気の盾」で味方を防御していたので被害はない。
 ヤマトは新たな陣形を組ませた。
魚鱗の陣。突撃するための陣だ。
すでに敵の胴体部分は壊滅し、残っているのは両翼のみ。
それぞれ三百人余の敵兵を抱えていた。
 ヤマト達は大花火の勢いに乗り、敵の左翼を攻める。
勿論、黒猫が先頭をまっしぐらに駈けた。
 その後ろを赤狐と緑狸が、ピョンピョンと跳ねるように付いて行く。
巫山戯たように飛び跳ねるが、足は人よりも速い。
この走り方は二匹が上機嫌な証だ。

 慶次郎一行は大爆発で半数の馬を失ってしまった。
飛んで来た小石で傷付くか、怯えて逃走したのだ。
それでも幸いな事に、仲間は一人として失っていない。
敵を目前にして闘志を燃やす者ばかり。
徒の者達と離ればなれにならぬように隊列を組む。
 星明かりにヤマト達が見えた。
赤狐と緑狸がいるので見間違えようがない。
星明かりの下、二匹は存在を誇示するように駆けていた。
 そこで慶次郎達は、もう一つの軍勢を攻める事にした。
味方は四十にも足りないが気にも留めない。
鬨の声を上げて駆け出した。
 騎馬の者達は徒の者達の事も考えて馬足を弛めていた。
それが仇になった。
豪姫が先頭の慶次郎を追い越して行く。
敵しか目に入らぬらしい。
長巻き「鬼斬り」を片手に、颯爽と駆けてゆく。
血は争えない。「槍の又左」と呼ばれる前田利家の娘だけの事はある。
 慌てて宇喜多秀家と真田幸村が追走した。
二人は豪姫を押さえようと連続して馬に鞭をくれた。
馬を失い徒となった猿飛、宇喜多の忍者の面々は顔面蒼白。
役目を果たすべく両の足で必死に駆けた。
 慶次郎は、後ろの真田昌幸に叫んだ。
「昌幸殿、後はお任せいたす」
 徳川、北条軍を手玉に取った彼がいるので安心して任せられた。
鈴風の頬を撫で、「行くぞ」と囁いた。
意を汲み取った鈴風が大きく躍動した。
瞬く間に先を行く秀家と幸村を追い越し、豪姫に迫った。
 こちらに背中を向けていた敵勢が動いた。
一斉にこちらを振り返り、隊列を組み替えて三列の横隊となった。
そして槍を持ち直し、ジッと待ち構えた。
 豪姫は躊躇わない。
眦を決し、鬼切りを振りかざして突き進む。
 豪姫目がけて敵の槍が繰り出された。
そこへ慶次郎が強引に割り込んだ。
己の槍で敵の槍に当る。
まるで鬼を相手にしたような手応え。
辛うじて弾いた。
 勢いに任せて敵隊列に突っ込んだ。
正面の敵を鈴風が前足で蹴飛ばした。
 騎乗の慶次郎も負けてはいられない。
立ち塞がる敵の槍を籠手で弾き、己の槍で相手の胸元を突いた。
具足ごと深々と貫いた。
 手応え充分の筈が敵の動きは止まらない。
刺さった槍を無視し、己の槍を持ち直した。
 慶次郎は即座に理解した。
白拍子に聞いた「魔物ではないか」と。
手早く槍を捨てて太刀を抜いた。
そして寄せてきた敵の槍を払い除けた。
具足の隙間を見逃さない。腕を斬り落とし、返す刀で首を刎ねた。
これで、ようやく相手が倒れた。
 背後にチラリと目を遣る。
秀家と幸村が豪姫の左右に付いていた。
二人は押し寄せる敵に手こずり、防戦に必死であった。
 今さら相手が魔物の軍勢だからと引き返せない。
ここで背中を見せれば全滅は必至。
勢いのまま突破する以外に手はない。
 昌幸が味方を引き連れて雪崩れ込んで来た。
左右二手に分けた味方を交互に前進させた。
巧みな差配で敵陣を切り裂く。
そして豪姫等を味方の隊列に吸収した。
やはり頼りになる。
 その昌幸が慶次郎に目で何かを訴えてきた。
厳しい色をしていた。
どうやら彼も相手の正体に気付いたらしい。
 敵勢も無策ではない。僅かの間に隊列の穴を塞ぐ。
そして多勢の利を活かし、慶次郎達を押し包もうとした。
 慶次郎は先手を打った。正面の敵隊列に斬り込み、道を切り開いた。
昌幸が慶次郎の後に続いた。
二手に分けた味方を巧みに入れ替えながら前進させた。
 徒の吉岡藤次が先頭に飛び出し、縦横無尽に太刀を振るう。
鋭い切れ味。寄せる敵を具足ごと斬り捨てた。
 もう一手の先頭を買って出たのは同じく徒の新免無二斎。
太刀と脇差し、両刀を左右に構え、遅れそうになる味方を叱咤激励。
一方の刀で敵の槍を受け止め、もう一方の刀で相手の片腕を斬り捨て、
ついでのように首をも刎ねた。
 それでも味方は一人、また一人と槍で串刺しにされる。
数で勝る敵の単純な力押しに味方は劣勢に陥る。




