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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(劉家の人々)238

2013-05-30 19:36:49 | Weblog
 麗華が念を押した。
「光に包まれるまでは女の子だったのね」
「そうよ」
 姫の一人、紅花が溜め息をついた。
「綺麗な男の子だとは思っていたけど、女の子だったんだ。
信じられないけど、でも何だか、妙に納得がゆくわ」
 麗華が問いを続けた。
「光の中に入るまでは女の子だった。
けれど、神樹の下に現れた時は男の身体になっていた。
つまり、光は入って来たモノをバラバラにして運び、光の外に出すときには元に戻す。
そうよね。
そして運の悪いことに、マリリンの場合は元に戻すのに失敗した。
それでいいのよね」
「そうよ、違いないわ」
 桂華は更に続けた。
「失敗でなければ、何らかの目的で男の子の身体にした。
そういう考え方も出来るわね。一体、包んだ光って何なの」
「私如きが知るわけないでしょう。
敢えて言えば、人智を超えた存在。そんなモノでしょう」
 麗華が間を置いて頷き、言う。
「分かった。
つまりマリリンは神隠しに遭った。
それは、ただの偶然か、何らかの目的があるのか」
「んー・・・、そうよね」
「そこが問題なのよ。
偶然は置いといて、目的があるとしたら、それは何か
光からは何も聞いてないんでしょう」
「何の接触もなかった。それは確かよ」
 麗華の眉間に皺が刻まれた。
 林杏が疑問を口にした。
「マリリン殿は海の向こうの国に生まれたのに、私達と同じ言葉を喋るのはどうして。
中華の人々が住んでいるの。
そんな話し、聞いた事がないんだけど」
 痛い所を突かれた。
「私の国では全く別の言葉で喋るわ。
私が、みんなと同じ言葉で喋るのは、ヒイラギのお陰よ。
彼はこの国の生まれなの」
 深緑が素っ頓狂な声を上げた。
「ヒイラギはこの国の怨霊なの」
 マリリンはヒイラギが項羽である事は知っていた。
本人は認めないが、ヒイラギの記憶がそれを物語っていた。
しかし、この姫達にヒイラギの身元を明かすのは躊躇われた。
なにしろ姫達は、項羽の宿敵であった劉家の血筋なのだ。
 マリリンは、「そうよ。昔の武人だそうよ」と曖昧にした。
 林杏が意外な名を口にした。
「ねえ、徐福を知ってる」
 秦時代に始皇帝の命令で、不老不死の霊薬を探す為、
東海にあるという蓬莱山を目指して船出した人物の名前であった。
実在した人物らしいが、船出後の消息は不明で、
蓬莱山に辿り着いたかどうかさえ分かっていない。
 日本各地に徐福伝説が残っていたが、マリリンが乗れる話しではない。
下手に頷けば、話しがややこしくなるだけ。
「知らない。どういう人なの」
「知らないのならいいのよ。
ところでヒイラギは何時の時代の武人なのか分かる」
 少しは事実も入れて話す必要があるだろう。
「楚漢戦争の頃の武人だそうよ」
「名前は」
「それは明かしてくれない。
死んでしまった者の名前なんか、忘れてしまった、だそうよ」
 林杏は首を捻った。
「となると、どっち側の武人なのかしら。それは分かってるの」
「西楚よ。
虞姫に仕えていたみたいね。
彼の記憶には沢山の虞姫が住んでいるの」
 姫達の目が一斉に輝いた。
新たな手掛かりもあるが、それよりも虞姫に興味を抱いたらしい。




