金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(幼年学校)67

2018-08-26 08:03:10 | Weblog
 モーニングは他とは違っていた。
冒険者ギルドの併設のカフェなので、まず量から違っていた。
焼き肉大盛り。
大人向けの焼き肉大盛りなのだ。
最初は閉口したが、慣れとは恐ろしいもので、
今ではペロリと完食出来るようになった。
これにトースト二枚、スープ、ゆで卵、ドリンク付き。
 運ばれて来たモーニングを口に運んでいると、
キャロルが呆れるように言う。
「そんな量をよく朝から食べられるわね。
これ以上育ってどうするつもり」
 三人は自宅で朝食を食べて来たようで、
手元にはジュースしか置かれていない。
「学校の食堂のモーニングに比べ、ちょっと多いくらいだよ」
 マーリンに含み笑いで尋ねられた。
「今日は何の肉」
 俺は舌触りで確認した。
「たぶん・・・、定番のガゼローンかな」
 国都の周辺は狐の生息域で、それから枝分かれした魔物。
ガゼローンはEクラス。
他にも狐から枝分かれした種は多い。
例えばDクラスのガゼミゼル。Cクラスにはガゼラージュ。
その三種は俺達が昨年暮れの大晦日に遭遇した魔物でもあった。
ガゼローンは国都の人々には珍しくもない魔物なので、
肉は低価格で売買されていた。
「味付けはどう」
「良いんじゃないかな。屑肉だけど、無難に口に入れられる」
 キャロルが切れ気味に言う。
「私の質問に答えていない。
これ以上育ってどうするつもり。
枯れ木にでもなるつもりなの」
 今の俺の体軀は痩身に近い。
幾ら食べても余分な肉が付いてこないので、
このままだと骨と皮だけになってしまいそう。
「だからちょっとでも肉を付けようと、頑張って食べてるんじゃないか」
「もっと筋肉を付けなさいよ」
「ええっ、今の時期、筋肉は付けないよ」
「どうして」
「育つ時期に筋肉を付けすぎると、
伸びようとする骨を阻害するだけで何の益もないからだよ」
「えっ・・・、そうなの。
筋肉を付けすぎちゃ駄目なの」
「たぶん駄目だと思う。たぶんだけどね。
村一番の筋肉自慢の人は背が低かった。二番目も」
「それは・・・」キャロルが愛くるしい目を見開いた。
 俺は前世で耳にした説を分かり易く口にした。
「人間はね、赤ちゃんからすくすく、
縦横平均に大きく育つんじゃない、と思うんだ。
肉が付いて横に丸くなる時期、骨がスクスク上に伸びる時期、
この二つの時期を交互に繰り返している、と思うんだ。
だから僕は筋肉だけは、鍛えすぎないようにしてきたんだ」
 キャロルが幼馴染みの二人を見、
「今の話、聞いたことがある」と尋ねた。
「私は初耳」マーリン。
「私も」モニカ。
 俺は三人を見比べた。
「キャロルは二人とは違っているよね」
「何が」
「無責任な言い様になるけど、でも言うよ。
二人に比べてキャロルは動きすぎで、
食べた物全てを消費しているイメージしかないんだ。
たぶん、身体の成長に回す分を残してないんじゃないかな」
 マーリンとモニカが顔を見合わせ、
「あってるかも」口を揃え、頷いた。
「そうなの・・・」とキャロル。
「アンタは道場でも一番最後まで残って鍛えているじゃない」モニカ。
「そうそう、朝も自己鍛錬とか言ってるし」マーリン。
 俺は話しを締め括った。
「育ちきっていない身体を全力で鍛えたら、故障しか思い浮かばない。
少しは手を抜く事も覚えたら」
「そうなんだ」と溜め息のキャロル。
 元気を無くしたキャロルを俺は励ました。
「試しに、これから手を抜いてみたらどう。
まだまだ十才、育ち盛りの真っ最中じゃないか。
手遅れじゃないと思うよ」
  モーニングを終えた頃合い、ギルドを見ると人が少なくなっていた。
多くの大人の冒険者は依頼を請負、現場に向かったらしい。
俺達も立ち上がった。
 先ず掲示板で最新の魔物情報を見た。
平地に出没する魔物はFクラスかEクラス、たまにDクラス。
山中だとCクラスにBクラス。
この一月、AクラスやSクラスの魔物は確認されていないそうだ。
 次に依頼を見た。
俺達が請けられる薬草採取は、大半が年間を通した常時依頼。
それとは別に期限付き依頼が張り出されている事も、ままあった。
希な病気が発生した場合などだ。
急ぎの仕事なので見返りの報酬も多い。
それだから掲示板の確認は必要な手順なのだ。
 背の高い俺が掲示板の上の方を読み、下をキャロルが読む。
その様子をマーリンとモニカが眺めている、といった図だ。
「急ぎの依頼はなし」と俺が言うと、「こちらもなし」とキャロル。
 俺達は受付カウンターに一声掛けてから出掛けた。
東門から外に出た。
内も外も、相も変わらず行き交う人々で溢れていた。
街道から逸れて間道を行く。
間道も人が多い。
行商人、農夫、旅人等々、流石は人も物も集める国都。
俺達は途中で枝道を選んだ。