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正月用に買った本をようやく読み終えました。
逢坂剛、志水辰夫、鳥羽亮、佐藤雅美の四冊。
暇がありすぎると、なかなか読み進めないようで・・・。
新年の初買いは、フリーマントル「片腕をなくした男」でした。
これもまだ読み終えてというか、開いてもいません。
このところ読書のペースが落ちています。
何とかしないと・・・。

金色の涙(白拍子)195

2010-01-06 19:24:35 | Weblog
 ヤマトは孔雀を見上げた。
怖じ気づいてはいない。目がランランと輝いていた。
他の者達はと見回せば、一人として目を伏せている者はいない。
それは狐狸達も同様。みんなはヤマトの次の指示を待っていた。
 ヤマトは、みんなに聞えるように孔雀に問う。
「一当たりしてどう感じた」
「どうと聞かれても、・・・強いの一言ね。貴方はどうなの」
「連中は魔物というよりは、ただの操り人形だな」
「操り人形、・・・あんなに手強いのに人形なの」
「そうだ。動いてはいるが、生気が感じられない」
「そう言われると、・・・そうだわね。一体、誰が操っているの」
「ここには居ないけど、おそらく天魔。
戦うだけの操り人形に仕上げたとしか思えん」
 孔雀が不思議そうに問う。
「それでも元は普通の人でしょう。それが何故あんなに強くなれるの」
「なれるさ。人が持てる全ての力は出せばな」
「・・・私でも」
「そうだよ。
でも、実際は出来ないようになっているんだ」
「どうして」
「いきなり無茶をして身体を壊さぬように、
人のみならず、生き物は生れながらに枷が嵌められているんだ」
「枷・・・」
「例えば、方術師だ。修行始めたばかりの者に大技が出来るかい」
「段階を踏んだ修行をしないと無理ね」
「それが、まぐれで出来たら」
「大技の圧に耐えられない、即死ね」
「そういう無茶をしないように、人は枷を嵌められて生れる」
「すると、あの者達は天魔に枷が外されたのね」
「そういうこと」
 孔雀の目が鋭くなった。
「どうやれば枷を外せるの、外せるものなら私も外したいわ」
 ヤマトは一拍置いて答えた。
「方術の修行も突き詰めれば枷を外すところに行き着く。
もっとも、何百年かかるか知らないがな」
 孔雀は目を白黒させ、そして深く頷いた。
「わかった、もっと詳しく聞きたいけど、そうも言っていられないわね。
今は目の前の敵。どうするのか知りたいわ。背後の敵が動く前にね」
 みんなの目はヤマトに注がれていた。
怖じ気づく者はいないが、背後が気になるらしい。
時折、幾人かがチラチラと後ろを振り返った。
 ヤマトは全員を見回した。
「生き残ろうと考える者は死ぬ。
まずは、既に死んでいると思い定める事だ。
その上で敵に当る。
死んでいるのだから、身を惜しむな。前へ前へと討ちかかれ」
 僧らしき大柄な男が頷いた。
「そうだな、それが良い。我等は既に死んでいる」
 見事な太刀捌きであったのをヤマトは覚えていた。
硬軟自在に敵を翻弄し、槍ごと敵を一刀両断する腕の持ち主であった。
 ヤマトは彼に尋ねた。
「名は」
 惚けた顔で男が答えた。
「猫と喋れる日が巡ってくるとは。・・・善い鬼と書いて、善鬼」
 ヤマトも惚けて返す。
「人にしておくには惜しい腕をしている」
 苦笑いする善鬼の隣の若侍も見覚えていた。
自在な進退で容赦なく敵兵を斬りたて、派手に血飛沫を浴びていた男だ。
そのために返り血で全身血塗れであった。
自分の腕に酔うているのか、血に酔うているのか、それとも両方なのか、
難しい気性の持ち主らしい。
 ヤマトは若侍を見据えた。
「お主、名は」
 若侍も負けずに視線を受け止めた。
「神子上典膳」
「血を浴びるのが好みなのか」
 典膳は自身の姿を見回して顔を赤らめた。
自分では気付いていなかったらしい。
「そういうわけでは」
 言い訳しようとするが言葉が続かない。口をもぐもぐするだけ。
その様子が本来の彼なのかもしれない。
太刀を抜くと人が変わる質なのだろう。
「目に返り血を浴びぬように気をつけることだな」
 ヤマトは典膳の返答も待たず、哲也とポン太に視線を向けた。
「天魔がいないとなれば力を溜めておく必要はない」
 二匹の目が輝いた。
哲也が、「それを待ってた」と喜べば、ポン太は、「ポンポコリン」と腹鼓。
天魔との戦いに備え、疲れぬように力を加減して戦っていた。
今、その制約が外された。
 二匹は円陣を飛び出して前に出た。
長い付き合いで気心は知れていた。打ち合わせはいらない。
身体に満ちていた気の質を高め、互いに練り合わせた。
狐と狸では気の質が違うが、仲の良い二匹なので互いに補完しあう。
 ポン太が股間の玉袋を大きく広げ、伝説の狸の大技「千畳扇」を発動した。
股間から風が吹き、足下の小石や枯葉、枯れ枝を巻き上げた。
 哲也が小さな狐火を風に次々と混ぜ入れた。
小石や枯葉。枯れ枝に燃え移り、互いに衝突し小爆発を繰り返した。
これが二匹で練り上げた「大花火」という大技だ。
 頃合いをみて二匹は大花火を敵の方へ押し出した。
大花火は小爆発を繰り返しながら、触れる物すべてを焼き払い、
鶴翼の陣の胴体部分を目指してゆったりと進む。
 フラフラと左右にぶれながら動くので敵には進路が読み切れない。
判断しかねるようで、足が止まっていた。

