金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

白銀の翼(四面楚歌)92

2011-11-27 09:58:31 | Weblog
 「真空飛び膝蹴り」とでも言うのだろうか。 
実に長い跳躍距離で、人間業とは思えなかった。
それを金髪の少年は軽々とやってのけた。
おあつらえ向きに振り返った相手の顎を捉え、打ち砕いてしまった。
 小太りの男は、「ぐふっ」と短い悲鳴を漏らし、ナイフを落とした。
ふらつく膝。
口から血と折れた歯を苦しそうに吐き出した。
そして崩れ落ちるように倒れた。
気を失ったようだ。
 少年が毬子の傍に体勢を整えながら着地した。
視線が絡むや少年は毬子を無視して、その場を離れた。
早足で、まるで逃げるかのように、先の路地に曲がって行く。
 毬子は慌てて礼を言おうとしたが、すでに少年は角に姿を消していた。
瞬時の事だったので、呼び止める事すら出来なかった。
 サクラが驚きつつ、不審そうに言う。
「彼奴、擦れ違ったままフリーマーケット会場に入った筈よ」
 ヒイラギも同意した。
「その通りだ。
目では確認してないが、奴の気配は会場の方に遠ざかっていた。
それっきり奴の気配は感じていない。
奇妙な気配だから、俺のアンテナが捉え損ねる事は無い筈なんだが」
「私もね。
尾行されていたのを気づかないなんて」
 毬子は疑問を呈す。
「尾行。誰を」
「アンタをさ」と呆れるサクラ。
「私、どうして」
「さあ、どうしてなんだろうね」
「類は友を呼ぶ、かな」と笑うヒイラギ。
「どういう事なの、意味が分からない」
 脳内会話を邪魔するように、百合子が毬子に抱きついて来た。
「マリ、大丈夫だった」
「私は大丈夫よ。これ、この通り」と両手を広げた。
 毬子の豊かな胸に百合子が顔を埋めた。
「良い香りがするわね」
「じゃれ合ってる場合か」と田村。
 その後ろで川口が、あからさまにホッとした顔。
 相手方は四人が路上に倒れていた。
残った一人はナンパな奴だけ。
それも逃げ腰だった。
 毬子の、「こんな連中に関わり合ってられないわ。行こう」と言う意見に、
みんなは頷いた。
そそくさと原宿方向へ向かう。
 途中で百合子が古着屋に立ち寄る事を提案。
喧嘩でTシャツを破いてしまった田村の為だ。
冷静に見れば、Tシャツは破れ血で汚れていた。
田村にはお似合いだが、巡邏中の警官に見つかれば騒ぎになる。

 フリーマーケット会場に入ったルドルフの足が止まった。
さっき擦れ違ったばかりの少女が妙に気に掛かった。
女剣士に似た少女だ。
何事にも関心を示さず、
誰にも興味を持たれないようにしていたのだが、・・・。
ルドルフというよりは、バンパイアの本能が赤信号を点しているのだ。
少女の醸し出す気配は只ならぬものであった。
自然に踵を返した。
 自分の気配を消して、少女の気配を慎重に追う。
すると直ぐに追い付いた。
 どういう分けかは知らないが、喧嘩を売られているではないか。
相手は五人。
口ばかりの奴から、腕の立ちそうな奴まで。
少女一人でも太刀打ち出来そうだ。
 実際、少女は美しく戦った。
見事な身体捌きで二人を倒した。
 ルドルフは居ても立ってもいられなくなった。
少女の戦い振りを目にしたばかりにバンパイアの血が沸騰したのだ。
「目立つな」と必死で押さえるのだが、・・・。
 気づいた時には身体が宙を跳んでいた。
バンパイアの荒々しい血が全てに優先し、喧嘩に参戦。
振り返った男の顎を膝蹴りで砕いて、少女の傍に着地した。
 視線が合う。
少女から異な気が放たれているではないか。
蜘蛛の糸のように絡み付き、探るような気の流れ。
方術師か、はたまた魔女の類なのか。
やはり只者ではなかった。
 慌てて、逃げるように少女から離れた。
足早に一番手前の路地を曲がる。




