金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

なりすまし。(130)

2017-03-12 07:51:16 | Weblog
 ナナセに質流れ品で埋まった蔵に案内された。
ここにはギルドで扱った質流れのうち、価値ある物だけが集められている、という。
 管理も行き届いているようで、観音扉が開けられても黴臭さは微塵もなかった。
中に入ったギルドの職員が窓を開け、陽射しが射し込まぬ場所には灯りを点した。
 ナナセの手招きで蔵に入った。
陳列棚があった。
横三列に並べられ、様々な物が展示されていた。
宝飾類から陶磁器・絵画・書籍・古道具等。
三列目は全て武器・防具で占められていた。
 俺は思わず尋ねた。
「まるで骨董店だな。どうして街中に出店しないんだ」
 ナナセが答えた。
「ギルドは商工業者の集まりです。
会員の商売の邪魔になるような事は出来ません。
その代わり、蔵の肥やしにせぬように月に数回、
ギルド会員に向けて卸売りを行っているのです。
招くのは主に小売店の方々ですが」
「俺達は小売店じゃないが、いいのか」
「構いません。私が頭取です。
幾らでも融通は利きます」胸を張る。
 蔵の奥に目を遣ると木箱を積み上げた山が幾つもあった。
木箱のサイズは大中小三種類と長物。
何れにも質流れが収められ、月毎に棚の品と入れ替える、と説明された。
 俺達は三列目で足を止め、所狭しと並べられた武器・防具を眺めた。
新品同様に磨き上げられた様はまさに壮観であった。
俺は思わず溜め息をついた。
「我々にとっては見慣れた光景ですが、それでも、いつ見ても美しい」とナナセ。
 なかでも刀剣は盛り沢山。
両刃の物から片刃の物、真っ直ぐな物から反った物、先だけが両刃の物。
刃の長さ、厚さにしても一つとして同じ物はなかった。
柄や鍔までもが個性を持っていた。
 槍や弓を過ぎ、防具で足を止めた。
目を見張った。
錆びどころか、汚れ一つもない。
籠手にしても、膝当てにしても、一つ一つが輝いていた。
これがギルドの仕事に対する姿勢なのだろう。
 アリスが俺の背中に手を当て、
「貴女に合う服はないけど、防具なら選り取り見取りね」含み笑い。
 釣られて苦笑いするしかなかった。
確かに俺は女にしては身体が大きい。
アマゾネス。
みんなを見下ろす格好になっていた。
傍にキャロルがいないのに気付いた。
捜すと彼女は俺達に背中を向け、木箱の山の前で何故か、しゃがみこんでいた。
どうやら手前に積み上げられた木箱の山に、何かを見つけたらしい。
彼女の視線はある一点に釘付けになっていた。
一番下の長い木箱。
やがて、おもむろに自分の胸の身分票を取り出した。
身分票と木箱の表に貼り付けられた紙を見比べた。
何度か見比べた彼女だったが、得心したように立ち上がった。
振り返って俺を呼ぶ。
「カルメン、こっちゃこい」
 視線が合うと木箱を指差し、目を輝かせて言う。
「この木箱さ開けてし。中さ入っている物さ見だい」
 俺は歩み寄り、彼女の身分票と紙を見比べた。
身分票の刻印は鷹の家紋。
紙に押印されているのも鷹の家紋。
添え書きで、「質流れに非ず。ヒュウガ公爵家所蔵品」とあった。
 背筋が凍り付いた。
家紋も姓もヒュウガ公爵家の物の借用続き。
そんな俺達の目の前に三つ目、ヒュウガ公爵家所蔵品という木箱。
偶然にしては出来すぎだ。
偶然の重なりは必然なのか・・・、運命なのだろうか。
俺は表情に出さぬように努めた。
 ナナセは、「縁がありますね」面白がった。
人手を呼び集め、木箱の山を整理させた。
目当ての木箱を蔵の入り口に運ばせると職員達に尋ねた。
「これに詳しいのは誰だ」
 一人が手を挙げた。
「担当しておりました」と言う。
 それは六年前の事。
ヒュウガ公爵は病弱な質で子に恵まれなかった。
このまま跡継ぎがなければ廃絶は必至の状況。
通常であれば男子がなければ女子を、
女子がなければ傍系より養子を迎えて家名の存続を図るもの。
ところが公爵家の傍系は既に絶えていた。
そこでヒュウガ公爵は亡くなる前、弁護士に遺言書を渡していた。
亡くなり遺言が執行された。
遺産のうち遺領は家屋敷を除いて国に返還され、
蔵に収蔵されていた物は全てギルドに売却された。
未亡人には家屋敷とギルドで現金化されたもののうち三分の二が、
残りは使用人達に分配された。
「公爵様らしい優しいお心遣いでした。
広い領地を持ったままですと、奥様は爵位がなくても出兵に応じなくてはなりません。
それで返還なさったのです。
蔵の収蔵品の処分にしてもそうです。
目を付けた悪党に狙われるかも知れません。
奥様の身を心配なされ、ギルドに一括売却されたのです。
使用人達にしてもそうです。
領地を返還するのですから多くは解雇するしかありません。
そこで彼等が路頭に迷わぬように一時金を与えたのです」職員が述べた。
 目当ての木箱は売却された中の一つだそうだ。
「年代物すぎて価値が分からない逸品ぞろい」と言う。
 ナナセの指示で職員の一人が木箱を開けた。




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なりすまし。(129)

