掴み合ったまま、二人して頭から大川に落ちた。
頭や肩に激しい衝撃。
人生の強制終了を告げるかのような激痛が走った。
それでも斧の小町は俺を掴んで離さない。
ついには足までも絡ませてきた。
俺を殺そうとしているのではなく、
思いもかけぬ出来事に頭がフリーズしている、と考えた方が正解かも知れない。
しがみつかれて俺は困惑した。
企てに齟齬が生じてしまった。
水中で斧の小町から逃れるつもりでいたのに、これでは。
・・・。
苦しい。
呼吸が。
・・・。
我慢比べ。
どちらが先に音を上げるか。
・・・。
水中で斧の小町と視線が合った。
彼女の目色は凄惨そのもの。
俺を睨みながら両手両足で締め上げてきた。
・・・。
大川はそれほど深くはない。
俺の後頭部が川底に着いた、と告げた。
・・・。
俺は最期の空気を吐いた。
そして、耐えきれずに川の水を飲み込む。
・・・。
「うだで、うだで、小一郎。
おんどがる、小一郎。
大丈夫てでのの」座敷童子の声が聞こえた。
俺は、・・・。
俺は下に、斧の小町に絡み付かれたまま川底に沈んでいる俺を見た。
どうやら幽体離脱したらしい。
水中をフラフラ、クラゲのように、ゆっくり浮上して行く。
水面を過ぎてから見上げると、大橋の欄干に姫さんの顔を見つけた。
大きく口を開け、何事か必死で叫んでいるのだが、生憎、俺には聞こえない。
欄干から大勢が雁首揃えて見下ろしているのだが、誰も俺に気付かない。
突如として姫さんが手で下を指し示し、周囲の者達に何事か命じた。
すると数人が応じて、欄干から飛び降りて来た。
他の者達も走った。
大橋のたもとへ急ぎ、川船に乗り込む。
俺は姫さんの真ん前を過ぎる際、彼女の唇にそっと指で触れた。
実際、触れる分けではないが、ある感触を得た。
濡れていて、柔らかい。
その瞬間、姫さんの手が唇に行く。
俺が触れた箇所を指で押さえた。
座敷童子の声が、「まじろ」と聞こえた。
見下ろすと、姿は視えないが、それらしい気配。
陽の光は苦手な筈なのに追いかけて来た。
俺は座敷童子に答えた。
「心配するな、俺は死なない。
このまま、どこか別の時代に流されるだけだ。
そこで別の人物に憑依し、なりすます。
それでも良ければ付いて来い」
「一人しり二人の方が楽しい、寂しぐね。へでけ」
座敷童子の姿は視えないが、喜んでいる気配。
この引き籠もりの精霊との付き合いは、つい最近のこと。
日数にすると僅か。
それでも、どうやら、懐かれたらしい。
直ぐに後尾に体当たりの感触。
ドンとぶつかり、その勢いのまま俺の霊体に、強引に乗り込むではないか。
幽体離脱した俺に別のモノが憑依した形になったが、まあ、悪い気はしない。
と、激しい震えが伝わって来た。
座敷童子からだ。
人体に例えると心音、鼓動だろう。
消耗するのを覚悟で陽射しを浴びて追って来た、と改めて認識すると、
妙に愛おしくなった。
俺と座敷童子は一体となり、高みへ高みへと浮き上がって行く。
下の人間が見分けられなくなった辺りから、上昇する速度が次第に増して行く。
そして、そのまま宇宙へ上がるのでなく、
途中に忽然と出現した小さな緑の光の中に吸い込まれて行く。
内部は広く、色とりどりの光の欠片で溢れていた。
まるで朝陽を浴びた油彩の海。
欠片の形は様々。
どれを取っても色鮮やで、互いを殺すのない輝きを放ち、寄せては返していた。
座敷童子が「おろー」と息を呑み、
ようようのことで、「おんろ-、ぐっと、どってん、どすべ」と口を衝く。
俺は幽体離脱には慣れているが、それを説明する言葉は持たない。
このような光に吸い込まれることもあれば、闇に吸い込まれることもある。
幽体離脱は一定のパターンを持たない。
「気にするな。死ぬことはない。なるようにしかならん」言い聞かせるしかなかった。
やがて睡魔に襲われたかのように意識をなくした。