人に感染した新種の豚インフルが発見されました。
どうやら人から人へ感染し易いウイルスのようです。
さらに変異凶悪化して世界的大流行するのでしょうか。
 世界は危機に瀕しています。
日本を含めた世界の地震災害。
気象異変。
季節外れの大積雪、、洪大水、大干ばつ。
いずれ食糧問題に発展する筈です。
 ユーロ圏では国債問題で危機に貧しています。
資金が必要にも関わらず、新規国債が完売しません。
これはヨーロッパのみの問題ではありません。
国際的に国債の信用が低下し、利回りが高騰しています。
果たして高利でも買い手が居るのかどうか怪しいものです。
世界の市場を回遊していた無数の資金も銀行口座に回帰を始めたとか。
 もうひとつ。
中国は温州の金融システムが崩壊の危機です。
経営者の自殺、夜逃げが多発しているそうです。
これは温州のみの問題ではありません。
金融システムは全土とリンクしている筈です。
どこまで拡散し、どこまで深化しているのか。
本当に温州ショックは起こるのでしょうか。




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白銀の翼(四面楚歌)91

2011-11-25 20:57:07 | Weblog
 小太りの男は慎重であった。
右手に構えたナイフを微妙な拍子で左右に小さく揺らしながら、
切っ掛けを待っていた。
 毬子の背後から声。
田村が、「こっちは倒した。手を貸そうか」と。
 毬子は至極当然のように後ろを振り向いた。
破れたTシャツに擦り傷だらけの両腕。
流れる鼻血を拭いながらも田村は元気一杯。
彼の足下で相手は伸びていた。
おそらくは絞め落としたに違いない。
「私は大丈夫。百合子の傍に居て」と毬子。
 小太りの男に誘いの隙を見せたのだが乗ってはこなかった。
ナンパな奴の前例があったからだろう。
毬子が視線を戻すと相手は小馬鹿にしたような顔をした。
「その手に引っ掛かるか」と。
 毬子は、「仕様がないな」といった調子で改めて身構えた。
その僅かな緩慢な動作を相手は見逃さなかった。
行き成り予備動作も見せずに飛び込んで来た。
意外な脚力。
腹部目掛けてに右手のナイフが伸びて来た。
 毬子の目算が狂った。
相手の攻撃の起こりが読めなかったのだ。
だからといって臆する毬子ではなかった。
擦れ違うように躱しながら、左の手刀で相手の後頭部を追い打とうとした。
 まるで見透かしたかのように相手の身体が斜め前に回転した。
毬子の手刀を透かすと同時に、左足の後ろ回し蹴りを浴びせてきたのだ。
計算した上での連続攻撃かどうかは分からないが、
毬子にとっては意表を突かれたも同然。
何とかバックステップ、皮一枚で逃れた。
頬に蹴り風が当る。
 相手は体勢を整えもせず追うようにして右の前蹴りを放って来た。
バランスは悪くとも威力がある。
狙いも的確。
モロに鳩尾に喰らえば吐くだけでは済まないだろう。
 毬子は左にサイドステップしながら間合いを大きく取った。
相手の力量を甘く視ていた。
慎重にやらねば。
 小太りの男が皮肉そうな顔をした。
「おやおや、逃げるのが上手いな」と。
 背後から誰かが駆けて来る足音。
「代わるぞ」と田村。
 それを毬子は片手を水平に上げて制した。
「油断しただけ。次は大丈夫」
 田村に場所は譲らない。
改めて身構えた。
両の手は下ろしたままの自然体で相手を睨め付ける。
 小太りの男は自信を得たのか、ジリジリと間合いを詰めて来た。
 そんな時だった。
遠巻きしている人垣から一つの人影。
小太りの男の背後からだ。
フリーマーケット会場入り口付近で擦れ違った金髪の少年ではないか。
彼は人垣を抜け出ると、こちらに向かって来た。
同時に、あの妖しげな気が力を増す。
荒々しげな気も混じり、とてもただの少年とは思えない。
 毬子の目の動きに気づいただろうに、小太りの男は無視をした。
フェイントと読んだのだろう。
 毬子は少年と視線を交わした。
不思議な色をしていた。
人生の深淵を覗くかのような色。
前に感じた無邪気さは欠片もない。
 毬子は目の前の小太りの男ではなく、少年の行動が気になった。
仲裁に入る気配は感じ取れない。一体何を、・・・。
毬子は少年から視線を外せない。
 少年は顔色一つ変えず、遠間から行き成り跳躍をした。
その身の軽いこと。加えてスピードもある。
まるで離陸する戦闘機を思わせた。
 小太りの男も、ようやくの事で背後の気配に気づいた。
ナイフで毬子を牽制しながら首だけ捻って振り返る。
 そこを少年の膝蹴りが直撃。
跳躍の勢いのまま小太りの男の顎を打ち砕いた。




