金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(帰省)138

2019-11-24 05:49:54 | Weblog
 アリスはそれが何であるのかが分かった。
覚悟はしていたが最悪の事態。
ドラゴンの口内が赤くなるより先に行動した。
エビスを駆ってジャングルの内を縫うように逃げた。
 最悪ではあるが、今がチャンス。
ドラゴンがアリスを追跡しているのは、
エビスの魔波を把握しているからに違いない。
でもブレスで場が大きく乱れる。
となれば、一時的に魔波も有耶無耶になるはず。
それにアリスは期待した。
 姿を視認されぬように地表スレスレで飛ばした。
太い木々を、大きな獣を、的確に避けて行く。

 アリスがいた辺りで空気を揺るがす激しい衝撃。
ブレスヘルフレイムの先端が地表に到達したのだ。
その破裂音だ。
それで終わりではない。
そこから真っ赤な炎が波紋のように、一円に押し広がって行く。
まるで炎の津波。
長い舌で絡め取るように、ありとあらゆる物を襲い、平等に焼き尽くす。

 アリスは背に熱さを、死を感じながらも諦めない。
今見るのは前方のみ。
エビスと一体となり、必死で逃走した。
 直線なら、もっと早く逃げられるのだが、それは贅沢と言うもの。
今はこれしかない。
完璧に足跡を消し、ドラゴンと綺麗に別れる。

 アリスは必死ながらも背後の熱を気配察知で確認していた。
それで熱さが薄れたのを感じ取った。
ブレスヘルフレイムの範囲を脱したのだ。
 即座に次の行動に移った。
豊かな枝葉の蔭にエビスを止めた。
カーゴドアを開けて外に出ると、エビスをオフして収納した。
ついでに変身。
白猫姿となり、枝に腰を下ろした。
収納したエビスの魔波をドラゴンに捉えられる筈がない。
取り敢えず一安心。
自分の魔波を意識して自制しながら、枝葉の蔭からドラゴンを見上げた。

 ドラゴンはジャングルを見下ろして満足した。
広い更地が出来上がった。
全てを焼き尽くして一面、灰が積もっていた。
 ドラゴンは追っていた奴の魔波を探した。
捉えられない。
逃がしはない。
あのブレスの速度から逃れられる分けがない。
 思わず勝ち鬨を上げた。
口を大きく開けて、今の喜びを発した。
それは怒号に似て非なるもの。
空気を震わせ、辺りを圧した。
二度三度と上げて気が済むと、ゆっくりと地上に降り立った。
 積もった灰から足の裏に熱が伝わって来た。
人だと重度の火傷をするだろうが、ドラゴンは熱さを感じるだけ。
無造作に周囲を見回し、ブレスヘルフレイムが及ぼす範囲を確認した。

 ジャングルの一部が突如として更地になった。
鬱蒼とした密林に棲まう物達はドラゴンの事情は知らないが、
更地にしたのはドラゴンだと認識。
自分達の平穏を脅かす敵だとも認識した。
普段は敵対し、割拠している住民達が、
その怒りの矛先をドラゴンに振り向けた。
一頭が激しく咆えた。
それに他の種も次々に連動した。
会話は成立しなくても、立ち所に雰囲気が醸成された。

 ドラゴンは周囲から発される殺意に応えた。
背中の大きな翼を軽く動かし、
ドラゴンブレスと連携させて暴風を発生させ、
更地につり積もった灰を全て、周辺に撒き散らした。
 それはそれは幻想的な光景。
密林に雪が降るかのように大量の白い灰が降り注いだ。

 密林の木々が揺れ動いた。
怒りの表明、甲高い咆哮が上がった。
同時に一頭が駆け出す足音。
それが端緒となった。
他も遅れじと続いた。
重なる咆哮と足音。
 真っ先に飛び出して来たのはミカワゴリラ。
6メートル近い体長。
全身が筋肉の塊。
ゴリラの群から追い出されたが、
それでも剛力を活かしてソロで生き延びている個体。
それが、まっしぐらに突進して行く。

