金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(伯爵)9

2022-11-27 10:24:58 | Weblog
 ワイバーンがこちらに気付いた。
獲物と認識した様で、こちらにコースを変更して来た。
喜び勇んで速度を上げて来た。

 アリスは仲間の提案を受諾した。
面白い、それだけで充分だ。
エビス飛行隊はワイバーンに相対する形、一列縦隊となった。
先頭はアリス、他は適当に。
と、アリスの直ぐ後ろになった機体から順に姿を消して行く。
転移だ。
ワイバーンに覚られる事無く戦場から離脱した。

 仲間の離脱を確認したアリスは作戦行動を開始した。
妖精魔法をぶちかました。
ウィンドボール攻撃。
それはワイバーンの風魔法で相殺された。
相殺されたと同時に怒りも買ったようだ。
殺意メラメラ。
 アリスは逃げる様に反転した。
ワイバーンが追って来た。
アリスは右に大きく旋回した。
再びウィンドボール攻撃。
またもや相殺された。
怒り増幅で追って来るワイバーン
 アリスは確信した。
釣り上げた、と。
アリスは本来のコースに戻った。
そして速度を緩めた。
ここからが肝心なのだ。
手が届くようで届かない様に距離を調節しつつ、逃げた。
否、誘導した。

 目的地が見えてきた。
ジイラール教団が構える修行道場。
小さな盆地の中央にあり、巨大で高い外壁に囲われていた。
丘の上の一番大きな建物が道場で、
それを囲む建物群は関連の宗教施設と宿泊施設だ。
知らぬ人は開拓村か中継地と思うだろうが、
ここは世情名高い暗殺教団の拠点であった。

 アリスはワイバーンの怒りに火を注ぐ事にした。
急反転し、火槍・ファイアスピアの一撃。
これまでの攻撃はただのお遊び。
今度は手傷を負わせるのが目的。
 ワイバーンは風魔法で相殺しようとするが、簡単に貫通を許す。
頬を抉る傷。
狙い通り。
アリスはほくそ笑んだ。
ワイバーンはそれでも怯まない。
猪突猛進の勢いで追って来た。
アリスにはワイバーンの頭が沸騰しているかの様に見えた。

 アリスはワイバーンを引き連れて一直線に修行道場を目指した。
そして手前にて急降下。
屋根全体に向けて風槍・ウィンドスピアを連射した。
これがランクAの本気。
次々に穴を開けた。
計九つの穴。
その一つにアリスは飛び込んだ。
 考えも無しにワイバーンも追随した。
その大きな身体で穴を通り抜けられる訳がない。
急降下の勢いと、自重でもって屋根自体を壊した。
ワイバーン自身の悲鳴と崩壊する屋根の轟音。
砕かれた屋根の瓦礫とワイバーンの体重が階下天井に圧し掛かった。
頑丈に建てられた五階建てが揺れ震えた。

 いち早く脱出したアリスの機体は無傷。
速度を維持しながら、大きく反転して上空へ上がった。
そこへ先に転移し、高々度で待機していた仲間達が合流して来た。
『アリス、上手いじゃん』
『ワイバーンの新しい活用法ね』
『でも本当、えぐいよね』
 口々に褒めそやす。
アリスは得意満面。
『でしょう、でしょう、褒めて、もっともっと褒めて』
 これを提案した妖精が呟く。
『これがアリスの活用法なのね』
 
 眼下で道場が二つに割れた。
左右に雪崩る。
居合わせた教団の者達も巻き込まれた筈だが、
その悲鳴は轟音に掻き消されて全く聞こえない。
崩れ落ちる瓦礫が粉塵を発生させた。
一帯を霧状に覆う。
茶色い霧が惨状を隠した。

 周囲の建物から人々が姿を現した。
まるで餌に群がる蟻。
粉塵を吸わぬ様に周囲を取り囲む。
 アリス達は連中を鑑定した。
何れも教団の職員ばかり。
教義や布教に関わる司教や司祭は少なく事務系や職人系が多い。
おそらく司教や司祭は道場に居たのであろう。
『アリス、大物がいないわね」』
 確かに教皇や大司教がいない。
彼らまで都合よく道場に居合わせたとは思えない。
アリスは思い出した。
イマン・ホーンの肩書は、巫だった。
対になるのは覡。
巫覡。
女が巫で男が覡。
『巫と覡を探してちょうだい』

