ベティ王妃は更に追加した。
「反乱終息は、族滅でもって終わりにして欲しいの」
これにはバートも驚いた。
「族滅とは穏やかではありませんな。
ここ暫くは耳にせぬ言葉です」
「平時なら連座制の適用かしら。
王兄、王弟、関東代官、それらの悪い血を完全に取り除きたいの」
バートは座り直す仕草。
「悪い血と言い切りますか。
お気持ちは分かりますが、古くからの貴族はどう思うのでしょうな」
ベティとしては反乱首謀者三名の濃い血筋の族滅を持って、
反乱の終息宣言を行いたかった。
「古い貴族とか、・・・、もうそういう時代ではないわ。
このところ商人の跋扈が激しいのは知っているでしょう」
「ええ、爵位を買い求める輩が増えているそうですな。
騎士爵、上大夫爵、下大夫爵が大いに売れている、
貴族院の知人からそう聞いております」
上大夫爵、下大夫爵はまだしも、騎士爵はそうではない。
売買の対象ではなく、上の者が功績のあった武人に授ける物であった。
それまでが売れていると。
ベティもそれは知っていた。
が、今はそれを超えていた。
「男爵家や子爵家もそうよ。
懐具合が厳しい家は、爵位や領地を借金の担保に入れてるそうよ。
伯爵家や侯爵家の場合は、寝かせている爵位をそうしてるわ」
複数の爵位を持つ貴族は、寝かせている爵位の切り売りで凌げる。
切り売りする爵位がない貴族は、爵位を売るか、領地を売るか、・・・。
バートは長い溜息をつき、力ない言葉を吐いた。
「そうなのですか、今巷ではそうなのですか。
分かりました、時代がそうなっているのでは仕方ありませんな。
・・・。
この老骨に鞭打ち、励むとしましょう」
帰路の車中、ベティが開口一番、カトリーヌ明石中佐に問う。
「どう思った」
カトリーヌは、同じ車中に女官と侍女が居るのだが、
居ないものとして振舞う。
「ケーキはモンブランも苺も美味しく頂きました。
しかし、あのご老人は喰えませんね。
口や表情はベティ様に従うように見せていましたが、
腹の内は隠したままでした。
それで宜しいので」
ベティはその言葉に喜んだ。
「ふっふっふ、構わないわ。
年の功けっこう、腹黒けっこう、仕事が出来れば良いのよ」
「ベティ様、男の趣味が悪い方へ走ってらっしゃいますね」
「周りを見回してご覧なさい。
性格が良くて仕事も出来る、そんな奴が居るかしら」
「んー、難ありが多いですね」
「世の中、そんなものよ。
結局は使い潰すのだから、贅沢は言わないの」
翌日、ベティ王妃は国都郊外の近衛軍駐屯地を訪れた。
公式の視察なので、それは仰々しいものになった。
側仕えや秘書団、文武官等が乗る車輌が長蛇の列を成した。
そのせいで国軍と奉行所が交通整理に駆り出される騒ぎ。
保管しているゴーレムを視察するのを名目とした。
駐屯地にはレオン織田伯爵に献上された物ばかり。
計十五体。
それを起動させて現状を把握する、表向きは。
視察の陰に三好侯爵と毛利侯爵との会合があった。
そもそもは二人との会見が目的であった。
馬車から降りたベティに、駐屯地を預かる司令官が小声で報じた。
「三好侯爵と毛利侯爵がお待ちです」
「随分と速いわね」
「朝一番に連れ立って入られ、ゴーレムを検分なされておりました」
「熱心ね」
「あのお二方、そもそも武人気質ですから無理からぬ事かと」
視察は影武者に任せ、ベティは会合場所に入った。
馬場が見下ろせるフロアだ。
既に三好侯爵と毛利侯爵が居た。
二人は珈琲を飲んで待っていた。
ベティに気付くと、サッと立ち上がった。
臣下としての礼で迎えた。
ベティはカトリーヌが案内した席に着いた。
「お二方もどうぞ」
メイドにより二人の珈琲が淹れ替えられ、
ベティの手元には冷たいジュースが置かれた。
メイドが下がり、侯爵二人以外はベティの側仕えのみ。
ベティは二人に微笑んだ。
「お忙しいお二人を無理にお越し頂きました。
ありがとうございます。
早速、本題に入りましょうか」
ロバート三好がにこやかに応じた。
「いやいや、暇しておりました。
お気遣いは無用です」