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白銀の翼(劉家の人々)237

2013-05-26 09:15:26 | Weblog
 マリリンは気になっていた事があった。
それを麗華に問うてみた。
「桂英様からヒイラギの事や、記憶に関する質問が出ないのは何故なの」
「分からないの」と麗華、
悪戯っぽい目で、「それは私ではなくて、貴男が桂英様に説明する事でしょう」と。
「麗華は祖母で領主の桂英には忠実に従う」と考えていたので、
その日のうちに否応なく報告されるものと観念していた。
ところが毎日顔を合わせているのにも関わらず桂英からも、醇包からも、
その手の質問が一切出なかった。
素振りすらもなかった。
何だか、麗華に肩透かしを食らった気がした。
「小娘にしてやられるとは」とヒイラギが笑う。
 しようがないでしょう。
「面白いではないか、何とかして味方に取り込め」
 言われなくても分かっているわよ。
 すると劉林杏に指摘された。
「今、微かだけど、何かの気配がしたわ」
 僅かの間に感じ取れるようになるとは。
修行の賜物なのか、勘なのか、その点は分からないが、
「精霊を呼び出せる」と評判されるだけの事はある。
「今のがヒイラギよ」
「分かった」と嬉しそうに納得する林杏。
 その分野では劣る姫達は、「ホー」と、ただ感心するばかり。
 マリリンは彼女等に説明する事にした。
「私が生まれた国がある方向は、たぶん、あちらね」と東を見遣った。
「徐州の先は海よ」と丸っこい顔の劉水晶。
 彼女は海に親しんでいる越の生まれ。
「何もない海よ。無駄に広いだけの」と劉深緑。
 こちらは山深い蜀の生まれ。
口振りから、この地に来てから海を見る機会が与えられと分かった。
「その海の向こうよ。たぶんだけど」
「たぶんとは、どういう分けなの」と林杏が顔を顰めた。
「自分が生まれた国の方向が分からないの」と劉紅花。
 二人は麗華と同じ赤劉領の生まれ。
「自分の足で来たのではなくて、
気を失ったまま運ばれたので、確かな方向が分からないの。
でも、向こうだと信じてるわ。
・・・。
あの日、私は戦っていたの。
相手は人の姿をした魔物よ」
 それだけで姫達が押し黙った。
好奇心と少しの猜疑心が入り混じった十の瞳がマリリンに注がれた。
「大勢が魔物に倒されて、みんな傷付いていたわ。
でも私には味方がいた。
ヒイラギと、精霊のサクラ。
それに、魔物を倒すと言われてる剣、風神の剣。
いま背中に背負ってる剣の事よ。
そして、普通の人には見えない翼を持つ馬、天馬が姿を現して私に味方した」
 マリリンは、みんなを見回した。
一人の例外もなく話しに食い付いていた。
これからが肝心なのだ。
時空を越えた話しを巧く説明しなければならない。
「私の力ではなく、悪戦苦闘の末、みんなの力で魔物を斃したの。
その戦い終えたばかりの時だったわ。
天馬が私を乗せたまま空高く飛翔したの。
そこで目映いばかりの光に包まれ、私は気を失ってしまった」
 短い説明だが、みんなの瞳が好奇心に輝いていた。
「気付いたら陶の兄妹が私を見守っていたわ。
劉家の舘で寝かされていたの」
 自分では巧く時空を乗り越えたと思った。
みんなを見ると、何から質問していいのか、困っている様子が丸わかり。
マリリンは更に困らせようと思った。
「実はね、光に包まれながら、自分の身体が千切れるのが分かったの。
手足胴体に大きく千切れるのじゃなくて、小さく小さく、小さく分かれて行くの。
まるで霧のようにね。
痛みは少しもなかった。
まるで私も光の一部になったみたいだった」
 そして麗華を悪戯っぽい目で見詰める。
「不思議な事に私は男の身体になっていた。
それまで向こうでは女の子だったのにね」
 みんなが目を白黒させる様子が可笑しかった。
それぞれが慌てて目で会話した。
小声も飛び交う。
 代表して麗華が口を開いた。
「私が神樹の下で貴男を発見した時は男だったわ。
今もだと思うけど、・・・もしかして今は女なの」
 麗華がドギマギしているのが分かった。
「今も男のままよ。
言葉までは直せないけどね」




