金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

金色の涙(白拍子)123

2009-04-29 20:04:10 | Weblog
 朝、豪姫の一行が宿屋を発った。
迷う事無く武蔵へ向かった。
昨夜の慶次郎の説得は効を奏さなかった。
 一夜にして同行する人数が増えていた。
慶次郎や幸村主従が加わったのだ。
さらに陰供していた宇喜多家や猿飛の忍者達も姿を現した。
ヤマトの邪魔立てがなくなったので、馬を買い集め、全員が騎乗していた。
 後尾の慶次郎が道端の木陰に愛馬・鈴風を寄せた。
さり気なく、「ヤマト」と呼びかけた。
 枝から黒い塊が、鈴風の背に跳び下りた。
「見つかったみたいだね」
 鈴風は大柄な黒猫が勝手に背に乗っても意に介さない。
 慶次郎がヤマトをそっと抱き上げた。
「見つかり易いように隠れてたんだろう」
「そうなんだがね」
「詳しい話は猿飛の忍者から聞いた。どうして豪姫に話さないのだ」
「豪姫のあの性格、話を聞けば武蔵にへ下るだけでは満足せず、
天魔が現れれば、自ら先頭に立って戦うと言い張るだろう」
 慶次郎は苦虫を潰したような顔をした。
「そうか、そうだな。しかし天魔の話は本当なのか」
 ヤマトは大きく目を見開いた。
「猫は嘘つかない。・・・たぶんね」
「あいかわらず喰えん奴だな」
「猫を食おうというのが間違いだよ」
 慶次郎は鼻で笑った。
「言ってろ」
「豪姫には武蔵へ下る事だけで満足させる。
天魔と衝突する事態になれば、鬼斬りを豪姫には触らせない。
実に単純な話さ。
天魔の話だけは豪姫の耳に入れては駄目だよ。
無事に京に連れ戻したければね」
 その鬼斬りは藤次が背中に括りつけるようにして背負っていた。
それに目を遣りながら慶次郎が答えた。
「わかった、そうしよう。藤次や無二斎には話しておいた方がいいだろう」
「それは任せたよ」
「ところで、佐助と若菜はどうした」
「武蔵に先行させた。天魔の気配を探らせる為にね」
「人使いが荒い猫だな」
「そういうお主等だって猿に使われているではないか」
 猿とは豊臣秀吉を指していた。
慶次郎は嫌な顔をして、「武蔵で会おう」とヤマトを宙高く放り投げた。
 ヤマトは二・三回転してから、捻りを入れて着地した。
そして、「ミャー」と鳴いて草薮に姿を消した。

 表から木刀で打ち合う音が聞こえてきた。
郎党の誰かが長男・隆太郎の相手をしている。
 厨からは包丁で何かを切る物音が響いてきた。
女房の茜が下働きの女と朝飯の準備をしている。
 廊下を駆けてくる小さな足音は娘の栞。
この部屋に、「お父様」と飛び込んで来る筈だ。
 が、いつまで待っても襖が開けられない。
しだいに全ての物音が聞こえなくなった。
 木村弘之は目を覚ました。
鎧兜を外し、着の身着のままで板敷きの小部屋で寝ていた。
破れた障子から陽が差し込んでいた。
 今居る場所は・・・。
川越の外れにある無住の寺だ。
一年前に住職が死去してからというもの、無住のままでいた。
幸いにも人家から離れていたので、退却先にするのに都合がよかった。
 昨夜、彼は配下五人を率いて、城方の者達を蹴散らした。
そして退却先とは逆方向へ逃げた。追手の目を逸らす為だ。
追手を振り切った事を確認してから、大きく迂回して退却先に向かった。
 この無住の寺には信平等が先回りしていた。
誰一人として欠けていなかった。怪我人はいたが軽傷であった。
 目から涙が零れてくる。拭う事はしない。
再び目を閉じた。
もう一度寝て、そして再び目覚めれば・・・。
「これは夢に違いない。目覚めれば全てが元に戻っている」と思った。




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金色の涙(白拍子)122

2009-04-26 09:32:23 | Weblog
 彼は相手の牽制の言葉に乗り、視線を信平に向けた。
 とたんに原田が動いた。
ここぞとばかりに短槍を抱えるように構え、身体ごとぶつかって来た。
 彼は視界の外側で殺気が弾けたのを感じた。
予期していたように相手が動いたのだ。
 紙一重で短槍を躱し、踏み込んで来た相手の右足の甲を踏み潰した。
続けて膝を相手の股間に飛ばし、短槍を奪い返した。
 原田は悲鳴を上げ、苦悶の表情で膝をついた。
 彼は容赦なく蹴り倒した。
さらに大根でも串刺しするかのように、短槍で相手の太腿を刺し、
深々と畳にまで張り付けた。
 痛みに耐えかねて気を失う相手に、「意外と脆いな」と呟いた。
 信平が近付いて来た。
「お頭、止めは刺さないのですか」
 木村弘之は自らを死んだ者と思い定め、これまでの名を捨てた。
今は、「頭」と呼ばせていた。
「気を失ったままでは面白くない。気付くのを待とう」
 屋敷内の彼方此方から悲鳴が聞こえてきた。
配下の者達が隠れていた者達を狩り出しているようだ。
 その騒ぎに信平は苦虫を潰した。
「これじゃ、外に聞こえないわけがない」