 と、粉塵の中に魔波が出現した。
考えられるは一つしかない。
それが一方に向けて強烈な雄叫び。
風魔法混じりなので、その威力で一角の粉塵を吹き飛ばした。
ワイバーンが生き残っていた。
瓦礫の真っ只中で仁王立ち。
粉塵が気に食わぬのだろう。
周囲に向けて数回雄叫び。
それでもって全ての粉塵を掻き消した。

 慌てたのは周囲の者達。
形相を変えて逃げて行く。
その様、散る雲蚊の如し。
建物に戻る者、外壁の方へ走る者、人それぞれ。
 暫しすると、驚いた事に再び現場に駆け戻って来る者達がいた。
彼等彼女等は斧を持っていた。
斧を肩に担ぎ、ワイバーンを目指していた。
アリスは鑑定した。
職業、ジイラール教団職員、
その中の役職は女は巫、男は覡。
これが暗殺教団の暗殺者達なのだろう。

 暗殺者達は一瞬たりとも怯まない。
足を緩める事なくワイバーンに挑む。
一人が正面から跳んだ。
身体強化済みのようで、ワイバーンの顔の高さ。
一撃を入れようとするが、風魔法で相殺され、弾き返された。
が、それは牽制であった。
その隙にもう一人が尻尾の先に一撃を入れた。
喰い込む。
「ギャーオー」
 ワイバーンが正直に悲鳴した。
三人目が傷付いた箇所に二撃目を加えた。
それで断ち切った。
尻尾の先が宙に舞う。
「ヴギャー、ギギャー」
 ワイバーンが喚きながら忙しなく四つ足や翼を動かす。
痛みに耐え切れぬらしい。
だが、飛ぶ気配はない。
ここまでの一連の騒ぎで消耗しているのだろう。

昨日今日明日あさって。(伯爵)8

2022-11-20 08:55:21 | Weblog
「前もって言っとくよ。
魔法でのアシストは禁止。
当然、身体強化も禁止。
自分の素の力でプレーすること、いいね」
 俺は優しいサーブを心掛けた。
それが女児達の適応を早めた。
「簡単ね」モニカ。
「返せば良いのね」マーリン。
「楽勝楽勝」キャロル。
 舐めた言葉だ。
でも我慢我慢。
今日の目的は別にある。

 女児達は数打つうちに慣れてきたのか、こちらへの好返球が増えた。
でも利き腕への負担が掛かるので疲れも早い。
分かり易い顔色。
「痛める前にお父さんと交替した方が良いよ」
 一人二人三人とお父さんに交替した。
全員がお父さんになって、ようやくデモプレイだ。
まずはテニスを理解して貰う。
より優しくサーブした。
ついでに言葉で褒める褒める。
楽しさと面白さ全開だ。

 メイド達が前もって用意したタオルをキャロル達に手渡した。
「おお、お貴族様のタオル」
「凄い、汗を吸い取るわ」
「模様が可愛い」
 君達がうちのお風呂で馴染んでるタオルなんだけど。
もしかして俺をサポートしてるつもりか。
余裕で俺と父親たちのプレイを見ている。
対照的なのは手の空いたメイド達。
好奇心丸出しの顔でデモプレイを観戦していた。
もしかして、テニスがお気に召したのかな。

 お父さんたちが額に汗したところで休憩にした。
こちらにもメイド達がタオルを手渡した。
俺も汗を拭き拭き、お父さん達を見た。
笑顔で溢れていた。
「これは良いな」キャロル父。
「楽しいですね」マーリン父。
「もっと走れる靴が欲しいですな」モニカ父。

 女児達はコートが空いたので母達を誘った。
「お母様、やりましょうよ」
 お母様達も興味津々だった。
断る訳がない。

 俺は父親達に話し掛けた。
「これはテニスと申します」
如何でした、疲れましたか」
「いやいや、楽しい。
足が痛くなけれはもっとプレイしたいですな」
 モニカ父が悔しそうに言う。
キャロル父が俺に尋ねた。
「テニスとは」
「僕が名付けました」
「なるほど、テニスですか」
 前世のテニス創始者様、ごめんなさい。
今世の創始者は俺です。
俺は三人を見回して尋ねた。
「騎士や剣士だと剣と剣、槍と槍で試合しますが、
これはネットを挟んでラケットとボールで行います。
余所に詳しくないのでお尋ねします。
これと似た様なものが余所にありませんか」
「ないですな」三人が断言した。

