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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

なりすまし。(111)

2016-12-31 06:55:30 | Weblog
 掴み合ったまま、二人して頭から大川に落ちた。
頭や肩に激しい衝撃。
人生の強制終了を告げるかのような激痛が走った。
それでも斧の小町は俺を掴んで離さない。
ついには足までも絡ませてきた。
俺を殺そうとしているのではなく、
思いもかけぬ出来事に頭がフリーズしている、と考えた方が正解かも知れない。
 しがみつかれて俺は困惑した。
企てに齟齬が生じてしまった。
水中で斧の小町から逃れるつもりでいたのに、これでは。
・・・。
苦しい。
呼吸が。
・・・。
我慢比べ。
どちらが先に音を上げるか。
・・・。
水中で斧の小町と視線が合った。
彼女の目色は凄惨そのもの。
俺を睨みながら両手両足で締め上げてきた。
・・・。
大川はそれほど深くはない。
俺の後頭部が川底に着いた、と告げた。
・・・。
俺は最期の空気を吐いた。
そして、耐えきれずに川の水を飲み込む。
・・・。
「うだで、うだで、小一郎。
おんどがる、小一郎。
大丈夫てでのの」座敷童子の声が聞こえた。
 俺は、・・・。
俺は下に、斧の小町に絡み付かれたまま川底に沈んでいる俺を見た。
どうやら幽体離脱したらしい。
水中をフラフラ、クラゲのように、ゆっくり浮上して行く。
水面を過ぎてから見上げると、大橋の欄干に姫さんの顔を見つけた。
大きく口を開け、何事か必死で叫んでいるのだが、生憎、俺には聞こえない。
欄干から大勢が雁首揃えて見下ろしているのだが、誰も俺に気付かない。
 突如として姫さんが手で下を指し示し、周囲の者達に何事か命じた。
すると数人が応じて、欄干から飛び降りて来た。
他の者達も走った。
大橋のたもとへ急ぎ、川船に乗り込む。
 俺は姫さんの真ん前を過ぎる際、彼女の唇にそっと指で触れた。
実際、触れる分けではないが、ある感触を得た。
濡れていて、柔らかい。
その瞬間、姫さんの手が唇に行く。
俺が触れた箇所を指で押さえた。
 座敷童子の声が、「まじろ」と聞こえた。
見下ろすと、姿は視えないが、それらしい気配。
陽の光は苦手な筈なのに追いかけて来た。
 俺は座敷童子に答えた。
「心配するな、俺は死なない。
このまま、どこか別の時代に流されるだけだ。
そこで別の人物に憑依し、なりすます。
それでも良ければ付いて来い」
「一人しり二人の方が楽しい、寂しぐね。へでけ」
 座敷童子の姿は視えないが、喜んでいる気配。
この引き籠もりの精霊との付き合いは、つい最近のこと。
日数にすると僅か。
それでも、どうやら、懐かれたらしい。
直ぐに後尾に体当たりの感触。
ドンとぶつかり、その勢いのまま俺の霊体に、強引に乗り込むではないか。
幽体離脱した俺に別のモノが憑依した形になったが、まあ、悪い気はしない。
と、激しい震えが伝わって来た。
座敷童子からだ。
人体に例えると心音、鼓動だろう。
消耗するのを覚悟で陽射しを浴びて追って来た、と改めて認識すると、
妙に愛おしくなった。
 俺と座敷童子は一体となり、高みへ高みへと浮き上がって行く。
下の人間が見分けられなくなった辺りから、上昇する速度が次第に増して行く。
そして、そのまま宇宙へ上がるのでなく、
途中に忽然と出現した小さな緑の光の中に吸い込まれて行く。
内部は広く、色とりどりの光の欠片で溢れていた。
まるで朝陽を浴びた油彩の海。
欠片の形は様々。
どれを取っても色鮮やで、互いを殺すのない輝きを放ち、寄せては返していた。
 座敷童子が「おろー」と息を呑み、
ようようのことで、「おんろ-、ぐっと、どってん、どすべ」と口を衝く。
 俺は幽体離脱には慣れているが、それを説明する言葉は持たない。
このような光に吸い込まれることもあれば、闇に吸い込まれることもある。
幽体離脱は一定のパターンを持たない。
「気にするな。死ぬことはない。なるようにしかならん」言い聞かせるしかなかった。
 やがて睡魔に襲われたかのように意識をなくした。




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なりすまし。(110)

