ナナセに質流れ品で埋まった蔵に案内された。
ここにはギルドで扱った質流れのうち、価値ある物だけが集められている、という。
管理も行き届いているようで、観音扉が開けられても黴臭さは微塵もなかった。
中に入ったギルドの職員が窓を開け、陽射しが射し込まぬ場所には灯りを点した。
ナナセの手招きで蔵に入った。
陳列棚があった。
横三列に並べられ、様々な物が展示されていた。
宝飾類から陶磁器・絵画・書籍・古道具等。
三列目は全て武器・防具で占められていた。
俺は思わず尋ねた。
「まるで骨董店だな。どうして街中に出店しないんだ」
ナナセが答えた。
「ギルドは商工業者の集まりです。
会員の商売の邪魔になるような事は出来ません。
その代わり、蔵の肥やしにせぬように月に数回、
ギルド会員に向けて卸売りを行っているのです。
招くのは主に小売店の方々ですが」
「俺達は小売店じゃないが、いいのか」
「構いません。私が頭取です。
幾らでも融通は利きます」胸を張る。
蔵の奥に目を遣ると木箱を積み上げた山が幾つもあった。
木箱のサイズは大中小三種類と長物。
何れにも質流れが収められ、月毎に棚の品と入れ替える、と説明された。
俺達は三列目で足を止め、所狭しと並べられた武器・防具を眺めた。
新品同様に磨き上げられた様はまさに壮観であった。
俺は思わず溜め息をついた。
「我々にとっては見慣れた光景ですが、それでも、いつ見ても美しい」とナナセ。
なかでも刀剣は盛り沢山。
両刃の物から片刃の物、真っ直ぐな物から反った物、先だけが両刃の物。
刃の長さ、厚さにしても一つとして同じ物はなかった。
柄や鍔までもが個性を持っていた。
槍や弓を過ぎ、防具で足を止めた。
目を見張った。
錆びどころか、汚れ一つもない。
籠手にしても、膝当てにしても、一つ一つが輝いていた。
これがギルドの仕事に対する姿勢なのだろう。
アリスが俺の背中に手を当て、
「貴女に合う服はないけど、防具なら選り取り見取りね」含み笑い。
釣られて苦笑いするしかなかった。
確かに俺は女にしては身体が大きい。
アマゾネス。
みんなを見下ろす格好になっていた。
傍にキャロルがいないのに気付いた。
捜すと彼女は俺達に背中を向け、木箱の山の前で何故か、しゃがみこんでいた。
どうやら手前に積み上げられた木箱の山に、何かを見つけたらしい。
彼女の視線はある一点に釘付けになっていた。
一番下の長い木箱。
やがて、おもむろに自分の胸の身分票を取り出した。
身分票と木箱の表に貼り付けられた紙を見比べた。
何度か見比べた彼女だったが、得心したように立ち上がった。
振り返って俺を呼ぶ。
「カルメン、こっちゃこい」
視線が合うと木箱を指差し、目を輝かせて言う。
「この木箱さ開けてし。中さ入っている物さ見だい」
俺は歩み寄り、彼女の身分票と紙を見比べた。
身分票の刻印は鷹の家紋。
紙に押印されているのも鷹の家紋。
添え書きで、「質流れに非ず。ヒュウガ公爵家所蔵品」とあった。
背筋が凍り付いた。
家紋も姓もヒュウガ公爵家の物の借用続き。
そんな俺達の目の前に三つ目、ヒュウガ公爵家所蔵品という木箱。
偶然にしては出来すぎだ。
偶然の重なりは必然なのか・・・、運命なのだろうか。
俺は表情に出さぬように努めた。
ナナセは、「縁がありますね」面白がった。
人手を呼び集め、木箱の山を整理させた。
目当ての木箱を蔵の入り口に運ばせると職員達に尋ねた。
「これに詳しいのは誰だ」
一人が手を挙げた。
「担当しておりました」と言う。
それは六年前の事。
ヒュウガ公爵は病弱な質で子に恵まれなかった。
このまま跡継ぎがなければ廃絶は必至の状況。
通常であれば男子がなければ女子を、
女子がなければ傍系より養子を迎えて家名の存続を図るもの。
ところが公爵家の傍系は既に絶えていた。
そこでヒュウガ公爵は亡くなる前、弁護士に遺言書を渡していた。
亡くなり遺言が執行された。
遺産のうち遺領は家屋敷を除いて国に返還され、
蔵に収蔵されていた物は全てギルドに売却された。
未亡人には家屋敷とギルドで現金化されたもののうち三分の二が、
残りは使用人達に分配された。
「公爵様らしい優しいお心遣いでした。
広い領地を持ったままですと、奥様は爵位がなくても出兵に応じなくてはなりません。
それで返還なさったのです。
蔵の収蔵品の処分にしてもそうです。
目を付けた悪党に狙われるかも知れません。
奥様の身を心配なされ、ギルドに一括売却されたのです。
使用人達にしてもそうです。
領地を返還するのですから多くは解雇するしかありません。
そこで彼等が路頭に迷わぬように一時金を与えたのです」職員が述べた。
目当ての木箱は売却された中の一つだそうだ。
「年代物すぎて価値が分からない逸品ぞろい」と言う。
ナナセの指示で職員の一人が木箱を開けた。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。