 キャロル父がラケットを持って、俺に尋ねた。
「ところで子爵様、商談と聞いてお伺いしました。
これと関係あるのですか」
「そう、学校祭の事は娘さん達から聞いてますよね」
「はい」
「そこでテニスを披露しようと思います。
これは目新しさだけじゃない。
楽しいだけでもない。
打って、拾って、走って、打ち返す。
そう、自然に鍛える事が出来る。
しかも魔法は禁止、身体強化も禁止。
真の素の力のみで競う。
どうですか」

 モニカ父がボールをニギニギしながら口にした。
「騎士や剣士の鍛錬の一つになりますね。
・・・。
子爵様、私達の商談はどこにあるのですか」
「そのラケットやボール等を作って欲しいんですよ」
 首を傾げるキャロル父とモニカ父。
代わってマーリン父が口を開いた。
「はて、・・・分かりませんな。
このラケットやボールは一流の鍛冶師に依頼されたのでしょう。
恥ずかしながら同じ様な物は私共の商会では作れません。
鍛冶師への伝手は有りますが、至って普通の鍛冶師です。
この様な物を作れる職人は生憎と知りませんので」

 執事・ダンカンを始めとした使用人達の表情が歪んだ。
俺が皆に内緒でその鍛冶師に会い、依頼したと理解したようだ。
自分達に黙ってと心の内で怒っているのかも知れない。
はあ、難しい案件だ。
スルーしよう。

 俺は三人に説明した。
「これと同じ物を作って欲しい訳じゃないんだ。
お三方には、平民でも買える様なお手頃価格の物を作って貰いたい。
安くて、ストリングを張り帰れば五年程は使える物。
材質は魔法の術式を施せない物があれば、それで。
・・・。
ラケットを作るのは弓師か、弦楽器師あたりかな。
ボールは革の縫製師、それに空気を入れられる風魔法使い。
他にもネットや靴、サポーター、汗止めのヘアバンド、とにかく色々とね」

 プレイしていても流石は商人の奥方や娘達、
耳をこちらに傾けていたらしい。
即座にプレイを中断し、ラケットやボールを手に、
こちらへ駆け寄って来た。
キャロル母が俺に言う。
「是非とも私共に任せて下さいませ」
 マーリン母とモニカ母も同意した。
「亭主達が駄目なら私達で作ります」
「そうよね、男はどうか知らないけど、これは女子供には受けるわ」
 商談の詰めに入らぬのに、この喰い付き振り。
釣れたどー、と叫びたい、でも我慢我慢。

 お母様方が俺に詰め寄る一方、女児達は父親達に詰め寄っていた。
「お父様、断らないでしょうね」
「作りましょうよ、お父様」
「断ったら親子の縁を切るわよ」
 そんな騒ぎの中、モニカから意外な提案があった。
「そうだわ、これこそ株主案件よね。
ねえ、ダン、私達子供でも出資できるのよね」
 俺が驚きつ、頷くと女児達は文字通り、飛び上がって喜んだ。
そして話しに付いて行けない両親に説明を開始した。
傍で聞いて驚いた。
女児達が株主会や事業計画書等々を理解していたのだ。
恐るべし、商家の娘達。

     ☆

 北の山岳地帯を目指す飛行体があった。
数は十一機。
蜂の魔物・コールビーに似せた、やや大きめの飛行体・エビスだ。
先頭はゼロ号機のアリス。
続けて妖精達二号機から十号機。
後尾は一号機のダンジョンスライム・ハッピー。
 高々度をかなりの速度で目的地に向かっていた。
若狭の上空を通過し、山岳地帯に入った。
時折、他の飛ぶ魔物と遭遇するが、速度で躱す。
目的を優先するので、無暗矢鱈には戦わない。
脳筋アリスにしては珍しい事この上なし。

 アリスが念話で全機に伝えた。
『この辺りのワイバーンは減らしたけど、それでも要警戒よ。
遊び感覚で襲って来る奴がいるからね』
『パー、来たら僕がパーンチプー』
 昨日の一昨日の操縦訓練でワイバーンに遭遇した。
都合二頭。
編隊訓練の一環として撃墜した。
だから問題はない。
と、言った先からワイバーンが一頭現れた。
妖精の一人が素早く鑑定した。
『はぐれね』
 もう一人が即座に提案した。
それが実にえぐい。

