金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(辻斬り)15

2011-03-29 20:54:43 | Weblog
 毬子は百合子と並んで鳥居を潜った。
「一郎は神社を継ぐのかしら」
 吉田一郎には弟が一人いると聞いた。
「長男だからね」
「すると大学は外の大学か」
「中学の頃、本人も外進と言ってた」
「そうなると来年は寂しくなるね」
 普通、成績次第だが大半の者はグループの美波大学に内進する。
だが美波大学に神職養成の学部はない。
となれば一郎は神道系大学へ外進するしかない。
 手水舎に寄って手と口を清めた。
その時、声が聞えた。
「そこのオナゴ」
 聞き覚えのない声。
周囲を見回すが他に人影はない。
「ユリは」と様子を見ると、彼女はのんびり手を清めていた。
声が聞えていないらしい。
訝しんでいると再び声。
「そこのオナゴ、やはり私の声が聞えるのね。
漂わせている奇妙な気配、只者ではないと思ったけど一体何者なの」
 『俺』が毬子に教えた。
「どうやらこの声、物の怪の類らしい。相手にするな」
「物の怪・・・、化物なの、どうして」
 すると、
「物の怪、化物・・・、馬鹿言うんじゃないわよ」と抗議された。
何やら女の声。
 その声は耳ではなく、頭の中に届いた。
『俺』が頭の中に居るのに対し、
それは外から頭の中に直接話し掛けてくる。
そこで毬子は『俺』に対するように、自分の頭の中に言葉を置いた。
脳内会話だ。
「貴女は誰なの」
「この社に棲まうものよ」
「まさか地霊、それとも地縛霊」
「失礼なオナゴだね。社に棲まうと言えば普通は神様でしょうに」
 予想もつかぬ答えに毬子は絶句した。
都会のど真ん中で神様に遭遇するとは。
 沈黙を神様が破った。
「神様と聞いて信じるとは、なんて素直なオナゴなの」
 『俺』の荒々しい言葉。
「毬子、神様は宇宙の創造で手一杯だ。
こんな辺鄙な星の、辺鄙な国の、辺鄙な町に居るわけがない。
もし万が一、居るとすれば低級の、さらに低級の低級なシロモノだ」
「ほう、オナゴには変なモノが棲み着いているのか」と神様が笑う。
若い女の声。明るく高らかに笑う。
 毬子はようやく声を出した。
「一体、貴女は誰なの、何者なの」
「ふふん、それが私にもよく分からないのよ。
たぶん、みんなの願いが積もり積もって、
このような私を生んだのじゃないかしら。
つまり、願いの言霊が集まって出来た精霊・・・かもね。
分かっているのは只一つ、私は誰の願いも叶えない」
「なに、それ」と毬子。
「可笑しな奴だな」と『俺』が笑う。
 精霊とか称する若い女の声が尖る。
「オナゴ、お前に付いてる変なモノは何なの」
「オナゴは止めて、私の名前は毬子。貴女は」
「名前か、久しく呼ばれてないから忘れたわ。
そーね毬子、私の名前を考えてくれないかい」
 妙な精霊と知り合ったものだ。
毬子は精霊の名を考えた。
困っていると目に付いたのは参道奥の桜の木。
「安直だけどサクラでどうかしら」
「サクラか、いいわね」
「それでサクラ、私に何か用があるの」
「別に、とりたてて・・・。喋る相手が欲しかったのよ」
 あまりの答えに毬子は呆れてしまう。
ついで、吹き出したい気持が募ってきた。
それを必死で堪えた。
ここで笑えば傍の百合子に変に思われる。
「ゴメンね、今は連れがいるから話しは後にしてくれない」
「久し振りに話せる人間に会えて嬉しいわ。それじゃ後でね」
 唐突に現れて、好き勝手して、サッと存在を消した。
「変な奴だな」と『俺』が含み笑いをする。
 気付くと百合子が毬子を見ていた。
「どうしたの」
 毬子は丁度桜の木を見ていたところだった。
そこで桜の木を指差す。
「太い桜ね」
 五本ある桜のうち、一本だけが他に比べて三回りほど太い。
「ああ、あれね。昔はあの一本だけだったみたいよ」
 短い参道を行くと狛犬が置かれていた。
大方は左に獅子、右に狛犬をワンセットで配置するが、
この神社は二匹の狛犬。
 拝殿前に吉田一郎が待っていた。
彼には連れがいた。
どういうわけか田村美津夫と川口義男。
二人は授業中の諍いはあったが、今は前のような関係に戻っていた。
強者と弱者。
川口は出過ぎぬように田村の陰にいた。
二人とも小中等部からの内進組なのだが、
これまで吉田と親しくしているところを見たことがない。
まさか家に遊びに来るほど仲が良いとは知らなかった。
 毬子は田村に問う。
「美津夫、二人でどうしたの」
 毬子は同級生を男女の分け隔て無く下の名で呼び捨てにする。
親しい、親しくないに関わらずだ。
 美津夫は眩しげな目付きをした。
「義男の奴に付き合ってるだけだよ」
 当の川口は田村の陰で大きな身体を小さくし、
毬子とは視線を合わせようとしない。
 吉田が百合子を見た。
「遅刻したのはお前のせいだろう」
「もしかして駅で待ってたの」と嬉しそうな百合子。
「少しね」
「怒ってるの」
「いつものことだから呆れてるだけだ」
「待たせるのは女の仕事。待つのは男の仕事」
 百合子の言葉に吉田は深い溜息。




国会をやってるみたいだけど、今もって震災以前と同様、
国民生活より党利党略を優先しているとしか思えない。
大震災、原発被災に対する真摯な思い、熱意が伝わってこない。
何故、互いに歩み寄り妥協しないのだろう。
馬鹿なの・・・。
そんな奴等に電気はもったいない。
「議論するだけ無駄。国会を永久停電にしろ」と叫びたい。
 今、日本代表とJリーグ選抜の試合を見ています。
良いですね、スポーツは。
暗い世相に光が射したようです。
ついでにストイコビッチ監督、いやピクシーか、
彼のプレーも見てみたい。




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白銀の翼(辻斬り)14

2011-03-27 09:57:18 | Weblog
 榊毬子の身辺は煩いものになった。
この前の田村と川口の諍いを仲介した事が学内で評判になったのだ。
男子生徒達は畏敬の目。女子生徒達は熱い眼差し。
どこに行くにも視線が追いかけて来る。
 原因となった二人の態度も、あの日を境に変わった。
川口は毬子に、「おはよう」と恥ずかしそうに挨拶するようになった。
田村も無愛想な顔で、「おう」と毬子に声をかけてくる。
彼なりの挨拶なのだろう。
 とにかく毬子としては戸惑うばかり。
野上百合子が、「そのうちに飽きるわよ」と慰めれば、
右隣の吉田一郎も、「人の噂も七十五日」と。
 その吉田が提案した。
「気晴らしに明日の日曜、家に来ないか」
 吉田とは一年の時から同じクラスで、気心は知れていた。
とにかく温厚なのだ。怒ったところを見たことばない。
 百合子が警戒した。
「マリだけ」
「んっ、ユリも一緒で構わないよ。来たけれ勝手に来ればー」
 この二人は美波高校を経営する美波学園付属の小中等部の出身なので、
付き合いは長い。
なので会話に遠慮がない。
「あんなボロ神社、行きたくないけど、マリが行くのなら付き合うわ」