2016-12-25 07:17:42 | Weblog
 俺は質問には質問で応じた。
「貴方は斧の小町の機敏な身体捌きを目の当たりにして、どう感じました」
 比良信安は顎に手を当て、遠くを見る表情をした。
「驚いた。陳腐な表現だが、人間離れして獣そのものだった」
 俺は周りを見回し、みんなに問う。
「皆様は武門の方々ですから、小さな頃より剣術の稽古を積まれましたよね。
そこで敢えて問います。
あの動きを真似できますか」
 誰も頷かない。
「剣術を修めておるが、あれは無理だ」一人が吐き捨てた。
「ところが何の素養もない百姓の娘が、猿のように飛び跳ね、熊の如き怪力をみせ、
皆様方を相手に一騎当千の働き。
まるで関羽か張飛。
・・・。
何時までも続けられると思いますか」
「当然だが直に疲れが出る。
関羽か張飛も討たれた」
「そう、疲れです。
疲れない分けがない。
斧の小町は獣のような身体捌きを続けることによって、
自分で自分の首を絞めている、と思うのです。
全身を酷使しているツケが今にきます。
骨が折れるか、あるいは筋が切れるか。
今の状態は長くは保たないでしょう」
 姫さんが口を開いた。
「それなら嬉しいが、信じて良いのか」
 俺は姫さんと視線を交わして深く頷き、再び比良信安に質問した。
「古文書によるとですが、
赤い満月の夜に現れた怪物の騒動は数日で終結していますよね」
「そうだ。
退治したとは一つも記されていないが、数日で終わっている。
それとともに、最期に姿を見られた近くでは、山の獣の死体が沢山見つかっている。
それからすると、お主の言を信じればだが、
骨が折れ、筋が切れたところを獣達に襲われ喰い殺された、と解釈も出来る」
「まあ、全てが喰い殺されたとは言いません。
でも怪物は数日で姿を消す。
赤い満月の影響は数日で終わる、そう考えています。
・・・。
そして、身体を壊すことなく生き延びた者が血筋を残す。
その血を受け継いだ者全てが、とは言いませんが、
ある程度の、ごく少数の子孫が赤い満月を見ると強い影響を受けて怪物になる。
そう考えると突然出現することも、数日で消えることも辻褄が合う。違うでしょうか」
 比良信安がフムフムとばかりに頷いた。
「否定出来ない」
 姫さんが問う。
「身体を壊すことなく生き延びた者と言うけど、怪物には違いないんでしょう。
どうやって村や町に住みつくの」
「山で暮らす者も大勢いるのです。
隠れ住む場所には事欠きません。
・・・。
もっとも、ここまで喋ったことは何一つ確証がありません。
そうなのではないか、と思ったことを口にしました」
 その時だった。
千住の宿側に強烈な殺気。
まるで一陣の風になったかのよう、こちらに跳んで来た。
途中の大勢を蹴散らして目の前に現れた。
斧の小町。
血走った目で獲物を捉えていた。
俺ではなく姫さんを捉えていた。
 奴は陽射しを苦手とし、日の出とともに姿を消す、とばかり思っていた。
それが裏切られた。
愕然としたが、同時に俺の足は自然に動いていた。
姫さんの前に立ちはだかって斧の小町を突進を受け止めた。
牛の突進を受け止めたかのような衝撃。
角がないのは幸いであった。
奴の剛力を僅かな後退だけで耐えた。
奴は斧を落としたのか、手放したのか、それは知らないが素手であった。
互いに両腕で組み合った。
 血飛沫が舞った。
奴の右肩の皮膚が裂けて骨が突き出た。
白い骨と赤い血。
 ようやく姫さんが悲鳴を上げ、周りの者達が立ち騒ぐ。
一人、二人と刀を抜いた。
一撃で仕留められれば良いが、逆に刀を奪われる事態になれば最悪。
姫さんが危うい。
 奴の荒い鼻息が俺にかかった。
心底からの恐怖が俺を襲う。
それでも俺は退かなかった、というか、退けない。
姫さんが背後にいる。
 奴が手に力をこめた。
俺を引き剥がし、姫さんを捕らえようとした。
俺は、みんなに怒鳴った。
「刀は抜くな。姫さんを傷付けたら拙い。
俺もろとも川に落とせ」奴が泳げないことを願った。
 俺は、ありたっけの力を振り絞って方向を転じた。
奴と踊っているかのような足捌きで、反転を繰り返しながら、欄干へ、欄干へと。
奴の消耗は明らかだった。
なにしろ、この俺と力が互角なのだ。
 俺の背が欄干にドンとぶつかった。
「未だ、足を掴んで川に落とせ」
 分かったのか、分かっていないのか、奴の手が俺の喉元に伸ばされた。
引き千切るかのように掴む。
 俺の両足が宙に浮いた。
奴も足が宙に浮くと、激しく足掻いて抵抗した。
喚きながら、ジタバタ。
それでも俺の喉元からは手を離さない。
俺も奴から手を離さない。 
 誰かが俺の耳元に怒鳴った。
「何としても泳いで生き残れ」
 答える間もなく欄干から落とされた。
頭から真っ逆さまに落ちて行くが、互いに掴んでいる手だけは離さない。




