アリスが収納庫から陶器の酒樽を三つ取り出した。
『データを取ってね』
何時もの事だから驚かない。
俺の魔女魔法で複製させるつもりなのだろう。
『王宮の厨房から盗んできたのかい』
『人聞きが悪いわね。
拾ったのよ、盗んじゃいないわ』
俺は樽の封に鼻を当て、それぞれの匂いを嗅いだ。
鼻の強化も、鑑定もしていないので、違いが分からない。
それを見ていたアリスが笑う。
『お子様にお酒が分かるのかしら』
『まだ無理みたい』
『ダン、早く大人になりなさい。
そうすれば否が応でも分かるようになるわ』
『急には大人になれないよ』
俺は魔女魔法を起動した。
この程度の物であれば鑑定から始める必要はない。
分析はするが分解も必要ない。
熟れた作業、三樽を一気にコピーした。
そして拾った三樽の隣に複製した三樽を並べた。
肝心のデーター収集にも怠りなし。
俺の表情を見たアリスに注意された。
『天狗になっちゃ駄目よ』とは言うものの、アリスも満更でもない様子。
鼻を大きく広げて六樽を一つ一つ嗅ぎ回る。
そして最後に大きく頷いた。
妖精がこれで良いのか。
俺は思わず嫌味を言った。
『お子様にお酒を造らせるって、どうなんだろう』
『はあ、ただのコピーでしょうが。
私に意見なんて百年早い。
自分で酒造りが出来るようになってから言いなさいよ』手強い。
『俺は百年も生きられないよ』だって人間だもの。
『何事も修業よ、修業』言いながら六樽を収納して行く。
口では敵わないので話題を変えた。
『エビスを出して』
激しく反応するアリス。
『エビス・・・、もしかして、もしかするの』
『そうだよ』
アリスが収納庫からエビスを取り出した。
俺はそれを宙に浮かべて、錬金魔法を起動した。
今回のは先に搭載した魔卵ではなく、
後で搭載した魔卵の術式のアップデートで済ますことにした。
時空スキル、転移の付与追加だ。
難しくはない、たぶん。
これまでの経験を元に書き加えて行く。
すんなり書き込めたので問題はない筈だ。
『アリス、二つ書き加えたよ。
一つはカーゴドアではなく、転移の術式で出入りできるようにした。
これで水中でも自由に出入りできる筈だよ』
『ほんとう、やったね』嬉しい表現なのか、俺の鼻先を飛び回る。
『二つ目はエビス本体での転移。
目視出来る範囲なら、安全を確認次第で転移できるようにした。
ただし、安全確認はエビスがやるからね』
アリスがいきなり俺に頬擦りした。
涎を流してるのか、頬が濡れた。
『えっへっへへへ』
『魔力を通してみて』
『やるね』何ら問題なし。
俺は安堵しながら術式をコーティングした。
見届けたアリスの挙動がおかしい。
頬がピクピク、全身もピクピク、羽根もビクピク。
俺が何か言うより先に、そんなアリスが動いた。
奇声を上げてエビスの外郭に抱きつき、
中に転移するやコクピットに収まり、
開けた窓から遥か先の空中に転移してしまった。
一気にテスト飛行を終えて言う。
『ダン、これ良い。
ちょっと飛んでくる』
ちょっとで済む筈がない。
諦めた。
ただ一言。
『ドラゴンに喧嘩を売るのは禁止だよ』
俺はズームアップと魔波の追跡で監視した。
魔導師を警戒しての高度飛行。
そして転移に次ぐ転移。
暴走に近い飛行にエビスは耐えていた。
飽きるのも早い。
コースを一路、北にとった。
『アリス、ダンジョンに向かうのかい』
『そうよ、皆の顔を見てくるわね』
俺も向かいたいが、立場が俺を自由にしてくれない。
今日も予定が入っているのだ。
今日だけではない。
明日も明後日も。
学校が始まるまでスケジュールが目白押し。
売れっ子のスターか、それともドサ回りの芸人か・・・。
どちらなんだろう。
今朝もポール細川子爵が馬車に乗ってやって来た。