 野立町の遊郭は川越にとっては大事な収益源であるとともに、
繁栄の証でもあった。
問題は遊郭が権力の臭いを嫌う事。為に城下外れに設けられていた。
それでも睨みを利かすため、隣町に役人の詰め所を置いていた。
 その詰め所に野立町の者が飛び込んで来た。
「代官方与力様の屋敷に盗賊が押し入った」
 夜は泊まり番の者が数人詰めているだけ。
酔っ払いの乱暴狼藉には対応できるが、盗賊ともなると人員不足は否めなかった。
それでも押し入られたのが代官方与力宅とあれば、無下には出来ない。
 城に使いを走らせると同時に、近くに住んでいる捕り方の者達を叩き起こした。
さらに、「枯れ木も山の賑わい」とばかり、近所に住む町人等も招集した。
押し入った者達を数で圧倒しようというのだ。
 三人の侍を先頭に、八人の足軽、捕り手の格好をした町人三十数人が従った。
賑々しく松明を振り翳し、野立町へ向かって駆けた。
押し入った者達が松明に気付いて逃走する事を期待していた。
 代官方与力の屋敷に近付くにしたがい、不気味なくらい静かになってゆく。
酔い騒ぐ声がどこからも聞こえてこない。
一晩中、灯りを消さない店でさえが表戸を閉じていた。
寝静まっているわけではない。
皆々が外の気配に神経を尖らせているのが感じ取れた。
 突然、目指していた屋敷から火の手が上がった。
同時に、表門が大きく開けられた。
奇妙な格好の者が飛び出して来た。
 南蛮の鎧兜に身を包み、短槍を持っていた。
軽やかな身ごなしで、捕り手達の方へ駆けてきた。

 彼は目にも止まらぬ速さで短槍を操ってみせた。
戦国の世で鍛えられた者達相手といえど、反撃する暇を与えない。
たちどころに先頭の侍三人を血祭りに上げた。
 彼の後ろから五人が一団となって足軽達に斬り込んでゆく。
頭を潰された蛇のように、後尾の捕り手達がジタバタとし、統率が乱れた。
所詮は寄せ集めで構成された見せ掛けだけの捕り手達。すぐに崩れた。

 裏門からは信平率いる一団が静かに抜け出てゆく。
その中央の戸板に原田甚左が乗せられていた。
前後を担ぐのは力自慢の二人。空荷でもあるかのように先を急ぐ。

 彼は原田に止めを刺そうとしたが、思いの他に気丈であった。
そこで思いとどまり、太腿を止血してやった。
 捕り手達が現れたのは、そんな時であった。
 彼は直ぐに対応した。
自分を含む足自慢の六人で敵を引きつけ、信平等を別方向へ逃すと。
 彼等は勢いに乗っていた。
一気に捕り手達を蹴散らした。
その勢いに任せ、隣町の詰め所をも襲った。
全員出払っていて留守であったが、ついでとばかりに火を放った。
 さらに城から駆けつけて来た一隊とも遭遇した。
人数はおよそ二十数名。
軽装備の侍五人に率いられた足軽の一隊であった。
 勢いに乗っている彼等が臆するわけがない。
短槍を構えた彼を先頭に、一塊となって正面からぶつかった。
 彼の短槍扱いはさらに冴え渡り、先頭の数人を一瞬で突き伏せた。
敵が弱いのではない。
彼の技量が、戦う度に上がって行くのだ。




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 SMAPの草薙君の一件で、ある話を思い出しました。
フリーアナウンサーの荒川強啓氏の実話です。
彼は現在、TBSラジオで番組を持っています。
その彼の十数年前の話です。
 ブラジル・アマゾンに長期取材へ出かけたそうです。
事件は帰国時に起こりました。
出国しようと空港でパスポートを出すと、係員に引き止められました。
入国時のパスポートの写真と、帰国時の顔が別人だったからです。
アマゾン取材で黒く日焼けし、頬はゲッソリと痩せ、日本人というより、
現地人にしか見えなかったそうです。
係員は、「日本人を殺し、パスポートを手に入れた」と考えたのでしょう。
 屈強な警備員二人に抱きかかえられるようにして、取調室に連行されました。
数人の係員が待っていました。
幾ら説明しても、日本語ですから話は通じません。
帰国便の時間が迫っています。
 そこで彼は、ある行動にでました。
ズボン・パンツを脱いで、下半身を露出したのです。
 場は一瞬、凍りつきました。
それから大爆笑に変わりました。
下半身を見て、係員等は納得したのです。
(・・・理由は割愛。推理 ? してね・・)
荒川氏は自ら本人であると証明しました。
そのかいあって、警備員の誘導で帰国便に間に合ったそうです。

