毬子は百合子と並んで鳥居を潜った。
「一郎は神社を継ぐのかしら」
吉田一郎には弟が一人いると聞いた。
「長男だからね」
「すると大学は外の大学か」
「中学の頃、本人も外進と言ってた」
「そうなると来年は寂しくなるね」
普通、成績次第だが大半の者はグループの美波大学に内進する。
だが美波大学に神職養成の学部はない。
となれば一郎は神道系大学へ外進するしかない。
手水舎に寄って手と口を清めた。
その時、声が聞えた。
「そこのオナゴ」
聞き覚えのない声。
周囲を見回すが他に人影はない。
「ユリは」と様子を見ると、彼女はのんびり手を清めていた。
声が聞えていないらしい。
訝しんでいると再び声。
「そこのオナゴ、やはり私の声が聞えるのね。
漂わせている奇妙な気配、只者ではないと思ったけど一体何者なの」
『俺』が毬子に教えた。
「どうやらこの声、物の怪の類らしい。相手にするな」
「物の怪・・・、化物なの、どうして」
すると、
「物の怪、化物・・・、馬鹿言うんじゃないわよ」と抗議された。
何やら女の声。
その声は耳ではなく、頭の中に届いた。
『俺』が頭の中に居るのに対し、
それは外から頭の中に直接話し掛けてくる。
そこで毬子は『俺』に対するように、自分の頭の中に言葉を置いた。
脳内会話だ。
「貴女は誰なの」
「この社に棲まうものよ」
「まさか地霊、それとも地縛霊」
「失礼なオナゴだね。社に棲まうと言えば普通は神様でしょうに」
予想もつかぬ答えに毬子は絶句した。
都会のど真ん中で神様に遭遇するとは。
沈黙を神様が破った。
「神様と聞いて信じるとは、なんて素直なオナゴなの」
『俺』の荒々しい言葉。
「毬子、神様は宇宙の創造で手一杯だ。
こんな辺鄙な星の、辺鄙な国の、辺鄙な町に居るわけがない。
もし万が一、居るとすれば低級の、さらに低級の低級なシロモノだ」
「ほう、オナゴには変なモノが棲み着いているのか」と神様が笑う。
若い女の声。明るく高らかに笑う。
毬子はようやく声を出した。
「一体、貴女は誰なの、何者なの」
「ふふん、それが私にもよく分からないのよ。
たぶん、みんなの願いが積もり積もって、
このような私を生んだのじゃないかしら。
つまり、願いの言霊が集まって出来た精霊・・・かもね。
分かっているのは只一つ、私は誰の願いも叶えない」
「なに、それ」と毬子。
「可笑しな奴だな」と『俺』が笑う。
精霊とか称する若い女の声が尖る。
「オナゴ、お前に付いてる変なモノは何なの」
「オナゴは止めて、私の名前は毬子。貴女は」
「名前か、久しく呼ばれてないから忘れたわ。
そーね毬子、私の名前を考えてくれないかい」
妙な精霊と知り合ったものだ。
毬子は精霊の名を考えた。
困っていると目に付いたのは参道奥の桜の木。
「安直だけどサクラでどうかしら」
「サクラか、いいわね」
「それでサクラ、私に何か用があるの」
「別に、とりたてて・・・。喋る相手が欲しかったのよ」
あまりの答えに毬子は呆れてしまう。
ついで、吹き出したい気持が募ってきた。
それを必死で堪えた。
ここで笑えば傍の百合子に変に思われる。
「ゴメンね、今は連れがいるから話しは後にしてくれない」
「久し振りに話せる人間に会えて嬉しいわ。それじゃ後でね」
唐突に現れて、好き勝手して、サッと存在を消した。
「変な奴だな」と『俺』が含み笑いをする。
気付くと百合子が毬子を見ていた。
「どうしたの」
毬子は丁度桜の木を見ていたところだった。
そこで桜の木を指差す。
「太い桜ね」
五本ある桜のうち、一本だけが他に比べて三回りほど太い。
「ああ、あれね。昔はあの一本だけだったみたいよ」