 「新宿渋谷連続斬殺事件」の合同捜査は順調に進んでいた。
 捜査会議の司会役は古手の警部、篠沢真一。
本庁側の人間だが、年の功か、全く偉ぶらない。
「用心棒二人の身元が分かった。
塚越章。三十五才。
加藤武徳。三十一才。
共に鶴見海原会の者で前科がある」
 鶴見海原会は横浜鶴見区を根城とする暴力団。
 渋谷署から来た若手が問う。
「それがどうして古物商と」
「殺害された北尾と浅草海原会の会長が幼馴染みなんだそうだ。
問題は用心棒を雇った時期だ。花園の翌日に雇ったそうだ」
 花園で西木正夫が斬殺された翌日、心当たりのある北尾茂は、
身辺警護の為に鶴見海原会の会長に電話したという事なんだろう。
それで派遣されたのが例の二人。
「会長は何か聞いてないんですか」
「聞いたのだが、北尾が言葉を濁して詳しい事は喋らなかったそうだ」
 捜査員達がざわめく。
競うように新宿署の一人が問う。
「暴力団の会長にも聞かせられないような事があったのですかね」
「そうらしい。
警察にも幼馴染みの暴力団会長にも話せない疚しい事があるのだろう」
「北尾と西木で疚しい山を踏んだという事ですか」
「二人だけで組んだのか、他にもいるのか。
まあとにかく、無差別でない事だけはハッキリした。
西木を洗っている班も、北尾を洗っている班も、
その事を念頭に入れて動いてくれ」
 西木を調べているのは新宿署。
その班長が立ち上がった。
「マンションは寝に戻るだけのようで、仕事は欠片もありません。
ですから、他に仕事用の部屋を構えているのではないかと思い、
今、それを全力で探しています」
「東京は広い。何か目星でも」
「銀行口座を調べたところ、
新橋のコンビニのATMからの引き出しが多いので、
その周辺を重点的に調べさせています」
 北尾は渋谷署の担当。
こちらは若い班長だ。
「北尾の自宅や店、周辺を調べましたが、
真っ当な隣人であり、商売人であるようで、不審な点が見当たりません」
「店や私物のパソコンは」
「洗い出しの最中です。今のところ不審なデーターはありません」
「何かある筈なんだ。
もしかすると、北尾も別に仕事部屋を用意している。
あるいは西木と同じ仕事部屋という事も」
「新橋なら北尾の銀座の店からも近いですね」
 犯人の足取りを追っていたのは本庁。
老練の警部が立ち上がった。
「店頭の防犯カメラや街頭の防犯カメラに何も映ってないのは、
皆さんご存じでしょう。
カメラ位置を調べたところ、両現場共に幾つかの穴がありました。
どうやら犯人は周到に下調べをして襲撃し、逃走したようです」
一息おき、みんなを見回して続けた。
「目撃者もおりました。
しかし、新宿の現場は酔っぱらいの証言のみ。
渋谷の現場のドライバーは今もって正気に戻っておりません。
負傷した二人は面会謝絶の状態。
ただ、犯人が目立つ刀を持ったまま逃走したとは考えられず、
近くに車を用意していたのではないかと思い、調べています」

 日曜日、毬子は百合子と都電の鬼子母神前で待ち合わせをした。
時間にだけはルーズな百合子に三十分は待たされた。
「こめんねー」と百合子が悪びれぬ顔で電車から降りて来た。
派手な赤いスカートが似合うのは彼女をおいて他に知らない。
 毬子は読みかけの本を閉じてベンチから腰を上げた。
ジーンズに一枚の布を巻き付けただけの短いスカートが、
ヒラヒラと風に煽られた。
「いいわよ、本が読めたし」
 百合子は嬉しそうに毬子に腕を絡めてきた。
「何を読んでたの」
「三国志」
「マリはロマンスとか読まないよね」
「あまり興味ないの。今は歴史物が面白いのよ」
 百合子が吉田の実家、神社に案内する。
小等部の頃、何度か遊びに行った事があるのだそうだ。
「表の神社は古びているけど、裏の住居は小綺麗なのよ」
 鬼子母神とは反対側の目白通り側にあった。
『烏鷺神社』。
確かに古びている。
そして規模が小さい。
だけど小さいながら鎮守の森もあり、清浄な趣がした。




大震災を発端として世情は、
原発被災、計画停電・・・、等々騒いでいます。
が、関東にいる私達は別の事にも気をつけなければなりません。
迫り来ると言われる関東大震災です。
備えなければなりません。特に大津波に。
千葉、東京、神奈川一都二県の沿岸部には高層住宅が、
まるで堤防のように連なっています。
でも、それだけでは防げないでしょう。
となると、首都の移転を考えねばなりません。
ただし、東北復興に莫大な金額が必要となるので、
首都機能のみの移転とし、小規模なものにならざるを得ません。
東京は商都として残し、司法、行政、立法の三権を、
近県県庁所在地に分散させるのがベストでしょう。
埼玉は利根川氾濫、茨城は東海原発被災の恐れがあり、
結局は群馬、栃木、長野の三県ですかね・・・。



被爆者に
東電社員の
名が見えず

現場の最前線を下請け孫請けに丸投げしている事が分かりました。
果たして、肝心要の東電社員は原発全体を知り尽くしているのでしょうか。
なんだか、とても心細い限りです。



昔々、菅サンはO157問題での風評被害の際、
カイワレ大根のサラダを食べ、安全性をアピールしました。
そこで今回も放射性物質に汚染された原乳、水を飲み、野菜を食べ、
「それでも健康には害無し、大人は何杯食べても大丈夫」
とアピールするものとばかり思っていました。
でも今回はアピールしません。
首相になっちゃったから偉くなったの。
それとも本当に危ないから
 天罰で名を馳せた石原さんが金町浄水場の水を飲んだけど、
先の短い人が飲んでもどうかと・・・。




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白銀の翼(辻斬り)13

2011-03-25 23:05:12 | Weblog
 渋谷駅に近い南平台町。
深夜、山手通りより黒塗りの外車が入って来た。
眩しすぎるヘッドライト。
巧みなハンドル捌きで細い道を抜け、一軒の古びた洋館の前に止まった。
 右側の前後のドアが開いて、
二人の男が飛び出すように勢い込んで出て来た。
身ごなしから二人が鍛え抜かれているのが分かった。
前のドアから出て来た男は前方を、
後ろのドアから出て来た男は後方を警戒し、
険しい視線を走らせた。
幸い街灯の明かりで周辺が見通せた。
彼等の他には人影一つ見当たらない。
前の男が車内に、「安全」の合図を送った。
 中肉中背のドライバーが降りて、左後部座席のドアを開けた。
車内から姿を現わしたのは禿頭の中年男。
鋭い目付きで左右を見回しながら洋館の門扉に向かう。
 二軒先の玄関前の街灯の陰で何かが動いた。
一条の光とともに何者かが飛び出して来た。
街灯の明かりに曝されたのは覆面をした長身の男。
手にしている刀が不気味な光を反射した。
 新宿花園神社裏通りに現れた辻斬りと寸分違わぬ背格好。
ただ一つ違うのはスーツの色だけ。
今夜は濃紺のスーツであった。
 最初に気付いたのは前方を警戒していた男。
正対しながら上着のボタンを手早く外した。
脇の下のショルダーホルスターに拳銃を収めていた。
 視界に拳銃を認めた筈なのに辻斬りは足を止めない。
勢いのまま相手に身体を寄せた。
燦めく白刃。
いとも簡単に相手の利き手を斬り離した。
 男は鮮血迸る手首を見て呆然自失。
事実が受け入れられないらしい。
震えながら両膝をつき、ようやく夜空に響き渡る悲鳴を上げた。
 後方を警戒していた男も気付いた。
振り返って拳銃を抜いた。
慌てているせいで狙いが定まらない。
 それより早く辻斬りは車のボンネットに跳び乗り、
車の屋根を踏み台に、さらに大きく跳躍した。
己の命を捨てているとしか思えない。
平然と射線の前に身を晒した。
引き金より先に、再び白刃が燦めいた。
拳銃を構えた手首をスパッと斬り落とした。
 二人目が悲鳴を上げながら地面を転がった。
近隣に聞えている筈なのに、どの玄関も、窓も開かれない。
遠くに見えた人影も逃げるように去って行く。
 辻斬りは無駄な動きはしない。
身を翻すと、洋館の門扉の前で立ち竦んでいる禿頭に駆け寄った。
品定めでもするかのようにグッと睨み付けた。
 小刻みに身体を震わせる禿頭。
命乞いでもしようというのか、口を開こうとした。
 辻斬りは抗弁を許さない。
みたびの白刃の燦めき。
生首が宙を舞い、血飛沫が飛び散る。
 一人無傷で残っていたドライバーは車の傍にしゃがみ込み、
両手で顔を覆い泣いていた。
 辻斬りは去るのも早い。
表通りに向かう路地に姿を消した。