皇族の減少が続く今、
女性皇族方が婚姻で皇籍を離れる「皇室典範」の規定が問題視されています。
どうやら量的に安定した皇位継承者を確保したい意向のようです。
でも、その前に皇族の人権はどうなっているのでしょう。
休暇旅行の自由はあるのでしょうか。
職業選択の自由は。
定年制は。
自由に居住地は選べるのでしょうか。
その他諸々、・・・。




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白銀の翼(四面楚歌)90

2011-11-20 08:43:19 | Weblog
 男達は合せて五人。
うちの二人はフリーマーケット会場でナンパしてきた奴等だ。
毬子の手強い拒否と、割り込んで来た田村と川口の大柄な体躯の圧力に、
尻尾を巻いて逃げた筈だった。
ところが会場に居合わせた仲間三人を誘い、毬子達を探し回っていたらしい。
何れもが額から汗を流していた。
 新顔の三人は喧嘩慣れしているようで、
汗を手で吹き払いながら前後を塞いだ。
前に二人。後ろに一人。
足運びに微塵も迷いがない。
暴力沙汰と決め付けているのだろう。
誰も何も言わない。
 川口が情け無い悲鳴を漏らした。
身体こそ大きいが無駄な脂肪の塊。
暴力沙汰は大の苦手なのだ。
 ナンパに失敗した一人が薄ら笑いを浮かべながら口を開いた。
「お嬢さん達、さっきのことは許してやるから、ちょっと顔貸しなよ」と。
 それを毬子が一刀両断。
「アンタ、馬鹿なの」
 途端に相手の顔色が変わった。
「人が下手に出てやれば調子に乗りやがって」と怒鳴る。
 サクラが、「本物の馬鹿が現れたわね」と笑えば、
ヒイラギも笑って、「マリは馬鹿の相手が得意だからな」と応じた。
毬子が、「私はか弱い女子よ」と嘆くも二人は答えない。
 裏通りとはいえ、通行人は絶えない。
それでも五人は人目を気にしない。
頭に血が上っている事もあるが、他人に無関心な地域性という事実も大きい。
実際、行き交う者達は現場を遠巻きするか、避けて通り、
誰一人として仲介に入らない。
 百合子が毬子に縋り付いた。
「大丈夫」
「大丈夫よ、任せて」と毬子は答え、
百合子の手に手を重ねながら、唯一の戦力である田村を見た。
 人数的には不利だが、田村は臆していない。
柔道のキャリアは長く実力があるにも関わらず、性格ゆえに部活では冷遇され、
今年は春の都大会はおろか地区大会すら出場を許されず、不満を溜めていた。
 その田村に毬子は指示をした。
「美津夫、前の二人は私に任せて。アンタは後ろ、いいわね」
 田村は不満そうに頭を振った。
「俺に前の二人を任せてくれ」
「二人が相手だとアンタは必ず暴走するわ。分かるでしょう」
「・・・、分かった。しかし、お前は一人で二人を相手にするのか」
「侮らないで、少ないくらいよ」と言いながら次は川口に指示をした。
「義男、アンタは百合子の盾よ。
アンタは怪我しても良いから、しっかり百合子を守るのよ」
 震えながらも頷く川口。
頼り無い足取りで百合子の傍に歩み寄った。
 毬子は自然に丹田に気を集めていた。
息を長く吐き、体内から澱んだ気を排除し、ゆっくりと新鮮な空気を吸う。
吐く、吸う。これを意識せずに繰り返していた。
亡き祖父が鍛えてくれたお蔭だ。
長年続けた呼吸法なので丹田が暖まるのは早い。
それを待ってから二歩、三歩と前に出た。
肩幅の広さで半身となり、軽く膝を曲げた。
多人数を相手とするなら二刀流しかない。
両の手にそれぞれ小太刀を持つ感じで身構えるのだが、
手の内を見透かされない為に、両の手は下ろしたまま。