金色の涙(白拍子)121

2009-04-22 21:18:40 | Weblog
 木村弘之は配下を三組に分けた。
三人を表門、二人を裏門に回した。
逃げる者を阻止する為だ。
そして自らは残った九人を率いて母屋に斬り込んだ。
 宴席の者達が丸腰とは僥倖であった。
抵抗らしい抵抗を受ける事もなかった。
盃や皿を投げるので精一杯。
配下の者達が刀で斬り捨て、槍で刺し貫いてゆく。
女といえども容赦しない。
 あちこちで悲鳴と血が飛び交う。
酒の臭いで一杯だった部屋が、血の臭いに塗り替えられてゆく。
 彼は原田甚左を見つけると、その前に立ち塞がった。
短槍を構え、眼前に穂先を突きつけた。
 原田は動じない。
素手でも切り抜ける自信があるのだろう。
平然な顔で問う。
「お主はこの屋敷が誰の屋敷か知っているのか」
 彼は答えない。
 原田が問いを重ねた。
「代官方与力の屋敷と知っての狼藉か」
 それでも彼は答えない。
 原田の顔に疑心が走った。
「承知の上での事か」と呟き、「卑怯者」と一喝した。
 彼は思わず相手をした。
「ほう、卑怯者と言うか」
 原田は嵩に懸かって言葉を吐いた。
「丸腰の者達を襲うとは武士の風上にもおけん」
 言葉は激しいが、その目は冷静に彼の隙を窺っていた。
油断のならぬ男だ。
 彼は嘲笑った。
「夕方、川岸で丸腰の者を襲ったのは誰かな」
 原田の顔に驚きが走った。
 彼は続けた。
「無抵抗の女・子供まで殺したのは誰かな」
 言葉を発すると同時に再び怒りが込み上げてきた。
短槍を持つ手が震えた。
 原田は相手の徒ならぬ様子に気付いた。
警戒しながら一歩二歩と後退し、慎重に尋ねた。
「お主・・・何者だ」
 兜を外し、素顔を晒したい衝動に駆られた。
原田が肝を潰す事は確実だ。
斬り刻まれ溺死した筈の男が生きていたのだから。
 大きな声で恨み辛みをぶつけたい。
殺された者達の代わりに、怒りを爆発させたい。
 彼は踏み止まった。
泣き言を言いたくはない。ただ報復あるのみ。
答え代わりに、原田の足下に短槍を放り投げた。
 成り行きに原田は頭を捻った。
それでも利き手は自然に短槍を拾い上げていた。
 ようやく相手の意図に気付いたようで、顔を歪ませた。
「舐めているのか、後悔するぞ」
 原田は顔を赤らめながら穂先を相手に向けた。
 彼は両手を広げ、さらに原田を挑発した。
「遠慮はいらない」
 鎧兜は完璧な防具ではない。
関節部分は動き易いように緩くなっており、継ぎ目には細い隙間がある。
 原田は的確に首の隙間を狙ってきた。
一足飛びに間合いを詰め、鋭い突き。
 彼は寸前で躱し、逆に拳で殴り倒そうとした。
 原田の第二撃の方が早かった。
短槍を一転させ、柄で足を払ってきた。
 彼は慌てて後方へ跳び、体勢を整えた。
相手の腕前に兜の内で微笑む。
手応えのある相手で嬉しいのだ。
ただ、負ける気はしない。
まずは牙を圧し折ることからだ。
 原田の攻撃は止まない。
続けざまに突き、払い、打つを流れるような動作で繰り出してきた。
 彼は、お手本のような攻撃を右に左に躱しながら、反撃の機を窺う。
 気が付くと部屋内の争いは二人を除いて終わっていた。
宴席に連なっていた者達は、男女の区別無く止めを刺されていた。
 彼と原田を、信平等が遠巻きしていた。
一人も欠けていない。
それもそうだ。丸腰の者達が相手だったのだから。
 彼は手出ししようとする配下に、「無用」と断り、新たな指示を出した。
「生きている者がいないか、屋敷内を隈なく捜せ」
 信平が配下を二手に分け、左右に走らせた。
そして本人は心配のようで、部屋に残った。
 原田は信平を警戒しながらも、穂先を彼から外さない。
言葉で二人を牽制した。
「この騒ぎだ。外に漏れてるだろう。じきに役人達が駆けつけて来るぞ」
 彼は信平と顔を見合わせた。
 視線を外したところを原田は見逃さない。
再び首の隙間を狙ってきた。




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久しぶりに「ファミリーマート」を覗いてみました。
なんと、「うれしい プリン 480g」298円を売っていました。
大きいです。
でも、プリンは嫌いではありません。
物は試しとばかりに買いました。
さっそく部屋に戻ると、一気に食べようと・・・。
いや・・・味は薄味で良いけど・・・量が・・・。
途中で・・・断念しました。

金色の涙(白拍子)120

2009-04-19 09:14:04 | Weblog
 南蛮の鎧兜姿の木村弘之は、庭の片隅で仁王立ちしていた。
亡父には重い鎧兜であったが、彼にはどうという事もなかった。
まるで絹の着物の如き着心地であった。
 雑木林の隙間から差し込む月明かりが、彼の鎧兜を照らしていた。
徳川の名に驕り、地侍達を甘く見ているのだろう。
屋敷内を巡回する者がいない。
 彼の傍に、塀を乗り越えてきた配下の者達が忍び足で集まって来た。
一人として途中で逃げた者はいない。
相手が徳川の与力であっても、退く気はないらしい。
 猿轡を噛まされ、雁字搦めにされた伊之助が、地面に投げ下ろされた。
激しい痛みに、くぐもった声。身を攀じらせた。
原田の手先となっていた村の男だ。
 信平が、「いかが致します」と伊之助の処遇を尋ねた。
 彼は、「ここで血祭りに挙げる」と短槍を持ち直した。
 無造作に首を一突き、手早く抜いた。とたんに血が噴き出した。
伊之助は恐怖で目を大きく見開いたまま絶命した。
 配下達が続いた。
それぞれの刀・槍等の得物で、伊之助を刺し貫いた。
 全身が血に染まった伊之助を、一人が蹴り転がした。
 彼は屍に関心は示さず、みんなに指示を出した。
「これから押し入る。出会った者が誰であれ、敵の仲間に違いない。
女・子供といえど容赦するな。皆殺しだ」
「捕らえて聞き出さなくてよいのですか」
 彼は母屋を指し示した。
「あれが聞こえるか」
 母屋では酒盛りの最中らしい。
酔って騒ぐ声が洩れてきた。
女達も混じっているようだ。
 みんなは顔を見合わせた。
 彼は、「祝杯だろう」と断言した。
そして、声色が変化した。
「俺が死んだら、首を斬り落として何処かへ捨てろ。そして全てを忘れろ」

 座敷の上座に腰を据えている大柄な男が原田甚左。
代官配下の与力だ。
 原田は盃の酒を飲み干した。
額の刀傷痕まで酒が回ったのか、妙に赤っぽい。
 左右に居並ぶ者達は、今夕の襲撃から無傷で戻った連中だ。
兵は代官方と川越城の双方より出ていた。
一人が大量出血で死亡し、五人が傷の手当を受けていた。
ここに残っているのは原田を含めて十七人。
 遊郭より借り出した女達が酌をして回っているからか、それとも襲撃の疲れか、
半数近くが酩酊していた。
 原田は飲みながら兵達の声に聞き耳を立てていた。
今回の事を、酔った誰かが女にそっと漏らさないかと。
聞き咎めるつもりは毛頭ない。
女から外へ噂として流れ出すのを期待していた。
 全ては中山兼房を挑発するために仕組まれた事。
噂が高麗の武門・中山家に届かなければ意味がないのだ。
「木村家は側杖を食っただけ」という事実を鮮明にする必要があった。
 縁側に人の気配。気付いた時には遅かった。
鎧兜姿の男を先頭に、十人程が雪崩れ込んで来た。
それぞれが得物を手に、手近にいる者に襲い掛かった。
 原田は、宴会なので兵達には無腰での出席を命じていた。
酔って刃物沙汰に及ぶ者がいるからだ。
それが裏目に出た。酔っている者もいない者も、次々と討たれてゆく。
 鎧兜の者の動きに目を奪われた。
無腰相手とはいえ、重そうな南蛮の鎧兜で縦横無尽に立ち回り、
短槍で三人を刺し貫いた。
見事な槍扱い。手練者と見て取れた。
 原田は立ち上がり、刀を置いてある部屋へ向かおうとした。
その前に鎧兜が立ち塞がった。
離れていた筈なのに、途中で邪魔となる者達は敵味方関係なく跳ね飛ばし、
一気に詰めて来た。
 原田は正体の知れぬ鎧兜と視線を絡ませた。