昨日今日明日あさって。(伯爵)7

2022-11-13 10:11:15 | Weblog
 その日はそれで終わった。
けれどクラス委員としては終われない。
至急、答えを出さねばならない。
だから屋敷に戻ってから考えた。
 手持ちの人数は、一年時同様に俺を含めて十八名。
予算は学校から支給されるが、寄付の受領も許されている。
が、こちらは平民なので、そう多くは望めない。
その上で出来るのは・・・。
 貴族なら従者も勘定に入れられるが、うちのクラスは俺以外は平民、
望むべきもない。
現状、人数も予算も圧倒的に足りない。
大道具や小道具も考慮すると演劇や剣劇は無理、
料理屋や喫茶店等も最優秀賞には一捻り二捻りが必要。
そうなると・・・。
別の・・・、斬新な・・・、企画は・・・。

 あっ、前世の学校祭ではクラス対抗球技大会があった。
バレーバール、バスケット。
そうだ、サッカーにしよう。
用具はボールとシューズ、・・・ゴールは、斬新に、
バスケットの様に壁の高い所に置こう。
ジャンプして二段蹴りシュートだ。
空中でトラップ、もう片足でボレー。
忘れてた。
相手は子供達だ、無理だ。

 となると、室内テニスか。
子供仕様の。
ラケットにボール、ネットに笛が必要だ。
今世はそもそも球技がない世界。
まずボール造りから。

 その日のうちに協力者候補三名に文を出した。
至急商用で会いたいと。
何れも冒険者パーティのメンバーの父親達だ。
街に店を構える商会の会長達ばかり。
ただ、彼等は大きな商いをしている訳ではない。
国都内のみの商いだ。
街の商店とも言える。
断る選択はしないだろう。
 流石は子供でもお貴族様の威力。
その日の内に宣なう。
執事・ダンカンが俺の意を汲んで、面談の予定を組んだ。
当然、明日の午後だ。

 教室では何も聞かなかった三人が、下校と同時に俺にくっ付いて来た。
「お父様達に何の用なの」キャロル。
「聞かせなさいよ」マーリン
「そうよそうよ」モニカ
 お貴族様相手に遠慮がない。
「説明は一度で」
「ケチよね、減るもんじゃないでしょう」
 金魚の糞をくっ付けて肛門を、否、校門から出た。 
執事見習い兼従者・スチュワートと兵士二名が出待ちしていた。
「お招きの方々が屋敷でお待ちです」
 どういう訳か、秘書兼任という形で女房も同伴していると。
秘書というより物見高い野次馬だろう。
まあ、増えても構わないけど。
「誰が相手を」
「ダンカン殿やバーバラ殿が」
 俺より先に相手を見定めるつもりなのだろう。
ああ、俺って過保護下にある。

 屋敷に戻った俺はお貴族様なので、
下校したままの恰好で面談の席に着く事はない。
着替えてからになる。
ドリスとジューンが嬉々として俺を玩具にする。
ついでにお茶を一杯。
それから食堂に向かう。

 来客一同が立って俺を迎えた。
慣れない。
でもこれも普通に、儀式として必要な一つ。
互いの為の儀式美、・・・かな。
 招待してないのだが、女児達も整然と顔を並べていた。
それぞれ両親の側ではなく、俺の家族の様に対面の席に。
両親と俺を見比べ、何やら面白がっている気配。
君達は一体、何なのだ、そう聞きたい。
でも聞かない。
時間の無駄だから。
俺は女児達を無視して、両親達を見た。
「食事を済ませてから商談に入りましょう」

 料理長・ハミルトンが良い仕事をした。
平民が相手にも関わらず、俺の意を汲んで
仰々しくはないが申し分のないランチにしてくれた。
メインディッシュはチーズと目玉焼き、ホウレン草、人参を脇に乗せ、
グリーンピースを散らしたクラーケンのステーキ。
このクラーケン、物珍しさから競りで高値を付けた物だ。
これにライス、小鉢三つ、そしてスープ。
大人達も、育ち盛りの女児達も満足してくれた。

 軽い談笑の後、場所を移した。
「こちらへ」
 俺の案内で大勢が敷地奥の芝地に移動した。
何もない所なので皆が面食らう。
「ここは」キャロルが皆を代表した。
「これだよ」
 俺は肩掛けバッグ経由で虚空からテニスに必要な諸々を取り出した。
ラケット四本、ボール四個、シューズ一組、折り畳み式ネットセット二組。
全て昨夜のうちに錬金した物だ。
前世の物とちょっと違うかもしれないが、そこを指摘される恐れはない。
 前もって呼び寄せた兵士達の手を借り、芝地に仮コートを設置した。
コートのサイズはシングルとし、大人の歩幅で縦三十二歩、
横十二歩とした。
その真ん中にネットを組み立てた。
そんな様子を心配そうに見守る庭師長・モーリスに声を掛けた。
「芝地が舞台なんだよ。
だから養生を頼むよ」

