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金色銀色茜色

生煮えの文章でゴメンナサイ。

(注)文字サイズ変更が左下にあります。

昨日今日明日あさって。(幼年学校)63

2018-07-29 08:00:39 | Weblog
 学校生活は順調に進んだ。
座学も実技も村での教育が行き届いていたせいか、
少しも遅れることはなかった。
そんな矢先、来客があった。
四日目の授業が終わり、構内の図書館に向かおうとしたところに、
担任のテリーがわざわざ俺を探しに来た。
「おっ、よかった。
お前にお客だ。
織田伯爵家の者だそうだ。
とりあえず応接室に通しておいた。
・・・。
平民のお前に伯爵家の家臣が面会、というのも変な話しなので、
担任の俺が立ち会う」
 本館の応接室に入ると、にこやかな笑顔があった。
織田伯爵家のお嬢さまがいた。
ジャニス織田。
俺より二つ上だから今は十二才だ。
彼女の後ろには守り役のエイミーもいた。
彼女は俺の七つ上だから今は十七才。
金髪二人がいるせいか、室内が華やいでいた。
 俺は戸惑いながら、状況を読んだ。
ジャニスが魔法学園の生徒の紫色のローブ、と言うことは・・・。
そして彼女のスキルを思い起こした。火の魔法。
彼女が国都の魔法学園に在籍している事は想定していなかった。
 戸惑っている俺をテリーが救ってくれた。
「どうやら知り合いのようだな」
「はい。
と言うか、顔見知り程度です。
相手は伯爵家のお嬢さま。
僕は僻地の村の平民ですから」
 ジャニスが割って入った。
「ニャン、遠慮はいらないわ
平民と言っても、貴方は旧家の生まれ。
家長は家名を許されているのでしょう。
それに何と言っても、始祖は弓馬の神・白銀のジョナサン佐藤。
その本家に生まれた貴方に比べ、私なんて塵も同然よ」
 ニャンで入って来た。
猫扱いは無視して、・・・対応に苦慮した。
こうベタ褒めでは・・・。
素直に彼女の言葉に同意していいのか。
それとも生家を形ばかりにでも、卑下すべきなのか。
 テリーがまたもや救ってくれた。
ジャニスに問う。
「面識がある事は分かりました。
それでは本日のご用件を伺いましょうか」
「私はニャン本人かどうかを確かめただけ。
用件は、後ろの者達が申します」
 彼女の背後に控えていた男が前に進み出た。
陰に隠れるように控えていたので、従者だとばかり思っていた。
「織田伯爵家の国都屋敷に務めるウォルト柴田と申します」
 第一印象は大柄で強面。
彼の言葉はダンに向けられたものではなく、
明らかにテリーに向けられたもの。
「それでご用件は」
「ダンタルニャン殿にだけ」
「それは出来ません」
「何故ですかな」
「生徒は学校の庇護下にあります。
親代わりに担任が同席しても問題はないでしょう」
「困りましたな」顔を顰めた。
「私も困りましたな」切り返した。
 互いに苦笑いの応酬。
奇妙な静寂が続いた。
 素知らぬ顔でジャニスが割って入った。
テリーに向かい、
「私の用件は済みました。先生、ニャンを宜しくお願いします」
そしてウォルト柴田に、
「私達は急用が出来たので先に帰ります。
馬車は貴方に残して置きます」言い捨てると、返事も聞かない。
エイミーを促して立ち去った。
 あ然とするウォルトにテリーが言葉を掛けた。
「後を追わなくて宜しいのですかな。
伯爵様のお嬢さまなのでしょう」
 ウォルトはジャニスの立ち去った方向と俺を見比べた。
暫し躊躇った後に、俺に言う。
「伯爵家の屋敷にダンタルニャン殿の部屋を用意しました。
ささぁ、私と一緒に参りましょう」
 俺に部屋、それも伯爵家の屋敷に・・・。
話の道筋が・・・。
混迷する俺。
 テリーが笑う。
「白色発光合格者なので織田家で囲う分けですか」
 キャロル達に聞いていた。
上昇志向の女子だけでなく、貴族にも狙われる、と。
学内の女子の熱い視線は感じていた。
まさか貴族までとは。
 ウォルトは表情を改めた。
「いいえ、領地の子弟が入学したのです。
扶助するのは当然でしょう」
「白色発光だからでしょう」
「いいえ、違います」
「尾張から入学した生徒が数人、寮に入っています。
こちらは如何なさるつもりで」
 ウォルトは一瞬、双眼を怒らせたが、表情をつくろう。
「そうでしたか、それはそれは、後で善処しましょう。
・・・。
さあ、ダンタルニャン殿、屋敷に移りましょう」
 何が面白いのか、テリーは笑い声を漏らしながら俺を見た。
俺のターンらしい。
俺はウォルトを正視した。
「有り難いお話ですが、お断りさせて頂きます」軽く、軽く頭を下げた。