 ドラゴンにすればブレスファイアを一発浴びせれば済む話し。
でも、やらない。
やれば自分より小さな奴から逃げるようなもので誇りが傷付く。
それに他の獣が多数、ここを目指している。
其奴等に自分の力を見せ付けたい。
後脚を踏ん張り、前脚を構えて迎えた。
 ガツンとぶつかる衝撃音。
ミカワゴリラが肩から当たって来た。
ドラゴンは前脚で受け止めた。
思いもかけない圧力。
見誤ったかなと反省しながら、じっくり相手を見定めた。

 ドラゴンの計算違いは獣達の習性。
一対一を想定していたが、獣達はそれを無視した。
立ち止まらない。
駆け付けた勢いのまま、突っ込んで来た。
目の前のミカワゴリラを越える個体はいないが、
何れもそれに近い個体ばかり。
言わば腕自慢ばかり。
其奴等がてんでに四方から挑んで来た。
 ドラゴンは焦った。
このままでは拙い。
小さな奴等だが、数の圧力で潰される。
組んでいたミカワゴリラを頭突きで突き放し、
太くて長い尻尾を振り回した。
身体を捻りながら左から来る獣達を尻尾で一掃し、
右から来る物達にはブレスブリザードを浴びせた。

 尻尾で一掃された獣達が後方に飛ばされ、後続の物達を巻き込む。
ブレスブリザードを浴びた物達は一瞬で氷り付け。
それを見た獣達は脚を止めた。
前に出るか、下がるか迷う。
 ドラゴンが雄叫びを上げた。
勝利の宣言ではない。
挑発だ。
不完全燃焼なので更なる勇者の挑戦を求めた。

 応えるかのように正面の密林の木々が不自然に揺れ動いた。
バキッ、メリメリッ、ズルズルッ、これまた不自然な音が響いた。
途端、獣達が硬直した。
種は違うが、意を通じさせるかのように顔を見合わせた。
 正面の一頭が道を譲るかのように左に下がった。
慌てて他の獣達も同様な行動をした。
左右に別れた。
正面から来る物を憚っていた。
 それが現れるのに時間はかからなかった。
スルリと密林から這いだして来た。
ミカワオロチ。
10メートル超の太くて長い蛇がとぐろを巻き、鎌首をもたげた。
真っ赤な舌をチロチロと見せ、ドラゴンを見据えた。

昨日今日明日あさって。(帰省)137

2019-11-17 06:34:42 | Weblog
 ドラゴンはエビスを小癪な奴と睨め付けた。
手加減してる場合ではない。
一枚だけだが、鱗が被害を受けたのだ。
アイスミントの返礼をした。
ブレスブリザード。
 Dクラスの魔物・ガゼミゼルが吹雪・ブレススノーストームなら、
更にその上を行くのがドラゴンの猛吹雪・ブレスブリザード。
強風を伴う吹雪で辺り一面を凍てつかせ、氷らせる。

 アリスもそれが何かは分かった。
初見だが、それは妖精に生まれ落ちた時に得た知識の中にあった。
ブレスブリザード。
アリスの放ったアイスミントが霞んでしまう威力だ。
広範囲攻撃なので避けるのが難しい。
 ところがアリスの判断より速く、エビスが勝手に回避行動に転じた。
ダンタルニャンが施した術式に従い、機体の安全を最優先にした。

 アリスは元いた場所を振り返って驚いた。
空中が一面、氷っていた。
エビスが回避せねば彼女もあの中にいた。
思わず震えた。
ドラゴン。
後先考えず、ちょっかい出してしまった。
 空中にできた氷の塊が海に落ちて行く。
それを見送りながらドラゴンを探した。
何時の間にか、奴は遙か上空にいた。
そして、こちらに向けて急降下して来た。
見逃すつもりはなさそうだ。

 エビスが段々と速度を上げて行く。
ダンタルニャンには時期尚早と言われていたが、
こうなればフルスピードしかない。
そうエビスが判断したのだろう。
機械的に、かつスムーズにシフトアップして行く。
そこに躊躇いはない。
 ナビの主導権もアリスからエビスに移行していた。
どういう分けか、アリスには出来ないが、
エビスはダンタルニャンの魔波を捉え、戸倉村を目指していた。
これもダンタルニャンの施した術式の効果なのだろう。