 俺はラケットとボールを取り上げ、手本とし、近くの外壁で壁打ちした。
「ポーン、ポーン、ポーン」良い響き。
 ラケットのグリップがしっくり手に馴染む。
ボールの弾み具合からすると、
蜘蛛と蓑虫の糸を練り合わせたストリングは、
もうちょっと細くても大丈夫かな。
点数的には80点だけど、でも、ああ良い仕事をした。
皆の視線がボールとラケットに釘付けだ。
 俺が会長達に声を掛けるより先に女児達が動いた。
勝手にラケットとボールを持ち、壁打ちを始めた。
最初は不器用な動きだったが、直ぐに慣れてきた。
「これ面白い」
「いいわね」
「はっはっは、持って帰ろうか」

 女児達ではなく大人達に納得して欲しいんだがね、君達。
仕方ない、女児達も巻き込もう。
俺は三名のうち、腕力が強いモニカを指名した。
「モニカ、試合をしよう」
「試合ってどうするの」
「説明するからこのコートに入って」
 モニカだけでなく、キャロルやマーリンもコートに入って来た。
興味津々なのは分かるけど、邪魔なんだよ君達。
でも、纏めて説明する方が手っ取り早いか。
外の大人達にも分る様に噛み砕いて説明しよう。

 テニスの試合運びの説明を終えると納得したのか、
キャロルとマーリンがコートから出た。
線審とボール拾いを務めると言う。
そしてモニカを応援した。
「頑張ってね」
「叩きのめすのよ」
 酷い、線審は中立だろう。
それに俺も君達の仲間だろう。
怒りを込めて第一球。
思い切り上から叩きつけた。
ポールがポーンとコート内で弾んだ。
芝地でも良い感触。
ああ、俺って大人げない。
「ダンタルニャン」
「最初から本気ってどうなの」
「これだから男の子は」

昨日今日明日あさって。(伯爵)6

2022-11-06 10:05:15 | Weblog
 久しぶりに寝坊した。
昨日の疲れを実感した。
色々あった。
邪龍の落とし物探し、ギターを披露、株主会の説明、そして陞爵の予定。
一年を一日で済まし終えた感じたがした。
 半身を起こして伸びをした。
幸い、メイドが部屋に突入して来るよりも先に目覚めた。
何時もの様にベッドの上でストレッチ。
じっくり身体をほぐす。
特に関節辺りを丹念に行う。
身体がじんわり温まった。
 次は魔力の操作。
丹田を温め、錬成。
それを糸を伸ばす様にして、身体全体にゆっくり張り巡らせる。
これはこれで身体が温まる。
そして何時もの様に願いを込めた。
まず「無病息災」、そして「千吉万来」。

 暫くして気付いた。
微かに空気が揺れていた。
それで窓を見た。
完全に閉められていない。
深夜にアリスが戻って来たのだろう。
 天井を見回した。
左隅に見つけた。
大きな繭が垂れ下がっていた。
脳筋妖精アリスのベッド兼マイホームだ。
本来、妖精は食事をしないし、トイレも必要ない、睡眠もしない、
筈なのだがアリスは酒も肴もいける。
睡眠もする。
でもトイレはしない。
本人曰く、私の勝手でしょう、とのこと。
 レベルが上がったので繭の透明化が可能なのだが、それも本人曰く、
私の勝手でしょう、とのこと。
我儘のレベルは最高値にあった

 俺は念話でアリスを起こした。
『もしもし、アリスさん、朝だよ、あさー』
 なかなか起きないので雷魔法を起動した。
大袈裟な威力ではなく、マッサージ程度にした。
イメージはピリリ。
期待通りアリスが目を覚ました。
『ダン、何かした』
『なんにも。
寝起きが悪いんだろう』
『そうか、・・・そうかなあ』
『それより何かあったのかい』話しを逸らした。
 アリスは繭を収納すると、羽根を広げ、俺の頭の上に飛んで来た。
そして、ふわりと着陸。
俺の頭の上に。
『ありがとう、エビスを皆に与えてくれて』
 錬金スキルでコルビータイプの飛行体を九機造った。
それをアリスに預けた。
『皆の感想は』
『大喜びよ。
それで邪教襲撃が遅れるわ。
魔物相手のテスト飛行が終わってから襲撃に変更よ』