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昨日今日明日あさって。(幼年学校)62

2018-07-22 07:54:35 | Weblog
 自己紹介タイムが終わると担任のテリーは教壇から、みんなを見回し、
このクラスに適用される授業方針を説明した。
「一芸で合格したからと言って一般授業を甘く見て貰っては困る。
最低限必要な事は教えるし、覚えて貰う。それが卒業の条件だ」
 プロローグでガツンと来た。
それから長々と・・・。
俺には不要なことのオンパレードなので、ついには睡魔に襲われた。
 すると脳内モニターに文字が走った。
「困りましたね。無益ですね。
私が見張っておきます。どうぞ、眠って下さい」
 甘えることにした。
机に突っ伏さぬように気遣いながら居眠りした。
 時間の経過は分からない。
無粋なランダム設定の警報音で起こされた。
ゆるいので心臓には優しい。
それでも何事か、と心配した。
脳内モニターに説明の文字が走った。
簡略すぎる。
でも、クラスが紛糾しているのは理解した。
 目を開けると教壇に立つテリーの顔が飛び込んで来た。
「お寝覚めかな」皮肉が混じっていた。
「いいえ、目を閉じて聞いていました」
「そうか、そうは思えないが・・・。
それでは、どうしたらいい」
 みんなの視線も俺に集中していた。
渋々、立ち上がり、クラスを見回した。
誰もが縋るような目で俺を見ていた。
 クラスを代表する委員を選定していた。
進行するに従い問題点が判明した。
他のクラスの予想できる委員が何れも貴族の子弟であるのに対し、
うちのクラスには貴族の子弟がいない。
十クラスのうちの九クラスが貴族の子弟で、一クラスだけが平民。
バランスが悪い。
例えは悪いが、狼の群に放り込まれた羊、でしかない。
誰もが貴族の子弟と関わりたくない、と尻込みしていた。
 みんなに問うてみた。
「官吏を目指す者が貴族の子弟ごときに尻込みしていいのか」
 すると廊下側の席の最前列のキャロルが立ち上がった。
机に両手を付いて言う。
「貴族の子弟は、言葉は悪いけど、甘やかされたガキが多いの。
クソ生意気なガキになると、聞く耳も持ってないの。
俺はお偉い貴族様、だと威張るばかり。
そんなのを相手にすると、凄く疲れるの。
とにかく嫌になるくらい疲れるの」
 普段は温厚なキャロルなんだが、今日は違った。
貴族の子弟に多大な迷惑を被ったのだろう。
切れに切れていた。
 俺はテリーに目を遣った。
「つまりは僕が委員になれば、いいんかい」
 テリーは苦笑い。
「分かってくれたか。
白色発光合格者ということで貴族の子弟に対抗できる」
「問題点が一つ。
僕の村には貴族がいなかったので付き合い方を知りません。
なので粗相をしそうなんですが・・・。
でも問題はないですよね。
この学校の方針は貴族も平民も、獣人も平等に扱い教育する。
そうでしたよね。
多少の軋轢は想定内ですよね」
 テリーの表情が揺れる。
「何をするつもりだ。
・・・。
多少の軋轢なら目を瞑ろう。
気を付ける必要があるのは、貴族の子弟そのものより取り巻きだな。
家柄と人数で嵩に懸かってくる輩が紛れているからな」