 祖父が遊び気分で二刀流を教えてくれた。
「使う機会はないと思うが」と。
 遊び気分の筈が、教え始めると祖父は熱が入った。
短い期間であったが、とことん二刀流を教授してくれた。
それが今になって活きるとは。
 それに自分は一人ではない。
脳内に居候しているヒイラギが、同じ目を、耳を通して、同じ光景を観ていた。
サクラも神社に本体を残したまま、毬子を通して全てを観ていた。
二人は邪魔にならぬように押し黙りながらも、
暖かい気で毬子を優しく包み込む。
 ナンパの二人は仲間の邪魔にならぬように後ろに下がればいいものを、
数的優位であるという自信からか、その場を離れようとはしない。
 毬子にとって問題なのはナンパな二人ではなく、喧嘩慣れしてそうな二人。
彼女より長身の男と、彼女と同身長で小太りの男。
その二人は相手が女なので、睨み付けてはくるものの、
今一つ本気になれないらしい。
毬子の出方を待っていた。
 と、後ろで怒鳴り合う声。
そして、ぶつかり合う音。
田村が相手に組み付いたのだろう。
 毬子は後方を振り返った。
田村の顔面に相手が頭突きを入れていた。
流れる鼻血。それでも田村は動じない。
相手を掴まえたまま、腰に乗せるようにして捻って路上に投げた。
 ナンパな一人が動いた。
毬子が余所見してしている隙を狙ったのだ。
貧相な笑みを浮かべ、女と侮って組み付いてきた。
 誘いの隙にまんまと乗ってくるとは。
毬子は伸びて来た相手の手を払いながら、間近に迫った顔面の右頬に肘打ち。
続けて股間に蹴りをみまう。
 相手は、くぐもった悲鳴を上げて、その場に蹲る。
それを見て、喧嘩慣れした二人が動いた。
もう一人のナンパな奴を後ろに下げ、毬子に正対した。
 二人同時には来ないらしい。
長身の方が仲間を片手を上げて押し留め、一歩前に出た。
両手を挙げて身構える。
空手か、ボクシングか。
一呼吸置いて突っ込んで来た。
荒いステップ。
ジャブ、ジャブの連発。
 ボクシングはテレビで見た事があるだけ。
自分に向かってジャブが繰り出される日がくるとは思わなかった。
しかし、祖父の木刀による突きに比べると如何ともし難い。
場数は踏んでも技の鍛錬を怠っているようだ。
余裕を持って躱せる。
 タイミングを計り、繰り出されたジャブを左の小太刀で外に受け流しながら、
同時に腰を回転させ、右の小太刀で相手の喉元を突く。
流れるような一連の動作。
本物の小太刀なら血が噴き出すだろうが、突いたのは五本の指。
ただの手刀であるが、空手なら貫手とも。
指先といえども鍛えられない喉元であるので効果は覿面。
相手は喉元を両手で押さえてゼーゼーと荒い呼吸。
苦しいのか唾液を吐く。
 ヒイラギとサクラが同時に怒鳴った。
「とどめを刺せ」と。
 言われずとも分かっていた。
毬子は機械的に相手の股間を激しく蹴り上げた。
まるでサッカー。
続けて、前のめりに崩れる相手の顎に、容赦なく膝蹴りを喰らわせた。
その衝撃か、相手は欠けた歯混じりの血を吐き、
横倒しになって全身を震わせ藻掻き苦しむ。
 残った小太りの男が顔色を変え、素早くナイフを取りだした。
刃渡り二十センチほど。
手慣れた動作で構え、毬子を睨む。
 毬子は目の前にナイフを構えられても動じない。
百合子の家の庭で辻斬りと白刃を交えた経験が生きていた。
あの時は日本刀と日本刀であった。
今回は素手でナイフに相対するわけであるが、どうということはない。
怖さの種類が違う。
相手の視線を平然と受け止めた。
じっと相手が動くのを待つ。
ここは、「後の先」であろう。
相手の動きを見定め、それより早く攻撃する。