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金色の涙(白拍子)119

2009-04-17 21:57:32 | Weblog
 宿屋から少し離れた寺社の境内に姿を現したヤマトが、
その高い屋根に一気に跳び上がった。
異常な跳躍力だが、行動を共にしていた佐助と若菜は見慣れていた。
遅れじと、二人も必死で屋根に駆け登った。
 寝そべるヤマトに若菜が尋ねた。
「何を隠しているの」
「何も・・・」
「隠しても何れ分かるのよ」
「・・・」
 若菜は佐助と目を合わせ、再びヤマトを向いた。
「私達には話してくれるわね」
 ヤマトは背伸びをするようにして起き上がり、「透明の塊」の出現から、
「鬼斬りに潜む物」についてまでを語った。
 聞いた二人は戸惑ったような顔をして、口を開かない。
 ヤマトは、屋根の端の陰に視線を向けた。
「老人、お主はどう思う」
 佐助と若菜は第三者の気配に気付かなかった。
ハッとした顔で、迎え討つ姿勢をとった。
 暗闇から姿を現したのは黒装束の好々爺。
苦笑いしながら近付いてきた。
 老人を見て、佐助が声を出した。
「欽造」
 京・南禅寺近くにある猿飛一族の牧場の差配をしていた老忍者だ。
今は成り行きから仲間の老忍者二人と、豪姫の陰供をしていた。
  欽造が佐助に頷いた。
「坊ん、元気そうやな」
「いつまでも子供扱いは止めてくれないか」
「すまん、すまん」
「牧場から姿を消した理由は知っている。でも、必ず戻ってくるよね」
「ありがたい。しかし、それは生きて戻れたらの話だ」
 佐助と天狗の娘を見比べ、一人合点して頷いた。
「若菜殿とお見かけいたす」
「はい」
「佐助は今もって子供のようなもの。迷惑をかけてはいませんかな」
 若菜の目が笑った。
「いいえ、私こそ助けられてばかりです」
 その遣り取りに佐助の顔が朱に染まった。
「それが子供扱いなんだよ」
 欽造は佐助を無視して若菜に続けた。
「優しいな、若菜殿は。とにかく、何とぞ佐助のこと、お頼みいたします」
「はい、わかりました」
 欽造はヤマトの傍に寄ると、瓦屋根に腰を下ろした。
「一つ二つ尋ねたいのだが」
「なんなりと」
「昔は、空から降りてくる魔物を『天魔』と呼んだ。それの事かな」
「天魔か、懐かしい響きだね」
「人を乗っ取るという話があるが」
「そう、人にのみ憑依する」
「姫様と白拍子は、知らず知らずのうちに天魔出現の兆しを感じているのかな」
「猫の勘だが、そう信じている」
 腑に落ちた欽造。
「それで武蔵へ向かっているのか。でも、何の為に」
「聞きたいのかい」
 欽造は首を横に振って嫌々をした。
想像しているが、言葉にはされたくないらしい。
 若菜がヤマトに問う。
「鬼斬りに潜む物は」
「おそらく、魔物の類だろうね」
「それも天魔」
「違う、地から生まれた魔物だね」
「地から・・・」
「伏見の狐だが、彼らは修行して魔物になる。
対して、地から生まれる魔物は、生まれながらの魔物。
単体で活動する物もあれば、憑依して力量を発揮する物もある」
「鬼斬りに憑依しているのがそれなのね」
「そうだよ」

 与力の原田甚左が仮寓していたのは、街道沿いにある野立町。
城下の外れの遊郭を中心とした歓楽街だ。
一晩中灯りが消えない店もあり、遠方より泊り掛けで遊びに来る客も多い。
 木村弘之の村から二つ挟んだ先に、その街があった。
 彼は夜目を活かし、暗い夜道を誰に遭遇することもなく、秘かに接近した。
配下十五人は動き易いように軽武装であった。
 事前に聞いていたように、原田の住む家は町中にあった。
広い敷地に豪勢な建物。商家の別邸を徳川の名前で借り上げていた。
 幸い夜更けにもかかわらず灯りの点いた店が多い。
遊興で立ち騒ぐ声も洩れてきた。
 彼は人出の絶えた裏通りより、塀を越えて侵入した。
庭を巡回する者がいない事を確認すると、合図の口笛を吹いた。
 配下の者達が次々と塀を越えて侵入してきた。