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昨日今日明日あさって。(幼年学校)66

2018-08-19 08:10:50 | Weblog
 珍しく脳内モニターのアラームで目を覚ました。
疲れていたらしい。
身体が、ではなくて精神的に。
昨日の織田伯爵家の一件とクラス委員の一件。合わせて二件。
前世が大人だったので表面上は巧く対応出来た、が、
心の奥底では子供心に何らかの痛手を負ったのだろう。
 慌てて飛び起き、窓を開けた。
冷たい二月の風が部屋に押し寄せて来た。
冷気で目が完全に覚めた。
 何時もだと朝日が昇る前後に目を覚ますのだが、
もう既に朝日は顔を見せていた。
今日は学校は休み、冒険者として働く日。
慌てて身支度を整えた。
約束の刻限には余裕があるが、朝食の時間を考えると、
ギリギリかも知れない。
 手早く魔法を使った。
心身の疲労を取り除く光の魔法、ライトリフレッシュ。
即座に朝日とは違う別の光が俺の全身を包む。
優しい光の感触。
この年齢で必要になるとは思わなかったが、
未だに残るモヤモヤ感を消すにはライトリフレッシュしかない。
まるでブラック企業の過労戦士・・・。
 大晦日に分析した火の魔法と光の魔法を人目を引かぬように鍛錬し、
習得、スキル化していた。
呪文は不要。水の魔法同様にイメージするだけ。
ついでにライトクリーン。
一瞬で入浴と洗濯をしてくれる便利な魔法、ライトクリーン。
さっきより強めの光が全身を覆う。
肌にもヒタヒタと圧迫感。
身体だけでなく、着用している衣服も綺麗になった。
 現在の魔法のスキルは水、火、光の三つ。
ただし攻撃魔法としては未知数。
鍛錬する時間も場所もなかったからだ。
今は生活の為にのみ使用している。
飲み水。暖房。照明。・・・。
 寮を飛び出した。
食堂へ向かう者達から声が掛かった。
「ダンタルニャン、ギルトで仕事を請けるのか」
「当然。
稼いで稼いで、稼ぎまくるぜ」
「魔物も倒してくるのか」
「それは無理。
成人するまでは薬草採取の類だけだ」
 校門を出入りする際は幼年学校の橙色のローブを着用する、
と校則にあるので、それに従い今は橙色のローブ姿。
ちらほらと先を行く者達も橙色のローブ姿。
ただし一歩でも出れば、その限りではない。
俺は校門から離れるや、走りながら手早く脱いで、
ローブの下に袈裟懸けにしていた草臥れたズタ袋に収納した。
亜空間に収納するマジックアイテムのショルダーバックだ。
実際には俺のスキル、虚空と関連付けしているので、
収納先は虚空の収納庫になっていた。
虚空の収納庫が本当の収納先で、マジックアイテムは見せ掛け。
 代わりに冒険者用のローブをズタ袋から取り出した。
汚れるのを前提にしたカーキ色のローブだ。
東門の冒険者ギルドへ急いだ。
 学校の近くにもギルドはある。
南門の冒険者ギルドだ。
でも一緒にパーティを組んだ三人の住まいは東門の方が近い。
それに俺を含めて、みんな東門で入会の手続きをした。
顔見知りのギルド職員もいる。
カールの友人のバリーとか。
 東門の冒険者ギルドは大勢の冒険者が訪れ、掲示板前は混雑し、
受付カウンターには行列が出来ていた。
要領の良いのは前の晩に受注すると思われがちだが、実は違う。
早朝が正解。
深夜に国都のギルド間で情報が共有・分析され、
翌早朝に最新の魔物情報や新規の依頼が掲示板で公開される。
それらを検討してから請けるのが最善なのだ。
 俺は大人達の邪魔にならぬよう、併設のカフェに入った。
暖かい店内。漂う珈琲の香り。
子供なので胃が珈琲を受け付けないが、香りは大好物。
 店内は八割ほどの入り。
ほとんどがモーニングしていた。
俺に声が掛けられた。
キャロル達三人が窓際の席から手を振っていた。
ギルドのカウンターの様子がよく見える席だ。
 愛くるしいリスを思わせる小柄なキャロル。
丸っこい感じのマーリン。
頑丈そうなモニカ。
三人とも十才。
見た目は女児だが、精神面は侮れない。
前世の同年代に比べて強かななのだ。
五才の頃から幼年学校の一芸試験を目指し、
町の道場に通って武芸を磨いてきた、と言っていた。
得意なのはキャロル・弓、マーリン・剣、モニカ・槍。
その腕前はパーテイ編成の指導をしてくれたカールも認めるほど。
 残念なのはパーテイの名前。
届けるのを三人に任せたら、「プリン・プリン」になっていた。
プリンス・プリンセスを略したそうなのだが・・・、どうなんだろう。
一応、リーダーは俺になっているが・・・、先行きが怪しい。
三対一で俺が押し切られる未来しか思い浮かばない。
「おはよう」と挨拶し、モーニングを頼んだ。




