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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

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昨日今日明日あさって。(大乱)201

2021-01-31 10:52:35 | Weblog
 ベティ王妃は西門に本陣を構えていた。
奥の陣幕に諸将を集め、情勢を検討していた。
本来であれば元帥である国王陛下がいて、
左右に近衛大将と近衛参謀長が侍り、招集した各隊よりの報告を聞く。
しかし、今、その三名の姿はない。
国王陛下は真っ先に魔法攻撃を受け、
その地で反乱軍に身柄を拘束され、以後の安否も所在も不明。
大将と参謀長は未だ現れず。
 ベティの左には国王の最側近であったポール細川子爵。
右には、かつてバイロン神崎とエリオス佐藤の一件を担当した中佐、
現在は近衛軍大佐のアルバート中川子爵がいた。

 カーティス北畠家公爵軍を偵察して来た近衛軍中尉が報告した。
「南門を掌握し、こちらに向かっています。
兵力はおよそ2000。
公爵軍には傭兵が多い様に見られますが、
一部に国軍や近衛軍の隊旗も散見されます」
 代わってバーナード今川家公爵軍を偵察した近衛軍中尉。
「こちらは北門を掌握し、同じくこちらに向かって来ています。
兵力はおよそ3000。
こちらも傭兵が多く見られ、国軍や近衛軍の隊旗も散見されます」
 ベティが諸将を見回して口を開いた。
「どういう訳で国軍や近衛軍の隊旗が散見されるの」
 ポール細川子爵が宥める様に答えた。
「公爵世代は兵力を有しませんが、
次代が子爵として領地を賜った際、家臣集めに困らぬ様に、
事前に退職・退役した者を雇用するのを許されているのです。
その関係で国軍や近衛軍は無論、役所とも深い繋がりがあります」
 ベティは不承不承頷いた。

 一人の少佐が味方の現状を報告した。
「我らの現有兵力を説明します。
この西門、表に一個中隊。
こちら側、正面に二個大隊、左翼に一個大隊、右翼に一個大隊、
遊撃として後方に三好侯爵様ご一統の混成部隊、およそ1000。
計3250です。
状況によっては表の中隊を引き剥がし、投入します」
 もう一人の少佐。
「東門の毛利侯爵様や佐々木侯爵様方も似た様な兵力です」
 ベティは確認した。
「近衛の兵力は一万ほどと聞いていました。
少々、数が少ないですね」
 アルバート中川大佐が説明した。
「第一にワシバーンの襲撃です。
多くの負傷者が出ています。
そして反乱軍に加わった離反者。
これに少々ですが、去就を明らかにしていない部隊があります」
「大将や参謀長がそれだと・・・」
「確認は、していません」苦り切った表情。

 ベティは溜息つきながら一同を見回した。
「国軍の助勢は」
 ポール細川が言う。
「頼んでいません」
「どうして・・・」
「今なら王宮区画だけの戦闘ですんでいます。
もし、これに国軍を加えるとなると、
勝手に走る部隊が出る懸念があります」
「それは・・・」
 アルバート中川が説明した。
「上級部隊は信用できますが、個々の部隊は信用なりません。
指揮する尉官クラスは平民の将校が多いのです。
出動命令を受領した途端、反乱軍に加わるかも知れません」
「貴官は国軍を信用していないのですね」ベティがもっともな質問。
「そうではありません。
昨今、自由平等の思想が広がっています。
それに平民の尉官クラスが影響を受けています。
まずは古い体制の打ち壊し、それから新たな秩序の創世、
そう謳っています。
・・・。
今回の騒動は壊すには打ってつけかと思い、憂慮しているのです」

 それまで聞き役に徹していた評定衆の一人が立ち上がった。
三好一族の総帥・ロバート三好侯爵。
「となれば我等、古い世代の出番だな。
・・・。
王妃、ご安心なされよ。
既に手は打ってあります。
国都に在住している三好一族に招集をかけております。
それとは別に国元へも使者を走らせております。
・・・。
我等だけではない筈です。
東門を任されておる毛利一族も同様にしておりましょう。
他の評定衆も勿論、同様でしょう。
・・・。
ここは耐えて、耐えて、時間を味方にすれば良いだけのこと。
国軍を無理して引き込む必要はありません。
国軍には外郭の治安維持を命じ、我らに反乱軍の鎮撫を命じて下され。
さすれば打ち砕き、陛下を取り戻しましょう」