 巷で、「花園神社裏通りの辻斬り」と呼ばれる斬殺事件は、
新宿署に捜査本部が置かれていた。
「花園神社裏通り斬殺事件」。
 本庁からも捜査員が動員され、大々的に捜査されたが、
たいして有益な情報は取れなかった。
分かっているのは被害者の事だけ。
西木正夫、三十九才。独身。職業不詳。
方向から、歌舞伎町のマンションに帰るところを狙われたらしい。
 彼には前科があった。
殺傷事件で三年服役していた。
それ以外、身辺からも、マンションからも、
事件に繫がりそうな物は何も見つからなかった。
付近の店の防犯カメラ、街頭の防犯カメラ、
それらからも何も見つからなかった。
 そこに降って湧いたような渋谷の斬殺事件。
捜査本部が沸騰した。
 新たな被害者は北尾茂。五十二才。妻子四人。職業は古物商。
業界では大物で、銀座に店を構えていた。
 ただちに新宿署の捜査本部が合同捜査本部に衣替えした。
「新宿渋谷連続斬殺事件」。




福島原発の後始末ですが、賠償金は国と東電で支払われる・・・ですよね。
つまり国は税金から。
東電は電気料金から。
色々と理由付けして料金アップも図るでしょう。
結局、損害は国民、
特に東電に料金を支払っている関東の人達が被る事になりますね。
受益者負担、・・・なんてこったい。




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白銀の翼(辻斬り)12

2011-03-22 21:49:50 | Weblog
 反項羽連合軍は項羽軍を包囲するのに三日も要した。
軍勢が増え、百万近い大軍となったので移動にもたついたのだ。
 前回は項羽軍の死兵化を恐れ、広く退路を開けておいた。
しかし今回は蟻の這い出る隙間もないくらい何重にも包囲した。
項羽軍を追い詰める為というより、
味方が大軍に油断する事を警戒したのだ。
 退路が無い項羽軍は死兵化し、どこか一点を突いて脱出しようと図る。
狙われるとすれば最も付け入る隙のある軍勢となるは必定。
そういう話しを味方陣内に流布させた。
お蔭で各陣営は包囲軍ながら、防備に人手を割かざるを得なくなった。
さながら項羽軍が攻撃軍で、連合軍が守備軍。攻守所を変えた。
 劉邦は本陣奥深くにいた。
傍には最も信頼の置ける軍師、張良ただ一人。
 張良は心配げに劉邦の顔を見た。
「傷の具合はどうですか」
 劉邦は項羽軍の夜討ちから命からがら逃げたものの、
途中で伏兵に遭い太腿を斬られた。
幸い医術の心得のある張良がいたので、事なきを得たが、
出血による疲労だけは隠しようがなかった。
それでも劉邦は泣き言は言わず我慢強く采配を揮っていた。
「馬に乗らなければ大丈夫だろう。それより味方の様子はどうなってる」
「どこの部隊も自分達の所に項羽軍が攻め寄せて来ない事を祈ってます」
「大軍の弊害だな。誰も項羽軍の正面に立とうとしない。
まあ、儂も同じだがな。
ところで糧食部隊を夜討ちする際に内応した連中は見つかったのか」
「はい。連中に会ってきました。
連中によると、項羽が夜討ち部隊を率いて出撃する事は、
内応した際に話したそうです」
「それは誰に。誰が話しを聞いた。
そうか、あの夜討ちは韓信の部隊だったな」
 韓信は劉邦の軍師の一人であるが、用兵にも優れており、
戦には常に将軍として十万、二十万の兵を率いて参戦していた。
「はい。それで韓信殿にも話しを聞いて参りました。
それによると、確かに項羽軍夜討ちの話しを聞いたので、
報告に本陣に一部隊、四、五十人を走らせたそうです」
「儂は報告は受けていない。お前は」
「私もです。
どうやら途中で項羽軍に遭遇し、全滅したのかもしれません。
実際、一人として戻っていないそうです」
 片眉を吊り上げた劉邦。
「本当にそう思うのか」
 最初、疑問を抱いたのは張良であった。
「項羽軍の糧食部隊を夜討ちする際、内応した者達が手土産に、
同夜の項羽軍の夜討ちを打ち明けた筈。
たとえ内応した者達が夜討ちに関係ない陣所にいたとしても、
万を数える兵が夜討ちの準備をすれば、事前にどこからか漏れるもの。
内応した者達が一人として気づかぬわけがない。
それがどうして本陣に伝わらなかったのか」
他聞を憚る話しなので劉邦にだけは伝え、一人で調べてきた。
 どうやら、張良を待つ間に劉邦も疑問が募ってきたらしい。
最前より不安と不満の入り混じった顔色をしていた。
 張良は冷静な声。
「王に手傷を負わせた伏兵と戦った場所も見てまいりました。
不思議な事に敵の死体が一つとして残っておりません。
私の知る限りでは、項羽軍は負傷した味方は見捨てませんが、
死体まではその限りではありません。
この本陣にも項羽軍の死体が残されておりました」
 劉邦の両目が吊り上がった。
「残しては拙い死体ということか」
「たぶん。
見る者が見れば分かる死体だったのでしょう。
しかし、韓信殿に疑いの目を向けるのは早計です。
韓信殿の軍は無論、我が軍は寄せ集めで膨れ上がっております。
どこに裏切り者がいても不思議ではありません」
 劉邦は腕を組んだ。
「楚王を暗殺した者達も正体不明であったな」
「はい。これで楚王を警護していた英布の言葉が証明できたも同然です」
 楚王が暗殺された際、劉邦は、
「手を下したのは英布、黒幕は項羽」として中華全土に檄を飛ばした。
その時はそう信じたのだ。
張良も含め、みんながみんな、英布と項羽の仕業と断定した。
今さらだが、誰も他の存在を考えもしなかった。
 後に、項羽を離れて劉邦に与した英布が軍議の席で、
「楚王を殺したのは儂でも覇王でもない」と言い切ったが、
その場にいた者達には、どうでもよい過去の話しになっていた。
何しろあの時は挙兵する大義名分が欲しかっただけ。
「楚王暗殺は項羽の仕業」で決着していて、
敢えて蒸し返す者はこれまで一人もいなかった。
 楚王を暗殺した疑いのある英布を味方に加えたのは、
「項羽軍の主力の一人である英布が連合軍に名を連ねれば、
日和見している連中が項羽を裏切りやすくなる」と計算したからだ。
劉邦側の本音は、楚王などどうでもよかった。
自分達とは縁のない旧楚の国の王でしかなかった。
そう言うわけで、項羽軍が弱体化するのであればと、
劉邦側はどこにでも見境無く手を突っ込んだ。
 劉邦が溜息ともつかんばかりの声を出した。
「儂と項羽の戦いに付け込もうとする者がいるという事か」
 劉邦は繁々と軍師の顔を見た。
頼り無げな面長な顔をしているが、三人いる軍師の中では最も聡明である。
そして手柄を誇る事も、偉ぶる事もない。
信じられぬ事に無欲の男で、
自分を犠牲にしてでも劉邦を中華の王に押し上げようとしていた。




計画停電か無計画停電かは知りませんが、
消えた信号の交差点を走りました。
こちらは右折なので、右折レーンに。
信号が消えているので、目と目でアイコンタクトをするしかありません。
 ちょうどその時、前方からはダンプが直進して来ました。
ドライバーは、・・・佳い女です。
思わずアイコンタクト。
ソバージュで狐目。思わず騙されてみたい・・・。
運良く彼女が譲ってくれました。
でも右折せずに、そのまま見詰めていたかったかも。
 このままだと何時の日か、
交差点で恋が芽生える知れません。たぶん。




