呂布は張任の教えを思い出した。
「最強の敵はな、何だと思う。
・・・。
それはな、弱い味方だ。
弱いといっても色々な弱さがある。
兵の士気が低い。
個々の兵の武技の練度が低い。
兵同士の連携が甚だ心許ない。
部隊としての統制が取れていない。
加えて、率いている将軍が優柔不断、決断が出来ない。
これほど恐い味方はいない。
隊列に、陣形に、配備のしようがない。
前にも後ろにも、横にも中にも、どこにも置けない。
無理して組み込み、戦で崩れたら目も当てられない。
敗走に周りの部隊も巻き込むからな。
そうなると、どんなに強い軍でも負け戦だ。
問題は、そんな彼等の活用法だ。
お前だったら、どう活用する」
今の呂布にとっては隊商がそれだった。
当初、彼等は余計な経費を支払いたくないので、目の前の盗賊団を討つ気でいた。
盗賊団の練度を軽くみて、「統制なんて取れてないだろう」と自信満々だった。
ところが実際、盗賊団の馬群を目にすると、彼等が連携に慣れているのが見て取れた。
まるで北方騎馬民族のような動き方をしていた。
この涼州は北方騎馬民族とは国境を接し、何度も侵攻を受けているので、
それから学んだのかもしれない。
呂布の弓で先頭の何騎かが射られ、馬群が混乱しても、それは一時的なもの。
たちまち馬群を二つに分け、左右から攻め寄せて来た。
しかも勢いが少しも衰えていない。
その様子に隊商の警護の者達は怯えたのだろうか。
警護の騎馬隊が出撃する切っ掛けは二回あった。
一度目は林から盗賊団が姿を現した際。
合わせて飛び出せば、連中の気勢を削いだはず。
伏兵のように現れた騎馬隊に、
「関所破りは囮だったのか。これは罠、他にも伏兵は」と勝手に勘違いし、
自滅してくれたかも知れない。
二度目は盗賊団が二手に分かれた際。
半数になった片方を攻撃し殲滅するのは容易かったはず。
ところが彼等は全く姿を現さなかった。
今もって気配すらない。
土壇場になって商人側が首を縦に振らないのかも知れない。
グズグズしてはいられない。
二つに分かれた盗賊団が目前に迫ろうとしていた。
機を逸せば、なぶり殺しの目に遭う。
すると・・・、ある考えが、・・・浮かんだ。
黒いが、面白い。
これこそが弱い味方の活用法だ。
躊躇わない。
呂布は弓を捨てて騎乗した。
槍も持たない。
盗賊団を引き付けるだけ引き付けて、関所を飛び出した。
街道を上った。
隊商が控えている方へ馬首を向けた。
振り返ると二つに分かれていた盗賊団が一つの塊になり、
顔を怒らせて追って来ていた。
その怒りを鎮めるには呂布一人の首では足りないだろう。
隊商の群れを見つけた。
彼等はこちらを見て、唖然としていた。
事情が飲み込めないのだろう。
荷馬車だけは下り方向に向けて整然と並んでいたが、騎兵達は三々五々。
油断していた。
迎撃の態勢が全く取られていない。
そこに呂布が飛び込んだ。
何人かが問いを発するが、無視をした。
荷馬車の間を縫って、後方へと急ぐ。
隊商側の怒鳴り声が飛び交う。
「迎撃しろ」「返り討ちにしろ」「荷馬車で道を塞げ」等々。
騎兵達が前方へ駆けた。
警護の騎兵のみでなく、商人側の者達も武器を持っていた。
彼等が立ち向かおうとするところへ、盗賊団が雄叫びを上げて突入して来た。
馬が人に、荷馬車に衝突する音。
幾つもの悲鳴が上がった。
盗賊団は思わぬ荷馬車の隊列に遭遇し、嬉しい混乱。
警護の騎兵の多さが、「西域との交易の商品」と語っていた。
お宝を目の前にして、関所破りの首を追っている場合ではない。
それぞれが勝手に荷馬車を奪おうと躍起になった。
隊商側も声を枯らした。
「守れ、守れ」「指一本触れさせるな」と。
随所で太刀が、槍が振り回された。
隊商側が分が悪い。
切り崩されて行く。
奥へ進む呂布は途中で弓矢を持った者を見かけた。
腕に覚えのある荷馬車の馭者ようだ。
盗賊団を迎撃するため、荷馬車の上に立ち上がろうとしていた。
男に馬を寄せた。
「俺に渡せ」
有無は言わせない。
強引に弓矢を取り上げた。
弓の弦の張り具合が丁度いい。
矢筒には矢が二十本。
これだけあれば足りるだろう。
呂布は馬首を盗賊団のいる方向に向けさせた。
騎乗のまま、矢を番えて弓を引き絞る。
しかし、敵も味方も区別がつかない。
だぶんだか、こちらに背中を見せている者は味方だろう。
だから、こちらに顔を向けている者は賊と判断した。
手前勝手な理屈と、勘を頼りに次々と矢を放つ。
賊は騎乗しているものの、お宝を奪うのに躍起になっていて、状況は読まない。
そんな連中を射るのは容易いこと。
手前から順に一人、二人と斃して行く。
★