短い参道を行くと狛犬が置かれていた。
大方は左に獅子、右に狛犬をワンセットで配置するが、
この神社は二匹の狛犬。
拝殿前に吉田一郎が待っていた。
彼には連れがいた。
どういうわけか田村美津夫と川口義男。
二人は授業中の諍いはあったが、今は前のような関係に戻っていた。
強者と弱者。
川口は出過ぎぬように田村の陰にいた。
二人とも小中等部からの内進組なのだが、
これまで吉田と親しくしているところを見たことがない。
まさか家に遊びに来るほど仲が良いとは知らなかった。
毬子は田村に問う。
「美津夫、二人でどうしたの」
毬子は同級生を男女の分け隔て無く下の名で呼び捨てにする。
親しい、親しくないに関わらずだ。
美津夫は眩しげな目付きをした。
「義男の奴に付き合ってるだけだよ」
当の川口は田村の陰で大きな身体を小さくし、
毬子とは視線を合わせようとしない。
吉田が百合子を見た。
「遅刻したのはお前のせいだろう」
「もしかして駅で待ってたの」と嬉しそうな百合子。
「少しね」
「怒ってるの」
「いつものことだから呆れてるだけだ」
「待たせるのは女の仕事。待つのは男の仕事」
百合子の言葉に吉田は深い溜息。
★
国会をやってるみたいだけど、今もって震災以前と同様、
国民生活より党利党略を優先しているとしか思えない。
大震災、原発被災に対する真摯な思い、熱意が伝わってこない。
何故、互いに歩み寄り妥協しないのだろう。
馬鹿なの・・・。
そんな奴等に電気はもったいない。
「議論するだけ無駄。国会を永久停電にしろ」と叫びたい。
今、日本代表とJリーグ選抜の試合を見ています。
良いですね、スポーツは。
暗い世相に光が射したようです。
ついでにストイコビッチ監督、いやピクシーか、
彼のプレーも見てみたい。
★
ランキングです。
「一郎は神社を継ぐのかしら」
吉田一郎には弟が一人いると聞いた。
「長男だからね」
「すると大学は外の大学か」
「中学の頃、本人も外進と言ってた」
「そうなると来年は寂しくなるね」
普通、成績次第だが大半の者はグループの美波大学に内進する。
だが美波大学に神職養成の学部はない。
となれば一郎は神道系大学へ外進するしかない。
手水舎に寄って手と口を清めた。
その時、声が聞えた。
「そこのオナゴ」
聞き覚えのない声。
周囲を見回すが他に人影はない。
「ユリは」と様子を見ると、彼女はのんびり手を清めていた。
声が聞えていないらしい。
訝しんでいると再び声。
「そこのオナゴ、やはり私の声が聞えるのね。
漂わせている奇妙な気配、只者ではないと思ったけど一体何者なの」
『俺』が毬子に教えた。
「どうやらこの声、物の怪の類らしい。相手にするな」
「物の怪・・・、化物なの、どうして」
すると、
「物の怪、化物・・・、馬鹿言うんじゃないわよ」と抗議された。
何やら女の声。
その声は耳ではなく、頭の中に届いた。
『俺』が頭の中に居るのに対し、
それは外から頭の中に直接話し掛けてくる。
そこで毬子は『俺』に対するように、自分の頭の中に言葉を置いた。
脳内会話だ。
「貴女は誰なの」
「この社に棲まうものよ」
「まさか地霊、それとも地縛霊」
「失礼なオナゴだね。社に棲まうと言えば普通は神様でしょうに」
予想もつかぬ答えに毬子は絶句した。
都会のど真ん中で神様に遭遇するとは。
沈黙を神様が破った。
「神様と聞いて信じるとは、なんて素直なオナゴなの」
『俺』の荒々しい言葉。
「毬子、神様は宇宙の創造で手一杯だ。
こんな辺鄙な星の、辺鄙な国の、辺鄙な町に居るわけがない。
もし万が一、居るとすれば低級の、さらに低級の低級なシロモノだ」