 アルバート中川大佐が疑問を呈した。
「随分と準備がよろしいですな。
事前に反乱をご存知であったとか・・・」
 途端、三好一族の一人が気色ばみ、ドッと立ち上がった。
「ふざけるな、聞き捨てならん。
こちらも既に一族に戦死者が出ている。
お前、どういう意味でものを申している。
訳次第によっては切り捨ててくれる」

 ロバート三好が呆れ顔で仲裁した。
「双方とも落ち着け」
「しかし総帥・・・」
「大佐の疑問ももっともだ。
・・・。
我等は王宮にいて反乱軍に掛かりきりだった。
外との連絡もつけようがなかった。
その場を切り抜けるのに必死で、頭も回らなかった。
それが翌日には手回しよく準備が整っている。
誰しも疑問に思う、それは当然だ。
・・・。
大佐、答えは小僧にある。
ポール細川子爵が現場に連れてきていた小僧だ。
お子様子爵のダンタルニャン佐藤子爵と言えば分かるだろう」
「ええ、確かに、それらしい子供がいました。
それが・・・」
「奴が王宮から外郭に抜け出し、
評定衆の主だった家に状況を知らせる書状を出した。
それを読んだ各家の執事が適切に動いた。
我らが知ったのは今朝遅くだ。
知った時には全ての手配がすんでいた。
そういう訳だ」

 アルバート大佐は素直に頭を下げた。
「申し訳ありません。
勘違いしていました」
「よいよい。
お主の家からの兵力は如何した」
「宮廷子爵なので250が限度です。
そこで冒険者ギルドや傭兵ギルドに声をかけ、
せめて倍にしてから、西門に寄越す様に執事に申し伝えました」
「500か、それは無理だろう。
他の貴族達も動いているだろうからな」

昨日今日明日あさって。(大乱)200

2021-01-24 07:26:05 | Weblog
 俺は屋敷の内庭で寛いでいた。
鯉が放たれた池に面した四阿のベンチに腰を下ろし、
濃いミルクティが注がれたカップを片手に、ほっと一息ついた。
俺の膝の上のイヴ様もカップを片手に、ほっと一息ついた。
 朝一番にイヴ様に隠れん坊の鬼に指名され、やっと今、
開放されたばかり。
汗、汗、汗。
子供の相手がこんなに疲れるとは・・・、父や母、いや違う。
村の我が家のメイド達に大感謝だ。

 俺は空になったカップをテーブルに戻した。
竹籠のビスケットを二本指で摘まむ。
イヴ様も俺を真似た。
背筋を伸ばし、さらに手を伸ばしてカップを戻し、
ビスケットを二本指で無理して摘まむ。
摘まんだ。
口に運ぼうとして落とした。
俺の膝に。
怒った。
「うきゃー、にゃ~ん」
「うん、これを食べるかい」
 俺は摘まんだビスケットを彼女の口に持って行った。
ところが彼女は口を開けない。
俺を無視し、竹籠のビスケットに再度挑もうと手を伸ばした。
その様子を彼女付の侍女三名が微笑ましそうに見守っていた。

 遠く、遥か高々度に微かな魔波を感じ取った。
それが高速で国都上空に急接近して来た。
近付くに従い、何者か分かった。
識別し易い魔波。
エビスゼロとエビス一号だ。
 屋敷の真上で二機が停止した。
人目に触れぬ高々度だ。
アリスの第一声、念話が届いた。
『ダン、何時の間に子供を作ったの』
『パー、子供、子供ピー』ハッピーは相変わらずだ。
 姦しい二人に事情を説明した。
かくかくしかじかと。
『そういう訳なんだけど、二人の用事は済んだのかい』
『粗方ね。
それでお土産を持ち帰ったわ』
『お土産、怖いな』
『怖くないわよ。
部屋にいるから、子守が終わったら戻ってきなさい。
お土産を見せてあげる。
たぶん、喜ぶと思うけど』
 高々度にいた二機が姿を消した。
転移。
俺の自室に転移したに違いない。

