金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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金色の涙(江戸の攻防)291

2010-12-08 21:36:36 | Weblog
 雷が江戸の町中に次々と落ちた。
あちこちで建物が破壊され、火災が発生していた。
江戸城内も例外ではなかった。
だが、どうしようもない。
兵士達は一揆勢との戦で手一杯。
町人達は戦を嫌い、遠くへ避難していて消火する人手が皆無であった。
 徳川方も一揆勢も落雷から逃げたいのだが、
雷が無規則に、矢継ぎ早に落ちてくるものだから、
逃げる方向一つも定められなかった。
 そうこう迷っているうちに雷鳴が途絶えた。
これ以上の落雷はないらしい。
あわせたように北風も止んだ。
 それでも戦線は動かない。
誰もが、敵も味方も様子見をしていた。
 空気が揺れていた。
似ているようでいて似ていない二つの波動の衝突が、みんなの足を止めていた。
白拍子の氷のような殺気と天魔の荒々しい獣じみた殺気。
見えなくとも二人が戦っているのが感じ取れた。
 最初に動いたのは一揆勢の太田三右衛門。
味方は徳川方と落雷とで分断されていて、士気が落ちていた。
手回りには騎馬百余騎がいるが、
この兵力では味方本陣を攻めている徳川勢を蹴散らす事も出来ない。
 そこで三右衛門は城に戻る事を選んだ。
城の守備に残していた二万余を戦場に投入する以外に手はない。
ついでに無人となった城に火を放てば徳川方の動揺を誘える筈だ。
 戻ろうとした三右衛門の耳に後方から騎馬隊の蹄の音が届いた。
三右衛門達の騎馬の動きに誘われるように、敵か味方か知らないが、
かなりの兵力の騎馬隊が攻撃を開始した。
鬨の声を上げて、こちらに接近して来た。
 見ると軍旗は「六文銭」。
敵の狐狸達の触れ回り通りに真田軍が現れた。
 三右衛門にとってというか、旧北条には嫌な相手だ。
真田家が旧武田の家臣であった頃から相性が悪かった。
ことに北条が徳川と連合して真田を攻めた上田合戦では、
見事なまでに追い払われ、ぐうの音も出なかった。
そして北条が滅びる切っ掛けを作ったのも真田家。
名胡桃城の一件がそれであった。
常に煮え湯を飲まされ続けてきた。
 北条の旧臣としては見逃しには出来ない。
雪辱を果たす機会だ。
 先頭の者と視線が絡み合った。
女武者ではないか。
長い黒髪を棚引かせて馬を駆っていた。
どうやらこれが小松姫らしい。
切れ長の目で三右衛門を睨みつけてきた。
女にしておくには惜しい武者振りだ。
 離れているにも関わらず小松姫が、「朱槍の太田三右衛門殿ではないか」と。
馬上で朱槍を振り回し、穂先を三右衛門に向けた。
 思わず彼女の手にする朱槍に目が吸い寄せられた。
武田信玄が鍛えさせたという朱槍「赤蜻蛉」ではないか。
それは武田勝頼より真田昌幸に譲られ、
「真田家に嫁入りした小松姫に与えられた」と噂に聞いた。
 小松姫が朱槍を構え、こちらに駆けて来た。
その彼女の前に、途中に居合わせた一揆勢が立ち塞がった。
だが小松姫は苦にしない。
次々と払い除けた。鮮やかな槍捌き。
突く、殴る、打つ。さすがは本多忠勝の娘。
 三右衛門は立ち塞がる一揆勢を怒鳴りつけた。
「邪魔するな。その者を通せ」
高齢にも関わらず声の通りは良い。
弾かれたように一揆勢が小松姫に道を譲った。
 三右衛門は小松姫を迎え撃つ為に馬首をめぐらした。
 小松姫は自分に追従する騎馬隊に気付いた。
慌てて馬を止めて振り返り、付き従う者達を怒鳴りつけた。
「一騎打ちの邪魔をするでない」
 身を案じる家臣達は苦言を呈した。
「しかし姫様、一騎打ちなどと」
「少しはお控え下さい」
「我等にお任せを」
 が、小松姫は聞く耳を持たない。
「煩い、邪魔すればその者から斬る」
 みんなが押し黙った隙に小松姫は馬に鞭を入れた。




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NHKクローズアップ現代。「ある少女の選択」を見ました。
「これ以上の延命治療は受けたくない」と少女十八歳。
八歳で心臓移植。十五歳で人工呼吸器装着。同時に声も失いました。
色々あった彼女が延命治療を拒否し、家族に見守られるなかで、
肺炎をこじらせて亡くなりました。
・・・。
本人の気持。家族の気持。医療従事者のジレンマ。
難しい問題ですね。


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