俺はモビエール毛利侯爵をテーブルに案内した。
心得たメイドが直ぐにお茶を運んで来た。
俺には緑茶、モビエールには紅茶。
お茶菓子も後宮厨房から届けられたビスケット盛り合わせ。
モビエールが紅茶を口にして一言。
「この紅茶はどこのだ」
お気に召したらしい。
産地名を知りたいのだろう。
生憎、メイドは下がってしまった。
俺は知らない。
そこで、・・・。
「後宮の厨房です。
お茶菓子もそうです」
「そう・・・か」
噴き出しそうな顔を引き締めた。
モビエールの執事と護衛が顔を伏せた。
両者の肩が小刻みに震えていた。
入り口が騒がしくなった。
立哨していた近衛兵が俺の方へ来た。
困惑の色で耳打ちした。
「ロバート三好侯爵がいらっしゃいました。
責任者への面会を望まれています」
小声だったのだが聞こえたのだろう。
モビエールが表情を緩めた。
「ここへ招いても構わん。
異存ないだろう、伯爵殿」
もしかして示し合わせたのか。
時間差攻撃で俺のメンタルを削る算段か。
周りの大人達の表情から、それが正解だと分かった。
ロバート三好侯爵が執事と護衛を従えて入って来た。
三好侯爵家派閥を率いるに相応しい貫禄だ。
モビエールに視線を送り、軽く頷いた。
そして俺を目をくれた。
モビエール同様に顔馴染みなのだが、今日は冷え冷えとしていた。
俺は立って出迎えた。
「ようこそ、ロバート三好侯爵様」
「ご苦労様だな、佐藤伯爵殿」
右にモビエール、左にロバート。
流石は派閥を率いる両者、威圧感が半端ない。
その二人が肩を並べて腰を下ろしている図は、まるで子供虐め。
俺がまさにその子供。
ここがセンターテーブルであると示唆していた。
二人は俺を無視し、顔馴染みの侍従や秘書、女官と話を進めて行く。
まあ、その方が俺にとっても楽なんだが。
俺への質問も相談もなく、事態収拾への詰めが纏められて行く。
文字通り、神は細部に宿る、ではないが、詳細に煮詰められた。
俺は蚊帳の外だが、彼等彼女等の様子を見聞きして、
本来の日常業務の大変さを理解した。
ああ、宮廷には入りたくない、そんな思いをロバートに見抜かれた。
「佐藤伯爵殿、王妃様との連絡は」
行き成りだな。
関心があって聞くのか。
それとも俺を試すのか」
「こちらからの使番を山陽道、山陰道の両経由で走らせました。
たぶん、王妃様もこちらへ使番を発せられていると思います。
その両者の接触は今日か明日でしょう。
それによってですが、おそらくカトリーヌ殿が真っ先に動かれるでしょう。
少数にて、最速で国都に戻られると思います」
「なるほどなるほど、最側近のカトリーヌ中佐が戻ると」
「使番は使番として遇し、万一を想定して王妃様には安全策かと」
モビエールの視線も俺に戻された。
「王妃様が戻るまでは佐藤伯爵殿が内郭の差配を行う、
そういう理解で良いのかな」
ロバートが含み笑い。
「ふっ、そのようだな」
俺の隣の侍従が言う。
「佐藤伯爵殿には色が付いてませんので」
秘書の一人が同調した」
「その通りです」
それに力を得たのか、別の侍従が言う。
「王妃様からイヴ様を託されたのも佐藤伯爵殿です。
管領殿を追い払ったのも伯爵殿です」
モビエールが白い目で俺を見た。
「どうやって管領殿を追い払ったのかな。
是非とも聞かせて欲しいな」
これにロバートが口を合わせた。
「だな、儂も知りたい」
困った。
手口を公開するつもりはない。
公開したら、完全に化け物扱いされるだろう。
俺が言葉を選んでいると、先に女官が言う。
「佐藤伯爵は王妃様から信任されています。
王妃様の代人として、今回の件を治めるに相応しいと思えてなりません。
違いましょうや、ご両所様」
今や俺の右腕の侍従も言う。
「忘れてならないのが、近衛を掌握されたのも佐藤伯爵殿です。