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白銀の翼(辻斬り)11

2011-03-20 10:21:39 | Weblog
 家の玄関を入ると百合子の行動は素早かった。
毬子より先に祖母の紀子と通いのお手伝いの重子の居る所に回り、
挨拶をした。
「こんにちは、今晩お世話になります」
 百合子はただ単に綺麗というだけではなかった。
きちんと挨拶が出来、受け答えが明朗で愛想が良かった。
なので紀子と重子に初日から可愛がられた。
「良いお嬢様ね」と重子が言えば、
紀子は、「貴女もああいうお嬢さんになるのよ」。
 そういう事から紀子は、
「いつでも泊まりにいらっしゃい。歓迎するわ」と。
その言葉に従うかのように百合子は度々泊まりに来た。
それで祖母は彼女に着替えを置くことを勧めた。
 百合子は毬子の部屋に入るなり畳の上に寝転んだ。
「やっぱり畳は良いわね」と大の字になった。
 百合子は毬子の前だと無防備になる。
「その姿を携帯のカメラで撮って待ち受けにしようかな」
「毬子の携帯だけなら良いわよ」
 真上から百合子を見下ろし、「みんなに回すの」と笑えば、
百合子は慌てて飛び起き、「止めてよ」と。
「馬鹿やってないで、早く着替えて遊びに行こう」
 毬子の部屋は十二畳の広さで、半分に畳、残り半分は板敷きであった。
板敷きの中央には勉強机と椅子、そして衣装箪笥。
机は祖父好みの重厚な物。その上の写真立てが妙に人目を惹いた。
 やけに大きな家族写真。
幸せそうに椅子に腰掛けている婦人が母親の鈴。
母親の右に立ってカメラを凝視しているのが長男の浩一。
母親に甘えるように左に立っているのが次男の浩二。
三人を後ろから守るように立っているのが父親の時之。
 この時、母親は妊娠八ヶ月。
その膨らんだお腹には毬子がいた。
この写真は毬子にとっては只一枚の家族集合写真。
 毬子は商社マンの父が中国に駐在中、上海の病院で生まれた。
あの運命の日、
一家は生まれて間もない毬子を車に乗せて社宅へ戻ろうとしていた。
その途中を、
信号で停止したところを後方からトラックに追突されてしまった。
激しい衝撃で車は大破、火災が発生。
乗っていた乗用車とトラックが炎に包まれた。
 奇跡的に生き残ったのは毬子一人。
事故直後に鈴が毬子を庇うようにして車から脱出し、
近くにいた別の車に預けたのが功を奏したらしい。
幸いにして毬子は無傷であったが、鈴は制止する人を振り切り、
残った家族を助けようと炎に包まれた車に駆け戻った。
家族の名を叫びながら炎の中に飛び込んだのだそうだ。
そして帰らぬ人になった。
 飛び起きた百合子は写真立てに軽く目礼をし、
着替える服の選定を始めた。
「何を着る」
「着れる物なら何でも」
「うーん、・・・」
 毬子は衣服には無頓着なので、そんなに種類は多くない。
目を惹くのはトレパン、トレシャツの類。
色とりどりのサッカーやバスケットのレプリカジャージだ。
クラブ活動はしないが、
「動き易い」ということで大半はそれで過ごしていた。
それでも百合子が着替えを置くようになってから、
衣装箪笥は少しずつバラエティーに富むようになってはきた。
 百合子がポンポンと投げ渡したのはバスケットのレプリカジャージ。
驚いて毬子は問う。
「どうしたの」
「たまには悪くないかなと思って」
 二人してレブリカジャージを着た。
百合子は毬子より少し低いが、
着こなしでジャージの丈の問題をクリアした。
 二人して向かったのは巣鴨の地蔵通り。
「お婆ちゃんの原宿」と呼ばれるだけの事はあり、実際に高齢者が多い。
地元の毬子にはありふれた光景だが、
余所者の百合子にとっては、いつ来ても新鮮に映るらしい。
店頭に陳列された物を念入りに見て回る。
「これが昭和の物なのね」
「歩いている人達も、たいていが昭和の人達よ」

 項羽は明るい日差しの中にいた。
前夜と同じ岩の上だ。
 糧食部隊を狙った敵の夜討ちに混乱した味方だったが、
今は落ち着いていた。
士気は高く、堅固な防御陣を敷き、敵の出方を待っていた。
 項羽率いる夜討ちで追い払われた反項羽連合軍が戻って来始めていた。
少しずつだが、包囲陣の再構築をしようと図っている。
 木の食器に食べ物を盛った虞姫が姿を現わした。
「食べなさい」
「そうだな」
 受け取ると、敵の動きを見定めながら口に運んだ。
劉邦は前回同様の布陣にするつもりらしい。
挑発するかのように前回の本陣跡に、再び劉邦の旗が掲げられた。
 虞姫が女兵士の運んできた酒を受け取った。
「酒もあるけど」
「貰おう」
 酒を手渡しながら問う。
「これからどうするの」
「それは敵の出方次第だ」
「糧食は」
「長引けば不足するが、案じる事はあるまい。早めにけりをつける」
 敵陣に目を遣った虞姫の顔が曇る。
「増えてはいない」
「んっ」
 ようく目を凝らせば前日までいなかった軍勢の旗が何本か数えられた。
着陣を遅らせ、日和見していた軍勢だ。
項羽軍の糧食を全て焼き払ったとでも言って、説いたのであろう。
着陣したからには、今さら項羽軍には加われない。
その効果は大きい。
積極的でないにしろ、着陣の事実が連合軍の士気を高揚させるのだ。




茨城県のホウレンソウ、福島県の牛乳、
一都五県の水道水から放射線物質が検出されたそうです。
幸いにして基準値より低い値ということなので安心しましたが、
怖いのは風評被害です。大事にいたりませんように。
 水道水で昔の事を思い出しました。
幼稚園の頃です。
通っていた幼稚園は山の裏側にありました。
複雑な低山の連なりで園児には踏破出来ません。
なので麓道を迂回して通園するのですが、
園児の足では軽く一時間以上はかかります。
途中に中学校や小学校があるので、通園時の危険はありません。
しかし危険は無くとも誘惑がありました。
茶畑や蜜柑畑は隠れん坊に、川は水遊びに最適。
そんなこんなで通園には三時間近くかかりました。
それでも当時は大らかな時代で、誰も何の心配もしなかったようです。
捜索隊が出る事は一度もありませんでした。
ただ、罰として園庭に立たされた事は覚えています。
 その日は、いつものように途中で行き合った園児達と川で水遊びをしました。
暑い日だったので当然ながら喉が渇きました。
川には自販機なんてありません。
そこで目についたのは川の水。躊躇う事なく飲みました。
水で腹が満たされて、それに気付きました。
いつ現れたのか、すぐ上流で牛を洗っていたのです。
あの時の川の水は、今に喩えれば放射線物質が含まれた水だったのでしょう。
幸いにして汚れが低い値だったので発病する事はありませんでした。

 原発が鎮まりますように。
 被災地の方々に暖かい手が行き届きますように。

 それから被災地ではない方々。
行事の自粛はいけません。
遊びを控える事もやめましょう。
東北を救うのは関東以西です。
豊かな経済力の裏打ちがなければなりません。
仕事で遊びで、もっともっとお金を使ってください。
それが回り回って被災地を救う浄財となるのです。
まずは花見です。
節電なので昼間盛大にやりましょう。
 ちなみに私はコンビニで買い物をした際、
釣り銭は全てレジ脇の寄付金箱に入れています。