モビエール毛利は無表情。
「聞くのが怖いですな」
「それでもお聞き願います。
・・・。
速やかに乱を終息させて頂きたい」
モビエールが即反応した。
「あのお子様の具申でしたな。
侍従や秘書等の後押しでも有りましたかな」
ベティはモビエールと視線を絡めた。
「島津が雇った外国からの傭兵団というのが気になりませんか」
モビエールがロバートを見遣った。
「聞いていないぞ」
「話してないからな」
「ふん、それで手古摺っているのか」
「当初の方針通りだ」
王妃や三好、毛利に反感を持つ貴族文武官を潰す、消耗させる、
それが当初の方針であった。
ベティが割ってはいた。
「先に小早川侯爵、そして今回は管領と問題が生じました。
そこで私も、そろそろ手仕舞いする頃合いと判断いたしました。
如何ですか、お二人は」
モビエールが不満を仕草で現し、口を開いた。
「小早川の件はこちらの落ち度だ、何も言い返せん」
ロバートが鼻で笑い、モビエーメから視線をベティに転じた。
「それで落とし所は」
「首謀者の族滅。
そして島津の領地には当分の間ですが、三好から代官を出して欲しい」
「要するに面倒臭い事は三好が担当しろと」
「いいえ、毛利も同様です。
族滅の後、尼子の領地には毛利の代官を、これも当分の間ですが、
代官を出して頂きます」
族滅は受け入れてくれた。
ただ、代官の件で揉めた。
互いに面倒臭いと言う。
それはそうだろう。
戦後復興を担えと同義語だ。
結局、国で受け持つ事になった。
別れ際、ロバートがベティに問う。
「あのお子様をイヴ様の王配にするおつもりか」
これにモビエールが関心を示した。
「ほう、それはそれは。
うちにも孫はいるのだが、それでは駄目かな」
ベティは正直困った。
「伯爵はまだ子供だ。
・・・。
それに、この先どう育つか分からない」
※
子供時代はここまで。
子供時代、カ~ンです。
・・・。
長い間、お付き合い下さり、誠にありがとうございました。
それでは。
「反乱終息は、族滅でもって終わりにして欲しいの」
これにはバートも驚いた。
「族滅とは穏やかではありませんな。
ここ暫くは耳にせぬ言葉です」
「平時なら連座制の適用かしら。
王兄、王弟、関東代官、それらの悪い血を完全に取り除きたいの」
バートは座り直す仕草。
「悪い血と言い切りますか。
お気持ちは分かりますが、古くからの貴族はどう思うのでしょうな」
ベティとしては反乱首謀者三名の濃い血筋の族滅を持って、
反乱の終息宣言を行いたかった。
「古い貴族とか、・・・、もうそういう時代ではないわ。
このところ商人の跋扈が激しいのは知っているでしょう」
「ええ、爵位を買い求める輩が増えているそうですな。
騎士爵、上大夫爵、下大夫爵が大いに売れている、
貴族院の知人からそう聞いております」
上大夫爵、下大夫爵はまだしも、騎士爵はそうではない。
売買の対象ではなく、上の者が功績のあった武人に授ける物であった。
それまでが売れていると。
ベティもそれは知っていた。
が、今はそれを超えていた。
「男爵家や子爵家もそうよ。
懐具合が厳しい家は、爵位や領地を借金の担保に入れてるそうよ。
伯爵家や侯爵家の場合は、寝かせている爵位をそうしてるわ」
複数の爵位を持つ貴族は、寝かせている爵位の切り売りで凌げる。
切り売りする爵位がない貴族は、爵位を売るか、領地を売るか、・・・。
バートは長い溜息をつき、力ない言葉を吐いた。
「そうなのですか、今巷ではそうなのですか。
分かりました、時代がそうなっているのでは仕方ありませんな。
・・・。
この老骨に鞭打ち、励むとしましょう」
帰路の車中、ベティが開口一番、カトリーヌ明石中佐に問う。
「どう思った」
カトリーヌは、同じ車中に女官と侍女が居るのだが、
居ないものとして振舞う。
「ケーキはモンブランも苺も美味しく頂きました。
しかし、あのご老人は喰えませんね。
口や表情はベティ様に従うように見せていましたが、
腹の内は隠したままでした。
それで宜しいので」
ベティはその言葉に喜んだ。
「ふっふっふ、構わないわ。