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金色の涙(白拍子)118

2009-04-14 21:00:10 | Weblog
 ヤマトは夕方に見た物を思い出した。
空間の歪みから放出された「透明の塊」だ。
あれはアッという間に東国の方向に落ちて行った。
位置と距離から武蔵辺りと見当をつけた。
もし、あれが人に憑依すれば・・・。
 慶次郎・白拍子の手を経た鬼斬りは、並み居る武将達を無視し、
豪姫を新しい持ち主に選んだ。
その豪姫が武蔵へ下りたがっていた。
本人の意思なのか、それとも鬼斬りに影響されているのか。
 そして白拍子は、すでに武蔵へ到着している筈。
 まるで「透明の塊」の出現を予期し、豪姫・白拍子が武蔵へ赴くかのようだ。
果たして三者の動きは連動しているのであろうか。
 「金色の涙」が鬼斬りを解析した。
鍛えられた金属部分に怪しげな気は感じられない。
ただ、柄の部分に小さな空間があり、何かが潜んでいた。
あるいは、封じられているのかもしれない。
「透明の塊」に近い物で、意思を持っている気配がある。
「鬼斬りに潜む物」は「透明の塊」とは違い、陽の気配が濃い。
 「金色の涙」は接触を試みるが、全く無視された。
言葉が違うのか、敢えて無視しているのか。
 ヤマトは豪姫に視線を向け、冷たい口調で答えた。
「武蔵へ行けば死ぬ。それでも良いのか」
 豪姫は胸を張った。
「女といえど、武家の娘。死を恐がってはいないわ」
 みんなは押し黙ってヤマトと豪姫を見比べた。
 ヤマトは悲しそうに表情を崩した。
「死ぬのは豪姫じゃない」
「・・・」
 不思議そうな顔の豪姫に、ヤマトは続けた。
「まず秀家と慶次郎が姫の盾になる。これに無二斎や幸村も加わるだろう。
陰供の忍者達もだ。みんなが豪姫の盾となって死ぬ。最後に残るのが豪姫だ」
 豪姫の顔から色が消えた。
「白拍子と争いになると考えているのか」
「否、たぶんないだろう。でも万が一の場合を考えるのが人の上に立つ者の仕事」
 豪姫は口を閉じた。
自分に危機が迫った時の事を考えているのだろう。
思い当たる事でもあるのか、目を伏せ、唇を噛み締めた。
 会話の途切れをねらい、藤次が嘴を差し挟んだ。
「ヤマト殿、拙者は盾の人数に入らんのですか」
「お主は豪姫とも宇喜多家とも、縁もゆかりもなき者」
 藤次は、「確かにそうどすなあ」と呟き、天井を見上げた。
それからゆっくりと顔を下げ、ヤマトを見た。
「道中、私は姫の鬼斬りを担いでおりましてん。槍持ちや弓持ちと同んなじや。
それは、家来っちゅうことやおへんか」
 藤次の惚けた物言いに、無二斎が大きく頷いた。
 豪姫は表情を強張らせ、藤次に尋ねた。
「見ず知らずの私の盾になるというのか」
 藤次は正座して豪姫を正面から見据え、頭を下げた。
「姫、ご懸念無用どす。手前が盾となったからには、一人も死なせません」
 豪姫の身体が小刻みに震え始めた。
落ち着かせようと伸ばされた秀家の手を掴み、刺々しい声でヤマトに尋ねた。
「私の行動は無謀なのか」
「無謀だが、みんなは姫の為なら喜んで死ぬだろう。誰一人、姫を恨まない」
「恨まない・・・酷い言い方ね」
「正直者だから」
 豪姫はヤマトと視線を絡ませた。
「何を隠している。やはり・・・、白拍子と争いになるのか」
「さっきも言ったように白拍子とは争わない。
しかし、どうしても武蔵に向かうのなら、盾は多ければ多いほど良い」
 慶次郎が目を怒らせ、口を開いた。
「ヤマト、何やら奥歯に物が挟まったような物言いだが」
 怒りの対象が豪姫からヤマトに代わっていた。
何かを隠しているのではないか、と疑っていた。
 ヤマトは、「オイラ、猫だから」と笑顔を作った。
「約束通り、豪姫の足止めはした。後は慶次郎の仕事だよ」
 慶次郎の答えを待たず、佐助と若菜に、「行くよ」と声をかけた。
 ヤマトが廊下に飛び出すや、佐助と若菜が後を追った。
一匹と二人は足音一つ立てずに、姿を消した。




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金色の涙(白拍子)117

2009-04-11 08:51:17 | Weblog
 豪姫の攻撃には何らの躊躇いもなかった。
まるで神楽でも舞うかのような大きな所作で、素早く鬼斬りを振り回した。
 この離れは広いだけではなく、天井も高い造りになっていた。
長巻・鬼斬りを振り回すのに何の障害も無かった。
豪姫の鬼斬りがヤマトの頭上目掛けて振り下ろされた。
 ヤマトは両の目をしっかり見開いて豪姫を見た。
怒りに駆られているだけではなさそうだ。
 ヤマトは振り下ろされた鬼斬りを、寸前で左へ躱した。
 豪姫は一撃目が躱されるのは承知していた。
それでも全力で振り下ろしたのは、二撃目を予測させない為だ。
 全身の力を振り絞り、畳スレスレで鬼斬りを変化させた。
自らの腰を落としながら、前の右足をヤマトのいる方へ開き気味にして、
鬼斬りの刃を寝かせるように向きを変えた。
強引に、振り下ろしから払いに軌道を修正した。
 畳の埃を払うかのように、白刃がヤマトを追う。
それをヤマトは冷静に見据えて、軽く跳んで躱した。
 秀家が顔色を変え、腰を浮かせた。
間に入って、豪姫を止めようとした。
それを慶次郎が片手で制した。
「豪姫は嫁入りしてからも武芸の稽古を続けているのか」
「はい。暇を見つけては刀を振り回しております」
「どうりで動きに無駄がない」
「それより止めませんと」
「めったに見れない物だぞ」
「いいのですか」
「いいのじゃないか」
 困った秀家は助けを借りようと、横の幸村を見た。
 気付いた幸村が真面目な顔で告げた。
「秀家様は心配し過ぎですよ。ヤマトが斬られる事なぞありません」
 ヤマトは三撃目四撃目をも躱し、体勢を整えた。
豪姫に殺気を飛ばした。
 足を止め、後ずさる豪姫。表情に一瞬、怯えが走った。
それでも、「エイッ」と気合を入れ、鬼斬りを左斜めに構えて待ち構えた。
 ヤマトは反撃するかと思いきや、聡い判断をみせた。
機敏な動きで秀家の懐に跳び込んだ。
「オイラの心配をしてくれるのは秀家だけだよ」
 反射的にヤマトを抱きとめた秀家は複雑な顔。
 胸元でヤマトを抱く秀家に、鬼斬り片手の豪姫がにじり寄った。
「秀様、其奴を離してください」
 秀家はヤマトを守ろうと、庇う態度を示した。
「それはいけないよ。お豪、落ち着こうよ」
 鼻息の荒い豪姫は、視線をヤマトに転じた。
「卑怯者。恥を知れ、恥を」
「そんな事言われても、オイラ、か弱い猫だから」
 グイと睨みつける豪姫を、ヤマトは無視するかのようにソッポを向く。
 秀家は宥めるかのような顔を豪姫に向けた。
慶次郎と幸村は遠慮のないニヤニヤ笑い。
 そんな様子に、無二斎は笑いを耐えるのに必死だが、藤次は違った。
壺に嵌ったのか、大声で笑いだした。
 豪姫の顔色が変わった。今度は藤次を睨みつけた。
「藤次、笑い過ぎ」
「すんません。嵌っちゃって駄目ですわ」
 豪姫はみんなを見回した。
誰もが温かい目で自分を見守っていた。
ヤマトでさえが横目で此方を気遣っていた。
浮いている自分に気付いた。
 フンとばかりに柄頭で畳を突いた。
元の場所に戻ると腰を落とし、鬼斬りを脇に置いた。
落ち着いた声音でヤマトに語り掛けた。
「ヤマト、私は武蔵に下りたい。供をしてくれぬか」
 先までの攻撃とは相反する言葉に、みんなは目を丸くした。
豪姫は明らかに頼むのに必要な手順を無視していた。
 秀家の胸元のヤマトも苦笑い。
「豪姫を見てると、秀吉の育て方が分かるね」
 秀家は言葉を濁した。
「それは・・・」
 豪姫は聞こえぬ振りで続けた。
「私の供では不足か。それとも白拍子が恐いのか」
 高飛車な物言いをするが、悪気はなさそうだ。