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白銀の翼(劉家の人々)236

2013-05-23 20:03:57 | Weblog
 狩りの余韻は数日続いた。
原因は獲物が予想以上に獲れたことにあった。
生け捕った獣が市場に出荷され、それを求める人々で城郭は賑わっていた。
した獣の肉や毛皮への期待も聞こえてきた。
狩りに人員を動員した村々にも獲物を平等に分配していた。
それらが市場に出回るようになれば、より一層の賑わいになるに違いない。
 狩りの差配を努めた関羽が一番に評価された。
「差配も武者振りも見事なものであった」と。
 劉麗華は評価が変わった。
弓で射た狼は三頭だったのだが、話しに尾鰭がつき、数も五頭に増え、
「我が儘」という評価が、「弓の名手」に一転した。
 お陰でというか、太平道の生き残り二人に関心を寄せる者はいなかった。
マリリンの、「二人は狼に追われて行った」という報告を鵜呑みにし、
アッという間に忘れ去られた。
 城郭の喧騒をよそに、マリリンは剛に騎乗して長江沿いを駆けた。
心地好い風が吹き、前髪を左右に流す。
人影の少ない場所を選び、剛を好きに走らせた。
ある程度走ったところで小さな川に行き当たった。
澄んだ流れだ。
泳いでいた何匹かの小魚が警戒して、スッと水草の陰に隠れた。
深くはない。
剛を水遊びさせる為に下馬をした。
言わずとも阿吽の呼吸。
「待ってました」とばかりに剛が川に駆け込む。
 マリリンは河原の木陰に腰を下ろし、剛の様子を観察した。
疲れた様子も、馬体の異常も見られない。
いたって健康なようだ。
 背後に数頭の騎馬の気配。
姦しい声もした。
聞き慣れた娘達の声。となれば姫達以外には考えられない。
 直ぐに姫五人が騎乗した姿で現れた。
河原にマリリンと剛を見つけるや、それに倣い、馬を川に放した。
下馬した五人は当然のような顔で、麗華を先頭にしてマリリンの方に歩み寄って来た。
 麗華がマリリンの隣に腰を下ろした。
「話しが途中になっていたわよね」
 話しとは。
狩りの最中、「記憶が戻ったのかどうか」と問われ、
「君になら話そう」と受諾した。
しかし、邪魔が入って中断していた。
それに違いない。
「君になら話すとは言ったけど、これは多すぎない」
 麗華がマリリンの目を見て答えた。
「いいのよ。
・・・。
私達は本物の姉妹ではないわ。
生まれた場所も違うわ。
でもね、赤劉家の濃い血で結ばれているの。
姉妹以上のものよ。
生まれた場所は違っていても、死すべき時いたらば共に、と誓っているの」
 真正面から年下の娘に語られてしまった。
心意気は分かるが、なんだか照れくさい。
 ヒイラギも笑う。
「はっはっは・・・、青臭い娘達だな。
こういうのは、けっして嫌いじゃない」
 では、どうするの。
「劉桂英や醇包もお前には親切だが、その腹の内が今ひとつ分からない。
歳食ってる分だけ複雑思考なのかも知れんが、・・・。
その点、この娘達は分かり易い。
味方にしても損はないと思う。
他に頼る者がいないのだからな。
ただ、説明には十分に気を付けろ。
何でもかんでも正直に話しては駄目だ。
彼女等の知識では理解できないだろう。
簡易に、分かり易くな。
多少の嘘を交えても構わん」
 そうよね。
「時空を越えた」なんて言ったら混乱させるだけよね。
 姫の一人。
最年長の劉林杏がマリリンに問う。
「もしかして、ヒイラギと話しているの」
 事前に麗華からヒイラギの話しを聞いていたのだろう。
「分かるのかしら」
「何となく、そんな気がしただけ」




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白銀の翼(劉家の人々)235

2013-05-19 08:08:44 | Weblog
 麗華が放った一本目の矢が小太りの太腿に噛み付いていた狼の背中に命中した。
だが、しぶとい狼はビクッと反応しただけで小太りから離れようとはしない。
二本目が、その隣に命中した。
それで、ようやく小太りを解放した。
狼は蹌踉けながらも自分を殺そうとする者に目を向けて来た。
獣のくせに、この期に及んでも、殺気を失っていない。
その顔面を三本目が襲う。
これが全てを断ち切った。
狼は声もなく、ドッと横倒し。
 助けられた小太りだが、気力を失ったのか、こちらも膝から崩れ落ちた。
太腿だけではなかった。
脇腹からも激しく出血していた。
血だまりが広がってゆく。
 仲間二人が慌てて駆け寄った。
張曼成が小太りの上半身を抱き起こし、声をかけた。
名前を何度も何度も呼ぶ。
術者が自分の衣服を引き千切り、それで止血しようと手を尽くす。
 マリリンが麗華に歩み寄って来た。
「麗華、ご苦労様。何本残ったの」と矢筒に視線を走らせた。
 二本しか残ってない。
マリリンの目には小太りは映っていないらしい。
「念の為に周囲に気を配ってね」と麗華に指示。
 新たな狼が来ないとも限らない。
もっともな事だ。
当の本人も抜き身を手にしたまま、厳しい視線を周囲に走らせた。
二本の矢を手にして麗華もそれに倣う。
 術者が太刀を持ち上げるのが見えた。
それを躊躇いもなく小太りの胸に突き刺した。
小太りを抱きかかえていた張曼成は何も言葉を発しない。
亡骸をソッと地面に降ろした。
「二箇所からの大量出血では助からぬ」と判断し、
「苦悶を取り除くのが仲間として最後の努め」と断行したのだろう。
 森の西側から幾人かの声が聞こえて来た。
狼を追って来た狩りの者達以外には考えられない。
 マリリンが太平道の二人に声をかけた。
「みんなが来る前にここを立ち去った方が良いわよ」
 二人はキョトンとした顔。
「早く立ち去りなさい」
 術者が麗華に視線を転じた。
「何を言ってるんだ」という表情。
 麗華は矢で森の東を指し示した。
「逃げなさいと言ってるの。
人が増えると、ややこしい事になるから早く行きなさい」
 疑いながらも頷く術者。
 張曼成は早かった。
「礼は言わぬぞ」と背中を見せた。
 それを術者が追う。
 喜び勇んで逃げる二人の背中を見ながら麗華はマリリンに問うた。
「矢が二本残っているわ。
今なら仕留められるけど、どうする」
 マリリンが薄笑いを浮かべた。
「好きにしたら」
 心底を見透かされていた。
「たいした自信よね」
 するとマリリンに挑むような目で見られた。
「麗華、君はそういう人じゃないでしょう」
 他人行儀だったのが消えて今は、「麗華」と呼び捨て。
恥ずかしくもあるが悪い気はしない。
「マリリン」と返して、「これでいいのね」と念押しをした。
「三人逃がす筈が二人に減ってしまった。
失敗だけど、仕方がないわよね」
 狼を相手に文句を言っても始まらない。
それに全頭、息も絶えていた。
文句を聞いてくれる相手はいない。
 マリリンが、「新たな狼の襲撃はない」とばかりに力を抜くのが見て取れた。
ホッとし、何気なく、剣の血糊を狼の毛で拭い取ろうとした。
 麗華は声を上げた。
「駄目よ」
 マリリンが中途で手を止めた。
「どうしたの」
「良い状態の狼の毛皮は高く売れるの。だから汚さないでよ」
「売り物なの」
「当たり前でしょう。
みんなはそれが楽しみの一つなんだから。ね、分かるでしょう」
「誰かが、狩りは戦でもあるが、祭りでもあると言ってたわ。
そういう意味だったのね」
「そうよ」
  マリリンは渋々といった表情で、亡骸となった小太りの傍にしゃがみ込み、
その衣服で血糊を拭い取る。
 麗華は思い切って言ってみた。
「私はヒイラギと話しがしたいな」
 即座に返された。
「何を話すことがあるの」
「マリリンの記憶が戻ったのかどうか知りたいの」
 マリリンが呆れたように言う。
「そんなことは本人に直接尋ねてみたら」
「話してくれる」
 一拍置いて、
「いいわよ。君になら話しても良さそうね」とマリリンが深く頷いた。
 そこへ邪魔が入った。
ドカドカと現れたのは狩りに加わっていた騎兵達。
当然ながら徒歩で、それぞれが刀槍か、弓のいずれかを手にしていた。
先頭の兵が麗華とマリリンに気付いた。
「ご無事でしたか。
狼がこの森に逃げ込んだので心配していました」
 後続に二人の無事が大声で伝えられると、騎兵達が隊列を乱して集まって来た。
彼等の表情から喜びが素直に汲み取れた。