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昨日今日明日あさって。(幼年学校)65

2018-08-12 10:30:54 | Weblog
 初対面で馬鹿なの・・・。
馬鹿認定ではない。
馬鹿なのかと疑問を呈されてしまった。
前世なら、「馬鹿と言う方が馬鹿」と返すのが子供の世界なのだが、
俺は自重した。
迂闊な言葉は相手が貴族の娘なので死を招く、かもしれない。
まあ本気で、そこまでの心配はしていないが・・・。
適切な言葉を探していると、焦れたパティー毛利に詰め寄られた。
「四日目の授業が終わったら各クラスの委員は第一クラスに集合、
と伝えてあるでしょう」
 伝えてある、と彼女は言うが、俺は聞いていない。
思わず自分の記憶を疑った。
 パティー毛利は後ろを振り向いた。
背の高い生徒に念押しした。
「貴男、ちゃんと伝えたのでしょう」
「はい、確かに」
 その生徒は俺に視線を向けた。
「これだから平民は・・・。
白色発光で合格しても所詮、平民は平民。
これでは先々が思い遣られますね」
 どうやら、この生徒が俺に伝えた・・・らしい。
でも俺は聞いた覚えがない。
生徒の顔にも見覚えがない。
パティー毛利同様に初対面だ。
もしかして俺・・・、若年性アルツハイマー・・・。
 すると脳内モニターに文字が走った。
「初対面です」
 俺の記憶はあれだけど、脳内モニターの記憶なら信頼に足る。
俺は男子生徒に尋ねた。
「貴男は誰ですか。
初対面なので名前も知らないのですが」
 男子生徒が鼻で笑う。
「ふっふん。
平民は忘れっぽいようだね。
僕は寛大だから、もう一度、自己紹介をしてあげよう。
ボブ三好。
偉大な三好侯爵家の一族だ。
・・・。
一年九組の委員を仰せつかっているので、
隣のクラスの君に伝言をした。忘れたのかい」いけしゃあしゃあと言う。
 俺はあ然とした。
ボブ三好の表情からも、言葉の端々からも、悪意が全く感じ取れない。
演技しているようにも見えない。
虚言癖・・・。
 俺はボブ三好を諦めてパティー毛利に話し掛けた。
「貴女同様、ボブ三好殿とも初対面です。
信じる、信じないは貴女に任せます」
 パティー毛利の目が点になった。
彼女の連れの者達も驚いたようで、しきりに耳打ちが始まった。
 俺は街中での噂の一つを思い出した。
毛利侯爵家と三好侯爵家の仲違いだ。
両家は足利王国を支える重鎮として評定衆に席を得ているが、
実際には互いの足を引っ張り合っているばかり、とか。
本家同士で戦火を交える事は滅多にないが、