 クラスの顔合わせが終わり、俺は寮に向かった。
向かいの林の奥に垣間見える宿舎群がそれだ。
三階建ての寮が奥へ、奥へと連なって見えた。
まるで前世の団地。
 本来は生徒全員に入寮が義務づけられていた。
それが何時しか、なし崩し。
切っ掛けは有力貴族の子弟の、「屋敷から通いたい」我が儘だった。
親が国王の側近だったので、誰も諫言しなかった。
それからは国都に屋敷を持つ貴族の子弟が挙って入寮を辞退した。
続いて富裕な商人の子弟。
今では平民までもが見習う始末。
お陰で建物の半数近くが閉鎖に追い込まれていた。
 寮は男女別で分かれていた。
手前の宿舎群が女子。その奥が男子。
あちこちに忙しなく動き回る人影が見え隠れ。
年末年始の休暇を終えた在校生達が寮に戻っていた。
窓から俺達を見ている者も散見された。
 俺に割り当てられたのは、二号棟三階左の角部屋。
荷物は五日前に運び込み済み。
カールの経験で選んだ必要最小限な物ばかり。
机に椅子、ベッド、小さな箪笥。小物が少々。
小忠実に洗濯し、使わぬ物は捨てろ、と助言された。
 俺は窓を開けた。
途端、風が流れ込む。
一月の冷気が俺を包む。
悪い気はしない。
俺の、一人の、第一歩が始まった。
なりゆきでクラス委員を受けたが、まあ、何とかなるだろう。




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)61

2018-07-15 07:38:36 | Weblog
 校舎は敷地の中央にあった。
二階建てが五棟、整然と並んでいた。
学年ごとに分かれており、手前にあるのが一年の校舎だった。
 校舎を間近にして鑑定君が仕事をした。
「校舎建築には土の魔法がふんだんに使われています。
維持も術式ではなく魔卵を埋め込んで、
そこに魔力を注ぎ込んでいます。
経年劣化の疑いがありますが、
大きな地震がなければ問題ないでしょう」
 一年十組の教室は二階の左端なので、左側の階段から上がった。
生徒の席は四列。
廊下側から四、四、五、五で十八。
それぞれの机の上に名札が置かれ、
教科書の山と橙色のローブが一緒に載せられていた。
俺の席は教壇から見て左、窓際の最後尾。
 みんなが席に着いたのを見計らったかのように、担任が現れた。
大柄な獣人が教壇に立った。
グッと生徒達を睨み渡した。
「はい、こちらに注目」
 入学式でそれぞれのクラスの担任が紹介されたが、
王妃登場が強烈だったので、名前は覚えてはいない。
それを見越してか、まず自己紹介をした。
「担任のテリーだ。
知っているように、ここは一芸試験で合格した者が集められている。
約一名、水晶を白色発光させて合格した者もいるが、まあとにかくだな、
これから一年、よろしくな。
・・・。
机の上の教科書は、教室後方の個人ロッカーに入れて置くこと。
どうしても勉強が好き、と言う者は持って帰っても構わない。
ローブは制服なので、学校の門を出入りする際は必ず着用すること。
そのローブには不思議な機能がある。
それを着用していると、街中を歩いていても、