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白銀の翼(劉家の人々)234

2013-05-16 20:13:29 | Weblog
 マリリンは狼の襲来には動じなかった。
毬子時代のバンパイアとの戦いに比べれば楽なもの。
怖くはあるが、ただそれだけ。
バンパイアのような凄味が微塵も感じ取れない。
余裕が持てた。
 それにマリリンは一人ではなかった。
脳内にヒイラギが居候していた。
黙って見ているだけだが、温かみが感じられた。
 狼の群れが包囲をジワジワと狭めてきた。
低い唸り。鋭い目付き。
凶暴かも知れないが、獣としの衝動が先走っている。
理解の範囲で行動しているので、襲撃パターンが読み易いと思った。
 するとヒイラギに怒られた。
「上から目線も結構だが、程々にな」と。
 分かってる。
驕り高ぶるなというのね。
「そういうことだ。
相手を呑んで掛かるのも大切だが、同時に慎重な行動も求められる」
 分かってる、分かってる。
麗華もいることだし、慎重にする。
彼女には傷一つ負わせない。
「それから、風神の剣には頼るな」
 どうして。
「バンパイアと戦った時のような太刀風を繰り出せるかどうかが保証が出来ない。
我らの理解の範囲の外にある現象だからな。
ここは太刀風を計算せずに戦うしかないだろう」
 八頭が一斉に動いた。
そのうちの二頭がマリリンに向かって来た。
二頭一組で行動すると見て取れた。
獣ながら小賢しい。
 マリリンは風神の剣の柄を柔らかく握って構えた。
すると剣に宿るモノの意思がヒシヒシと伝わってきた。
それは、以前のような相手に憑依しようとする不気味な妖気ではなく、
「暴れたい、暴れたい」という単純な荒々しさであった。
ヒイラギの言うように太刀風を繰り出すのは無理かもしれない。

