金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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白銀の翼(四面楚歌)87

2011-10-30 10:13:05 | Weblog
 ここは身を隠すには適した岩場だが、
騎馬隊として敵を迎撃するには最悪の地形だ。
相手が黒曜家騎馬隊だけなら人数的には持ちこたえられるだろうが、
彼等を追ってくるであろう漢軍に、これ幸いと包囲されては堪らない。
馬を下りての歩兵戦となるのは必死。
とてもこの人数では守りきれない。
 項羽は部下達に、「総員乗馬」と号令し、岩場から出た。
少し前方の広い草地に隊を進め、
黒曜家騎馬隊の突撃を受け止める為に、円陣の密集隊形とした。
 本当はこのまま退却すれば、何事も無く流血の事態を避けられるのだが、
明らかに挑んで来る敵から一戦もせずに逃げては、
西楚の覇王としての面子が丸潰れ。
次の戦いに悪い影響を与える。
どんなに状況が悪かろうが、最低でも一戦を交えねばならない。
一戦を交えた後は、状況次第だが、逃げるしかないだろう。
ここに留まっては劉邦を、否、張良を喜ばすだけ。
 黒曜家騎馬隊が緩い傾斜を勢いよく駆け上って来る。
その後方を、体勢を立て直した漢の騎馬隊、
さらに間隔を置いて歩兵を中心に構成される大部隊が追跡して来る。
どうやら漢軍は、逃げる黒曜家騎馬隊を見て、大きな勘違いしているらしい。
敗走ではないというのが分からないのだろう。
 西楚の騎馬隊は、状況の急転回に当初は戸惑った。
敵は黒曜家騎馬隊、それとも漢軍。あるいは双方。
どう戦えというのか、・・・。
しかし、項羽が愛馬の騅に跨って先頭に立つや、士気が回復した。
たとえ無勢であろうとも、項羽が率いて負けたという戦を知らない。
何度も何度も多勢の難敵を打ち破って来た。
そこから来る信頼は、迫る黒曜家騎馬隊や漢軍の立てる大量の砂塵を見ても、
微塵も揺るがない。
 敵の先頭を駆ける騎馬兵が、はっきりくっきりと見えるまでに迫って来た。
月氏の血統にしては、やけに偉丈夫ではないか。
老けた顔立ちだが、目鼻立ちもはっくりくっきり。無駄に大きい。
月氏や中華の諸民族の血というよりは、
月氏のさらに西方の異民族の血が混じっているのかも知れない。
 その男が指揮を執っている様子。
項羽に視線を向けながら、左右に付き従う二騎に何事か命じる。
 途端に、二騎が喜び勇んで隊列から飛び出した。
槍を小脇に抱きかかえ、項羽を目指して突き進んで来るではないか。
そして、手前から槍を項羽に投じた。
異常なまでの腕力。
遠間からの投げだが、常識を覆して伸びて来た。
的確に項羽の上半身を狙っていた。
 西楚の騎馬兵も鍛えられていた。
項羽の指示がなくても素早く動いた。
左右から二騎が飛び出し、項羽の盾となるべく前に立ち塞がった。
そして至極当然のように持つ槍で、飛来する槍を叩き落とした。
 襲来の二騎は勢いのまま。
止まりもしなければ、引き返しもしない。
如何にするかと見れば、駆ける馬の背に二本足で立ち上がった。
器用なことに体勢を崩しもしない。
人もだが、馬もまったく足を乱さない。
 何をするのかと、・・・。
二騎は一瞬たりと躊躇わない。
馬の背を足場に大きく跳躍した。
それも高々と。
人並み外れた跳躍力で宙に舞い、太刀を抜いた。
明らかに項羽の首を狙っていた。
誰にも邪魔されぬ頭上から舞い降りようと、・・・。
 迎え撃とうとした項羽だが、傍の虞姫の行為に気を削がれた。
馬上のまま呪の為の気を集めているのだ。
流石は方術家の生まれにして、仙術の達人。
立ち所に相手の尋常ならざるに気づいたらしい。
 戦場なので簡易な呪法で気を集め、練り、清浄なるモノとした。
そして呪の文言を唱えながら両手を大きく左右に開いた。 
しかる後、両の平手でもって、拍手を打ち鳴らした。
ゆったりと間を置いて三度。
「パアーン」「パアーン」「パアーン」と。
 並みの人間では意味が分からないだろう。
除霊する為に練られた気が四方八方に弾けたのが。
清浄なるモノが拍手の生み出した波動に乗り、魔に憑かれた者達を襲う。
虞姫の方術の範囲内に在る者に逃れる術はない。
 項羽には理解できた。
虞姫が宙に跳躍した二人を魔に憑かれた者と判断したのが。
だから迎撃は虞姫に任せた。
 宙に在る二人が突然、勢いを失い落下を始めた。
体勢を整えようとしないし、声も出さない。
虞姫の術が二人を操る魔を追い払ったらしい。
そのまま頭から地上に落下してしまう。
潰れる鈍い音と共に血飛沫が飛び散った。
 黒曜家の次の手はと見れば、敵の老けた偉丈夫の指揮官は苦笑い。
期待はしていなかったらしい。
項羽に視線を絡ませつ、従う騎馬隊に方向転換を命じた。
直前で右方に転じた。
悪戯に漢軍と西楚軍を衝突させるつもりのようだ。
 すかさず項羽も部下達に、「左方に転進する」と号令。
黒曜家騎馬隊に戦う意志がないのなら、ここに踏み留まる意味がない。
待って、押し寄せる漢軍の相手をしてもいいのだが、劉邦はいないだろう。
劉邦のいない漢軍にも意味がない。
 戦場から離脱する項羽の騎馬隊を追う軍はない。
項羽は視界から黒曜家騎馬隊や漢軍の姿が消えると、
更に方向を転じ、味方の殿部隊の居る場所へ部隊を向かわせた。
 項羽は虞姫に問う。
「あれは何だったんだ」
「見たままよ。魔に操られていたのね」
「すると黒曜家に魔が棲むという事か」
「おそらくは・・・ね。
あの先頭の男、只者じゃないわ。次ぎに会ったら気をつけて」
「奴も魔の類か」
「んー、・・・説明し難い類みたいよ。
ただ、人ではないわね。
でも狙われているのは劉邦よ。私達じゃないわ。そこは安心ね」
「安心は安心だが、悪戯心がありそうだ。
こちらに飛び火しなければ良いが」
「たしかにね。
咄嗟にこちらに矛先を向かわせるなんて、機転が利くわ。
でも劉邦はいったい誰の怒りを買っているのかしら。
敵の事だけど、興味があるわね」
 虞姫は劉邦に降り掛かる災いなので面白がっていた。




最近、何だか変なんです。
相変わらずのペースで文庫本を読むのですが、
大好きだった作家のみなさまの文体が、筋が、とても詰まらなく感じるのです。
読んでいて、途中で手が止まります。
最後まで読み通せない本が増えました。
栞を挟んだままの読みかけの本が積み重なって、・・・。
・・・。
私の嗜好が変化したのでしょうか。




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