 アリスは慌てた。
このままだとドラゴンを戸倉村に招いてしまう。
疫病神の招聘だ。
何とかしなければ・・・。
 幸いダンタルニャンは睡眠中。
その魔波はアリスが迷子にならぬように、小器用に発信しているだけ。
こちらの現状には気付いていない様子。
ならば、このまま何も知らせずに過ごさせてやりたい。
 アリスはエビスの主導権を取り戻そうとした。
進路をずらそうとした。
コクピットの操縦桿を両手で握り締め、力を込めた。
『エビス、お願い、私に任せて』念話で願いも込めた。

 エビスはドラゴンより速度を出せたが、打開策を見出せなかった。
そこにアリスからの妖精、いや、要請が来た。
即座に了承した。
本来のアリス主導に戻した。

 ドラゴンは必死で追跡した。
軽い分、成体と速度は遜色はない。
それでも距離を縮められない。
念の為、引き離されても言い様に、奴の魔波を捉えた。
すると不思議な事が判明した。
 実に複雑な魔波なのだ。
複数の魔波が絡み合っているとしか思えない。
もっとも判明したのは低ランクの、ザコ魔物の魔波ばかり。
その複合体だとすれば納得できる。
それが信じられぬ能力を発揮していた。
ドラゴンの速度を凌駕していた。

 エビスは二個の魔卵を搭載していた。
エビスを動かす主動力となる魔卵と、
アリスの妖精魔法を補助する動力となる魔卵。
そして個別に動きはするが、連携する二つの術式。
加えて、ダンタルニャンが意識して行った事があった。
エビスの外皮に血管に似た経絡網を構築した、それだ。
魔卵の中に溜められていた魔素を経絡に血液のように流そうとした。
エビスを疑似生命体に育て上げられないか、試してみたのだ。
これらが功を奏した。
 二個の魔卵と二個の術式、そしてエビス。
五つの魔波を発生させる事態になったが、
エビスが存在する事によって何らの支障も生じさせないばかりか、
逆に能力を向上させていた。
正確にはただ今、成長中・・・。

 エビスを正確に理解していないアリスだが、
何時ものように操縦桿を握りながらエビスに語りかけていた。
『三河大湿原に向かうわよ、そこで機を見て離脱する』
 夜目が利くだけでなく、ナビもあるので迷うことはない。
一路、三河大湿原に向かった。

 深夜の三河大湿原で安心して眠っている動物はいない。
肉食動物と共生しているので、一時として油断できない。
狩る側も狩られる側も必死なのだ。
 そこに空中から露骨なまでの殺気が襲来した。
全ての生き物が、夜目が利く、利かないに関係なく、叩き起こされた。
彼等の勘が生命の危機を訴えた。
そうなると小動物は狼狽するばかり。
 夜目の利く大型肉食系は立ち上がって来る方向を見定めた。
群を率いる個体は躊躇なく一声で仲間を纏めた。
ソロを好む個体は四肢を踏ん張り、ただ一頭で殺気に対峙した。

 三河大湿原上空に達したアリスは迷うことなく、ある一点を目指した。
鬱蒼としたジャングル。
20メートル近い大木が生い茂っていて、隠れるには絶好の地形。
そこに急降下した。
 沢山の生き物が生息し、目を覚ましていた。
混乱を極めているようで、エビスに注目する物はいない。
 アリスは太い枝葉の蔭に身を隠し、ドラゴンをやり過ごせるかどうか、
ジッと見守ることにした。
少し遅れてドラゴンが現れた。
駄目だった。
ドラゴンは的確にこちらの位置を把握していた。
頭上でホバリングし、こちらを観察していた。

 ドラゴンは眼下を見下ろした。
沢山の生き物が右往左往しているので、奴を特定するのは難しかった。
だからと言って、見逃しは出来ない。
なにしろ、俺様に喧嘩を売ったのだ。
一帯諸共、地獄に送ってやる。
ブレス攻撃態勢に移行。
ブレスヘルフレイム。
 Cクラスの魔物・ヒヒラカーンが火炎・ブレスフレイムなら、
更にその上を行くのがドラゴンの地獄の業火・ブレスヘルフレイム。
広範囲火炎で辺りを一帯を焼き払い、全ての物を灰にする。

