俺の説明にアリスとハッピーが喰い付いた。
『面白そう』
『パー、イヴが可哀想だっぺ』
『私達が手を貸そうか』
『ピー、だっぺだっぺ』
『よし、手を貸す』
『プー、貸す貸す』
煩い、煩い、煩いんだよ。
俺は妖精達を人間の争いに関わらせたくない。
人類特有の醜い、終わりのない争いに。
しかし、それも今更か。
うちの妖精達は、関東代官の反乱で暴れ、南九州の反乱でも暴れ、
ついでにコラーソン王国にまで足を伸ばしてしまった。
そして王都とその周辺に甚大な被害を与えた。
たぶん、彼の地は魔物が跋扈する地になったのだろう。
王国の被害者の皆様、誠に相すまん。
遥か遠くの地から、謹んで哀悼の意を表する。
届かないと思うけど、この気持ちを理解して欲しい。
俺は白旗を揚げた。
『分かった分かった。
でも一つ約束して欲しい』
『やっと分かったのね、私達のこの力。
敵に、思う存分に味わせて遣ろうじゃないの』
『ペー、やっちゃうぺー。
ペッペッペーのペッペッペー』
おい、聞けよ最後まで。
その夜、アリスとハッピーは別にして騒ぎは起こらなかった。
俺はイヴ様とのモーニングを終えると安堵して本営に向かった。
外に、殺気も殺伐とした空気もなかった。
警備陣の動きにもそう。
立哨も巡回からも、何の違和感も感じ取れなかった。
とっ、軍幕近くの庭木に不審な者がいた。
何者、・・・。
その者は立ったまま庭木に縛り付けられていた。
太いロープでぐるぐると。
首には【魔法封じの首輪】。
思い出した。
「あっ」
執事、スチュアートが口にした。
「私もすっかり忘れていました。
これ、生きていますかね」
急いで鑑定した。
瀕死と表示された。
それはそうだろう。
一晩放置されたのだ。
軍幕から近衛が一人出て来た。
俺に気付いて慌てて敬礼した。
「おはようございます」
俺を見てびくついていた。
俺は恐怖の対象か。
苦々しく思いながら、子供らしく答礼した。
「その手にあるのはポーションかい」
「はい、HP回復のポーションです」
「あれに」
「はい、あれにです」
現職の近衛長官なんだが、あれ扱いされていた。
「まあ、死なない程度にね。
・・・。
そうそう、夕食や朝食は」
「摂っています」
「君じゃなく、あれ」
「あれですか。
しっかり夕食は与えています。
これは朝食です」
夕食と朝食は高価なポーションだった。
本営の軍幕に入って驚いた。
顔触れが・・・、だ。
俺は思わず尋ねた。
「皆、交替してないのか」
ちらほら新顔もあるが、多くは昨日の顔触れだ。
一人が渋い顔で応じた。
「大丈夫です、慣れてます」
「食事や風呂は」
「非常時なので交替で取ってます」
「倒れない、平気なの」
「まだ二日目、始まったばかりです」
「終わったんじゃないの」
「後片付けから補修、事情聴取やらと色々、そして最後は報告書提出、
後始末が一番大変なんですよ、特に文官は。
・・・。
伯爵様、卒業したら上の学校へ進むんでしょう。
文官コースにしませんか」
「そのつもりはないよ。
知ってると思うけど、事業が拡大してるんだ。
そちらで王家に貢献するよ」
聞いていた侍従や秘書の皆が揃って苦笑いした。
俺は勧誘話を打ち切る為に、昨夜の報告書を手にした。
各官庁や各貴族からの問い合わせやが記されていた。
彼等の関心は概して最高権力の有り所だ。
実に分かり易い。
生き残りに必死と言うべきか、日和見と言うべきか、生き汚い。
それに対して本営に居残った者達が明確に答えていた。
王妃様から権力を奪取しようとしたボルビン佐々木管領は、
イヴ様拉致を試み、その警護の者達と争いになった。