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白銀の翼(辻斬り)10

2011-03-18 22:10:27 | Weblog
 毬子は田村の視線を真正面で受け止めた。
厳つい顔だが、人懐っこい目をしている。
毬子の登場に戸惑いながらも、喜んでいる気配が垣間見えた。
それは隠せないようで、田村の顔が次第に綻んでゆく。
 ようやく事態の重さに気付いた川口と尾藤の二人。
川口は授業中である事に今さらながら気付いたのだろう。
顔が硬直を始めた。
教師の尾藤は自分の不甲斐なさを噛み締めているのか、
顔を不自然に歪めた。
 『俺』が言う。
「覚悟はしたのか」
 最悪の場合、喧嘩になる事は承知の上。
「分かってるわよ」
「それなら良し。とにかく油断だけはするな」
 『俺』が毬子の身を案じている気持が伝わってきた。
「当然でしょう。任せて」
 中学一年の時の変態との遭遇が毬子の意識を変えた。
以来、木刀を握る時は覚悟と決断を意識してきた。
行動するまでは慎重に。熟慮の上で決断したら迷わない。
 亡き祖父は、「絶体絶命の時は、自分だけ助かろう、助かろうと思うな。
相手を倒そう、倒そうとも思うな。
ヤケッパチの捨て身になってもいけない。
ただ自分の構えた剣にのみ心を込めよ。
これまでの自分の修行を信じ、打ち込みに専心するんだ」と言っていた。
 だが目の前の相手は武器を持った敵ではなく、
扱いにくいというだけの同級生。
木刀を持っていたとしても、ここで打ち掛かれるわけがない。
 毬子は田村の人懐っこい目を信じ、いつもの物腰で接した。
「騒がないでくれる。授業の邪魔になるのよ」
 田村は自分の耳を疑う仕草。
「へえ、授業。いつも居眠りしている奴が授業とは、それは、それは」
満面に笑みを浮かべ、いつも毬子が居眠りしている事をからかった。
 毬子はイラッとくるが、顔には出さない。
「知らないの。睡眠学習よ」
 田村はわざとらしく天井を見上げた。
 毬子は相手にしない。
ニコリと笑って片手を差し出した。
「渡しなさいよ」
 単刀直入な物言いに田村は、「怖い、怖い」と戯けながら、
内ポケットからUSBメモリを取り出し、「これかい」と毬子に手渡した。
 その素直さに毬子は戸惑った。
予想外の展開に先が読めない。
ただ、「ありがとう」と応えるので精一杯。
ゲーム名が印刷されているが、それを読む気にもなれない。
そのまま川口に放り投げた。
 行き成りだったので川口は受け取れなかった。
床にコーンと小さな音を立てて落ちた。
それを川口は慌てふためきながら足下から拾い上げた。
 毬子は川口ではなく田村を見ていた。
どういう態度に出るか分からないので警戒をした。
 知ってか知らずか、田村は毬子と川口を軽く一瞥しただけで、
何事も無かったかのように自席に戻って行った。
そして我関せずとばかりに教科書を開いた。
 『俺』が、「退き際が上手い」と感心。
 毬子は、ただ呆れただけ。
「何の為に騒いだのよ」と『俺』に漏らし、こちらも自席に戻った。
再び居眠りしようとすると、田村の声が飛んで来た。
「あれ、やっぱり眠るのかい」
 決まりが悪いので顔を上げた。
田村を睨もうとしたが、すでにソッポを向いていた。
 『俺』が、「あちらが一枚上手だ」と再び感心。
 毬子はそんな『俺』にもムッときた。
「あんた、誰の味方なの」 
 すると『俺』が、「怖い、怖い」と田村の口調を真似るではないか。
 取り残された川口と尾藤も、
決まり悪そうにそれぞれの場所に立ち戻った。
 野上百合子が安堵の表情を向けてきた。
「よかった」
 その放課後。
下校する毬子に百合子が肩を並べた。
「今晩は泊まるね」
「クラブは」
 百合子は絵画部の一員。
彼女の作品の評価は高い。
「たまには息抜きしないとね」
 彼女とは二年の時に知り合った。
席が隣り合わせだったのが親しくなった切っ掛け。
最初は、「なんて綺麗な女の子なんだろう」と思った。
それが知り合うにつれ、彼女が綺麗なだけでない事に気付いた。
優しくて気が利くのだ。
それに趣味は違うが馬が合う。
 今では毬子の家に、よく泊まりに来る間柄。
しかし毬子は祖母一人を家に残せないので、
百合子の家には泊まりには行かない。
一方的なお泊まりだが、彼女は毬子の家の事情を知っているので、
「毬子の家は学校に近いから便利よね」と気にしない。
 学校から少し距離を置いたところで百合子が聞いてきた。
「怖くなかったの」
 田村との一件だ。
どうやら彼女の今日の関心事はそれらしい。
「怖くないと言えば嘘になるわね」
「本当にアンタの度胸には頭が下がるわ。次からは止めてよ」
「わかった。心配してくれて有難う」
「でも、田村には意外だったわね。
川口に返さなかったものを、マリに簡単に渡すなんて。
どうしたのかしら。マリに気でもあるのかな」
「それは違うと思う」
 面白がる百合子。
「そうかしら」
「そうよ。穏便に収める切っ掛けを待っていたのだと思うわ。
そこに私が来たものだから、これ幸いと渡したのよ」
  百合子は首を傾げた。
「田村が穏便にね」
「たぶん、・・・、
本気で川口と喧嘩しようとは思っていなかったんじゃないかしら」
「そうかな」
「そうよ。みんなが言うほど悪い奴じゃないわ」




枝野官房長官の記者会見には安心感が漂っています。
彼が原発に詳しいかどうかは定かではありませんが、
記者との応答にもそつがく、「信用してもいいかな」と思わせます。
 比べて菅首相は残念です。
国民を安心させようという気遣いがみられません。
たまにテレビに出ますが、「一方的に喋るだけ」という印象です。
 さらに残念なのは東電の社長。
説明責任があると思うのですが、テレビで見たことがありません。
どうしたのでしょう。
メッセージを発しようという気がないのでしょうか。
原発に残った社員、関係会社の社員、警察、自衛隊、
みんな頑張っているのに・・・。
批判に耐えるのも社長の職にある者の責務だと・・・。




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白銀の翼(辻斬り)9

2011-03-15 21:34:39 | Weblog
 深夜、満月の月明かりも差し込まぬ新宿は花園神社の裏通り。
経費節減か、灯の点かぬ街灯もあり、薄暗い。
それでも、時間帯にも関わらず人通りは絶えない。
が、多いというわけではない。
常に四、五人程が歩いているというだけ。
たいていが千鳥足。
酒臭い息を吐きながら表通りに向かう者が多い。
 これから飲みに向かうのか、
反対方向から歩いて来る者もいるにはいるが、それでもその数は少ない。
その一人に一際大柄な男がいた。
急ぐでもないが、確かな足取り。
 と、その前に、
待っていたかのように左の路地から覆面をした長身の男が飛び出して来た。
街灯が男を背後から照らした。
黒いスーツ姿で、腰には刀を差していた。
この時代では有り得ぬ格好。
 行き合わせた酔っぱらい達には目もくれず、大柄な男の顔を見据えた。
そして、相手が驚いて足を止めるより早く、
一挙に間合いを詰めて腰の刀を鞘走らせた。
目にも留まらぬ早業。
一瞬だけ、街灯が白刃を照らした。
 大柄な男は一言も発っする事が許されなかった。
斬り放たれた生首と血飛沫が裏通りに舞い散った。
 長身の男は脇目も振らずに元の路地に戻って行く。
 後に残ったのは、行き合わせた酔っぱらい達の悲鳴だけ。
誰かが叫んだ。
「辻斬りだあ」