昨日今日明日あさって。(帰省)136

2019-11-10 07:43:52 | Weblog
 翌日から俺は自由だった。
陞爵も伊勢出兵も立ち消えしたかのように、耳へ入ることはなかった。
大人達が談合して・・・、否、任せておけば良いのだろう。
何とかしてくれるようだ。
 ところが俺は自由にならなかった。
母が、祖母が、兄達が、ケイト達が構う、構う、構う。
連日、飽きもせずに茶話会だ、武芸の稽古だ、
川遊びだと連れ回された。
それは断れる雰囲気ではなかった。

 アリスに呆れられた。
『人間は群れなすのが好きよね』
 妖精は家族を持たない。
何らかの要因で自然発生する為、理解の範疇ではないらしい。
『血縁とか地縁とかで繋がっているからかな。
でもアリスだって、仲間はいるだろう。
その仲間を救うために行動したんだから』
 貴族邸を襲撃して仲間を助け出した。
『う~ん、仲間ね。
でも仲間と言うより、妖精の誼で救い出したにすぎないわね』
 そう言う認識らしい。
俺がさらに問い質そうとするより先に部屋の窓から空高く飛び上がり、
収納からエビスを取り出し、乗り込むと遊びに出かけた。
俺は置いてけぼり。
『迷子に気をつけて』
『大丈夫、大丈夫』

 二日目の飛行後のアリスは満足していた。
『三河大湿原は珍しい動物ばかりね。楽しいわ』
 ところが三日目になると表現が変わった。
『なにあそこ、魔卵を持ってる奴がいないじゃないの』
 ミカワワニやミカワサイとかの大型動物を狩り、解体して落胆。
その怒りを俺に向けてきた。
『言っただろう。魔物は大きくなる前に獣に狩られてしまうって』
『聞いたかな・・・、聞いてないわね。うん、聞いてない』
 開き直って、プリプリ。
しようがないので俺はご機嫌を取る為に、
エビスをチューンナップする事にした。
ある程度のイメージだけで詳細は固めていなかったが、
それでも、何とかなるはずだ。たぶん。

 深夜を待って室内で探知と鑑定を始動し、連携させ、村を包んだ。
魔法による作業を他人に察知されては拙いので、念の為に警戒した。
村人の中で魔法のレベルが高いのは神社の宮司のみなのだが、
旅籠にも宿泊客はいる。
警戒するに越したことはない。
もっとも、俺より低レベルでは気が付きもしないだろうが。
 アリスがエビスを取り出した。
ついでに手頃な大きさの魔卵を提供してくれた。
既に搭載している魔卵はエビスの動力源。
これから積み込む魔卵はアリスの妖精魔法の補助動力。
 錬金魔法を起動し、エビスをその中央に浮かせた。
難しい作業ではない。
バランスと出力熱を考慮し、二個の魔卵の搭載位置を決めた。
続いて魔法の出口、銃口。
これは魔法使いの杖を参考にした。
初心者の杖は問題外。
魔水晶を嵌め込んだ杖をコピー、縮小し、
形状を変えてエビスの先端に据え付けた。
口の両端から覗く二本の牙がそれだ。
それを魔卵と経絡で結び、術式を施した。
 思いの外、簡単に仕上がった。
するとアリスが乗り込んだ。
俺の説明を待ってはいられないらしい。
深夜の空に飛び立った。
『アリス、説明を聞かないのか』
『見てたから分かる~』
 アリスはこんな奴だった。
『とにかく聞けよ』
 俺は遠ざかるアリスに念話で取り扱い方を説明した。

 アリスはエビスの速度を少しずつ上げた。
壊さずに育てる、ダンの考えを忠実に守った。
ナビにも目を配った。
ダンの魔波から外れぬようにした。
 ダンのくどい説明が続いた。
心配性だなと思いながら、話半分聞いた。
飛行中に優先されるのは進路の安全確認。
夜間飛行する鳥がいるのだ。
遭遇して衝突してしまっては堪らない。
機体は損傷せぬだろうが、血肉でエビスが汚されてしまう。
 三河大湿原方向に向かっていたアリスは大きな魔力の塊に気付いた。
右方のかなり離れた所に、それがいた。
気配察知機能の精度を高めた。
どうやら、こちら同様、飛行中らしい。
関心を抱かぬ分けがない。
直ぐさま方向転換。