 先頭の真田昌幸が前方を指し示した。
「戦に間にあったようだ」
 砦は篝火で明るく、徳川の旗も見えた。
敵の手に落ちてはいないらしい。
 前方を軍勢が塞いでいた。
こちらに背中を向けていた。背後を全く警戒していない。
旗印が見えないので敵か味方かは判然としない。
ただ、不気味な気配を漂わせているので迂闊に動けない。
 前田慶次郎は不審に思い一行を止めた。
「様子を見る。その間に戦仕度をしろ」
 足下には敵味方の死体がゴロゴロ転がっていた。
中には立派な具足を身に纏っている者もいた。
槍、刀も落ちているので戦仕度には事欠かない。
 慶次郎は似た体躯の者を探し、その具足を剥ぎ取った。
手早く身支度して槍を拾い上げ、試しに振り回した。
 と、巨大な光。前方の軍勢のその向こうで何かが燃え動いているらしい。
それがこちらに向けて放たれた。
前方の軍勢が標的らしい。
燃え上がりながら、ゆったりと前進して来る。
 慶次郎は鞍馬での鬼退治を思い出した。
あの時の光景に酷似していた。大花火に違いない。
それは赤狐と緑狸の共同作業。
となれば、攻められる前方の軍勢は一揆勢に他ならない。
 慶次郎は一行に大声で怒鳴った。
「伏せろ」