 父が亡くなったので、喪主をしてきました。
癌や何やかやで入退院を繰り返した挙句の旅路です。
これで父は楽になった筈です。
 思えば親孝行をした事がありません。
残念な馬鹿息子でした。
そんな息子を哀れんだか、父はサプライズを残してくれました。
借金です。
父が浪費しての借金ではありません。
親戚の保証人になっていたので、引っ被ってしまったのです。
都会ならいざ知らず、田舎では親戚から保証人を頼まれると断りにくいのです。
借金した当の本人は、ただいま生活保護を受けているとの噂。
そんなこんなな事情なのです。
 誰かが言っていました。
「為せば成る、成さねばならぬ何事も。
成らぬは人の成さぬなりけり」と。
 たった一度の親孝行の機会なので返済しようと思います。
ただ、・・・。
貯金を切り崩すのは嫌です。
「そんな類の借金ではない」と判断しました。
なので、パチンコで稼いで返済しようと思います。
「為せば成る」精神で頑張ります。




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白銀の翼(四面楚歌)89

2011-11-17 21:44:35 | Weblog
 強い日差しを感じて目覚めた。
昨夜、窓越しに月を見上げたたまま寝入ったので、
カーテンを閉じるのを忘れていた。
ベッドで裸の上半身を起こし外を見た。
太陽の高さから判断すると、いつの間にやら昼前ではないか。
 ルドルフ・フォン・ゲルツの東京生活はすでに十日を過ぎていた。
吸血鬼ギルドの追跡を振り切ったのを確認し、
アンネ・オールマンが用意しておいたマンションに入居していた。
表通りには交番があり安心して休養が取れた。
平和すぎるのが少々気怠い。
 隣で眠っていたクララ・エルガーが目覚めた。
「ルドルフ、眩しいわ」と言いながらシーツを手繰り寄せ、
引き締まった肢体を隠すように覆う。
 ルドルフは返事する代わりにカーテンを閉じてベッドから抜け出、
全裸で姿見の前に立った。
バンパイアにしては、じつに普通の体躯。
長身ではあるものの筋肉質ではないのだ。
ふくよかな肉付きであった。
そこにはバンパイアの欠片もない。
「今日、アンネ様がいらっしゃるそうよ」とクララ。
 マンション入居時に顔を合せたが、その時には渡米の話しは出なかった。
あの日は遠慮していただけなのだろう。
おそらく今日、その話しになる。
なんだか会うのが億劫、と言うか面倒。
 ルドルフはクローゼットへと歩いた。
そこは東京で購入した衣類で溢れていた。
アンネがクララに、「ルドルフの衣服は時代にそぐわない」と指摘し、
彼が身に着けていた物を全て捨てさせ、見掛けの年齢に相応しい物を選ばせた。
 色落ちしたジーンズと橙色の半袖シャツを身に纏った。
最初は違和感があったが今はその肌触りに慣れた。
ジーンズと半袖シャツに命の一部を分け与え、前のように外皮同然とした。
 クララが、「外出でもするの」と姉のような口振りで尋ねてきた。
「近くでフリーマーケットをやってる筈だから覗いてくる」
「目立っては駄目よ。
危ないと思ったら関わり合いにならないで逃げる事。いいわね」
「分かってる」
「夕方までには戻るのよ。アンネ様がいらっしゃるから」と口喧しい。
 生年月日からしても、精神年齢からしても、
ルドルフの方が明らかに年上であったが、
現代の生活に詳しいのはクララという引け目があり、敢えて逆らわない。
 エレベーターで下に降りた。
このマンションは富裕層向けで、大半は外資関係者で占められていた。
居住者のプライバシーを守るセキュリティが売りで、
実際に不審者の侵入を許した事は一度もない。
 周辺環境も素晴らしい。
傍に神宮外苑、少し歩くと青山墓地に原宿。
渋谷や六本木も歩けない距離ではない。
 玄関を出ると正面の信号を渡り、右に向かう。
この界隈は日祭日も平日も関係無く賑わっていた。
神宮外苑のスタジアム等の諸施設や並木道が人を呼び寄せるからだろう。
 行き交う人波の向こうに、異な気配の者がいた。
バンパイアや吸血鬼ではない。
かといって呪術師の類でもない。
 それはフリーマーケット会場から出て来た。
うら若い乙女ではないか。
清楚な乙女と肩を並べ、大柄な少年二人を従えていた。
「二人の姫に従者二人」といった趣があり、
行き交う者達が彼女等をチラチラト盗み見していた。
まあ、それも無理からぬ事であろう。
 先方もルドルフの存在に気づいたらしい。
何気なさそうに視線を向けてきた。
キリッとした顔立ちの美少年。否、豊かな胸が少女である事を主張していた。
長身スレンダーで、歩く動作や隣の少女と話す仕草に華がある。
そしてルドルフに向けた視線には、一瞬だが射抜かん力強さが込められていた。
 昔、大分で戦った女剣士を思い出した。
不可思議な剣を操る女で、女自身の力量というより、
剣に潜むモノと一体となり、ルドルフに果敢にも挑んできた。
あの時の女剣士の醸し出した雰囲気が、目の前の少女に瓜二つなのだ。
 少女の正体が分からぬだけに、関わらぬ事が肝心、肝心。
不自然にならぬように視線を外し、擦れ違う。
 それでも長身の少女が気になった。
少し離れてから振り返った。
しかし従者の少年二人が大柄なせいで後頭部しか見えない。