 劉麗華はマリリンの背後で狼の動きを見ていた。
八頭もの狼と対峙するのは初めてだが、不思議な事に怖くはなかった。
手も足も震えない。
鼓動も安定していた。
マリリンの背中が堂々としているせいかも知れない。
 麗華は置かれている状況を反復した。
その上で気になるのは太平道の一人、小太りの男。
言動こそ強がってはいるが、それが虚勢にしか見えなかった。
麗華の勘が、「円陣の弱点」と囁いた。
 八頭が一斉に動き出すのと同時に麗華は決断した。
小太りの男の方に体を向けた。
一頭目が咆えながら跳躍して、その小太りに襲いかかったる瞬間だった。
驚いたことに小太りが悲鳴を漏らしながら太刀を大きく振りかぶるではないか。
太刀で突くのが最善なのだが、恐怖に我を忘れたらしい。
麗華は余計な事に手を貸す余裕はない。
小太りに襲いかかった一頭目ではなく、続けて襲おうとする二頭目を素早く矢で射た。
命中したかどうかは見ずに、右足を軸にして術者の方に体を向けた。
こちらは太刀で一頭目を突いていた。
麗華はここでも二頭目に矢を放ち、次の瞬間には身体の向きを変えた。
マリリンの背中があった。
その足下には一頭が斃れており、二頭目に剣先を繰り出すところであった。
マリリンには加勢は不要と判断、残り一人に身体を向けた。
張曼成。
こちらも一頭目を斃し、二頭目にかかっていた。
麗華は再び小太りに戻った。
 小太りの太腿に狼が噛み付いていた。
持っていた筈の太刀はすでに手元を離れており、反撃のしようがなく、
大きく泣き叫んでいた。
幸いなのは、二頭目が麗華に仕留められていたことだ。
胸元に矢が深々と刺さっていた。
 麗華は弓を得意とする古参兵の胡璋に聞いたことがある。
「獲物を仕留めるコツは」と。
「それはまた難しい質問ですね。
・・・。
一の矢で決めようとしないことですね。
無理すると力が一方に偏り、矢が変な方向に飛んで行ってしまう。
そこで一の矢では、自分の調子、弓の具合、獲物との間合いを調べ、
二の矢、三の矢で仕留めると考えて気軽に射ることですね」
 麗華は矢を弦につがえ、狼を狙う。
小太りが邪魔だが、贅沢は言っていられない。
間違えても二の矢、三の矢がある。
慎重に狙うと失敗する事が多いので、いつもの調子で一の矢を気軽に矢を放つ。
そして流れるような手捌きで二の矢をつがえた。




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白銀の翼(劉家の人々)233

2013-05-12 08:53:12 | Weblog
 荒々しい気配が西の方から接近して来るではないか。
マリリンに分かったのはそこまで。
何なのか、その正体までは掴めない。
「俺が調べよう」とヒイラギ。
 即座に触手を伸ばした。
 麗華が反応し、背中越しに小声で聞いて来た。
「どうしたの」
 ヒイラギの伸ばす触手に気付かない分けがない。
「西の方から何かが接近して来るみたいね」
 どうやら麗華は現状に気を取られ、新たな気配の察知を怠っていたようだ。
まあ無理もない。
方術修行をしていても、まだまだ小娘。
 マリリンは続けた。
「慌てることはないわ。
ヒイラギが調べてくれるから私達は目の前の事に集中よ」
「分かった」
 その目の前の張曼成が怒鳴る。
「何をコソコソ話してるんだ。
この期に及んで逃げる相談か」
 その背後で小太りが威嚇するように太刀を振り回していた。
様子から二人が術者でないのは明白。
危険を探知する勘さえも培ってないらしい。
 少し離れた藪から男が転がり出るようにして現れた。
こちらに向かって駆けながら、
「怒った獣の群れが来る」と血相を変え、細い顔で叫ぶ。
 三人目だ。
どうやら彼が術者らしい。
結界を解かねばならぬ新たな事態に困惑しているのが分かった。
「勢子達の囲みを破った狼の群れが、こちらに逃げて来る」とヒイラギ。
 驚くしかない。
承知の上の狩りだったが実際に狼と遭遇するとは一片も予期していなかった。
 枯れ落ちた枝葉を踏み砕く無数の音が聞こえて来た。
森の中に入ってきたらしい。
踏み砕く音に広がりがある。
マリリン達が通った獣道に沿うようにして、横に広がって駆けて来るのだろう。
このままでは直ぐにここに到着してしまう。
今から逃げる、隠れるは不可能だ。
なにしろ相手は嗅覚に優れた獣。
おそらく気も昂ぶっているに違いない。
ここを迂回してくれるのを願いたいが、そうは問屋が卸さないだろう。
即座に発見されて襲われるは必定だ。
 マリリンは、みんなに聞こえるように言う。
「狼の群れが来るわ。迎え撃つしかないわね」
 張曼成と小太りは細い顔の仲間を迎え入れ、何事かと話し合う。
中心となった細い顔が激昂し、声高になった。
「狼か何かは知らんが、恐ろしい気配が駆けて来る」
 マリリンは麗華を庇うように、狼の来る方向に体移動した。
「私が盾になるから、貴女は弓で狼を射てね」
 麗華のか細い声。
「本当に狼なの」
「ヒイラギを信じて」
 狼の気配があからさまに押し寄せた。
こちらの存在に気付いたのだろう。
威嚇の唸りが届く。
 麗華が慌てて矢筒に手を伸ばした。
矢を一掴みして取り出した。
 マリリンも背中の、「風神の剣」に手を伸ばした。
柄に触れた瞬間、電撃のような痺れを感じた。
風神の剣に宿るモノが焦れているようで、それがシッカと伝わって来た。
応えるように剣を抜いた。
鞘に溜まっていた怒りが噴き出す。
 麗華が心配をした。
「大丈夫なの」
 マリリンは、「任せて」と答えるしかなかった。
風神の剣を使いこなして狼の群れを撃退するしか道はない。
ただの一本道、迷いはない。
 やがて遠くに狼の姿を捉えた。
張曼成達に動揺が走った。
声を失ったらしい。
 マリリンは冷静な自分に驚いた。
鈍感になったのだろうか。
「色々ありすぎて神経が消耗し、なくなったのだろう」とヒイラギが笑う。
 マリリンは張曼成達を叱咤した。
「ボケッとして狼の餌になるつもりなの。
急いでこちらに来なさい。
弓を中心にして円陣を作るのよ」
 反論もないもない。
三人が一斉に動いた。
麗華を中心にして、外側に四人で円陣を組んだ。
 マリリンは、みんなを戒めた。
「いいこと、よく聞いて。
狼の足が相手では逃げ切れないわ。
今できる最善の手は、一塊になって迎え撃つことよ。
それぞれが持ち場で盾になり、寄せる狼を跳ね返す。
そして弓が盾と盾の隙間から狼を射る。
難しくはないわ。それを繰り返すだけ。いいわね」
 みんなの返事より早く狼が襲来した。
八頭。
あっという間に五人を取り囲む。
野生そのものの臭いが辺りを支配した。
 みんなが気後れするのが分かった。
マリリンは声を張り上げた。
「麗華、矢には限りがあるから遠間の狼はけっして狙わないこと。
誰かが噛まれても確実に射るのを優先して。
いいわね。
太平道の三人、聞いて。
太刀はけっして振り回さない。
相手は俊敏な狼なのだから、簡単に避けられるわ。
自分を囮にして、襲いかかって来るのを待ち受け、真っ直ぐに槍のように刺す。
いいわね。生き残るのよ」
 八頭の狼が威嚇の唸りを上げながら、包囲を狭めてきた。
獣ながらその慎重さには感心してしまう。
様子から、集団の狩りに慣れているのが見て取れた。