「ほう、オナゴには変なモノが棲み着いているのか」と神様が笑う。
若い女の声。明るく高らかに笑う。
毬子はようやく声を出した。
「一体、貴女は誰なの、何者なの」
「ふふん、それが私にもよく分からないのよ。
たぶん、みんなの願いが積もり積もって、
このような私を生んだのじゃないかしら。
つまり、願いの言霊が集まって出来た精霊・・・かもね。
分かっているのは只一つ、私は誰の願いも叶えない」
「なに、それ」と毬子。
「可笑しな奴だな」と『俺』が笑う。
精霊とか称する若い女の声が尖る。
「オナゴ、お前に付いてる変なモノは何なの」
「オナゴは止めて、私の名前は毬子。貴女は」
「名前か、久しく呼ばれてないから忘れたわ。
そーね毬子、私の名前を考えてくれないかい」
妙な精霊と知り合ったものだ。
毬子は精霊の名を考えた。
困っていると目に付いたのは参道奥の桜の木。
「安直だけどサクラでどうかしら」
「サクラか、いいわね」
「それでサクラ、私に何か用があるの」
「別に、とりたてて・・・。喋る相手が欲しかったのよ」
あまりの答えに毬子は呆れてしまう。
ついで、吹き出したい気持が募ってきた。
それを必死で堪えた。
ここで笑えば傍の百合子に変に思われる。
「ゴメンね、今は連れがいるから話しは後にしてくれない」
「久し振りに話せる人間に会えて嬉しいわ。それじゃ後でね」
唐突に現れて、好き勝手して、サッと存在を消した。
「変な奴だな」と『俺』が含み笑いをする。
気付くと百合子が毬子を見ていた。
「どうしたの」
毬子は丁度桜の木を見ていたところだった。
そこで桜の木を指差す。
「太い桜ね」
五本ある桜のうち、一本だけが他に比べて三回りほど太い。
「ああ、あれね。昔はあの一本だけだったみたいよ」
短い参道を行くと狛犬が置かれていた。
大方は左に獅子、右に狛犬をワンセットで配置するが、
この神社は二匹の狛犬。
拝殿前に吉田一郎が待っていた。
彼には連れがいた。
どういうわけか田村美津夫と川口義男。
二人は授業中の諍いはあったが、今は前のような関係に戻っていた。
強者と弱者。
川口は出過ぎぬように田村の陰にいた。
二人とも小中等部からの内進組なのだが、
これまで吉田と親しくしているところを見たことがない。
まさか家に遊びに来るほど仲が良いとは知らなかった。
毬子は田村に問う。
「美津夫、二人でどうしたの」
毬子は同級生を男女の分け隔て無く下の名で呼び捨てにする。
親しい、親しくないに関わらずだ。
美津夫は眩しげな目付きをした。
「義男の奴に付き合ってるだけだよ」
当の川口は田村の陰で大きな身体を小さくし、
毬子とは視線を合わせようとしない。
吉田が百合子を見た。
「遅刻したのはお前のせいだろう」
「もしかして駅で待ってたの」と嬉しそうな百合子。
「少しね」
「怒ってるの」
「いつものことだから呆れてるだけだ」
「待たせるのは女の仕事。待つのは男の仕事」
百合子の言葉に吉田は深い溜息。
★
国会をやってるみたいだけど、今もって震災以前と同様、
国民生活より党利党略を優先しているとしか思えない。
大震災、原発被災に対する真摯な思い、熱意が伝わってこない。
何故、互いに歩み寄り妥協しないのだろう。
馬鹿なの・・・。
そんな奴等に電気はもったいない。
「議論するだけ無駄。国会を永久停電にしろ」と叫びたい。
今、日本代表とJリーグ選抜の試合を見ています。
良いですね、スポーツは。
暗い世相に光が射したようです。
ついでにストイコビッチ監督、いやピクシーか、
彼のプレーも見てみたい。
★
ランキングです。