 百合子は毬子の視線の動きを見逃さなかった。
そっと耳元で囁いた。
「擦れ違った男の子が好みなの」
「まさか、・・・妙な感じを受けたのよ」
「えっ、どんな」
 毬子は表現に苦しむ。
「んー、・・・無茶な表現だけど、羊の皮を被った狼かな」
「狼か、見かけは良さそうな感じだったけどね」
「人は見掛けじゃないのよ」
 百合子が頷いた。
「マリの人を見る目を疑った事はないわ」
 サクラが毬子に伝えた。
「彼奴、魔に取り憑かれているわね」
「魔に取り憑かれると、どうなるの」
「アンタも似たようなモノじゃない」
「私が、・・・」
 ヒイラギが怒って割り込む。
「俺はマリに取り憑いてはいない。
居候しているだけで、害なすつもりは毛頭ない。
それに俺は魔じゃない。成仏できないだけだ」
 サクラが笑う。
「アンタが魔とは断定してないわ。
似たようなモノと言ってるのよ。分かった」
 毬子もサクラに抗議した。
「私は普通の人間だし、ヒイラギは私の大事な友達なの。悪く言わないで」
 サクラがしらむ。
「こういう時だけ二人は気が合うのね」
 原宿への裏通りを辿っていると川口義男が後ろから情け無い声を出した。
「ゆっくり歩いてくれよ」と重い足取り。
 振り返ると大量に流れる汗を小さなハンカチで拭っていた。
 田村美津夫が嬉しそうに言う。
「脂汗に火を点ければ燃えるかな」
 聞えたようで、川口は嫌そうに田村から離れた。
 それでも田村は続けた。
「燃えれば臭うのか。それは嫌だ、嫌だ」
 趣味は一致しているが、田村は暇さえあれば容赦なく川口をいたぶる。
ところが川口は田村の苛めを心底から嫌がってはいない。
仲直りするのは早く、何事につけ田村に懐いていた。
 そこに複数の足音が響いた。
数人の若い男達が険しい表情で駆けて来た。
そして、「待ちなよ」と毬子達を取り囲んだ。