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 ようやく他の部署の応援が終りました。
昨夜終了したのは23:00。疲れた。
来週からは本業が再開するそう、嬉しい・・・かな。
 それでも今日は忙しい一日になりそうです。
朝06:00にコインランドリー、吉野家でモーニング定食。
入浴済ませて、これから散髪に行きます。
そしてそのまま都内。
友人と会って昼飯・夕食、それとも花見酒・・・。

金色の涙(白拍子)116

2009-04-07 23:02:05 | Weblog
 城下町の大きな宿屋。
大名を泊めても不足のない構えをしていた。
 豪姫一行は離れの一棟を借り切っていた。
四人と二匹では使い切れない広さだ。
陰供の二組の忍者衆は、それぞれ分宿しながらも、警戒を怠らない。
 ヤマトは離れの屋根裏で、宿屋の飼い猫を横に侍らせていた。
可愛い雌猫で、ヤマトに甘えてくる。
 そうした時だった。
十数頭の馬の蹄の音。こちらに近付いて来た。
夜中に馬を走らせるとは、理解しがたい者達がいたものだ。
それが、宿屋の前に来ると、寄せて停まった。
幾人かが飛び下りた。
 閉じられた表戸を激しく叩く音が響いた。
宿屋の者が内側から応じる声。外と遣り取りした。
どういう経緯かは知らないが、表戸が開けられた。
 聞きなれた声が宿屋内に響いた。
「お豪、どこにいる」
 前田慶次郎が、「お豪」「お豪」と叫びながら駆けて来た。
後ろから真田幸村が遅れじとついて来た。
佐助と若菜もだ。
 道中で慶次郎一行が幸村一行に追いつき、合流したのだ。
総勢十二人の幸村達に慶次郎等が加わり十五人に増えていた。
 離れに通じる廊下には、新免無二斎と吉岡藤次が立ち塞がっていた。
怪しい者であれば容赦なく斬り捨てるつもりでいた。
 二人は慶次郎の顔は知っていた。
本物と知ると脇に退いた。
 奥の部屋で豪姫と秀家が並んで迎えた。
「慶次郎様、こんな夜更けに如何したのですか」
 豪姫のシレッとした顔に、慶次郎の怒りが倍加した。
「如何したかだと」
 間に挟まれた秀家は、申しわけなさそうな顔していた。
幸村は秀家に軽く会釈し、傍に寄った。
耳元に秀吉の言動をソッと囁いた。
「殿下は怒ってはおられません。ただ心配されてるだけです」と一言で纏めた。
秀家の顔が明るくなった。そして、幾度も頷いた。
 佐助と若菜は遠慮して廊下に控えていた。
 慶次郎と豪姫。親しい者同士の激しい言葉の応酬が始まった。
連れ戻そうとする慶次郎と、武蔵へ下りたい豪姫。
「朝になれば京に戻る。よいな」
「よくありません。武蔵へ下ります」
「何を申す。気は確かか」
「確かです」
「この馬鹿者が」
「慶次郎殿程の馬鹿ではありません」
 慶次郎の顔が怒りに震える。
「女伊達等に口答えするのか」
「女と甘く見ないで下さい」
 次の間に控えていた無二斎と藤次は、顔を見合わせて苦笑い。
「仲が良いと言葉が荒くなる」
「確かですなあ。新免殿もそういう方がおりますまか」
「家の嫁じゃ。言葉に遠慮がない」
「それは新免殿が回国修行ばっかりで、家に戻らないからと違いますか」
「・・・というと」
「仲が良いのとは違いますやろ。たぶん、本気で怒ってはりますよ」
「やっぱり本気であったか」
「新免殿には家は無用のようで御座いますなあ」
 無二斎の視線が宙を彷徨う。
家族の事は、これまで考えた事もなかった。
 怒っていた豪姫の口から意外な言葉。
「そうだわ」
「なにが」
「黒猫をここに呼んで」
「どうする」
「話がしたいの」
 説得が功を奏しない今、場の空気を変えるしかない。
慶次郎は豪姫の真意を疑いながらも、天井に向かい、「ヤマト」と呼びかけた。
 屋根裏で聞いていたヤマトは豪姫に興味があった。
すぐに身を翻すと、移動して、廊下に跳び下りた。
音を立てなかった筈なのだが、佐助と若菜は見逃さない。
 若菜が笑顔を向けてきた。
「ヤマト、馬を逃がすのは良い策だったわよ」
「あれ意外に手がなかったからね」
 佐助も頷き、離れの襖を開けた。
「頼むぞ」
 次の間の無二斎と藤次も、ヤマトの姿を認めるや、奥へ通じる襖を開けた。
ヤマトは気楽な足運びで敷居を越えた。
ヤマトが背中を見せた瞬間、示し合わせたかのように、二人が殺気を投げかけた。
侮れない腕をしていた。無二斎が剛であれば、藤次は柔だ。
悪戯好きな二人をヤマトは無視した。
 慶次郎達は豪姫とヤマトの邪魔にならぬように、片側に退いた。
 ヤマトは何食わぬ顔で豪姫の前に寄った。
 豪姫が笑顔で手招きした。
「やっと会えたわね」
 次の瞬間、表情が一変。豪姫は手元の鬼斬りを掴んだ。
片膝ついて、鬼斬りを反転させ、アッというまにヤマト目掛けて振り下ろした。