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★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。

★
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しがみつかれて俺は困惑した。
企てに齟齬が生じてしまった。
水中で斧の小町から逃れるつもりでいたのに、これでは。
・・・。
苦しい。
呼吸が。
・・・。
我慢比べ。
どちらが先に音を上げるか。
・・・。
水中で斧の小町と視線が合った。
彼女の目色は凄惨そのもの。
俺を睨みながら両手両足で締め上げてきた。
・・・。
大川はそれほど深くはない。
俺の後頭部が川底に着いた、と告げた。
・・・。
俺は最期の空気を吐いた。
そして、耐えきれずに川の水を飲み込む。
・・・。
「うだで、うだで、小一郎。
おんどがる、小一郎。
大丈夫てでのの」座敷童子の声が聞こえた。
俺は、・・・。
俺は下に、斧の小町に絡み付かれたまま川底に沈んでいる俺を見た。
どうやら幽体離脱したらしい。
水中をフラフラ、クラゲのように、ゆっくり浮上して行く。
水面を過ぎてから見上げると、大橋の欄干に姫さんの顔を見つけた。
大きく口を開け、何事か必死で叫んでいるのだが、生憎、俺には聞こえない。
欄干から大勢が雁首揃えて見下ろしているのだが、誰も俺に気付かない。
突如として姫さんが手で下を指し示し、周囲の者達に何事か命じた。
すると数人が応じて、欄干から飛び降りて来た。
他の者達も走った。
大橋のたもとへ急ぎ、川船に乗り込む。
俺は姫さんの真ん前を過ぎる際、彼女の唇にそっと指で触れた。
実際、触れる分けではないが、ある感触を得た。
濡れていて、柔らかい。
その瞬間、姫さんの手が唇に行く。
俺が触れた箇所を指で押さえた。
座敷童子の声が、「まじろ」と聞こえた。
見下ろすと、姿は視えないが、それらしい気配。
陽の光は苦手な筈なのに追いかけて来た。
俺は座敷童子に答えた。
「心配するな、俺は死なない。
このまま、どこか別の時代に流されるだけだ。
そこで別の人物に憑依し、なりすます。
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「一人しり二人の方が楽しい、寂しぐね。へでけ」
座敷童子の姿は視えないが、喜んでいる気配。
この引き籠もりの精霊との付き合いは、つい最近のこと。
日数にすると僅か。
それでも、どうやら、懐かれたらしい。
直ぐに後尾に体当たりの感触。
ドンとぶつかり、その勢いのまま俺の霊体に、強引に乗り込むではないか。
幽体離脱した俺に別のモノが憑依した形になったが、まあ、悪い気はしない。
と、激しい震えが伝わって来た。
座敷童子からだ。
人体に例えると心音、鼓動だろう。
消耗するのを覚悟で陽射しを浴びて追って来た、と改めて認識すると、
妙に愛おしくなった。
俺と座敷童子は一体となり、高みへ高みへと浮き上がって行く。
下の人間が見分けられなくなった辺りから、上昇する速度が次第に増して行く。
そして、そのまま宇宙へ上がるのでなく、
途中に忽然と出現した小さな緑の光の中に吸い込まれて行く。
内部は広く、色とりどりの光の欠片で溢れていた。
まるで朝陽を浴びた油彩の海。
欠片の形は様々。
どれを取っても色鮮やで、互いを殺すのない輝きを放ち、寄せては返していた。
座敷童子が「おろー」と息を呑み、
ようようのことで、「おんろ-、ぐっと、どってん、どすべ」と口を衝く。
俺は幽体離脱には慣れているが、それを説明する言葉は持たない。
このような光に吸い込まれることもあれば、闇に吸い込まれることもある。
幽体離脱は一定のパターンを持たない。
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