 榊毬子の席は窓際にあった。
三階で陽当たりは良好。
あまりの心地良さに授業中にも関わらず居眠りしていた。
 学期ごとに席替えをするが、毬子は長身を理由に常に最後尾を主張。
「私、後ろでないとよく眠れないの」と身勝手な理由も言い募り、
合わせ技で強引に窓際の席をもぎ取っていた。
 突然の怒鳴り声。
何を怒鳴っているのか分からないが、思わず目を覚ました。
 右隣の吉田一郎が毬子に笑いかけた。
「おはよう」
「おー、おはよう。今のは何、何かあったの」
 吉田はさらに右後方を指差した。
「あれだよ」
 川口義男と田村美津夫が険悪な表情で睨み合っていた。
そして、そこに駆け寄った教師の尾藤正が、
両者の間に割り込もうとしている。
 いつもは温和しい川口が、顔面を朱に染めていた。
対する田村は睨み合いながらも、余裕がみえた。
 毬子の中の『俺』が言う。
「川口のゲームソフトを田村が強引に借りた事が原因だな」
「見てたの」
「お前が居眠りしていたのに、どうやって見ると言うんだ」
「そうか、そうよね、盗み聞いていたのね」
「人聞きの悪い。目は閉じていても耳があるから、自然聞えてくるんだ。
授業もお前よりは聞いてる」
「それにしては私の成績悪いけど」
「当たり前だろう。聞いているのは俺で、お前じゃない。
俺が幾ら聞いても、お前の脳味噌には何も残らない。
自分の脳味噌に刻みつけるには、自分で学ぶしかないだろう」
「役に立たないわね。
それより、どうして授業中に喧嘩になるの」
「田村が休憩時間に強引に借りたんだが、それが我慢出来なかったらしい。
授業中になって川口が突然キレた」
「遅いキレね。まあ、彼奴らしいけど」
 みんなは突然の出来事に唖然としているだけ。
一人、教師の尾藤だけが、
必死になって両者の間に割って入ろうとしているが、
あいにく小柄な彼では非力すぎた。
 川口が田村に詰め寄り、胸倉を掴んだ。
唾を飛ばしながら、「返せよ」と。
 田村が唾を拭って顔を急接近させた。
「臭くないか、この唾」と、せせら笑う。
 大柄な二人だが肉の質が違っていた。
柔道で鍛えている田村に比べ、川口はただ単に太っているだけ。
 いつもは田村に弱腰の川口であったが、
今回のゲームソフトだけは譲れないらしい。
みんなの噂では二人ともロリコンゲームの愛好者とか。
たぶん、それが争いのもとなのだろう。
 毬子は『俺』に言う。
「そんなに大事なソフトなら学校に持って来なければいいのにね」
「自慢したかったのだろう」
「ゲームの何が面白いの。理解できない」
「お前は読書三昧、奴等はゲーム三昧。似ているじゃないか」
「何が・・・」
 オロオロしている尾藤が哀れに見えた。
彼に教師としての威厳がないのは、小柄な体躯だけが理由ではなかった。
彼の置かれた立場がそうさせていたのだ。
正規の教師ではなく、不安定な非常勤教師であるという事が、
生徒達に気の毒がられていた。
教員室に彼の席はなく、他の非常勤教師達と共用のテーブルを使っていた。
同情される立場では、威厳などが培われるわけがない。
 全ては経費節減の為。
彼は受け持った教科の時間だけ学校に来る。
そして授業が終われば、稼ぐ為に別の学校へ行く。
であるので生徒達と慣れ親しむ時間は全く確保されていない。
 毬子は立ち上がった。
今まで居眠りしていたとは思えぬキリッとした顔。
背筋を伸ばすと豊かな胸が強調される。
 察した吉田が小声で止めた。
「止めろよ。田村はヤバイよ」
 前の席の野上百合子も聞えたらしい。
「マリ」と振り向いた。
綺麗な顔を曇らせて毬子を見上げる。
 近くの生徒達もその様子に気付いたらしい。
次々と振り返った。
 『俺』も、「お節介じゃないのか」と止めた。
 田村は柔道部ではそれなりに強いらしいが、
性格が悪いという事で主将はおろか副主将にも推されず、
部活でもクラスでも、みんなに敬遠されていた。
 田村とは一年の時にも同じクラスだったが悪い印象はない。
乱暴な言葉使いと厳つい顔で損をしているのだろう。
親しく会話した事はないが、どちらかというと子供っぽく見えた。
 歩み寄る毬子に田村が気付いた。
不思議そうに視線を転じた。
「これは、これは。何か用か」




コンビニに私の朝食のパンと飲み物がありません。
昼の弁当もありません。
夜には牛丼屋等に寄るのですが、メニューが限られています。
スーパーは短時間営業。
スタンドは売り切れ次第、閉店。
なかには終日休業の店も。
 ここは被災地ではありません。
東京と近郊の姿です。
 事情が分かるので、敢えて買い占めとは言いません。
主婦の方々が家族の為に戦っている事くらい知っています。
でも、私の「チンするライス」くらいは残してください。



 疑問。
原発建屋の火災消火に自衛隊と米軍があたったとか・・・。
それって、何か変。
原発敷地内に東電の消防隊が有る筈。
原発に詳しいのは東電であって、自衛隊とか米軍は余所者。
東電で解決できないのでしょうか。
 原発の限界がはっきりしたからには、新世代の石炭火力発電の登場でしょう。
石炭をガス化することで燃焼効率を高める「クリーン・コール・テクノロジー」。
実用化が急がれます。



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白銀の翼(満月の夜)8

2011-03-13 08:23:46 | Weblog
 項羽の手配りは早かった。
占領した劉邦軍の本陣跡に、両翼を攻めていた部隊を呼び寄せた。
両部隊共にそれ程の損害は出ていない。
退却の為に部隊再編成を行なった。
自軍までは短い距離だが、
敵夜討ち部隊の伏兵を考慮し、数組の偵察隊を出した。
 そこに側近の宋文が部下を引き連れて戻って来た。
劉邦が逃げると想定し、待ち伏せの為に迂回させていたのだ。
開口一番、「劉邦に遭遇しましたが、逃げられました」と。
 期待していたわけではないが、少し怒りを感じた。
「どうにもならなかったのか」
 宋文は神妙な顔をした。
「申し訳ありません。
逃げ足が、あまりにも速かったものですから、
手傷一つ負わせる事が出来ませんでした」
「そうか。お前でも、あの逃げ足には追いつけぬか」
「はい。代わりと申しましては、・・・拾いモノがあります」
「拾いモノ・・・」
 報告が終わるのを待ち兼ねたかのように、
配下の列から小柄な老人が姿を現わした。
劉太公ではないか。
人懐っこい顔で項羽に頭を下げた。
「すまんな、また世話になる」
 劉邦の父親だ。
妻子同様に彼もまた、劉邦の脱出時にはよく見捨てられる。
これで何回目だろうか。
「劉の親父さん、領地の治安は回復したと聞いている。
息子の妻子達のように留守居しておればよかったものを」
「そうなんだよな」と答える劉太公だったが、
捕らえられた事を後悔はしていないらしい。
それどころか、楽しんでいる気配があった。
 劉太公は目を虞姫に転じた。
「よろしく頼むよ」と想い人でも見るような眼差し。
 虞姫は苦笑い。
「しょうがないわね」
 宋文が味方陣地の火災に目を丸くした。
「あれは」
「敵の夜討ちだ」と項羽。
「ええ・・・、まさか、しかし。・・・あの辺りには糧食が」
「そうだ」と項羽は答えながら、劉太公の表情の変化に気付いた。
口を半開き、驚いた顔をしていた。
自軍の夜討ちを知らなかったらしい。
 その味方陣地から数十本の松明が、こちらに近付いて来る。
進む早さから騎馬のみと知れた。
松明で道々を照らしながら、やって来た。
 自陣の将が彼等を項羽の前に案内してきた。
彼等は項羽の姿を見るや、ただちに下馬した。
先頭の将は、季布将軍の弟の季心。
顔だけでなく、性格まで兄に似ていた。
誠実にして愚直。
たまに扱いに困る時もあるが、利に転ぶ奴よりは何十倍も好ましい。
 季心は項羽の前まで来ると、すぐに片膝をついた。
「申し訳ありません。糧食部隊が襲われてしまいました」
「季布が後手に回るとは珍しい。如何なる訳だ」
「内応した者達がおりました」と季心の口から三人の将の名が出た。
 内応は予想していたが、いずれもが項羽の信頼厚い者達ばかり。
彼等までが利に転ぶとは・・・。
「それで糧食は」
「何とか半分程は守りました」
「ならば上出来。それで敵勢は」
「申し訳ありません。逃げられました」
 項羽は思案顔。
「わかった。我等は準備次第、ただちに本陣に戻る。
それより、お前は急ぎ戻れ。季布に自害されては困る」
 あり得る事だ。
責任感の強い季布であれば、
夜討ちで乱された陣容を整え次第、勝手に自害するだろう。
 季心も思い当たったらしい。
キッと表情を引き締め、項羽に一礼すると、ただちに馬に飛び乗った。
 項羽の言葉が追う。
「季布に告げよ。今は死ぬ時ではない、とな」。
 部下を率いて引き返す季心を見送りながら、項羽は劉太公に問う。
「親父さんは味方の夜討ちを知らなかったのか」
「そういう大事は儂には内緒。儂を外して決めるからな。
親子なのに情け無い話しだ」
 嘘ではないだろう。
劉親子の仲が、それほど親密でないという事は漏れ聞いていた。
どちらかというと、息子劉邦の方が敬遠しているらしい。
傍目があるので、無理に仲が良さそうに振る舞っているとか、いないとか。
劉太公はそれを承知の上で、
「儂でも何かの役に立つ筈」と軍に帯同しているそうだ。
 劉邦親子の仲よりも、もっと気になる事があった。
本陣で見た劉邦の表情。項羽の姿を見て心底から驚いていた。
どうしてだろう。
内応した者達から事前に、項羽軍の夜討ちを聞いていなかったのだろうか。
心証を良くする為、土産話として項羽軍の夜討ちを告げるのは常道。
さらに項羽自身が夜討ちの先頭に立つと知れば、劉邦の喜びもひとしお。
本陣奥深くへ誘い込み、多勢で討つ事も可能だった筈。
しかし、何の手立てもしていなかった。
ただ驚いていただけ。
 少なくとも項羽軍の夜討ちの事は内応した者達が喋った筈だ。
それが劉邦にまで伝わらなかったというのか。
となると、「誰かが途中で握り潰した」としか考えられない。
そして、その者は、項羽軍の夜討ちで劉邦が討たれる事を期待した。
何故・・・。
 項羽軍が糧食を失えば、たとえ戦で鬼神の働きをする項羽といえど、
手の打ちようがなく死んだも同然。
大軍で包囲して飢渇するのを待つだけでよい。
となれば、次の天下の主は劉邦に決まるわけだが、
誰かが、それを望んでいないらしい。
そこで一挙に項羽と劉邦を排除しようと図ったのだろう。
そうとしか考えられない。
 となると、その者は劉邦が項羽軍の手から逃げた場合に備えて、
信用できる者達を選んで項羽軍を装わせ、
逃げる劉邦を途中で襲わせているかも知れない。