2017-03-04 08:40:17 | Weblog
 俺は遠慮したのだが、アリスが譲らない。
「私ね、口座を持ってないの。
財布も巾着袋も持ったことがないの。
自分で言うのもあれだけど、私、お姫様だから。
外出して買い物するとお付きの者が支払ってくれる窮屈な生活なの。
・・・。
今日は久しぶりに金貨を持ったわ。
女官に見つからないように懐に隠してね。
だから私に口座を作らせて。
私達、友達でしょう」
 俺達の為に、それぞれ金貨十枚を用意した、という。
 メイド二人がお茶を運んできた。
円卓の俺達三人とナナセ側三人、それぞれの手元に置いてゆく。
細かく刻まれているので何の茶葉かは分からない。
ここでもコーヒーは姿を現さなかった。
やはり、この土地ではコーヒーはないのだろうか。
尋ねようかと思ったが、ない場合、コーヒーの説明が面倒なので取り止めた。
 お茶の口当たりは悪くなかった。
飲みながらアリスを見遣ると、彼女も俺を見返してきた。
優しい微笑み。
隣ではキャロルがお茶に砂糖をスプーンで足していた。
一つ、二つ、三つ。
 結局、アリスの金貨で口座を作ることになった。
彼女が俺に嬉しそうに言う。
「ありがとう。
・・・。
身分票をナナセ殿に渡しなさい。
裏に刻印されている番号が口座番号になるから」
 身分票の表には国章と所持者の家紋、
裏には個人に与えられた認識番号が刻印され、二つと同じ物はない、という。
 俺とキャロルの身分票を確認したナナセが怪訝な表情をした。
「確かに王宮の工房で作られた物なのですが、これは・・・。
お二人の家紋は確かなのですか」
 鷹の家紋。
数年前に途絶えた公爵家の家紋で、
この国では公爵家以外で用いている家はないそうだ。
 アリスが含み笑いで、
「発行が急だったから工房の職人が後先考えず、
手近の棚にあった家紋を借用したんじゃないの。
誰にも迷惑かけないと思うから、それで構わないわ」と言い、俺とキャロルに、
「これも縁というものよ。
公爵家の家紋を借用しなさい。
血縁も途絶えているから、どこからも文句は出ないはずよ。
・・・。
そういえば二人に名は聞いたけど、姓までは聞いて無かったわね。
この際、姓も借用したらどうかしらね。
カルメン・ヒュウガ、キャロル・ヒュウガ。
語感は悪くはないわね」持ち掛けてきた。
 ハリマに続きヒュウガ、聞き慣れた地名、播磨と日向。
頭取のナナセにしても漢字変換すると、おそらくは七瀬。
スグルにしても、タツヤにしても、しようと思えば変換が出来た。
元々が日本で作られたゲームなのだから、
この世界の姓が日本風に偏っていても不思議ではない、と思うことにした。
にしてもカルメン・ヒュウガ。
名が前で、姓は後ろ。
外人みたいで、こそばゆい。
けれど、承知した。
 ナナセが更にアリスに尋ねた。
「銀の身分票は貴族と騎士に限られています。
お二人の今のお身分は」
 さっそく問題が生じた。
アリスが答えに窮すると、ナナセが助言した。
「客将というものがあります。
亡命して来た王族・貴族・騎士等を匿う場合、
仮の名と仮の家紋を与え、客将の身分として銀板を発行したのです。
おそらく発行された理由はそれを念頭に置いたものでしょう。
如何ですか」
 俺達は異存なし。
 ナナセが俺達の住所を尋ねた。
するとアリスは旅館の名を口にした。
王家御用達の旅館に二人の部屋を用意させ、
身の振り方が決まるまで逗留させる、という。
宿無しの俺達に異存なんてない。
ナナセも、手紙が届く場所だから構わない、と了承した。
 手続きというものは、どこの世界も同じらしい。
面倒臭い。
ナナセ側の一人に、たぶん職員だろう、口座の使い方を説明された。
ついでにギルトの説明も。
そして最後に、口座を開くには印鑑ないしは花押印が必要だと聞かされた。
精巧な物が必要なので、ギルドの工房で製作する、という。
花押印の場合は家紋と姓を組み合わせる、とか。
それで俺は花押印を選択した。
 ナナセ側三人が立ち上がり、ナナセが代表して、
「花押印制作費はギルドのサービスになります。
口座は花押印がお客様の手元に届き次第、ご使用になれます」と片手を差し出した。
 握手の習慣か、と俺が理解するより早く、アリスが立ち上がった。
俺達を代表してアリスがニコヤカに握手に応じた。
 俺達を見送りに出る途中で、ナナセが俺を見回して問う。
「武器を身に付けておられないようですが、どうしてですか」
「あれは重い。邪魔になる。
必要になれば敵から奪えばいいだろう」
 俺の言葉にキャロルが嬉しそうに頷いた。
 ナナセは呆れ顔。
「カルメン殿やキャロル殿は確かにお強いでしよう。
でも武器は振り回すだけでなく御守りにもなるのですよ」
「御守りか」
「不届き者でも色々います。
根性のない者は相手の腰に武器があるのを見て引き下がります。
腕に覚えのある者も怪我したくと思えば、むやみに挑みません。
すると残るのは中途半端な者達だけ。
武器一つで血生臭い騒ぎが減れば、お得だと思いませんか」
 一理ある言葉。
俺は旅館に行く途中で武器を買い求めることにした。
ついでに防具は、と思案していると、ナナセから思いにもかけぬ提案がなされた。
「この建物の後ろに蔵が三棟あります。
その一つに質流れを仕舞っています。
見てみませんか。
新品の武器はありませんが、商売柄、実用に耐えることは試し済みです。
中には歴史物の逸品もあります」




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