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白銀の翼(劉家の人々)232

2013-05-09 20:07:11 | Weblog
 それらしい道を見つけた。
おそらく猟師か、薪拾いの村人が踏み開いた道であろう。
ひと一人しか通れない狭く細い道であったが、贅沢は言えない。
 マリリンが先頭に立ち、森に足を踏み入れた。
踏み固められていたので、下草に足を取られることはない。
横に張った枝葉が時折、通行の邪魔するくらいだ。
 路肩の踏み折られた雑草が真新しい。
どうやら太平道の三人もこの道を選んだらしい。
 ヒイラギが先へ先へと案内する。
「待ち伏せの心配はない。連中は堂々と待っている」
 堂々と・・・。待ち伏せじゃないの。
「広いところで、けりを付けたいようだ。腰を下ろして待っている」
 たいした自信ね。その自信はどこから来るのかしら。
「太刀を与えたのが功を奏したようだ。勝って当然の顔をしている」
 かなり歩いた先に開けた場所があった。
人が切り開いた空間ではない。
木々が枯れ、自然に開けてしまったらしい。
 朽ちた幹の残骸に三人が、否、二人が並んで腰を下ろしていた。
予想が裏切られた。
どうやら残り一人は伏兵か。
マリリンは周囲の気配を探るが、それらしいのは感じ取れない。
見事に森に同化しているではないか。
おそらく結界を張り、気配を消しているのだろう。
「してやられた。
俺の触手が退くのを待って動いたのだろう」と悔しそうなヒイラギ。
 と言うことは、敵の中に触手を解する者がいるのね。
「だろうな」
 太平道の教祖、張角は方術師とも、呪術師とも言われていた。
妖術を使うとも。
信者の中に同類がいても不思議ではない。
 ヒイラギが開き直った。
「触手を出してもいいが、それでは面白くないだろう。
お前の力で何とかしろ」
 私の力量を買っているのね。
だが、ヒイラギは何も返してこない。
黙って脳内に引っ込んでしまった。
 後ろから麗華が囁く。
「伏兵は私に任せて」
 一目で事態を理解したらしい。
 マリリンと麗華はそのまま足を進めた。
敵が二人の接近に気付いて、ゆっくりと顔を向けて来た。
敵の顔には悲壮感もなければ、必死さもない。
揃って不敵な面構えをしていた。
伏兵を置いたことから、勝利の自信があるのだろう。
 手前の男が腰を上げた。
長身で濃い髭。
団栗眼でマリリンと麗華を見比べた。
 残った小太り気味の男も腰を上げた。
太刀を抜くが、直ぐには寄せて来ない。
 団栗眼が口を開いた。
「遅い。待ちかねたぞ」
 マリリンは周囲に目を配りながら応じた。
「逃げても良かったのに。
待っててくれるなんて、もしかして馬鹿なの」
 団栗眼がムッとした表情を露わにした。
「何とでも言え、それも今日限りだ」と太刀を抜き、
「しかしマリリン、お前が触手を使えるほどの術者だとは思わなかった。
ここで待ち伏せて正解だったな」と続けた。
「私が術者では何か拙い事でもあるの」
「恨みはないが、我らにとっては目障りこの上ない」
「貴男の名は」
 団栗眼が得意げに答えた。
「あの世への土産話しに聞かせよう。名は張曼成」
「もしかして張角の弟なのかしら」
 三国志には詳しいつもりでいたが、張曼成という名に覚えはなかった。
考えてみると、太平道に関して知っているのは張角と二人の弟くらいのもの。
それで適当に聞いてみた。
すると、「違う」と即座に否定された。
 不意に新たな気配が現れた。
三人目かと思ったが、様相が違った。
二つ、三つ、四つと数が増えて行く。
それらは荒々しい気配を発していた。