 地震の時に私は上野にいました。
動物園の方ではなく、鶯谷の町中。
ビル前の自販機で飲料を買おうとした時に、それが始まりました。
 ビルや電柱が倒壊せんばかりに揺れ動き、地面が波打つのです。
ビルやホテル、コンビニ等から人々が走り出て来ました。
表通りを走っていた車も、危険を感じて全て停車しました。
 みんな上をキョロキョロと見上げていました。
ビルや電柱が倒壊せぬかと不安で一杯の顔、顔。
あまりの出来事に、誰もが傍の上野の山に逃げる事を忘れていました。
私も、その一人。
ただ、ただ、上を見上げていました。
「ビルは大丈夫か」
「ガラスが割れて降ってはこないか」とビルの下で考えていました。
その揺れの激しさに思わず「平成の関東大震災」かと。
 揺れが収まると、急いで最寄りの電気店に走りました。
同じ考えの人達が多く、店前のテレビの前には人、人の山。
 それで宮城を中心とした東日本大震災と知りました。
その惨状・・・、とても言葉では・・・。
 亡くなった方々の冥福を祈ります。
そてし、辛くも生存された方々に、
救助の手が一刻も早く届く事を願います。



 疑問。
今回ほど人手が欲しい時はないのに、
どうして自衛隊は全軍出動しないのでしょう。
大震災に乗じて侵略する国はありません。
戦国時代ではないのです。
国際社会の目もあるので侵略は皆無でしょう。
 万が一あったとしても、内に大震災を抱えていては、
外敵に太刀打ちできません。
負けは必死です。
でも、侵略は有り得ません。
備えるだけ無駄というものです。
 国土保持も大事ですが、来ぬ敵を待つより、
それ以上に国民の生命を優先しても良いのではありませんか。
ここは二者択一。
内の大震災との戦いに専念すべきです。
取り残された方々の救出と、仮設住宅の建設が急務です。
人手は余る程でも良いと思います。




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白銀の翼(満月の夜)7

2011-03-09 20:57:57 | Weblog
 項羽軍の進撃が再開された。
一時的に足止めされていた鬱憤を晴らすかのような快進撃。
劉邦軍の防御陣を蹴散らし、押して行く。
 蒼褪めながらも必死に踏み留まっていた劉邦が身を翻した。
僅かな供回りだけを従えて後方へ逃げて行く。
何時ものことだが切り替えが早い。
それまで大事にしていた部下達を簡単に見捨てたのだ。
 項羽も間近にまで迫っていたが、一太刀も浴びせる事が出来なかった。
敵兵の掃討は部下達に任せ、後ろ姿が闇に溶けて行く劉邦を見送った。
 虞姫が隣に並んだ。
「本当に見事な逃げ足ね」
「追わぬのか」
「奴はいつも伏兵を置くから、無駄足になるのが目に見えるわ」
「そうだな。奴は逃げるのだけは俺の上を行く」
「関心している場合」
「まあ、そうだな」
 それでも項羽軍の中には諦めない者達もいた。
幾つかの組が残された劉邦軍を切り裂き、追撃を開始した。
「止めなくていいの」
「もしかすると、劉邦に追い付く可能性もある。
それに部下達のやる気を削ぐのも、どうかと思うしな」
 ようやく劉邦軍も大将の逃走に気付いた。
そういう事態に慣れているようで、たいした混乱もない。
小さな組単位、隊単位で退却を開始した。
他とは連携がとれていないのを項羽軍は見逃さない。
すぐに付け込み各所で押し潰した。
まるで図体だけ大きな猫を弄ぶ鋭い牙を持つ鼠。
それは左翼でも右翼でも同じ。
月夜の夜討ちで、無勢の項羽軍が多勢の反項羽連合軍を悩ませた。
 勇猛果敢な楚兵だけで編成されている項羽軍。
彼等は敵陣に斬り込むと、千人単位に分かれて敵陣を切り裂いて行く。
 反項羽連合軍は部隊間の連携が断たれただけでなく、
無闇な反撃が同士討ちに繫がる事を恐れた。
となれば、苦渋の選択として退却以外にない。
それぞれの判断で戦場からの離脱を始めた。
 虞姫が安堵したような声を出した。
「これで様子見していた者達も、こちらの味方に戻るわね」
 確かにその通り。
反項羽連合軍に名を連ねながら、この戦場に遅参している軍勢は多い。
彼等は、「項羽の勢い衰えず」と見て、わざと遅参している。
この夜討ちで劉邦軍が敗走したと知れば、状況が一変する筈だろう。
 感慨に耽っていると、後方がざわつき始めた。
振り返ると、部下達が遙か後方の味方陣地の方を見ていた。
なんと、数多くの篝火の中に一つだけ、一際大きく目立つ炎。
燃え盛っている。火災。
数多くの松明が揺れ動き、慌ただしい様子が手に取るように分かった。
 考えられる事はただ一つ。
敵の夜討ちだ。
偶然とはいえ同時に夜討ちを決行したらしい。
 一人の部下が疑問を口にした。
「あの辺りには、我が本陣はないぞ」
 そうなのだ。
あそこには本陣はない。
ないが、しかし、総大将に次ぐ大事な物があった。
全軍の糧食が集められていた。
 項羽軍が反項羽連合軍の混乱を狙うと同時に、
「あわよくば劉邦の首」と一石二鳥を狙ったのに対し、
敵は糧食のみを狙ったようだ。
火災と松明の動きから、それが察せられた。
 この地に陣を構えるに際して項羽は充分に手配りをした。
正面からの劉邦軍の攻撃に備え、地形を利用した方円の布陣で、
要所には手堅く柵を組ませた。
しかも自軍は出撃し易い工夫をしていた。
 後方からの奇襲にも備えていた。
頻繁に見回りさせるだけではなく、
わざと付け入る隙をみせ、伏兵を置いた。
加えて糧食保全の為、偽の糧食貯蓄陣地も設けた。
 項羽留守中の指揮は将軍、季布に任せていた。
同郷で義理堅く、項羽に直言する事も躊躇わない気骨のある男だ。
人物も信頼できるが、用兵も巧みで敵軍を撃退した事数知れず。
 項羽の布陣と季布の目を逃れての夜討ちとは。
それも糧食のみに狙いをつけて。
 信じたくはないが、内部に手引きした者がいるらしい。
利に転ぶ者は、全てが劉邦軍に身を投じたと思っていた。
まだ残っていたとは。
 項羽は怒りで血が沸騰するのが分かった。
今にも、こめかみがぶち切れそう。
 小刻みに震える身体に虞姫が、そっと手を添えてきた。
「大丈夫。私達は生きてる」と他に聞えぬように囁く。
 軍師、范僧はすでに亡い。
項羽に従っていた諸侯が、劉邦側の謀略によって離反した事を知り、
軍議の席で、まるで重荷を背負わされたかのように崩れた。
それまでは老軍師一人で、
劉邦側の三人の軍師相手に対等に渡り合っていた。
しかし、敵の「離間の計」に老軀は耐えきれなかった。
それを切っ掛けに寝込むようになった。
 項羽は寝込んだ范僧を、「無理せずに休むといい」と見舞った。
 一月後、一度として起き上がることなく范僧は息を引き取った。
 項羽は軍師を必要としなかったが、
稀な、理知的な老人であったので話し相手として傍に置いていた。
周りの無骨な武将達にはないものがあったからだ。
それに虞姫を項羽に引き合わせたのは范僧。
「遠縁の娘で、方術家の生まれですが、武芸も得意とします」と。
だから身内の老人のように大事にした。
 今は虞姫が范僧の代わりをしていた。
かつての老軍師のように気が回る。
虞姫の触れる手が、言葉が、彼の心に安心感を与える。
 蹄の音が轟いた。
軍馬に違いない。
音の軽さから、どうやら空馬らしい。
月夜にも関わらず、十数頭の空馬がこちらに駆けて来た。
先頭には一際大きな馬、騅がいた。
項羽の愛馬だ。
おそらく将軍、季布が騅を信じて陣営から解き放ったのであろう。
 全身が真っ黒い青鹿毛の馬で、如何にも鼻っ柱の強そうな顔をしていた。
その目が項羽を捉えると、嬉しそうに擦寄って来た。
 「この騅と虞姫がいれば何もいらない」と項羽は思いながら飛び乗った。
 虞姫も遅れじと飛び乗った。
「これからどうするの」
「無闇に逃げれば伏兵に遭う。とりあえず本陣に戻ろう」
「糧食が焼かれたのよ」
「季布のことだから、全部は焼かせてないだろう」