 俺は侍女達にハンドサインを送った。
急用ができた、イヴ様の子守終了と。
それを見て、侍女の一人が前に出て来た。
「イヴ様、そろそろお昼寝の時間です」
「もうなの」
「ええ、よく寝ませんと、大きくなれませんよ」
「わかったの」
 イヴ様は不承不承ながら、俺の膝の上で立ち上がった。
それを俺は文字通りにお姫様抱っこ、そのまま侍女に手渡しした。
「にゃん、またね」

 俺は三階の自室に戻った。
ベッドの上でアリスとハッピーが結界を敷いて、何やら騒いでいた。
楽しそうで何より。
俺に気付いたアリスがベッドに手招きした。
『これを見なさいよ』
 収納庫から二つ取り出した。
見るからにダンジョンコアの小型版。
本体が母体なら、これは子供。
幼年学校に設置してある型と同じだ。
『子供コアだよね。
それも二つ、どうしたんだい』
『頼んだら産んでくれたのよ』
『頼んだらね・・・』
『一つは私が使うわ。
ペリローズの森と繋ぎたいの。
常時接続にすれば、妖精狩りに遭うこともなくなるわ』
『それで』
『オープンする予定だったダンジョンを妖精専用にするの。
そこで軟弱になった妖精達を鍛えるの』
『軟弱になったね・・・、あの長老様は』
『あれはもう老害ね。
話すだけ無駄だわ』

 アリスが長々と説明した。
『私達は森の生態系を正常な形で維持する役目があるの。
例えば今回のワイバーン騒ぎ。
あれが出来する前にワイバーンを間引くのが役目なのよ。
適切な数、間引いていればキングもクイーンも生まれなかったの。
ところが老害にそれは出来なかった。
・・・。
まあ、老害一人の責任じゃないわ。
森の妖精自体の力が弱まっているのよね。
結構な数の妖精が森から抜け出しているみたいだから、
しかたないのかも知れないわ』
 抜け出した妖精の一人がそう言うから説得力が半端ない。
『で、どうするの』
『妖精個々の技量が落ちているみたいだから、国都観光を餌に、
ダンジョンで鍛えるのよ。
そうすれば妖精の戦力がアップするし、
森から抜け出る奴も少なくなると思うのよね』
『話は分かった。
アリスに任せるよ、長老も含めてね。
それでもう一つは』
 子供コアは二つあった。
一つの行く先はペリローズの森と決まった。
長老が許可すればだが・・・。

 アリスが得意げに言う。
『もう一つはダンにあげるわ。
木曽に行く機会があれば、そちらに設置しなさいよ』
『いいのかい』
『いいのよ。
私の心は広いのよ、感謝なさい。
・・・。
ところでだけど、困ってるみたいね。
私とハッピーで手伝ってあげましょうか』
 ハッピーが参戦して来た。
『ポー、手伝う、手伝わせてプー』
『人間の騒ぎにかい』
『そうよ、王女様を助けたいのでしょう』
『ピー、イヴ様、イヴプー』

 俺は考えた末に断った。
『たぶん、助けが無駄になるから関わらない方がいい』
『無駄になるの・・・』
『僕を含め、人間は愚かだから、どうにもならない。
戦死者の上に戦死者を重ねた末に平和になるのなら良い。
けれど、新たに生まれた連中が、新たな争いの種を育み、
新たな火蓋を切って落とす。
これを永遠に繰り返す。
それが人間と言う永久機関。
種の違う妖精が関わる必要はないよ』
『なんとなく分かるわ。
でも、ダン、貴方も人間でしょう。
どうするの、関わるんでしょう』
『僕の手の届く範囲で』
『手の届く範囲・・・』
『眷属に似た者と言う意味だよ。
家族、友人、家臣、領民、それに頼って来る者。
・・・。
僕の手は小さいから、その他大勢までは抱えきれない』