不埒な者に絡まれることがない。
・・・。
分かったら、さっさと教科書をロッカーに入れる」
 幼年学校の生徒は橙色のローブ、魔法学園の生徒は紫色のローブ、
と着用するローブの色が決められていた。
児童だが、それでも身分は国立の生徒。
そんな彼等に昼の日中、街中で絡む酔狂な者はいないだろう。
 生憎、教科書を持ち帰る、と言う者はいなかった。
一芸合格だから教科書を軽んじている、とは思いたくないが・・・。
けど、いるかも知れない。
 全員が席に戻ると、テリーが言う。
「さっそく自己紹介タイムだ。
最低でも名前と出身地は言ってくれよ。
ついでに目標なんて語ってくれれば、俺も指導がし易い。
それでは廊下側から初めてくれ」
 和気藹々と自己紹介タイムが進んで行く。
これが一芸合格の特徴なのか、みんな衒いがない。
目標と言うか、野心を当然のように語った。
貴族だ、騎士だ、王宮勤めだ、と。
 最後の俺になった。
途端、みんなの視線が俺に集中した。
それはテリーも含めてだった。
白色発光合格者に興味津々、と言ったところか。
俺はゆっくり立ち上がり、みんなを見回した。
児童相手にビビッテはいられない。
「名前はダンタルニャン。
長いので、ダン、と呼んで下さい。
出身は尾張地方の村です。
ここを卒業したら、冒険者になり、世界を回ります」
 何故か、微妙な空気が流れた。
そんな空気を破ったのはテリーだった。
「ダンでよかったな。
ダンよ、白色発光で合格した者は王宮に勤め、
貴族にまで登り詰めている。
お前は王宮に勤めないのか」
「王宮なんて考えたこともありません。
小さな頃の、今も小さいですが、
小さな頃の夢は、世界を見て回ることです。
その為の勉強をする為に、この学校を受験しました」
 女の子の声がした。
「貴族になるつもりはないの」
「貴族ですか。
不便な生活でしょう。
上に気遣いながら下も見なければならない。
ついでに横にも目配り。
気苦労が多いわりに報われない、と思いませんか。
そんな生活は嫌です。
気が弱い僕なら五年ほどで禿げちゃいます」
 禿げ、が一部に受けた。
苦笑が漏れた。
 テリーが言う。
「しかしダンよ、学校はお前に期待しているんだ。
特別なカリキュラムも組まれる」
「カリキュラム・・・ですか。さっそく辞退させて下さい」
「にべも無いな。
学校が組んだカリキュラムは嫌か」
「ん・・・。
正直に言って、嫌いです。時間の無駄です」
「そこまで言うか。
まあ、そこんところは学校の上の方に伝えておこう」
「感謝します」
「気にするな、担任の仕事だ。
そうそう、何に興味がある。
よかったら学校の上の方に談判するぞ」
「世界の情勢と、最新版の世界地図ですね」
「それなら王立図書館に行けばいい。
幼年学校のローブを着用していれば、手続きなしで入れる。
他に希望は・・・」
「ダンジョンに潜りたいんですが」
 テリーの眉間に皺が寄った。
「それは無理だな。
成人してない者の入場は禁止されている。
・・・。
ランクアップが目的か」
「はい、卒業したら旅に出たいので、
その前に、生徒のうちに経験を積みたいんです」