それともう一つ、これは口にし難いのですが、
申しても宜しいかなご両所」
モビエールとロバートが顔を見合わせ、頷いた。
想像は付くのだろう。
渋い表情。
侍従が続けた。
「ここで三好家や毛利家の色を出すのは好ましくないのです。
無派閥や日和見、保守派を悪戯に刺激します。
その点、佐藤伯爵は無色です。
それに子供という安心材料もあります。
王妃様が戻るまで我等も補佐します。
暖かく見守っては頂けませんか」
安心材料というのが、どのような視点からなのか・・・。
モビエールが仕方なさそうに言う。
「ああ、分かった、その様にな」
ロバートは頷くだけ。
この際なので俺は子供の利点を活かし、二人に爆弾を投下した。
「お二人にお願いがあります。
討伐に本腰を入れて頂きたいのですが、如何ですか」
世評では、王妃様と侯爵二家が相謀って長期化させている、
そう噂されていた。
実際、その三者に批判的な貴族や文武官が召集され、
前線で塗炭の苦しみに遭っているのも事実。
ロバートが俺を睨み付けた。
「ほほう、儂等が本気でないと」
モビエールも面白げな色を見せ、加わった。
「王妃様を含めての我等への批判か」
軍幕内での全ての会話が消えた。
書記も手を止めた。
来客のみならず、侍従秘書女官等全員の視線がこちらに向けられた。
蛇の尾を踏んだのだろうか。
まあ、ジャマイカ。
俺は、演技スキルを起動した。
全ての視線を子供らしい微笑みで受け止めた。
「ご存知のように僕は商会を営んでおります。
その関係で色々な所と付き合いがあります。
敵とか味方ではなく、銭の関係です。
・・・。
うちのスタッフが商品開発の為に、あちこちに足を伸ばします。
その際に、市井に流布する噂も仕入れます。
噂というのは兎角、大事なのです。
その中に真実も含まれていますからね」
最後までは言わず、濁して、軍幕内を見回した。
心得たメイドが直ぐにお茶を運んで来た。
俺には緑茶、モビエールには紅茶。
お茶菓子も後宮厨房から届けられたビスケット盛り合わせ。
モビエールが紅茶を口にして一言。
「この紅茶はどこのだ」
お気に召したらしい。
産地名を知りたいのだろう。
生憎、メイドは下がってしまった。
俺は知らない。
そこで、・・・。
「後宮の厨房です。
お茶菓子もそうです」
「そう・・・か」
噴き出しそうな顔を引き締めた。
モビエールの執事と護衛が顔を伏せた。
両者の肩が小刻みに震えていた。
入り口が騒がしくなった。
立哨していた近衛兵が俺の方へ来た。
困惑の色で耳打ちした。
「ロバート三好侯爵がいらっしゃいました。
責任者への面会を望まれています」
小声だったのだが聞こえたのだろう。
モビエールが表情を緩めた。
「ここへ招いても構わん。
異存ないだろう、伯爵殿」
もしかして示し合わせたのか。
時間差攻撃で俺のメンタルを削る算段か。
周りの大人達の表情から、それが正解だと分かった。
ロバート三好侯爵が執事と護衛を従えて入って来た。
三好侯爵家派閥を率いるに相応しい貫禄だ。
モビエールに視線を送り、軽く頷いた。
そして俺を目をくれた。
モビエール同様に顔馴染みなのだが、今日は冷え冷えとしていた。
俺は立って出迎えた。
「ようこそ、ロバート三好侯爵様」
「ご苦労様だな、佐藤伯爵殿」
右にモビエール、左にロバート。
流石は派閥を率いる両者、威圧感が半端ない。
その二人が肩を並べて腰を下ろしている図は、まるで子供虐め。
俺がまさにその子供。
ここがセンターテーブルであると示唆していた。
二人は俺を無視し、顔馴染みの侍従や秘書、女官と話を進めて行く。
まあ、その方が俺にとっても楽なんだが。
俺への質問も相談もなく、事態収拾への詰めが纏められて行く。
文字通り、神は細部に宿る、ではないが、詳細に煮詰められた。
俺は蚊帳の外だが、彼等彼女等の様子を見聞きして、