昨日今日明日あさって。(大乱)199

2021-01-17 07:50:39 | Weblog
 俺は疲れていたらしい。
メイドのドリスの声で起こされた。
「おはようございます、ダンタルニャン様」
 ドリスが入室して来た。
返事も待たずに窓を開けた。
「天気のいい朝ですよ」
 振り向いて俺の顔を覗き込む。
「随分とお疲れの様ですが、大丈夫ですか」
 俺は上半身を起こした。
目を擦りながら応じた。
「おはよう。
・・・。
子供には酷な一日だったから、もうクタクタ。
身体より、精神がね。
ところでお客様方の様子は」
「イヴ様もお疲れの様でまだご就寝なされています。
他の方々は、侍女の皆様は起きられてイヴ様待ちの状態です。
騎士の方々は内庭で鍛錬されています」

 俺は改めてドリスに尋ねた。
「ねえドリス。
昨日も説明したけど、今回の件、正直にどう思う」
 俺は昨日、帰邸するや屋敷の者達を全員集め、
王宮で起きている騒動を説明し、預かったイヴ達を紹介した。
ドリスは極めて明るい表情をした。
「何も問題はありません。
私達使用人は主に従うのみです」
「こんな子供だよ」
 ドリスは首を傾げた。
「子供・・・。
どうもダンタルニャン様はご自分をご存知でないようですね。
・・・。
子爵様はどこからどう見ても子供の姿ですが、
私共はそうは考えていません。
そこいらの貴族様よりも一段上と思っております。
変な謙遜などせずにドンと構えて、命令でも指示でもなさってください」
 ドリスが姿勢を正して一礼し、ニッコリ笑う。

 身支度を整えた俺は階下の執務室に入った。
デスクには書類が区分けされて整然と置かれていた。
大まかには二つ。
子爵の決裁を必要とするもの。
執事のダンカンの決裁で済むもの。
 俺は自分のものに取り掛かった。
ほとんどは領地からの申請書と報告書だ。
カールの筆跡もあれば、代筆でイライラザのものも。
読んで、考察。
納得すればサイン。
分からないものは執事に丸投げ。

 ドアをノックして執事・ダンカンが屋敷警備担当・ウィリアムと、
メイド長・バーバラを伴って、思案顔で入室して来た。
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはようございます」
「おはよう」
 ダンカンがデスクの前に立ち、その一歩後ろにはウィリアムとバーバラ。
三人の表情からして良い知らせではなさそうだ。
ダンカンが口を開いた。
「全ての書状の発送が終わりました」
 俺は昨日の一件の概要をしたためた書状を七通、
昨夜のうちにダンカンに預けて、急いで発送する様に指示していた。
ポール細川子爵邸の執事・ブライアン宛て。
幼年学校の寮住まいのパーティ仲間・シェリル京極宛て。
木曽の領地の代官・カール細川宛て。
尾張の実家・佐藤家宛て。
加えて国王の味方をするであろうと思われる三家へも。
管領・ボルビン佐々木公爵邸の執事宛て。
評定衆の三好家と毛利家の執事宛て。
「どこからか返事があったのかい」
「はい、ポール細川子爵邸より」
「よくない知らせのようだね」
「はい、早朝、口頭の報告が来ました。
子爵様、未だ戻らず、と」

 ウィリアムが一歩前に出た。
「ご指示の通り、平民の恰好をさせた兵を関係各所に走らせました」
「それで、どうなってるの」
「昨夜遅く、南門と北門が陥落しました。
現在、南門にはカーティス北畠の家紋を掲げた軍勢。
北門にはバーナード今川の家紋を掲げた軍勢」
「兵数は」
「それぞれ百から二百」
「少ないな。
王宮の占拠が進まないのか」
「おそらく・・・。
王妃様が抵抗なさっているのでしょう。
王宮奥からの喊声が未だ途絶えておりません」
「他の軍勢の様子は」
「各区画の貴族邸が騒がしい事から、軍備を整えていると思われます」
「表に出た軍勢は」
「今のところ有りません。
念の為、有力諸侯の屋敷を見張らせています。
・・・。
ですが・・・」懸念の表情を浮かべた。