結果、管領とその一派は敗走し、現在行方不明。
だからして権力は移行しておらず、権力は王妃様にある。
従い、この本営が王妃様帰還までその権限を代行する。
本営にての責任者はダンタルニャン佐藤伯爵である。
異論があれば来られたし。
佐藤伯爵がお相手します。
そう説明し、それぞれに持ち帰らせたそうだ。
「ねえ、徹底してるよね」
俺がそう言うと、軍幕内者達が小首を傾げた。
「「「何がですか」」」
「徹底して、僕を前面に押し出しているよね」
「「「まさか」」」
答えた皆が視線を逸らした。
「そうとしか思えないんだけど」
右隣の侍従が言う。
「ここでの爵位は伯爵様が最上位です」
「えっ」
「多くの者達は貴族の次男三男四男か、女性達です。
一部に平民も居りますがね。
そして、自分で言うのも何ですが、仕事は出来るのですが、
爵位が足りない者ばかりです。
ですから、佐藤伯爵様、諦めて下さい」
あれこれ雑談していると本営が、
官庁の始業時間に合わせて再稼働した。
入り口の係官が訪問者を三つに分かれたテーブルに案内し始めた。
右のテーブルは官庁を担当。左のテーブルは死傷者を担当、
そして真ん中のテーブルは小難しい者を受け持った。
俺は真ん中のテーブル。
左右のテーブルはそれなりに訪れる者がいた。
生憎、俺のテーブルは閑古鳥、ヒマ~、ヒマ~。
俺の顔色を見てか、右隣の侍従が言う。
「これからですよ。
長官や元帥は遅い出勤ですからね。
まず役所へ顔を出し、部下から報告を受けて、
それからこちらだと思います」
「それを聞いて嫌になった。
帰っても良いかな」
「諦めて下さい。
あっ、そうそう。
評定衆のお歴々も来られると思います。
昨日は一人も来られなかったので」
『面白そう』
『パー、イヴが可哀想だっぺ』
『私達が手を貸そうか』
『ピー、だっぺだっぺ』
『よし、手を貸す』
『プー、貸す貸す』
煩い、煩い、煩いんだよ。
俺は妖精達を人間の争いに関わらせたくない。
人類特有の醜い、終わりのない争いに。
しかし、それも今更か。
うちの妖精達は、関東代官の反乱で暴れ、南九州の反乱でも暴れ、
ついでにコラーソン王国にまで足を伸ばしてしまった。
そして王都とその周辺に甚大な被害を与えた。
たぶん、彼の地は魔物が跋扈する地になったのだろう。
王国の被害者の皆様、誠に相すまん。
遥か遠くの地から、謹んで哀悼の意を表する。
届かないと思うけど、この気持ちを理解して欲しい。
俺は白旗を揚げた。
『分かった分かった。
でも一つ約束して欲しい』
『やっと分かったのね、私達のこの力。
敵に、思う存分に味わせて遣ろうじゃないの』
『ペー、やっちゃうぺー。
ペッペッペーのペッペッペー』
おい、聞けよ最後まで。
その夜、アリスとハッピーは別にして騒ぎは起こらなかった。
俺はイヴ様とのモーニングを終えると安堵して本営に向かった。
外に、殺気も殺伐とした空気もなかった。
警備陣の動きにもそう。
立哨も巡回からも、何の違和感も感じ取れなかった。
とっ、軍幕近くの庭木に不審な者がいた。
何者、・・・。
その者は立ったまま庭木に縛り付けられていた。
太いロープでぐるぐると。
首には【魔法封じの首輪】。
思い出した。
「あっ」
執事、スチュアートが口にした。
「私もすっかり忘れていました。
これ、生きていますかね」
急いで鑑定した。
瀕死と表示された。
それはそうだろう。
一晩放置されたのだ。
軍幕から近衛が一人出て来た。
俺に気付いて慌てて敬礼した。
「おはようございます」
俺を見てびくついていた。
俺は恐怖の対象か。