本来の日常業務の大変さを理解した。
ああ、宮廷には入りたくない、そんな思いをロバートに見抜かれた。
「佐藤伯爵殿、王妃様との連絡は」
行き成りだな。
関心があって聞くのか。
それとも俺を試すのか」
「こちらからの使番を山陽道、山陰道の両経由で走らせました。
たぶん、王妃様もこちらへ使番を発せられていると思います。
その両者の接触は今日か明日でしょう。
それによってですが、おそらくカトリーヌ殿が真っ先に動かれるでしょう。
少数にて、最速で国都に戻られると思います」
「なるほどなるほど、最側近のカトリーヌ中佐が戻ると」
「使番は使番として遇し、万一を想定して王妃様には安全策かと」
モビエールの視線も俺に戻された。
「王妃様が戻るまでは佐藤伯爵殿が内郭の差配を行う、
そういう理解で良いのかな」
ロバートが含み笑い。
「ふっ、そのようだな」
俺の隣の侍従が言う。
「佐藤伯爵殿には色が付いてませんので」
秘書の一人が同調した」
「その通りです」
それに力を得たのか、別の侍従が言う。
「王妃様からイヴ様を託されたのも佐藤伯爵殿です。
管領殿を追い払ったのも伯爵殿です」
モビエールが白い目で俺を見た。
「どうやって管領殿を追い払ったのかな。
是非とも聞かせて欲しいな」
これにロバートが口を合わせた。
「だな、儂も知りたい」
困った。
手口を公開するつもりはない。
公開したら、完全に化け物扱いされるだろう。
俺が言葉を選んでいると、先に女官が言う。
「佐藤伯爵は王妃様から信任されています。
王妃様の代人として、今回の件を治めるに相応しいと思えてなりません。
違いましょうや、ご両所様」
今や俺の右腕の侍従も言う。
「忘れてならないのが、近衛を掌握されたのも佐藤伯爵殿です。
それともう一つ、これは口にし難いのですが、
申しても宜しいかなご両所」
モビエールとロバートが顔を見合わせ、頷いた。
想像は付くのだろう。
渋い表情。
侍従が続けた。
「ここで三好家や毛利家の色を出すのは好ましくないのです。
無派閥や日和見、保守派を悪戯に刺激します。
その点、佐藤伯爵は無色です。
それに子供という安心材料もあります。
王妃様が戻るまで我等も補佐します。
暖かく見守っては頂けませんか」
安心材料というのが、どのような視点からなのか・・・。
モビエールが仕方なさそうに言う。
「ああ、分かった、その様にな」
ロバートは頷くだけ。
この際なので俺は子供の利点を活かし、二人に爆弾を投下した。
「お二人にお願いがあります。
討伐に本腰を入れて頂きたいのですが、如何ですか」
世評では、王妃様と侯爵二家が相謀って長期化させている、
そう噂されていた。
実際、その三者に批判的な貴族や文武官が召集され、
前線で塗炭の苦しみに遭っているのも事実。
ロバートが俺を睨み付けた。
「ほほう、儂等が本気でないと」
モビエールも面白げな色を見せ、加わった。
「王妃様を含めての我等への批判か」
軍幕内での全ての会話が消えた。
書記も手を止めた。
来客のみならず、侍従秘書女官等全員の視線がこちらに向けられた。
蛇の尾を踏んだのだろうか。
まあ、ジャマイカ。
俺は、演技スキルを起動した。
全ての視線を子供らしい微笑みで受け止めた。
「ご存知のように僕は商会を営んでおります。
その関係で色々な所と付き合いがあります。
敵とか味方ではなく、銭の関係です。
・・・。
うちのスタッフが商品開発の為に、あちこちに足を伸ばします。
その際に、市井に流布する噂も仕入れます。
噂というのは兎角、大事なのです。
その中に真実も含まれていますからね」
最後までは言わず、濁して、軍幕内を見回した。
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