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金色の涙(白拍子)194

2010-01-03 08:44:05 | Weblog
 砦から孔雀が味方を率いて出て来た。
方術師達、風間の者達、これに志願した代官配下の者等を併せて五十数人。
数こそ少ないが一騎当千の者ばかり。
 孔雀が至極当然のようにヤマトに言う。
「私達の出番よね」
 押し寄せる魔物の群れを目にしても、誰一人として尻込みしない。
頭に血が上り気味らしく、逆に噛み付かんばかりの表情をしていた。
 ヤマトは赤狐・哲也、緑狸・ポン太と顔を見合わせた。
二匹は成り行きを楽しんでいるらしい。笑っていた。
どうした事か、若菜が浮かぬ顔。孔雀等が加わる事を歓迎していないらしい。
何か言いたい目をしているが、問答している暇はない。敢えて無視をした。
 ヤマトは孔雀に視線を戻した。
「敵の力量の程を推し量るため、敵陣を突破する。
足の遅い奴は戻れ。遅れぬ自信のある者のみが付いて来い」
 誰一人として砦には戻らない。
猫の指図に異を唱える者もいない。
全員の目が敵に注がれていた。
 具足の擦れる音と、ドッドッドッという足音。
敵の群れが迫って来た。
 敵は一人として松明は持っていない。
星明かりを頼りにしている風でもない。どうやら夜目が利くらしい。
凹凸に足を取られる事なく、整然と隊列を組み、大きな足取りで迫って来る。
 星明かりに槍の穂先が反射した。
どうやら槍を真っ直ぐに構え、厚い縦隊で押して来るようだ。
異様な熱気が伝わってきた。
どちらかと言うと、本能のまま動く獣に近い。
 陰から遠巻きにしている狸達の、「ポンポコリン」の腹鼓は今も続いていた。
これに木切れで打ち鳴らす拍子木が加わった。
手持ちぶさたの狐達の工夫だろう。腹鼓に上手に相乗りした。
 ヤマトの中で、「金色の涙」が本格的に稼働を始めた。
「龍のみに任せては、ヤマト本体が壊れるおそれ有り」と判断したのだ。
体躯の隅々の細胞を目覚めさせ、筋肉の強化を図る。
そして本体を壊さぬように龍の行動に制限を加えた。
 人であれば道具として太刀を使い、魔物の四肢を切離せば済む。
しかし、ヤマトは普通の猫。道具は使えない。武器は肉体のみ。
龍の頑張りを、「金色の涙」が幾ら補完しても補完しきれない。
生身の肉体には限界というものがある。
したがい、過剰な攻撃をせぬように制限を加えるのも無理からぬこと。
 ヤマトは、「行くぞ」と先頭を切って駆けた。
敵まで人の歩数にして、およそ五十歩。
勢いをつけ、一瞬で敵の第一列に到達した。
 地を這うようにして駆け、草陰に姿を紛れさせたが敵の目は欺けなかった。
敵の視力は人を超えていた。
猫相手に容赦なく槍が繰り出してきた。
 ヤマトは槍を掻い潜り、上に跳ぶ。
相手の肩口に乗り、具足に守られていない顔の正面を狙った。
猫拳を大きく振り回した。
細くて小さな猫の手だが、強靱な堅さがあった。
グシャッと一撃で相手の鼻を潰した。
 相手は顔全体に衝撃を受けた筈だが、鼻血を流しただけで微動だにしない。
猫の意外な行動に戸惑っているだけだ。
 それはヤマトにとって、相手の力量を推し量るための一撃であった。