ここにはギルドで扱った質流れのうち、価値ある物だけが集められている、という。
管理も行き届いているようで、観音扉が開けられても黴臭さは微塵もなかった。
中に入ったギルドの職員が窓を開け、陽射しが射し込まぬ場所には灯りを点した。
ナナセの手招きで蔵に入った。
陳列棚があった。
横三列に並べられ、様々な物が展示されていた。
宝飾類から陶磁器・絵画・書籍・古道具等。
三列目は全て武器・防具で占められていた。
俺は思わず尋ねた。
「まるで骨董店だな。どうして街中に出店しないんだ」
ナナセが答えた。
「ギルドは商工業者の集まりです。
会員の商売の邪魔になるような事は出来ません。
その代わり、蔵の肥やしにせぬように月に数回、
ギルド会員に向けて卸売りを行っているのです。
招くのは主に小売店の方々ですが」
「俺達は小売店じゃないが、いいのか」
「構いません。私が頭取です。
幾らでも融通は利きます」胸を張る。
蔵の奥に目を遣ると木箱を積み上げた山が幾つもあった。
木箱のサイズは大中小三種類と長物。
何れにも質流れが収められ、月毎に棚の品と入れ替える、と説明された。
俺達は三列目で足を止め、所狭しと並べられた武器・防具を眺めた。
新品同様に磨き上げられた様はまさに壮観であった。
俺は思わず溜め息をついた。
「我々にとっては見慣れた光景ですが、それでも、いつ見ても美しい」とナナセ。
なかでも刀剣は盛り沢山。
両刃の物から片刃の物、真っ直ぐな物から反った物、先だけが両刃の物。
刃の長さ、厚さにしても一つとして同じ物はなかった。
柄や鍔までもが個性を持っていた。
槍や弓を過ぎ、防具で足を止めた。
目を見張った。
錆びどころか、汚れ一つもない。
籠手にしても、膝当てにしても、一つ一つが輝いていた。
これがギルドの仕事に対する姿勢なのだろう。
アリスが俺の背中に手を当て、
「貴女に合う服はないけど、防具なら選り取り見取りね」含み笑い。
釣られて苦笑いするしかなかった。
確かに俺は女にしては身体が大きい。
アマゾネス。
みんなを見下ろす格好になっていた。
傍にキャロルがいないのに気付いた。
捜すと彼女は俺達に背中を向け、木箱の山の前で何故か、しゃがみこんでいた。
どうやら手前に積み上げられた木箱の山に、何かを見つけたらしい。
彼女の視線はある一点に釘付けになっていた。
一番下の長い木箱。
やがて、おもむろに自分の胸の身分票を取り出した。
身分票と木箱の表に貼り付けられた紙を見比べた。
何度か見比べた彼女だったが、得心したように立ち上がった。
振り返って俺を呼ぶ。
「カルメン、こっちゃこい」
視線が合うと木箱を指差し、目を輝かせて言う。
「この木箱さ開けてし。中さ入っている物さ見だい」
俺は歩み寄り、彼女の身分票と紙を見比べた。
身分票の刻印は鷹の家紋。
紙に押印されているのも鷹の家紋。
添え書きで、「質流れに非ず。ヒュウガ公爵家所蔵品」とあった。
背筋が凍り付いた。
家紋も姓もヒュウガ公爵家の物の借用続き。
そんな俺達の目の前に三つ目、ヒュウガ公爵家所蔵品という木箱。
偶然にしては出来すぎだ。
偶然の重なりは必然なのか・・・、運命なのだろうか。
俺は表情に出さぬように努めた。
ナナセは、「縁がありますね」面白がった。
人手を呼び集め、木箱の山を整理させた。
目当ての木箱を蔵の入り口に運ばせると職員達に尋ねた。
「これに詳しいのは誰だ」
一人が手を挙げた。
「担当しておりました」と言う。
それは六年前の事。
ヒュウガ公爵は病弱な質で子に恵まれなかった。
このまま跡継ぎがなければ廃絶は必至の状況。
通常であれば男子がなければ女子を、
女子がなければ傍系より養子を迎えて家名の存続を図るもの。
ところが公爵家の傍系は既に絶えていた。
そこでヒュウガ公爵は亡くなる前、弁護士に遺言書を渡していた。
亡くなり遺言が執行された。
遺産のうち遺領は家屋敷を除いて国に返還され、
蔵に収蔵されていた物は全てギルドに売却された。
未亡人には家屋敷とギルドで現金化されたもののうち三分の二が、
残りは使用人達に分配された。
「公爵様らしい優しいお心遣いでした。
広い領地を持ったままですと、奥様は爵位がなくても出兵に応じなくてはなりません。
それで返還なさったのです。
蔵の収蔵品の処分にしてもそうです。
目を付けた悪党に狙われるかも知れません。
奥様の身を心配なされ、ギルドに一括売却されたのです。
使用人達にしてもそうです。
領地を返還するのですから多くは解雇するしかありません。
そこで彼等が路頭に迷わぬように一時金を与えたのです」職員が述べた。
目当ての木箱は売却された中の一つだそうだ。
「年代物すぎて価値が分からない逸品ぞろい」と言う。
ナナセの指示で職員の一人が木箱を開けた。
★
ランキングの入り口です。
(クリック詐欺ではありません。ランキング先に飛ぶだけです)
★
触れる必要はありません。
ただの飾りです。