俺を馬車に乗せると説明があった。
「まずは寄親に紹介する。
相手も爵位を継いだばかりで友人も知人も少ない。
かなり年上だが、良い関係が築けると思う」
俺が領地を下賜された美濃地方の寄親はアレックス斎藤伯爵。
先代のバート斎藤伯爵が魔物の群れ撃退の功で侯爵に陞爵されると、
伯爵家を継いだのが嫡男の彼であった。
「とかくの噂を聞いています」
平民雀による貴族評価だ。
それは宮廷雀にも似て辛辣だ。
「街中で流れているアレかな」
「ええ。
噂を纏めると、良い人」
「それは、どうでもいい人と言う事だね。
まあ、そんな人柄だ。
先代様がアクが強い方だったから、そういう育ち方になるのも仕方ない。
でも仲良くしておいて損はない」
「はい」
アレックス斎藤伯爵家は北区画の貴族街にあった。
表門を入ると広い庭園。
真ん中を走る広い通路を進むと、でんと本館。
左右に別館。
奥に放牧場と厩舎、倉庫等。
最奥に使用人達が住まう長屋。
伯爵自身が使用人達を従えて出迎えてくれた。
「ようこそ、ダンタルニャン佐藤子爵殿」
本来であれば、伯爵自ら下の者を出迎える事は有り得ない事態。
加えて、この愛想良さ。
俺は先制パンチを受けた気分。
深く深く頭を下げた。
「これはこれは伯爵様。
自らお出迎えとは思いもしませんでした。
驚きで一杯です」
「はっはっは、気にされるな。
噂の人物を早く見たかったのだ」
「急遽の面会に応じて頂いて有難うございます」
「そう畏まらないでくれ。
我らは寄親と寄子、文字通りに親子だ。
気楽に気楽にな」
アレックス斎藤伯爵の視線が俺の隣のポール殿に向けられた。
「ポール細川子爵殿、今日はお手柔らかにな」
「今日はダンタルニャン殿の後見人として出向いただけです。
ご懸念は無用です」
二人の間で何かあったらしい。
聞いてみたいが、聞かぬのが貴族の礼儀。
素知らぬ顔を作った。
『データを取ってね』
何時もの事だから驚かない。
俺の魔女魔法で複製させるつもりなのだろう。
『王宮の厨房から盗んできたのかい』
『人聞きが悪いわね。
拾ったのよ、盗んじゃいないわ』
俺は樽の封に鼻を当て、それぞれの匂いを嗅いだ。
鼻の強化も、鑑定もしていないので、違いが分からない。
それを見ていたアリスが笑う。
『お子様にお酒が分かるのかしら』
『まだ無理みたい』
『ダン、早く大人になりなさい。
そうすれば否が応でも分かるようになるわ』
『急には大人になれないよ』
俺は魔女魔法を起動した。
この程度の物であれば鑑定から始める必要はない。
分析はするが分解も必要ない。
熟れた作業、三樽を一気にコピーした。
そして拾った三樽の隣に複製した三樽を並べた。
肝心のデーター収集にも怠りなし。
俺の表情を見たアリスに注意された。
『天狗になっちゃ駄目よ』とは言うものの、アリスも満更でもない様子。
鼻を大きく広げて六樽を一つ一つ嗅ぎ回る。
そして最後に大きく頷いた。
妖精がこれで良いのか。
俺は思わず嫌味を言った。
『お子様にお酒を造らせるって、どうなんだろう』
『はあ、ただのコピーでしょうが。
私に意見なんて百年早い。
自分で酒造りが出来るようになってから言いなさいよ』手強い。
『俺は百年も生きられないよ』だって人間だもの。
『何事も修業よ、修業』言いながら六樽を収納して行く。
口では敵わないので話題を変えた。
『エビスを出して』
激しく反応するアリス。
『エビス・・・、もしかして、もしかするの』
『そうだよ』
アリスが収納庫からエビスを取り出した。
俺はそれを宙に浮かべて、錬金魔法を起動した。
今回のは先に搭載した魔卵ではなく、
後で搭載した魔卵の術式のアップデートで済ますことにした。
時空スキル、転移の付与追加だ。