屈強な肉体の敵を倒すには。具足の隙間を狙うだけでは駄目らしい。
 相手が動く前に、すぐさま修正して二撃目を繰り出した。
脆い箇所を狙った。
容赦なく相手の右目に猫拳を突き入れた。
まるで細い槍。右目から頭蓋の奥へ猫拳を深々と、めり込ませた。
拳が脳漿で濡れるのを感じた。
 相手が甲高い悲鳴を上げ、槍を手放して激しく身震いした。
そして、膝から前屈みに崩れた。
 効果有りと知るや、ヤマトは素早く次の敵に向かった。
攻める箇所が見つけられたので、あとは繰り返すのみ。
 ヤマトが敵隊列に開けた穴に哲也と、ポン太が突入した。
二匹はヤマトの攻め口を見習う。
素早い身のこなしで敵兵の肩に跳び乗り、目に拳を突き入れた。
 残りの狐狸達が、戦う三匹を追い越して最前線に踊り出た。
彼等もヤマトの攻め口を見習い、敵兵の目を狙った。
 若菜と孔雀が競うように、負傷した敵兵を蹴り倒して狐狸達を追い越した。
若菜は鬼達と戦った経験があるだけに太刀捌きに余裕があった。
繰り出された槍を躱しながら、相手の手首もろとも槍を斬り捨てた。
そして止めは刺さずに次ぎに向かう。
 若菜はヤマトの意図を理解していた。
大事なのは敵隊列の突破。
その過程で敵の攻撃力を推し量り、次の攻撃に活かす。
 意外なのは孔雀。尼僧であるというのに、見事な太刀捌き。
敵兵の繰り出す槍を真っ二つ、続けて腕をも斬り落とした。
若菜より一手間多いが、並みの者では足下にも及ばないだろう。
 負けじと方術師、風間、代官の配下の者等が続いた。
前を行く女二人を追い越そうと力で押してゆく。
 それでも敵の隊列は分厚い。その上に体力があって手強い。
跳躍力の足りない狐狸は打ち払われ、力負けした者は槍で串刺しされた。
味方が一人、一匹と倒されてゆく。
最後尾を突破したときには半数近くを失っていた。
 ヤマトは敵と距離を置いてから踵を返した。
味方を集め、防御のための円陣を敷いた。
 それは敵も同様だった。
混乱している陣容を立て直し、手早く鶴翼の陣を組む。
ヤマト等が少数にも関わらず手強く、突き進む速度が驚くほど速い事から、
その陣形を選んだのだろう。
中央の本陣を厚くしてヤマト等の攻撃を受け止め、その隙に左右の翼を伸ばし、
包囲殲滅する腹積もりらしい。
 孔雀がヤマトの傍に立つ。
美しい顔の右頬が血で濡れていた。どうやら返り血らしい。
片手で血を拭いながらヤマトに声をかけた。
「敵陣を切り裂いたけど、味方の被害も甚大ね」
 狐狸と人、手負いも含め四十ほどしか残っていない。
対して前方の敵は九百人余が残っていた。
 そして、それとは別にヤマト等の背後の麓の道に、
獣達に追い散らされた敗残兵がいた。
負けたとは言え、今もって万を越える兵数だ。
彼等は隊を組み直しているらしい。松明を掲げて忙しく動き回っていた。




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明けまして、お目出度うございます。
今年も拙い文章ですが、我慢して付き合ってください。
(そのうちに巧くなるかも・・・)

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