 幼年学校の教室でのんびり寛いでいたら、
教壇に一年から持ち上がりの担任・テリーが立ち、よからぬ事を言う。
「去年は一年生だったからお客様だったが、
二年になったのだから今年は違う。
君達が主役だ。
クラスの出し物を考えてくれ。
結果によっては端役になるかも知れんがな」
 もうじき学校祭だと言い、例年の出し物を説明してくれた。
演劇、剣劇、合唱、料理屋、喫茶店、お化け屋敷等々。
昨年の最優秀賞に輝いたのは、五年生の剣劇。
貴族の子弟クラスの一つが受けを狙い、
男児が女装、女児が男装して、歌唱入りの剣劇を披露した。
そのお陰かどうかは分からないが、全員が上の学校に合格した。

 テリーの言葉でクラスが沸いた。
このクラスは俺を除いた全員が平民で占められていた。
しかも、一芸入試で合格した者が多い。
学校に入るには身分と成績に左右される。
そんな現実があるから、皆が最優秀賞を夢見るのだろう。
一芸入試の次は最優秀賞だ、最優秀賞を取って上の学校へ行こう。
浮付いた空気がクラスに広がった。
駄目だ、この連中。
俺は立ち上がって彼等彼女等を見回した。
クラス委員として現実を突き付けた。
「使う予算は限られてる。
ただし、抜け道がある。
寄付だ、幾らでも受けられる」

 一瞬でクラスが寒冷化した。
どうやら全員が現実に気付いたらしい。
昨年度の最優秀賞に輝いたクラスには評定衆の嫡男がいた。
噂では彼目当てで寄付が殺到したという。
公表されてないが、概算が噂として流布していた。
学校から支給される予算の十倍近い金額。
出し物で使用された装束や大道具小道具を考えると、納得だ。
誰かがポツリと漏らした。
「だから派手で豪華だったのね」
「そういえば街の劇団の振付師を雇っていたという噂もあったわね」

 テリーが皆を優しい視線で見回した。
「無理はするな。
身の丈に合わせれば見学に来た親御さんも納得される」
 俺はそんなテリーに確認した。
「場所は自分達の教室と決まっているのですか」
「そんな事はないが、何か考えているのか」
「皆がその気なら五年の出し物に向けて仕上げて行こうかと」
「ほほう、最終学年に向けて練度を上げて行く、そう理解して良いのか」
「はい、予算が望めないのなら、練度で」
 テリーが破顔した。
「はっはは、面白いな。
それで最終的には何をやるんだ」
「出し物は秘密ですが、大講堂を四年連続で予約したいですね。
可能ですか」
 テリーが返事に詰まった。
暫し考え、俺を見返した。
「ここには今、侯爵家や伯爵家の子弟が在学している。
それらが希望すれば難しい事になる。
それでも良いのか」
 侯爵家や伯爵家の子弟か、それとも俺か。
学校当局が誰を優遇するかかが試される、
俺はこれでも現役の子爵家当主。
常識的には負けはない、筈だ。
「はい、教員室で確認をお願いします」

 休憩時間にキャロル達仲間に囲まれた。
「何をやる気なの」
「今から考える」
「考えなしなの」
「場所が一番だから、それを優先したんだよ」
 クラスの皆が耳を欹てているのが丸分り。
そこで声を大きくした。
「まあ、とにかくだ、皆が揃って上の学校に進める様に頑張ろう」
 俺自身は頑張っても仕様がない。
陞爵は確約されている。
これ以上、何を求めるのか。
俺の置かれた状況を知っているモニカに突っ込まれた。
「頑張ろうと言われてもねえ」
「まずは、そうだね、舞台度胸だね。
人前で演技しても、とちらない様にしようか」
 今度はマーリンに突っ込まれた。
「舞台は決まりなのか、それでどんな演目なの」
「演目もこれから」

 決めるという事は難しい。
でも、安易に大講堂と決めた事に後悔はない。
大切なのは場所。
とにかく人を集めなければ最優秀賞は望めない。
演目はこれからでも間に合う。
四年後なのだ、たぶん間に合う。
まずは彼等彼女等に舞台度胸を付けさせよう。
 それから比べると、否、比べるのは烏滸がましい が、
王妃・ベティ様は大したものだ。
王を殺された上に、西に反乱軍二つ、東に一つ、
それらを抱えられてもなお、毅然としておられる。
内政で手一杯の筈なのに大したものだ。
人の上に立つ才をお持ちであられるのだろう。

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