 月明かりの中をそれが飛んでいた。
実に悠々たる態度。
自分に危害を加える敵などいないと確信しているのだろう。
海面が月明かりを反射し、全体像がアリスの目に映った。
 ドラゴン。
全長10メートルであるところから判断すると、成体ではない。
でも、ドラゴン。
侮れない。
 アリスは誘惑に駆られた。
エビスに搭載したばかりの武器の性能を確認したい。
その威力はダンのスキルからすると期待しても間違いではない。
そしてドラゴンほどその試射に相応しい的はない。
 攻撃態勢。
二対四枚羽根、三対六本足を閉じた。
妖精魔法の補助動力である魔卵をフル回転。
経絡を通じ、二本の牙を起動させた。

 ドラゴンは微量の魔力を感じ取った。
同時に殺意をも感じ取った。
ただ、それが自分に向けられたものであるかどうか、確信がなかった。
数多いる生物の頂点に立つドラゴンに、
好きこのんで喧嘩を売る輩がいるとは夢想だにしなかった。
それでも気配察知を起動した。
 こちらに接近して来る小さな生き物がそれだ。
我が身の指の先ほどの物。
敵対するとすれば面白い。
一閃で消し飛ばしてやろう。
それまでは、そ知らぬ振り。

 アリスは妖精魔法の火で急襲した。
ファイアボール。
初心者でも使えるが、Bランクともなると威力が桁違い。
鎧程度なら爆発せずに貫通してしまう。
それでもってドラゴンの堅い鱗に挑戦した。
 牙から二個の火弾が放たれた。
速度も軌道も申し分なし。
真一直線にドラゴンの腹部に命中、爆発した。
 ところがドラゴンは微動だにしない。
蚊に刺されたのかと言った感じで、首を捻って自分の腹部を見、
それからエビスに視線を転じた。

 アリスは予想通りなので驚きはしない。
次は風と水をミックスし、氷、アイス。
アイスミストを放った。
鱗を凍らせる。

 ドラゴンは驚いた。
一塊になったかのような冷たい霧。
これが何なのかは知っている。
そして実際、当てられた鱗が一枚、ギシッと氷付けにされた。
 驚いたのは、そこではない。
火の次に氷りが来たからだ。
そんな攻撃手段を持つ魔物に初めて遭遇した。

昨日今日明日あさって。(帰省)135

2019-11-03 08:33:07 | Weblog
 俺は我が身に降りかかった爵位を嘆いた。
これでは自由気儘な生活ができない。
回避できないかと考えた。
 そこで、はたと原因に気付いた。
そもそもは就寝する前の習慣が原因・・・ではないのか。
呼吸法、それだ。
丹田に気を集めて精練する過程で、
「無病息災」「千吉万来」をイメージした。
病気にも怪我にも負けない身体が欲しい。
沢山の吉事が訪れるようにと願いも込めた。
 お陰で大きな病気や怪我をした事がない。
吉事にも恵まれた。
ダンジョンマスターのスキル。
白色発光での合格。
学校や冒険者パーティの仲間達。
妖精アリス。
ダンジョンを造った。
魔女魔法。
忘れてならないのは家族運、これは最高だ。
そこに爵位が来た。
 俺が夢見るのは誰にも何にも縛られないスローライフ。
前世を教訓にした俺にとって爵位は重荷、呪いでしかない。
どうしたものか。
辞退するしかないだろう。