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金色の涙(白拍子)115

2009-04-05 07:09:47 | Weblog
 老女・タカの迫力に、みんなは口を閉じた。
ジッと成り行きを見守った。
「アタシ等は身分は低いよ。
人として威張れる程の生き方もしていないよ。
だけどね、木村本家を支えてきたのはアタシ等なんだよ。
その木村本家の人間を殺されてアタシ等が黙っていられるかい。
血の繋がりはなくても、心は繋がっているんだよ。
隆太郎坊ちゃんも、栞嬢ちゃんも、迷惑かも知れないけど、
アタシにとっては孫同然。宝なんだよ。
ここでアンタの言うことにハイハイとはいかないよ」
 タカの発言が、周りにいた女達に火を点けた。
皆々がタカに賛同し、彼を責めたてた。
彼女等は襲撃者への怒りに燃えていた。
 彼は兜を外してタカを見た。
「タカに怒られたのは久しぶりだな」
 タカの目は怒りと同時に悲しみも混在していた。
「アタシだってこの歳になって怒りたくはないわよ」
「すまんな」
「それじゃ、みんなに供を許してくれるね」
 彼の顔が一際厳しくなった。
「この屋敷を一歩外に出たら、おそらく私は人ではなくなる。
人としての心が、今にも破裂しそうなんだよ」
「アンタだけじゃない。アタシ等も同じだよ」
「今夜は、原田の周りにいる人間は見境なしに殺せる筈だ。
家族が居合わせれば、家族諸共だ。たとえ赤ん坊といえども殺す。
こんな獣じみた事に、みんなを付き合わせるわけにはいかない」
 信平が怒鳴るように言う。
「血は繋がってなくても、戦場と同じで進退は一緒だ。
総領が獣になるなら、俺等も獣になる」
 普段は温厚な郎党達が口々に同行の許しを求めた。
 比佐志が穏やかに口を添えた。
「本家の事は任せろ。鈴木殿と二人で力を合わせよう。
だから、みんなの同行を許してやれ」
 それに鈴木も同意して頷いた。
 彼は目の前が赤くなった。
血の色の涙で、目が滲んできたのだ。
その視界の中に違和感を感じた。
最前より気になっていたのだが、判然としなかった。
それが、血の色の涙を通すことによって歴然となった。
 一人だけ、場違いな者がいた。
表情に怒りもなければ、悲しみもない。
片隅で、みんなの言動を記憶するかのように、ジッと見聞きしていた。
隣の集落の豪農の息子で、名は伊之助。
 思い出した。
今日、畑仕事をしていた彼の周辺に幾度か顔を覗かせていた。
思い返せば、伊之助は彼の居場所を確かめていたのかもしれない。
それであれば原田達の待ち伏せも合点がいく。
 彼が視線を向けると、伊之助は逸らすかのように下を見た。
「伊之助。ここで何を探っている」
 彼の単刀直入な問い掛けに、伊之助の身体がビクッと固まった。
 周りにいた者達は、一瞬唖然とした。
汐が引くかのように、次々と伊之助の周りから離れていった。
 みんなの視線が彼と伊之助に交互に向けられた。
 彼は兜を足下に置くと、手近の槍を取り上げて伊之助に投げた。
あっという間の出来事。
槍が伊之助の頭上スレスレを飛び、真後ろの柱に深々と突き刺さった。
 伊之助は顔色を失い、膝から崩れ落ちる。
 彼はそれより早く傍に駆け寄ると、胸元を掴んで、片手で持ち上げた。
まどろっこしい質問はしない。一言で決め付けた。
「どうして原田の手先になった」
「脅されたんだ。こんな事になるなんて・・・、思いもしなかった。本当だ」
 最後は涙声。
 みんなは理解すると、二人の周りに押し寄せた。
激しい憎しみの籠もった目で伊之助を睨みつけた。
誰かが、刀を抜いた。
 彼は、「ここで裏切り者の血を流すな」と怒鳴り、伊之助を放した。
「縛り上げろ」
 数人が伊之助を取り押さえ、猿轡を噛まし、雁字搦めに縛った。
 そんな伊之助を彼は無造作に軽々と肩に担いだ。
「誰か、私の槍と兜を持て。行くぞ」
 郎党達が一斉に「おー」と答え、彼に続いた。
村人も幾人かが混じるが、敢えて拒否はしない。
これ以上言葉を重ねるつもりはない。
 胸の鼓動の早まりを感じた。
暴力に飢えているかのようだ。

 玄関前には大量の篝火が焚かれていた。
昼のように明るい。
大勢の村人が所在無げに、あちらこちらで固まっていた。
 本家総領の木村弘之が伊之助を肩に担いで姿を現すと、
待ちかねたように歓声を上げた。
打ち合わせてもいないのに、駆け寄って門のところまで人垣を作って並んだ。
何の説明がなくとも、ここは尚武を重んじる国・武蔵。その行動を理解していた。
 弘之の後ろに槍持ちと、兜持ちが続いた。
郎党に加え、さらに加勢の村人達。総勢十六人。
 弘之は、「夜討ちだから」と松明を断る。
星明りで充分だ。
それに、今までに増して遠くまで夜目が利いた。
川から生還してより体調がすこぶる良い。
足も身体も不思議なくらいに軽い。
 母屋にいた者達も見送りに出た。
誰も口を開かない。
この期に及んでの愁嘆場は敢えて避ける。
それが出陣する時の、送り出す側の作法だ。
 一行もまた、足を止める素振りをみせない。
口を閉じ、胸を張って、次々と門から出て行く。
後ろ髪を引かれるのを恐れて、誰も振り返らない。
 今回の戦では自分達の生還は望めない。
なにせ相手は徳川の代官方与力。下手をすると徳川家全体を敵に回す。
それでも退く事は出来ない。全てを承知の上での行動だ。
 表門から出た一行は、夜の闇に呑み込まれるように姿を消した。
 見送る者達は動かない。
ジッと闇を見詰めたまま。
誰からか万歳の声が漏れた。
最初は小さかったものが、次第に膨れ上がってゆく。
ついには、夜空を劈かんばかりの万歳三唱となった。
皆々が狂ったかのように、「万歳」と叫ぶ。