まだ寒いのに、近くの桜並木のある河川敷で花見の準備が始まりました。
とりあえず出店のテントだけですが、中途半端に設営されました。
気の早いことで・・・。
 東京に来てからは一度も花見をしていません。
人波が嫌いだからです。
毒気にあてられるのか、人に酔いそうになり、すごく疲れます。
千葉の東京デズニーランドも、一度だけ、結婚していた頃に、
女房のご機嫌取りに出かけただけです。
あの時も疲れました。
帰りの車を運転しながら、半分寝ていました。
 



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白銀の翼(満月の夜)6

2011-03-06 10:08:46 | Weblog
 青褪めたままの劉邦は、
それでも必死になって項羽を睨み付けるではないか。
健気な態度に項羽は苦笑い。
 劉邦との最初の対峙は、
「秦都の表玄関」とも言うべき函谷関であった。
切っ掛けは亡き楚王の、
「関中に一番乗りした者を関中王にする」という一言。
言葉を信じて劉邦は己の軍を率いて迂回路から関中を目指した。
対する項羽は、楚王の言葉よりも常識を重んじ、
「秦を滅ぼすには、秦の力の根源、軍を叩く事である」として、
関中一番乗りよりも秦軍壊滅を優先させた。
多くの反秦連合軍諸将も、「尤もである」として項羽に従った。
 秦朝廷は、「反乱を鎮圧するには、その主力である項羽の楚軍」と、
迂回路の防備を堅めて後背地の安全を確かなものにすると、
大将軍達を次々と項羽の率いる反秦連合軍にぶつけた。
 かくして東進する秦の主力軍と、西進する項羽率いる反秦連合軍が、
途中の山野で幾度も幾度も衝突を繰り返す事となった。
その悉くを時間をかけながらも叩き潰す反秦連合軍。
それでも諦めずに軍を再編成しては送り出す秦軍。
 戦局は勢いのある方に傾いた。
秦軍は反秦連合軍の前に壊滅するか、矛先を避けて逃げるしかなくなった。
 主力軍を失った秦朝廷は西進を続ける項羽を恐れ、
一族の身の安全もあり、迂回路より関中に入り、
秦都、咸陽攻略を始めようとする劉邦の軍に降伏した。
そして、「新しき関中王様に譲ります」と玉璽を差し出した。
 劉邦は勝利に酔うと同時に項羽を恐れ、
項羽軍の関中への入り口である函谷関の防備を固めた。
函谷関は戦国時代より、
「これを破るには百万の軍が必要」と言われる要害。
それでも不安なのか、これに降伏した秦兵も加える念の入れよう。
 偵察隊から知らされた項羽率いる反秦連合軍は怒った。
「味方を閉め出すとは」
「一人で秦を滅ぼした気でいるのか」等々。
諸将は、「劉邦討つべし」と項羽を突き上げた。
軍師として傍に侍る范僧も同意見であった。
「丁度良い機会です。劉邦を取り除きましょう」
 項羽も劉邦の行為には怒っていたので否はなかった。
ただちに全軍に命を下した。
「このまま西進を続ける。劉邦を討て」
 怒りに狂った反秦連合軍が函谷関に襲い掛かった。
一番乗りしたのは英布。力任せに関を打ち破った。
 兵力に加えて勢いのある連合軍に、
戦意を失った秦兵の混ざる劉邦軍で太刀打ち出来るものではない。
咸陽へ、咸陽へとジリジリに退却を続けた。
 両者の仲裁に乗り出したのが、項羽のもう一人の叔父、項伯。
「双方に何かの誤解でもあるのではないか」と。
 項伯は劉邦の軍師、張良とは友人であった。
その関係からの仲裁話と知りながら項羽は受けた。
叔父が項羽の数少ない血族であったから顔を立てたのだ。
 こうして両者が会談して一応は収まったが、あれから紆余曲折があり、
今では、
「劉邦討つべし」と喚いていた諸将の大半は劉邦側に寝返っていた。
叔父の項伯でさえもだ。
 項羽は戦場に立つと、これまでの増悪よりも楽しみが膨れ上がった。
根っからの戦好き。
一直線に突き進もうと、劉邦への厚い隊列に斬り込んだ。
迎撃する敵兵の波を強引に剛力でもって撫で斬りにした。
 劉邦の軍にも腕の立つ者はいた。
そういう者達が数人掛かりで項羽の足を止めた。
必死になって返り討ちにしようと立ち働く。
先頭の項羽が足止めされると、後に続く項羽軍も停滞してしまう。
 いつもだと項羽の背中を守る役目の虞姫が打って出た。
「私が道を開けるわ」
「待て、待て」と項羽が止めるが、虞姫は無視をした。
 両手に短剣を持ち、敵隊列の側面を衝いた。
一方が盾の役目をし、もう一方で斬る。
項羽のような無理攻めはしない。
相手の手首を斬り、蹴りを喰らわせ、余裕があれば首に剣先を突き入れた。
彼女の攻防の様は「流麗」の一言。
 これに彼女配下の女兵士達が従う。
いずれも彼女の生家、虞家の者達。
虞家は方術を生業とする一方、豪農でもあったので、
多くの使用人、私兵を抱えていた。
 虞姫の劉邦への怒りは、劉邦が項羽の敵であるからだけではない。
劉邦が敗走する度に、軍に帯同している妻子を見捨てるからであった。
とにかく彼は、「俺が生き残れば何とかなる」と脇目も振らず逃げるのだ。
 劉邦敗走の度に項羽軍が埃まみれの妻子を保護した。
正室、呂雉と一男一女。
哀れな妻子を見かね、虞姫が世話を買って出た。
お蔭で劉邦の妻子とは親しい間柄。
虞姫と呂雉は互いを字で呼び合うようになった。
 妻子への愛情とは裏返しに、劉邦には嫌悪感だけであった。
その嫌悪感丸出しで虞姫は突き進んだ。
遅れじと女兵士達が彼女の左右を固めた。
一糸乱れぬ魚鱗の陣形。少数で大軍に突入するに適していた。
 虞姫目掛けて矢が飛来した。
正確に顔を捉えていた。
彼女は避けない。剣先で巧みに弾いた。
「こんなもので私が倒せるか」
 虞姫達の突入が足止めされた項羽軍に有利に働いた。
隊列が乱れたのだ。
項羽軍は見逃さない。そこを衝いた。
たちまちのうちに防御陣に穴が開いた。




2chからの読者の方へ。
前作、「金色の涙」の終了を業務連絡しようとしたのですが、
規制がなかなか解けません。
なので、ここで業務連絡する事にしました。
 ありがとう。
切っ掛けを作って頂いた事を感謝、感謝です。
ここまで長く続くとは思っていませんでした。
そして、さらに続ける意欲が湧くとは・・・。
ただ、ただ、ありがとう。




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