難しくはない、たぶん。
これまでの経験を元に書き加えて行く。
すんなり書き込めたので問題はない筈だ。
『アリス、二つ書き加えたよ。
一つはカーゴドアではなく、転移の術式で出入りできるようにした。
これで水中でも自由に出入りできる筈だよ』
『ほんとう、やったね』嬉しい表現なのか、俺の鼻先を飛び回る。
『二つ目はエビス本体での転移。
目視出来る範囲なら、安全を確認次第で転移できるようにした。
ただし、安全確認はエビスがやるからね』
アリスがいきなり俺に頬擦りした。
涎を流してるのか、頬が濡れた。
『えっへっへへへ』
『魔力を通してみて』
『やるね』何ら問題なし。
俺は安堵しながら術式をコーティングした。
見届けたアリスの挙動がおかしい。
頬がピクピク、全身もピクピク、羽根もビクピク。
俺が何か言うより先に、そんなアリスが動いた。
奇声を上げてエビスの外郭に抱きつき、
中に転移するやコクピットに収まり、
開けた窓から遥か先の空中に転移してしまった。
一気にテスト飛行を終えて言う。
『ダン、これ良い。
ちょっと飛んでくる』
ちょっとで済む筈がない。
諦めた。
ただ一言。
『ドラゴンに喧嘩を売るのは禁止だよ』
俺はズームアップと魔波の追跡で監視した。
魔導師を警戒しての高度飛行。
そして転移に次ぐ転移。
暴走に近い飛行にエビスは耐えていた。
飽きるのも早い。
コースを一路、北にとった。
『アリス、ダンジョンに向かうのかい』
『そうよ、皆の顔を見てくるわね』
俺も向かいたいが、立場が俺を自由にしてくれない。
今日も予定が入っているのだ。
今日だけではない。
明日も明後日も。
学校が始まるまでスケジュールが目白押し。
売れっ子のスターか、それともドサ回りの芸人か・・・。
どちらなんだろう。
今朝もポール細川子爵が馬車に乗ってやって来た。
俺を馬車に乗せると説明があった。
「まずは寄親に紹介する。
相手も爵位を継いだばかりで友人も知人も少ない。
かなり年上だが、良い関係が築けると思う」
俺が領地を下賜された美濃地方の寄親はアレックス斎藤伯爵。
先代のバート斎藤伯爵が魔物の群れ撃退の功で侯爵に陞爵されると、
伯爵家を継いだのが嫡男の彼であった。
「とかくの噂を聞いています」
平民雀による貴族評価だ。
それは宮廷雀にも似て辛辣だ。
「街中で流れているアレかな」
「ええ。
噂を纏めると、良い人」
「それは、どうでもいい人と言う事だね。
まあ、そんな人柄だ。
先代様がアクが強い方だったから、そういう育ち方になるのも仕方ない。
でも仲良くしておいて損はない」
「はい」
アレックス斎藤伯爵家は北区画の貴族街にあった。
表門を入ると広い庭園。
真ん中を走る広い通路を進むと、でんと本館。
左右に別館。
奥に放牧場と厩舎、倉庫等。
最奥に使用人達が住まう長屋。
伯爵自身が使用人達を従えて出迎えてくれた。
「ようこそ、ダンタルニャン佐藤子爵殿」
本来であれば、伯爵自ら下の者を出迎える事は有り得ない事態。
加えて、この愛想良さ。
俺は先制パンチを受けた気分。
深く深く頭を下げた。
「これはこれは伯爵様。
自らお出迎えとは思いもしませんでした。
驚きで一杯です」
「はっはっは、気にされるな。
噂の人物を早く見たかったのだ」
「急遽の面会に応じて頂いて有難うございます」
「そう畏まらないでくれ。
我らは寄親と寄子、文字通りに親子だ。
気楽に気楽にな」
アレックス斎藤伯爵の視線が俺の隣のポール殿に向けられた。
「ポール細川子爵殿、今日はお手柔らかにな」
「今日はダンタルニャン殿の後見人として出向いただけです。
ご懸念は無用です」
二人の間で何かあったらしい。
聞いてみたいが、聞かぬのが貴族の礼儀。
素知らぬ顔を作った。