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なりすまし。(109)

2016-12-18 07:32:35 | Weblog
 現金なもの。
姫さんの目がきらきら輝いた。
二人だけであれば焦らしてやるのだが、他にも関係者が大勢いた。
彼等を無視する分けにも行かない。
みんなにも分かり易いように、姫さんに問う。
「姫様、よおく思い返して下さい。
双子の怪物の為に、名主屋敷の庭先に酒肴を用意しましたよね。
その狙い通りに双子が現れ、飲み食いしてくれました。
それをよおく思い浮かべて。
双子でも違いがあったでしょう」
 あの場に居合わせたのは俺と姫さん、お猫様、女武者二人、お庭番二人。
 姫さんは、「違い、・・・よね」頭を捻り、
思案の末、「もしかして、・・・あれ、・・・かな」上目遣い。
「姫様、はっきり言って下さい」
「お酒しか思い浮かばないわ。
金太郎はお酒を飲んだけど、斧の小町はお酒には手をつけなかった」
「それです。酒。
名主屋敷に毒がなかったので、代わりに、ありったけの薬を掻き集め、
掻き混ぜて酒に入れました。
何種類もの薬です。
それを混ぜると、それはもう薬と言うより毒。
それが金太郎には効いたのでしょう」
「そうか。それがジワジワ効いてきた。
皮膚が鎧の役目を果たしていても、口から入れた物は別と言うことなのね」
「そうです。
気力があるうちは皮膚が鎧の役目を果たしていても、
気力が萎えると、ただの皮膚に戻る。
金太郎は酒の毒が回って、気力が衰え、鎧を失った。
そう理解すると合点が行くでしょう。
だから、
酒を飲んでいない斧の小町には致命傷を与える事が出来なかったが、
酒を飲んだ金太郎には致命傷を与えられた」
 俺は話しながら、懸念を覚えた。
そこで話し終えると、福田直太郎に視線を転じた。
「薬の一件も書類にして幕閣に提出するのですよね」
「当然、そうなる。
特に今回の一件は分からない事ばかりなので、全て網羅して提出する」
「そこで相談なんですが、その際、薬に関わったのは俺一人ということに。
俺一人の手柄にして貰えませんか」
 福田の表情が微妙に変化した。
疑問と軽蔑の色が相半ば。
軽い溜め息で、「いいでしょう」応じた。
 懸念を払拭するには念を押す必要があった。
変な噂が流れては困る。
もっとも、俺が困るのではない。
「薬を混ぜ合わせただけですが、現場を知らぬ者は毒を飼ったと陰口を叩くでしょう。
あの家は毒を飼う、とか何とか。
そうなれば武家としての奉公もままなりません。
俺以外の名は絶対に出さないで下さい」
 途端に福田の表情が和らいだ。
流石は武より文に明るいと評判の男。
言外の意味を理解してくれたらしい。
フムフムとばかりに頷いて、「あい分かった」と了承。
 俺が懸念したのは姫さんの評判だ。
薬を掻き混ぜたのは俺だが、その薬を掻き集めたのは姫さん。
それが知れ渡ると、とかく噂され、
仕舞いには、「あの姫様は毒を飼う」と尾鰭がつきかねない。
 俺は姫さんを振り向きたかった。
言葉を交わさないまでも、彼女の表情を読みたかった。
理解してくれたかどうか知りたかった。
が、敢えて無視した。
ここで視線が合えば、どうなるものか、色々な意味で恐かった。
 幸いにも助け船が来た。
比良信安が不快な表情丸出しで俺に問う。
「お主は斧の小町の今後の動向をどう見る」
 事情を知らぬ彼にとって手柄話は不快らしい。
それでも斧の小町の動向は別のこと。
俺に見解を求めた。
俺は斧の小町の専門家ではないのだが、・・・。
その話しに乗る事にした。




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なりすまし。(108)