 俺の躊躇いを見越したかのように祖父が口を開いた。
「ジョナサン佐藤様が活躍されたのは千年も昔の事だ。
威徳を兼ね備えられた人ではあるが、長い年月と共に色褪せ、
人々から忘れ去られて行くのも事実。
実際、祭っている社も数が少なくなってきた。
悲しい事だ。
・・・。
ダン、王宮からの申し入れは、これ幸いだ。
王室の思惑はどうあれ、ジョナサン佐藤の名を再び高められる。
我が一族にとって、これほど都合の良い申し出はない。
そう思わないか」
 祖父の言葉に家族が揃って頷いた。
居合わせたカールやメイド二人も歩調を合わせた。
全ての視線が俺に注がれた。
これでは拒否できない。
俺は決めた。
流れに身を任せてみよう。
濁流なのか、清流なのか。
滝から落ちて砕けるか、大海に流れ出るか。
それも面白いかも知れないな、たぶんだけど。
「分かりました、受けます。
それで、どうするんですか。
僕は陞爵の手続きも、礼儀作法も知りません」
 途端、室内の空気が弾け飛ぶように明るくなった。
代表してカールが答えた。
「全ては大人達に任せて下さい。
ダン様の夏の休暇は予定通りです。
のんびりしてても構いませんよ」
「それで良いの」
「当然です。
私が実家の細川子爵邸に、了承したとの使者を送ります。
すると、それを受けて全てが動き出します。
王室との連絡。
ダンタルニャン様の屋敷の手配。
初期に必要な人材の雇用等々」
「大変そうだね。
特に屋敷とか、人材とか」
「実家の兄は国王様の最側近です。
太くて丈夫なコネです。
それを思い切り使い倒してやるのが、弟の役目です。
ですから、何の心配もいりません。
王室から陞爵の祝い金を前金として支出させ、それで屋敷や購入し、
残余で必要最小限の家臣を雇い入れます」
「へえー、そこまで前もって準備してくれるんだ」
「ただの親切心だけではありませんよ。
これは実家にとっても益がある話しなのです」
「どんな」
「言わぬが花でしょう」

 深く追求させぬ為か、父が割って入った。
「ダン、屋敷の初期の人材は細川子爵様にお願いしよう。
貴族や王室との接触に慣れた文武官を揃えてもらえば、心強い。
勿論、この村からも人を出す。
領都の屋敷に抱えている兵を中核に選抜する。
お前が国都に戻る際には五十人規模の小隊になる予定だ。
そのつもりでな」
 俺は、あれっと・・・思った。
「父上、そう言えば伊勢への出兵はどうなっているんですか。
そちらに領都の兵を差し向けるのでしょう」
 みんなが、あれって顔をした。
怪訝、怪訝、解せぬ。
カールが慌ただしそうに問う。
「ダンタルニャン様、出兵の話は機密保持の為に禁句なのです。
村で知っているのは主立った者達だけです。
どちらで耳にされました」
「亀山宿場の宿屋で聞いたけど」
「伊勢の亀山ですか」
 俺は宿屋のスタッフから聞いた話を事細かに説明した。
と言ってもご大層な話ではない。
所詮は地方の平民が耳にした噂話にしか過ぎない。
室内の者達の表情が微妙に変化した。
 カールが目顔で父に問う。
それを受けた父は天井を見上げた。
「漏れていたか。
よりにもよって伊勢とはな。
我が村は今回のダンの陞爵を理由にすれば出兵を回避できる。
かと言って、近隣の親しい村の土豪達が出兵する。
知らん振りはできん。
どうする、カール」
 祖父がカールに代わって応じた。
「伯爵家へのご注進はせぬ方が良かろう。
こちらの手の内が筒抜けだ。
どう考えても負け戦。
負け戦になれば贄探しが始まる。
そうなれば真っ先に疑われるのが、真っ先にご注進した奴だ。
そう思わぬか」
 父もカールも唸るばかり。
祖父が立ち上がって父に言う。
「お前の執務室に主立った者達を集めて相談しよう。
呼び出す理由はダンタルニャンの陞爵にすれば問題ないだろう」

 アリスが俺に言う。
『面倒臭い事になったわね』
『困ったね。
人は相争う事でしか自分を主張できないのかな』
『・・・フン、まるで他人事ね』
『俺は争うのは嫌いだから』
『そうかしら、ようく覚えておくわよ』

 祖父達が連れ立って消えたので、室内は母と祖母の天下になった。
杞憂はすっかり消え去り、まるで井戸端会議。
「陞爵には私達も一緒していいのかしら」
「そうなれば、ついでにお屋敷に泊まれるわね」
「時々、遊びにも行けるわね」
「国都にただで泊まれて、買い物もできるなんて夢みたい」
 久しぶりの団欒なので、空気を壊さぬように相槌を打つしかなかった。
そこに長兄・トーマスが爆弾投下。
「貴族になれば婚姻一つをとっても大変そうだな」
 次兄・カイルが気の毒そうに俺を見た。
「白色発光の子爵様だから、売り込み殺到だろう」
「ダンもまだ十才だから、まず許婚からだろう」
「ご愁傷様です」兄貴二人が揃って俺に手を合わせた。

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