地方で互いの分家が衝突する事は珍しくないらしい。
この噂から俺は、大人の争いが子供の世界にも影響しているのか、
と疑った。
まさかとは思うが、なきにしもあらず。
 俺とボブ三好を見比べていたパティー毛利だが、答えが出たらしい。
落ち着いた声音で俺に問う。
「今日が初対面なのよね」
「そうです。
俺には貴女に嘘をつく理由がない」
 するとボブ三好が割って入った。
「僕が嘘をついている、とでも」
 パティー毛利はボブ三好を無視した。
「貴男を信じましょう」と俺に言う。
 それでもボブ三好の表情は変わらない。
俺を一瞥してからパティー毛利に言う。
「平民を甘やかすと付け上がるばかりですよ」
 言うだけ言うと、平然と踵を返した。
パティー毛利が連れていた者達に動揺が走った。
彼等彼女等は狼狽してパティー毛利とボブ三好を見比べた。
その様が大人世界の縮図のようで痛々しい。
結局、三人が泡を食ったような表情でボブ三好の後を追いかけた。
 パティー毛利が俺に言う。
「申し訳ないわね。
こちらの手違いだったみたい。
これから連絡する時は私が出向きましょう」
 すると連れの一人が前に出た。
「いいえ、パティー様はなさらないで下さい。
代わりに私が出向きます」
 パテイーと同じ金髪の女子生徒が俺をガン見、言う。
「一年二組の委員をしているアシュリー吉良と申します。
クラス委員の会合の連絡は私が行います」
 俺を威圧するかのような視線。
女子にしては眼光が鋭い。
俺がトンボだったら、たぶん目を回している。
そんな俺にパティー毛利が言い訳をした。
「ごめんなさい。
この子に悪気はないの。
仲良くしてやってね」
「それよりパティー様、今日の会合で決まった事を」
「そうね」
 パティーの説明によると、
この場にいる者達が各クラスから選ばれた委員だそうで、
俺が不参加でも会合は問題なく進められたそうだ。
まあ、異存はない。
十人のうち九人が集まれば当然だ。
そこで決定した事項が幾つか。
中でも最重要なのが一つ。
十人の委員から一人、代表者を選出し、
学校の全生徒を統轄する生徒会に送り出すこと、だった。
生徒会の仕事をすれば、さらに上級の学校に推薦される。
名も実もある要職であった。
そこに名乗り出た候補は二人。
パティー毛利とボブ三好。
投票の結果、五対四でパティー毛利が勝利した。
さっき引き上げたボブ三好には三人が従い、
ここにはパティー毛利に従う四人がいる。
大人世界の縮図を目の当たりにした。
 パティー毛利が俺を見た。
「今さら遅いけど、何か異議がある」
「今さらでしょう」