苦々しく思いながら、子供らしく答礼した。
「その手にあるのはポーションかい」
「はい、HP回復のポーションです」
「あれに」
「はい、あれにです」
現職の近衛長官なんだが、あれ扱いされていた。
「まあ、死なない程度にね。
・・・。
そうそう、夕食や朝食は」
「摂っています」
「君じゃなく、あれ」
「あれですか。
しっかり夕食は与えています。
これは朝食です」
夕食と朝食は高価なポーションだった。
本営の軍幕に入って驚いた。
顔触れが・・・、だ。
俺は思わず尋ねた。
「皆、交替してないのか」
ちらほら新顔もあるが、多くは昨日の顔触れだ。
一人が渋い顔で応じた。
「大丈夫です、慣れてます」
「食事や風呂は」
「非常時なので交替で取ってます」
「倒れない、平気なの」
「まだ二日目、始まったばかりです」
「終わったんじゃないの」
「後片付けから補修、事情聴取やらと色々、そして最後は報告書提出、
後始末が一番大変なんですよ、特に文官は。
・・・。
伯爵様、卒業したら上の学校へ進むんでしょう。
文官コースにしませんか」
「そのつもりはないよ。
知ってると思うけど、事業が拡大してるんだ。
そちらで王家に貢献するよ」
聞いていた侍従や秘書の皆が揃って苦笑いした。
俺は勧誘話を打ち切る為に、昨夜の報告書を手にした。
各官庁や各貴族からの問い合わせやが記されていた。
彼等の関心は概して最高権力の有り所だ。
実に分かり易い。
生き残りに必死と言うべきか、日和見と言うべきか、生き汚い。
それに対して本営に居残った者達が明確に答えていた。
王妃様から権力を奪取しようとしたボルビン佐々木管領は、
イヴ様拉致を試み、その警護の者達と争いになった。
結果、管領とその一派は敗走し、現在行方不明。
だからして権力は移行しておらず、権力は王妃様にある。
従い、この本営が王妃様帰還までその権限を代行する。
本営にての責任者はダンタルニャン佐藤伯爵である。
異論があれば来られたし。
佐藤伯爵がお相手します。
そう説明し、それぞれに持ち帰らせたそうだ。
「ねえ、徹底してるよね」
俺がそう言うと、軍幕内者達が小首を傾げた。
「「「何がですか」」」
「徹底して、僕を前面に押し出しているよね」
「「「まさか」」」
答えた皆が視線を逸らした。
「そうとしか思えないんだけど」
右隣の侍従が言う。
「ここでの爵位は伯爵様が最上位です」
「えっ」
「多くの者達は貴族の次男三男四男か、女性達です。
一部に平民も居りますがね。
そして、自分で言うのも何ですが、仕事は出来るのですが、
爵位が足りない者ばかりです。
ですから、佐藤伯爵様、諦めて下さい」
あれこれ雑談していると本営が、
官庁の始業時間に合わせて再稼働した。
入り口の係官が訪問者を三つに分かれたテーブルに案内し始めた。
右のテーブルは官庁を担当。左のテーブルは死傷者を担当、
そして真ん中のテーブルは小難しい者を受け持った。
俺は真ん中のテーブル。
左右のテーブルはそれなりに訪れる者がいた。
生憎、俺のテーブルは閑古鳥、ヒマ~、ヒマ~。
俺の顔色を見てか、右隣の侍従が言う。
「これからですよ。
長官や元帥は遅い出勤ですからね。
まず役所へ顔を出し、部下から報告を受けて、
それからこちらだと思います」
「それを聞いて嫌になった。
帰っても良いかな」
「諦めて下さい。
あっ、そうそう。
評定衆のお歴々も来られると思います。
昨日は一人も来られなかったので」
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