 俺は首を傾げた。
「どうしたの」
「外に出した兵が多いので、この屋敷の備えが万全ではありません。
ですので、勝手ではありますが、
私の一存で冒険者ギルドと傭兵ギルドに声をかけました」
「そうか、そうだよね、屋敷が手薄になるよね。
ウィリアム、君の判断が正しい、ありがとう」
「いいえ、そんな」
「これからも僕の足りないところを遠慮なく補ってくれよ」
「はい。
それで子爵様はこれからどう動かれますか」
「僕はイヴ様の騎士を拝命した。
これは重い」
 重臣の三人が互いの顔を見遣る。
そして頷き合う。
代表してダンカンが口を開いた。
「我等は子爵様の判断に従います」
 三人が踵を揃えて一礼した。

 最後のバーバラが困り顔で言う。
「イヴ様がお目覚めです。
にゃんはどこにいるの、とお探しです」

昨日今日明日あさって。(大乱)198

2021-01-10 09:26:57 | Weblog
 南門に近づいたところで先行していた二名の女性騎士が足を止めた。
何事か話し合うと、一名が建物沿いをスルスルと進み、
警戒しながら角を曲がって消えた。
俺達は合流して、何が起きたのか理解した。
前方から剣戟の音と怒号が聞こえて来た。
どうやら門付近で戦闘が起きている様子。
残った女性騎士が言う。
「しばらく待機します」

 女性騎士が偵察して戻って来た。 
彼女はカトリーヌ明石、近衛軍での階級は大尉。
今現在、王女イヴの供周りの女性騎士と侍女、計六名を率いている。
その彼女が険しい表情で俺に言う。
「門は開かれていませんが、詰め所で戦闘が行われています。
近衛の制服を着た者達が二つに割れて争っています」
 俺は子供だか、爵位は子爵。
そして王妃から直にイヴを託された立場。
そこを鑑みて俺に説明しているのだろう。
「つまり、敵の手が伸びていたと」
「事前の示し合わせで、あの門を開き、
加勢を呼び入れるのではないかと思われます」
「門外に敵の手勢が控えていると考えた方がいいですね」
「はい。
敵も加勢を分散配備する余裕はないでしょう。
他の門に回ります」

 俺達は遠回りにはなるが、東門を目指すことにした。
イヴが心配そうに俺を見上げた。
「なにかあった、のでしゅか」
「悪い奴がいました。
見つからぬ様に走りますよ」
「にゃんに、まかせましゅ」

 カトリーヌ明石大尉が明言した通り、東門では何事も起きていなかった。
俺達を門衛の任に就いている騎士三名が敬礼で出迎えた。
それに気付いた詰め所から数名が飛び出して来た。
彼等も何事か出来していると肌身に感じているのだろう。
醸し出す空気が芳しくない。
詰め所の責任者らしき中尉が代表して問う。
「これは大尉殿、何やら騒がしい様ですが、
何か起きているのでしょうか」

 カトリーヌ明石大尉は手短に状況を説明した。
ただ、俺の説明は省いた。
誰がいつ何時、敵に回るか分からない状況なので、
避難先は明かさないのだろう。
「そういう分けなので、王女様を外に一時避難させます」
「我々は如何いたしましょ」
「他の門と情報を共有し、門を拠点にして陛下や王妃様を助けなさい。
余裕があるのなら味方を募るのも良いわね」
「了解しました」

 俺達は東門から外に出た。
目の前は外郭東区画の貴族街。
至って平穏無事な空気に包まれていた。
俺達が連れ立って歩くのを見ても誰一人怪訝な顔をしない。
カトリーヌ大尉が俺を振り返った。
「子爵殿、疲れてないか。
疲れたら代わってもいいと思うが・・・」
「大丈夫です。
身体強化しているので」
「ずっとしているが、魔力が切れないか」
「屋敷までは切れません。
御心配なく」

