金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)19

2024-03-31 10:45:04 | Weblog
 俺はモビエール毛利侯爵をテーブルに案内した。
心得たメイドが直ぐにお茶を運んで来た。
俺には緑茶、モビエールには紅茶。
お茶菓子も後宮厨房から届けられたビスケット盛り合わせ。 
モビエールが紅茶を口にして一言。
「この紅茶はどこのだ」
 お気に召したらしい。
産地名を知りたいのだろう。
生憎、メイドは下がってしまった。
俺は知らない。
そこで、・・・。
「後宮の厨房です。
お茶菓子もそうです」
「そう・・・か」
 噴き出しそうな顔を引き締めた。
モビエールの執事と護衛が顔を伏せた。
両者の肩が小刻みに震えていた。

 入り口が騒がしくなった。
立哨していた近衛兵が俺の方へ来た。
困惑の色で耳打ちした。
「ロバート三好侯爵がいらっしゃいました。
責任者への面会を望まれています」
 小声だったのだが聞こえたのだろう。
モビエールが表情を緩めた。
「ここへ招いても構わん。
異存ないだろう、伯爵殿」
 もしかして示し合わせたのか。
時間差攻撃で俺のメンタルを削る算段か。
周りの大人達の表情から、それが正解だと分かった。
 
 ロバート三好侯爵が執事と護衛を従えて入って来た。
三好侯爵家派閥を率いるに相応しい貫禄だ。
モビエールに視線を送り、軽く頷いた。
そして俺を目をくれた。
モビエール同様に顔馴染みなのだが、今日は冷え冷えとしていた。
俺は立って出迎えた。
「ようこそ、ロバート三好侯爵様」
「ご苦労様だな、佐藤伯爵殿」

 右にモビエール、左にロバート。
流石は派閥を率いる両者、威圧感が半端ない。
その二人が肩を並べて腰を下ろしている図は、まるで子供虐め。
俺がまさにその子供。
ここがセンターテーブルであると示唆していた。
二人は俺を無視し、顔馴染みの侍従や秘書、女官と話を進めて行く。
まあ、その方が俺にとっても楽なんだが。

 俺への質問も相談もなく、事態収拾への詰めが纏められて行く。
文字通り、神は細部に宿る、ではないが、詳細に煮詰められた。
俺は蚊帳の外だが、彼等彼女等の様子を見聞きして、
本来の日常業務の大変さを理解した。
ああ、宮廷には入りたくない、そんな思いをロバートに見抜かれた。
「佐藤伯爵殿、王妃様との連絡は」
 行き成りだな。
関心があって聞くのか。
それとも俺を試すのか」
「こちらからの使番を山陽道、山陰道の両経由で走らせました。
たぶん、王妃様もこちらへ使番を発せられていると思います。
その両者の接触は今日か明日でしょう。
それによってですが、おそらくカトリーヌ殿が真っ先に動かれるでしょう。
少数にて、最速で国都に戻られると思います」
「なるほどなるほど、最側近のカトリーヌ中佐が戻ると」
「使番は使番として遇し、万一を想定して王妃様には安全策かと」

 モビエールの視線も俺に戻された。
「王妃様が戻るまでは佐藤伯爵殿が内郭の差配を行う、
そういう理解で良いのかな」
 ロバートが含み笑い。
「ふっ、そのようだな」
 俺の隣の侍従が言う。
「佐藤伯爵殿には色が付いてませんので」
 秘書の一人が同調した」
「その通りです」
 それに力を得たのか、別の侍従が言う。
「王妃様からイヴ様を託されたのも佐藤伯爵殿です。
管領殿を追い払ったのも伯爵殿です」
 モビエールが白い目で俺を見た。
「どうやって管領殿を追い払ったのかな。
是非とも聞かせて欲しいな」
 これにロバートが口を合わせた。
「だな、儂も知りたい」
 困った。
手口を公開するつもりはない。
公開したら、完全に化け物扱いされるだろう。

 俺が言葉を選んでいると、先に女官が言う。
「佐藤伯爵は王妃様から信任されています。
王妃様の代人として、今回の件を治めるに相応しいと思えてなりません。
違いましょうや、ご両所様」
 今や俺の右腕の侍従も言う。
「忘れてならないのが、近衛を掌握されたのも佐藤伯爵殿です。
それともう一つ、これは口にし難いのですが、
申しても宜しいかなご両所」
 モビエールとロバートが顔を見合わせ、頷いた。
想像は付くのだろう。
渋い表情。
侍従が続けた。
「ここで三好家や毛利家の色を出すのは好ましくないのです。
無派閥や日和見、保守派を悪戯に刺激します。
その点、佐藤伯爵は無色です。
それに子供という安心材料もあります。
王妃様が戻るまで我等も補佐します。
暖かく見守っては頂けませんか」
 安心材料というのが、どのような視点からなのか・・・。

 モビエールが仕方なさそうに言う。
「ああ、分かった、その様にな」
 ロバートは頷くだけ。
この際なので俺は子供の利点を活かし、二人に爆弾を投下した。
「お二人にお願いがあります。
討伐に本腰を入れて頂きたいのですが、如何ですか」
 世評では、王妃様と侯爵二家が相謀って長期化させている、
そう噂されていた。
実際、その三者に批判的な貴族や文武官が召集され、
前線で塗炭の苦しみに遭っているのも事実。
ロバートが俺を睨み付けた。
「ほほう、儂等が本気でないと」
 モビエールも面白げな色を見せ、加わった。
「王妃様を含めての我等への批判か」

 軍幕内での全ての会話が消えた。
書記も手を止めた。
来客のみならず、侍従秘書女官等全員の視線がこちらに向けられた。
蛇の尾を踏んだのだろうか。
まあ、ジャマイカ。
 俺は、演技スキルを起動した。
全ての視線を子供らしい微笑みで受け止めた。
「ご存知のように僕は商会を営んでおります。
その関係で色々な所と付き合いがあります。
敵とか味方ではなく、銭の関係です。
・・・。
うちのスタッフが商品開発の為に、あちこちに足を伸ばします。
その際に、市井に流布する噂も仕入れます。
噂というのは兎角、大事なのです。
その中に真実も含まれていますからね」
 最後までは言わず、濁して、軍幕内を見回した。

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