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白銀の翼(劉家の人々)231

2013-05-05 09:35:45 | Weblog
 関羽が采配を振るったのだろう。
丘の上で銅鑼が一発、高々と打ち鳴らされ、
それまでの静寂を一瞬にして喧騒に変えた。
呼応するように川向こうの勢子役の者達が鬨の声を上げた。
川沿いに待機していたのが、一斉に森の中に入って行く。
それぞれが手にしていた棍棒を用い、木の幹を激しく叩き始めた。
千人からの人数なので、ものすごい音量となった。
 森のみでなく、辺りに居合わせた鳥達が一斉に羽音高らかに飛び立った。
草地の藪からも、河原の水草からも。
悲鳴のような囀りが、鳴き声が宙に舞う。
その宙にあっても、どちらに逃げるか混乱していて、
鳥同士の衝突があちこちで起こった。
羽根と羽根が絡まり、一塊となって落ちる物さえ出る始末。
 森の獣を西に追うと、広い草地があり、さらに畑があり、村に到る。
その畑と草地の境には騎兵が弓槍で伏せ、逃げて来る獣を待ち構えている。
そして獣達が立ち往生したところを、
丘の下で待機している姫達が騎乗し、弓で狩るという段取りになっていた。
 関羽の初采配だが、傍に胡璋が付いているので失敗はないだろう。
 マリリンと肩を並べている麗華が目で合図した。
「行こう」と言うのだ。
 マリリンは頷き、自分達の狩りに向かうことにした。
獲物は太平道の三人。
 脳内のヒイラギが声をかけてきた。
「やるぞ」
 触手を伸ばして、待ち構えているであろう三人を探ろうと言うのだ。
川向こうで狩りが始まり、様々な気配が生まれた。
狩る側の殺気。狩られる側の混乱、怒り。
木々が激しく打たれ、鳥獣が鳴き叫ぶ。
それらが入り混じり、辺りを混沌に落とし入れていた。
その中であれば、「ヒイラギが触手を伸ばしても誰にも気付かれない」と思った。
 それでもヒイラギが慎重に触手を伸ばすのが分かった。
姿形はないものの、マリリンの無数の毛穴から抜け出るので、それを感じた。
当初こそ微細なものなのだが、一旦外に出ると縄を編むようにして絡まり、
それなりの形状となって森に伸びて行く。
 どんなに慎重であっても麗華には気付かれた。
一瞬、たじろぐのが分かった。
「なに、なんなの」とばかりに目顔で問われた。
 マリリンは麗華の同道を許した時点で覚悟をしていた。
「気付かれたら、ある程度の説明は必要だろうな」と。
歩を止めず、顔も見ずに口を開いた。
「前々から疑っていたでしょう」と逆に聞き返してみた。
 なんの衒いもなく麗華が答えた。
「ええ、初めて貴男を見つけた時から感じていたの。
何かを体内に飼っている、と。
・・・。
貴男からは呪術の匂いがしないわ。
だとすると、体内に飼っているか、乗っ取られているかでしょう。
まさか乗っ取られているって事はないわよね。
そんな臭いがしないもの」
「彼の名前はヒイラギと言うの」
 麗華が足を止めた。
「ヒイラギ・・・、名前があるの」
「名乗らないから私がつけたの」
 麗華は微妙な表情で再び歩を進めた。
「随分と仲が良さそうね。精霊と誓約でも結んだの」
「本人に聞いた限りでは精霊ではないそうよ。
死んだものの、昇天しきれない怨霊みたいね」
 麗華が警戒しながら、呆れているのが分かった。
「だとすると背後霊、もしくは守護霊ね。
貴男自身はどう思っているの」
 背後霊も守護霊も先祖が子孫の誰かに取り憑く点では同じなのだが、
その霊力の差は歴然としていた。
大雑把に言えば、力を駆使して子孫を守ろうとするのが守護霊なのに対し、
背後霊は、おのが力をも顧みずに子孫を守ろうとして、無謀な行いで逆に窮地に陥れる。
「敢えて言えば・・・、友達かな」
 麗華の警戒が緩む。
「友達なの。
・・・。
よく分からないけど、それで良いの」
「良いかどうかは分からないけど、不便ではないわ。
相談相手になってくれるもの。
私より冷静に的確な判断を下してくれる。
鬼師匠みたいな口調の時もあって、時々閉口するけどね」
「はっはっは、・・・乗っ取られるという気配は」
「その気になれば何時でも出来たけど、それだけはしないわね。
でも、私が許せば乗っ取ると思うけど」
 麗華が首を左右に振る。
「理解出来ない関係なのね。
そうそう、精霊でもないのに触手を使えるというのは、どうして。
怨霊の類には高等な技の筈よ」
「友達になった精霊がヒイラギに手解きしてくれたの」
「精霊とも友達なの。
ますます分からなくなったわ、貴男が。
その精霊は何なの、どういう精霊なの」
「言霊が寄り集まり精霊に昇華したみたいね。
名前はサクラ。
私が名付けたのだけど」
 ヒイラギが割り込んで来た。
「見つけた。
森の中の広いところで待ち構えている」