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)60

2018-07-08 07:51:20 | Weblog
 近衛兵の指揮官と覚しき男が演壇に上がった。
高い位置から会場を見渡し、睥睨した。
「この訪問はお忍びである。時間も限られている。
よって略式でお迎えするように」
 重苦しい出迎えの儀式は不要、と注意を受けた。
それに応えて、みんな一斉に背筋を伸ばし、手の平を胸に当てた。
帽子を被っていた者は脱帽し、手に持って、胸元に。
早い話、利き腕を胸元に置き、帯剣に触れぬようにしたのだ。
 大講堂の入り口が大きく、バーンと開けられた。
人よりも先に魔力が押し入って来た。
明らかに隠す気のない探知魔法。
指向性も強く、威嚇するかのように、自在に動き回った。
王妃の一行だから許される行為だろう。
 俺の脳内モニターが動き出した。
警告の文字が浮かび上がった。
「警告。混乱で対処できます。行いますか」
 俺の探知君には相手を混乱させる機能がある。
「否、見守るだけでいい」
 みんなの視線が、入り口に向けられた。
先頭は近衛の女武者。
厳しい視線を左右に走らせながら入場して来た。
彼女が探知魔法の発生源だった。
間隔を空けて二人。
さらに続けて二人。
 それから・・・。
ドレス姿の美しい人が入って来た。
なんとも見目麗しい。
彼女は侍従や裾持ちの侍女ではなく、
無骨な女武者のみを前後に従えていたが、
それでも気品は隠せない。
王妃の高貴なオーラは、
自己主張の塊である筈のティアラですら霞ませてしまう。
俺は王妃の顔を知らぬので、二階の貴賓席の反応から、
王妃その人、だと判断した。
噂通りの人、だとも理解した。
 入場するやいなや、王妃が魔力を発した。
鑑定魔法だ。
新入生の最後尾から一人ずつ、虱潰しに鑑定して行く。
指向性から、誰かを探している、と理解した。
 俺で止まった。
俺のステータスを読んでいるらしい気配。
どうやら俺が目的らしい。
 脳内モニターに新たな文字が現れた。
「警告。撹乱で対処できます。行いますか」
 俺の鑑定君には相手を撹乱する機能がある。
「否、これも見守るだけでいい」
 俺は入学にあたり、ステータスの新たな偽装を行った。
「名前、ダンタルニャン。
種別、人間。
年齢、十才。
性別、雄。
住所、足利国尾張地方戸倉村住人。
職業、冒険者。
ランク、D。
HP、90。
MP、30。
スキル、弓士☆」
 冒険者としてのランクはFだが、個人としてはDでも問題ないだろう。
国都の人々を参考に、白色発光合格やMPも考慮し、
完璧な偽装を行ったつもりだ。
案の定、王妃の鑑定では俺の偽装は見破れなかった。
彼女は満足したかのように鑑定を打ち切った。
俺を一瞥しただけで、演壇に向かった。
その歩みに疑問の現れは一切ない。
 俺は探知君と鑑定君を同時並行で四六時中稼働させているが、
これまで露呈したことはない。
おそらく俺のSPがMPの上位互換機能にあたるからだろう。
俺は脳内モニターに指示した。
「探知魔法の使い手と鑑定魔法の使い手を、指向性を持たせず、
それとなく調べ上げろ」
 王妃が演壇に上がり、柔和な表情で口を開くが、そこに興味はない。
祝辞を聞き逃し、ただじっと彼女の表情に見入った。
美しいだけではない。
人を惹き付ける魅力に溢れていた。
 王妃は視線を平等に左右や二階席にも走らせるが、
時折、俺に目をくれた。
まるで顔を覚えるかのように・・・。
 風のように現れた王妃は、祝辞を終えると風のように去っていった
それからの式次第の進みは早かった。
まるで空気の抜けた風船。
あっという間に終わってしまった。
 俺は校門までカールを見送った。
本当は東門の外まで見送りたかったのだが、
「これからクラスの顔合わせだろう」と一言で断られた。
 カールは真っ直ぐ戸倉村に戻る、と言う。
そんなカールに俺は礼を述べた。
「色々とお世話になりました。本当に有り難うございました」
「はっはっは、ダンは礼も言えるようになったのか。
これも仕事だ、気にするな。
ただ、最後に一言。
無茶だけはするな。助ける俺はいないんだからな」
「はい」元気に返事した。
 苦笑いのカール。
「それがずっと続けば安心なんだがな」
 俺は肩に掛けたズタ袋から小さな紙袋を取り出した。
それをカールに手渡した。
「これはほんの気持ちだけです」
 紙袋の手触りで、それと分かったらしい。
「これは」紙袋を破いて、物を取り出した。
首から下げる魔道具。
魔力が足りぬ者を補助し、魔力を増加させる魔道具だ。
彼は既に水の魔法を補助する魔道具を所持していたので、これにした。
「鍛冶の為の魔道具です」
 俺の言葉にカールが動揺した。
「これは高かったろう」
「暮れに討ち取った魔物の魔卵が高く売れたので・・・」
 一般の普及品ではなく、ちょっと高めの物にしたが、言葉は濁した。
「それにしても・・・」
「それで鍛冶スキルを得られたら俺に何か作って下さい」
 カールは渋々、頷いた。
「分かった。
その時は連絡する。
・・・。
そうそう、ケイト達に手紙は出したのか」
「ケイトにブレット、デニスの三人には駅馬車便で出しておきました」
 尾張の領都にある佐藤家の屋敷経由で届くように手配した。