2016-12-11 08:04:22 | Weblog
 腹側背側の傷口を検めた。
その結果、一つの仮説に辿り着いた。
俺は監察医ではないが、あながち間違ってはいないだろう。
 ゆっくり首を上げて姫さんを探した。
直ぐに見つかった。
彼女は俺を真っ直ぐ見詰めていた。
その目色は問う色というより、気遣う色か。
彼女に頼んだ。
「怪物の血から病がうつったら困る。
二人ほど天王様の境内に走らせてくれないか。
血を洗い流す水桶を一つ、手を清めるのに酒桶を一つ、
都合二つを持って来て欲しい。
境内で怪我人の手当てをしているから余るほど有る筈だ」
 姫さんは答え代わりに視線を比良信安に転じた。
幕府に仕える陰陽師であり姫さんの師匠でもある彼は即座に意を酌み取り、
供回りの二人を走らせた。
 周りの者達が少しずつだが、半歩、一歩と後退りし、俺と距離を置いた。
血から病が感染すると聞いて、怖じ気づいたらしい。
微動だにしないのは、ほんの少数。
そんな一人、姫さんが俺に問う。
「何か分かったの」
「俺は医者ではないから完全に分かっているわけではない。
それを承知で聞いてくれ」
「いいわ、それで」
「此奴の痣のような物を見てくれ」
 打ち身の痕跡のような痣が全身いたる所に、大小様々、残っていた。
「痣だらけね、それが」
「最初の夜、此奴に犬や狐が黒山のように集り、喰い殺そうとしていた。
その時の傷口だと思う」
「その話しは前に聞いていたわね。
だとしたら、おかしいわね。
獣に噛まれた傷口がこんなに早く癒えるかしら」
「おそらくだが、此奴は治癒する力を持っている。
その証しが痣になって現れたと理解して欲しい」
「分かった」
「次に新しい傷口に移る。
致命傷になった傷口の前に、それまでの傷口の説明をする。
・・・。
刀傷も矢傷も、槍傷も弾傷も一様に浅い。
指先で深さを測ったが、少ししかない」血に汚れた指先で第一関節を指し示し、
「まるで皮膚が鎧の役目を果たしているとしか思えない。
取り敢えず、これもそう理解して欲しい」そう続けた。
 姫さんが片膝ついて怪物の遺骸に手を伸ばそうとした。
傷口を検めるとしか映らない。
 あまりのことに俺は驚いた。
おもわず、「馬鹿、止めろ」怒鳴りつけた。
 幸い傍に火盗改の頭・福田直太郎がいて、その腕を掴んだ。
「いけません」
 姫さん、意外そうな表情で問う。
「どうして止めるの」
 福田直太郎が真摯な表情で言う。
「姫様、病がうつったら、どうするのですか」
「うつる分けないでしょう」直太郎に答えると視線を俺に転じ、
「小一郎は無いと分かっているから傷口を検めているのでしょう」
 姫さんには困ったものだ。
自分が置かれている立場を分かっていない。
俺は正直に答えた。
「うつるかどうかは分からない。
怪物になって暴れる病は正体不明だからな。
それでも念を入れて万全を期すのが、分別のある大人というもの。
聞き入れてくれないか」
 姫さんが頷かないので俺は続けた。
「手に傷があったら、かすり傷でもあったら、うつる危険性が増す。
此奴が別の何らかの病気を持っていた場合も、その傷口から、うつる可能性がある。
心配が分かるだろう。
・・・。
俺の場合は、かすり傷一つないので、うつる可能性は低いと踏んでいる。
それに、この検めは誰かがやらなければならない。
血が固まる前にやるのが最善だから俺がやっている」
 姫さんの表情が動いた。
「小一郎は扶持を貰っている分けではないでしょう。
なのにどうして、そこまでやるの」
 俺は両肩を竦めた。
「大事なことなのに忘れたの。残念だなあ。
扶持は貰ってないけど、俺は姫様の家来ですよ。
それで充分でしょう」
 姫さんが目を細めた。
「巫山戯たことを」怒りが湧いていた。
 大橋に足音が響いた。
二人が息せき切って戻って来た。
水桶と酒桶が到着した。
 福田直太郎が柄杓で水を汲み、俺の手の血を流してくれた。
その際、小声で言う。
「色々と相済まん」
 彼が言わんとすることは分かる。
そこは宮仕えの辛さ。
どうしても姫さんには遠慮してしまう。
「俺は平気ですよ。
姫さんには慣れました。
あれで優しいところもあるのです」
 水で洗い流し、酒で洗い清めた。
 待ちきれぬように姫さんが問うてきた。
「早くなさい。
まだ肝心のことを話してないでしょう」
「分かってます。
金太郎の致命傷のことでしょう。
それは斧の小町と金太郎の違いにあります。
なぜ金太郎は討てたのに、斧の小町は討てなかったのか」




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なりすまし。(107)