白銀の翼(四面楚歌)88

2011-11-06 10:01:27 | Weblog
 サクラが頭の中で囁いた。
「それが良いわね」
 榊毬子はサクラに言われるがまま、
店頭のワゴンから小さな縫いぐるみを手に取った。
手の平から少しだけはみ出すサイズのピンクの猫であった。
奇妙に両耳だけが兎のように長く、目は漆黒の黒。
色と耳以外は猫そのもの。
感触からすると、中身は綿でも詰めてあるのだろう。
 神宮外苑のフリーマーケットに来ていた。
広い駐車場が閉鎖され、フリーマーケットの会場になっているのだ。
出店が所狭しと立ち並び、大勢の客が来場。
夏も間近いが、ここだけは既に真夏を思わせる熱気で溢れていた。
 毬子と野上百合子は汗をかきながら店頭を見歩いていた。
二人が足を止めたのがワゴン二台を置いただけの縫いぐるみショップ。
右のワゴンはリサイクル物と覚しき縫いぐるみ人形が詰め込まれ、
左のワゴンには手作りの新作物と分かる物ばかり。
 毬子が手にしているのは新作物のピンクの猫。
「これは」
「耳長のピンク猫ですよ」と店番の女性が嬉しそうに説明した。
「どこかの国に実際に居るの」
女性が得意そうに、「ええ。私の脳内に」と答えた。
 どうやら彼女の手作りの一品物らしい。
そこいらの女子なら、「可愛い」と言うのかも知れない。
でも、毬子の好みではない。
ワゴンに戻そうかどうか考えていると、サクラが怒る。
「買いなさいよ」
「えっ、買うの」
「当たり前でしょう、アンタ。何も買わないで帰る気なの。寂しい女ね」
 サクラは、そもそもは言霊が集まって生じた精霊のはず。
性別とは無縁の存在だと理解していた。
それなのにサクラは今ではすっかりオバさん気質になっていた。
 毬子の脳内に居候する霊魂、ヒイラギが割り込んできた。
「毬子にピンクの猫はないだろう。似合わなさすぎ」と含み笑い。
「悪かったわね、女の子らしくなくて」と毬子は反論。
 サクラやヒイラギが相手の論争は疲れるだけ。
仕様がないとばかりに諦めてピンクの猫を購入した。
 それを見て百合子が意外そうに感想を漏らした。
「マリもピンクが理解出来るようになったのね」
 そして彼女は隣のワゴンから何やら掴み取った。
本人の顔と同じ位の大きさのベージュ色の愛くるしい熊。
腹部と頬がポッチャリしているのが御愛敬。
おそらくは昔の市販品ではなかろうか。
「私はこれにするわ」
 毬子も、「私もそれにすれば良かった」と思ったのだが、
サクラに、「遅かったわね」と笑われる。
 買い物を済ませた二人は近くの木陰に身を寄せた。
日傘など持って来ておらず、帽子も被っていない身には、
今日の日差しはキツイ。
「だいたい見たわね。次はどうする。原宿にでも向かう」と百合子。
 学校の絵画部に所属する彼女は、
描くモノに困ると街をブラブラする癖がある。
そういう時、
毬子は、「美術館巡りでもすれば」と薦めるのだが、
彼女は、「模倣になりそうだから、それは嫌なの」と拒否をする。
今日のフリーマーケットは、そんな彼女の提案であった。
まあ、その気持、分からなくもない。
 ニヤケ顔の二人組が現れた。
「彼女たち-」と語尾を伸ばした言葉が飛んで来る。
こんな人目の多いとこでナンパとは。
 二人が自惚れ顔で毬子と百合子を見比べた。
こういう手合いは百合子のような温和しそうに見える美人を真っ先に選ぶ。
無視していると、一人が親しげに百合子の肩に手を伸ばしてきた。
それを毬子が、「やめなさい」と途中ではたき落とした。
「痛いな-」と其奴が毬子を睨む。
 取りなすように別の一人が仲間に、
「まあまあ、相手は女の子だし、優しくしようよ」と言いながら毬子を見、
「彼女、安心して、こいつは気は短いけど、根は良い奴だから」と。
 百合子には優しく。毬子にはキツク。
手管で二人をモノにしようと考えているのだろう。
そんなゲスな思惑が見え見え。
 毬子は笑ってしまう。
「アンタ達、馬鹿なの。邪魔だから向こうへ行って」
 途端に二人の顔色が変わった。
最初の一人が、「なんだとー」と低い声で威嚇してきた。
風体からすると大学生か。
二人の顔が真っ赤に染まり始めた。
場所柄、行き交う者達が多いというのに、目に入らないのだろうか。
それとも傍目を気にしない口なのか。
 毬子は百合子を庇うように前に出た。
二人を交互に見比べた。
目は怒りに燃えているが、身体の構えは素人そのもの。
喧嘩にも慣れてなさそうだ。
どうやら口喧嘩が得意らしい。
女が相手とみて凄んではみたものの、落とし所に困っている様子がありあり。
 毬子は覚悟を決めた。
手刀での突き技。
相手の隙だらけの喉仏を潰す以外にない。
 ヒイラギが叫ぶ。
「違う、違う、目潰しだろう」
 サクラが反対する。
「血が流れちゃったら美しくないわよ」
「こんな連中に情けをかけるな。潰してしまえ」
「いつまで『生ける武神』のつもりなの」
「死ぬまでだ」
「もう死んでるじゃないの」
「あっ、・・・まあ肉体はな」
 行き交う者達も険悪な空気に気づいたらしい。
避けながら過ぎて行く。
誰一人として仲介に入ろうとしない。
 そこに、「どうした」と声。
同級生の田村美津夫が毬子と百合子に声をかけながら、二人の男を牽制する。
田村の後ろには川口義男もいた。
柔道で鍛えた田村と、太っているだけの川口。
それでも二人並ぶと迫力がある。
「ナンパされてるんだか、喧嘩を売られてるんだか」と毬子。
「手を貸そうか」
 それより早く二人の男は何も言わずに立ち去った。
「あらら」と川口。
「ほっとしてるんだろう」と田村が川口の脇腹を突っつく。
 二人はそれぞれ紙袋を手にしていた。
たぶん中古のエロゲームを何本も購入したのだろう。
 百合子が二人に、「ありがとう」と礼を言う。
それに気をよくする二人。
教室で見慣れている筈なのに、この二人も温和しそうな美人には弱い。
 毬子は多少だがムッとした。
「アンタ達、買い物は終わったの」
「終わったけど、何か」と田村。
「原宿まで歩くから、虫除けに付いて来なさいよ」
「虫除けか」と肩を竦めて嘆く田村。
 川口一人はニコニコ。
そんな川口に田村が嫌みを飛ばした。
「原宿まで歩けるのか」
 太っている事を当て擦られるが、それでも川口はニコニコ。
「大丈夫、大丈夫」と、大量に流れる汗をタオルを取りだして拭う。
 四人で原宿へ向かうため、会場を出ようとした時だった。
異様な気配を感じた。
 ヒイラギが、「何かが近付いて来る。警戒しろ」と言えば、
サクラが、「妖しのようなモノね」と。
 それは前方から、こちらに向かって歩いて来た。
長身の、あどけない容貌をした金髪の少年。
色落ちしたジーンズに橙色の半袖シャツ。
普通の白人少年にしか見えない。
どうやらフリーマーケットに来たらしい。
 毬子は何気無さそうに少年を見た。
無邪気そうな顔をしている。
しかし擦れ違う際、妖気に気づいた。
身に纏う妖気は、少ないとはいえ隠しようがないものだった。