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・・・。
それはな、弱い味方だ。
弱いといっても色々な弱さがある。
兵の士気が低い。
個々の兵の武技の練度が低い。
兵同士の連携が甚だ心許ない。
部隊としての統制が取れていない。
加えて、率いている将軍が優柔不断、決断が出来ない。
これほど恐い味方はいない。
隊列に、陣形に、配備のしようがない。
前にも後ろにも、横にも中にも、どこにも置けない。
無理して組み込み、戦で崩れたら目も当てられない。
敗走に周りの部隊も巻き込むからな。
そうなると、どんなに強い軍でも負け戦だ。
問題は、そんな彼等の活用法だ。
お前だったら、どう活用する」
今の呂布にとっては隊商がそれだった。
当初、彼等は余計な経費を支払いたくないので、目の前の盗賊団を討つ気でいた。
盗賊団の練度を軽くみて、「統制なんて取れてないだろう」と自信満々だった。
ところが実際、盗賊団の馬群を目にすると、彼等が連携に慣れているのが見て取れた。
まるで北方騎馬民族のような動き方をしていた。
この涼州は北方騎馬民族とは国境を接し、何度も侵攻を受けているので、
それから学んだのかもしれない。
呂布の弓で先頭の何騎かが射られ、馬群が混乱しても、それは一時的なもの。
たちまち馬群を二つに分け、左右から攻め寄せて来た。
しかも勢いが少しも衰えていない。
その様子に隊商の警護の者達は怯えたのだろうか。
警護の騎馬隊が出撃する切っ掛けは二回あった。
一度目は林から盗賊団が姿を現した際。
合わせて飛び出せば、連中の気勢を削いだはず。
伏兵のように現れた騎馬隊に、
「関所破りは囮だったのか。これは罠、他にも伏兵は」と勝手に勘違いし、
自滅してくれたかも知れない。
二度目は盗賊団が二手に分かれた際。
半数になった片方を攻撃し殲滅するのは容易かったはず。
ところが彼等は全く姿を現さなかった。
今もって気配すらない。
土壇場になって商人側が首を縦に振らないのかも知れない。
グズグズしてはいられない。
二つに分かれた盗賊団が目前に迫ろうとしていた。
機を逸せば、なぶり殺しの目に遭う。
すると・・・、ある考えが、・・・浮かんだ。
黒いが、面白い。
これこそが弱い味方の活用法だ。
躊躇わない。
呂布は弓を捨てて騎乗した。
槍も持たない。
盗賊団を引き付けるだけ引き付けて、関所を飛び出した。
街道を上った。
隊商が控えている方へ馬首を向けた。
振り返ると二つに分かれていた盗賊団が一つの塊になり、
顔を怒らせて追って来ていた。
その怒りを鎮めるには呂布一人の首では足りないだろう。
隊商の群れを見つけた。
彼等はこちらを見て、唖然としていた。
事情が飲み込めないのだろう。
荷馬車だけは下り方向に向けて整然と並んでいたが、騎兵達は三々五々。
油断していた。
迎撃の態勢が全く取られていない。
そこに呂布が飛び込んだ。
何人かが問いを発するが、無視をした。
荷馬車の間を縫って、後方へと急ぐ。
隊商側の怒鳴り声が飛び交う。
「迎撃しろ」「返り討ちにしろ」「荷馬車で道を塞げ」等々。
騎兵達が前方へ駆けた。
警護の騎兵のみでなく、商人側の者達も武器を持っていた。
彼等が立ち向かおうとするところへ、盗賊団が雄叫びを上げて突入して来た。
馬が人に、荷馬車に衝突する音。
幾つもの悲鳴が上がった。
盗賊団は思わぬ荷馬車の隊列に遭遇し、嬉しい混乱。
警護の騎兵の多さが、「西域との交易の商品」と語っていた。
お宝を目の前にして、関所破りの首を追っている場合ではない。
それぞれが勝手に荷馬車を奪おうと躍起になった。
隊商側も声を枯らした。
「守れ、守れ」「指一本触れさせるな」と。
随所で太刀が、槍が振り回された。
隊商側が分が悪い。
切り崩されて行く。
奥へ進む呂布は途中で弓矢を持った者を見かけた。
腕に覚えのある荷馬車の馭者ようだ。
盗賊団を迎撃するため、荷馬車の上に立ち上がろうとしていた。
男に馬を寄せた。
「俺に渡せ」
有無は言わせない。
強引に弓矢を取り上げた。
弓の弦の張り具合が丁度いい。
矢筒には矢が二十本。
これだけあれば足りるだろう。
呂布は馬首を盗賊団のいる方向に向けさせた。
騎乗のまま、矢を番えて弓を引き絞る。
しかし、敵も味方も区別がつかない。
だぶんだか、こちらに背中を見せている者は味方だろう。
だから、こちらに顔を向けている者は賊と判断した。
手前勝手な理屈と、勘を頼りに次々と矢を放つ。
賊は騎乗しているものの、お宝を奪うのに躍起になっていて、状況は読まない。
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