 平民街の街中に入るとイヴ様が俺を見上げた。
「にゃん、わたしおもい」
「重くないですよ」
「そう、かたぐるま」挙動不審気に左右をキョロキョロ。
「外は始めてですか」
「そう、はじめて」
「分かりました」

 俺はイヴ様を肩車した。
するとはしゃぐ、はしゃぐ。
俺の頭をペチペチ叩いて大喜び。
王宮を抜け出る際は空気を読んで静かにしていたのだろう。
それがここにきて、一気に爆発した。
「にゃん、あれなに」
「屋台と言うものです」
「やたい、おいしそうなにおい、あれはなに」
「肉を焼いています」
「あのくろいのは」
「あれを肉につけて焼き上げます」
「よごすの」
「いいえ、あれで美味しくします」

 連れ立つ俺達を見て、平民の群れが左右に割れた。
前後に近衛の騎士がいるので、何事かと警戒している様子。
それも知らず、イヴ様が俺の髪を掴み、強く引っ張った。
「にゃん、あれは」
 クレープを食べながら歩いている数人の女児とすれ違った。
「クレープですね」
「おいしの」
「美味しいですよ」
「あるいて、たべていいの」
「道路にはテーブルがありませんから、ここでは正しい食べ方ですよ」
「わたしも」
 聞こえている筈のカトリーヌ明石大尉は何も言わない。
よく見ると、肩が微かに震えていた。

 俺はクレープの屋台で足を止めた。
行列ができていた。
二人で後ろに並んだ。
他の皆は周囲の警戒。
イヴ様に聞かれた。
「どうしたの」
「並んで買うんです」
「ならぶの、どうして」
「美味しい物には皆が集まるんです。
それで喧嘩にならぬ様に、こうして順番に並ぶんです」
「そう、ありみたいね」
「蟻を知っているんですか」
「にわにいっぱい、あるいてる」
 イヴ様の遊ぶ庭園で蟻が闊歩、ありふれているのが想像できた。
「美味しそうな匂いがするでしょう」
「はい」
「もう少し我慢しましょうね」俺は母親化。

 俺はクレープを人数分買って、皆に行き渡らせた。
カトリーヌ明石大尉が生真面目な顔で言う。
「私達は勤務中です」
「でも、嫌いじゃないでしょう」
「うん、嫌いじゃない」
「休みの日はこうして買っているんでしょう」
「・・・そうだな」
「かとりーぬ、ずるい」イヴ様が抗議した。
「すみません」頭を下げるカトリーヌ。
「つぎは、わたしも」
「それは・・・」
 



☆☆☆
さむい、さむい。
みなさん、大丈夫ですか。
私は子供時分、18才までですが、
雪が降ったのは一回だけです。
泥んこの雪ダルマですが、初めて作りました。
そんな南国生まれなので、寒さに弱い、弱い。
死ぬくらい弱いのですよ、ですよ。
はぁー。

昨日今日明日あさって。(大乱)197

2021-01-03 07:47:06 | Weblog
 肩車しているイヴ様がキャッキャ、キャッキャ笑った。
大いに喜んでいただけた。
それだけで俺は満足だ。
と、異な魔力を感じた。
これは・・・、攻撃魔法ではないか。
それが何発も連続して放たれている。
今なぜ・・・、何が・・・。
 方向は俺達がさっきまでいた場所だ。
ベティ王妃達がいる。
俺は慌てて鑑定と探知を連携させた。
場所も攻撃魔法も間違いではなかった。
斬り合いも発生していた。

 目の前でワイバーンの解体に従事していた騎士の一人が手を止め、
俺達の背後に目を遣った。
「全員その手を止めろ」
 別の騎士もその声で起きている事に気付いた。
同じ方向に視線を向けた。
「これは攻撃魔法に防御魔法の波動だな」
 微かだった音も次第に大きくなってきた。
魔法の破裂音。
そして剣戟。
怒鳴り声や悲鳴。
指揮官らしいのが声を上げた。
「総員、戦闘準備せよ」
 一斉に了解の声。
全員が作業を止め、手を水洗いすると、
武具が置いてある方へ駆けて行く。