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昨日今日明日あさって。(足利国の国都)59

2018-07-01 08:02:49 | Weblog
 門を抜けた俺達は人波に従った。
この人波は入学式が行われる大講堂に向かっているのだろう。
途中の辻や枝道に職員が立ち、案内を口にした。
「こちらにお進み下さい」
「急がないで下さい、大講堂は逃げません」
 前回も思ったが、子供の学校にしては敷地が広すぎる。
幼年学校以前に別の用途があったのか・・・。
頭を傾げながら、芝地や林、池を迂回して目的地に向かう。
 ようやく大講堂の屋根が見えてきた。
入り口には行列が出来ていた。
新入生のみの行列で、ここで付き添いと分かれることになった。
列は全部で五つ。その一つに並んだ。
進んだ先には真偽の魔水晶を乗せたデスクがあった。
合格通知書を手渡し、魔水晶に手を翳して本人確認を行った。
認証作業が終えて初めて、「貴男は一年十組よ」クラスが伝えられた。
 各年度の合格者は最大二百人。
レベルに達していない者が多い年もあるとかで、
無理して二百人合格させる事はないそうだ
今年の合格者は百八十人。各クラスの人員は十八人。
 大講堂の真ん中が新入生の席になっていて
その左右は付き添いの者達の為の自由席。
後方の二階席は貴族・王族の為の貴賓席。
みんな着席したばかりなのでザワザワしていた。
 俺は十組なので最後方。
移動している途中で気が付いた。
みんな小さい。
合格者は十才から十三才と聞いていた。
前世なら小学児童の年齢。
この位の身長が当たり前で、俺が異様なのかも知れない。
何しろ一番背が高いので、みんなを見下ろせた。
 視線が痛い。
何故か、みんなの視線を集めていた。
身長ゆえか。
たぶん、違う。
おそらく、魔水晶が白色発光して合格した、と知れ渡っているのだろう。
 そんな俺に声が掛けられた。
「ダンタルニャン、おはよう」
キャロル、マーリン、モニカの三人が俺の回りに着席した。
彼女達は枠が狭い一芸試験に挑み、合格していた。
「同じクラスで良かった。
これから毎日、顔を合わせられるわね」素直なキャロル。
 彼女には裏も表もない。あるのは天然だけ。
俺は肩を竦めた。
この状況を喜んで・・・いいのか。
何しろ、彼女達とパーティを組んだことにより自由な時間が削られる。
鍛錬する時間も限られる。
タイム・イズ・マネー。
でも顔には出さない。
「これから宜しく」大人な態度。
 ところが、「ダン、気を付けるのよ」と心配げなモニカ。
「そうよ、みんなダンを狙っているわ」同意するマーリン。
「何を言ってるんだ」理解出来ない。
 俺は二人を交互に見遣った。
するとモニカが残念そうな表情をした。
「あのねぇダン、白色発光で合格した人は貴族になっているの。
分かる。いわば平民のダンは宝の原石。
磨けば輝くのよ。将来の貴族様なのよ。
それを見逃す女の子がいる、と思うの」
「まだ僕達、十才だよ」
「女の子は小さな頃から白馬の王子様願望があるの。
そんな女の子にとってダンは白馬の王子様なの。
分かってるの。なんだか、分かってないようね」
 マーリンがモニカに言う。
「男の子は女の子に比べて成長が遅い、って聞いた事があるわ。
もしかして、ダンも賢そうに見えて、実は遅いのかも知れないわね」
 ようやくキャロルも察したらしい。
「私達でダンを守れば良いのよね」
「そうよ、大事なパーティの仲間を毒牙から守るのよ」
 会場の正面に演壇があった。
右の扉が開いて、大人達がゾロゾロと姿を現した。
演壇の背後に、こちら向きに横一列に並んだ。
代表するかのように痩せた男が登壇した。
「教頭のダンカン大久保です。
これより入学式を執り行うことを宣言します」
 姓持ちだから貴族なのだろう。
彼が新入生全員に入学許可を与えて降壇した。
 代わって登壇したのが白髪の校長。
「ここの校長を拝命しているヘクター佐々木と申します」
ゆっくり全体を見回して、「みなさん、入学御目出度う」と。
 数枚の紙を取り出し、新入生の名前を一人ひとり、読み上げた。
間違いがないように考慮したのか、全く抑揚がない。
最後の一人が俺。
読み上げる前に大きく一息入れた。
「ダンタルニャン。・・・。みなさんを喜んで受け入れます」
 満足そうに降壇した。
次は来賓祝辞。
予想外の名前が読み上げられた。
「王宮よりベティ王妃様。
王妃様がお成りです。皆様方。ご起立願います」
 会場全体が混迷。怒号に悲鳴。
二階席までが騒然とした。
学校内部でも極秘扱いであったらしい。
演壇後方に並んでいた者達はあたふた・・・。
どうしたら良いのか、分からず、身の置き場に困っていた。
そこに警護の近衛兵達が勢い良く入場して来た。
彼等が演壇付近の者達を排除し、警護の態勢を整えた。




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