2016-12-04 08:51:45 | Weblog
 遺体に取り縋っていた者達が姫さんに気付いた。
慌てて脇に寄り、平伏しようとした。
ところが姫さんは、そんな彼等に優しい言葉をかけた。
「そのまま、そのまま、そのままで良いのです。
亡くなった者達に挨拶させて頂きます」
 身分の隔てなく一人ひとりの顔を拝んで回る。
亡くなった者に手を合わせ、悼む仕草には威があった。
いや、こういう場であるから余計に、そう感じるのかも知れない。
 かなりの時間が経った。
朝日も昇っていた。
辺りは新たに現れた者達で溢れようとしていた。
旗本御家人だけではない。
大名達までが家来を引き連れ、出動して来た。
 騒々しくなったが姫さんの耳には入らぬらしい。
最後の一人まで一切、手を抜かない。
姫さんの疲れを見て取った女武者の一人が、途中で切り上げさせようとしたのだが、
「これも務めです」として聞き入れなかった。
真面目と言えば真面目。
俺からすれば損な性格とも言えた。
 全て終えた姫さんが辺りの様子を見回して嘆息した。
「これだけの人数、今さら遅いわね」
 武家だけではない。
野次馬も数を増していた。
 俺は姫さんに歩み寄り、意見した。
「火盗改の頭も忙しくて、こちらまで手が回らないのだろう。
ここは姫さんの名で、規制したらどうだろう」
「規制・・・」
「街道に見張りを置いて、
立ち入りを許すのは怪我人の手当てが出来る者と、遺体を運べる者だけに限り、
他の者は身分に関係なく立ち帰らせる」
 姫さんは一も二もない。
「それなら混乱が回避できるわね」
「姫さんの名代として守り役の方々が見張りに立てば、誰も異を唱えられないでしょう」
 女武者七人が街道に立てば、それと傍目にも分かる。
あえて異を唱えても、女相手に力尽くで押し通ろうとはせぬだろう。
 七人の女武者は反発した。
私達に課せられた役目は姫様を守ることと主張した。
それを姫さんが説得した。
「今は人手が足りないのです」
 姫さんの傍に俺一人を残して、残り全員が移動を開始した。
彼女達が引き連れて来た足軽小者に加え、城方の足軽槍隊もだ。
これだけの人数が七人の背後に控えていれば、それ相応の圧力になる筈だ。
 姫さんが俺を振り返った。
余裕のある口振りで、「さあ、家来、露払いなさい」と言い付けたのだが、
疲れだけは隠せない。
目の下に隈。
しかし、それを指摘すれば怒りを買い、余計に疲れさすことになる。
おれは返事代わりに肩を竦めた。
 姫さんは怒る気力がないようだ。
「怪物の所に向かうわよ」先に向かおうとした。
 俺は露払いを務めた。
怪物・金太郎の遺骸は大橋の真ん中辺りにあった。
その周りには黒山の人集り。
火盗改の頭・福田直太郎や陰陽師の比良信安の顔も。
何かをしている分けではなさそう。
皆が皆、無為に一種の野次馬として化していた。
戦いが終わったのに、その後始末が出来ぬのは、
現場の指揮を執っている者が素人のせいだろう。
 俺は声を上げて伝えた。
「姫様のご到着です」
 俺にだけ聞こえるように姫さんが呟いた。
「姫さんから姫様になったのね。良い心がけですよ、家来の小一郎」
 効果は絶大。
人垣が二つに割れた。
場所が空けられた。
怪物の直ぐ傍に姫さんが歩み寄ると、お歴々が周りに来て挨拶した。
新顔もあるのだが、俺には誰が何者なのかは分からない。
分かろうとも思わない。
関わりのないこと。
この後も関わることはないだろう。
 俺は姫さんの威を借りて最前列に出た。
怪物の顔を改めて見た。
若い、二十歳前か。
分かってはいたが相棒の斧の小町に瓜二つ。
 さっきまでは何の興味もなかったのだが、不意に湧いて来た。
そこで姫さんの威を遠慮なく発揮した。
周りの者達に指示して怪物の衣服を剥がした。
遺骸は傷だらけ。
刀傷、矢傷、槍傷、鉄砲の弾傷。
直ぐに気付いた。
おかしい。
おかしいのだ。
・・・。
それは置いて、片膝ついて傷口を検めた。
一つひとつに指を差し込み、深さまでを測った。
両手が血に染まるが、気にしてはいられない。
腹側を検め終えると、怪物を無造作に転がし、背側を検めた。
 何時の間にか周りの声が消えていた。
みんなの視線が俺に突き刺さった。





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