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 近くの河川敷の桜が八分咲きです。
堤の道の両側に長い桜並木が続いていて、近隣では隠れた桜の名所です。
屋台村も営業しています。
昼は家族連れ。
夜は、並木に張り巡らされた提燈が灯り、カップルで一杯です。
 ちなみに今、BGMで流している曲はRSPのSakuraです。

金色の涙(白拍子)114

2009-04-02 22:30:50 | Weblog
 木村比佐志の顔色が変わった。
喜色を露わにして彼に詰め寄った。
「本家が動くなら、我等分家も加勢する」
「いや、比佐志殿には別の頼みがある」
「ん、なんなりと」
「本家の葬儀だが、私も含めて全員の葬儀を比佐志殿が喪主で行なって欲しい」
 比佐志は首を捻る。
「総領は・・・、お主は生きておるが」
「死んだも同然。比佐志殿の孫の安太郎に本家を継がせてやってくだされ」
 安太郎は殺された隆太郎とは同年で、文武両道に秀でていた。
気持ちの良い若者だ。
「どういうことだ」
「売られた喧嘩は買う。
しかし、後先考えずに突っ走るわけにもいかん」
 戦場に狩り出された彼は、郎党達を引き連れ、敗戦と知るや先頭を切って逃げ、
突撃するときは常に三番手四番手と慎重だった。
仲間達に「臆病者」と陰口を叩かれても気にしなかった。
郎党達の命を戦場で無駄に散らすのを好まないからだ。
 そんな臆病者の彼でも、個人的に売られた喧嘩だけは買っていた。
小さな頃から一度として退いたことがなかった。
歴戦の武将が相手であろうともだ。とにかく勝つまで続けた。
今では近在の者で彼に喧嘩を売る者はいない。
 彼は比佐志に言葉を続けた。
「家を残さねばならん。先祖伝来の血と汗で作り上げた物だからだ。
田畑があり、墓もある。血族・郎党も多い。
私一人の一存で潰しては御先祖様に申し訳ない。
そこで私が刀を取り、安太郎が本家を取る、というわけだ」
「そう簡単に言われても・・・、返事がし難い。分家が多いからな」
「ここにいる者達が聞いている。何の気兼ねもいらない」
「お主は・・・、大胆と言うか、大雑把と言うか・・・。
それより、与力とはいえ相手は徳川。本家だけでは手不足だろう」
 比佐志はなんとしても加勢したいらしい。
 鈴木が割って入った。
「比佐志殿、任せてくれ。俺達が加勢する」
 ところが、肝心の彼が鈴木の言葉をあっさりと拒否した。
「加勢は無用」
 鈴木はムッとした。
「我等では心許無いとでも」
「そうではない。友として頼みがあるのだ」
「・・・」
「大切なのは家の存続。安太郎の嫁にはお前の娘の美月が欲しい。
大きくなってからの話だがな」
 昨日までは隆太郎の嫁には美月と考えていた。
そのことは鈴木もそれとなく察していた。
「それは・・・」
「だから、それまで安太郎を支えてくれないか。
比佐志殿とお前の二人が約束してくれれば、こんな心強いことはない。
だから頼む、最後の頼みだ」
 頭を下げる彼に、鈴木は戸惑い顔。
 女の一人が、頼んでおいた御守り袋を作って持ってきた。
木村家の紋入りの羽織を、裁断して作ったようだ。
中には死んだ者達から切り取った髪が入れてある。
気の利いた事に丈夫な紐が付けられていた。
 女が首に架けてくれた。
「弘之様の供にしてくだされば、死んだ者達も浮かばれましょう」
 郎党や村人達が蔵から幾つもの木箱を運んできた。
代々の当主が買い集めた鎧兜に刀剣の類だ。
 彼の指示で木箱が次々と開けられた。
埃を被っているが、年に数度は手入れしているので錆びてはいない。
年代物から逸品まで幅が広い。
 広間にいた者達がそれぞれの箱に群がった。
一際大きな歓声が上がった。
そこの木箱からから取り出されたのは南蛮の鎧兜だ。
買い求めたのは父。
だが、重すぎて着用することがなく、今日まで蔵に眠っていた。
 それを一目見るなり、彼の心が騒いだ。何かしら訴えてくる。
まるで・・・、奇妙な親近感。
さっそく、みんなの手助けで着用してみた。
重さより、絹の着物のごとき感触を得た。
彼のために作られたかのようだ。
手足を動かしてみた。
 鈴木が心配する。
「重くはないか」
「思ったよりも動き易いようだ。少し歩いてみるか」
 試しに広間を歩いてみた。
ちょうど良い具合だ。
脇では郎党達が戦支度を始めていた。
彼は郎党達の正面で足を止めた。
「供は不要だ」
 古顔の郎党が驚いて尋ねた。
「旦那様、それはどうしてだね」
「お主達には本家を支えてもらいたい」
「それは・・・」
 一同は互いに顔を見合わせた。
そして異口同音に抗議した。
比佐志や鈴木も同様だ。
 一際甲高い声。誰かが彼を、「弘之」と呼び捨てた。
人垣を掻き分けて前に出て来たのは、白髪の小さな老女。
郎党の頭・信平の母親だ。
怒りに震える顔で彼を睨み付けた。
相手が総領といえども一歩も退かぬ気概を見せた。




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