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昨日今日明日あさって。(幼年学校)64

2018-08-05 08:04:00 | Weblog
 固辞してもウォルト柴田は引き下がらない。
「伯爵様のご厚意です。遠慮はいりません」
 俺は丁寧な言葉遣いを意識し、徹底して固辞を続けた。
次第にウォルト柴田の表情が・・・、このままでは沸騰しそう。
実に分かり易い。
交渉ごとに向かない人物を、何の目的で差し向けたのだろう。
もしかして・・・、自分から買って出たのか・・・。
それはそれで問題だが。
 幾度目かの固辞、ついにウォルト柴田が切れた。
「下手に出ておれば付け上がりおって。
貴様、何様のつもりだ」鬼の形相で睨む。
 ただの児童なら、一睨みで竦んでしまうだろうが、俺には効かない。
「平民様ですが、何か」と思わず応じてしまった。
ついでに余裕の微笑み返し。
喧嘩は売らないが、買うのは好き。挑発するのは、もっと好き。
 癇に障ったのだろう。
ウォルト柴田は立ち上がろうとした。
テリーが片手を上げ、「相手は子供ですよ」と制した。
 決まり悪そうな表情で半分浮かした腰を下ろすウォルト柴田。
俺から顔を背けた。
話しの接ぎ穂を失った事に気付いたようで、表情が歪んでいた。
 埒が明かないと見たのか、テリーが言う。
「話しも終わったようですね」
 ウォルト柴田が途端に顔を俺に向けた。
グッと前のめりになって言葉を吐く。
「ダンタルニャン、お主の親父殿は伯爵様の家臣であろう。
お主一人の問題ではないぞ。そこのところは分かっておるのか」
「分かっています。
貴方様のような伯爵家の旗本とは身分が違いますがね。
我が家は家臣と言っても、土地に根差した在郷の武士。
村長をしているから家臣の端っこに加えられているだけ。
伯爵家の家臣と言うより、正しくは尾張武士団の一人。
伯爵様が偉くなって大きな領地に転封されれば、
旗本を連れて出られるが、尾張武士団は残される。
それだけの関係。それが何か」
 言い返してしまった。
事実を言っただけだが、皮肉に聞こえただろう。
貴族には権威も権力もある。
しかし絶対ではない。
在郷の武士や平民は身分的には下だが、それが全てではない。
貴族に抵抗できる物を幾つか持っている。
その一つが所有権だ。
公的に認められた所有権は何者も侵す事が出来ない。
 土地の所有もそうだ。
在郷の武士は村や集落を所有していて、
その有り様は貴族の旗本とは根本的に違う。
生産し納税もする在郷の武士。
伯爵家から与えられた俸禄のみで生活する旗本。
旗本を貴族の正規の家臣とするならば、
在郷の武士は地域限定家臣と言えよう。
 ウォルト柴田の表情が青くなった。
視線も落ち着かない。
よもや子供相手に手こずるとは思っていなかったのだろう。
額から冷や汗・・・。
 テリーが頃合いと見たのか、仲裁に入った。
「纏まりそうにないですね。
今日はここまでにしませんか」
 テリーは時の氏神だった。
ウォルト柴田は考えた末に頷いた。
俺も頷いた。
時間の無駄でしかない。
次の面会・・・。
たぶん、ウォルト柴田は二度と来ないだろう。
来るとしたら別の人物。
俺としては誰が来ても面会には応じない。

 挨拶もそこそこに、逃げるように応接室を飛び出した。
当初の目的の図書館に向かった。
食堂や浴場のある区画に隣接して建てられていた。
黴臭そうな感じの三階建てがそれだ。
 用があるのは二階の魔導書のコーナー。
これまで魔法を系統立てて習った事がないので、
初心者向きの本を借りることにした。
あるある、選り取り見取り。
多すぎて困惑もした。
 初心者向きの本を選ぶつもりだったが、活字中毒の虫が疼いた。
時間があるので棚晒しの関連本にも目を遣った。
埃も被っていて躊躇ったが、何冊か抜き出した。
すると鑑定君が、「価値ある書籍ですね」と奨めて来る。 
 選んだ五冊を借りて寮へ戻ると、寮の入り口にトラブルの予感。
明らかに寮生ではない生徒九人が屯していた。
金髪の女生徒が俺の前に立ち塞がった。
俺を見上げて、グッと威圧して来た。
「貴男が十組の委員のダンダルニャンよね」
 別の組の女の子だ。
名前は・・・あるんだろうが・・・、顔だけは見覚えがあった。
入学式で新入生を代表して挨拶を行った女の子だ。
「そうですが、貴女は」
「一組の委員のパティー毛利よ」
 毛利侯爵家の分家筋の子女が一組に在籍している、との噂があった。
「パティー様ですか。
それが僕にどんな御用でしょうか」
 パティー毛利が威圧を強め、「貴男、馬鹿なのと」怒鳴った。




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