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白銀の翼(劉家の人々)230

2013-05-02 21:07:50 | Weblog
 麗華が嫌そうな表情を浮かべなかったので、マリリンは安堵した。
納得しないまでも、状況は理解してくれたらしい。
 その麗華がぶっきらぼうに言う。
「さあ、行きましょう」
 せっかちな麗華にマリリンは苦笑い。
「森に入るのは、少し待って下さい」
「どうして。さっさと片付けて、狩りに加わった方がましじゃないかしら」
「待ち構えているのかも知れないなら、ちょっと焦らしてやりましょう」
 麗華がマリリンを見詰めた。
「私と貴男が組めば、敵なしだと思うけど」と自信たっぷり。
 麗華に高く評価されているとは思わなかった。
予期していなかったので答えに窮した。
 麗華が催促した。
「どうしたの、敵を目前にして怖くなったの」
「まさか。
向こうの狩りに合わせて動こうかなと思っているのよ」
 麗華が含み笑い。
その表情が不意に一変した。
何かに思い至ったらしい。
「そうか、そういうことか」と。
「何が」
「三人を逃がすにしても、何もせずに逃がしては、
お婆さまの顔を潰すと思ったのでしょう。
それで三人に太刀を与えて、待ち伏せしたくなるように仕向けた。
そして、その三人が襲って来たら、軽くあしらい、首の代わりに太刀を奪い返し、
それを持ち帰って、三人を討ったことにする。
みんなの前で与えた太刀だから、誰も疑わない。
違うかしら」と得意そうにマリリンを見遣った。
 年下の娘に読まれてしまった。
マリリンは答え代わりに深い溜め息をついた。
そんなマリリンの様子に麗華は得意満面の笑顔。

 劉桂英と醇包が床几に腰掛け、丘の上から遠くの孫娘とマリリンの様子を見ていた。
言い争いではなく、何事か真剣に話し合っていた。
そんなに話す事があったのかと感心するほど。
「随分と熱心に話し合っているな」と醇包。
「それは焼き餅なの」
「はっはっは、それはないだろう。
馬が合わないと思っていたのが、様子が違うから面食らっているだけだ」
「そうね。
麗華の方がマリリン殿を一方的に敬遠している感じでしたものね」
「そうそう、まったく我が孫ながら何を考えているのか、さっぱり分からん。
とにかく我らの細工を壊さないでいてくれ、と願うだけだ」
 二人はマリリンにも内密にしていることがあった。
太平道の三人のうちの一人を、こちら側に取り込んだのだ。
その者を麗華の気紛れで討たれては堪らない。
「マリリン殿なら、なんとしても三人を無事に生きて帰すでしょう」
「そう願うよ。大事な手蔓だからな」
 見ていると、手前の森で軍旗が大きく振られた。
勢子の配置が完了した合図だ。




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