「イヴ、イヴはどこですか」
 ベティ王妃の声が背後から聞こえた。
俺は振り向いた。
血相を変えた一団がこちらに向かって駆けて来た。
先頭は顔を強張らせた王妃。
その後ろには侍女と女性騎士がわらわらと続いていた。
俺はイヴ様を下ろして、片膝ついた。
目の前で王妃の足が止まった。
「イヴ、無事で安心したわ」王妃がイヴ様を抱き上げた。
「おかあしゃま」甘える声。
「お母さまは忙してから、にゃんと仲良くしてなさい」
「はい、にゃんとなかよくしてます」
 王妃はイヴ様に頬擦りすると、名残惜しいそうに俺の前に下ろした。
「にゃん、イヴを頼むわね」
 俺は伸ばされたイヴの小さな手を握った。
「はい、承知しました」

 ベティ王妃の視線が俺から右に向けられた。
そこにはワイバーンを解体していた騎士達が整列して、片膝ついていた。
さらに後方には騎士見習いの従士達も同様に片膝ついていた。
合わせると百名近い。
彼等にベテイが声をかけた。
「ご苦労様。
解体の途中で悪いのだけど、これから戦いよ」
 一人だけ前に出ているのが指揮官なのだろう。
口を開いた。
「戦いが我らの本分です。
如何様にも御下命ください」
 王妃が悔しそうに言う。
「カーティス北畠公爵が謀反しました。
これにバーナード今川公爵が加わっています」
「陛下の御兄弟ではありませんか」
 王妃が目を吊り上げた。
「その北畠が自らの手で陛下に攻撃魔法を放ったのです」
「陛下はご無事ですか」
「分からないわ。
北畠側が側近衆を打ち払って陛下を確保したから」
「そうですか。
現状は如何なっています」
「北畠が陛下を倒したのを機に今川方が参戦、
周りにいた側近や評定衆を攻撃してるの。
方々が応戦してるけど、初手で大勢が倒されたのが痛いわね。
次々に倒されて、こちらはジリ貧よ」
「承知いたしました。
我等はこれより北畠や今川の排除に向かいます。
その二家だけで宜しいのですね」

 近衛の騎士と従士の一隊が一斉に駆けて行く。
それを見送ったベティ王妃が俺に目をくれた。
「と言う訳なのよ。
どう転ぶか分からないから、イヴは王宮には置けないの。
ダンタルニャン佐藤子爵、お願いを聞いてくれるかな」
「なんなりと。
子供ですから限界はありますが」
「難しい事ではないわ。
イヴの騎士になって欲しいの」
 難しい話を持ち掛けられた。
通常は王族警護の騎士は近衛から選抜される。
でも今は・・・。
北畠が裏切った。
今川も裏切った。
その二家の手が近衛に伸びている可能性、無きにしも非ず。
あらゆる事態を想定すると、真っ白なのは子供の俺だけ。
「承知いたしました」
「騎士や侍女をつけるから急いで王宮から去りなさい。
状況が好転するまでイヴを頼むわよ」
「はい」

 ベティ王妃はイヴとの別れを終えると、
侍女三名と女性騎士四名を俺の手元に残してくれた。
「それじゃ頼むわよ」
 俺にそう言うと己が手元に残した女性騎士を振り向いた。
二名。
「行くわよ」
「承知」
「承知」
 二名が抜剣した。
女性騎士通常装備のレイピア。
王妃も同じようなレイピアを抜いた。 
何の躊躇いもなく軽快な走りで死地へと赴いた。

 俺はイヴを抱きかかえた。
「イヴ様、走りますね」
「まかせまちゅ」
 露払いの様に女性騎士二名が先頭を走る。
そしてイヴ様を抱きかかえた俺。
続いて侍女三名。
しんがりは女性騎士二名。
未だ残る瓦礫を迂回しながら手近の門を目指した。

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