TPP環太平洋連携協定への交渉参加問題が沸騰しています。
賛成、反対と。
でも、大事な問題を忘れています。
日本にはタフな交渉人がいません。
米国に尻尾を振る人間は大勢いますが、
日本の国益の為に働く者が皆無なのです。
売国的行為をなす者ばかり。
・・・。
交渉うんぬんする前に交渉人の育成が先のようで、・・・。
資質ある最高責任者とタフな交渉人が、・・・。

ここに残念なお知らせ。
最高責任者の泥鰌が世界の爺さんが集まるG20で、
「2010年代半ばまでに消費税を、段階的に10%まで引き上げる」
と明言してしまった。
党議決定もしない、国会論議もしない、・・・。
泥鰌が泥から出て来て、欧州で不意打ち発言。
上意下達か、・・・。
 前は自民党政治にヘキヘキしていました。
彼等が民主主義を無視し、官僚の意を汲むだけの政治を行なっていたからです。
そこで民主党が政権を取って喜びました。
真の民社主義になると思ったのです。
ところが、駄目、駄目、鳩菅に続く泥鰌。
三代目にして、ついに官僚の意を汲むだけの政治に戻ってしまいました。
これじゃ自民党と違わないじゃ~ん。
 何だかTPPも、・・・。
おそらく上意下達で交渉に参加し、米国に唯々諾々で従うつもりのようです。
米国の望む強者の利益優先するだけの、大きな格差在る社会実現に。
共存共栄の日本文化を壊し、米国型の貪欲だけの社会に。




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