年の功けっこう、腹黒けっこう、仕事が出来れば良いのよ」
「ベティ様、男の趣味が悪い方へ走ってらっしゃいますね」
「周りを見回してご覧なさい。
性格が良くて仕事も出来る、そんな奴が居るかしら」
「んー、難ありが多いですね」
「世の中、そんなものよ。
結局は使い潰すのだから、贅沢は言わないの」
翌日、ベティ王妃は国都郊外の近衛軍駐屯地を訪れた。
公式の視察なので、それは仰々しいものになった。
側仕えや秘書団、文武官等が乗る車輌が長蛇の列を成した。
そのせいで国軍と奉行所が交通整理に駆り出される騒ぎ。
保管しているゴーレムを視察するのを名目とした。
駐屯地にはレオン織田伯爵に献上された物ばかり。
計十五体。
それを起動させて現状を把握する、表向きは。
視察の陰に三好侯爵と毛利侯爵との会合があった。
そもそもは二人との会見が目的であった。
馬車から降りたベティに、駐屯地を預かる司令官が小声で報じた。
「三好侯爵と毛利侯爵がお待ちです」
「随分と速いわね」
「朝一番に連れ立って入られ、ゴーレムを検分なされておりました」
「熱心ね」
「あのお二方、そもそも武人気質ですから無理からぬ事かと」
視察は影武者に任せ、ベティは会合場所に入った。
馬場が見下ろせるフロアだ。
既に三好侯爵と毛利侯爵が居た。
二人は珈琲を飲んで待っていた。
ベティに気付くと、サッと立ち上がった。
臣下としての礼で迎えた。
ベティはカトリーヌが案内した席に着いた。
「お二方もどうぞ」
メイドにより二人の珈琲が淹れ替えられ、
ベティの手元には冷たいジュースが置かれた。
メイドが下がり、侯爵二人以外はベティの側仕えのみ。
ベティは二人に微笑んだ。
「お忙しいお二人を無理にお越し頂きました。
ありがとうございます。
早速、本題に入りましょうか」
ロバート三好がにこやかに応じた。
「いやいや、暇しておりました。
お気遣いは無用です」
モビエール毛利は無表情。
「聞くのが怖いですな」
「それでもお聞き願います。
・・・。
速やかに乱を終息させて頂きたい」
モビエールが即反応した。
「あのお子様の具申でしたな。
侍従や秘書等の後押しでも有りましたかな」
ベティはモビエールと視線を絡めた。
「島津が雇った外国からの傭兵団というのが気になりませんか」
モビエールがロバートを見遣った。
「聞いていないぞ」
「話してないからな」
「ふん、それで手古摺っているのか」
「当初の方針通りだ」
王妃や三好、毛利に反感を持つ貴族文武官を潰す、消耗させる、
それが当初の方針であった。
ベティが割ってはいた。
「先に小早川侯爵、そして今回は管領と問題が生じました。
そこで私も、そろそろ手仕舞いする頃合いと判断いたしました。
如何ですか、お二人は」
モビエールが不満を仕草で現し、口を開いた。
「小早川の件はこちらの落ち度だ、何も言い返せん」
ロバートが鼻で笑い、モビエーメから視線をベティに転じた。
「それで落とし所は」
「首謀者の族滅。
そして島津の領地には当分の間ですが、三好から代官を出して欲しい」
「要するに面倒臭い事は三好が担当しろと」
「いいえ、毛利も同様です。
族滅の後、尼子の領地には毛利の代官を、これも当分の間ですが、
代官を出して頂きます」
族滅は受け入れてくれた。
ただ、代官の件で揉めた。
互いに面倒臭いと言う。
それはそうだろう。
戦後復興を担えと同義語だ。
結局、国で受け持つ事になった。
別れ際、ロバートがベティに問う。
「あのお子様をイヴ様の王配にするおつもりか」
これにモビエールが関心を示した。
「ほう、それはそれは。
うちにも孫はいるのだが、それでは駄目かな」
ベティは正直困った。
「伯爵はまだ子供だ。
・・・。
それに、この先どう育つか分からない」
※
子供時代はここまで。
子供時代、カ~ンです。
・・・。
長い間、お付き合い下さり、誠にありがとうございました。
それでは。
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