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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(どうしてこうなった)20

2024-04-07 09:27:20 | Weblog
 ここ軍幕内にて俺を補佐している者達は王妃様派閥、
ないしは亡き国王陛下に今もって忠誠を誓う者達。
それを承知だからか、モビエール毛利侯爵も、ロバート三好侯爵も、
面白い小僧だ、とばかりの表情で俺を見遣った。
俺は俺で、演技スキル全開の鉄壁の微笑み返し。
突っ込みが入らないので、俺は言葉を重ねた。
「今回の管領様の件、そして前のテックス小早川侯爵様の件、
それは長期の内乱騒ぎに倦んで来ている兆しではないか、
臣はそう推測します」
 君達の支持基盤に罅が入っているのではないか、言外にそう伝えた。
これに対し、批判も質問も返って来ない。
書記役の者が手を動かしたのをきっかけに、侍従秘書女官等もそう。
それぞれが仕事を再開した。
何も聞かなかったかのような空気感。
これは何なのだろう。
同意か、それとも無視か。

 ロバートが俺に言う。
「今の意見を王妃様に直接申し上げてはどうかな」
 モビエールがそれに重ねた。
「そうだな、それが良い。
臣等は王妃様の意向で動いている。
王妃様から新たな指示があれば、それに従う」
 この返しには困った。
王妃様には言い難い。
正直苦手なのだ。
未亡人の色香が。
何事も見通していると言う目色が。
そして何度も俺を鑑定しようとする。
偽装しているので無駄なのに。
それでも隙あらば、と諦めずに挑む。
どうする俺。

 困っていると隣の侍従が俺を見た。
「今の伯爵様のご意見、王妃様に提出する報告書に、
管領の謀反の原因として書き入れます」
 俺はそれを聞いて、侍従や他の補佐してくれる者達を見回した。
皆は仕事を再開して、俺に目もくれないが、
その姿勢から暖かいものを感じ取った。
もしかして、それぞれに思うところが有るのかも知れない。
心強く思い、モビエールとロバートに視線を転じた。
おお、二人の視線が揺らいでいた。
軍幕内に生じた新たな空気に気付いたらしい。
俺は二人に追撃。
「他にもお待ちの方々がおられます。
お二人はそろそろ・・・」
 邪魔だから出て行けよ。

 二日後にカトリーヌ中佐が戻って来た。
案内の近衛兵を追い越して軍幕内に突入する騒ぎ。
「イヴ様はご無事か、イヴ様は」
 俺を目敏く見つけると、テーブルに駆け寄って両手を着き、
前屈みになって言葉を重ねた。
「イウ様はどこですか」
 唾が飛んで来た。
ご褒美か、・・・。
気持ちが分かるので、我慢してカトリーヌ中佐を見上げた。
わざと両手を上げた。
「落ち着いて、どうどう」
「私は馬じゃない」
 憤慨した表情。
軍隊生活が長いとユーモアを解せないのだろう。
反対に、テーブルを囲む面々の肩が小刻みに揺れていた。
良かった。
受けていた。

 カトリーヌ中佐の表情が変わった。
「すまない、無事なのは聞いていたのだが、・・・、
一目お会いしたくて焦っていたようね」
 俺は軍幕入り口を指し示した。
「エリス中尉がお迎えに来てますよ」
 現在、イヴ様の警護はエリス。
俺に頷き返し、上司であるカトリーヌ中佐に敬礼した。
「イヴ様はこちらです」

 王妃様一行も二日遅れで戻って来た。
真っ先にイヴ様にお会いしたいだろうに、軍幕内に居座られた。
報告書を読まれ、分からぬところを俺や侍従秘書女官等に質問された。
長きに渡り国王陛下の片腕となって働いた者達。
全てに澱みなく答えてくれたので俺の出番はない。
 俺の出番は最後に来た。
王妃様に問われた。
「何か忘れた事は」
「そうですね、・・・。
ああ、これですね」
 俺はテーブル片隅に置かれて書類を取り上げた。
「これは」
「初日にここに駆け付け、手伝ってくれた者達の名簿です。
一番最初に褒めて上げて下さい」
 意味深げに王妃様を見た。
複雑そうな目色の王妃様。
それでも理解されたようだ。
苦笑いを浮かべながら俺に言われた。
「そなたは褒美は望まない、そう理解して良いのですか」
 正解です。
「ええ、これ以上は困ります」
 元々は辺鄙な村の子、それが今や最年少の伯爵様、
陰口を叩かれる存在。
これ以上は妬みや怨嗟を生むだけ。
心安らかに生きるにはこれが最善手だろう。

 王妃様の復帰により俺はお役御免。
引継ぎしが完了したので、別館に滞在中のイヴ様にご挨拶。
「屋敷に戻りますね」
「にゃ~ん」
 イヴ様恒例の飛び込み。
何時もより勢いがあった。
これは・・・、身体強化するしかない。
弾力性のある身体強化をイメージ。
それで持って受け止め、高い高い、からの肩車。
「あっはっはっは」
 喜んで貰えて嬉しい。

     ☆

 ベティ足利は王宮本館の窓から外を見下ろした。
別館前の様子がよく見えた。
佐藤伯爵家の馬車が横付けされ、使用人等が乗り込むところであった。
その脇でダンタルニャンがイヴの相手をしていた。
兄妹のようで微笑ましい。
おりよくカトリーヌ明石中佐が報告に来た。
「王妃様、宜しいですか」
 顔色が悪い。
「良いけど、貴女疲れているようね」
「ご心配をおかけします。
けれど大丈夫です。
・・・。
ボルビン佐々木侯爵の消息が全く掴めません。
侯爵家の家人も、縁戚もその家人にも聞き取りましたが、誰も知りません。
友人知人もです」
 ベティはそれを予期していた。
問い詰めない。

 ベティはもう一つの関心事を口にした。
「例の庭師達は」
「あちらもです。
あの日、宮廷に出仕していた全員が行方不明になっています」
「あの連中は何なのだ」
「身分は宮廷の庭師です。
宮廷庁の所属になっていますが、それは形ばかりのようで、
どこの部局にも所属していません」
 ベティは一つ閃いた。
「給地給金は」
「給地と同時に給金も支払われております。
不思議な事に、各地に給地を与えられ、
各人が持つ商人ギルド口座に給金が支払われております」
「んー、・・・。
それぞれの家に給地が与えられ、
ギルド口座には訳有りの給金が降り込まれる。
そういう理解で良いのよね」


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